●リプレイ本文
「‥‥‥‥うわー‥‥何この数‥‥」
M2(
ga8024)が荒野を埋め尽くし突撃して来るキメラの群れを眺め半ば呆然として呟いた。
「人海戦術で来たかッ! あ、『人』海じゃないかってそんな事言ってる場合じゃないって!」
青年はわたわたと慌てている。
「はっはっはっは!! さすがに‥‥これだけ敵がいると壮観だね」
一方の漸 王零(
ga2930)は津波のような敵勢を見て愉快そうに笑った。
「見渡す限りの敵の群れか。よくも集めたものだな」
白鐘剣一郎(
ga0184)は感心半ば、呆れ半ばといった体だ。
「こうも多いと流石に目障りだな‥‥」
総レースの黒い日傘を差している銀髪の少女が呟いている。流叶・デュノフガリオ(
gb6275)だ。
「途方もない数だと聞いてはいたが‥‥実際見てみると軽く引くな、これは」
幼さを残す顔をひきつらせつつ言うのはタルト・ローズレッド(
gb1537)だ。
「より取り見取りの強制バイキングってとこか? 腹八分で済めば良いがねぇ‥‥」
や、別に食べる訳じゃないよ? などと言いつつ飲兵衛(
gb8895)。
「力で押し切れなかったから今度は数?」
いやねぇ、乱暴な男はモテないわよ、と軽口を叩くのは冴城 アスカ(
gb4188)。
「ったく、次から次へとご苦労なこった」
天原大地(
gb5927)が頭の後ろを掻きつつ敵を見やる。
「今回は耐える戦いになるか。無理な突出は控え、確実に殺いでいこう」
レティ・クリムゾン(
ga8679)が言った。
(「密集方陣が組めれば楽そうなのだけど」)
個人間で武器などが違うと難しいか、とレティは思う。しかし工夫の余地はありそうだ、とも思う。敵に能力者達にも通じる面制圧の攻撃が無いなら密集陣はとても有効だ。あると自殺行為に近いが。まこと戦術に万能はなく、状況で効果が変わるものである。
「了解、こうなったら千体斬りでも、二千体斬りでも。やってやろうじゃねぇか!」
砕牙 九郎(
ga7366)が数えるのも嫌になりそうな数の敵にこんちくしょうめ、と息まいて言う。
「弱音を吐くつもりはないが、さすがにこの数は多いな」
ザインフラウ(
gb9550)が言った。
「確かに数は多いが‥‥あの装備で素直に前から来るとはね」
と敵勢を見やりつつジャック・ジェリア(
gc0672)。数が多けりゃ良いってものじゃない。銃の一丁でも持っていれば大変な脅威だったろうが、格闘武器だけならやり方はいくらでもある。
「前から順に潰させてもらおうか。あれだけ間隔が空いていればこの隊なら十分対処出来る」
「上手くいけば良いのだが。ジャック、ブリッツストームを使用する時は合図をくれ、それに合わせて、制圧射撃を行う」
「了解」
ザインフラウが言ってジャックは頷いた。
一方、
「今日も傭兵業は大繁盛、ですね」
カンタレラ(
gb9927)はそんな事を呟いている。日本国の大分も派手だったが、ここも随分派手な事になってるみたいだと思う。
(「‥‥でも、有象無象、かぁ」)
侮るつもりはないがちょっと残念なカンタレラである。
アルヴァイム(
ga5051)は砲兵隊と無線で連絡を取っている。必要がありそうなら砲撃支援を請うようだ。
ミスティ・K・ブランド(
gb2310)はエネルギーガンを抜き、短剣を右に構えた。
