タイトル:ベルガンズ・サガ5マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/03 11:09

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 鍔の金属がスライドし空気を吸ってエネルギーが刀身に集中する。気合いを込めて振るえば戦車をも両断した。
 新兵器だという。SESは昔からあったが人体に埋め込むまで小型化されたのは最近の事だ。
 人類全体で一千人に一人という確率の適応者、それのみが『エミタ』を埋め込む事が出来た。埋め込まれた者達は能力者と呼ばれた。
 能力者は強力無比を誇るフォースフィールドを突き破る事が可能だった。これの登場により戦いの在り方は大きく変わった。絶望一色ではなく、希望が見えた。
 だが能力者の実力というのがどの程度のものなのか。疑問視されていた。またどれほどまでその力を拡張出来るのか、予想すらついていない段階だった。
 能力者を集めて一隊を組織し効率的な運用と共にその力がどの程度なのか試験が行われたのは必然だった。
「君も能力者なの?」
 雪国の戦線。その大地に溶け込むように真っ白なコートを身に纏った者達が居た。能力者の実験部隊。白のオーダー。うちの一人、蒼い瞳の女が童子を見てそう言った。
「‥‥ああ」
 年の頃は十二程度だろうか。小柄な少年は身に不釣り合いな長大な剣を担いでいた。
 蒼い瞳の女は柔らかく微笑すると、
「そうなんだ、ボクはルミス・マクブルースっていうんだ。よろしくねっ」
「‥‥‥‥ああ」
「いやさぁ、なんか回り皆年上の怖そうな人ばっかじゃん? どーもボク、浮いてる気がしてさぁ。若い者同士、仲良くしようぜ。ちなみにボクは十四歳さ! 君幾つ? あ、ていうか、名前なんていうの?」
「‥‥‥‥よく喋るなアンタ」
「あっはっは、気を悪くしたなら御免よ。ボクも何せ初めての事だからテンパってるのだよ」
「‥‥俺はクォリン=フィッツジェラルド‥‥歳なら十二」
「十二?! 戦場でボクより二つもちっちゃい子、初めて見たよ。いつも最年少だったからさ。そうかやっぱりボクの方がお姉さんなのだね。よし、解らない事があったらなんでも聞きなさい」
「‥‥‥‥あんたは、どう言えば黙るんだ?」
「あっはっはー! お姉さんいきなりコミュニケートに挫けそうだよ!」
 ルミスは最年少だと驚いていたが、クォリンは自分と同年代の数多くの少年兵が戦っていたのを知っていたし、自分よりも年下の暗殺者が居るのも知っていた。だから別になんとも思わない。
「そういう時代だ」
 前に居た施設の教官がぽつりと洩らしていたがきっとそういう事なのだろう。
「私がこの隊の隊長に任命されたイリーナ=トルスタヤだ。皆、よろしく頼む」
 隊員が整列した時、ロシア人の女が言った。元はシベリアの部隊にいたらしい。なるほど、雪国での戦いには慣れてるのだろう。
「お、良い女〜」
 壮年の男が口笛を鳴らした。元は英国空軍のエースだとかなんとか。KVで支援に当たるらしい。
「私語は慎むように」
「はいはい、了解」
 隊長が居て、友が居て、仲間が居た。戦いは数多くあって、クォリン達は多くの戦いに勝った。
 勝っていた――が、その隊としては最後となる一戦で敗北し、皆、ほとんど、死んだ。


「何があったんです?」
 レイヴル=バドラックは机の上に資料を投げ出すと真白の外套に身を包んだ小柄な少年へと視線をやった。
 ルミスは強化人間となり、クォリンとエドウィンは彼女と戦って重症を負いエミタに欠陥を抱える事となった。以降両者は一線を退きカンパネラの講師や偶に傭兵として戦うに留まっている。
「‥‥暇な奴だな」
 クォリンは無表情でレイヴルを見据え返すとそう言った。
「暇じゃあないんです。だから、詳しい事情って奴は解っていない。君の口から言ってもらえると助かるんですけどね」
「知る必要が何処にある?」
「‥‥能力者が何処まで戦えるか、ですか。最後の作戦、かなり無茶苦茶だったみたいですが、その関係で?」
