●リプレイ本文
「よォ、呼ばれたンで飛んで来たぜ」
ミカエルに身を包んだ青年が言った。アレックス(
gb3735)である。相棒や知人に誘われて従軍したらしい。今回は俺も手伝える事がありゃ良いんだが、と思いつつ青年は言う。
「KV級の大型キメラが3匹とは景気が良いな」
「うん‥‥普通、これ。裸足で逃げ出す所‥‥だよ、ね?」
霧島 和哉(
gb1893)は相棒の言葉に苦笑しながら頷いた。国東市を巡る陸の戦線では、KVを獅子座対策に集めた為、本来KVが当てられていた箇所に空白が出来ていた。その穴を人力で埋めろと司令部は言って来ている。
「今回はまた、随分と大きいの来たみたいですねー‥‥」
リュドレイク(
ga8720)が言った。どれも敵は十m以上の巨体を誇る超大型キメラである。
「生身で戦うだなんて正気の沙汰ではありませんわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)が言った。無茶も良い所な作戦である。普通の指揮官ならそんな事はさせない。司令は狂ったのか、それともよっぽどの無能なのか、それとも、勝算ありと踏んでいるのか。
「随分とまた愉快な状況になってるみたいですね‥‥」
終夜・無月(
ga3084)が言った。ある意味腕が鳴る状況ではあるが。
「十mなんてKVで倒すの普通じゃないのかな? KVなしで倒せるのでしょうか」
リンドヴルムに身を包む少女が言った。二条 更紗(
gb1862)である。
「バグアのトップは俺たちと同じサイズでKVを圧倒できる‥‥なら、俺に同じ芸当ができない道理はない!」
須佐 武流(
ga1461)が答えて言った。力が同じであるならば、敵がやれるなら味方もやれなければおかしい話だ。やれない道理は無い。決めるのはバグアか人間かではなく、その身に秘める力の量である。
「んー‥‥あの程度ならそこまで脅威じゃないですよ? こっちの面子とタイマン張る方が数倍怖いですし‥‥」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)もまたそう言った。事も無げに落ちついた様子で準備を整えている。
第三傭兵歩兵分隊、本日も旅団内最強歩兵隊としての地位を確保しているようだった。今回もまた強力無比な傭兵達が揃っている。
(「‥‥え〜と。敵キメラの強さと味方の強さが合わさって地獄絵図に見える‥‥わね」)
八葉 白雪(
gb2228)の姉人格である真白はそんな事を胸中で呟いた。
「右も左もモンスターばっかりね。敵も然る事ながら味方も、ね」
葵 宙華(
ga4067)が真白の胸中を読んだようにそう述べ、
「ママとデートだから早くおわらせたいんだけど?」
と一同へと視線をやる。どうやらこの後の予定が入っているらしい。さくっと片付けたいと意志表示している。
「うむ、なんだ、その――」
ママことUNKNOWN(
ga4276)は漆黒の鎧に黒のフロックコートをマントのように羽織っている。男はマスクを被ると言った。
「――こーほー」
暗黒卿再びである。
「適当な車があったら頂いて現場に向かおうと思っていたんだが、そうもいかないみたいだね」
エミタンの加護を信じる男が言った。今回は暗黒エミタ卿、インドの戦場と違い普通に喋る。
それはそれとして、運転手を蹴り落として丁寧(?)に軍から車を拝借するつもりであったらしい。幸か不幸か前線地帯にそう都合よく稼働可能な車は転がっていなかったが、実行してたら不味かった所である。その車両が最悪戦局を左右する任務をおびている場合もあるし、これだけ激しい戦場なら最低、人命の一つ以上は必ず左右するからだ。そいつはちょっと洒落では済まない。