傭兵達は作戦を確認し迎撃態勢を整える。
「接近して来たら、俺とザインフラウで可能な限り弾幕を張って止める。両端から潰してくれ」
ジャックはそう言った。
ディアドラ中隊の二百以上を数える能力者達が横に並び、歩兵第七傭兵分隊はそのど真ん中に立った。守備すべき幅は二十メートル。守り通せるか。
一千五百を数える狼人、豚鬼、赤小鬼、骸骨兵のキメラ達が横に三〇〇メートル、縦に一〇〇メートルの深さで列を組み、武器を振り上げ吠え声をあげ、カタカタと骨を鳴らしながら押し寄せて来る。
津波だ。
一キロ後方に控える砲兵中隊六門の砲と、五百メートル後方で中隊指揮を取る三両の戦車が焔を吹いて砲弾を次々に飛ばした。独特の風切り音と共に弾が炸裂して大地を爆砕し――十メートル四方内にいるのは五匹、横との距離二メートル、後方の次列との距離は十メートル、それなりに隙間は空いている――炎を吹き上げてゆく。
指揮戦車の砲から飛んだ砲の一発がキメラに直撃して一匹吹き飛ばしたが、千五百から一減っただけだった。
距離が詰まる。敵は百メートルを十秒で詰めて来る。数匹は吹き飛びながらも千四百以上のキメラが近距離まで突進して来た。
紅い蝙蝠を飛び立たせ両腕に魔法陣を出現させたタルト・ローズレッドはその間に練成強化を発動しアルヴァイム、天原、漸、砕牙の順でそれぞれの武器を淡々と強化した。男達の得物に淡い光が宿った。曰く、敵がどれだけ大群であろうとも「私は私の仕事、前の奴が存分に動ける状況を作るだけ」と気合いを入れ直したようだ。
カンタレラ、必要時、余裕があれば練成強化をかけたい。余裕、どんなものか。実際ぶつかってみないと判断がつかない。治療の為に練力を温存しておく事にする。
第七分隊の正面に展開するキメラの数は百匹。相対一〇〇に突入。
タルトはザインフラウ、ジャックへと練成強化を発動。それぞれの銃に光を灯す。
相対距離八〇。アルヴァイムと天原が淡く輝くバラキエル拳銃を構えた。
アルヴァイムは強弾撃を発動、面の制圧を狙う。二十メートルの横幅に十匹展開し突進して来るキメラの最前列、うち五匹に対し左端から次々と狙いを移しながら拳銃で連射。狼人、豚鬼、二匹の赤小鬼と骸骨兵の片足に弾丸が次々に突き刺さってゆく。鮮血が噴出し骨片が散った。アルヴァイムは空になったマガジンを捨てると新しい物を差し込む。
「射撃は得意じゃねんだがな‥‥四の五の言ってられねぇか!!」
一方、髪色を黄金に変え瞳にも金色を宿した天原は、金色の光を纏いながら淡く輝く『神の雷光』を構える。光が乱舞している。意思としては敵群に射撃。群れか。広くいく。担当戦域の右端から中央へと次々と狙いを変えながら五連射。弾丸が唸りをあげて飛び狼人、豚鬼、赤小鬼の片足をふっ飛ばし、一匹の狼人と骸骨兵の頭部へと弾丸を叩き込んだ。片足を失くしたキメラ達が倒れ、骸骨兵と狼人が頭部を砕かれて崩れ落ちる。五体撃破。バラキエルの弾丸をリロード。
髪を漆黒から銀髪へと変化させた漸王零、黒銀の粒子を放ちつつ相対七十から射撃を開始。狙うのは当て易い敵。速度を落としている左端のキメラを狙って輝くキャンサーを発砲。跳ね上がる反動を抑えつつ五連射。轟く銃声と共に弾丸が空を裂いて飛び、狼人の腹部へと次々と突き刺さってぶちぬいてゆく、うち一発が眉間へと飛び爆砕して吹っ飛ばした。猛烈な破壊力。国士無双を大地に突き刺し手早く拳銃をリロードする。
