タイトル:【BI】ポルバンダル戦央マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/06 20:01

●オープニング本文


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 昼。休憩中の部隊。
「東京解放作戦発動かー、行きたいけれど、まずは担当をしっかりやらないと、だしね。私は行けそうにないなぁ」
 戦車の上に座り、野戦食を齧って残念そうに金髪碧眼の女が呟いた。バーブル師団の歩兵大隊を指揮するアラサーな女少佐、ディアドラ=マクワリスだ。元は東京の大学で考古学者を学んでいたという娘だったが、戦火により同地を追われてからは軍隊に入ったという。
「ディアドラ」
 ヘルメットを被り小銃を担いだ青年が言った。
「ん、なんだいヤマト君ー」
「貴女は東京に在った場所を求めて、そこに帰りたくて銃を取ったって前に言ったよね。それが貴女の目的なら、本当に行かなくて良いのか?」
 青年がそう言うと女は固まった。
「貴女は功績は十分立ててるだろう。それだけやってるんだから師団長だって多少の融通は効かせてくれるんじゃないかい?」
「ヤマト君」
 女少佐は柔らかく微笑すると言った。
「有難う。でも公私は混同すべきではないよ」
 青年はその言葉に見据え返すと言った。
「戦う意味の問題だ」
「でも、それなら、私には責任がある。人が余ってるなら良いさ。でも私ごときが少佐をやっているんだ。何処も指揮官は不足しているのだろう。ほとんどは皆、十分な経験を積む前に途中で死んでしまうか、積んでからでも死んでしまうから。あの村上センセーでさえお亡くなりになられてしまった。入れ替わりの激しいお仕事さ。私と同期だった士官達も随分と顔ぶれが減ってしまった。自分達は消耗品なのだと偶に思う。私が生き延びているのは、多分運が良いからだ。でも運もあるけど、それだけじゃない。私が生きてるのは、皆のおかげだろう」
 女は言う。
「東京は、夢さ。私が帰りたがった場所は、夢だろう。きっともう世界の何処にもありはしない。夢と云うのは、そういうものだ。最近、気づいた。いや、認めた。本当はとっくに解ってた。かけがえのない物はもう二度とは戻らない。昔、偶に何かが間違ってるような気がしていたのは、既に取り戻せないものを取り戻そうとして、若かった私は銃を取ったからだと、心のどこかでは気づいていたからだ」
「‥‥ディアドラ、疲れてる?」
「少しね」
 と壮年の女は笑った。
「昔なぁ、ある人にヤマト君、君達やその人達と共に戦ったのは間違いだったと思うか? と、尋ねられた事がある。その時はその時なりに答えを出したつもりだったけど、やっぱり同じ答えではあるけれど、やはり改めて思うのだよ。私が今やるべき事は、この隊の皆を、全ては無理でもより多くが、生きられるように手助けする事だってさ。私の守るべきものはここだ。夢の欠片を手に入れれば、そこからまた何かを育てられるかもしれない。でも、今抱えている責任まで放り投げて飛び出したくはないんだ」
 ディアドラはそう言った。
「やっぱり、貴女は、僕とは違うね」
「君は昔の私のようだ、と言うとどっかの物語にありそうな気がするが、君は昔の私とも違うなぁ」
 女は頷いた。かつて少年だった青年は夢を追い全てをぶん投げて駆け出したが、女はそういうやり方はしなかった。
「私の守るべきものはここだ。正直、疲れてはいる。多分、私は、もっとささやかな物を守って生きたがってる。田舎で綺麗な花でも育てながら、雨が降ったら本でも読んで、のんびりゆったりほのぼのと優しく生きていたい。だが、そうしたい人達の生活を守る為に剣と盾の意味はあるのだと思う。そして、私達UPCは人類の盾だ。だから、もうちょっと頑張ってみようと思う。だから、東京にはゆかない」
「‥‥そうか」
「御免な、辛気臭い話をしてしまった」
 女の言葉にいや、と青年は一言呟いて首を振ったのだった。


 ギラギラと輝く灼熱の太陽、黄塵吹きすさぶ荒野の果ての果て。
 インドが北西部、クジャラート州に属するステップ気候のその半島、広大な荒野が続くその大地を千の兵団が動いていた。