「‥‥まあ、これほどの手練れ揃いなら何とか活路は見出せるかも知れませんわね」
クラリッサはそんな一同の様子に一つ首を振って嘆息しつつも、頷いて言った。
「わたしも微力ながら最善を尽くす事としましょう」
「はい、それでは、作戦の手順をみんなで確認しておくです〜」
エレナ・クルック(
ga4247)が言った。傭兵達は車座に集まりそれぞれ三か所のキメラを破る為の作戦を立て始める。
「‥‥むしろ一番怖ぇのは、あんのん母さんの教育内容なんだよなぁ。俺、最近何かしたっけか‥‥?」
覚醒したシルエイトは眉間に皺を寄せてぶつぶつと言っている。キメラ退治よりもその後が気にかかるところだ。
「――強敵を倒しても、まだまだ激戦は終わらないようですね」
戦況の情報をまとめ黒髪の青年が言った。シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)である。
国東の戦線全体としては今が佳境らしい。失敗は許されない状況だ。とはいえ、今日もいつものように自分の役割を忠実に果たすだけだ、とシンは構えている。いつもの事を、何時も通りに。
「あー‥‥バイクで走れりゃ良かったんだが」
砕牙 九郎(
ga7366)が言った。自らの愛車を持って来ようと思っていたのだが、別府基地に輸送されて来たのはジーザリオだったのでバイクはここにはない。搭乗中KVと似たような現象である。(意味不明な言葉を追記するなら事象を観測する何かが性能を見れないのだ。最高速度、大破率、修理金額を算出する為に必要らしい)
「すまねぇな終夜さん」
タンデム予定だった終夜に砕牙はそう謝る。
「いえ‥‥地形も荒れてしますし‥‥乗れない場合も‥‥想定してあります‥‥大丈夫ですよ‥‥」
終夜は微笑してそう言った。今回は特に絶対必要という訳でもないので歩兵でゆく事とする。
そんなこんなを話しつつ傭兵達はそれぞれ対応するキメラを決定する。
「よーし、ではやるかっ!」
UNKNOWNが言って一同は手を重ねると気合いの声をあげた。
「皆さん幸運を〜」
エレナの声を受けつつ傭兵達は五人ずつ三手に別れ戦場に散っていったのだった。
●
そしてしばし時が流れて荒野の一画。
「デカけりゃ勝てる‥‥と思ってる様なら、能力者として全力を以て、否定させて貰おうか‥‥」
煙草を咥えた男が遠目に体長十mの巨大なトカゲ人を眺めながら言った。玖堂 暁恒(
ga6985)である。前髪から耳の辺りまでの髪を纏め、鉢巻で髷の様に後ろで束ねる。
山のような蜥蜴人が荒野を地響きをあげながら進み、軍兵達が後退し五人の傭兵が前に出る。
敵の音速波の射程は一〇〇m程度であるらしい。傭兵達は玖堂とUNKNOWNの案の元――今回の敵の場合離れた方が良い率は極めて高いので――相互に十m以上の間隔を空けて散開する。玖堂は須佐は互いに端となるようにし、各員足並みを揃えて相対距離一一〇まで詰める。
「よし、ぼてくりまわそう」
UNKNOWNが言って五人は一斉に加速して飛びだしてゆく。
須佐、視線をやってよく蜥蜴人の動きに注意し左右に切り返しながら迫ってゆく。玖堂もまた左右へと振りながら接近。
一同の中で最も前に出ているのはUNKNOWNだ。こーほーと息を吐きつつ真っ直ぐに蜥蜴へと向かう。まず自分が突っ込んで敵の初撃を引き受ける腹らしい。装甲が厚くタフで速い。適任だ。戯れてる感も目立つが、意外に忘れがちな傭兵が多い(玖堂は了解していたが)範囲攻撃への対処など含めやるべき事はやっている。
葵、八卦衣をはためかせ蒼い光の蝶を軌跡に爆ぜさせながら駆ける。少しずつ元の自分に戻りつつあるようだ。