M2、狙撃眼を発動。敵は弾頭矢の爆発に巻き込める程の間隔では固まっていない様子。個別にゆく。洋弓ルーネに弾頭矢を番え、豚鬼へと狙いをつける。素早く矢を番え連射。三連の矢は空を裂いて飛び豚鬼の胴に直撃し、紅蓮の爆炎を巻き起こして吹っ飛ばした。撃破。救護班のラインへの後退を開始する。
相対六〇。全身に淡い黄金の輝きを纏う白鐘、艶の消えた漆黒の銃を構える。豚鬼へと狙いを定めトリガーをひく。黒色エネルギー弾が次々に射出された。八発の球は赤小鬼の全身に直撃すると、直径30センチ度に膨れ上がり、猛烈な破壊力を炸裂させてその身を抉り取ってゆく。鮮血をぶちまけながら赤鬼が倒れた。撃破。
銀色の髪へと変化した砕牙、真紅と化した瞳で敵を睨む。最前列の敵等を転倒させたい。スコールSMGを立射に構えるとフルオートに入れてトリガーを絞る。激しいマズルフラッシュと共に轟く銃声を巻き起こし猛弾幕を解き放つ。掃射。最前列を薙ぎ払う。弾丸が骸骨兵と赤鬼の胴体下部へと襲いかかり撃ち抜き砕いてゆく。もんどりをうってキメラ達が倒れた。二体撃破。
一列目が撃ち倒された。しかし、キメラ達はまったく怯む様子を見せず、屍を乗りこえ、二列目、三列、四列と雪崩込むように突っ込んで来る。
左の肩から黒片翼を出現させたレティ、救護班を護衛の構え。右に太刀を左に小銃を手に様子を見る。
飲兵衛はシエルクラインの銃床を肩に当てサイトを覗いて照準を狼人へと合わせる。反動を抑えつつバーストを切る。八〇発の弾丸が次々に狼人に突き刺さってゆき、死の舞踏を踊らせながら荒野に沈める。撃破。
冴城は真紅の瞳で突進して来る赤鬼を睨み、金の拳銃を右に銀の拳銃を左に構える。足元へと狙いをつけ左右の銃で連射。五連の弾丸が次々に鬼の足に突き刺さり血飛沫を噴出させてゆく。鬼がバランスを崩して荒野に倒れた。
「ただ、守られて、囲われるだけが、本分ではないので‥‥そう簡単には通しませんよ?」
カンタレラ、相対四〇、雷光鞭を構える。鉄鞭型の超機械。鉄鞭というのは警棒みたいなもので、雷光鞭はそれから直線状に一瞬、電磁波を発生させる。直線に飛ぶ電磁波を鞭や剣のように横に曲げる事は普通出来ないと思われるので、銃で弾丸を連射して薙ぎ払うように電磁波を連射して薙ぎ払う形だろうか。
女は迫り来るキメラに対して薙ぎ払うように電磁波を連射、光の嵐が赤鬼と豚鬼を呑み込み、猛烈な破壊力を爆裂させて消し飛ばしてゆく。二体撃破。
バハムートに身を包むミスティはエネルギーガンを構えるとその銃口を骸骨兵へと向ける。狙いをつけて四連射。強烈な光線が次々に骸骨兵に突き刺さり吹っ飛ばしてゆく。骸骨兵士がバラバラになって崩れ落ちた。撃破。
ジャック・ジェリア、ブローンポジション、ブリットストーム、強弾撃を発動、伏せ撃ちの態勢でガトリング砲を構えている。澄緑の右目と、鮮赤の左目で敵を見据える。多数の敵を巻き込みたい。
「射撃を開始する」
相対二〇、言ってキメラ達の壁に対しフルオートで足を狙って薙ぎ払う。ガトリングガンの複数の銃身が回転し、銃口から猛烈なマズルフラッシュを瞬かせ、激しく振動しながら弾丸の嵐を解き放ってゆく。掃射。