 ベラバルは二月にディアドラ大隊に拠って陥落させられ、ジュナガドとドラジもまた他部隊によって陥落させられている。
 半島の戦線は徐々に半島の北西部へと狭められてゆき。ディアドラ大隊は沿岸部の小さな街を陥落させながら北上していった。
 半島のバグア軍は小さな街では交戦せずに守備隊を次々に撤退させていたが、ポルバンダルの南東の河にかかる二本の橋を落とすとその岸に兵を集めた。ジュナガドが陥落した為、突出した形になっていたが、これ以上退がっては逆に凹む為、だろうか、これ以上先へ進ませる気はないようだ。
「どうせなら街まで後退してくれれば逆に面倒がないものを」
 司令部はそんな悪態をついていたが、元より敵がそう出て来るのは予測されていた事だったのか、適度な距離を置いて北上を開始した。
 水が大きく集まる箇所を避けて反時計周りに回り込み、北東からポルバンダルへと迫る。親バグア側はやはり退く気はないらしく戦列を敷いた。
「さて、毎度お馴染み野戦の時間だ。あちらさんもそろそろ後が無い。今まで以上に気を引き締めてくれ」
 女少佐が軍帽を被りなおし戦車の中に入って無線に言った。
 ディアドラ大隊は歩兵およそ千二百名を主力に、攻撃ヘリ、自走砲、戦車と揃え、空軍からのKV隊の支援を受ける、さながらミニ混成旅団といった編成だ。
 対するバグア側は六百程の小型キメラを主力に一千程の歩兵を援護につけ、攻撃ヘリ、自走砲、戦車、空陸のHWを多数揃えていた。
「こいつぁちょっと、洒落になっていない戦力比な気がするのは気のせいか!」
 若いエクセレンター――山門浩志が呟いた。今回ばかりは楽勝とはいかないような気がする。
 砂塵の立ちこめる地平線、親バグアの兵団とキメラの部隊が進撃し、UPCの混成隊と能力者が前進する。
 蒼空をKVが舞い、迎え撃つようにHWが赤く輝き爆風を巻き起こしながら交差する。地上をゆく自走砲や戦車の砲が焔を吹き地平を薙ぎ払ってゆく。砲弾が爆裂し、親バグアの砲が爆裂して四散する。
 戦いが、始まった。

●参加者一覧

叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
旭(ga6764
26歳・♂・AA
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
天宮(gb4665
22歳・♂・HD
鹿島 灯華(gc1067
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

 昼時。
「なあディアドラ‥‥ああ、先に謝っとくわ、今のヤマトとの話、聞いちまった」
 戦車の陰、アッシュ・リーゲン(ga3804)は女少佐へとそう言った。
「そうか‥‥いや、こちらこそ勝手に持ち出してすまなかった」
 ディアドラは少しバツが悪そうに笑ってそう答えた。
「‥‥疲れてるってんなら無理に一人で背負おうとすんなよ? 何時だって手伝いに来るからな」
「うん‥‥有難う」
「それにだ、確かに夢は必ず醒めちまうが、また別の夢を見る事だって出来る。穏やかな生活が叶う日が来るかも知れないんだ、一つくらい願い事があってもバチは当たらないと思うぜ?」
「そうかなぁ‥‥そういうものだろうか‥‥そうか、少し考えてみるよ。この戦いが終わったら」
 金髪の女は薄く蒼い空へと視線を移し、ぼんやりと眺めながらそう呟いた。
 他方、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)はヤマトと談笑していた。藍紗、ぱっと見では十三歳程度にしか見えないのでヤマトは子供に懐かれたとでも認識しているようだ。
 なお少しメタな話だが質問卓でのやりとりはリプ中には反映されないのでそれを土台とした行動は不可能である。具体的に言うなら藍紗の所持品にミネラルウォーターは無いので物資の受け渡しは行われていない。
「うん、暑いからね、君も気をつけなよ」
「ありがとうじゃ、『お兄ちゃん』」
 くすくすと無邪気に笑って言う。とりあえず実年齢を伏せる方向で会話しているようだ。会話を終えてから別れるとそれをなんともなしに眺めていた自班のDFが言った。
「‥‥あんた、確か実年齢あいつより年う――」
 それに対し藍紗は口元に一本、ぴんと伸ばした人差しを立てると、
