タイトル:【AA】蒼の幽鬼と焔の空マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/25 23:57

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウスの戦死とユニヴァースナイト弐番艦の大破の報せは、勝利に酔いかけた欧州軍本部をその黒い翼で一打ちした。それはチュニジアに残った部隊も例外ではない。いや、残ったからこそ心に圧し掛かる重さは大きかった。
「この基地を、守らねばならない」
 おそらくは最もその重さを感じているだろうミハイル・ツォイコフ大佐は、ジブラルタルから反転したユニヴァースナイトの艦上で指揮を執っていた。
「‥‥それが、バリウス中将の遺志に沿うだろう」
 そして、自分達の心の安定にも。声には出さなくとも、それは周囲にも伝わっていた。


 ピエトロ・バリウスが死んだ。
 その報は計りしれない衝撃となってUPC軍を貫いていった。
 救援に向かった軍は結局、間に合わなかったのか。つまり、ピエトロは最後まで正しかった――本当に?
 最小の犠牲で最大の戦果を、それが指揮官の鉄則だ。だが何十年と戦い抜き今日までUPCを支えてきたピエトロの手腕と引き換えに得たものは、本当にそれに見合っただけのものだったのだろうか? ピエトロは、己自身の能力を実際よりも少なく見積もってしまっていたのではないか?
 一部の兵士達の間ではそんな声があがっている。
 そう、
『ピエトロ・バリウスがいなくなったら誰が実際的にUPC軍を統括するのだ?』
 そんな疑問がある。
 もっとも人望がありそうな軍人はツァイコフ大佐だろう。彼は堂々たる軍人で優秀な指揮官だ。だがしかし、あくまでその性質は前線指揮官だ。全体をまとめるのには向いてないように見える。そもそもに階級が足りていない。
 ならばオリム中将か? 優秀という噂だが、しかしいつだったかのアメリカでの戦いには良い印象がない。
 ならば原子時計か。ハインリッヒ・ブラッド。彼ならばやれそうな気がする。しかし、ピエトロ程の冷徹さで成すべき事を成す事が出来るのか‥‥
『我々は、替えの効かない屋台骨を、失ってしまったのではないか』
 そんな空気が、ひそやかに広がっていた。
 拡散する空気は冷たい不安となって兵士達の心の隙間に滑り込む。
「緊急出撃命令です」
 チュニジア基地のブリーフィングルームに声が響いた。声を発したのは緑髪の少女、ブルーファントムのスナイパー、相良裕子だ。
 不安だろうが死にかけてようが敵は来る。むしろ、そういった時にこそ嵩にかかって押し寄せて来る。大天使作戦によってチュニジア海岸沿いに作られた基地は、恒常拠点としてその体裁を整えつつあった。しかし敵がその完成を黙って見ていてくれる訳もない。
 失ったものと引き換えに手に入れたものは、守り通さねばならないと少女は言う。これを失ったら、あの戦いで焔に呑まれた人々は一体なんの為に死んだのだ?
