タイトル:ヤマト青年と三つ首大蛇マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/21 11:52

●オープニング本文


――で、結局それが何だってんだろう?
 今となるとそんな事を思う。僕の名前は山門浩志、元UPC軍所属の傭兵さ。
 失くして初めて気づく物っていうのは、やっぱり色々ある訳で、後悔って言うのは先人の言うように先には立たないらしい。
 僕は、僕として立ちたかった。誰かのおまけとかではなく、僕は、僕らしく、僕として。
 まぁ色々やった甲斐あって、いっぱしの傭兵にはなれた。
 でも、結局それは僕にとって、何だと言うんだろう?
 僕には何も守るべく物がなく、戦うべき理由も無い。ただただ日々を生きる銭を稼ぐ為だけに依頼を受けて銃をぶっ放すのみ。
 これが、僕のやりたかった事なのだろうか。
 解ってる。
 僕は、そう、立派な人間になりたかったのだ。情けない人間ではいたくなかった。彼女や彼等が誇りと出来るような人間になりたかった。そう、褒めてもらいたかった。
 もしも、僕に守るべきものがあったとするならば、あの場所だったのではなかろうか。
――僕は、一体、何をやっているんだろう?
 あの場所にいては、僕はいつまで経っても頼るだろうと思った。
 でも、欲しかった物ってあの場所にあったんじゃないだろうか。
 既に賽は振られており、覆水は盆に還らず、飛び出した弾丸は弾倉には決して戻らない。目標を砕くまで飛ぶだけだ。
 こうなっては仕方ないと割り切るには僕の心には鉄分が足りないが、割りきれなくても現実という奴はどうにもならない。
 ただ、思うのは、自棄になったら、終わりなのだろう。
 きっと僕は、僕だけで僕を創った訳ではなく、僕は多くの人達の教えを受けてここに立っている。
 ならば、せめて、やはり彼女等が誇りと出来るような男になるべきではなかろうか?
 もしも、今の僕に守るべきものがあるとするならば、それではないだろうか。
 弾倉をスライドさせ、黒塗りの拳銃を構える。
 あの人達がくれた物を無駄にしないように、あの人達が世界の為の戦うのならば、僕もまたこの世の為に戦おう。


 とまぁ、青臭く決意を固めたところで、残念ながら現実の何が変わる訳でもないのだよね。
 だからやっぱり日銭を稼ぐ為にULTの本部にやってきて、そのボードを睨む日々です。
 軍隊って奴は命の危険があって、規律も厳しいが、それでも最低限、飯を喰うには困らなかった。何も考えずに上から命令された事をほいほいとこなしていれば生きてはゆけた。組織の下っ端の良い所っていうのはソレだろうね。上が理不尽な方々だとキツイが、僕はきっと運が良かった。
 その分、フリーランスの傭兵というのはキツイ。選択を誤ればきっと借金まみれだ。己の才覚が物を言う。
「こんちはラナさん、今日も綺麗だね? 簡単で、手っ取り早く済んで、危険が少なくて、報酬の多い仕事ってないかい?」
 にこりと笑い、昔同僚に習った社交辞令を一つ飛ばしつつ受付のオペレーターのお姉さんに問いかける。女の人って人によってはそう言うと機嫌よく応対してくれるらしい。ちょっとしたおまけ情報をくれたりとか。しかし、オペレーターのお姉さんは人形のように無機質な目で僕を見ると、
「おとといキヤガレ」
 と実に丁寧な返答をかえしてくださった。まったく効かないじゃないか、フィリーップ!
「はっ、はは、は‥‥貴女の瞳の煌めきはまるでカミソリのようだね?」
「それはある意味正当な評価ですね。誰に教わったのかは知りませんが、向いてない事はやらない方が良いですよ?」
 そうですか。
「はい、御免なさい。もうしません」
「素直でよろしい。失礼いたしました。しかし、ヤマトさんがお求めのような依頼は現在こちらには入っておりませんね。きっと未来永劫入る事はないでしょう」
 わーい、現実って厳しいな!
「今、入ってるのは――東南アジアの某村付近の沼に住みついたキメラの退治依頼ですね。他は既に埋まっています」
「キメラかぁ、種類と数は幾つだい? 報酬は?」
「体長十数メートル程度の三つ首の大蛇、ですね。鱗は鋼のようで、牛すらも丸飲みにするそうです。かなり、強敵と思われます。確認されている数は一だそうです。貧しい村からの依頼なので報酬はあまり多くは用意できないそうです。夜な夜な沼から這い出てきて村の家畜などを喰らってゆくそうで、人的被害は出ていませんが、牧畜を主な産業としている某村は大変な窮地に立たされています。速やかな解決が望まれていますが、報酬が少ない為、なかなか受け手が集まらないのが現状です」
 まぁ誰だって報酬は少ないよりは多い方が良いからなぁ。
「そっかー」
「しかし、出来れば受けてやって欲しいのですが、どうでしょう?」
「良いよ。一応、少なくても出る事はでるんだろう?」
「はい、有難うございます」
「うん」
 かくて、依頼の詳細をオペレーターのお姉さんから聞くと僕は東南アジアへと飛んだのだった。

