タイトル:夜の十二時に人が死ぬマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/29 18:51

●オープニング本文


 絵具でもぶちまけたように赤い色が広がっている。
「ガイシャは?」
 張り巡らされたテープを潜り白い手袋をはめながら男は鑑識に問いかけた。
「携帯していた免許証ではこの村に住む元教師の老人です。指紋も一致しています」
「ほぉ」
 男は死体を見下ろす、首から上が無くなっていた。体育館の壇上から転げ落ちたようにうつ伏せに倒れている。
「この廃校では昔、校長を務めていたそうですよ」
「元中学校でそこの元校長が死ぬ、ね。因果なもんだ。死因は?」
「恐ろしく鋭利な刃物で背後から一発」
 鑑識の男は首の後ろをトントンと叩く。
「‥‥映画じゃあるまいし、出来んのか、人間にそんな事」
「亡霊の仕業だと村人達は噂しています」
「はぁ? 亡霊?」
「ええ、なんでも真夜中の十二時にピアノが鳴ると人が死ぬんだそうです」
「なんだそりゃ?」
「この中学校――いえ、元中学校に古くから伝わる怪談だそうで」
「馬鹿馬鹿しい。これまでに他に死んだ奴はいるのか?」
「いえ、記録上はここ五十年ではこれが初めてですな」
「なら単なる偶然だろ‥‥何か出たら教えてくれ」
「はっ」
 鑑識の男が頷き検査に戻る、刑事の男は嘆息して上を見上げた。視界の端を何か黒い物がよぎる。
(「ん?」)
 慌てて視線を動かしたがそこにはただ朽ちかけた体育館の天井があるだけだった。


 日本国九州の南部、長らく人類の領域にあるこの村は、世界を騒がしている異星人との争いにも表面上はほぼ無縁で、平和でのどかな所であった。
 刑事達は足を棒にして殺人事件の犯人を捜したが、一ヶ月が経過してもまるで手がかりすら掴めなかった。
「お手上げだ」
 その日の夕方、現場に戻って来た刑事は深々と息を吐いた。足を棒にして犯人を捜したが、誰もかれも純朴そうでアリバイのある者ばかり。そう見える者こそ犯人だ、という事も多いのだろうが、もしそうだとしても刑事にはまったく尻尾を掴めそうになかった。
 斜陽の体育館の入り口から中を覗く。立ち入り禁止のテープだけが張り巡らされて、周囲には人影は最早ない。K県警の上層部はこの事件を迷宮入りのものとして捜査を打ち切る方向で話が進んでいるそうだ。
(「本当に幽霊の仕業なんじゃねぇのか、こりゃ」)
 手掛かりが無さ過ぎて誰も彼もが諦めムードである。この刑事は県警最後の最後の砦であったのだが、それももう徒労感という名の攻城兵器によって陥落しようとしていた。
「‥‥真夜中の十二時にピアノが鳴ると人が死ぬ、ね」
 刑事は呟いた。
 理性の一片が幽霊の仕業だなんてふざけるなと叫んでいる。そんなもので片づけられたら、被害者の無念は何処へゆけば良いのだろう。必ず、犯人はいるのだ。その者を捕まえて罪を償わせなければ犠牲者の魂と、そしてその家族の悲嘆は救われない。
(「いっそ、鳴らしてみようか」)
 そんなもんで人が死ぬ訳ない。
 だが、鳴らしてみれば少なくとも幽霊の仕業などではないという事は確認できる。そうすればこの自分の諦めかけた心にも喝を入れる事が出来るのではないか――
 男はそう考えた。
 入口に仰向けに身を倒す。身体は随分とくたびれていた。
 太陽が、ゆっくりと地平の彼方へと沈んでいった。