 負けられないのだと少女は言った。
「当基地に向けてバグア軍の威力偵察と思われし部隊が接近中です。西の空より十六機、南の地上より十二機、かなりの規模です。隙あらば基地に一撃加えておこうという構えでしょう。接近を許す訳にはいきません。敵の内訳は空がエース機と思われしHWが二、爆装が施されていると思われし中型HWが一、小型HWが九、キューブワームが四です。地上は指揮官機と思われしタロスが一、タロスが三、ゴーレムが三、レックスワームが五です。こちらは空に九、地上に八で迎え撃ちます。各迎撃プランの詳細は――」
 ブリーフィングが続く。
 思えば遠くへ来たものだ。戦火は人を変える。三年前の迷子の中学生も例外ではない。その心は未だ闇夜を彷徨っているのかもしれないが――
 ブリーフィングの最後に、破壊神と渾名される少女は言った。
「チュニジア基地は暗黒大陸に打ちたてられた牙です。そして我々がチュニジア基地の牙です。故に向かい来る敵は粉砕します。私達がこの地にいる限り、決して手出しは出来ないのだと、敵の髄に叩き込んでください。奮起を期待します。以上」

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
吹雪 蒼牙(gc0781
18歳・♂・FC

●リプレイ本文

 チュニジア基地。
 敵機襲来の報を聞きブリーフィングルームへとKV乗り達が走る。
 井筒 珠美(ga0090)はその部屋に入った時、見知った顔を見つけた。
「久し振りだな、温泉同好会長」
「あ‥‥もしかして、珠美ちゃん? とってもお久しぶりなんだよ」
 緑髪の少女は少し驚いた顔をしてから破顔して言った。相良は最近は温泉行けてないんだけど、などと言いつつ、
「九州温泉を制覇するまで相良は倒れる訳にはいかないのです‥‥今回は珠美ちゃんも一緒に飛んでくれるのかな?」
「ああ。しかし、連中ここぞとばかりに来たな。まぁ、このまま引下がってくれているとは思っちゃいなかったが‥‥」
 二人が会話を交わしているとばらばらと傭兵達が集まり、そして全員が集めるとブリーフィングが始まった。相良が説明を開始する。
「敵は中型やエース機を含め十六か」
 説明を聞き空戦班のユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は唸った。少々きつい事になりそうだな、と思う。
「随分多いね」
「ああ、だが負ける訳にはいかない」
 三島玲奈(ga3848)の言葉にそう答える。
「今回も失敗できない作戦だな‥‥」
 カルマ・シュタット(ga6302)が呟いた。前回は勝利できたが勝って兜の緒を締めろとも言う。気は抜けない。
「爆撃型に抜けられたら、基地が大ダメージを負いますからね‥‥」
 乾 幸香(ga8460)が眉を曇らせて言う。
「HW達には早々にお帰り頂かないといけません。わたしと【バロール】も全力を尽くしますね」
(「空戦‥‥訓練じゃ無く本番かぁ」)
 モニタを前に、メンバーの打ち合わせの声を聞きつつ吹雪 蒼牙(gc0781)は胸中で呟いた。
(「牙に、なれると良いけど‥‥全力でやるだけだね」)
 よし、と気合いを入れる。
「――という訳で、CWが沈黙が成功した後のK‐02の使用をお願いします」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)が相良に言った。前回の礼もあるし守らなければ、と思う。
「裕子さん、今回の戦闘では頼りにしていますからね」
 乾もまた言う。
「ん、了解なんだよ。お任せあれ」
 ちょこと会釈して相良。
 傭兵達はブリーフィングを終えるとハンガーへ向かった。そして空へと上がろうとした所でトラブルが発生する。機体の配送に手違いがあったらしく三島の乗機がアルバトロスだったのだ。戦う前に戦場に行けない。基地で待機となった。
 KVが滑走路を駆け爆風を巻き起こして次々に空へと昇ってゆく。
