タイトル:ベルガンズ・サガ4マスター:望月誠司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/17 15:10

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 紺碧の世界に陽が昇る。
 氷雪のグリーンランド、ベルガ北東に広がる山脈地帯、その中の一つのキメラプラントを巡って長い戦いが繰り広げられていた。
 一月末、十二名の傭兵達の活躍を以って白い悪魔達を撃破し、赤く染まった斜面を踏破してプラントへと迫ったハイレディン大隊だったが、未だにこれを陥落させる事が出来ないでいた。
 ドーム状のプラントの正面を破り内部へと突入したまでは良かった。多くの区画も占領した。だが敵は地下深部の閉所に兵力を集中させて陣取り土俵際でハイレディン隊の攻勢をはねかえしていた。激しい反撃によりハイレティン隊は夥しい被害を出して攻めあぐね、ならば持久戦よと構えてはや五ヶ月、隊を構成していたメンバーも入れ替わり立ち替わりしている程に期間が長い。特に契約期間が短い傭兵などはそうである。
 敵も味方もこの間に激突したフロントラインでの戦いで拮抗しているらしく互いに規模の大きい増援を送れていない。睨み合って五ヶ月、まぁ砦の戦ならそういった事もあるのだろうが昨今では北京等の例外を除けば珍しい事態ではあった。
「突入隊は全滅‥‥見誤ったか」
 長期にわたる城砦戦で疲れ果てている様子のハイレディン=ザンギエフが言った。一当てして激しい反撃が無かった事から、いい加減敵も弱ったろうと踏んで大攻勢をかけさせたのだが、あっさりと虐殺されてしまった。どうやら弱ったふりだったらしい。
「ここまで来て撤退せざるをえんとは‥‥」
 赤髪の大男は肩を落として呟いた。なんでも敵には滅法腕の立つ蒼髪の女戦士がいるらしい。十中八、九、強化人間だろう。出発当初は千名いた隊員も既に六百を割っている。何よりフォースフィールドの上からでもキメラを殺せるだけの高火力兵器が尽きかけていた。これ以上の作戦の継続は不可能、そう思えた。
「お待ちください」
 黒いコートに身を包んだ一人の士官がやって来て声をあげた。赤髪碧眼のやや長身の青年。エイリークの息子レイヴルだ。通称、
「バドラック、無事だったのか」
「なんとか。先の突撃によって敵キメラの数はかなり減じています。ここまで押しておいて退くは無いかと。弱気になってはいけません。ここで退いては本陣は側面に敵を抱えたままになってしまいます」
「だが損害は最早隊としての機能を失いかける程になっている。もう一度攻勢をかけて敗北すれば、撤退する事すらままならなくなる。強化人間を打ち破れるだけの戦力はもう残されていないだろう」
「いえ――少佐、先程増援としてベルガ本陣より傭兵隊が発ったそうです」
 紙片を広げて読み副官が言った。鳥がばさばさと飛んでゆく。
「何、傭兵が来るのか」
「彼等が到着すれば相手が強化人間とて勝負する事はできましょう」
 レイブルが言う。
「‥‥最後の希望、か」
 ハイレディンはしばし唸るようにして赤髭を撫で、
「‥‥‥‥それに賭けて、もう一度押してみるか」