「まだ、秘密じゃ」
 いたずらっぽく片目を瞑って笑ったのだった。


 出陣前。
「まあ、今回はよろしく。一応、分隊指揮には慣れてる。傭兵になってからは小隊長だった事もある」
 クラーク・エアハルト(ga4961)は部隊の再編成が完了した時、自班のメンバーへとそう言葉をかけた。
「聞いた事ある名前だな。西側の空挺師団出身の傭兵だろう。この半島の戦いでも大分活躍しているらしいな」
 クラークは能力者となってからも古参の部類に入る、歴戦だ。北アフリカ侵攻作戦では鉄の勲章も授与されている。
「そうか」
 何はともかく、無事に帰還したいものだ、と男は思っていた。班長になった以上は班員に責任がある。
(必ず連れ帰る。それが自分の責任だ)
 そんな思いと共に言う。
「無理はせず、生き残ることを考えればよい。死ぬ事よりも生き残る事の方が難しい」
「了解。あんたの指揮下なら生きて帰れそうだ、よろしく頼む」
 男の言葉にそれぞれ了解の声が返って来た。皆傭兵だ、その辺りは弁えているらしい。
「今回、諸君らを率いる藍紗じゃ。傭兵らしい自由な連携を期待する」
 藍紗は自班のメンバーへとそう挨拶をしていた。
「勲章取ってるって事は見かけによらずかなりやるのかい、お嬢ちゃん」
 大剣を担いだ男が鋭い眼光を向けて言った。
「いや、勲章一つあるだけで我はそんな大層な者ではない。泥臭くただ壁を打破るストライカーじゃよ」
 少女は言う。
「我の号令は二つ、『散』と『撃』じゃこれだけ覚えればよい」
「――なるほど、シンプルってのは良い。特に即席の場合はな。上手く使ってくれ」
 説明を受けたメンバー達からはそう言葉が返ってきた。
 天宮(gb4665)もまた班長となるからには、自分の指揮下のメンバーの性格をできるだけ正確に把握しておきたいと思い、それとなく観察しておく。
 やがて軍はポルバンダルへと発った。


 荒野。天地にHWが踊りキメラが溢れる。鋼鉄の翼が空を翔け、轟く爆音が業火を謳う戦場。
「あらら、本気の戦力投入ですねぇ」
 リュドレイク(ga8720)が呟いた。敵の大戦力にも最早慣れたものだ。
「やれやれ‥‥あっちでもこっちでもHWとはねぇ」
 叢雲(ga2494)は敵勢へと視線をやり呟いた。
(しかも以前のものとほぼ同型? 芸のないことですね)
 HWらしく量産型らしい。性能に差はあるだろうが、基本は把握している。その知識を上手く使えばかなり有利に戦える筈だ。
「なかなか数だけは多いようですね」
 天宮がアナライザーを起動させながら言った。
「そうだね、キメラの数は多いけど‥‥悲観するほどじゃないかな。一人で突っ込むわけじゃないし。ともかく、みんなで生きて帰ろう」
 旭(ga6764)が言った。
「ま、全力で頑張りましょう。次はゴーレムとか来そうで物凄ぉく嫌ですけど」
 とリュドレイク。あれは空を飛ぶ。もし歩兵だけで、となったら一筋縄ではいかなさそうである。
 叢雲は共にHWを担当するイルファ(gc1067)や各メンバーへとその特性を伝えておく。
(昔であれば、命を捨ててでも‥‥と言えたのですが、それでは駄目だと、言われたばかりですしね)
 イルファは胸中で呟いた。
 然し戦った上で無事で居ろとは、鹿島様も随分と難題を、と思う。
(とは言え‥‥私の為、なのですよね)
 ちらりと赤髪の女へと視線をやる。
 鹿島 綾(gb4549)はその視線に気づいたらしくイルファへと振り向き、眼があった。
「中央が瓦解したら、左右に分断されて終了だ。踏ん張るぞ」
 鹿島はそう言った。突き抜けて分断した後は包囲殲滅、定石の一つだ。
「ここが分水領、ですね。負けられませんか‥‥」
「ああ。但し、無茶はするな。もし、したら‥‥分かってるよな?」
 何かあるらしい。
「‥‥わ、分っています‥‥この間もした問答、でしょう?」
 少しどもり気味にイルファは答えた。
 他方、
「‥‥凄い数だな。何時もの事だけど‥‥」
 皐月・B・マイア(ga5514)がぽつりと呟いた。
「‥‥運が良い、か」
「何の話だい?」
「いや。ヤマト‥‥ほら、いつもの」
 光線銃を差し出してマイアが言った。
「私の命、お前に預ける。貸したまま、勝手に死ぬんじゃないぞ」
