タイトル:氷煌の女神マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/15 11:46

●オープニング本文


 白く、白く、冷厳の大地に降り注ぐ雪のようにその女の肌は白い。
 彫刻のそれのように眉目は整っていて、肢体に纏う衣は太古に地中海を制覇した帝国のものに似ている。
 ほっそりとした両手にはそれぞれ一振りづつ剣が握られていた。
「馬鹿な‥‥俺達が、全滅、だと?」
 分厚いコートを着込んだ雪原兵が小銃を杖にして、血に塗れた身を起き上がらせる。
 彼の周囲の大地は放水車で赤い絵の具でも撒き散らしたかのごとく鮮烈な赤に染まっていた。
 頭部が、腕が、足が、バラバラに切り刻まれて無数に転がっている。もしも地獄があるのならば、こんな風景が転がっているに違いないと男には思えた。
 周囲から唸り声が聞こえる。
 兵士は三方を囲まれていた。前に女、左に銀毛の巨狼、右に白毛の大猿。
――ここまでか、と思った。
――まだだ、と思う。
 男は女を睨み据え、雄叫びをあげて小銃を構える。
(「せめて、後に続く者の為に、せめて一撃!」)
 SES機関が唸りをあげ、特注のライフルから爆裂する閃光が解き放たれた。猛烈な破壊力を秘めた光が一瞬で空間を灼き焦がし女へと伸びる。
 中る、と思った瞬間に女の姿が掻き消えた。光は虚空を通り過ぎて行く。
 男は咄嗟に首を振る。右手を見やるとそこには太刀を振りかぶった女の姿があった。男の視界が乱れ、左右に別れてゆく。女が太刀を振り下ろした姿で、冷たい瞳で男を見ている。
 鮮血をぶちまけながら、男は自らが縦に断ち切られたのだと理解し、そして絶命した。

●基地からの指令
 ――日――時――分、某村からの救援要請を受けて出撃した隊からの通信が途中で途絶えた。最後の通信内容は「返す、至急支援を――」だ。なお某村からの通信も途絶えている。
 隊長のマクスウェルはかつてタートルワームを単身生身で撃破した当基地一番の猛者だ。そう簡単には遅れは取らぬと思えるが何らかのトラブルに巻き込まれた可能性も否めない。
 通信が消えたのは座標A付近だ。可能な限り周辺を捜索し、マクスウェル隊を支援せよ。座標A付近捜索より三時間が経過してもマクスウェル隊と合流できなかった場合、貴隊のみで某村へ救助へ向かわれたし。到着後適切に当たって処理し、現状を確認し、報告せよ。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859
17歳・♀・AA
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
楊江(gb6949
24歳・♂・EP

●リプレイ本文

 グリーンランド、吹雪の大地。白雪が舞う中を二台の四輪トラックとAU−KVが走っている。
「支援を求めて通信が途絶えた、か。タートルワームを生身で倒す豪傑が‥‥」
 ガタゴトと揺れる車内、杠葉 凛生(gb6638)が双眼鏡で周囲を警戒しながら低い声で呟いた。
「気を引き締めて行った方が良さそうね。寒冷地のトラブルは一歩間違えば生死に関わるわ」
 鯨井昼寝(ga0488)が呟きを拾い上げて言った。
 現地の地理に明るい筈の名うての猛者でさえ巻き込まれたのであれば、それはいかなる種の問題であろうと最大限に警戒すべき事態だと鯨井は思う。
「間に合えば良いのですが」
 ヨネモトタケシ(gb0843)はハンドルを握りつつ呟いた。
「‥‥悪い予感しかしませんねぇ」


