●リプレイ本文
慌ただしくジャケットを着込んだ兵が駆ける。膝を曲げ指を二本伸ばし、振り下ろす。
轟音と共にエンジンの回転数が上がってゆく。ここはバンジャルマシン航空基地の滑走路、鋼鉄の翼達が今飛び立たんと加速してゆく。
「白薔薇‥‥シェアーブリスにて出撃でしてよ!」
コクピット内、エンジンをフルスロットルに入れてロジー・ビィ(
ga1031)が言った。PM‐J8の翼が浮き上がる。爆風を大地に叩きつけシェアーブリスは螺旋の風を巻き起こして天空へと飛翔してゆく。それに続きKV達が次々と上がってゆく、その数八。
八の騎士鳥達は島の上空を高速で翔け抜けながらセレベスの海へと向かって飛ぶ。
「‥‥この前の、セレベス海上での戦いから‥‥もう、二年経つんですね‥‥」
八つのKVのうち一機、ES‐008‐2‐FRAGMENTに搭乗する菱美 雫(
ga7479)がぽつりと呟いた。彼方の空と海には見覚えのある色が広がっている。
――彼女が、セレベスを飛ぶのはこれで三度目だろうか?
前回飛んだ時はOperationThunderStrike――カリマンタン島戦役において、およそ三○○機の人類側と一三四のバグア側航空戦力が激突した、前半期の趨勢を分けた一大決戦の時だった。菱美もうちの一機として翼を並べていた。共に戦う者達の顔ぶれもあの頃とは随分変わったものだ。
(「あ、あの頃に比べれば‥‥わ、私も‥‥少しは、役には立てるようになれたはず‥‥!」)
当時はパイロットとしては新人に近かったが、今では菱美もベテランだ。しかし敵も二年前より強大になっている。気を引き締めないと、と思う。
「威力偵察か‥‥させるわけにゃいかんな」
蒼白のEF‐006雀鷹を駆る龍鱗(
gb5585)が呟いた。偵察だろうが奇襲だろうがさせてたまるか、と思う。
「ボルネオを火の海にはさせない‥‥」
瑞浪 時雨(
ga5130)もまた呟く。愛機は黒のPM‐J8改エレクトラ。
「招かざるお客さんには玄関先でお引き取りいただかなくてはいけませんわね」
白と黒のCD‐016Gアズリエルのコクピット内、クラリッサ・メディスン(
ga0853)が無線に行った。
「一機たりとも抜けさせん‥‥」
龍鱗は目を鋭く細め、空の彼方を睨む。
「ん‥‥改修後の初陣 弾幕の盾‥‥魅せてやろう」
アルジェ(
gb4812)が頷く。乗機はA‐0ミサイルキャット。SPを生業とする一族の出身だ。生粋の盾。空でどうかは解らないが、守る事には知識がある。しかし、基地での最初の挨拶の時に「通りすがりの‥‥えすぴーだ(きらっ☆)」と名乗っていたのだが、きっと幾人かのSPへの認識に変革が起こっているに違いない。
「アンナ、今回はどうぞ宜しくお願い致しますわね!」
ロジーがずっと沈黙を保っている僚機に無線を飛ばす。
R‐01E‐Johanからチャカチャカと光が飛んできた。閃光信号。内容は『宜しくお願いする』だ。アンナ・キンダーハイム(
gc1170)、基本喋らない。
今回傭兵達はロッテを組み、A班クラリッサ、菱美、B班瑞浪、アルジェ、C班龍鱗、YU・RI・NE(
gb8890)、D班ロジー、アンナ、という編成だ。
「BJ7よりBJ8へ、突撃タイミングは任せた。合図があれば合わせる」
「BJ8、了解。ブーストで入るわ」
GFA‐01Sシラヌイに搭乗するYU・RI・NEが答え、龍鱗との開幕での動きの意識を擦り合わせる。
K‐02持ちの各機、一斉ではなく僅かにタイミングをずらして波状で撃つ予定のようだ。反応速度の順としてロジー、クラリッサ、アルジェの順で射撃する事にした。
八機のKVは軽く打ち合わせを終えると迫り来る偵察隊を迎撃する為に爆風を巻き起こしながら空と海の狭間を飛んだ。
●
飛行する事しばし、やがて傭兵達は彼方に飛ぶHW編隊を発見した。
「敵機発見、十二時、八機‥‥」
菱美が言ってHW達に一から八までの番号を振ってゆく。
「さて、行儀のなってないお客様には早々にお引き取り願いましょう」
クラリッサが言った。
「最初は一撃離脱‥‥アルジェ‥‥併せて‥‥」
敵の編成を確認し瑞浪が無線に言った。
「ん‥‥了解」
アルジェが答える。
「見敵必殺‥‥逃さないわよ」
YU・RI・NEも言って、各機アフターバーナーを吹かせて加速してゆく。最大戦速。HW側も傭兵達の接近には気付いているようで、散開しながら一斉に向かってくる。
瞬きする間にも距離が急速に迫ってゆく。
「ツインブースト・ミサイルマニューバ起動準備‥‥」