 傭兵達は雪山のプラントに到着すると休息もそこそこに突入をかける事となった。
 ドームの途中までは既に味方が抑えている。しかし中盤あたりになると通路左右の高所からキメラが湧き出て来る。軍兵達がそれらを抑え、一行は奥へと突き進む。
「何故、確保してないんだ?」
 キメラに陣取られている高所を指し白コートの童子が言った。彼もまた増援として送られて来たらしい。
「一旦、潜らないと上に出られない構造のようで」
 そして深部へ潜るとその強化人間率いる隊が陣取っている。
「なるほど、その強化人間達を突破して進まない限り上に出られないと?」
「そういう事です」
 左右で爆雷が弾けSES無反動砲が唸りキメラと兵が倒れてゆく。最後の大盤振る舞いらしく兵達は大火力兵器を嵐の如くに叩き込んでいる。壮絶な爆炎が吹き荒れていた。
「‥‥もつのか、あんなペースで?」
「あれくらいやらなきゃもたんでしょう。戦闘員が減っています」
 クォリンは弾薬の事を問い、レイヴルは戦線維持について答えた。通路の確保に残る者、キメラに倒される者、隊は徐々に数を減らしながら深部へと向かって施設内部を駆けてゆく。
 階段を降り坂を降り、やがて傭兵隊のみとなった頃に一行は問題の通路の手前までやってきた。
「この先のお嬢さんです」
 レイヴルが言った。
 クォリンが壁に背をつけ奥の様子を窺っている。閃光に撃たれてすぐに首をひっこめた。
「‥‥なるほど、奴か」
 敵の姿を確認して、少年は得心がいったように呟いた。
「知ってるんですかクォリン?」
「ああ。名はルミス=マクブルース。見た目は餓鬼だが歳は確か十八だ。元は傭兵だが周囲を怨んでバグアに寝返った――正確には怨んでいた所に持ちかけられた、といった所か。強化人間だ。武装は両手剣、それと予備に短刀。根性無しだが技量は高い。縮地と真音獣斬に似た技を使う。剣に黒い光を宿して切れ味を増し、それと妙なバリアを張るな。あの女が黒い焔を纏っている間は物理非物理ろくに攻撃が通らん。張っていられる長さは十秒間一単位で三回といった所か。状況を見て切り替えてくる」
「‥‥詳しいですね君」
 レイヴルが言うと不意に声が響いた。
「キャハハ! また害虫どもが来たと思ったら君かいクォリン=フィツジェラルド! あんだけボクがぐっちゃぐちゃに潰してやったのに生きてたんだね! 驚きだ!」
 まだ幼さを多分に残した声だった。
「‥‥‥‥もしかして前対決した時は負けたんですか剣聖? 君、凍火の剣聖ですよね?」
 レイヴルがクォリンをぎぎっと首を動かして見る。
「根性無しだが技量は高いと言ったろう」
 クォリンは不機嫌そうに答えた。どうやらかなりの強敵であるらしかった。



■勝利条件
 通路からの敵の排除

■敗北条件
 7ターン目に突入した場合、退路を断たれる恐れが出て来るので撤退命令が出ます。作戦は失敗となります。
(PL情報)それで逃げる場合は敵は見逃してくれます。

■敵戦力(PC情報)
●ルミス=マクブルース
 蒼髪蒼瞳、身長155程度の痩身の女。白コートに身を包んでいる。腰に予備の短剣。黒い焔に身を包んでいる間は衝撃を殺し吹っ飛ばない。黒衝撃波の射程は50程。

●リトル・バーニングレオ
 剣とバクラーを装備した体長2mの獅子頭人。剣の切っ先からプロトンビームを直径1m程度、長さ100m程度で一瞬突き出してくる。一直線上を貫く範囲攻撃。通常剣撃の六倍程度の猛烈な破壊力だが二秒程度の溜めがある。1ターンに一発のみで、また至近での斬り合いに突入すると撃たない。ふっ飛ばしに耐性あり。

●イアトロン
 白い小鬼。体長120cm程度。楯と短剣で武装する。攻撃・回避は低いが防御力は高く極めてタフであり練成治療によく似た能力を持ち自身と周囲を素早く癒す。十秒間に三連発程度。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
辻村 仁(ga9676
20歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