(「作戦が成功したから良かったけど、この間はちょっと、格好悪かったな」)
 今度は頑張りたい、ラシード・アル・ラハル(ga6190)はそう思う。
 そう思うのは砂漠の風の匂いが懐かしいから、だろうか。碌に記憶はないけれども。
(「それとも、裕子が一緒に飛ぶから?」)
 EF‐006ジブリールIIのコクピット内で操縦桿を握る。
「僕らは牙。‥‥噛み、砕く」
 轟音と共にアフターバーナーを吹かし、青のワイバーンが空へと昇って行った。


 チュニジア基地の西の空。陽の光が燃えたぎる青の空。注意して索敵していたラシードが蒼空の一点に黒影を発見した。無線で一報を飛ばし眼を凝らす。みるみるうちに増えてゆく。敵機だ。数は十六、情報通り。
「空の邪魔者駆除、ね‥‥張り切って行くよ!」
 吹雪が言った。傭兵達は各機HWを目指し加速する。横列で速度を合わせて飛ぶ。HW側も傭兵達へと向かって旋回し飛んできた。距離が詰まる。
 ジブリールIIは左に旋回した。HW達は固まったまま本隊へと進む。HW達が加速し、CWを後方に音速を超えて傭兵達へと迫る。
 距離が詰まる。
 相対距離一〇〇〇。
「行くよ‥‥キャンセラー発動!」
 吹雪が言った。R‐01E‐Uentosuから直径一km以内の重力波が乱れてゆく。
 HW達、まずは妨害波を潰す戦術。狙うは乾機か吹雪機、遅い方を狙う。HW全機、吹雪機を目指して飛んだ。
 吹雪、十二の敵機が全て自機に向かって来ている。これはどう考えても危険が全開な状況な気がした。射程に捉えられる前に後退に移る。ブーストを吹かして急旋回。
 他の各機は距離を詰める。
 カルマ機、敵機の動きを見る。HWは極超音速で距離を外さんとする吹雪機を赤く輝いて追走していっている。乾機には今の所向かっていない。
「下手な鉄砲、数撃ちゃってなぁ!」
 ドッグ機は吹雪機を追う小型HWを追う。後背へと捻り込み機関砲で猛射。S‐01HSC‐Garmから吐き出される百五十発の弾丸がHWへと襲いかかり、喰らい突き次々に大穴を開け蜂の巣にして爆砕する。撃破。
 カルマ機CD‐016G‐ウシンディ、HW群を側面に抜けCWへと迫る。生じた頭痛を堪え機関砲で猛射する。二百発の弾丸が空を貫き、サイコロ型ワームの装甲もぶち抜いて抜けて行く。CWは漏電を発すると瞬く間に爆裂する火球と化して四散した。撃墜。
 R‐01改ディースが翼を翻して飛ぶ。ユーリもまた編隊端のCWを狙い重機関砲を猛射しながら突っ込んでゆく。無数の穴を開けてゆくそれとの交差ざま、剣翼を入れ装甲を断ち切りながら抜ける。瞬後、後背の空で爆裂が巻き起こった。撃墜。
 横手に回っていたラシード機は旋回すると吹雪機を追う全長百メートルもの巨大さを誇る空飛ぶ兜蟹へと迫る。
「でっかいね‥‥その重量、倍にしてあげるよッ」
 距離四〇〇から空対空エネルギー砲を発射。リロードしつつ連射。唸りをあげて飛んだ砲弾の一発は外れたが一発が直撃し装甲を穿つ。
 乾機、HWは全機吹雪機へと向かっている。邪魔しに来ている敵はいない。カルマ機の後を追ってCWへと接近、Sライフルをリロードしつつ連射。弾丸が装甲を貫き中へと入り込む。井筒もまたガンサイトにそのCWを納めると機関砲を猛射した。集中射撃を受けてCWが蜂の巣になって漏電を生じさせ次の瞬間、爆裂して四散する。撃墜。
 相良機A‐1D‐Oracionもまた機銃を最後のCWへと叩き込んで撃墜している。
 吹雪機はブーストして旋回中。Uentosuを追っていたHW達は追いつくのに時間がかかると判断したか、五秒程度で追うのを中止し旋回している。目標を乾機へと変更して迫る。
「ぶんぶん五月蝿いカメムシは弱らせておかないとしつこいですからね。【殺虫剤】を散布しておきます」
 乾、相対距離一〇〇〇、愛機を旋回させるとキャンセラーを発動。周囲の空間に重力波の乱れを発生させた。重力波レーダーの精度が低下してゆく。
