タイトル:【AA】祈りを込めてAマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/06 22:14

●オープニング本文


 千の命、千の未来、千の絶望。
 この武骨な鋼鉄の騎士をアフリカの大地に走らせるには、それだけでは足りないのだろうか。

「収容所の中にハウザー・シルヴァレスティという名の高名な科学者が居る」
 UPC軍の将校は相良・裕子(gz0026)に対してそう言った。なんでも元はネパールの高山でバグアの母星を観測し研究していたそうだが襲撃を受け連れ去られたらしい。今回の北アフリカ侵攻に伴う調査によりモロッコの人間収容所に監禁されている事が解ったそうだ。
 諜報部が掴んだ情報によれば、UPC軍の上陸を受けて親バグア側勢力はこの人間達をより大陸の奥地の収容所へ移さんと移送計画を立てているらしい。今回の任務は移送隊を襲撃しハウザー老や人々を奪還せよというものだった。移送される人々の数は千。
「ハウザー老は連れ去られたが研究データは寸前で隠した。だが隠し場所が把握できていない。彼の研究データは人類の為に必要だ。他よりも何においても隠し場所を聞き出せ。またKVや歩兵隊に損害を出す事はできない」
「‥‥他の何においても?」
「全てを救えるならばそれに越した事は無い。だが、優先順位だ」
 いざとなれば人々の救出は切り捨てろ、と将校は言外に言った。きっとその科学者のデータが確保されていれば、そもそもにこの作戦は発令されなかったのだろう。
 相良裕子はじっとその将校を見詰めた。まだ若い。二十後半くらいか。茶色の瞳には感情の色が見えない。
(「本当に?」)
 少女は思う。
 本当に、そこにそれは無いのだろうか? じっと見つめる。
――やはり、冷たい鉄のような光しか見えない。見えないのだ。
 在る事が見えない。無い事も見えない。結論、解らない。
 巨大キメラの頭部を弾頭矢で吹っ飛ばせても、ゴーレムを生身で撃破出来ても、目の前のただ一人の相手が何を思っているのかすら解らない。
 人は相良裕子を優れた能力者だという。だが、この能力で人として一人前だといえるのか?
 人の心は空に浮かぶ月の裏側のようなものだと何かの本に書いてあったのを思い出す。知るならば、自らという星を飛び出して宇宙の彼方から見る視点が必要なのだという。
「‥‥相良の能力は重力を振り切れない?」
「は?」
 思わず考えが言葉になって洩れた。少し将校の表情が動いた。そこには怪訝そうな瞳があった。これは解る。多分彼はこう思っている。いきなり何を言い出したのだこいつは? だ。
 何を考えているのかよく解らない少女というのが相良裕子の周囲からの評価である。いちおう自分では筋道を立てて考えているつもりなのだが。
「まぁ、良い」
 男が言った。
 いつもの事だ。そんなような態度であった。
(「相良は人を理解できず、人は相良を理解しない」)
 事実を確認する。しかし、どうとも思わない。いつもの事だ。玲であってもチェラルであっても相良裕子を本当にはきっと理解していないし、きっと相良も彼女達を本当には理解できていない。だが、人間というのはそういうものだろう。だから、どうとも思わない。
(「本当に?」)
 何も思っていない?
 自らに聞いてみる。その返答――よく聞こえない。故に、深く、潜りこむ。何か、聞こえる――
「――曹、軍曹、聞いているか?」
 呼び戻される。声が大きい。
 どうやら割と長い時間ぼうっとしてしまっていたらしい。
「御免なさい。聞いてなかったんだよ」
「男ならぶん殴ってる所だぞ貴様」
 こめかみをひきつらせて将校が言った。地だと結構表情が出るのだこの人は。
「データの確保が第一、損害を出す事は出来ない、他の何においても?」
 再び問いかけた。
 すっと男から表情が抜け落ちる。
「他の何においても、だ」
 やはり何も見えなかった。
 彼は、軍人だ。