「人間でいられなかった根性無しに、

 俺達は負ける訳にゃ行かねェ‥‥

 そうだろう、相棒ッ!」

〜ベルガ史某章五節より炎の傭兵の言葉〜


 薄暗い通路。曲がった先には強化人間とキメラ、後方では重い爆音が連続して鳴り響いている。
(「なんて、激しい場所‥‥!」)
 今回新たにベルガの戦陣から送られて来た御鑑 藍(gc1485)はそんな事を思った。
 氷の大地の城砦戦、激戦区中の激戦区。この領域の苛烈さは一、二を争う。敵も味方も手練だらけ。気を抜けば、抜かずとも、力が、運が、足りなければ隣にあるのは死だ。避けねば死神の鎌が首を吹っ飛ばしてゆく。容赦などという言葉は宇宙の彼方に光の速度で投擲されている。ここは戦場だ。
 少し、怖い、と御鑑は思った。だが、それでも。
(「少しでも皆さんの力になりたい‥‥」)
 何が出来る? 考える。思考が、立ち回りが道を切り開く。
(「随分と大変そうな戦場だこと‥‥」)
 八葉の真白もそんな事を胸中で呟く。八葉 白雪(gb2228)に宿るもう一方の人格だ。少しでも助太刀したい所。こちらに来たのは初めてだが、ここでも己の力は通用する筈だと信じる。
「随分気に入られているようですね」
 ルミスの言葉に対してか、ルミスへの言葉に対してか、シン・ブラウ・シュッツ(gb2155)は苦笑を洩らしながらそう言った。白外套の少年は通路の奥を向いたまま答えない。
「顔を出せば蜂の巣、留まれば退路をたたれる、か‥‥いくしかないですか、ね‥‥」
 朧 幸乃(ga3078)が壁に背をつけ右手に嵌めたクローの具合を確かめながら呟く。
「通路の維持に残ってる人達を考えたら、攻め倦ねてる時間は無いわね」
 ラウラ・ブレイク(gb1395)が答えた。
「ええ」
 アグレアーブル(ga0095)も淡々と言葉を返す。
 今回のこの攻勢も、この施設の攻略戦自体も、ここまで押して退くは無し、だ。
 越えて来た屍がある。
 負けるのは嫌いだ。
「ここで退けば、今までの犠牲が全て無駄になる。ベルガ本陣にも影響が出る」
 アレックス(gb3735)が石突で床を叩いて言った。
「あの街の希望を護る為に、俺達は力を求めたんだ」
 金色の炎光が噴出する。退く訳にはいかない。
「勝負どころ、かな」
 ラシード・アル・ラハル(ga6190)がイブリースをロードしながら呟いた。鈍い金属音が響く。
 これ以上、味方を死なせたくない。その為に、来たのだ。
「二度は負けない。そうでしょう? クォリン」
「同じ事を同じ条件で同じにやれば何度やっても同じ結果だ。だが、」
 少年が淡々と答える。
「状況が違う。負けるつもりは無い」
「クォリンはんはルミスはんと戦闘を経験しとるんやね」
 エレノア・ハーベスト(ga8856)が言った。
「一度目は残念やったけど、二度目の今回は同じ轍を踏まんようガンバっておくれやす」
「迷いなど元より無い」
 クォリンはそう言った。
 霧島 和哉(gb1893)は思う。
 最後の、等とは言わせない。ここはベルガの物語の通過点に過ぎないのだから。
 それでも。今ある希望を塗り潰そうとする絶望があるのなら。
(「‥‥そんなつまらないものは‥‥一つ残らず‥‥滅ぼしてみせる、よ」)
 鋼鉄のドラグーンから氷霧が舞った。