相対距離一二〇〇、アルジェ機、特殊能力を発動させれば敵機は既に誘導弾の射程内だがぎりぎりまでひきつける。
「‥‥‥‥」
相対距離一〇〇〇、アンナ・キンダーハイムはロックオンキャンセラーを起動させる。Johanが唸りをあげ、周囲の重力波を激しく乱してゆく。アンナは考える、イビルアイズの特殊能力はすでに敵方の知る所だ。性能的にも味方のウーフーについで狙われやすいだろう。この辺りの戦域の敵は有人の指揮官機がいなければそう思いきった事はやってこないだろうが、しかし相手がAI機だけなのだとしても狙われやすい事は確かだろう。アンナはそう判断すると意識を研ぎ澄ませて敵の攻撃に備える。
距離が詰まる。激突時の位置取りに注意を払っているのはアルジェ機と瑞浪機か。アルジェ機が全体より前方に、瑞浪機は後方に構える。合わせる、と言っている以上は竜鱗もやや後方だろうか。他機は並列。
(「強化されてるとは言っても‥‥木星型みたいな新鋭機じゃないんだから‥‥大丈夫、やれる‥‥!」)
菱美機は強化型ジャミング集束装置を発動させる。周辺直径三〇〇m以内の味方機のレーダーがクリアになる。
距離が詰る、相対距離六〇〇、敵味方、動いた。
「白薔薇、FOX‐3!」
ロジー、ロックオンしていたHW1〜5を狙ってK‐02誘導弾を発射。同時、三機のHWが一斉に五〇〇発づつの小型誘導弾を空へと解き放った。僅かに遅れてクラリッサ機がPRMを発動HW1〜5を狙ってK‐02誘導弾を撃ち放つ。北西と南東から互いに総計二五〇〇発の小型誘導弾が撃ち放たれ一瞬のうちに交差する。誘導弾の嵐が煙を噴出させながら空間を貫いてゆく。HWが狙ったのはアルジェ機、菱美機、アンナ機、ロジー機、YU・RI・NE機の五機。それぞれへと小型誘導弾の嵐が向かっている。
アルジェ、ブースト&ツインブースト・アタッケ・クードロアの三種を併発している。瞬間的に放たれたバグアのそれがK‐02のようなものだと判断し、小型ミサイル群をロックオン――はちょっと無理だ。ロックする前に三百発の誘導弾が一気に迫り来る。瞬間、テーバイが発動した。猛烈なマズルフラッシュと共に一千五百発の弾丸が吐き出され宙を薙ぎ払う。爆裂の嵐が巻き起こった。視界が焔で埋め尽くされる。テーバイを抜けて来た二百発に直撃される。損傷率三割二分。
ロジー機が放った五百発のうちHW123に放った三百発とHW123がロジー機へと放った三百発の誘導弾の一部が互いに激突し爆烈し爆発を連鎖して巻き起こす。消し飛んだ。残り二百。HW4、5は赤く輝きバルカン・ファランクスで弾幕を張り爆裂と共に叩き落とす。
クラリッサ機の五百発、HW123は赤く輝いてバルカンで叩き落とした。HW4、5にそれぞれ全弾命中、強烈な爆裂を巻き起こす。HW達の装甲が吹き飛んでゆく。
攻撃に備えているアンナ機、迫り来る誘導弾にいち早く反応して急降下。菱美機の援護と自身のジャミングが効いている。誘導弾の嵐の矛先から逃れ、三百発全弾回避した。菱美機、素早く操縦桿を切って数百の誘導弾を掻い潜る。二百五十発をかわし五十発命中。損傷三分。YU・RI・NE機、アクチュエータ起動、バルカン補助、ブースト点火、加速。アフターバーナーを全開にして猛加速する。爆風と共に空を貫く。中和、妨害、二重の援護があれば避けられる。速度に物をいわせて誘導弾の嵐を潜り抜ける。
(「また少しばかり無茶な動かし方するが‥‥耐えてくれよ」)
龍鱗機もまたブースト・マイクロブーストを併発させアフターバーナー・スラスターを全開にし、超音速を超えて猛加速する。
相対距離四〇〇、HW123、アルジェ機へと誘導弾二連射、六発の誘導弾が飛来する。炎を裂いて飛び出したアルジェ機はアフターバーナーを吹かしながら横滑りしつつ急旋。六発のミサイルを全弾回避する。
クラリッサ機はHW1を狙って誘導弾を撃ち放つ。直撃。爆裂が巻き起こる。
「攻撃は最大の防御‥‥まずは数を‥‥」
瑞浪はSESエンハンサーを起動、HW2を狙って放電装置を三連射。猛烈な電磁嵐が荒れ狂いHWを呑み込み、装甲を消し飛ばして、大爆発を巻き起こした。撃墜。凶悪な破壊力。
菱美機はHW4へと二条の電撃嵐を解き放ち、HW456は菱美機へと総計十二発の誘導弾を放ち、HW78はアンナ機へと八発の誘導弾を猛射する。菱美機に三発命中、アンナ機は一発被弾した。HW4が電撃に呑まれて装甲を削られてゆく。