三〇〇発もの弾丸が猛烈な勢いで迫り来る最前列の四匹の両足を薙ぎ払い、間を抜けた弾丸が二列目の六匹の両足と三匹の片足を薙ぎ払う。一匹は前のキメラが壁になって逃れた。さらに抜けて三列目の四匹の片足も貫いてゆく。
このあたりの戦域ではブリッツストームはかなり威力が落ちるのだが、強弾撃とタルトの練成強化でカバーされている。瞬く間に鮮血のラインが出現し、動きが鈍ってゆく。それに合わせてザインフラウ、制圧射撃を発動、ドローム製SMGを立射に構えてフルオート、最前列の四匹と二列目の六匹と、最前列が止まった為、間を抜けようとした一匹と同様に鈍らせつつも抜けようとした三匹を一列目もろとも薙ぎ払う。一八〇発の猛烈な弾幕がキメラ達を次々に薙ぎ払いその突進を完全に封じ込めた。前列が密集して停止し後続も団子になって足を止めてゆく。敵陣に混乱が巻き起こった。
停止したキメラ達へと向けてジャックは素早くリロードを済ませたガトリング砲で再度ブリッツストームを発動し薙ぎ払った。キメラの壁が暴風に倒される草のように次々に脚を刈られて薙ぎ倒されてゆく。最早立ち上がれまい。戦力外だ。十四体撃破。ザインフラウは素早くSMGをリロードする。
勢いを減じたキメラの一匹へと向けてレティはシエルクラインを向けて猛射する。百二十発の猛烈な弾丸が豚鬼へと叩き込まれて蜂の巣になって吹っ飛んだ。
流叶は敵の群れを鬱陶しそうに見ている。最前列となった四列目のうち、四匹は片足を負傷しながらでも再び駆け出し、無傷の六十五匹が吼え声をあげて仲間の屍を踏みつけ再び加速する。止まっていた為固まっている。横幅は変わらないが前後が詰まっている。
「雷遁、焼き払え」
アルヴァイムが声を発して機械巻物『雷遁』を発動させ六連の電磁嵐を巻き起こし、漸がキャンサーで五連射する。白鐘が月詠とウリエルを抜き放ち、冴城はペルシュロンとイキシアに換装した。砕牙はSMGを背負うとサザンクロスとアラスカを取りだし、天原が蛍火を構える。
「‥‥私が尊敬する人がいっていました。状況の打開に必要なのは、パワー、マイト、ストレングス、って」
カンタレラが言いつつ六連の電磁嵐を爆裂させる。
ジャックがブリッツストームを発動させて六〇〇発の猛弾幕を解き放ちタルトがシャドウオーブを翳して敵の足元を狙って黒色のエネルギー弾を撃ち放った。
最前列の十匹のキメラ達へと一斉に叩き込まれた電磁嵐と黒光弾と弾丸の嵐が炸裂した。キメラ達は焼け抉られ、蜂の巣になりながら爆砕されてゆく。ブリッツストームの弾丸がさらに二列、三列と貫通してゆく。
ザインフラウはSMGをフルオートに入れて敵キメラを薙ぎ払う。倒れた列の次の列のキメラ達の突進が止められ、後続のキメラ達がそれを突き飛ばしながら脇を抜けて突っ込んで来る。
白鐘、冴城、砕牙、天原、ミスティがキメラの群れへと向かって突撃を開始する。
「さぁ、開幕と行こう!」
流叶は傘を放り投げると迅雷で南西へと突っ込んだ。稲妻の如き残光を宙に引きながら一瞬で剣の間合いまで飛び込むと狼人の首を狙って金属筒を振るう。蒼く輝く光の刃が狼人の首を灼き斬って抜け、吹っ飛ばした。流叶はそれが倒れるよりも前に返す刀で隣の赤鬼の首も跳ね飛ばし、奥からの反撃の斧をかわして豚鬼の顔面を貫く。
「余り手間を掛けてもいられないんでな‥‥!」