「全開は‥‥緊急用、で‥‥ね」
 霧島が言った。クォリンは「了解した」との言葉を返す。
「行きましょう」
 アグレアーブルが言った。傭兵達は手早く手順を決めると、攻略に乗り出した。これまで敵に動きは無い、長引けば撤退せざるをえないと予測しているのか、待ちに徹しているようだ。
 ラウラは腕を振った。淡い燐光の粒子が軌跡を描く。身振りで仲間に合図をすると壁に背をつける。ジャケット越しに冷気が伝わってくる。しかし、背筋が冷えるのは温度だけのせいではない。角のぎりぎりまで接近。閃光手榴弾のピンを口に咥え引き抜く。カウント1、盾を構えながら角から顔を出す。カウント2、左から白外套の少女、獅頭人、鉄鎧の姿が見えた。中央の獅頭人の手前目がけ右腕を振り投擲。間髪入れずにルミスから漆黒の衝撃波と鎧から閃光が飛んでくる。ラウラは盾で防御しながら後退する。一条の衝撃波と閃光が盾の端を叩いた。腕が吹き飛ばされそうな程の衝撃が巻き起こる。歯を喰いしばって痛みを殺す。負傷一割七分。直撃したら不味そうだ。活性化を発動させて傷を癒す。
 刹那の閃光が薄暗い通路を純白に埋め尽くし爆音が空気を震わせる。閃光手榴弾が炸裂したのだ。
 先手必勝を発動させシンとラシードが反応一番に駆け出し、他のメンバーも駆け出し、アレックスと霧島が竜の翼を発動させて加速し一気に追い抜いてゆく。霧島を先頭に角に飛び出す。
 ルミスが両手剣で一刹那のうちに六連の剣閃を巻き起こす。その軌跡から黒い衝撃波が発生し嵐となって霧島へと襲いかかる。ガントレットもまた両腕を突き出して閃光を爆裂させた。霧島盾を翳して受ける。炸裂する轟音と共に凄まじく巨大な鉄塊が連続して音速で叩きつけられたかの如き壮絶な衝撃が身を貫いてゆく。半端ではない破壊力。しかしそれでも霧島負傷率二割一分、こちらの硬さも半端ではない。閃光に目を眩ませつつも爆熱獅子が剣を弓をひくように引き絞りその先端に赤い光を宿している。
 アレックスは駆けつつケルベロス拳銃をガントレットへと向けると十八連バースト、弾丸を嵐の如く叩き込む。十八発の拳銃弾が壮絶な破壊力を炸裂させ装甲を泥の如く貫通して吹っ飛ばしてゆく。イアトロンが治療術をガントレットへ発動させる。
 瞬天速で追走したクォリンは霧島を斜め前にマグナムをルミスへと向けて発砲する。女は素早く横に駆けて三連の弾丸を回避してゆく。
 ラウラが状況を見て飛びだし、次いで朧、アグレアーブル、レイヴル、シン、ラシード、真白、エレノア、御鑑、辻村 仁(ga9676)の順で角に出る。獅子の剣光に対してシンは短く注意の声を発しつつそのまま横に駆ける。
 爆熱の獅子が赤輝を宿した剣を突き出した。狙いは霧島、一直線上。霧島は竜の翼で加速し横にスライドする。霧島に追走し距離を詰めていた真白は速度を落とした。直径1mの巨大な赤光の柱が熱波を巻き起こしながら宙を突き抜けてゆく。霧島の左を抜け、真白の前を通り抜けて、奥の壁に突き刺さって爆裂を巻き起こし高熱で石を融解させてゆく。白雪、駆けながらガントレットへとリボルバーを向け両断剣を発動させて発砲している。激しいマズルファイアと共に六連の貫通弾が飛び次々に鋼鉄の鎧に突き刺さった。練力が乗った貫通弾が壮絶な衝撃を巻き起こし泥でも撃ち抜くように鉄鎧に穴をあけてゆく。ラウラもまたラグエル拳銃を構え発砲、弾丸を叩き込んだ。
「まずは、鎧を、落とす」
 ラシード・アル・ラハルは位置につくと素早く床に片膝をつき狙撃眼、影撃ちを発動、銃底を肩に当てイブリース突撃銃を構える。サイトをスティール・ガントレットに合わせ、反動を抑えつつ精密に発砲。
(「あの鎧、中身、入ってるのかな――」)
 ふとそんな事が脳裏をよぎる。どっちでもいい。想像したくない。そんな結論と共に四連射。三連の貫通弾と弾丸が錐揉みながら一直線に空を切り裂いて飛ぶ。貫通弾がインパクトの瞬間に強烈な衝撃を巻き起こし鋼鉄の装甲を次々に穿ってゆく。イアトロンが治療術を連打している。