「さぁな。俺はあいつではない。ただ、理解は出来る」
「へぇ」
 レイヴル=バドラックは卓上で指を組み合わせ目を細めた。
「‥‥なんだその目は、勘違いするなよ?」
「じゃあ、聞きますがね、なんで天下の剣聖様が負けてるんですか? 当時のルミスが要塞にいたアレより強かったって事はないでしょう? 君、その頃は全盛期だったんですよね?」
「向こうが一枚上手だっただけだ」
「へー」
「‥‥あいつは既に多くの人間を虐殺している。ならば元の理由など関係がない。不幸を盾にして無関係の者にまで怨みの剣を刺して回る者は殺すべきだ。俺の剣はあいつを斬れと言っている」
「なるほど、その言葉を信用して良いんですかね?」
「舐めるな」
「念の為はっきり言っておきますが、こう、調べておいてなんですがね。別に俺は君等の過去に何があったのかはどうでも良いんです――君の剣が鈍りさえしなければね。俺の計算が土壇場で狂いさえしなければ、それで良い」
「舐めるな、と言っている」
「これは失礼」
 レイヴルは肩を一つ竦めると少年を見据えて言った。
「‥‥ではその言葉を信じましょう。よろしく頼みますよクォリン」


 グリーンランドがベルガンズ・ノヴァの北方に広がる戦陣、ヘイエルダール旅団が守りを固めるその地へとグリーズガンド・バグア基地より繰り出されるキメラ部隊が展開して一進一退の戦線を張っているのは昨年よりよく見られる光景である。
「あはははは! ひき潰しに来てあげたよムシケラどもぉおおおお!!」
 背から黒輝の光の翼を生やした女が低空を高速で舞いながら剣を振るって黒い衝撃波を地上へと撃ち放ち、水晶の竜が吹雪のブレスを吐いて範囲内の歩兵達をズタズタに切り裂いて抜けてゆく。体長10mを超える黄金の竜人が背中から激しく放電を撒き散らしつつ口から荷電粒子の光波を猛連射して大地を薙ぎ払い消し飛ばし、体長十mを超える鋼鉄の巨人もまた両手から電撃の嵐を解き放って空間を薙ぎ払ってゆく。その足元を純白の小鬼達がちょろちょろと動いていた。
 純白の雪は瞬く間に蒸発し、歩兵達が次々に消し飛んで赤い色を空間に舞わせ、S‐01が、R‐01が、フェニックスが次々に破壊されてゆく。
「KV隊八機、壊滅! 守備隊は総崩れです!」
「ポイント76、抜かれました! 強化人間とキメラ群、陣を破壊しながらなおも前進中!」
 本部では通信兵の悲鳴が飛び交っていた。
「第一KV隊がやられたか‥‥」
 筋骨たくましい初老の男がつまらなそうに鼻を鳴らした。旅団長ヴェイオル・ヘイエルダールである。
「レイヴルに伝えろ。例の傭兵隊を出せ」
「はっ!」
「大佐、KVすら容易く破壊する相手に歩兵、ですか?」
 金色の髭を蓄えた参謀が言った。
「他のポイントも五分五分という所だ。他に動かせる戦力が無い。連中ならやる。連中で負けたら、ここもこれまでだ」
 ヘイエルダールはそう言って椅子に腰かけモニタの光点を睨んだのだった。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文


「取り返しがつかない罪ってあると思います?

 ――――極論を言えば無いと思います」

〜ベルガ史某章六節より二丁光銃の傭兵の言葉〜


 十四人の能力者が爆裂する陣を目指して駆けている。
「これまた豪い事になってますなぁ、敵がでっかいもんばっかりやわ」
 エレノア・ハーベスト(ga8856)が言った。地平の彼方に見える超巨大キメラの群れ、積雪を爆砕し大地を揺らす巨獣達。その付近ではKVの残骸が煙を吹き上げている。人類の切り札たる超兵器でさえも敗北した。今回の命令はそれを生身で撃破しろ、である。
(「旅団長は私達を何だと思っているのか」)
 アグレアーブル(ga0095)は胸中で呟いた。しかし頭は攻略方法を探しだしている。敵の戦力、戦場の地形、そして味方の戦力、随分と馴染んだ面子だ。
「‥‥妥当な配置、ね」
 ぽそり、と呟く。割と化物が揃っている。
(「‥‥やっぱり、こうなりましたか‥‥まぁ、逃がせばそうなりますよね‥‥」)