 満月が煌々と照らす夜。
 腕を月光に翳す。そこにまかれた時計を見る。十二時、三分前。
 男は身を起き上がらせるとジッポを開き火を灯して体育館の中へと入っていた。
 壇上にあがり、古ぼけたピアノに近づき、朽ちかけの椅子に座る。ギィ‥‥‥‥という音が広い体育館に反響してやたら大きく聞こえた。
「どれ‥‥」
 男は火を消すと懐に入れ、グランドピアノのカバーを外し、指を走らせる。
 澄んだ音が鳴った。
 ふと思う、誰が調律しているのだろう、と。そもそもに廃校になったのに何故このピアノはまだここに置かれているのだ?
 不思議に思ったが、まぁ何処にでも物好きはいる。これもその類か、などと思いつつ記憶の中にある曲をひく。太陽に吠えてるカンジのする名曲だ。
 一回ではまだ十二時になっていないかもしれないので、二回通してひく。気分が乗って来た。古き良き時代を思い出す。あの頃は人生の全てが順調だった――
 調子に乗って三回目をやろうとした所で、刑事は不意にまだ幼さを残す子供の笑い声を聞いた。くすくす、くすくす‥‥と空間に反響する。
――幻聴か?
 思った。
 否、サイレンの音が聞こえたなら幻聴だろうが、この笑い声は確かに空気を震わせている。何処から――
 男は頭上をみあげた。
 すると闇の中に、逆さまに水兵服姿の女学生が立っていた。否、ぶらさがっていた。天井に足を張りつけて、刑事の真上から顔を見上げるようにして見下ろして、二つの大きな瞳を赤くほのかに光らせている。
 刑事は気配を感じて背後をみやった。壇上の通路の奥から詰襟に学生帽子をかぶった男子生徒が、赤い焔のようなものをまとってゆっくりと歩いてきている。
「‥‥こいつは驚いた」
 刑事は言って、懐からよれた煙草を一本取り出し口に咥えた。ジッポで火をつけると深く息を吸って吐く。
 頭上の女生徒を見上げる。
 刑事は最後に言った。
「いつも怪談映画などを見て疑問に思ってたんだが‥‥‥‥なんで髪の毛は下にさがってんのに、そのスカートは重力に逆らってんだ? 視聴者配慮?」



 翌朝、また一つ新たな首無し死体が発見された。
 K県警は再び捜査を行ったが、犯人の手掛かりは全くと言って良い程掴めず、ついにこの幽霊騒動の解決をULTに依頼したのだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
橘 銀(gc2529
27歳・♂・HG

●リプレイ本文

「はわ、殺人事件だって‥‥」
 クラウディア・マリウス(ga6559)が驚いたように言った。
「で、それを俺等に解決してくれ、と。ULTはいつから探偵事務所になったんだ?」
 まぁ穴ん中で謎の強化人間と戦うよりは俺好みだけどよ、とアンドレアス・ラーセン(ga6523)。
「ULTに来るからには、余程の事なのだろうね」
 橘 銀(gc2529)が答える。
「連続殺人事件‥‥物騒ですわね。ULTに持ち込まれたのも何か裏が在るのでしょうか」
 ロジー・ビィ(ga1031)だ。
「九州、南方‥‥まさか、ね」
 叢雲(ga2494)が呟く。
「どうかしましたの?」
「いえ‥‥考え過ぎでしょう」
 男は黒瞳を伏せて呟いた。脳裏には青い海に浮かぶ島の事がよぎっていた。


 八葉 白雪(gb2228)はULTに依頼を出そうとしたのだが費用がとんでもない事になりそうなので無理だった。確実に足が出る。ただ、
「九州、である以上、百キロ圏内にバグアは存在していますね」
 オペレーターがそんな事を答えてくれた。
「密かに実験素体が集められている、という噂は往々にして耳にします。キメラのロジックを試していそうな事件もそれなりにはありますね」
「ロジック、ですか?」
「あれは兵器ですから。命令が上手く走るかどうか、指定条件にきちんと反応するか、戦場に投入する前に試作品で実験する事もあるそうですよ」