 シンは味方の攻撃が入ったのを見て距離三十まで踏み込むと二連射を発動、左右のダブルエネルギーガンを構えて凶悪な破壊力を秘めた光線を猛然と連射し始める。流星の如く降り注ぐ光の嵐がガントレットの装甲を爆裂と共に灼き、削り、次々に吹き飛ばしてゆく。
 辻村は機を見て相対二十まで踏み込むと、朱色の刀に極限までエネルギーを集中させて振り抜いた。音速の衝撃波が巻き起こり空を切り裂いて飛んでゆく。それを追いかけるように御鑑が脚部を淡く光らせ低い態勢から迅雷で突っ込んだ。接近すれば即死の相手に突っ込むとは決死の覚悟か、勝算有りと踏んだのか。
 爆裂を巻き起こし、音速波に打たれたガントレットに対し、手を床につくと足元を薙ぎ払うように低く脚爪で蹴りを繰り出す。インパクトの衝撃にガントレットの巨体が回転し前のめりに地面に倒れる。抵抗が軽い。御鑑は素早く身を起こすと炎光を纏う長剣をガントレットへと叩き込んだ。刃が鎧の隙間に突き刺さるも敵は動かない。撃破。傭兵達は回復の上からでも火力を集中させて削り殺した。強い。
「気を逸らす、その内に取り付け」
 エレノアは練力を全開にすると片刃の直刀を振るって閃光と共に音速の衝撃波を巻き起こした。唸りをあげて音速波が獅子頭人へと迫り、獅子はそれを盾でブロックする。轟音と共に衝撃が荒れ狂った。同時、迅雷で側面に突っ込んだレイヴルが紅爪を振り降ろして獅子を切り裂き、その肉を抉り斬る。続く青年の連撃に対して獅子は素早く左の盾で受け、駆けて来たエレノアは右に踏み込みざま、身体をふっと低く沈みこませた。次の瞬間、下方から伸びあがりざまに太刀を振り上げる。すくい上げるように振るわれた刃が獅子の剣持つ右手首を捉えて血飛沫を噴出させた。
 ルミスへは霧島、アレックス、八葉が向かっている。朧は限界突破を発動させ瞬天速で加速して間合いを詰めるとイアトロンへ向かって右手に嵌めたグローブ型の超機械を翳す。白い小鬼の周囲から蒼光の嵐が巻き起こる。電磁波がイアトロンを包み込んでその肉体を灼いてゆく。アグレアーブルは練力を全開に限界突破、瞬天速、疾風脚を発動させ光の軌跡をひきながらガントレットの残骸の脇を一瞬で抜けてゆく。小鬼の側面、取った。無反動砲で狙いを定め、猛烈な反動と共に轟音を巻き上げて撃ち放つ。砲弾が雷撃に触れて大爆発を巻き起こし小鬼の身を爆風で包んで吹き飛ばした。アグレアーブルは無反動砲を手放すと押し切れぬ可能性に備えてそのまま突っ込む。鬼の身が宙を舞い奈落の穴へと放りだされる。そのまま放物線を描き闇の底へと落ちていった。最早助かるまい。撃破。赤毛の娘は進路を横に転じて獅子へと向かい、朧もまた獅子へと向かう。二人はエレノア・レイヴルと共に獅子を挟み、その後背から手足の爪を叩き込んだ。
 他方、
「人間でいられなかった根性無しに、俺達は負ける訳にゃ行かねェ‥‥そうだろう、相棒ッ!」
 アレックスが槍を構えてルミスへと突撃する。
――無力を付き付けられ、誓いを、覚悟を捻じ伏せられて。それでも足掻き続けて来たからこそ、
「‥‥力に溺れる程度の、存在を‥‥認める訳には‥‥行かないから、ね」
 霧島が答えてアレックスの右に並んだ。炎と氷のドラグーンがルミスへと迫る。
「――オマエらなんかに、何が解るッ!!」
 二人の言葉に笑っていたルミスが顔色を変えた。怒声をあげ大剣に黒光を宿して下段に構えアレックスへと滑るように踏み込む。速い。
「知るかよ!」
 ランス『エクスプロード』、アドバンス・イグニッション。きっとルミスもアレックスや霧島達の事情など知りもしない。人間を害虫と見下す彼女が、消し去った命達の事情や未来に祈りを捧げたとは思えない。そんな者に負ける訳にはいかない。