 青年は銃を受け取り、
「確かに、お預かりする。うん、ちゃんと返すさ、きっとね」
 と笑った。
「その為にもマイア、今回の編成だと範囲で止める方法が無いから大量の敵の突撃は止められない。まともにぶつかれば十割囲まれる。足で振り回せるような状況でもない。だからまず囲まれるものとし、その時は円陣組んで戦うと思う」
「解った。生きよう。皆で‥‥いくぞ。頼りにしてるぞ、班長!」
 マイアがそう言うと青年は「ああ」と頷いてみせた。
 他方、
「モロに攻撃喰らうより少しはマシだろうからな」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)はSTへダンタリオンとナイトシールドを渡しておいた。STは2人1組で生存を最優先行動として動く予定である。
「まあとにかく死なない様に頼むぜ?」
 その言葉にST達は頷く。
「アッシュさん、そっちは任せます」
 クラークが砲撃型のHWを指して言った。自身の班はドリル型を狙うようだ。
「大砲を抑えれば良いのだろう? 了解」
 アッシュはそう無線に言葉を返す。
「さて、行こうかみんな」
 旭がそうメンバーへと言った。
「HWの相手は他にやってくれる人がいるようだから主な相手はキメラだ。数が多いから油断しないで行こう」
 敵勢が迫り、中央の傭兵隊に前進命令が出て、一同は爆火が咲き乱れる荒野へと駆け出してゆく。
 両軍の前衛部隊が前進し、やがて激突した。


 敵の布陣、キメラ二〇〇を後方に置きその前列にHW四機を等間隔で並べて突撃して来ている。
 キメラの群れはばらばらと三ないし四列程度の不揃いな横列で武器を振り上げて突撃中。互いの横の間隔もまた三から四m程度、武器を振り回しても当たらない範囲。一列におよそ六十匹程度でおよそ二百mの範囲に散らばっている。キメラの壁だ。
 その前方に向かって左から見て剣豪型、砲撃型、ドリル型、機銃型が互いに40m程度の間隔を空け、キメラの群れより10m程度先を浮遊して高速で迫って来ている。
「此れより叢雲様の隊と共闘します‥‥手筈通りに、恐れる事は有りません‥‥」
 イルファは駆けつつ無線に向かってそう呟いた。
 中央左端、叢雲班は班長自身と大剣を担いだDF二名と白衣姿のST二名の五名編成。剣豪型を狙って駆けている。同じく剣豪型を狙うイルファ班も同様の編成だ。
 アッシュ班のも班長他はDF二名とST二名の編成。傭兵達から見て剣豪型の右隣を漂う大砲型HWを的と定めている。班長のアッシュを先頭として前進中だ。アッシュ班と同じく大砲型を目がけて駆ける藍紗班も自身を先頭に左右に男女の大剣遣いを配し、その後方に二名の科学者をおいている。
(ジャイアントキリングは男の浪漫‥‥ってか?)
 クラーク、駆けつつ思う。クラーク班の編成は自身の他はDF二名、ST一名、SN一名だ。大砲型の右を漂うドリル型HWを狙う。ドリル型へはもう一班向かっていて、リュドレイク班がそれだ。リュドレイク他、大剣使いを三名に科学者一名の編成。先頭を班長のリュドレイクが駆け、クラーク班と左右に散って進んでいる。
 そのドリル型の右、キメラの最左翼を浮遊しているのが機銃型のHWだ。そちらへは鹿島班が向かっている。班長の鹿島とST、DFとSTという組みを作り、その後方からSNが支援する形だ。
 旭班、天宮班、マイアが所属するヤマト班はやや後方からキメラを狙って進んでいる。
 旭班の班員はSN二名にDF、STという編成。天宮班はDF三名、ST一名だ。ヤマト班はマイア他、DF二名、ST一名、といった編成である。
 それぞれ剣豪型と砲撃型の間、砲撃型とドリル型の間、ドリル型と機銃型の間を抜けんとする形でキメラの群れを目指す。
 距離が詰まってゆく。まず最初に動いたのは大砲型だった。大口径の砲より焔が噴出し巨大な鋼の砲弾が飛び出した。標的はアッシュ・リーゲン。
 砲弾が爆風を巻き起こし極超音速を超えてアッシュへと迫る。警戒していたアッシュは咄嗟に反応して盾を掲げながら右へ飛び退いたが、かわしきれず身の半分を抉るように迫り間に入れた盾と激突した。火花が散り、轟音が鳴り響き、男の身が駒のように回転しながら吹き飛んで地に落ち、砲弾が大地を撃ち砕いて盛大に土砂を巻き上げる。凄まじい破壊力。