 遠目に巨大な水晶の竜と共に舞う強化人間の少女の姿を確認して朧 幸乃(ga3078)は呟いていた。予想出来ていた事態だ。だからこそ前回の交戦で仕留められるように心を砕いた。しかし、地の利がルミスに味方した。恐らく備えていたのだろう。今回はそれは無い、が、翼がある。封じたい所だが――
「今回は逃がさず、行きたいですね‥‥」
 静かに朧は呟いた。
「これは‥‥規模が少し違う様な気もします‥‥ね‥‥でもここでやらなければ‥‥」
 御鑑 藍(gc1485)が呟いた。前回殺れなかったから今回の死亡者達があり、今回逃がせばまた味方の誰かが死ぬ。
「負けたくない。この程度で今までの全てをぶち壊させやしない!」
 アレックス(gb3735)はそう思う。払って来た犠牲があり、積み重ねた物がある。
 白のオーダー。その最後の出撃に何があったのか。何故クォリンは残り、ルミスはバグアに行ったのか。
(「直接、本人達の口から聞くしかねェよな‥‥」)
 白コートの少年を見る。
「気になる?」
 アグレアーブルはルミスを視線で指してクォリンへと問いかけていた。
「‥‥彼女、何を犠牲にしたのかしら」
 女は以前は空は飛ばなかった。プラント戦の時より更に力を得ている事は遠目にもわかる。クォリンは無表情で黙したままだ。
「もし行きたいなら‥‥」
 止めない、アグレアーブルはそう言った。クォリンはアグレアーブルを見ると、
「待ってください」
 シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)が言った。
「取り返しがつかない罪ってあると思います?」
 そう、問いかける。
「あるだろう」
 クォリンはシンへと即答した。
「俺は無いと思いますけどね」
 レイヴルが口を挟んでそう言った。
「‥‥僕も極論を言えば無いと思います」
 シンは前方を見据えながら言った。
「当人と受け取る側の心のありようでいくらでもやり直せるはず」
「‥‥お前達は霊魂を信じるのか?」
 クォリンは少し考えた後にそう問いかけた。
「ええ」
 レイヴルはにこやかに微笑して言った。嘘をついている顔だ。クォリンは言う。
「俺は信じない。もしも本当にあの世があるなら、シンの言葉に同意する。だが俺はあの世の存在を信じていない。死ねば終わりだ。俺は神の赦しに価値をおかない。加害者への他人の赦しなど被害者にとって何の意味がある? 罪と赦しは一対一。そして死者は返事をしない。だから殺した場合は取り返しがつかない」
「‥‥‥‥彼女、生かして連れ帰れないですかね?」
「止めておいた方が良い」
「何故です?」
 シンが再度問いかける。
「危険だからだ。死んだら二度と帰ってこれない」
「罪でも?」
「それが戦士だろう。武器を振るう意味を知らない者は戦士ではなく、その罪の為に必要な武器を捨てる者も戦士ではない」
「なるほど‥‥ね」
 シンは呟くとレイヴルを見る。
「まぁ、損害を増やさず確実にやれるのならそれに越した事はないんですが‥‥あちらさん雑魚じゃなくて、さらに殺る気満々ですからね‥‥」
 士官のその言葉にシンは手にした銃を見た。あの当時、幼かった彼の弟がキメラに襲われ大怪我をした。その経験から子供を救う事に強いこだわりを持っている。敵味方関係なく精神も身体も救いたいと。故に、ルミスもまた殺さず諭したい。だが、
「‥‥彼女が逃げることで被害が拡大するよりはここで芽を摘んだ方が良いですね」
 それをこれ以上続けるなら。
「誰でも命は一つです」
 レイヴルはそう言って頷いた。傭兵達は手早く作戦を打ち合わせる。
「ルミスはんの監視は、レイヴルはんに任せてもええやろか?」
「了解です。最善を尽くしましょう」
 エレノアの言葉に頷いてレイヴル。
「見学なんて言わないでしょ?」
 アグレアーブル(ga0095)がクォリンへと言う。金竜へと当たるらしい。
「アイツは、俺達に任せておけ。クォリンは説教でもしてやってくれ」
 アレックス(gb3735)もまた少年へとそう言った。空のルミスと氷竜へは相棒と朧と共に三人で対応するようだ。