光の烈閃を巻き起こしてさらに二匹を斬り倒す。一撃必殺。その流叶の横手から踏み込んだ赤鬼に弾丸の嵐が叩き込まれ、鬼が血飛沫をあげながら倒れてゆく。飲兵衛のシエルクラインだ。さらに奥から来る骸骨へと砕牙はリボルバーを向けて連射。唸りをあげて飛んだ弾丸が骸骨の頭部を砕き吹っ飛ばしてゆく。流叶は正面の赤鬼から突き出された槍をかわし、骸骨兵の大剣を後退してかわす。
天原が流叶の左手へと踏み込み、蛍火を竜巻の如くに振り回した。袈裟に振るわれた刃が赤鬼を肩口から半ばまで斬り裂いて吹き飛ばし、逆袈裟に振るった刃が豚鬼の首を跳ね飛ばし、真っ向から振り降ろされた太刀が骸骨兵の頭部を爆砕する。
「悪ィが後ろにゃまわさねぇ。一匹残らず喰い尽くす!!」
男は咆哮をあげると、突撃してくるキメラの刀槍をかわしざま、三連の剣閃を巻き起こして全て一撃で斬り倒した。片っ端から叩き斬ってゆく。
他方、
「さぁ! パーティタイムよ!」
冴城は全身から湯気を立てつつ練力を全開に限界突破を発動、瞬天速で一気に斧を振り上げる豚鬼の懐へと飛び込む。相手の踏み込み足の膝裏を狙ってローキックで蹴り抜いて態勢を崩させ、身を捻って逆側へと独楽のように回りながら後ろ回し蹴りで豚鬼の顔面へと足裏を叩き込む。ペルシュロンのプレートが顔面に炸裂し顔の骨を砕きながら豚鬼が吹っ飛んでゆく。左右から振り降ろされた赤鬼の槍と狼人の太刀を後方に飛んでかわし、狼人の顎先を蹴りあげ、その190センチの長身が持つ長い脚を高々と伸ばし、狼の顔面へと踵を叩き込んだ。
「ほらほら、そんなノロマな動きじゃ私と踊れないわよ?」
赤鬼の突きを踏み込みながらかわし、そのボディに蹴りを叩き込んで身を屈ませると、後方に宙返りしながら鬼の顔面を靴底のプレートで蹴り抜いて吹っ飛ばす。速い。回避力はかなりのものだ。
同様に突撃している白鐘は三匹の小鬼達が繰りだして来た穂先を跳躍して回避。宙で豪破斬撃を発動、落下と共に赤鬼の一匹へと真っ向から唐竹割りに片刃の直刀を振り下ろす。
「天都神影流・降雷閃っ」
落雷の如くに天空より赤刃が落下し、鬼の頭部から下方まで断ち切りながら通り抜けてゆく。真っ二つに断たれた鬼が左右へと別れる前に男は左の光線剣を振るってもう一匹の首を跳ね飛ばし、逆袈裟に月詠を振るってもう一匹も斬り倒した。左右の剣を暴風の如く振るって怒涛の勢いで斬り倒してゆく。瞬く間にさらに五体が倒された。
併せて突撃したミスティも装輪走行で突撃しながら近距離からエネルギーガンを二連射して骸骨兵を吹き飛ばし、赤鬼へと二連射してさらにこちらも消し飛ばす。
救護班の所まで後退したマリオンは誤射に注意を払いつつ東の端の豚鬼を狙ってSMGで弾幕を叩き込む。六〇発の弾丸を喰らって血飛沫を撒き散らしながらキメラが吹っ飛んでゆく。撃破。
レティは救護班へと抜けて来る敵がこないかどうか様子を見つつ前衛達の間からシエルクラインを発砲している。二〇発も叩き込めば敵は吹っ飛ぶらしい。リロードしつつ連射して二匹の狼人と二匹の豚鬼と赤鬼へと弾丸を叩き込んで撃ち倒してゆく。