(流石にKVとやりあうだけはあるな)
 吹っ飛んだアッシュは荒野を数度転がってからその勢いで起き上がりつつ胸中で呟く。歩兵で相手取るにはきつい相手だ。その間に大砲型HWは標的を藍紗へと移している。
「散れ!」
 藍紗が声をあげるとほぼ同時、唸りをあげて砲弾が迫り、女の身へと直撃した。AU‐KVの装甲を破砕しながら凶悪な衝撃力を解き放ち藍紗の身を木の葉の如くに吹き飛ばしてゆく。藍紗班のDF達が横に広がり大砲型HWはアッシュ班のDFの一人へと砲弾を直撃させて吹き飛ばし、もう一人へも砲弾を撃ち込んで吹き飛ばした。両ST達が練成治療を発動させている。
 アッシュは緑色の小銃を構え強弾撃と影撃ちを発動、大砲型の砲口を狙って発砲した。HWは赤輝を纏ってスライドしライフル弾をかわす。速い。的をHWの中央へと移して射撃してゆく。銃弾がHWの装甲に命中して火花を巻き起こした。
 アッシュ班と藍紗班のDF達が大砲型HWへと放物線を描くように広がりまた収束するように弧を描いて突撃してゆく。藍紗は射程に入ると「撃」の号令を発し扇嵐を翳して竜巻を巻き起こした。同時に装輪走行で加速する。
 左右からのDF達の剣閃に対しHWは後退し藍紗はファングバックルを発動させて跳躍すると砲身目がけて薙刀を振り降ろした。刃が大砲に当たって火花を散らす。
 傭兵達から見て中央の右端、機銃型HWは銃口を鹿島へと向けると弾幕を解き放った。ペットボトルサイズの銃弾が嵐の如くに鹿島へと襲いかかる。鹿島は槍を立てて防御を固め、片方の槍を地へと突き刺す。弾丸が次々に鹿島の身に直撃し、圧倒的な衝撃の連打の前に鹿島の身が揺らぐ。だが、大地に突き刺した槍を杖にして踏ん張り転倒を避けた。
 鹿島が耐えている間にDFが進み機銃型はDFへと銃口を向け蜂の巣にして打ち倒した。鹿島が全力で駆け、STはDFへと治療を連打する。
 鹿島は機銃型HWへと素早く接近すると天地撃を発動、そのアームを目がけて天槍ガブリエルを振り上げた。次の瞬間、鋼と鋼が激突して壮絶な衝撃が炸裂し、HWの超巨大なアームが長身の女のただの一撃で空へと勢い良く跳ね上がる。強烈なパワーだ。
「仲間が待っているんでね? 速攻でスクラップにさせて貰う!」
 女は練力を全開にすると残像を発生させながら猛連撃を仕掛けた。槍が唸りHWの装甲を轟音と共に猛烈な速度で削り斬ってゆく。さらに起き上がったDFが駆けて来て鹿島が切り裂いた装甲の避け目へと大剣を突きこんで追撃を与えた。
 他方、叢雲はDF等と共に剣豪型へと突撃すると十字架銃を向け近距離から猛射、弾丸をHWへと次々に叩き込んで火花を巻き起こしてゆく。剣豪型HWが叢雲へと迫り極大の光線剣を振り降ろし、命中するかに見えた瞬間に男の姿が掻き消えた。瞬天速だ。
「なんだ、前より遅いじゃないですか」
 そんな呟きを洩らしつつ離れた位置に男が出現する。既に十字架銃の銃口を向けている。弾丸が飛び出しHWの装甲を穿った。
 叢雲の感覚的には九州で戦ったHWと比較すれば敵機の性能はかなり低そうだ。あちらは超改造だったがこちらはそこまでではない。
 だがそれでも歩兵にとって凄まじい脅威である事に変わりはなく、対HWだけに集中して上質な作戦を立てられていたあの戦場とは状況も違う。
 HWへと斬りかかった叢雲隊のDF二名がカウンターの光線剣に斬り裂かれ、DF達が後退し、ST達が練成治療を発動させた。すかさず逆サイドからイルファがガトリングシールドでHWへと射撃を仕掛け、二名のDFがSTが発生させる電磁嵐に合わせて突撃し大剣を振るった。HWは振り向きざまに光線剣を振るってイルファ班のDFを切り裂き、イルファが「一旦、退きますよ!」と声をあげ、イルファ班のDFが治療を受けながら後退、すかさず叢雲班が突撃して弾丸と剣撃を叩き込んでゆき、HWが叢雲隊へと振り向く。両班で入れ替わりスイッチしながらダメージを分散させて戦う作戦のようだ。HWは叢雲隊とイルファ隊の動きにくるくると振り回されてゆく。交戦経験が生きたか、かなり優勢だ。
 他方、ドリル型へと向かうクラーク班とリュドレイク班。スナイパーがドリル型へと射撃を開始していた。
「さあ、大物狩りと行きますか」