「何にせよ、次の被害者は絶対に出しませんくてよ!」
 ロジーが言った。傭兵達は現地へ飛びK県に入った所で二手に別れる。
「どうもぉ、今回は依頼を引き受けて頂き有難うございますぅ」
 K県警を訪ねると赤ネクタイを締めた壮年の刑事が出て来た。顔見知りの者もいたらしく刑事は「あの時はどうもぉ」などと言っている。
 八葉はまず「バグアは常識では考えられない事を行う」という事を自身の経験も交えて説明した。その言葉に刑事は頷き。
「しかし‥‥今回の事件もバグアと関係がありそうなんですかぁ?」
 まぁ妙な事が起きたらバグアを疑えというのは最近の常識ではあろうが、そうでない場合とて山のようにある。
「捜査資料は拝見できますか?」
 橘が尋ねた。
「ええ、勿論ですー」
 刑事は冊子を机の上に出して来た。橘は手に取り仲間達と共に熟読する。被害者は二人。類似点を探す。まず共通点は男だという事、他には身体的な類似点は無い。生まれも育ちも違い接点はない。殺害された状況は酷似していた。死亡推定時刻は零時付近、恐ろしく鋭利な何かで首を一発、場所は某村の某廃校の体育館内‥‥見取り図によるとピアノが一台、置かれているらしい。
「刃物で首を一撃だって?」
 アスが驚いたように言った。
「普通の人間が力任せにやることは不可能ですね‥‥」
 と唸ってシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)。
「現場のより詳細な検証をお願いしたいのですが、よろしいですか?」
 シンはそう依頼した。被害者と加害者がとった行動の克明な再現を行いたいのだという。
「それはまた‥‥少し難しいですな」
「並の存在では不可能そうですので」
 犯人がキメラである可能性、能力者である可能性をシンは疑っているようだった。
「ふむー、ではもう一度見てもらうよう鑑識に依頼してみましょうー」
「長谷川さん、被害者の方って亡くなる前、なにか変わった事言ってたりしてたりしませんでした? 犯人に気づいちゃった素振りとか」
 クラウが問いかけた。過去の事がよぎったのだろう、刑事は笑みを深く顔に張りつけると、
「ん〜‥‥そういった事は‥‥特に報告にはないですねぇ」
「そうですか‥‥聞き込みのまとめとかないですか?」
「ちょっと汚い字ですがぁ、それでも宜しければ」
 と長谷川は手帳のページを開いて差し出して来た。クラウは受け取りそれに目を走らせる。本当に殴り書き状態だったが、覚醒してなんとか解読する事に成功した。
「――真夜中の十二時にピアノが鳴ると人が死ぬ?」
 妙なフレーズを発見する。
「ああ、他愛の無い学校の怪談という奴です。ただ噂になっているようなのでメモして置いたのですがぁ」
 刑事の言葉にほむ、とクラウは考える。少し興味がわいた。
「ピアノに指紋は?」
 写真を見つつ叢雲が問う。
「山のように検出されました。被害者達の物も検出されてますねぇ」
「被害者は何故その時間に学校に?」
「元校長は時折懐かしんで廃校を訪れてはいたそうです。ただ何故そんな夜遅くに外出したのか、それは不明ですねぇ。警部補の方は再度現場検証にあたっていたと思われますー」
 叢雲は他に被害者の持ち物や死亡までの足取り、交友関係など諸々を尋ねておいた。
「最近、村で何か他の事件て起きてるか?」
 アスが問う。
「んー、刑事事件は起きてませんねぇ」
「殺される直前の行動に共通点は?」
「解るのは夜に出歩いていた、という事くらいでしょうかー、そして廃校へと行った‥‥まぁ運ばれたという可能性もあるのですがぁ」
「周辺で異常や不審者を見た、などの噂はありますか?」
 八葉が聞く。白雪だろうか。
「異常は事件以前はなく、不審者は‥‥特にそういった報告はあがって来てないですねぇ」
 警察署で得た情報はそんな所だった。


 一方、ロジーと夢姫は事件が起きた村へと一足先に向かっていた。風光明美なその村は、都会とは違いゆったりとした時間が流れている、ように外部からは見えた。
「こんなのどかな町で連続殺人だなんて‥‥」
 夢姫(gb5094)はぽつりと呟いた。一体だれがそんなことを、と思う。
「まずは商店街に行ってみましょうか?」
 オバサンネットワークの行使を夢姫は提案する。
「そうですわね。世間話の体を装いつつ聞いてみましょうか」
 頷いてロジー。二人は橘からの連絡を受け警察署での情報を受け取りつつ聞き込みを開始する。
「あら、例の事件? そーよ、まったく物騒よねぇ」
 人の良さそうな婦人達を捕まえて話を聞く。
「貴方達、この辺りじゃみないけど‥‥警察の方?」
 小さな村だ。ご近所のほとんどは顔見知りである。
「ULTの傭兵なんです。連続殺人の解決を依頼されまして‥‥お話を伺ってもよろしいですか?」
 と夢姫。
「あらあらまぁまぁULTの!」
 バグアと戦うのってどんな感じなの? 若い女の子が危なくない? などと逆にマシンガントークな質問に受け答えしつつもロジーと夢姫は礼節を保ち辛抱強く要点を聞き出す。
 現場の中学校は昔からある伝統のある学校なのだが、最近の少子化と過疎の影響で廃校になってしまった事。事件があったのは真夜中である事。ピアノ怪談の話。二つとも首が発見されておらずきっと首狩り族が犯人なのよ、刈り取った首でサッカーボールしてるのよ恐ろしいわっ、などといった噂話を聞く事が出来た。
「その中学校の卒業生の方とか御存知ですか?」と夢姫。
「ジモティーならある程度のトシの人はほとんどそうじゃないかしら」
 ちなみにこちらの御婦人もOGらしい。話を聞くと元校長はとても穏やかで良い人だったそうだ。見慣れぬ人物、に対しては指をさされた。彼女等とて全ては見ていないが郵便やら運送以外の人間は基本的にあまり村に出入りしないとの事。
「真夜中の十二時にピアノが鳴ると、どうして人が死ぬのか御存知です?」
「ああ、それは‥‥」
 古い話らしい。半世紀以上も前、戦時中ピアノの天才少女がいて将来を渇望されていたが、時世のせいで羽ばたく事が出来ず、世への怨みをぶつけるが如く毎晩遅くまでひき続けたそうな。その少女も戦時の常で栄養状態が悪く肺病を患ってしまい、弾いてる途中の真夜中十二時、血を吐いて死んでしまったとか。
「本当の話なのかどうかは知らないけどね」
 以降、十二時にピアノを弾くと少女の怨みを受けて死んでしまうそうだ。つまる所、呪い。
「そうですか‥‥」
 呟いて夢姫。呪いと来た。実に怪談である。
「そんな曰くつきのピアノがなんで残されてるんでしょう?」
「ふふ、所詮は怪談よ? 高価な物だったし‥‥でも、おかしいわね、廃校になった時に余所へ寄贈された筈なんだけど‥‥なんであるのかしら?」