 費用、リスク、妥協点。
 味方の戦力、敵の戦力、使える時間。
 救いたいもの、救えないもの、救わなければならないもの。
 手に入れたいもの、手に入れられないもの、手に入れなければならないもの。
 火砲の爆裂、炎の空、宇宙に輝く赤い星。




 鋼鉄の弾丸、祈りを、込めて。




「努力は必要、そして続けるべき」
 呟き、鋼鉄の巨人を起動させる。
 諦めない。
――いつかきっと宇宙にも行けるさ。
 昔、誰かが言った。
 その言葉を、信じる。


「作戦を確認します」
 KVに搭乗した傭兵達は無線機から少女の声が響くのを聞いた。ブルーファントムの相良裕子だ。玲率いるチームでよく戦っていた頃より三年。既に十七歳になっている。
「先行KV隊がバグア軍の移送隊を追走、襲撃足止めし、ワーム戦力を撃滅します。後方待機の軍歩兵部隊はその後に前進、敵歩兵の掃討および捕虜達を軍の輸送車に乗せ撤退に移ります。先行KV隊はこれの直衛につき撤退を助けます。輸送車が味方確保領域に辿り着くまでに時がかかりますのでその間に敵側が奪還に追撃部隊を繰り出してくる事が予想されます。燃料や弾薬の関係で先行隊がこれに抗するのは困難です。故に後発の第二陣のKV隊でこれを抑えます」
 少女は言う。
「この作戦の第一目的はハウザー老が残したデータの隠し場所を知る事です。これを第一とします。情報を得た後、敵の攻勢が激しく支え切れないと判断した場合、輸送車はその場に放棄。KV隊及び歩兵隊は撤退に移ります。支えきれない場合、放棄し全隊撤退に移ります。今は戦力が非常に必要とされている時です。損害は極力抑えてください――」
 沈黙。
 少し言い迷うかのような間を開けてから、相良裕子は言った。
「――勝ちましょう。放棄は最後の最後です。奮起を期待します。以上」
 その通信を聞いていた歩兵隊の将校は嘆息して首を振った。放棄は最後の最後では無い! 責任を問われる発言だ。
 将校は無線を毟り取ると言った。
「被害は少なく頼むぞ傭兵ども。俺の首が飛ぶ」
 結局、彼は止めなかった。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD

●リプレイ本文

 出撃前、陣内。
 禍神 滅(gb9271)が自機F‐104改破矢手の点検を行っている。主に見ているのは火器管制回りやモニタ、無線類だ。他のメンバーもそれぞれ自機のチェックに余念がない。
 そんな中、ドッグ・ラブラード(gb2486)は今回の作戦で隊長を務める少女に近づくと何事かを言った。
 相良裕子は点検の手を止めてかくりと小首を傾げた。ドッグが説明をする。
「相良さん‥‥お願いできますか?」
 問いかけると少女は、
「ん、解ったんだよ」
 言ってこくりと頷いたのだった。

●暗黒大陸をゆく
 作戦の確認を終えた隊は捕虜達を救出すべく砂混じりの灼熱の大地を進む。鋼鉄の巨人KVが大地を揺るがし機械化された歩兵隊がそれに続いた。
「改めてよろしく、小さな隊長さん」
 国谷 真彼(ga2331)は無線を開いて相良に言った。
「うん、今回もよろしくなんだよ国谷さん」
 返って来たソプラノの声を聞きながら国谷は思う。少女のまっすぐな幻想は、できるだけ守ってやりたい。だが救いやすい命から助ける。それが今の国谷のやり方だ。今回の作戦、意思は汲むが無視できない物もある。
「ブランドン君も、今回はよろしく頼みますよ」
「ハッ! 国谷真彼か」
 まだ若い男の声が返って来た。国谷は初めその名を聞いた時は驚いた。彼もいるのか、と。しかし国谷の声は穏やかだった。
「こうして並ぶのは初めてか? 安心しな。俺の腕はあの時の連中から聞いてんだろ?」
「初動で君まで回らないよう尽力しますよ」
 バグアに与する者は許さない。しかしここで表に出すことはしない。言っても意味がないし時間の無駄だ。
 金で折り合いがつくならそれでいい。
 ふん、と鼻を鳴らす音が無線機から聞こえた気がした。