ブースト機動で突っ込んだYU・RI・NE機、ガトリング砲を撒き散らしながらHW1へと突っ込み、交差際に剣翼で斬りつける。入った。猛烈な火花を散らしながら二機が交錯し抜けてゆく。
「隙ありだ‥‥!」
続いて突っ込んだ龍鱗機が衝撃にふらつくHW1を捉えスラスターライフルで猛射した。弾丸が雨の如くに突き刺さり蜂の巣にして爆砕する。撃墜。
小型誘導弾を振り切ったロジー機、スラスターを吹かせながら機首を回すとHW7へとロケット弾を撃ち放ち、爆発を巻き起こす。アンナ機もまた攻撃を受けながらも急旋回すると爆発に揺れているHW7へとピアッシングキャノンを連射する。
六発の誘導弾を回避したアルジェ機は極超音速機動で急旋回すると機首を向けてHW3〜7をロックオンする。
「ファイエル!」
五百発の誘導弾が壮麗軌跡を煙で描きながら五機のHWに喰らいつき爆裂の嵐を巻き起こす。
八機のKVと六機のHWは爆炎が吹き荒れる空間をそれぞれ旋回しながら距離を保ち、あるいは突っ込んで交差し通り過ぎている。
ロジー機ロケット弾をHW7へと発射、間髪入れずにラスター撃つと射程外なのでブーストを点火。アンナ機、キャンセラーの展開を持続しつつ翻りガンサイトにロケット弾の爆発を受けているHW7を納める。キャンセラーはターン持続なのでブーストを併発でもしなければ懸念要素は問題ない。スナイパーライフルで狙撃、リロードしつつ連射。弾丸が一発命中してHWが翻ってかわし、ロジー機がマシンガンを連射しながら極音速で突っ込んだ。SESエンハンサーを起動、レーザー砲を撃ち放つ。弾丸と閃光がHWを貫き粉砕した。傷口から漏電が発生し、次の瞬間、猛烈な爆裂が巻き起こる。撃破。
「アンナ‥‥っ! 避けて下さいッ」
ロジーの声が聞こえる中、アンナ機のコクピットを激震が襲う。避けろと言われた時には大抵既に当たってるものだ。アンナ、回避運動を取っていたが避けきれずHW8が放った四発のうち一発が命中し爆発が巻き起こる。損傷率二割。
集束装置を展開中の菱美、三機のHWに囲まれている。
「BJ1、FOX‐2!」
クラリッサは菱美機へ攻撃を仕掛けているHW4をロックすると三連の誘導弾を撃ち放つ。ミサイルが音速を超えて飛び、二発がバルカンに撃墜され、一発が直撃して爆裂を巻き起こした。この機体もファランクスを積んでいるようだ。全機装備している可能が高いと判断する。HW4は爆炎に身を揺るがせながらも菱美機へと四連の誘導弾を撃ち放ち、56からも誘導弾が連射される。菱美、翻って七発をかわすも五発に直撃を受け装甲が削れていく。損傷率三割一分。なかなかタフな造りだ。炎を裂いて旋回するとHW4へ向けて電撃の波とロケット弾を撃ち放つ。ロケット弾がHW4に突き刺さり爆裂を巻き起こして粉砕した。HWが火球に包まれて落下してゆき、やがて爆散した。撃墜。
アルジェ機、先に痛打をもらっているので継続して一機攻撃を受けている。テーバイをリロード、操縦桿を切って横に飛ぶ、急旋回。四連の誘導弾を二発回避し二発をファランクスが叩き落とした。
「私をフリーにするなんて‥‥」
瑞浪はくすりと微笑を浮かべるとアルジェ機へと攻撃を仕掛けているHWの後背へ回り込む。SESエンハンサーを発動させつつ猛射、三連の電撃がHWを撃ち据え消し飛ばす。良い破壊力だ。撃墜。
龍鱗機は旋回すると誘導弾を撃っていたHW5をサイトに納める。ロックオン。
「BJ7、FOX‐2!」
煙を噴出しながら音速を超えて三連の誘導弾が飛び出す。HWはファランクスで二発を薙ぎ払い一発に直撃を受ける。爆発に揺らぐそれにYU・RI・NE機がアクチュエータを発動させながら肉薄、ガンサイトに機影を納めるとトリガーレバーを引いて猛射。三十発の弾丸を叩き込む。HWの装甲に次々と火花が巻き起こった。フリーになっているアルジェが突っ込んでスラスターライフルで弾幕を張る。HW5の傷口から漏電が発生し次の瞬間、大爆発を巻き起こした。撃墜。
残った二機のHWはそれでも最後まで猛攻を繰り出していたが、うち一機はロジー、龍鱗、クラリッサ、アルジェに撃たれて爆散し、もう一機は菱美、瑞浪、YU・RI・NE、アンナの攻撃を受けセレベスの海の上に散っていった。
かくて威力偵察に出撃したHWの編隊は撃滅され、バンジャルマシン市は戦火にさらされる事なく、つかの間の平穏を得た。
しかし偵察に出てきたという事は、本格的な攻撃も考えているという事だろう。
守った平穏が今回はどの程度続くのか、それはまだ、誰も知らなかった。
了