「のどかでいいところです。次は仕事ではなくレジャーで来てみたいですね」
 シンが村を見まわしながら言った。
「‥‥まさに片田舎って感じですね。綺麗な街並みです」
 と白雪。村で合流した一同は休憩がてらお互いが得た情報を交換する。
「首を在り得ないモノで切断‥‥そして怪談。何処か怪しいですわね」
 口元に指をやりつつロジー。
「‥‥と、その前に。皆さんお腹空きませんこと?」
 女はころと笑って、事前に作って来た弁当を一同に振る舞った。
「お、こりゃ美味そうだな!」
 笑ってアスが言った。見た目は確かにとても美味そうであった。
 男はさっと軽く火を通した肉と新鮮な青々としたサラダや諸々が挟まれたサンドウィッチを口へと運び――


 一同が戦闘不能に陥っている間に運よく難を逃れた叢雲(慎重な性格が危機を回避させたのであろう)はメンバーの介抱を同じく生き延びたシン(緑物が駄目だったので少量しか食べなかった)に任せ村への聞き込みへと赴いていた。
 足を棒にして尋ね歩いた結果拾えた情報は以下だ。
 村人ではない人を見かけるのは運送などの少数、しかし逆を言えば零ではない。村内には越して来た者はいない。キメラは目撃されていない。山では少し前にやけに樹木が切断されていた事があったそうだ。学校付近の民家に住む男性曰く深夜にピアノの音を聞いた、と。
 情報を総合して考える。
(「‥‥考え過ぎだろうか?」)
 叢雲は胸中で呟く。あの離島の『人が消える』という『伝説』と偶然似ていただけ――本当に?
 空を見上げる。
 この村も、輝いている。表向きは。