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
斑鳩・八雲(ga8672
19歳・♂・AA

●リプレイ本文

「おー。久しぶりやな」
 高速艇の乗り場前、ヤマトの顔を見てクレイフェル(ga0435)は苦笑した。
(「傭兵になっとったんか。知らんかったわ‥‥」)
 そんな事を胸中で呟く。
「お久しぶりです」
 各員挨拶をかわす。山門浩志(gz0275)は見知った者に傭兵になったのだと言った。
「そうか‥‥除隊して傭兵に」
 皐月・B・マイア(ga5514)は事情を聞き、複雑そうな表情を浮かべていた。
「ふむ、少年は退職してフリーターという名の夢追い人になったか」
 九条・縁(ga8248)は一つ頷きそんな事を言った。
「な、なんだかそういうとちょっとアレな気がするのは気のせい?」
 っていうか傭兵ってフリーターなの? などと言いつつヤマト。
 九条はふっと笑うと、
「まあ定職に就いてたら見えない世界もあるしできない事もある。祝福するよ青年、厳しく甘く辛く優しく楽しいフリーダムな職種へようこそ」
 手を伸ばし九条。
「はぁ、有難うございます」
 がっと握手しつつヤマト。
「フリーダムなだけに力の及ぶ範囲でなら何だってできる。その行動の結果の悉くに責任取れる様になれば晴れて立派な大人の仲間入りだ」
 青年の肩をぽんぽんと叩いて九条は言った。
「悉くに、ねぇ。難しそうだけど、ま、やるだけさ――だよね。やってみるよ」
 ヤマトはそう言って頷いた。
「いつの間にか一端の男の顔になっちまって‥‥父さんは嬉しいぞ」
 涙を拭うふりをしつつ言うのはアッシュ・リーゲン(ga3804)だ。
「アッシュさん、あんたこんなデカイ子供がいるトシですか」
 苦笑してヤマト。
「だって実際、ちょっと前までひよっこだったじゃねーか」
「ナンデスト」
 そんなやりとりを交わしつつアッシュは(「まあ‥‥実際、いつまでも子供じゃないからな、ゴタゴタ考えんのはヤメだな」)と胸中で呟いた。
「‥‥アイツ、元気でやってたか?」
 自嘲的な苦笑を浮かべつつ男は問う。
 ヤマトは一瞬、言葉を止めて、少し考えるようにしてから言った。
「色んな事が難しいのだとぼやいてました。でも一応、元気だとは思います」
「そうか」
 頷いてアッシュ。
「ヤマト殿」
 マイアが言った。表情は既に何時ものそれへと戻っている。
「傭兵になったという事は、じゃあ、これからは対等な立場な訳だな。戦闘歴じゃそっちが長いかも知れないが、傭兵歴は私の方が長いんだからな? 分からない事があったら教えてやるぞ? 美味しい紅茶の淹れ方とか」
 そんな軽口を混ぜつつ少女は笑う。
「有難う。でも、紅茶の淹れ方って、それ傭兵活動には特に必要でもないような気がするんだけど」
 すっかりメイドが板についちゃってまー、などと言いつつヤマト。ちらりと視線をやれば以前のような怯えは見えない。
「‥‥少しそちらも変わった?」
「ん? ま、今は一先ず依頼を片付けようか」
 笑ってマイアは言った。
「ん、そうだね」
 頷いてヤマト。
「そういやヤマト」クレイフェルが言った「今回ヘッドライトとか欲しいねんけど借りられるかな?」
「ああ、今回は軍からでなく村からの依頼なので‥‥借りるなら軍でなくULT本部からになるんですが」
 本部は道具の貸し出しには変な所で厳しい、とヤマト。難しいようだ。
「そかー、ま、しゃーない。ならこいつを使うわ」
 ひょいと提灯を取り出してクレイフェル。
 ヤマトは上を見て下を見て、視線を正面に戻し、言葉を選ぶようにしてから言った。
「‥‥クレイさん、古風ですね?」
「それは言わんとって!」
 かくて一同は高速艇へと乗り込むと東南アジアへと向かったのだった。