「‥‥奴への言葉は無いな」
 クォリンは「初動はアンタ達を援護しよう」とアグレアーブルに言った。共に黄金竜に当たるらしい。
(「‥‥本当は、直接彼女と戦って、自分の手で終わらせてあげたいと思っているのかな」)
 夢姫(gb5094)は真白い外套をはためかせて駆けてゆく少年の背を一瞥し胸中で呟いた。
 ルミスと揃いの白いコート。お互いの性格を知り尽くし、過去に戦ったこともある因縁のある関係。多くは語らないけれど、内に抱える複雑な感情が溢れ出ているよう、と少女は思った。
(「それとも、自分で手を下さずに済んで、ホッとしているのかな」)
 前を見据え、呟く。自分ならばどうだろう。
 今は敵味方に分かれていても、一緒に過ごした時間は確かに存在していて、わたしたちがベルガで共に戦っているように。もしも親しい誰かが敵に回った時、自分ならば、どうする――? 解らない。
(「色々詰まった白いコートを脱ぐのは‥‥過去を清算できた時なのかな‥‥? 清算‥‥」)
 違う、気がした。取り返しがつく事は無いと言った。罪だと言った。そう言った彼が戦後それを脱ぎ捨てるだろうか? その白の外套は彼と彼等が駆けて来た想いと成し遂げた事と、そして血色の罪の体現だ。
 万を殺せば英雄だという。英雄は戦えない者を守り、救うという。だが英雄は誰が救うのか。神を信じない少年は言う、殺された者は返事をしないと。故に、英雄達の罪は償えず、彼等に救いは無い。それでも武器を持つ者が戦士。平和はただでは無い。
 傭兵や兵士には神を信じる者が多い。エミタに欠陥を抱える壊れかけの少年、彼は信じない。彼等も人だ。
「俺は神を否定しません。神は全ての罪を聞いてくれる」
 何時だったか、レイヴルはそう言っていた。例え偽りでも、救われるものがあるならそれで良いと。その言葉は言外に存在を否定しているようなものだったが。それが少年と青年の、性格と立場の違いだろう。
「――何が悪いかと言えば、何もかも全部。つまり、やるしかないってことよ」
 黄金の髪の女、ラウラ・ブレイク(gb1395)は出撃する際に拳銃をホルスターに納めながらそう言っていた。
(「いつも、通り‥‥」)
 霧島 和哉(gb1893)は胸中で呟いていた。負けられないではなく、負けたくないから戦うのも。相手の理由を無視して自分の理由を押し付けるのも。出し惜しむつもりも余裕も無い事も。
 そう、まったくいつも通りだ。今回は特別ではない。敵の討伐、飽きられる程繰り返された性質の戦い。
「作戦は班を三つ、仮として当たる。方針であって、実際の行動は臨機によろしくねっ」
 ボディスーツとアーマーに身を包んだ女が言った。ドラグーンの狐月 銀子(gb2552)だ。
「今回は、前のようにはいきませんよ」
 A班で氷竜に当たる予定の辻村 仁(ga9676)が言った。以前ドラゴン相手に深手を負ったので今回は決して後れを取らないようにと意気込んでいる。
「水晶のドラゴンの息は多数を巻き込みます。距離に十分注意してください」
 仲間達にそう注意を飛ばす。ブレスでまとめて攻撃さえされなければ、なんとかなる手合いの筈だ。
(「まぁ、ドラゴン以外の敵も、非常に厄介ですけどね‥‥」)
 胸中で呟く。まったく、強敵ばかりである。
「了解‥‥」
 頷いて霧島。
「真白、よろしく」
「ええ、偶には裏方も良いものよ」
 シンに頷いて八葉の真白。今回は彼の援護に徹するようである。
(「似合わないけどね〜」)
 妹人格の八葉 白雪(gb2228)がそんな事を言った。
(「‥‥似合わないのはわかってるわよ」)
 胸中でそう言葉を返す。
 最後にエレノアが言った。
「敵は厄介やけど、これを返り討ちにして景気付けと行きますぇ、ほんら皆はん気張りまひょか」
 女の言葉にそれぞれ応えて十四人の傭兵が戦陣へと突入してゆく。強化人間ルミスとの戦いが、再び始まろうとしていた。


 陣に展開した能力者達、ルミスを中心とするキメラ集団との相対距離一三〇。それぞれ得物を抜き放ち構える。戦闘開始。