一メートルもある太刀を持っていれば直径、三メートル程度はカバー出来るか、傭兵達が持っている刀剣の類は平均長大な物が多いから実際はそれよりも広い。リーチのある武器を持っていない者もいるが、二刀使いもいる。前線に立っているのは流叶、天原、砕牙、白鐘、冴城、ミスティの六名。白鐘等は横のラインを意識して展開している。守るべき幅は二十メートル程度でその左右では他分隊が激突している。隙間は後衛からの射撃が押しとどめているのでキメラ側が攻撃出来るのは前方、多くて三匹程度か。
流叶は奥からさらに突っ込んで来た骸骨兵の袈裟斬りを身を沈めて掻い潜り、赤鬼の槍の突きを身を捻って避け、颶風と共に唐竹に割りに振り降ろされた斧を飛び退いてかわした。
天原は狼人から突き込まれる太刀を身をスウェーして回避し、豚鬼から振り下ろされる斧を蛍火を振るって弾き飛ばす、赤鬼から振り降ろされる槍を装甲の厚い部分に当てて止める。
銃を放った後に踏み込んだ砕牙、斜め左の骸骨兵から振り下ろされる大剣を横に動いてかわし、前方右の狼人から突き出された太刀の切っ先が首元を突かれるも皮一枚を切られつつも咄嗟に首を振って回避。正面の豚鬼から振るわれた斧が身を届くよりも前に後方に跳んでかわした。
冴城、斜め前の左右から同時に槍を突き込んで来た赤鬼に対し、一本を横にスライドしてかわし、一本の穂先を裏拳で弾いて軌道を逸らす。上手く刃ではなく腹に当てたので斬られなかったが甲がビリビリと痺れた。手甲も嵌めてないのに刃物相手によくやる。肝が据わっている。
「ふぅっ‥‥高校時代の喧嘩思い出すわね」
どんな学生生活送っていたんですか姐さん、と誰かが聞いていたらツッコミ入れそうな台詞を冴城はのたまいつつ正面からの追撃の太刀を瞬天速で飛び退いてかわす。
白鐘は豚鬼から振り下ろされる斧撃を半身になってすり抜けるように回避し、首を狙って流れた槍を太刀で受け止め、狼人が袈裟に打って来た太刀をネメアの肩甲に当てて弾く。
ミスティは正面から面を狙って打ち込みをかけて来た骸骨兵の大剣を短剣で流し、赤鬼が繰りだして来た槍をバハムートの装甲で止める。狼人が振り降ろして来た太刀をチンクエデュアで受け止めた。
「一度に掛かって来られる数には限度がある。思ったよりも圧力は弱いな」
白鐘は周囲の状況を把握しつつ豚鬼の斧を上体を反らしてかわし、狼人からの太刀を後退してかわし、赤鬼の槍を月詠で跳ねあげてかわしながら言う。
「敵の数はもう随分減ってるよ! いけるいける!」
全体の動きを見ていたマリオンが無線から白鐘の呟きを拾ってそう答える。気付けば敵の残りは二十八体だ。この隊を全滅させるつもりなら三倍は用意すべきだった。傭兵達の火力が高過ぎる。
「そうか、では一気に蹴散らすとしよう」
白鐘は練力を解放しつつ月詠を振り上げる。
「天都神影流・斬鋼閃!」
キメラからの攻撃をかわしざま、裂帛の気合と共に太刀を一閃させる。豪刃が炸裂して豚鬼を斜めに両断した。さらに左右に光剣を振るって狼人と赤鬼を斬り倒す。
流叶は豚鬼の斧を跳躍してかわすとその肩を踏み台に飛んで宙で光剣を噴出させる。下方から迎撃に繰りだされた赤鬼の穂先を身を捻って回避し落下ざまに斬りつけて打ち倒す。四方から振るわれる武器を転がって回避しつつインカムで後衛に連絡を入れた。
「前衛B班から後衛B班へ、頃合だ」
「了解」
「固まりました、ね」
カンタレラは雷光鞭を振るうと猛烈な雷光を薙ぎ払うように連射、アルヴァイムもまた雷遁を解き放って電磁嵐を解き放つ。光が荒れ狂い集まった六体あまりのキメラを吹っ飛ばした。