 重苦しい雰囲気の中、傭兵達は白の道を進む。
「安否が気になります‥‥一体なにがあったんでしょう」
 二台目車内。運転手を務めている楊江(gb6949)が「さむ」と身を震わせつつ言った。丁寧に運転し乗員にストレスを溜めないように心がけている。その甲斐あってか悪路だが揺れは比較的少ない。
「無事だと良いんやけどなぁ‥‥」
 と呟いてエレノア・ハーベスト(ga8856)。
「み、皆さんもよろしければ一杯どうですか?」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)がポットから湯気たつお湯を注ぎコーヒーを淹れて言った。微妙にサンディ(gb4343)やエレノアから離れた位置に陣取っている。
「あ、どうも有難う」
 紙のカップを受け取りにこりと笑ってサンディ。
「いいいえ!」
 ビクリとしてドッグ。女性恐怖症であるらしい。難儀なものである。


 雪中の道を行軍する事数時間、やがて傭兵達は通信が途絶えたという雪の谷へと辿り着いた。
「この辺り、かな‥‥?」
 バイクを止め、纏わりつく冷気に身を震わせながら霧島 和哉(gb1893)が言った。AU−KVを装着してれば気温の影響は受けないが、バイク形態ではそうもいかない。
「体が冷えてはええ動きが出来まへんで」
 車内から降りたエレノアが震えてる霧島を見て魔法瓶から紅茶を差しだして言った。霧島は礼を言って受け取り、湯気立つ紅茶に口をつける。少し身体が暖まった気がした。
「まずは捜索、か。グリーンランドにゃ化け物じみたキメラが多いからな。無事だと良いが‥‥」
 軍用のコートを着込んだ赤毛の少年がバイクから降りて言った。アレックス(gb3735)だ。
 ドラグーンの二人はAU−KVを装着し、十名の傭兵達はマクスウェル隊の捜索を開始する。
「白いな‥‥何もかも」
 冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859)は雪に埋め尽くされた谷と舞う白雪を見てぽつりと呟いた。表情は能面のようで何を思っているのかは外からでは容易に窺い知る事はできない。
 冥姫は無線機を用意し、楊江と杠葉は探査の目を発動させ痕跡を調査する。雪に半ば埋もれかかっている轍の跡を発見し、それを追う。
 十分程度を進むと破壊された車両が鎮座しているのが発見された。周囲にはバラバラになって凍結している軍兵の骸が転がっている。
「ひでえな‥‥」
 凄惨な死体の山を検分して杠葉が呟いた。
「これは、氷のブレス、か‥‥? あとは、刃物で殺られた跡‥‥こっちは‥‥獣の爪牙、か。四本足の奴がいるな」
 しかし、デカイ。まだ残る雪の乱れと足跡が、戦闘の激しさと敵の巨大さを示していた。
「この様子ではマクスウェル隊は‥‥」
 ドッグが周囲を見回し、呟く。
「‥‥全滅、ですね」
 転がる頭部の数をかぞえて楊江が嘆息した。
「どうか、我々の戦いを見守っていてください‥‥」
 GoodLuckを発動しドッグは祈りをささげた。
「主よ。死者に等しき安らぎを与えたまえ」
 サンディもまた瞑目し印を切っている。
「誰一人として生きてへんか‥‥見慣れたつもりやけど、やっぱり来るもんがありますなぁ」
 エレノアが鬱屈したように言った。
「弔ってやらねぇと‥‥」
 アレックスが呟いた。
「残念だけど、後よ」
 鯨井が言った。ドッグタグを骸から取り、女は油断なく周囲へと視線を走らせる。
「ここは、まだ戦場だわ。傭兵が出来る死者への弔いは、ただ敵を討ち滅ぼすことだけよ」