「‥‥気休めかもしれないけど、餞別よ」
 真白は超機械を翳すと自身とシン、ラウラ、狐月、アグレアーブル、エレノアへと練成強化を飛ばした。シンのゼーレ、ラウラの魔創の弓、狐月のエネルギーキャノン、アグレアーブルの重機関砲、エレノアの翠閃に淡い輝きが宿ってい行く。
 シンはグッドラックを発動させ動きを見ている。
 相対距離一二〇、陣に備え付けてある重機関砲へと取りついたアグレアーブル、夢姫、黄金竜へとその砲門を回しトリガーを押し込む。SES機関が唸りをあげ、爆音と激震と共に銃口から焔が吹き出し凄まじい勢いで弾丸の嵐が空へと向かって撃ち放たれてゆく。鋭く飛んだ弾丸は次々に黄金の竜の身へと直撃し、その鱗を砕いて鮮血を噴出させた。
 黄金竜は怒りの咆哮をあげ、大剣を構えて弾雨の中を突進してゆく。エレノアは側面を取るべく横に展開し、狐月は竜の翼で加速、真っ直ぐに前進して塹壕に転がりこむとまた同様に横へと動く。
 突進する黄金竜は相対距離九〇まで入るとアグレアーブルへと向けて口からプラズマ光波を連射した。黄金の光の嵐が唸りをあげて一瞬で空間を制圧して飛来し、赤毛の女は素早く飛び退いた。重機関砲が光に飲み込まれ爆裂と共に融解し吹き飛んでゆく。
 シンは戦場を回り込むように移動を開始し、真白は迅雷を発動させてそれを追った。
「遊びたいみたいね」
 アグレアーブルはレイヴルに支援要請を飛ばし、クォリンを誘うと光波を放ちながら突進して来る黄金竜へと向かって前進する。
 狐月は塹壕から身を乗り出すとエネルギーキャノンを構え、黄金竜の斜め後方より猛烈な爆光を解き放つ。三連の光が竜の身に炸裂して破壊を撒き散らした。
「先ずは小手調べやで」
 エレノアは黄金竜の左手から迫ると翠閃を一閃させ、閃光と共に音速の衝撃波を撃ち放った。ドラゴンは機敏に反応すると飛び退きながら大剣を振るい二連の爆風を叩き潰す。雑魚では無いらしい。エレノアはそのまま突っ込む。
 他方、ルミスは黄金竜の前進に合わせて空より突撃している。朧はアレックス、霧島、辻村、御鑑へと練成強化を発動させる。アレックスが前進して淡く輝くオルタナティブMを向け猛連射、挑発の言葉と共に弾丸を飛ばす。
「よぉ、また会ったな元人間! 翼なんぞ生やして人間の枠から外れた心算かい?!」
 ルミスと戦うにしても空を飛ばれている限り相棒の後ろで銃を撃つ位しか出来ない。故に、挑発して白兵戦の間合いに降ろす事を試み、霧島もまた強化を受けて輝く小銃を空へと向けると、その進行方向へと置くように偏差で射撃する。
「‥‥キサマラカァッ!」
 ルミスは身を回転させて旋回しアレックスからの六発の射撃をかわすも霧島から放たれた二発の弾丸のうち一発を身に受け血飛沫を噴出させた。練成強化が効いている。また前回より装甲が薄い。しかし黒炎は発生させずにそのままアレックスへと旋回しながら降下してゆく。
「ハハッ! そうとも! ボクは選ばれた生命体だ! 虫けらは虫けららしく地べたを這いずり回ってろォ!!」
 相対距離五〇まで詰めると叫び、大剣を振るって黒衝撃波を巻き起こした。今の所ドラグーンコンビと接近してやりあうつもりは無いようだ。
 アレックスは竜の翼を発動させると霧島の陰へと回らんとする。ルミスはアレックスへと偏差で剣を一閃させ、二閃目、舌打ちしつつもそのまま烈閃を巻き起こす。初撃が塞ぐ形で霧島へと命中し、さらに六連の衝撃波が次々と襲いかかり霧島を直撃する。しかし霧島は構わず氷晶竜へと銃を向け射撃、三連の弾丸を飛ばす。霧島、負傷率五分。その様子を見たルミスは斜めに上昇し、アレックスの頭上、真上を取る形へと移行する。