「放棄は最後の最後かつ損害は最小限、ですか。いやはや毎度の事ですが、要求水準の高さは相変わらずですな」
 飯島 修司(ga7951)が苦笑して言った。
 サヴィーネ=シュルツ(ga7445)は考える。見捨てるか、助けるか。効率的な思考、情との狭間。割り切れない濁ったものが胸中を通りすぎてゆく。しかし、
「全部やってみようか。駄目だったら駄目だったでその時さ」
 少女はきっぱりと言った。それが結論。場当たりといえば場当たりだが、何事も最初から諦めていては始まらない。切り抜けるには時として柔軟さも必要だ。
「ま、こちらとしてもできれば放棄はしたくないですしね‥‥」
 叢雲(ga2494)が顎に指をあて呟くように言う。
「ああ」
 ウラキ(gb4922)も頷く。彼としては隊長の意を尊重したい。
「完遂できるに越した事はありません」
 鳴神 伊織(ga0421)もまた同意を示した。捕虜の救出、千の人命がかかっている。しくじらない様にしないと、と思う。
「やれるだけ、やりますか」
 叢雲のその言葉に一同は頷くと先へ進んだ。


 一行はやがて荒野を走る車両の列を見つけた。付近にワームらしき影が六、情報通りだ。
「状況を開始します」
 相良が言って紺碧のKM‐S2を加速させる。傭兵達も次々に加速して飛び出してゆく。
 敵は既に接近に気付いていたらしい。指揮官機が号令を発し移送車を一台を除き停車させるとワーム達はその影へと回り込み膝をついて伏せる。ゴーレム等の大きさは八メートル程度、大型車両は四メートル程度。膝をつき頭を低くすれば全ては無理だが身の大半を遮蔽する事が出来る。奴等にとって情報を持つ一名を除き捕虜の命は自らの身よりも優先しない。盾にする。一台のみがさらに後方へと回った。
 距離が詰ってゆく。
 KV隊の先頭を駆けるのは叢雲機CD‐016Gレイヴン。
「隊長、支援砲撃をタロス狙いでお願いします」
 叢雲は無線に言って相対距離一九〇程で煙幕銃を発砲した。了解、との少女の声が返って来ると同時にKM‐S2が空へと跳躍した。発煙弾が四十メートル程飛び、敵と味方の間に炸裂して直径三十メートル程の規模で白煙を発生させる。相対距離一六〇、相良機はタロスを支点に宙で円弧を描くように飛ぶと、角度をつけて射線を通し車両の奥のタロスへと撃ち降ろした。ライフル弾がタロスが翳した盾に激突して火花を散らす。
「速攻勝負! 首を貰う!」
 覚醒したドッグが咆哮をあげた。ブーストを噴出させS‐01HSC‐Garmを高速で走らせる。飯島機F‐108改も加速し並走する。サヴィーネ機、R‐01Eソーロルムが後を追い、鳴神機もゴーレム目がけ駆けた。
 相対距離一五〇、指揮官機と三機のゴーレムが身を起こし煙中のドッグ機と飯島機目がけて肩部の砲を猛烈な勢いで撃ち放った。嵐の砲火。十連の閃光が爆音と共に渦を巻いて飛び二十四連の砲弾が叩き込まれる。
 ドッグ機に十二連の砲弾が迫り来る。距離、煙、ブースト、国谷機のジャミング中和、全てがGarmに味方している。素早く機動して砲弾の群れをかわし盾をかざして爆炎を突き破る。並走する真紅のディアブロもまた十連の閃光と十二連の砲弾を悉くかわす。速い。
「此れより敵に対して砲撃する」