(「ひざかっくんしてこけさせられたら愉しいだろうな‥‥」)
二条は巨大なトカゲを見据えて走りつつ胸中でそんな事を考えている。
(「遣らないより遣った方が後悔しない」)
狙ってみるようだ。
超巨大蜥蜴人が大地を揺らして駆け、傭兵達が駆ける。UNKNOWN、一瞬で相対一〇〇に突入。蜥蜴人は駆けながら猛然と長さ七mの肉厚の大剣を構え横薙ぎに一閃させた。爆裂する風が幅十mを巻き込む巨大な衝撃波となって襲いかかる。範囲が広い。UNKNOWN、半身に構えて足を踏ん張りキャノンも支えに全身鎧の側面で受け止めんとする。音速波が男の身に炸裂し壮絶な衝撃力を炸裂させた。戦車すらも一瞬で粉砕する圧倒的破壊力。鎧で受け止めて負傷率六分。頑強だ。蜥蜴人は駆けながらさらに大剣を竜巻の如くに振るって衝撃波を炸裂させる。相対八〇、UNKNOWNは全長2040mmの巨大なエネルギーキャノンより反撃の爆光を解き放つ。狙いは敵の片半身、腕、肩。連射。リザードマンは素早くスライドして極光波の一発をかわし、一発が肩に突き刺さって爆裂を巻き起こす。こちらも圧倒的な破壊力。
「でかい癖に速い、な」
ビッグリザードマンが肩を爆ぜさせつつも咆哮をあげて駆けながら剣を振るって特大の爆風波を撃ち放ち、UNKNOWNが爆風を受け止めながら特大のキャノンを構え、極大のエネルギー波を爆音と共に猛連射してゆく。
(「怪獣大決戦ね」)
葵、空間を揺るがす破壊を横目に距離を詰める。蜥蜴人、巨体だがKVと渡り合うだけあって生身レベルでは猛烈に速い。特に速度に優れるキメラであるそれは慣性制御で翻る強化ゴーレム程度はあるだろう。まともに撃ってはとてもではないが当たりそうもない。効率的な撃ち方を考える。葵、手持ちは全て使う。想定、臨機、良くまとまっている。その立ち回りに油断は無い。左右の銃で狙いをつけながら、リザードマンの側面へと駆ける。UNKNOWNからエネルギー波が放たれた瞬間に足を止め、光波がリザードマンを捉え爆裂が巻き起こったと同時に猛射。スコールSMGで弾丸の嵐を解き放つ。狙いは敵の右脚、まず機動力を削ぐ。機動への悪影響が確実な所から潰す。猛烈な衝撃に動きが一瞬鈍ったリザードマンへと弾丸が次々に突き刺さりその脚を穿って鮮血を噴出させてゆく。
二条、今回は他の四人が敵の注意を惹いてくれるらしい、有難いと感謝しつつ中央を避けて大回りに迂回している。敵の後背を目指している模様。
玖堂、盾構え十字砲火の射線に踏み込まぬように注意を払いつつ駆ける。巨大蜥蜴の側面へと瞬天速で加速して駆け、相対距離三〇で再度瞬天速を発動させ瞬間移動したが如き速度で一気に踏み込む。葵は射撃を尻尾へと移す。玖堂、体格差的に死角だ。リザードマンからすれば視界の端から掻き消えた感覚だろう。玖堂、疾風脚を発動して脚部から光を噴出、大地を揺るがしながら高速で踏みだされた脚を狙って太刀を稲妻の如くに一閃。刃が唸りをあげて炸裂し血飛沫を噴出させた。すかさず瞬天速を発動させて飛び退く。リザードマンは虫を払うように脚を横に振るった。先程まで玖堂が居た位置を大木の如き脚が貫いてゆく。蜥蜴人の脚が止まった瞬間に須佐が稲妻の如くに入って左足で踏み込み、低く弾丸の如く跳躍すると、宙で身を捻りざま蜥蜴人の軸足へと右脚を振るった。踵部からバーニアが噴出し須佐の身が勢い良く駒の如く回転し、加速された脚部が音速を越えて蜥蜴人の足首に炸裂、猛烈な衝撃を巻き起こした。かなり滅茶な武器だ。だが能力者なら反動にも耐えられる模様。