 傭兵達がマクスウェル隊の全滅を確認し車両へと戻る途中周囲を警戒していた杠葉が声をあげた。
「右だ!」
 谷の右手上方、積雪を巻きあげながら巨大な猿と狼が突進してきている。狼の背の上には剣を携えた女の姿が見えた。
「で、でかすぎるでしょう、こいつは!」
 楊江が叫んだ。五メートルの巨体を蠢動させ積雪を爆砕しながら突進してくる巨狼と大猿はかなりの迫力だ。
「雪山に、薄着の女と狼と猿か‥‥おかしな組み合わせだな」
 鈍い金属音と共に小銃をスライドさせロードしながら杠葉が呟く。
「ふふん、コイツはなかなかヤバいオーラ漂わせてるわね」
 狼の上に乗っている剣女を睨んで鯨井が言った。マクスウェル隊の被害状況からも女が一番の脅威のように思えた。
「全力を以て‥‥当たらせて頂く!」
 天魔の二振りを左右に抜き放ってヨネモトが叫んだ。傭兵達は突進してくるキメラ達を迎え撃つべく谷間に展開する。
「まずは挨拶といこうかぁ!」
 覚醒し表皮を漆黒に変えたドッグが雰囲気を激変させて叫んだ。黄金の色の洋弓に矢を番え、裂帛の気合と共に撃ち放つ。矢は錐揉むように回転し閃光と化して飛んだ。狙いは剣持つ女。
 女は即応し、間髪入れずに狼の背を蹴って宙へと跳ぶ。矢は足先をかすめて空を貫いてゆく。女は宙で二刀を振り上げると蒼白い光を宿し咆哮と共にクロスするように振り払った。瞬間、煌めく粒子が発生し、瞬く間に巨大な氷の竜巻と化して傭兵達へと襲いかかる。
 距離がある。ドッグは身をかわしつつ虚闇黒衣を発動させる。闇の衣が氷の竜巻と激しく鬩ぎ合う。大部分を虚空へと弾き飛ばし、男は立っている。健在だ。周囲に撒き散らされている余波を鯨井とサンディは素早く飛び退いてかわす。他の傭兵達も素早く散開した。
「狼、か。以前戦ったのよりは小さいが、爪と牙には気を付けろ!」
 アレックスが言って槍を構えて突撃してゆく。傭兵達も各員接近を開始している。
 ドッグは二射目を撃ち放つ。雪原に着地した女は駆けながら剣で打ち払って矢をかわす。距離が詰る。杠葉は突っ込んで来る狼の足元を狙ってシエルクラインで弾幕を張った。積雪が弾丸に穿たれ舞い上がる。狼は方向転換し、弧を描く軌道で突っ込んで来る。
(「あの時は上手くいったけど成功するか」)
 エレノアはクロムブレイドを振り上げると極限までエネルギーを集中させ、渾身の力を込めて振り下ろした。空が断裂し風が逆巻く。スマッシュ&ソニックブーム。全霊を込められた音速波が唸りをあげて飛んだ。大猿は迫りくる音速波を両腕をクロスして受け止める。鋭く破裂するような音と共に体毛が散り鮮血が飛んだ。
「我が太陽にて、叩き割る‥‥!」
 その衝撃の隙に冥姫がサイドから間合いに入った。全長3mの大斧を振りかぶり裂帛の気合と共に薙ぎ払う。斧刃が猿の脇腹を抉り切った。赤い肉片が宙に弾け飛ぶ。同時、冥姫の視界の斜め上から光が迫り来た。猿が怒哮をあげ、巨木の如き豪爪を叩きつける。少女の肩口が切り裂かれ、勢い良く鮮血が吹き上がる。猿が左の腕を旋回させる。連撃。
「うぉおおおおおおおっ!」
 接近した楊江が気合の声と共に逆サイドから錫杖を繰り出す。衝撃に大猿の身が僅かに揺らいだ。振り下ろされる爪を冥姫は身を捻りながら紙一重で回避する。一歩、踏み込んで斧を振り下ろした。大斧が猿の鎖骨に炸裂する。
 他方、サンディは脚部を淡く輝かせながら巨狼に向かっていた。剣と盾を構え、巨狼の繰り出す爪を軽やかにかわして側面に回り込む。少女はハミングバードを手放すと、即座に炎光を纏った剣で抜刀様に斬りつけた。狼の身から鮮血が吹き上がる。
「我が刃、その身に刻め!」
 嵐の如くに連撃。狼が首を回し反撃の牙を繰り出す。少女は悪地形をもろともせずに軽くステップしてかわす。速い。
「行くぜ!」
 炎のドラグーンが突っ込んだ。裂帛の気合と共にエクスプロードで猛連打を繰り出す。凶悪な破壊力の爆裂が次々に巻き起こり巨狼の体躯を猛烈な速度で削り飛ばしてゆく。
 ドッグと撃ち合っている女型キメラに対しヨネモトが二刀を構えて突っ込んだ。長大な太刀で嵐の如く斬りかかる。かなりの腕力だ。女は太刀を剣で流し、一方を身を沈めてかわし、踏み込む。剣の間合い。ヨネモトは身構える。視界の端を一瞬、白が断った。肩口に猛烈な衝撃。
(「‥‥袈裟に斬られた?!」)
 速い。
 剣閃が、というよりも、その前の予備動作が少ない。前に出るタイミングが計れない。
「何の‥‥まだ始まったばかりです!」
 装甲とタフさには定評がある。ヨネモトは活性化を発動させ、重装甲に物を言わせて突っ込み剣の間合いを潰さんとする。女の姿がかき消える。首と眼球を横へ。女は既に右の太刀を最上段に振りかぶっていた。不味い。瞬間、鉄塊の爪が出現し女を貫いた。消えた。残像だ。瞬天速で現れた鯨井は即座に後方に飛び退く。光が奔る。刃の先がかすめて鯨井の首が割れた、皮一枚。急所を狙った剣をかわす。盾を構えたドラグーンが全身からスパークを発生させキメラへと突っ込む。剣女は一歩片足を踏み込むと、入り身の要領でかわしざま斬りつける。烈閃。AU−KV内の霧島へと衝撃を伝える――軽い! 頑強さにかけては比類がない。反撃の剣を繰り出す。女が回避し、ヨネモトが二刀で猛然と斬りかかり、鯨井がその姿を掻き消した。