砕牙は飛び退きながらアラスカをリロードすると豚鬼へと発砲、敵が鮮血を噴出している所へ踏み込んで十字の光の刃を一閃させ首を跳ね飛ばした。斬りかかって来た狼人へ対し素早く銃口を向けて射撃。カウンターの弾丸をぶち当てて押し留めるとすかさず心臓を狙ってサザンクロスを突き込み、貫通させて荒野に沈めた。
漸は一気に殲滅出来ると見て、国士無双を引き抜きキャンサーからエネルギーガンへと持ち変え前に出る。突撃しながら次々に標的を移し閃光をキメラ達へと叩き込んでゆく。狼人が撃ち抜かれて吹き飛び、赤鬼が消し飛ばされ、豚鬼が顔面を吹っ飛ばされて倒れる。砕牙へと斬りかからんと大剣を振り上げた骸骨兵へと横手から踏み込み国士無双を一閃させてその頭部を粉砕した。
天原もまた太刀を振るってペースを落とさずキメラを次々に斬り倒してゆく。冴城は下段蹴りから後ろ回し蹴りに繋ぐコンボで赤鬼を吹き飛ばし、ミスティのエネルギーガンが狼人を消し炭にする。
M2がドローム製SMGで狼人の体重を何割か増させながら撃ち倒し、飲兵衛は立ち回る天原へと接近する豚鬼へと狙いをつける。
「結構、早く終わりが見えて来たなぁ‥‥まぁ正面倒せばそれで終了、って訳でもないんだろうけど」
そんな事を呟きつつ弾丸を叩き込んで豚鬼を蜂の巣にして吹っ飛ばす。レティもまたシエルクラインで次々に弾丸を叩き込みキメラ達を撃ち倒してゆく。
「一気に当たってくる敵の数さえ調節すれば、大群だって捌けるもんさ」
ジャックは言いつつガトリング砲を連射し、ザインフラウがドロームSMGを発射し弾幕の嵐を張ってキメラ達を撃ち抜いてゆく。
タルトもまたシャドウオーブから黒弾を放って残党を掃討してゆく。
「私までもがこうも直接攻撃に参加する事になるとは、我が隊は圧倒的だな」
この戦況では練成強化をかけなおす必要も無いだろう。タルトは偉そうな口調でそんな事を言いつつジャックが弾幕を張っている豚鬼の顔面へと黒弾を撃ちこんで吹っ飛ばした。
一秒一殺どころではない勢いで、瞬く間に第七分隊へと突撃して来たキメラ達は掃討されてゆく。
「こちらは終了、かな‥‥? 意外に、呆気なかったですねっ」
正面の敵が殲滅された時、カンタレラが言った。
時として『戦は数だよ』で、無い場合もあるらしい。もっとも『弾丸の数』ではあった気もするが。正面激突においては実にマイト、パワー、ストレングスであるようだった。
その後、第七分隊は苦戦している隣接隊の援護へと回り、そちらでも次々にキメラの群れを掃討していった。
ディアドラ中隊は第七分隊や他隊の活躍も併せて正面の一五〇〇匹のキメラを殲滅、右翼の中隊が撃破されかかっていたがそちらへと急行してこれを破り、右翼の中隊と共に反転して左翼の中隊が相手をしているキメラの群れへと突撃してこれも粉砕した。
キメラ部隊を破られたバグア軍は後退を開始しアブトマート大隊は戦線を突破すると激闘を続けているバドルディーン連隊内の友軍を支援してその撃破を助けた。
連隊が正面の敵を打ち破るとバグア軍は抗しきれぬと判断したか全軍揃って一斉に後退を開始、バーオナガルを放棄してその後方にある堅所へと入って戦線を縮小させつつも維持せんと動いた。バーブル師団は前進しバーオナガル市を奪還し、ここにUPC軍の旗を立てたのだった。
了