着地した須佐は右のスコルと左のグラスホッパーで連続回し蹴りを叩き込み、UNKNOWNが肩へと光波を叩き込み葵が腿部へと弾幕を張り、玖堂が番天印に持ち変えて猛射する。脚を引き戻した蜥蜴人は真上の宙へと跳躍すると宙で身を捌きざま大剣を逆手に持ち変える。大剣が回転し切っ先が下に向いた。
(「――ヤバイ!」)
須佐は直感し全力で飛び退――こうとして踏みとどまる。跳んでさがっても剣の射程内だ。着地点を狙われればただでは済まない。瞬天速はセットしていない。超重量の蜥蜴人が須佐を赤瞳に見据え剣で狙いをつけ、その全体重を溜めながら落下してくる。UNKNOWNと葵が蜥蜴人の顔面へと向けて爆光と弾幕を撃ち放った。光と弾丸が炸裂し、落下と共に繰りだされた切っ先が爆風を巻き起こしながら須佐へと迫る。須佐は横手へと身を投げ出すように大きく跳ぶ。鋼鉄の切っ先が男の足先を掠めながら大地へと突き刺さり、次の瞬間、火山が噴火するがの如くに土砂が噴き上がった。須佐は土と石の欠片が飛び交う中、手をついて一回転しながら起き上がり、身体能力をフルに高速で切り返すと蜥蜴人の脚へと再度加速させた右脚をカウンターに叩き込む。脚甲が炸裂して強烈な衝撃を巻き起こした。攻め気だ。鋼の度胸。見てる周囲の心臓に悪いが、下手に退がらない方が安全な場合もある。
他方、大クリスタルゴーレムへは終夜、シン、砕牙、真白、クラリッサの五名が向かっていた。
「でっけー‥‥」
砕牙が遠目にゴーレムを眺め呟いた。肉眼で確認すると改めてデカイ。
「って、見上げてる場合じゃねぇな。とっとと叩き潰しちまわないと」
五人は無線で軍兵へと連絡を入れると前進する。
『はい、バトンタッチ。頑張ってくるわね』
『おう、騎兵隊到着かい! 頑張れよ! 幸運の女神サンによろしく言っとくゼ!』
真白が無線に言って女の声が返って来た。軍兵達が後退してゆく。地響きをあげて突進してくるゴーレムへと五人が向かう。クラリッサは練成強化を発動させ終夜の大剣、シンのエネルギーガン、砕牙のリボルバー、真白の弓へと淡い光を灯らせた。
「さて‥‥と。今度はあんな大きなお人形と戦う事になるのね。退屈しないわ」
真白が120mm程度の長弓を手に荒野を駆けつつ言った。相対距離一二〇、半身に足を止めると魔創の弓を左手に、弾頭矢を右手に頭上へと掲げ、引き降ろしながら弦を月が満つるが如く限界まで引き絞る。彼方より迫る巨大な蒼く煌めく水晶の巨人の頭部へと狙いをつけはっしと放つ。弾頭矢が錐揉みに回転しながら空を切り裂いて飛び、ゴーレムは突進しながら眼前に右腕を翳し、それに命中して猛烈な爆発を巻き起こした。真白、胴へと狙いを移して発射、矢がゴーレムの腕をすり抜けて腹に中り大爆発を巻き起こした。瞬間、強く輝く赤壁が展開しその破壊力を半減させる。
相対距離一〇〇、猛然と踏み込んだゴーレムが其の瞳から光波を撃ち放った。真白は咄嗟に飛び退くも避けきれずに光が女の身に突き刺さり猛烈な爆発を巻き起こす。負傷率七分。真白が弾頭矢で撃ち返し、ゴーレムが足を止め破壊光線を連射して次々に直撃させてゆく。
先頭を走るのは終夜だ。相対距離七〇、二丁の拳銃を抜き放つと右のジャッジメントをゴーレムへと向ける。真白へと光線を連射しているゴーレムの眼を狙って轟く銃声と共に発砲。弾丸が唸りをあげて飛びゴーレムは身を逸らして弾丸をかわし、目から光線が放たれ明後日の方向へと飛んでゆく。相対六〇に踏み込み左のケルベロス、右のジャッジメントで同時に発砲。前進しながら四連の弾丸を撃ち放ってゆく。ゴーレムはスライドして二発を回避し二発を身に受ける。凶悪な破壊力が炸裂した。