 相良機、ベクタードスラスト。ブースト発動ノズル操作し急回頭、動きの遅いHW四機と速い一機をロックしつつ極超音速で加速し突っ込む。誘導SII、照準投射を起動、発射コードを無線に発して注意を促し相対六〇〇、K‐02を四連射、次いで動きが早めの四機と黒HWをロック二連射、速めのHWの一機へとリロードしつつライフル弾を三連射。HW達が一斉に旋回する。全弾命中。千五百発の誘導弾が炸裂して炎で空を埋め尽くしHWの五機が吹っ飛んで爆裂しながら墜ちていった。しかし、五機のHWは焔を裂いて飛び出し無傷の白HWを先頭に乾機へと迫る。
 中型HW、猛烈に赤く輝くと乾機への相対距離八〇〇、機体前面に備えられた超巨大な砲門より極大の淡紅色光線砲を爆裂させた。空を灼きながら極大の紅光波が迫る。五連射。乾機、素早くスライドして四発回避、極大の一発が翼の端を貫いていった。損傷率九分。
 カルマ機がブーストで加速して前に出る。相対二〇〇。迫り来る白HWへとツングースカ機関砲で二〇〇連射、交差様にアテナイで七五〇発の弾幕を叩き込む。乾機もまた相対四〇〇、白HWへと向けて誘導弾を三連発している。白HWは乾機へと誘導弾を六連発した。
 白HW、翻ってウシンディが放つ弾幕の嵐を悉く潜り抜けてゆく、が、かなり弾が厚い。機動が制限されている所へ乾機が放った三発の誘導弾が次々に突き刺さった。爆裂が巻き起こる。他方、乾機、誘導弾が迫る。キャンセラーが効いている。素早く急降下して四発を回避する。二発の誘導弾が突き刺さり猛烈な爆発を巻き起こした。また誘導弾が迫る。黒HWだ。六連。乾機R‐01Eバロールそれでも鋭く旋回して二発回避、四発直撃。損傷率七割三分。強化型HWが一斉に赤く輝き四機で合計して十六連の爆光を解き放った。衝撃がキツイ、避けられない。全弾入った。損傷率二十一割七分、消し飛んだ。壮絶な大爆発と共に木っ端に散った翼の欠片が流れてゆく。大破。
 ラシード機、ブーストとマイクロブーストを同時に発動、パンテオンを発射しUK誘導弾を猛射する。全弾が中型機に喰らい突き爆発の嵐が巻き起こりその装甲の一部を焼く。だがまだまだ打ち砕く事はできなさそうだ。割と硬い。
 ユーリ機、中型HWへ向かう。機関部を狙いたい。何処にあるのだ? 考える。勘であたりをつける。敵は堅そうだ。翻り捻り込み、ラシード機が当てたであろう辺りを狙って機関砲を猛射する。リロードしつつ八百発連打。前半四百発、傷ついている所に上手く入った。弾丸がHWの装甲を穿ってゆく。しかし残りを中型は素早く方向を切り返して回避した。でかい癖にそこそこ速い。
 ドッグ機、相良機のライフル弾を受け火花を撒き散らしている強化型HWへと向かう。
「今更ジタバタすんなって!」
 Garmが牙を剥き機関砲から勢い良く弾丸が吐きだされてゆく。瞬間、赤光を纏ったHWが翻る。サイトを合わせジェット噴射ノズル核を操作し喰らいついてゆく。未来機動を予測しリニア砲を発射。弾丸がHWに直撃して爆裂と共に打ち砕いた。撃墜。
 井筒機GFA‐01シラヌイ、中型HWへ紫翼で風を切って飛びその巨体を照準に捉えると荷電粒子砲を発射。次いで二連の誘導弾を打ち放つ。空を一瞬で制圧した粒子の波動をしかし中型HWは素早く急旋回して回避。井筒は正面及び右手に納める為、左に回り込むように飛ぶ。彼女は隻眼だ。二発のAAMは煙を噴出しながら旋回した中型へと喰らいついてゆき次々に爆裂を巻き起こした。命中。
 翻ってきた吹雪機、キャンセラーを継続させつつ隙を見て比較的離れている強化型HWを狙い距離四〇〇からJN‐06誘導弾を連射。赤く輝くカブトガニは素早く旋回し六連のそれを回避せんと機動する。直後、紺碧のKVが極超音速機動でその眼前に踊り出てヘッドオンから機銃を猛射して撃ち抜いていった。漏電と共にHWの速度が落ち、吹雪機から放たれた誘導弾が突き刺さって爆裂を巻き起こし四散した。撃墜。