「こういう考え方はミステリーの読みすぎなのかもしれませんが、人物のすり替えが起こっていることも考慮に入れておきたいと思います」
 皆が復活し始めた頃にシンが言った。遺留品が本当に直前まで本人が身に着けていた物かを家族の元へ訪問して確かめる。死体が本人ではない可能性。ありえない話ではない。だが、今回においてはそういった事はなかったらしい。不自然な点はなく鑑識結果も本人だと断定しているようだった。
「一服どうですか」
 夕方、現場の体育舘へと移動した橘は再度現場検証を行っている鑑識に缶コーヒーを差し出した。
「や、こりゃすみません」
「何か新たに発見できた事はありましたか?」
 と橘。
「いえ、申し訳ないが今のところは‥‥ただ一つ、些細な事かもしれないのですが」
「なんです?」
「ピアノの椅子の位置が警部補が亡くなられた前と後で微妙にずれているんです。立ち入りは禁止していた筈なんですが‥‥村の誰かが動かしたのか、もしくは」
「警部補さんが動かしたかもしれない、と?」
 ふむ、と顎を撫でて橘。何の為に?
「鍵盤の指紋を見れば曲の調べくらいは想像がつきますが、流石に何の曲か当てるのは難しいですね」
 鍵盤を覗き込んでシンが言った。ピアノの椅子はまぁ大抵はピアノを弾く時に使うものだろう。音楽好きの祖母を持つ彼はその影響で有名所の曲なら大体の楽器で演奏出来るらしい。
「あ、ピアノといえば私、弾いてみたい! 弾いても良いですか?」
 わくわくとした顔でクラウが言った。怪談の話を聞いて興味津津らしい。
「止めとけって、捜査の邪魔になるだろ」とアスがその首根っこを捕まえてバタバタしているクラウを止める「そもそも、音でるのかこれ?」
「ええ、一応、音は出るようです」
 鑑識が白手袋を嵌めた指で一つ叩く。澄んだ音が響いた。妙な気がした。
「このピアノの調律って誰がしてるんですか? ‥‥まさか被害者の校長先生?」
 白雪も不思議に思ったのかそう問いかける。
「え? さぁ‥‥そういえば誰がしてるんでしょうな」
「そもそも、どうして置きっ放しなのかな?」
 クラウが男に掴まれながらも小首を傾げて言う。一同はさぁ、と。
「バグア、かもしれないぜ」
 その言葉に一同はぎょっとして声の主をみやる。アスは冗談めかした口調で頭上を指さし、
「理屈に合わねぇモンは大抵あそこから来るんだ、近頃はな」
 宵の空では赤い星が輝いていた。


 日が完全に落ちる。
「五〇年間、この村では殺人が起きていませんでした。事件が起きた理由は二人の行動にあるのではないでしょうか?」
 白雪はそう言って二人の行動をトレースする事を提案した。一同は今までに集めた情報から、二人は夜に体育館現場に来ていて、残された指紋からピアノを弾いていて、死亡推定時刻から深夜一二時にここに来ていたと判断する。
「ピアノは、私に弾かせてください」
 叢雲が言った。怪談にのっとり十二時に鳴らす。
 他の一同は鍵盤を叩くのを叢雲に任せ、入り口で待機する事にした。
 十二時の少し前、闇の中、男はピアノの前に着き鍵盤を弾く。
(「元校長は何故ここに?」)
 離島の結末が脳裏をよぎる。地の底も海の孤島も変わらないのだろうか。ここも、見えない何かが蠢いて――
 不意に笑い声が聞こえた。
 叢雲は間髪入れず上に腕を振り円月輪をホルダーから投射する。刃が天井に突き刺さる。その隣、闇の中に逆さに女学生が立っていた。叢雲は椅子を蹴倒して飛び退き横手へも視線を走らせる。赤い焔を纏った男子生徒が横手より現れていた。
「‥‥降りてらっしゃい。女の子がはしたないわよ?」
 呆れたような真白の声が響いた。
 バッと強烈な複数のライトが壇上に投げつけられ、純白の光の中に影を浮かび上がらせる。橘が事前に用意していた光源だ。同時、男は拳銃を連射し学生達の動きを制圧する。傭兵達が次々に舘内に飛びこんでいる。
「銀の弾丸以外も効くなら助かるなッ!」
 アスは敵に弱体を、前衛三人に強化を飛ばしてから光線銃を撃ち放ち、ロジーが剣を振るって無数の音速波を飛ばし突っ込む。
「虚実生み出す光よっ」
 クラウが叫ぶと同時に蒼白い電波を飛ばす。光が炸裂し男子生徒から焔が消え、女学生が重力に従って地面に落下する。その瞬間にシンが二丁光閃銃を爆裂させて光を突き刺した。吹っ飛んだ女学生へ迅雷で突っ込んだ夢姫が壇上へ跳躍ざま刹那で抜刀し斬り伏せる。
「八葉流三の型‥‥乱夏草」
 真白は叢雲が十字架銃で男子生徒を牽制している所へ突っ込むと周囲を流し斬りで駆けざまに三連の剣閃を巻き起こす。少年の足腕首から血飛沫が吹き上がる。
「もらいましたわ」
 ロジーが言った。二刀の小太刀に爆熱の輝きを宿し交差ざまに六連剣閃。滅多斬りにして男子生徒を沈めたのだった。




 結局の所、下手人はキメラであったらしい。
「他愛も無い怪談に準えてキメラを配したのは誰の意図だ?」
 アスが呟いた。すっきりしねぇな、と思う。
「でも街は‥‥いい所だったわ」
 真白が言った。遠くに彼方の長閑な村を振り返る。
「次に訪れる時はどうか‥‥良い形で」
 空では赤い星が輝いている。



 了