 猿が豪腕を振るう。閃光の如く爪が迫り来て冥姫の側頭部に炸裂した。ぱっと赤が舞い、鈍い音が鳴り響き、女がぐらりと転倒する。楊江が錫杖を猿へと叩きつける。猿は攻撃を受けながらも暴風の如くに腕を振り回した。青年は自身障壁を発動させる。爪が炸裂し男は独楽のように回転しながら吹っ飛んだ。雪の大地に身が叩きつけられ、目蓋の奥で火花が瞬く。
(「つ、強い‥‥!」)
 起き上がろうともがく、視界が折れ曲がって揺らいだ。嘔吐感が込み上げ、目眩がする。5mの大猿は血走った眼を倒れている冥姫へと向ける。その横顔に銃弾が炸裂した。
 エレノアがS−01を連射しながら突っ込む。懐に入るとクロムブレイドで巨猿の足めがけて斬りつけた。鈍い手ごたえと共に血肉が飛ぶ。間髪入れずに逆襲の爪が女の身に降って来る。エレノアは咄嗟に剣を掲げて受け止める。
――重い。
 足元が滑った。踏ん張りが効かない。天地が回転した。受けたまま仰向けに転倒し大地に叩きつけられる。地が陥没し、爆砕されて積雪が噴水のように吹き上がった。


 杠葉はラグエルに貫通弾を装填すると狼の顔面を狙って猛射する。狼は首を振って急所をさけるもその肩口に着弾し鮮血が吹き上がった。
「トドメ、行けるか?! サンディ、例のヤツをやるぞ!」
 爪牙をランスで受け流しかわすと装輪走行で間合いを外してアレックスが言った。
「わかった!」
 少女は了解の意を返すと彼女もまた逆方向へ、挟み込むように距離を取る。狼は唸りをあげてアレックスを追う。
「インテーク開放‥‥ランス『エクスプロード』、イグニッション!」
「スパイラルレイピア、リボルビング!」
 少女がレイピアを抜き放ち構えると同時、練力と爆槍の機能を全開にし全身からスパークを発生させてドラグーンが吼える。
「うぉおおおおおらぁッ!!」
 向かい来る巨狼の爪を突撃しながら掻い潜ってかわすと爆裂の槍に竜の咆哮を乗せて叩きつけた。猛烈な破壊力が五mの巨体を吹き飛ばし雪の大地に転がす。
「無に返れ、トルネードスラストッ!!」
 疾風迅雷を発動させ、暴風と化した女が狼の巨大な頭部を刺し貫き粉砕した。