 禍神が言った。両肩部の四基の砲門をゴーレムへと向け、FCSを長距離用に切り替える。ウラキ機もまた前進しながら肩部の砲でゴーレムへ狙いをつけた。
「収束型ジャミング中和装置、起動。――今です」
 国谷が反応しES−008−2の強化型ジャミング集束装置を起動させた。国谷、禍神、ウラキ機の火器管制が常よりもクリアになる。
「実は敵に対して砲撃するのは今日が初めてなんだよなぁ」
 禍神、微妙に不安になる事を言いつつスタビライザーを発動させ敵の上半身を狙い左右の砲を交互に発射。ウラキ、敵の動きの先を読む。曰く、動く敵を狙うから逃げられる。そうでなく、目標の呼吸の一瞬先を探るのが肝要だという。そう、偏差で仕掛けるのは射撃戦では特に重要だ。敵は恐らくは伏せて車両の陰に隠れるだろう――だが、移送車を吹き飛ばす訳にもいかなかった。この状況では解っていても上を狙って撃たざるをえない。
(「‥‥やりづらい」)
 だが遮蔽を取るのは基本といえば基本だ。敵の指揮官もそうボンクラではないらしい。禍神に合わせて砲火を放つ。牽制も込めた支援砲撃。
 激しい振動と轟音と共に両機の肩部砲から砲弾が飛び出してゆく。ゴーレムが赤く輝いた。一発が小盾に、二発目が肩に激突して爆裂を巻き起こし三発目がゴーレムの頭部に炸裂した。しかし破片を撒き散らしつつもゴーレムは移送車の陰に身を伏せ残る四発を回避する。後方の荒野が粉砕され焔が吹き上がった。
 相対距離一四〇、国谷は機体を踏み込ませると別のゴーレムへとレーザーガンで射撃を仕掛けた。ゴーレムは赤光を放ちながら伏せ、三連の閃光が肩に突き刺さり三発が虚空を突き抜けていった。
 サヴィーネ、キャンセラーを発動させたいがまだ射程外。駆けつつ装甲車を狙ってスラスターライフルを発砲。SESの弾丸が分厚い合金をぶち抜き爆発炎上四散させた。脆い。次々と破壊してゆく。
 相対距離一二〇、鳴神機、CD‐016G伊邪那美は盾を片手にリボルバーで牽制射撃を放ちながら荒野を突き進んでゆく。閃光を受けたゴーレムは慌てて身を伏せ、移送車を盾にして射線を切った。
 相対距離一〇〇、二機のタロスが身を起こす。ライフルを構え、煙を抜けたドッグ機へと向けて発砲。赤光と共に十連の閃光がGarmへと襲いかかる。ドッグ機、ブースト機動でスライドしかわす。三条の閃光をかわしきれず装甲が削られる。損傷率一割八分。
 真紅のディアブロが矢のように走った。指揮官機の頭部へ向けて六連の閃光を放つ。指揮官機は身を伏せてかわした。飯島機は並べられた移送車の隙間を抜けると陰に立つ指揮官機へと向き直った。素早く踏み込みハイディフェンダーで斬りかかる。指揮官機は身を起こしつつ大楯をかざす。鋼と鋼が激突し壮絶な衝撃が巻き起こった。ドッグ機もまた移送車の間を抜けタロスへと向かう。
「レイヴン、精密射撃スタンバイ」
 距離七十まで詰めた叢雲機は足を止めるとアハトを構えタロスへと狙いをつけていた。ドッグ機が踏み込む瞬間に閃光を解き放つ。タロスは咄嗟に盾をかざし閃光を受け止める。
「テメェは、俺だけ見てりゃいいんだよぉ!!」