相対距離四〇、シン・ブラウ・シュッツ、練力を全開に番天印を片手に構えゴーレムへと狙いをつける。足を止め、猛射。上に跳ね上がる反動を抑えつつ怒涛の十二連射を繰り出す。制圧射撃だ。ゴーレムは素早く飛び退いて回避せんとするも避けきれず、頭、胴、両手、両足へと銃弾の直撃を受け動きを鈍らせてゆく。シンは素早く番天印を再装填し、再度強烈な制圧射撃を叩き込む。
同じく相対距離四〇、クラリッサ・メディスン、練力を全開に青白い電波をゴーレムへと撃ち放つ。光がゴーレムへと命中し、赤壁と激突し吹き散らされた。効いていない。クラリッサはエネルギーガンを構えるとその銃口から二連の光線を撃ち放ち、すぐにまた駆け出す。光がゴーレムの身に中ってその胴を灼き、一本がかざした腕に中って焦がす。
至近距離、砕牙は制圧射撃で反撃を封じられているゴーレムへと猛然と迫るとその右脚へと右手のリボルバーで狙いをつけ三連射。一点へと狙いを定められた弾丸が飛び一発が命中して残り二発がスライドして回避された。砕牙は左に太刀を構えて猛然と踏み込むと、突進の勢いを乗せて傷が発生している箇所目がけて突き込んだ。ゴーレムが受けに膝をあげ、別の箇所と切っ先が激突して強烈な衝撃が巻き起こる。
他方、ブラックタートルへはシルエイト、アレックス、霧島、リュドレイク、エレナの五名が向かっていた。傭兵達が到着し、軍兵が退く。
「ワンパターンとか‥‥言わないで‥‥ね?」
空笑いを浮かべて霧島が言った。頑強無比な霧島を先頭に以下四人が続く接近方法。定石という奴だ。最近こればっかりなのが密かな悩みらしい。状況にもよるが、サイエンティストが味方にいるなら九割鉄板だろう。
五人の傭兵が霧島を壁にして黒の巨大亀へと目がけて突進してゆく。
相対距離一〇〇、黒亀は迫り来る傭兵達へと顎を開き漆黒の光弾を嵐の如くに吐き出した。霧島、迫り来る四〇〇発の爆裂する黒弾の嵐を大楯を翳して受け止めながら突き進む。負傷率三分。天下に無双の堅牢さ。
リュドレイク、霧島のすぐ後ろの陰から横に跳びだすと亀の顔面へと狙いをつける。影撃ちを発動し、クルメタルP‐38拳銃を連射。弾丸が唸りをあげて飛び、素早く首を振った亀の額、鼻、頬、左目へと命中する。爆ぜて散り塗料が撒き散らされ亀の顔を黄色く鮮やかに染め、その左目を塞いだ。
「いきますですよ〜!」
相対距離三〇、エレナも脇に出ると練成弱体を亀へと発動した。亀の外見に変化は無いが、その防御が少し弱くなった筈である。エレナは赤い箱を掲げ、さらに蒼白い電波を連射した。光が亀に炸裂し、展開した赤壁に激突して吹き散らされる。こちらは効いてない模様。
「出力全開‥‥いくぜぇ!!」
シルエイト、豪力発現、紅蓮衝撃、急所突きの三種を同時に発動、霧島の陰から横に飛びだすとエクスプロードを構えて加速、突撃してゆく。黒亀は突撃して来たシルエイトへと狙いを定めその右前脚で薙ぎ払う。五本の爪を備え、人の身の丈を超える超巨大なそれが、爆風を巻き起こしながら横殴りにシルエイトへと襲い来る。ペイント弾で精度が少し落ちている。が、KVと戦うキメラだ。人の身では恐ろしく速い。避けれない。シルエイト、槍を立てて受け止めんとする。槍の柄と爪が激突、が、押し切られる。猛烈な質量。視界がぶっとんだ。青年の身が砲弾の如くに宙へと吹き飛び激しく回転する。低い弾道で天地が高速で回転し景色が流れてゆく中、シルエイトは腕と足を振って体を捌くと足から荒野に着地した。殺し切れぬ勢いが身体を押し、ブーツの底が大地を削って土煙を巻き起こしてゆく。負傷率二分。非常に頑強だ。流れゆく身体を大地を蹴って前に切り返すと槍構え再び突撃を開始する。