 アレックスは爆槍を駆動させると敵が剣の間合いに入るよりも速くカウンターの槍撃を繰り出した。突き出される穂先に対しルミスはアレックスの左斜め前方へと入りながら下段から刀身を担ぐように振り上げた。鈍い衝撃と鋼が激突し、穂先が跳ね上がって逸れ、壮絶な爆炎が宙を焼き焦がす。霧島、攻撃後の隙を埋めんとサザンクロスで斬りかからんとするが、アレックスがスクリーンになっている。斬れない。ルミスはアレックスの左に入り、振り上げた大剣を手首を返し間髪入れずに一瞬で袈裟に振り下ろして来た。首元を狙っている。アレックスは咄嗟に身を捻って肩部の装甲で受けんとする。黒光の刃が走り抜け凶悪な衝撃と共にミカエルの肩部が切り裂かれて破片が舞い散る。
「貴女がルミスさん? 恨みは無いけど‥‥報いは受けてもらうわ」
 真白が二刀に持ち変え南から踏み込んだ。霧島が北から回っている。真白は練力を解き放つと半身に踏み込み、左の血桜で袈裟に払い、右足で踏み込んで月詠を唐竹割りに振り下ろす。霧島がスパークを全身から発生させつつ十字光線剣でルミスを穴の方へ弾くように薙ぎ払う。
 ルミスは剣を振り上げながら西に一歩半後退して十字光線剣と血桜をかわし、月詠の降り降ろしを大剣を高速で振り降ろして脇に撃ち落とし、一瞬で切り返して白雪の顔面を狙い閃光の如くに切り上げる。白雪は咄嗟に上体を逸らせる。顎先が斬られ面の下部が砕かれ刃が抜けてゆく。鮮血が噴出した。クォリンがふっとルミスの背後に現れる。瞬天速で背後に回った少年は長剣で少女の足元を薙いだ。女は宙に跳躍してその一撃をかわす。すかさずアレックス、霧島、八葉が仕掛ける。しかしルミスは宙で周囲を薙ぎ払うように大剣を振るって黒光の波を至近距離から撃ち放った。アレックス、霧島、八葉、クォリンに猛烈な衝撃波が直撃してクォリンが吹き飛び、アレックスがその打撃力に前進を押しとどめられ、八葉が勢いを鈍らせながらも堪えて踏み込み双刀を振り降ろし、霧島が猛然と衝撃波を突き破って突っ込みスパークと共に十字閃光剣を叩きつけた。インパクトの瞬間に少女の身から焔が膨れ上がり双刀と十字光線剣を受け止める。ルミスは平然とした顔で霧島の首の隙間を狙って剣を突き出す。霧島は盾でその一撃を受け流す。着地した瞬間にアレックスが突きを連射して黒焔の少女に真紅の爆炎を叩き込んだ。まさに桁違いの壮絶な破壊力。ルミスは顔を顰めつつアレックスへと斬りつけその装甲を叩き斬る。真白は後方に大きく跳ぶと左の血桜を鞘に納め、右の月詠を床に刺しリボルバーを再び抜いて弾丸をリロードする。入れ替わるように御鑑が疾風を発動させてルミスへ踏み込み、右腕を伸ばして片手突きを放つ。ルミスは体を僅かに横に動かして紙一重で避ける。
「集中攻撃! 弾幕援護も! 封じ込めて一気に決めます!」
 シンが言って『Seele』と『Licht』を爆熱獅子の頭部へと向ける。練力を全開に猛連射を開始。爆裂する閃光の嵐が薄暗い宙に連続する光の軌跡を描いて飛びだしてゆく。
 獅子は素早く横に動きながら盾を掲げて頭部を守りつつ、幅広の剣を颶風と共に振るってエレノアを薙ぎ払う。光が盾に炸裂して弾ける中、獅子の剛剣がガードに掲げたエレノアの剣を押しこんで肩口に喰い込んだ。朧は動きまわる獅子の背中に喰らいつき爪を無尽に振るう。ライガークローが赤壁を突き破り分厚い筋肉の塊を切り裂いて鮮血を噴出させた。アグレアーブルもまた獅子の背後を取り続けて脚を振るって蹴りを連続で叩き込み、靴先の爪で穿つ。レイヴルが爪を獅子頭人の腹に叩き込み、ラウラが駆けながら獅子の上半身へとラグエルを向け発砲する。
(「あの子、クォリンと似たコート着てる?」)
 ラシードは視界の端に捉えたルミスの姿を見てふとそんな事を思いつつ獅子の上半身を狙ってイブリースを構える。反動を抑えつつバースト射撃。唸りをあげて弾丸が飛ぶ。辻村は再度刀身にエネルギーを集め、獅子の上半身を狙って太刀を振り抜く。空を断裂して飛びだした音速波を追いかけて突っ込む。