 HW達、とりあえず吹雪機を落としたいが接近すると退避されるのは解っているのでどれを狙う。火力が高く防御が低そうに見える機体。五機のHW達猛烈に赤く輝くと相良機を狙って波状一斉攻撃、誘導弾を六連発、六連発、大口径プロトン砲を五連発、プロトン砲を二機で八連発。最初の六連、相良機は翻って五発回避一発命中、爆裂に少し揺らいだ所へ三発をかわすも残りが喰らいついて三連爆裂、空を埋め尽く巨大紅波五連爆裂、一発を避けるも四発に呑み込まれ吹っ飛んでる所へプロトン砲八連射撃全弾命中。ロングボウに凄まじい爆裂が巻き起こっている。損傷率四割四分。エースの中じゃ脆い方だがそれなりに頑丈。
 カルマ機、エースはウシンディを狙ってこない。PRMの発動よりもブーストで押した方が良いか? アフターバーナーを吹かし翻ると空気の断層を滑るようにスライドして猛射している白HWへと間合いを詰める。ツングースカが焔を吹きアテナイから七五〇発の弾丸が飛び出した。加速して放たれた九五〇の弾丸が白HWを呑み込んでゆく。今度は六割当てた。白HWの装甲に火花が巻き起こってゆく。
 ユーリ機、ラシード機、井筒機、各機中型の後背へと喰らいつくと一斉に攻撃を加えている。
 ユーリ機は傷ついている箇所を狙って機関砲でリロードしつつ一点猛射を繰り出し、ラシード機は中型機をロックしてUK‐AAMを連発し井筒機も誘導弾で攻撃を仕掛けている。
 高速で旋回する中型を追走し、機関砲から放たれた弾丸がHWを貫きAAMが直撃し荷電の光がHWの装甲を灼いてゆく。
「――落ちろ、落ちろ落ちろッ!」
 ラシードは巨体の癖に一瞬でコクピットからの視界の外へと消えんとする中型へと機首を回し、ロックを維持して吼え声と共に発射ボタンに親指を叩き込む。誘導弾は次々に直撃してゆくが中型はまだ堕ちない。爆装仕様のそれも四段階の物と同様にかなり強化されている。タフだ。
「この野郎ッ」
 ドッグ、相良機を守りたい所だが、陸と違って空は音速で敵味方動いていてかつその方向は三六〇度開けている。敵の攻撃を受け止めるのは不可能に近いし、進路を塞ぐ、というやり方も困難だ。撃たせる前に火力で黙らせるしかない。翼を翻しプロトン砲を乱射している強化型HWの後背へと捻り込むとリニア砲を猛射。リロードしつつ二連の砲弾を飛ばす。砲弾が勢い良く飛びHWの装甲に突き刺さり打ち砕く。だが落ちない。吹雪機は踏み込むと不味そうなので遠間からドッグが打撃を与えたHWへと六連の誘導弾を撃ち放つ、爆裂。まだ堕ちない。
 残るは中型、白黒のエース、強化HW二機の計五機。
 相良機が翻り極超音速で迫ると強化HWの一機を機銃で撃ち抜き爆砕する。
「勝負時かな」
 ユーリ機は重機関砲を猛射すると機体能力を発動、傷口を狙いそれを広げるようにパンテオンを叩き込む。アグレッシヴ・ファングの乗った百発の誘導弾が爆裂し中型の装甲を広い範囲で吹っ飛ばしてゆく。
「決める‥‥!」
 ラシード機、再度中型HWをロックオン、UK‐AAMを三連猛射。井筒機は荷電粒子砲を爆裂させ三連射。HWは回避せんとしたがパンテオンの強烈な衝撃に揺らいでる所へ誘導弾が次々に突き刺さって爆裂し荷電粒子の光波が撃ち抜いてゆく。
 次の瞬間、中型HWから爆裂の渦が巻き起こった。その身を焔に包み、盛大に黒煙をあげながら巨大な空飛ぶ兜蟹が高度を落としてゆく。次の瞬間、中核に引火したのか直径一〇〇メートルを超える巨大な爆発を巻き起こして四散した。赤光と爆風が周囲を貫いてゆく。撃破。
 中型機が落とされ三対七、HW達は勝機無しと見たか猛烈に赤く輝いて撤退に移った。強化型HWが射程に出る前に相良機とドッグ機と吹雪機が猛射して爆散させる。
 傭兵達はエース機を追ったが追いつけず、また井筒の「深追いは止めた方が良いだろう、敵の勢力圏だ」との言葉に従い乾を救助すると基地へと帰投したのだった。



 かくて傭兵達の活躍により十六機のHW編隊は撃退されチュニジア基地は空の平和を束の間とはいえ取り返した。
 人類は数多の犠牲と共に勝ちえたこの基地を橋頭保として、さらに暗黒の大陸を喰い破ってゆくのかそれとも砂漠の塵に消えるのか、それはまだ誰も知らない。
 だが今はこの勝利を称えよう。チュニジア基地は、守られたのだ。



 了