 現地の村。
「ヤマタ、ならぬミツマタノオロチ、ですか。三つ首の宇宙怪獣もおりましたね」
 村人にキメラについての聞き込みを行いながらそんな事を言うのは斑鳩・八雲(ga8672)だ。どのルートを通って村まで来るのか、を洗い出す。
「倒したら尻尾から剣でたりしませんかね」
 まぁちょっと首が足りませんが、と軽口を叩くのは叢雲(ga2494)である。
「はは、お酒でも持ってくるべきでしたかね。まぁ、酔うような相手にも思えませんが‥‥」
 と斑鳩。集めた情報を元に周辺を探査する。
「夜な夜な巨体が動くんやったら、通った跡残ってそうやな」
 と言うのはクレイフェル。その予想の通り巨大な何かが這いずった後が沼から村まで伸びていた。どうやら障害物を避けつつ最短ルートで何度も往復しているようだ。
 一同は情報を総合し、退治の為のプランを練る。
「足場が確りし、見通し良く、少しでも此方が上から攻撃できる様な場が理想でしょうか‥‥」
 広げた地図にルートと周辺地形の概要を書きこみながらセシリア・ディールス(ga0475)が言った。
「平らな場所のが動きやすないか?」
「白兵で、かつ軽機動を主体になら確かに‥‥しかし射撃がありますから‥‥連携するとなると‥‥」
「なるほど。そっちに合わせた方が良さそやな」
「方針は迎撃かしら?」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が問うてくる。セシリアとは仲の良い友人らしい。
「‥‥はい、夜に、出て来た所を討ちましょう」
 頷いてセシリア。迎撃点の候補をピンで刺す。
「了解。たっぷりと焼き焦がしてやるわ」
 エネルギーガンを手にふふ、と艶然な笑みを浮かべてケイは言ったのだった。