 閃光と衝撃波が獅子の盾を頭部に縫い止め、朧、アグレアーブル、レイヴルの爪が切り裂き、銃弾が獅子の肩に炸裂して鮮血を噴出させる。エレノアは肩に受けた刃を力が緩んだ瞬間に跳ね上げると手首を返し、再上段から渾身の力を込めて落雷の如くに振り下ろした。光の剣閃が獅子の手首に炸裂し、半ばまで喰い込む、撫で斬る。鮮血が霧と化し勢い良く吹き出した。握力を失った手から剣が転がり落ちる。ラウラは石畳の床を蹴って疾風の如くに獅子の左から側面へと入り、辻村もまた血桜を構えて駆け獅子の右側面へと迫る。女は炎光を纏った剣を横薙ぎに振り抜き、男は朱色の太刀を左袈裟に振るった。X字の交差。ラジエルが獅子頭人の腹を切り裂いて鮮血を噴出させ、血桜が獅子の脇下を裂いて夥しい量の赤い雨を降らした。獅子頭の獣人は包囲攻撃の前に断末魔の咆哮と共に全身から血飛沫を噴出させ瞳から光を消して石の床へと仰向けに倒れてゆく。撃破。
 他方、八葉は突き刺した月詠を引き抜くと四人と格闘戦を繰り広げているルミスへ再度向かった。
「ところで、素敵なコートねそれ」
 銃を左に右の太刀を青眼に構え、背後を取られまいと駆けまわっているルミスの脇から回り込んで迫る。四人を相手に縦横に大剣を振り回す少女の剣閃は凄まじいものがあったがその顔には焦りが見えた。
「――黙れ!」
 真白の言葉にルミスが怒声を発し大剣を振り上げる。黒光が空間を縦に奔る。目視が不能な程の速度。真白は身を半身に斜めへと踏み込みつつ月詠を横に振るっていた。太刀と大剣が激突して軌道が逸れ、振り下ろされた剣の切っ先がコンクリートの床を爆砕する。真白は入り身の要領で踏み込みつつ、軽く横に振った太刀を間髪入れずに切り返してルミスの首元へと切り込む。切っ先が黒炎のオーラの上から少女の身に炸裂した。手応えあり――手ごたえはあるのだが、相手は平然としている。やはり炎が邪魔なのか。
 その炎が一瞬、揺らいで薄くなる。十秒経ったのだ。
「害虫どもめ!」
 ルミスが叫んで大剣を振り回す。また黒焔が吹き上がった。しかし、その瞬間を狙い澄ましていた者達がいた。
「一時開放(ブレイク)!」
 霧島は気合いと共に十字剣を突き出し青白き光波を至近距離からルミスへと撃ち放った。蒼い光と黒い焔が喰らい合い激しく鬩ぎ合う。
(「まだ、答えなんて‥‥判らない。それでも‥‥これは確かに‥‥僕の願い、だから‥‥応えて。サザンクロス――!」)
 氷のドラグーン、フル出力。次の瞬間、蒼い光が霧散し、そして黒焔の光がふっと掻き消えた。
 ルミスの蒼い瞳が大きく見開かれる。アレックスが全身からスパークを発生させ黄金のオーラを激しく巻き起こしながら突っ込んでいる。槍の間合い。炎のドラグーンがルミスの心臓を狙って豪槍を光の如く繰り出す。少女は驚愕しながらも大剣を横に振るった。刃と穂先が轟音を巻きあげて激突する。しかし全身をぶつけてくるかの如き突撃の前には一瞬、防御に入るのが遅かったか、完全には逸らせず、ランスの穂先が左の胸部装甲を突き破って喰い込んでいた。
「‥‥これが、挫折と限界を超えて尚進もうとする『人間』の一撃だッ!」
 アレックスの裂帛の叫びと共にエクスプロードの穂先から真っ赤な火球が膨れ上がり、壮絶な爆裂と共にルミスの左胸部を吹っ飛ばした。
 その言葉の最中にもクォリンが長剣をルミスの首元狙って平に突き込んでいる。真白もまた月詠を振り降ろし、御鑑が足を狙って天剣で薙いだ。
 ルミスは胸から赤色の血肉をぶちまけつつも首を振って長剣をかわす。しかし真白の月詠がその鎖骨に炸裂して叩き割り、御鑑のラジエルが右足を撫で切った。クォリンは即座に剣を横に動かし首を刈り取らんとする。黒焔が吹き上がってその刃を受け止めた。
「そんなに、ボクを、殺したいかぁ‥‥!」
 碧眼をギラギラと光らせルミス。傭兵達はその間にも猛攻を繰り出していて、ルミスは長剣を首に、月詠を頭部に、ラジエルを腹に、心臓狙いの爆槍を腕に、サザンクロスを脇腹に受けている。しかし、少女は剣を左手に左胸を右手で抑え、ひきつった表情ながらも笑った。
「お前らに殺されるくらいなら――」
 言葉の途中で、猛撃に押されるように後方へと大きく跳ぶ。その先に床は無かった。
「自分で死ぬ!」
 黒い焔を纏った少女は、鮮血を撒き散らしながら奈落の底へと落ちていった。