その間に右前脚を振り切った亀へと霧島とアレックスが突っ込んでいる。霧島、竜の翼、咆哮を発動、全身からスパークを発生させ大亀の左前脚へと体当たりするように構えた大楯をぶちあてる。猛烈な衝撃が発生し、大亀の脚が地を削りながらずれた。
「ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション!」
アレックスもまた翼、咆哮、爪の三種を併発させると全身からスパークを発生させて加速突撃している。
「スティンガーのアレックスを、舐めるなッ!!」
裂帛の咆哮をあげつつ、霧島が叩き込んだ左前脚へと間髪入れずにランスを突き込む。切っ先が入って猛烈な衝撃を巻き起こし、空間を揺るがす超爆裂が大亀の足の表面を吹き飛ばした。前脚がさらに奥へと押し込まれて滑べり、大亀はすぐに右前脚をつくも、霧島が即座にそちらに向かって再度咆哮の盾を叩きつける。アレックスもまた間髪入れずにそちらへと向かって爆槍を突き込み前脚を爆裂と共に押し滑らせる。黒亀の超巨体が両足を滑らせて地に崩れ、再びチャージして来たシルエイトが五発の弾頭矢を括りつけた槍を位置のさがった大亀の右首筋へと突進の勢いを乗せて突き込んだ。槍が大亀の首の半ばまでを突き刺し、猛烈な炎が切っ先から膨れ上がり、括りつけられた弾頭矢に次々に誘爆して壮絶な爆裂を巻き起こす。爆ぜる紅蓮の炎と肉塊が吹き飛び、大量の鮮血が噴出した。
●
UNKNOWNが猛射し、葵が銃撃を飛ばし、玖堂が再び太刀を抜いて入って斬りつけ、須佐が蹴りを連打し、蜥蜴は足を振り、尻尾を振り回し、大剣を叩きつけて玖堂と須佐を薙ぎ払う。玖堂が足を盾で受けつつ後方に衝撃を流しつつ吹っ飛び、須佐が尻尾を掻い潜ってかわすも、今度は衝撃波を伴った大剣に叩き潰されて痛打を受け、大蜥蜴の後背から全身からプラズマを発生させ槍を構えた二条が迫った。バックアタック。偶々挟む位置に居た事もあったが、今回は能動的に狙って来た。
「其の膝を打ち抜く、跪け!」
竜の翼で加速して大地を蹴って跳躍すると、超巨大な蜥蜴人の左膝裏へと身を躍らせ全霊を込めて黄色の槍を繰り出す。再度、その身が輝いた。竜の咆哮だ。切っ先が入って強烈な破壊力と共に衝撃が巻き起こり、蜥蜴人の膝が曲がった。巨体の態勢が崩れる。
UNKNOWNはその瞬間を狙って顔面へと砲撃。光を爆裂されて蜥蜴人の顔面に壮絶な一撃を叩き込む。須佐は限界突破を発動させて跳躍すると、さらに蜥蜴人の膝を蹴って上へと飛ぶ。その肩へと身を横にしがみつくと脚部を振り上げ瞬速撃を発動させ、踵部からバーニアを噴出させ密着状態からその鎖骨へと凶悪な一撃を連続して叩き込んでゆく。
「うわ、無茶するわね!」
葵は肩まで登った須佐に対してそんな言葉を言いつつ、リボルバーを猛射して援護射撃を叩き込んでゆく。玖堂は練力を全開にすると二条が叩き込んだのとは別のもう一方の膝へと跳躍ざま剣を叩きつけてその膝頭を割る。
「さっと沈め、蜥蜴の出番はここまでだ!」
二条は着地すると再度跳躍し、咆哮と共にもう一度槍を叩き込む。蜥蜴の左足が完全に曲がり右膝から血飛沫を噴出し左へと横倒しに倒れてゆく。
――星見の様に全てを見渡し、蝶の様に舞い蜂の様に刺す。飛龍の如く飛ぶが如く、天空めざし天を衝く。
葵の指針だ。好機と見てSMGを放るとフォルトゥナマヨルーを抜き放ち、リボルバーとの二丁を向ける。
「いくわよっ! いの一番、お前の時は終わった! 時の女神よ貫けっ!!」
練力を全開に急所突きと二連射を発動、UNKNOWNの爆光と共に猛連射を叩き込んでゆく。
「銃は苦手だが、たまには使わないと余計に当たらなくなるからな」