 夜。百億の星が煌めき、蒼白い月が燃えている。風が、吹いていた。
「俺らがなんとかするさけ、心配せんとってな!」
 ゆっくり寝といて、と、クレイフェルは集まった村人達に向かって笑いかけ、力強く胸を叩いてみせた。
 その姿に村人達はお願いします、と安心と不安の交じった笑みを浮かべ、よろよろと各人の家へと戻ってゆく。
「起きたらもう脅威はない、そうなるよういっちょ頑張らんとな」
「はい」
 クレイフェルの言葉にヤマトは頷く。
 出発前、各々提灯やランタン、暗視スコープなどを装備する。
「『切り札』は常に手中に、ってな」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるアッシュ・リーゲン。貫通弾だけを装填したマガジンを一つ作った。
「浩志さんも知覚武器を一応持ってください。他の方も用意したかもですが、私は機械剣を‥‥」
 言ってセシリアは金属の筒を青年に渡す。
「では私からはこれを」
 とマイアはエネルギーガンを渡した。
「え、二人はどうするんだい?」
「私は大丈夫だ、コレがある」
 とアスモデウスを取り出して見せてマイア。
「はい、私も光銃があります‥‥使い易そうな物‥‥選んで下さいです‥‥」
 とセシリア。
「なるほど、了解。相手固そうだし助かるよ。有難う」
 とヤマト。
「ああ、ヤマトさん、皐月さん。私はそちらの動きに合わせます。存分にどうぞ」
 十字架銃を担ぎつつ叢雲が言った。
「ん、解った」
「了解です」
 準備を整えた一行は、昼に定めた迎撃点へと向かう。小高い丘の頂に伏せる。大蛇はいつもこの丘の付近を通って村へと向かっているようだった。
 待つ事しばし、やがて蒼い闇の彼方から巨大な影がずり、ずり、と音を立ててうねりながら這って来た。這い寄る黒影。でかい。十、いや十五m以上はある。誰かが緊張に唾を飲む音が聞こえた。
 蛇が接近し、丘へと差しかかる。
「来たな‥‥! 行くぞ、ヤマト殿!」
「応!」
 ヤマトが銃を構え、両眼を闇にギラリと光らせて答える。マイアは空へと照明銃を掲げると引き鉄をひいた。光球が飛びだし夜空に炸裂する。
 三つ首の大蛇の姿が光に照らされて浮かび上がった。その首が丘の上を向く。一同は一斉に動き出す。
 ケイは練力を全開にすると先手必勝と急所突きを発動させ、エネルギーガンを撃ち放つ。狙いは左の首の喉元。九条もまた右首のピット気管のありそうな鼻先を狙い光線を撃ち放った。強烈な破壊の光が大蛇に次々に突き刺さり鱗を爆ぜ飛ばしてゆく。
 アッシュは突撃銃を構え右首の眼と口を狙いダブルバーストで狙撃をかけている。ライフル弾は狙い違わず目へと飛んだが、素早く伏せられた目蓋に弾かれた。
(「‥‥存外にかてぇな」)
 胸中で呟き、舌打ちする。
 ヤマトはエネルギーガンを両手で構え左首を狙い猛連射している。マイアもまた杖をかざして電磁嵐を発生させ左首の額へと攻撃を仕掛けている。セシリアは全体へと練成弱体を発動させている。大蛇の防御強度が減じた筈だ。
 斑鳩は駆けつつ練力を全開にすると硝子の刃に極限までエネルギーを集中させ振り抜く。音速の衝撃波が空を裂いて唸り大蛇の右首に炸裂した。
 叢雲は左首に対しまず十字架銃で弾幕を張り、弓に変え、さらに超機械で電磁嵐を発生させている。どれが一番効果が高いか計っているようだ。
 射撃の嵐が爆裂し、大蛇の鱗が次々に爆ぜ飛び、鮮血を噴出させてゆく。クレイフェルが脚を輝かせながら駆け大蛇へと肉薄する。狙いは中央。
 巨大な三つ首が鮮血を噴出しながらも唸り一斉にクレイフェルへと牙を向いた。男は残像を残す勢いで加速する。瞬天速だ。何もない空間を蛇の巨頭が通り過ぎ、勢い余って地面を爆砕した。土砂が吹き上がる。
「頭が多ければいいってものじゃないですよ」
 クレイフェルは声を残し、再び瞬天速で超加速すると駆け抜けながら大蛇の首元を撫で斬った。大鎌が大蛇の鱗を切り裂き鮮血が迸る。
 三方から首が迫る。素早くステップして掻い潜りつつ連撃。大鎌で切り刻む。
 九条がクロムブレイドを振るって剣閃を巻き起こす。音速波が次々に飛んだ。追いかけるように突っ込む。空刃に鱗が弾け飛んだ、次の瞬間、跳躍して大蛇の右首の眼球を狙って剣を繰り出す。閉ざされた目蓋の隙間に刃を滑り込ませ、突きこみ掻きまわす。大蛇が苦悶に口を開き、しゃむに頭部を振るった。九条は剣を手放し、勢いで回転しながら地面に着地する。
「ジョーカーは、此処で切らせて貰うぞ?」
 アッシュが言いつつ突撃銃に貫通弾のマガジンを装填する。練力を全開にして速射。目の傷口の一点を狙って針の如く弾丸の嵐を叩き込んだ。銃弾に傷口が押し広げられて鮮血が舞う。
 後衛からの閃光が爆裂する中、突っ込んだ斑鳩が硝子の刃を振るっている。鈍い手ごたえ。
「‥‥存外に硬い、ですね」
 大蛇が振り回す頭部を一歩後退して回避しつつ、左手に持つ金属の筒を振り上げる。蒼光の刃が伸びた。
「虚実の双刃とは、いやはや中々洒落たものですね――斑鳩流、紫電二式」
 ゆったりと言いつつ光刃で鱗を切り裂き、硝刃を傷口を狙って突きこむ。大蛇が咆哮をあげた。
 ケイは練力を解放しながらエネルギーガンで猛攻を加えている。凶悪な破壊力に大蛇の鱗が次々に吹き飛んでゆく。
「尻尾!」
「ボディ!」
 大蛇が身をくねらせて薙ぎ払うように尾を繰り出した。クレイフェルは瞬天速でかわし、九条は跳躍してかわした。斑鳩はガントレットで受けつつ後方に飛んだ。鉄塊の如き尾が腕に炸裂し、男の身が吹き飛んだ。宙で体を捌いて着地、靴が地面にこすれて土煙が巻き上がった。
 大蛇が牙を剥いて吼える。
「榴弾のデザートはいかがですか」
 叢雲は十字架を回転させ担ぐように構えると榴弾部を向ける。練力を全開にしてトリガーを握り引き撃ち放つ。グレネードが大蛇の咥内に叩き込まれ爆裂を巻き起こした。
 マイアは電磁嵐で頭部への攻撃を続行し、ヤマトはエネルギーガンを撃ちながら突進している。肉薄すると機械刀から蒼刃を発生させて斬りつけた。
「‥‥これなら、如何です‥‥」
 セシリアはエネルギーガンを構えると電波増幅を発動させつつ、大蛇の牙を狙って閃光を撃ち放った。命中。牙の一つが焼き折られて根元から落ちる。
 大蛇はその巨体に見合った頑強さと生命力を持っていたが、傭兵達の火力はそれを一蹴に伏すものであった。三つの頭部を振り回し、尾さえも使って応戦したが、クレイフェルには当たらず、九条や斑鳩にもなかなか当たらず、当たっても致命傷にならず、すぐにセシリアの練成治療で回復されてしまう。
 大蛇は猛攻を受けて急速に弱ってゆき、やがて三つに頭部を砕かれて動かなくなったのだった。