 氷晶竜へは辻村と御鑑が向かっている。辻村、味方と距離を取りつつ展開、御鑑はルミスに追随する氷晶竜へと輝くシエルクラインを向けて猛射。狙いは顔と翼、ブレスを妨害し飛行能力を阻止したい。八十発の弾丸を空へと解き放つ。竜は首を振り旋回し、弾丸が翼の端と肩に命中して血飛沫を舞わせる。が、水晶の竜も簡単に堕ちる程ヤワではない。御鑑へと距離を詰めると大きく息を吸い込み、辻村が注意の声をあげる。次の瞬間、氷の吐息がコーン状に広がった。煌めき逆巻く小氷刃の嵐の渦が御鑑へと襲いかかる。御鑑は即応すると練力を解放、宙に淡い光を残しつつ雷光の速度でその場より退避せんとする。積雪にブーツを滑らせて態勢を崩した。氷の渦が雪原に渦を巻き雪を舞わせる。御鑑、範囲の外に出ている、かわした。辻村は淡く輝くフリージア拳銃を息を吐いている竜へと向けると、その翼を狙って三連射してリロードする。練成強化を受け唸りをあげて飛んだ弾丸のうち二発が命中して翼をぶち抜いた。
 朧は先見の瞳を発動させつつ霧島へと練成治療を飛ばし回復させている。
(「私は私の仕事を‥‥前を、全体を視て‥‥」)
 後方にはアグレアーブルや夢姫がいる。朧にとって、彼女達は信頼できる。
「鎧に仕掛ける」
 他方、ラウラは魔創の弓に弾頭矢を番えビッグ・スティール・ガントレット(以下BSG)へと狙いを定めている。横に展開しBSGの進路誘導を狙う。回復手のイアトロンがBSGから離れないなら、BSGの進路を操作すればイアトロンもまた誘導出来るという考えだ。
 女は呼気と共にはっしと放ち三発の弾頭矢を直撃させて爆裂を巻き起こしてゆく。BSGはラウラへと向かって進路を修正しつつシンへと両手を向けるとその十本の指の先から荒れ狂う電撃の束を解き放った。
 シン、避けられそうにない。エネルギーガンをクロスして十mの巨人から放たれる六十連発の電撃波をガード。爆雷が荒れ狂い壮絶な破壊が空間を灼き尽くしてゆく。負傷率一割九分、シン・ブラウ・シュッツ、頑強だ。電撃を突き破って瞬天速で加速し相対距離50まで詰める。射撃する余力はあるが、次に一気にゆくか? 小鬼へと良く狙いを定める。小鬼達はBSGを治療している。
 レイヴルはルミスを警戒しつつ、重機関砲へと取りつくとルミスを狙って猛射している。クォリンは練力を全開にすると黄金の竜人へ向かって加速している。振り降ろされる巨大剣に対し身を低く屈めると瞬天速で加速し真っ直ぐに突っ込んだ。大剣の先が大地に突き刺さって爆砕され、閃光が走り抜けて竜の両手首から血飛沫が噴出して断裂して落ち、右の膝裏が割れ、エレノアが入って左の膝裏へと1.5mの太刀を叩きつけた。
「砕けろ!」
 刃が炸裂して鮮血が舞い散り、竜の両足の筋が切れてその膝が落ちる。
 ルミス、霧島が回復したのを見て朧へと向きを変える。武器と攻撃の有無立ち位置から判断したようだ。その辺りの判断はキメラとは違う。全身に黒炎を纏い爆風を巻き起こして加速し天空から塹壕内の朧へと向かって矢の如く急降下。接近戦で一気に仕留めに来た。レイヴルが声を飛ばし、黒翼の女は手に持つ凶つに輝く黒光の大剣を朧へと向かって振り降ろす。
 朧、接近戦は不得手ではない。が「確実にあちらが格上でしょう」という予想の通り、剣技においては敵は圧倒的だ。飛び込んで来た次の瞬間、空間が七つに断裂し朧の装甲がズタズタに切り裂かれその身から盛大に血飛沫が吹き上がった。朧は斬られながらも練成治療を六連打している。十一割二分までいく即死級のダメージ量だが、それでも回復量の方が上だ。負傷率零割。真に練成治療、偉大である。
 アレックスが駆けてルミスの後方から塹壕内へと踊り込み、銃から槍へと持ち変えて突き降ろす。圧倒的な六連の超爆発がルミスの後頭部、延髄、背中で炸裂してゆく。しかしそれを受けてもルミスは少し顔をしかめただけで振りかえらない。黒い炎が邪魔だ。
 狐月はエネルギーキャノンから独特の音をあげつつ黄金竜へと光波を五連射して爆裂を巻き起こし、クォリンは南へと後退しながら黄金竜より放たれる六連の爆光のうち三発をかわし、咳き込んで倒れ、エレノアが光を吐いている竜人の顎へとスマッシュ併発の音速波を叩き込んで強制的に閉じさせる。竜の咥内で爆裂が巻き起こった。
 夢姫、櫓はちょっと遠い。そのまま刀を抜いて突っ込む。アグレアーブルは瞬天速で加速すると態勢を崩しつつも跳躍して回転舞を発動、宙を蹴ってさらに跳ぶと真燕貫突を発動、竜人の腹と強烈な二段蹴りを叩きこむ。夢姫はその隙に竜の腹にしがみつくとその身をよじのぼってゆく。