 クラークはドリル型の注意を惹くべく至近距離まで前進すると大口径のガトリング砲を向けた。部位狙いを発動しアームの接続部分を狙って猛射する。多身の砲が回転し猛烈なマズルフラッシュと共に嵐の如く弾丸をHWへと叩き込んでゆく。
 ドリル型HWが強烈な銃撃に装甲を穿たれながらも突進しクラークへとその巨大なドリルを繰り出す。クラークは咄嗟に回避せんとしたが、相手が速く、大きい。避けられない。
 回転する螺旋の切っ先が男を捉え、その装甲を抉って突き抜け、クラークの身をぶち抜いて貫き通した。赤い色が周囲に撒き散らされる。DF達が大剣を振りかざして斬りかかってゆく。
 リュドレイクはHWの横手に回ると両断剣を発動、三人のDF達とタイミングを合わせ連続して波状的に斬りかかった。リュドレイクの太刀が炸裂してHWの装甲が削られ、DF達の大剣が次々にHWへと叩き込まれる。HWはドリルを横に振るってクラークを荒野に投げ飛ばしリュドレイクへと猛然とドリルを繰り出した。男はそれに即応すると回避専念に切り替えた。意識を防御のみに集中させて素早く飛び退き、巨大な螺旋の切っ先を回避する。その間に荒野に転がったクラークへとST達から練成治療が連打されて飛び男の傷が塞がっていった。
 他方、ヤマト班はHWの脇から抜けて来るキメラの群れへと向かっていた。
「数ばかりは多いな! くらえ!」
 マイアは杖を振りかざし掲げるとその先から電磁波を撃ち放った。眩い光が二連に飛び、狼人型のキメラに炸裂して焼き焦がした。狼人が焼き焦がされて絶命し倒れる。ヤマトもまた光線銃を猛射してキメラを撃ち抜いた。
 しかし、キメラの数は大量である。
「来るぞ!」
 津波のように迫り来るキメラの群れに対して男の声が響き、マイアは杖を納めて氷霧の剣を抜き放った。自身障壁を発動、突っ込んで来た豚鬼の戦斧を盾で受け止め、赤鬼から突き込まれた槍を剣で払いのける。マイアの左ではDFの女がキメラ達に対して大剣を振り回し、右ではヤマトが左にアーミーナイフを構えて受け右の光線銃で反撃している。背後ではDFの男が剣を振るいSTが超機械を構えて治療を発動させて耐えていた。円陣を組んで周囲を取り囲んだキメラの群れに対抗している。
 背中は味方が守ってくれているので一人で囲まれるよりは随分とマシだが、五対六十以上だ。幾重にも囲まれている。キメラ達は数に任せて武器を振り上げて連打を開始する。
「こんな所でっ‥‥死ぬんじゃないぞ!」
 マイアは盾を振り上げて斧を押し返すと氷霧の剣を振るって豚鬼を斬り倒した。攻防が進み班全体で二十体あまりのキメラを撃破したが、包囲の外縁に位置し攻撃に参加出来ないキメラ達が他へと向かって流れ始めていた。
 他方、天宮班は迫り来るキメラの戦列に対し迎え撃つのではなく突撃を仕掛けていた。班を突撃する三名と残る二名に分け、突撃する三名は攻撃しながらキメラの戦列を突き破って後方へ抜ける腹である。
 天宮は荒野を駆けながら猛火の赤龍を発動、竜の紋章を輝かせて己の力と精度を増大させる。武器を振り上げて迫り来るキメラの戦列に対し大鎌をコンパクトに一閃させた。突撃の勢いが乗った鎌が唸りをあげて奔り、豚鬼の身を切り裂いて一撃の元に斬り倒した。血飛沫を吹き上げながら倒れる豚鬼を蹴散らし、その奥から太刀を持った狼人が出現、天宮は踏み込み再び鎌を一閃させた狼人の身を切り裂いた。狼人の身から血飛沫が噴き上がり、しかし、突進の勢いは二発目は減じていたか狼人は倒れずに踏ん張り天宮へと太刀を振るった。太刀がAU‐KVのショルダーに激突するも天宮は足を止める事なくそのまま駆け、狼人と身が激突した。パワーに任せて押し切り狼人が吹っ飛んで荒野に転がる。左右に立つキメラ達からも太刀と斧が天宮へと振るわれたが男はそれでも止まらず火花を巻き起こして突き進み、狼人の奥からさらに槍を持った赤鬼が正面に立ち穂先を突き込まれつつも、大鎌を一閃させて赤鬼を切り裂き、血飛沫を噴出させつつぶちかましを仕掛けて吹き飛ばし強引に後方へと突破した。
 天宮の背へキメラ達が振り返り追いすがって武器を振るったが、天宮の方が速い、背中への追撃を数発受けたが転倒せずに耐え、武器の届かぬ位置まで出た後はみるみるうちに間の距離を引き離してゆく。