二条もまた貫通弾を装填したS‐01を抜き放つと弾丸を眉間、はちょっと狙える位置でないので後頭部へと向けて撃ち放ち、須佐が低く跳んで転倒している蜥蜴の頭部へとブースト吹かして回転しながら回し蹴りを放ち、玖堂は蜥蜴人の首へと刃を突き入れると瞬天速で加速しながら引き斬った。秘剣「龍頭落し」である。
蜥蜴人の破壊力と速度は高い水準にあったが、その分耐久力は低めだったらしく、五人の傭兵達の猛攻を受け開幕から二十秒、葵の宣言通り三体のキメラの中で真っ先に沈んだのだった。
●
シン・ブラウ・シュッツ、制圧射撃を継続。今度はゴーレムは構わず砕牙へとその巨大な腕を振り降ろした。敵は回避行動を捨てたようである。スキルでの制圧射撃は回避を失敗した敵は問答無用で封殺する強力さだが、逆に回避を試みない敵に効果は無い。
砕牙、回避、は敵が速い、避けられない。咄嗟に太刀を掲げてガードする。猛烈な衝撃と質量、押される、銃を刀身の裏に当てて支える。そのまま大地まで押しつぶされ、砕牙の背が荒野に叩きつけられめりこみ、粉砕し盛大に土砂を吹き上げた。ゴーレムは腕をどかすと砕牙を見下ろし光線を撃ち降ろす、砕牙は貫通弾を込めてリロード、吼え声と共にアラスカ454をゴーレムの顔面へと向け猛射する。光線が砕牙に命中して爆裂を巻き起こし、貫通弾がゴーレムの眼に激突して猛烈な衝撃を巻き起こす。弾丸を受けたゴーレムが上体をのけぞらせ、砕牙が起き上がり、ゴーレムが脚を振るって砕牙の身を木の葉の如くに吹き飛ばす。砕牙は吐血しながらも宙で身を捌いて回転し荒野に着地する。負傷率四割七分。
真白、弾頭矢を番えながら連射し三発を直撃させ爆裂を巻き起こす。
「頑丈ね‥‥これは長い戦いになりそうね」
そこらのキメラなら既にふっとんでいる破壊が炸裂しているが、まだまだ倒れる気配がない。
「屠りに行きます!」
シンは番天印から持ちかえると、ダブルエネルギーガンSeele、Lichtを構え練力を全開に怒涛の如き猛連射を開始する。八連の光線が流星の如くに次々にクリスタルゴーレムへと突き刺さり爆裂を巻き起こしてゆく。クラリッサが練成治療を三連打して砕牙を全快復させ、砕牙がゴーレムの顔面へとリボルバーで四連の弾丸を撃ち放つ。二丁拳銃で五連射しながら銃弾を叩き込んで突撃し、拳銃を収めた終夜は大剣明鏡止水を抜刀、ゴーレムの至近へと迫ると突撃の勢いを乗せ稲妻の如くに袈裟に斬り降ろした。ガードに掲げたゴーレムの脛と刃が激突して火花と共に壮絶な衝撃を撒き散らし、ゴーレムが低く腕を薙ぎ払い、終夜は先手必勝を発動させて加速して太刀をガードに掲げつつ飛び退く。颶風が眼前を薙ぎ払い、終夜は踏み込むと先に砕牙が穿った穴目がけて練力を全開に急所突きを発動させて突きを叩き込んだ。一撃を叩き込むと抜き、即座に間合いを外さんと動く。ゴーレムの脚が迫る――予想より伸びる、流石にこれだけ馬鹿でかいと間合いが掴みづらい。水晶の脚が身に直撃し男が高速で吹っ飛んでゆく。猛烈な破壊力。負傷率八分、頑強だ。クラリッサはエネルギーガンを構えクリスタルゴーレムへと三連射し強烈な閃光を叩き込んでゆく。
他方、
大亀は腹を支点にその超巨体を駒のように勢い良く回転させ、両手両脚で空間を薙ぎ払い、接近していたシルエイト、霧島、アレックスへとそれぞれ直撃させて吹き飛ばす。リュドレイクは影撃ちを発動させ再度発砲、ペイント弾を残りの眼に直撃させて視界を完全に潰す。ひっくり返すのは、ちょっと難しそうか? とりあえず脚を狙ってSMGを猛射、弾丸を叩き込んでゆく。
エレナは再度、蒼白い電磁波を撃ち放ち直撃させる。どうにも手ごたえがない。FFを消せないように消せないタイプの物なのだろうと判断する。何かをして発動、ではなく寝てる時も起きてる時も常に纏っているようなタイプの物は消さない事が十中八、九だ。プレゼントボックスを開いて強烈な電撃波を叩き込み亀を灼いてゆく。