 着地したアグレアーブルが連打を加え、竜人は血を撒き散らしながら腕を振って夢姫を払い落さんとし、夢姫は竜の身を蹴って空へと跳躍すると回転舞を発動、銃を宙へと突き刺すとそこを支点に車輪の要領で跳ね上がると回転しながら落下し目にも止まらぬ速度で竜の眉間へと黒刃を突きだした。刃が入って竜の鱗と頭蓋を突き通し、その奥にあるものをぶち抜いた。夢姫は手首を返して刃を捻ると掻き回しながら引き抜く。竜の瞳から光が消え、その巨体が倒れてゆく。撃破。
 ラウラは後退しながらBSGへと弓矢を連射している。BSGはラウラへと前進しつつシンへと爆雷の束を飛ばしている。シンは三十発の雷撃を受けつつも鬼を狙いに踏み込み、四〇m以内の距離に入った所で電撃の破壊力が急激に増加する。しかし、壮絶な電撃波の嵐とシンとの間に真白が間に割って入った。
「悪いけど、大切な妹の友人を傷つけさせる訳にはいかないの」
 手甲をかざして三十連の壮絶な破壊の光をガードしつつ練成治療を自身に発動。負傷率七割一分までいったが、四連打して全快復。シンへも治療を二連打して全開させる。
「回復する暇は与えませんよ!」
 シンは激しく雷撃が爆ぜる中、真白の陰から小鬼の頭部を狙って両手のエネルギーガンを向け二連射を発動、光の嵐を流星の如くに解き放つ。小鬼は楯を翳して光線を受け止めるも十四連の爆光は衝撃で削り隙間から撃ち殺した。小鬼が吹き飛んで地に倒れ、もう一匹が治療を連打して起き上がり、自身へと治療を連打する。全快復。敵味方共に治療術は強力らしい。
 霧島は氷晶竜の翼を狙って銃撃している。氷竜は霧島へと目標を移すと煌めく氷のブレスを解き放つ。霧島は楯を翳してガードし弾き飛ばした。辻村はフリージアで、御鑑もまたシエルクラインで竜の翼を狙って銃弾を叩き込んでいる。片翼が破れて竜が地上へと落下してゆく。レイヴルはイアトロンの方へと向かう。
 アグレアーブルはクォリンを拾って後退中。
 ラウラは後退しながら射撃しBSGはシンや真白に背を向けラウラを追っている。レイヴル、シンと真白は小鬼へと光線と弾丸を猛連射し、狐月もまた竜の瞳を発動させてエネルギーキャノンを猛射しているが頑強な楯と強靭な生命力と回復能力の前に殺し切れない。倒れてもまた起き上がって来る。
 粉雪を巻きあげ大地を爆砕しながら大地に降り立った氷晶竜は霧島へとブレスを猛射し、霧島は氷霧を突き破ってルミスへと向かう。
 辻村は血桜を構えて竜へと踏み込むと裂帛の気合と共に四連の剣閃を巻き起こす。血色の刃が竜の鱗を叩き斬って抜け血飛沫を噴出させた。御鑑は再度迅雷で加速すると水晶竜へと肉薄し、脚爪を叩きで駆けあがり、その足の付け根を狙って弧を描く軌道で剣を振り降ろす。加速された刃が命中して鱗を割ってゆく。エレノアもまた突撃して剣を竜の足へと叩きつけた。夢姫はイアトロンへと向かっている。
 ルミスから焔が消え、再度黒炎が吹き上がる。女は大剣を振るって朧の手へ烈閃を巻き起こし超機械クロッカスを破壊する。グローブが避け、朧の手がズタズタに裂かれて鮮血が吹き上がる。
(「思考はクールに‥‥」)
 朧、さらに襲いかかる黒の剣閃を見据え、身に受け血飛沫を飛ばしながらも小型超機械αを取り出し練成治療を発動させる。連打して自身を再生させ、アレックスの槍へと練成強化を飛ばす。
「行くよ‥‥アレクさん?」
 霧島は言った。彼女の心を救う事は自分には出来ないと、だから、
「せめて‥‥その狂気だけは、終らせてあげる‥‥」
 それがエゴと解っていても。
「擁霧、『全練力解放(フル・トランス)』!」
 少年の竜の紋章が間隔を早めながら黄金色に明滅してゆく、不敗の黄金竜だ。ここで使うか、否、ここだからこそ使う。同じ手段だからこそ、突破できれば隙は大きいはずだ。
「‥‥ブレイクッ!」
 蒼白い光がルミスへと放たれた。唸りをあげて光が飛び、直撃し、激しく鬩ぎ合い――そして炎がふっと消え失せた。同時、霧島のAU‐KVの出力が低下し覚醒が解除され、アレックスの竜の紋章が激しく黄金に輝き始める。