 しかし班長の天宮は突破を成功させたが、両断剣を発動させて突撃を仕掛けたDF達は、大剣を振るってキメラを二匹程斬り倒したものの、前進するもキメラの身に激突して前進を阻まれ、キメラの群れに瞬く間に左右から押し包まれた。その様子を見て突撃を仕掛けなかったDFとSTが背後を守るべく援護に向かうが、キメラの数は突撃した二名を囲んでも有り余る。包み込むようにわらわらと集まって来て、やがて援護に入った残りのDFとSTも掴まえて取り囲み、武器を振り上げ乱打して袋叩きにし始めた。
 危険な状態にあるが付近のキメラを余さず引きつける事には成功している。鹿島班のSNが銃撃を加えて援護しキメラを二体撃ち殺した。
 旭班は突出したキメラを叩かんとし、班長の旭は囲まれないように立ち回らんとしていたが、総勢二百匹のキメラが一斉に突撃し、うち六十数匹が旭班目がけて突っ込んで来ている訳で、数を減らすべく二名のSNには射撃を指示し、SMGの猛射を以って四匹あまりを撃ち殺していたが、これに囲まれないように立ち回るには接近戦を主力とする以上は非常に困難な事と思われた。
 これに対し旭は自らは殿に残り、他のメンバーは斜め後方へと後退させた。両刃の大剣一本を構え、ただ一人、幾重にも包みこまんと迫る六〇を超えるキメラの群れを待ち受ける。
「まとめて吹き飛べっ!」
 男は練力を全開に解き放つとキメラの群れへと踏み込み聖剣デュランダルを荒野へと叩きつけるように振り下ろした。
 瞬間、男を中心に壮絶な衝撃波が発生し、大地を爆砕しながら十字の形に走り抜けてゆく。十字撃だ。およそ五百平方メートルを薙ぎ払った衝撃波は、旭目がけて突撃してきていたキメラ達を一撃で押し潰し、赤い色をぶちまけさせながら吹き飛ばした。その数およそ五十匹。一撃の元に一瞬で死の華が咲き乱れ、荒野が瞬く間に赤く染まった。圧倒的な制圧力。
 端に居た為に衝撃波に呑まれなかった十匹あまりのキメラが旭へと突撃し、男は同時に飛びかかって来た三体のキメラに対し円閃を発動、1.8mの長大さを誇る銀の聖剣デュランダルを竜巻の如くに振るった。刃が鋭く唸りをあげて炸裂し、その切れ味とパワーに物を言わせて泥のように一匹のキメラの胴を両断し二匹目も真っ二つにし、三匹目のキメラの肋骨を圧し折りながら吹き飛ばす。三体撃破。さらに奥から突っ込んで来た豚鬼の斧をかわしざまに一撃で斬り捨て、引き返して来たSTとDF達が電磁波を巻き起こし、大剣を振るって突撃し六体あまりを打ち倒して全滅させた。
 アッシュは強弾撃を発動しWI‐01小銃で発砲してライフル弾を大砲型のHWへと中ててゆき、それと連携して二人のDFが突撃し剣を振るった。
 藍紗班のメンバーはHWを半包囲するように三方から囲み攻撃を仕掛けてゆく。
 対するHWは慣性制御で機動して藍紗やDFからの攻撃をかわすと同時に体当たりで吹き飛ばしたり伏せさせるなりしつつ、大砲で砲撃して吹き飛ばした。
 かなりの被害が発生したが両班併せて四名のSTがおり、彼等が練成治療に専念して支えた。
 機銃型と格闘する鹿島は流し斬りを発動させて向けられる銃口を巧みに避けながら天槍を閃かせ、その凶悪な破壊力を叩きつけてHWの機銃の片方を破壊する。ST達が電磁波を巻き起こしDFが大剣を振るった。
 剣豪型は特大の光線剣を振り回して叢雲班とイルファ班の前衛へと痛烈なダメージを与えていったが、両班は互いに連携して後退と攻勢を使いわけてスイッチし、ダメージを分散させつつSTに回復させる。
 イルファは包囲から余って流れて来たキメラ達に対しブリッツストームを発動、ガトリングシールドの銃口を向けてフルバーストし猛弾幕を張って薙ぎ払い沈めた。
 叢雲は剣豪型が光剣を振り抜いた瞬間に瞬天速で加速し、そのアームの上へと跳び乗ると張り付き機械刀「凄皇」よりレーザーブレードを発生させてアームへ斬りつけて装甲を灼き斬り、間髪入れずに十字架銃を向けて榴弾を撃ち放ち爆裂を巻き起こしながら飛び退いた。
 他方、その隣ではドリル型HWがドリルをリュドレイクへと降りおろしていた。リュドレイクは全力で防御を固めて迫り来る凶器の軌道を見切り飛び退いて回避する。大地がドリルに穿たれ砂塵が舞い、その間にクラークは瞬天速を発動、加速して跳躍するとドリル型HWの背へと跳び乗った。