 ドッグが吼え機杖を旋回させた。ブレス・ノウを発動。タロスの頭部を狙って振り下ろし、薙ぎ払う。初撃が狙い違わず命中して破片が散り、二撃目が盾と激突して轟音を撒き散らした。瞬後、叢雲機から放たれた猛烈な荷電粒子の渦がタロスの上半身を呑み込み装甲を吹き飛ばしてゆく。
 サヴィーネ機、ロックオンキャンセラーを発動、半径百メートル以内の重力波が乱れてゆく。重力波に頼るワームに対しては極めて有効な妨害波だ。Sライフルで弾丸の雨を飛ばし、残った二両の装甲車も破壊する。
 鳴神機、リボルバーで一撃を放ち移送車の壁を抜ける。ゴーレム、身を沈めて銃撃をかわすと接近してきた鳴神機へ斬りかかった。鳴神機はブーストを発動させ盾を翳して受け止める。後退しながらリボルバーを納め、美しい刃紋を持った太刀を抜き放つ。PBMSを発動、攻撃増幅。ゴーレムが地を揺るがして踏み込む。烈閃。鳴神機は前に出つつ盾で剣をいなし、ゴーレムの踏み込み足を脚甲で蹴り抜いた。足を払われゴーレムの身が傾斜する。鳴神機は間髪入れず頭部めがけて太刀を振るう。ゴーレムは赤光を纏い慣性を制御して傾斜したままの態勢で太刀を受け止めた。鳴神機、態勢は有利、パワーを全開にして押し切る。ゴーレムの身が半回転して大地に叩きつけられた。
 指揮官機タロスが激しく赤く輝いた。爆槍を流星の如くに飯島機へと繰り出す。飯島機はブーストを継続しつつ猛烈な爆炎を撒き散らす穂先を剣で止めて、止めて、止めて、止める。カウンター、牽制するようにレーザーを放ち、剣で払う。指揮官機が大楯をかざしつつ下がる。飯島機、無理はしない。間合いを計る。
『ハッ! 随分と臆病者のようだな!』
 指揮官機が鋭く爆槍を繰り出しながら外部スピーカーで声を発する。
『臆病な方が生き残れますので』
 壮絶な破壊力を秘めた爆槍を剣でいなしつつ飯島。挑発には乗らない。が、後背からフリーのタロスが長剣を手に忍び寄っている。
 叢雲が見ていた。飯島へと注意の声を発しつつタロスの鼻先へとアハトを叩き込む。タロスが振り向きざま盾をかざして閃光を止め。その間に飯島機が横に退がって向き直る。閃光を凌いだタロスが踏み込み剣を振るう。飯島機は一歩後退してかわす。元々運動性が極めて高い上にサヴィーネ機や国谷機の支援もある。不意打ちでもされなければ喰らわない。左右から指揮官機とタロスが迫り猛然と剣と爆槍を繰り出す。真紅のディアブロは後退しながら捌く。抜群の安定感。強い。
「味方と敵との位置距離風向よし、モニターはブレるけど問題なし」
 お腹の辺りにズゥンとくるなぁ、などと呟きつつ禍神は砲撃を継続中。国谷も中和を強化しつつレーザーで頭を抑えんと射撃する。二機のゴーレムは砲火を伏せてかわす。後、弾が切れたのか車両の陰から飛び出し剣を手に高速で弧を描くように向かって来た。ウラキはバルカンで迎撃する。小盾の間を縫って当て、間髪入れずにリニア砲を叩き込む。爆発が巻き起こる。ゴーレムは小盾で受けている。態勢は多少崩れているが――距離がある。ブーストしても懐に入る前に立て直されそうだ。リロードしつつ相手の横を取るように一定の距離を保つ。十字砲火のライン。
 タロスと打ち合うドッグ機、態勢を崩しわざと隙を作って見せる。タロスは猛然と踏み込みドッグ機の頭部目がけて落雷の如く剣を打ち降ろした。刃がS‐01HSCの肩口に深く喰い込み激しく漏電を巻き起こす。痛烈な一撃。損傷率が一気に七割まで跳ね上がる。