「リミッター解除‥‥アドバンス・イグニッション!」
 アレックスが叫んだ。練力を全開に不敗の黄金竜を発動させ槍を構える。
「その絶望だけは、俺の全てを懸けて振り払ってやるぜ! 終焉の七連撃(セブンス・ファイナル・ストライク)!」
 青年が胸――は背後からは狙えないので、ルミスの後頭部を狙って踏み込みランスを繰り出す。瞬間、黒炎が吹き上がって穂先を受け止め、押し止める。壮絶な超爆発が塹壕の内部を揺るがし、周囲の気温すらも上げてゆく。しかし、
「この炎の上からでも痛いってキミってどんだけ〜? って思うけどさ」
 朧への斬撃の手を止めて、アレックスへと振り返りルミスが笑う。
「二回目は、驚かないよ? 攻撃を受ける前にまた発動させれば間に合う話さ。あははははははッ!!」
 アレックスは流れるように連続突きを繰り出している。七連の超爆発、しかし、ルミスは微笑を浮かべながら炎の中に立っていた。そしてまた血に濡れた大剣を手に朧へと振り向き――そして黒翼を出現させて宙へと飛びあがった。
「同時にふっ飛ばしましょう! シンと真白で左、他は俺と右!」
 レイヴルが言って合図を出し、シンが光線の嵐を解き放ち真白がリボルバーで追撃を放って左のイアトロンを三度粉砕し、右のイアトロンをレイヴルのエネガンと狐月の竜の爪からのエネルギーキャノンからの爆光と夢姫のルナ小銃の弾丸が吹き飛ばす。BSGはラウラを追っている。
「片膝を破壊して動きを止めましょう」
 射程外から後退しながら攻撃を続けているラウラは練力を全開にすると両断剣を発動、弾頭矢を番えるとBSGへと撃ち放つ。二連の矢が勢い良く飛び突き刺さって大爆発を巻き起こした。
 辻村、御鑑、エレノアが太刀を振るってクリスタルドラゴンを血の海に沈め、ラウラ、シン、真白、レイヴル、夢姫、アグレアーブルが総攻撃をかけてBSGを破壊した。
 ルミスは距離を取って上空を舞っている。
「‥‥逃げるのか!」
 AU‐KVのアーマーが解除されたアレックスが空を見上げて言った。
「はっ! そっちこそもう戦えないじゃないか。勝負は預けといてやるよ!」
 ルミスは言って黒光を噴出させると旋回し北の空へと消えて行ったのだった。回復手がいる限り簡単には倒せない。朧、真白、レイヴルをバリア無しで一人で沈めるのは無理だと判断したらしかった。


「また逃げられましたね‥‥」
 ぽつりと呟いて朧。翼を持ったルミスを屋外で仕留めるには、地上に縫い留めないと無理だ。
「傭兵隊の人的被害は零です。戦果としては上々です」
 レイヴルはそう言った。また「あれはよっぽど上手くやらなければ仕留められる相手ではないようです」とも。
「私達は良くても‥‥他で被害ばかりが増えますよ?」
「ですねぇ‥‥まぁ、考えますよ。仕留める為の手段を」
 ぽりぽりと頭を掻きながら少尉。
「人は目的の為に死ぬ事を口にしても、命を奪う事は語らない」
 ふとラウラが空の彼方を眺めながら呟いた。
「あの子は自分に正直だったのかもね」
 思う、
(「私も過去に道を違えたらどうなったか‥‥」)
「あの子がどのような過去を持ち、どのように苦しんだか。そんな事には微塵に興味もないわ。きっとお互いにでしょうけど」
 真白はそう言った。
 かくてベルガ戦陣を強襲した強化人間とそれが率いたキメラは撃退され、陣は陥落を免れた。
「でかくてごついのより、小さくて可愛い方がいいわ」
 誕生日を迎えるのだという夢姫の髪を整えながらアグレアーブルが言った。
 夢姫は鏡の向こうの己の背後に立つ女を見る。アグレアーブル。夢姫にとって女としても、傭兵としても憧れの人だ。
(「ベルガでずっと一緒に戦ってきて‥‥少しでも追いつけているかな?」)
 夢姫が傭兵になったのは十四の時。今度の誕生日で十六。
「どうかしたの?」
「いえ‥‥わたしは、アグさんみたいな素敵な女性に成長できているのかなって」
 その言葉に赤毛の女は言った。
「明日は綺麗な服を着て、お祝いにしましょう」
 と。
 人と人が素晴らしい限り、どんな場所にだって楽しい事はあるものだ。



 了