 クラーク班のSNがSMGで弾幕を張り、DF達が剣を振るい、HWは素早く機動して回避先に歩兵がいた場合、それを跳ね飛ばすなり伏せさせるなりさせつつアームを曲げてクラークへとドリルを突き出す。クラークはHWの背の上を駆けてそれをかわしつつ繰り出されるドリルのアーム部分を狙ってガトリング砲で射撃してゆく。
 リュドレイクもまた両断剣を発動しDF等と連携し回避先を潰すように連続して剣を振るってHWの装甲を削った。アームの付け根を狙って太刀を叩きつけ火花が散ってゆく。
 マイアはヤマト班のメンバーと共に円陣を組んで周囲より振り降ろし突き込まれる剣槍斧を盾で受け、剣で払い耐えながら、刃に氷霧を纏わせて一閃させキメラ達を斬り倒してゆく。周囲にキメラの骸が積み上げられてゆき、他へ流れた事もあって取り囲むキメラの数はみるみるうちに減っていった。
 天宮は反転して再度突撃をかけんとし、追って来たキメラ達と激突するも再び大鎌を振るいながらチャージして吹き飛ばした。先に共に突撃した自班のDFの一人を囲んでいるキメラの背後へと迫り、バックアタックを仕掛けて一撃で打ち倒した。だがそこで足が止まった。天宮が救助に入ったDF他、それぞれキメラに囲まれて袋叩きにされている。STが倒れたが、DF達はまだ立っていて大剣を振るって抵抗していた。鹿島班のSNの狙撃援護を加えて十六体あまりのキメラを打ち倒した。
 旭は戦況を見渡すと天宮班を援護するべく班員を率いて突撃しDFを囲んでいるキメラを班員達と共に大剣を嵐の如くに振るって猛烈な勢いで斬り倒してゆく。
 アッシュと藍紗班が激しく大砲型と交戦し、アッシュは練力を全開にすると急所撃ち、強弾撃、影撃ちの三種を同時に発動させHWの損傷箇所を狙って猛射し痛烈な打撃を与えた。
 鹿島は機銃型の残りの機銃を圧し折り、HWの本体へも強烈な猛連撃を加えてついに破壊し、剣豪型へと向かって移動を開始した。
 叢雲班とイルファ班は剣豪型を左右に振り回しながら激闘を続けている。
 ドリル型は自らの背の上のクラークを排除せんと背を掻くようにアームを伸ばしドリルを振り回しているが、流石に常よりも精度が落ちている。クラークは背の上を転がってドリルを悉く回避し猛射している。その隙にリュドレイクを初めとした六名のDF勢が取り囲むようにして剣を振るって滅多斬りにしST達が電磁嵐を巻き起こしスナイパーが射撃して弾丸を叩き込んでゆく。ドリル型のアームが破壊されて地に落ちた。
 マイア等ヤマト班のメンバーは周囲を取り囲んでいたキメラを殲滅し移動を開始する。
 天宮班は旭班と共に戦ってキメラを殲滅してゆく。治療を受けて倒れていたSTが起き上がった。
 アッシュ班と藍紗班は大砲型に撃たれながらもSTの回復で起き上がり徐々に徐々にHWの装甲を削ってゆく。ヤマト班が援護に向かいDFとヤマトが突っ込みマイアとSTが電磁嵐を巻き起こした。
 叢雲班とイルファ班は剣豪型を順調に追いこんで行き鹿島班は移動中。
 クラーク班とリュドレイク班は連続して猛撃を叩き込みついにドリル型を大破させて荒野に沈めた。
 天宮班と旭班はキメラの殲滅を完了させ他を援護すべく移動を開始。
「イルファ、無事か――!」
 班長の鹿島が声をあげ、鹿島班、剣豪型のHWへと攻撃を仕掛ける。
「えぇ‥‥何とか、ですかね。約束は守りましたよ?」
 イルファはそんな言葉を返し、鹿島の支援に回る。
 叢雲は自班を指揮して両班と連携し、鹿島の痛烈な一撃にHWの態勢が崩れた所へ猛攻を仕掛けてこれを破壊した。
 大砲型はアッシュ班、藍紗班、ヤマト班の三班の攻撃に耐えていたが、そこへ天宮班と旭班が猛攻に加わるとダメージが蓄積していた事もあって流石に耐えきれずついに荒野に沈んだのだった。


 かくて、中央の班の活躍によって敵中央の主力は撃滅され、バグア軍中央は潰走した。
 他の方面も皆順調にバグア軍を撃ち破っており、大隊はバグア軍を完敗へと追いやると、追撃を仕掛けてこれを散々に打ち破った。
「ま、なんとかなったね。今回もお疲れ様」
 ヤマトはそんな事を言って礼を述べマイアに光線銃を返し、大隊はポルバンダルへと入るとそこにUPCの旗を立てて解放を宣言した。

 地図が徐々にだが確実に塗り替えられてゆく。半島の全領域の解放まで後僅かとなっていた。



 了