『あんたの為に泣いてやるぜ‥‥だから‥‥とっとと落ちなぁ!』
 ドッグは言ってブースト、ブレス・ノウ、アグレッシヴ・ファングを併発させる。機杖を滑らせ短く握ると近距離から敵の盾を打ち払う。同時、盾の陰に隠し持っていた機針ラムセスを体当たりするようにして至近距離から突き出す――入った。超音波震動が発生し鳴くような金属の悲鳴が響き渡り破壊を撒き散らす。さらに追撃の機杖――振るう前にタロスが猛然と赤く輝く、間に合わない。ドッグは機体能力を全開にしてタロスを蹴って突き飛ばしながら反動で離れる。タロスと移送車との間の距離が空いた。
(「エースの姉ちゃん、頼んだぜ‥‥!」)
 連携は出陣前に打ち合わせてある。
 天空から六発の砲弾がタロスへと降り注ぎ猛烈な大爆発が巻き起こった。タロスがゆっくりと倒れてゆく、撃破。
 鳴神機は地面に打ち倒したゴーレムへと太刀を鋭く突き降ろす。首の装甲を貫き大地と縫いつける。掻きまわして引き抜いた。漏電と共に爆発が巻き起こりその瞳から光が消える。撃破。
「流れはこっちだ、押せるぞ!」
 サヴィーネはキャンセラーを一旦切ると円弧を描くように機動しながらゴーレムへとSライフルで弾幕を張る。ウラキ機はサヴィーネ機の弾幕を回避しているゴーレムへと狙いをつける。敵機の回避可能スペース、制限を受けている。読むのは容易い。ブーストを発動させバルカンを放ちつつ距離を詰めつつリニア砲を叩き込む。砲弾が炸裂して爆炎が巻き起こった。踏み込む。ゴーレムが態勢を崩しながらもカウンターの斬撃を放つ。狙いはコクピット。盾をかざす。鋼と鋼が激突し火花を散らしながら滑って抜けてゆく。距離が詰る。ナイフの間合い。一閃。超振動の刃が隙間に滑り込んだ。捻り、掻きまわし、薙ぎ斬る。
「―――感触有り‥‥入った」
 男の呟きと共に、ゴーレムの瞳から光が消え大地に崩れ落ちる。撃破。
 国谷機がもう一機のゴーレムへと閃光を連射し、禍神機が四つの肩部砲で爆炎を叩き込む。そちらのゴーレムも焔の中に散った。
 ドッグ機は飯島機の加勢へと走り、反撃に転じた飯島機は叢雲機の援護を受けつつロンゴミニアトを繰り出して七連爆裂、タロスを爆砕四散炎上させて消し飛ばした。天地を揺るがす破壊力。
 劣勢を悟ったのか、離れていた一台の移送車が離脱を開始したが、相良機の砲撃によって進路に大穴を開けられ、それでも迂回して逃げようとした所を鳴神機にブーストで回り込まれ、抵抗を諦めて停車した。
 ただ一機残った指揮官機は爆槍を振り回して抗したが、やがて四方からの集中攻撃を受け荒野に消えたのだった。


 かくて、ワーム隊は殲滅され、戦意を失った親バグア兵は投降した。
「バグアに与する者は許さない。それは変わりませんよ」
 敵味方の負傷者を手当てしながら国谷真彼はそう言った。歩兵隊によって親バグア兵は拘束され、移送車の捕虜達も人類側の車両へと乗り換えられ撤収に移る事になった。
「‥‥意外に、なんとかなりそうだな?」
 サヴィーネが言った。
 ここまでの所は大破零、被害は最小限と言って良いだろう。


 あとは、空にかかっていた。