 紅蓮の光が巻き起こった。
 冥姫は爆熱の光を大斧に宿すと豪力を発現させ、練力を全開にして斬りかかる。再度鎖骨へと叩きつける。インパクトの瞬間に猛烈な衝撃が発生し大猿の巨躯が揺らいだ。鈍い音が鳴り響く。その隙にエレノアは横に転がりながら起き上がり、素早く狙いをつけてS−01で猿の顔面を狙って猛射する。
 楊江もまた立ち上がると錫杖で猿の脇の下を狙って猛烈な突きを連打した。
 猿が片腕を振り回す。先より鈍い。冥姫は後退しながら大斧で受ける。猿が片足をひきずっている。斬撃が効いている。エレノアは突っ込むと健在な方の足へも刃を突き立てた。楊江が錫杖で首を突き態勢を崩した大猿を吹っ飛ばす。巨体が地響きを起こしながら大地に叩きつけられて積雪が舞った。
「‥‥悪いな、このような地に長居するつもりはない‥‥貴様達は白く還れ!」
 冥姫は大斧を振り上げると大猿の首へとその巨塊を叩きつけた。


「速すぎる‥‥!」
 矢を番えたまま戦況を睨みドッグはぎりと歯を噛んだ。四者が入れ替わり立ち替わり激しく入り乱れている。射線が厳しい。味方の背に当ててしまっては元も子もない。
(「見えて来ましたよぉ‥‥!」)
 ヨネモトが剣女の猛攻を装甲の厚い部分で受けながら前進する。武器には有効距離がある。自身も大業物故、こちらの威力も減るがプレッシャーをかける事はできる。
 瞬間、女が右の構えを弓を引くように変えた。
(「‥‥突き?!」)
 唸りを上げて切っ先が迫り来る。ヨネモトは咄嗟に首を振る。首の端が貫かれる。太刀を正面に立て払う。そのまま横に引き落としに来た剣と天魔が激突して火花が散った。霧島が竜の翼で突っ込んで剣を繰り出した。女は一刀で受け、剣を突き出す。カウンター。霧島は肩に激痛を覚えた。AU−KVの肩の関節部が火花をあげる。隙間を抜かれた。霧島は身を捻り、刃を抜く、のではなく、喰らい込んだ。剣を手放し相手の刃を掴む。一瞬、捨てるか打ち込むか女に迷いが見えた。鯨井が猛然と加速した。剣女の横に出現しその腕めがけて振り下ろす。一閃。爪が女神の細い腕を断ち切って斬り飛ばした。間髪入れずに連打。女は加速し、咄嗟に大きく距離を取ってかわした。残った一刀を掲げ、猛然と煌めきを集める。
 瞬間、剣女の身から爆裂が巻き起こった。ドッグの弾頭矢だ。霧島が竜の翼で加速する。爆炎を突き破ると剣女の背後に回り込み、咆哮と共に盾で殴りつける。女の身が吹き飛び、雪の上を転がった。片腕の女は、それでも剣を杖に起き上がる。しかし、
「我流‥‥剛速刃!」
 ヨネモトが着地点に肉薄していた。練力を全開にし、居合いの要領で腰から奥の手の機械刀を抜き放って一閃させる。女が加速する。抜き打ちの速さの勝負。
 女の姿が掻き消え、レーザーブレードが宙を薙いだ。
 次の瞬間、ぼとりと、雪の上に首が落ちた。
 加速がついていた身体は雪の大地を転がり、やがて止まって動かなくなった。


 かくて、傭兵達はキメラを退け村へと辿り着く。そして一つの滅びた村を確認し弔うと報告と共に帰途についたのだった。