「和哉!」
吹っ飛ばされた三人は着地して再び大亀へと迫る。シルエイトが叫んで霧島へと跳躍し霧島は半身に大盾を頭上に掲げる。シルエイトが剛力を発現させて降り立ち、霧島は咆哮を発動させて空へと青年を打ちあげた。アレックスが黒亀と格闘している最中、シルエイトは宙を翔けると大亀の甲羅の上へと降り立った。首の方面へと駆けると、ハンディバキュームハンドルを吸着させ振り落とされぬようにしっかりて左腕でハンドルを掴む。
「ダメージが半減されるンなら、その倍ダメージを与えりゃ良い!」
地上で格闘しているアレックスが吼えた。
「ああ! 出力全開‥‥いくぜぇ!!」
シエルエイトが答えて二人は練力を全開に槍を構える。
「「Wイグニッション!!」」
練力を全開にした爆槍使いの二人が黒亀の首へと目がけてその穂先を繰り出す。上下から繰り出された穂先が黒亀の首へと突き立って超絶の爆裂を巻き起こした。
●
VS、クリスタルゴーレム、五人の傭兵達と激闘を繰り広げている。
砕牙、ゴーレムが終夜へと蹴りを繰り出した瞬間に入って豪力を発現、その軸足の膝裏へと渾身の力を込めて太刀を叩き込んでいる。他のキメラなら折れるが、こちらのゴーレム、フィールドを纏い衝撃に強い。少し曲がっただけで態勢は崩れない。舌打ちしつつ連斬。先の一発合わせて六回攻撃二発直撃、四発脛に受け止められる。
終夜、ヒット&アウェイで駆けまわりながら先手必勝、急所突きを発動、七連の斬撃を繰り出してゆく。ゴーレムは五発止めて二発直撃、一発がデカイ、壮絶な衝撃を巻き起こしてゆく。
シン・ブラウ・シュッツ、練力全開、タブルエネルギーガン・フルバースト、脅威の十四連射。破壊の流星が空間を流れてゆく。光が次々に輝く水晶巨人の足首に突き刺さって全弾直撃。精度が高く手数が多い、極めて高い殲滅力。ゴーレムの装甲がみるみると削り取られてゆく。
ゴーレムは終夜と砕牙へとそれぞれ二発と三発づつ反撃を繰り出し、終夜に一発を直撃させ、砕牙に三発を当てて吹き飛ばす。
真白は弓を収め二刀を抜き放つと、閃光が降り注ぎゴーレムが手足を振り回し、剣士の二人が剣を叩き込んでいる最中へと突入してゆく。左右の太刀を二段に振るって一刀を受けられるも一撃を叩き込む。
クラリッサは砕牙へと練成治療を発動させて回復させ、終夜、砕牙、シン、真白へと練成強化をかけ直した。
他方、黒亀方面、亀は非常に頑丈だったが、リュドレイクに両目を潰されては既に当てられるだけの精度は残されておらず、アレックスと霧島は攻撃をかわしてゆく。首元にくらいついているシルエイトが上から、アレックスが下から爆槍を突き込み、リュドレイクが亀の頭部へと貫通弾を打ちこみ、霧島もまた小太刀で斬りつけ、エレナが電磁嵐を巻き起こして爆砕したのだった。
他方、衝撃に揺るがず急所も少ないゴーレムはかなり粘り、傭兵達へと痛打を与えていったが、クラリッサの練成治療に支えられ、シンの十四連射がゴーレムの足首を粉砕し、動きの鈍った所へ終夜と砕牙と真白の太刀が唸って、ついにこれを粉砕したのだった。
かくて、十五人の傭兵達の活躍によって三体の超巨大キメラは打ち倒された。
空陸、獅子座の奮迅などがありもしたが、空戦隊の圧勝と陸戦隊が与えた被害により撤退。キメラも駆逐されて旅団は歩を進め、国東市及びその山岳地帯の要塞群を制圧した。
大分県のバグア軍司令ヴァイナモイネンはなおも地下へと立て籠って交戦を続けていたが、地上部は全てUPC軍の物となり、その灯火は風前の物であるかに思われるのだった。
了