「怖くなくなった訳じゃないさ。けど、治らないって言うなら、私がそれに合わせればいいだけの話だろ?」
 大蛇を撃退した後、ヤマトに問われるとマイアはそう答えた。
「ヤマト殿は、気にせず歩けばいい。ちゃんと、私が合わせてやるから」
 青年はその言葉に少し考えると、
「解った。有難う」
 笑ってそんな事を言った。
 それにマイアは嘆息して言う。
「苦労するのは何時も女さ。男は楽でいいな、突っ走ればそれで気がすむんだから! ‥‥なんてね、ははっ」
「実に耳が痛いね」
 かつての少年はそんな事を言って苦笑した。
「おう、話は終わったか?」
 紫煙をくゆらせつつアッシュ・リーゲンがやって来て言った。
「今度余裕が出来たらメシでも食いに行こうぜ、俺の奢りでな」
「え‥‥良いんですか?」
「悪けりゃ言わんよ」
「それじゃ有難く。その時は連絡ください」
「おう」
 ニッと笑って男は言ったのだった。



 かくて東南アジアの村を襲っていた大蛇は討伐され、村は平穏を取り戻した。
 傭兵達は村人達からの感謝の言葉を受けつつ、高速艇に戻り帰還する。
 この地上から打ち払うべき災厄は星の数ほどあり、傭兵達の銃と剣を求める声は消えてなくならない。
 いつかこの地上から武器が必要とされなく日は来るのだろうか? 空では赤い星が輝いている。


 了