「‥‥やりましたか?」
 獅子を倒した後、加勢せんと走り込んで来ていたレイヴルが速度を落として止まりつつ問いかける。クォリンは渋い顔で答えない。
 ラウラはふと、穴の淵へと近寄り照明銃を撃ち放った。
 一瞬、遥か彼方の穴の底が閃光で浮かび上がり、その中に移動する黒い点があった。恐らく、ルミス=マクブルース。ふっと光球が燃え尽きて再び闇に戻る。
「‥‥‥‥‥‥‥‥生きてる、みたいね」
 しぶとい、と思いつつラウラがぽつりと呟く。
「‥‥奴らしい事だ、芝居か」
 白コートに身を包んだ少年が仏頂面でふん、と鼻を鳴らす。
 ラウラはそんなクォリンを見て、
(「クォリンさんは因縁ありそうだけど‥‥詮索すると嫌がりそうよね」)
 そんな事を思う。
「‥‥どうしましょう。今後、障害となりそうなルミス氏は‥‥排除できるうちに排除しておきたい」
 朧が言った。
「ええ、ここで処理します。逃がすと厄介そうだ。態勢を整えて追撃を」
 レイヴルは答え、無線を本隊に入れて目標通路の敵を排除した旨を伝える。後方通路確保に残っていた軍兵達もじきにこちらへ向かって来る事だろう。一気に抜けるなら支えはいらない。辻村はその間に救急セットを使って仲間達の手当てをして回る。
「ところで、クォリン君‥‥体調大丈夫?」
 八葉がエミタに欠陥を抱えるという少年に問いかけた。
「‥‥ああ、大丈夫だ。問題無い」
 クォリンはそう答えた。回復し軍兵達と合流した傭兵達は施設の深部へと向かって進んだ。
 傭兵達はハイレディン隊と共に施設の深部から通路を渡って上に出て、キメラを蹴散らして上階を抑え、施設の内部を制圧した。
「‥‥‥‥見つかりましたか?」
 朧がレイヴルに問う。
 青年士官は首を振った。ルミス発見の報告は無い、との事だった。
 やがて施設内部から地底を通って山の麓へと続いている隠し通路が発見されるのだった。



 かくて、傭兵達は雪山の施設の強化人間を打ち破り、ハイレディン隊は五ヶ月におよぶ攻防戦に勝利した。
 施設はUPC軍によって占領され、ベルガ戦陣は側面の脅威を潰す事に成功した。
 雪山の谷、凍てつく川の表面に張った薄氷を内部から突き破り、ずるりと白い腕が生えた。氷を砕きながら小柄な女が這い出て息荒く岸に身を乗り上げる。

「う‥‥うぅ‥‥! ああああの、害虫ども‥‥お、お、覚えていろよ‥‥! 絶対、復讐して、やる!」

 げほ、と咽せ、がちがちと歯を鳴らしつつ、さらには胸部から血を流しながらも、蒼白い顔をした女はそれでも立ち上がり、よろめきながらも北へと向かって歩いていった。



 了