タイトル:氷の大地と輸送船団マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/05 16:08

●オープニング本文


 グリーンランドは寒い。
 一口にグリーンランドと言っても広いので、実はその気候にはかなりの差異があるのだが、それでもやはり共通して言える事は寒冷だという事だった。
 比較的温暖な南部の地域の真夏でも気温は十度程度までしかあがらない。国土の大半は一年を通して氷雪に覆われている。
 そんな土地柄であったので当然作物などろくに育つものではなく、食料に関してはもっぱら輸入に頼っていた。
 輸入となるとその主力は当然海であろう。空という手もあるが運べる量に限りがあるし、何より燃料費や維持費がバカ高い。費用と効果が見合わない。とても恒常的手段として使えたものではなかった。
 しかし海といっても問題がない訳ではない。
 嵐はこの時代になってもやはり厄介だし、空を見ればキメラ、海の中からもキメラ、運が悪ければヘルメットワームまでやってくる始末。
 これに対抗する為には傭兵を雇いKVを護衛につけることだが、これまた十分な戦力を雇うにはかなりの額の費用を要求される。
 傭兵個人に払う報酬はともかく、KVの燃料、修理費、武器弾薬の経費、巨額である。例えば、あるミサイルは一発撃つごとにウン百万円かかるくらいだ。
 軍事費という奴は異常だ。
 企業は慈善事業で商売をやっている訳ではなく、儲ける為にやっている。儲からないのなら品物は運ばないだろう。
 しかしグリーンランド側としては食料を持って来てもらわないと困る訳で、そこでグリーンランド側と企業側とであれこれ価格の交渉が行われる訳だが、とりあえずはそれはそれとし、なるべく経費を節約する事においては双方において合意している。
 具体的にどうするかといえば、大陸からグリーンランドに向かう際には船舶は寄り集まって向い、共同して護衛の傭兵を雇い経費の節減をはかるというものだった。
 これはおおむね効率的な手段だった。一で十を支えるのは困難だが十で十を支えるのは比較的容易である。
 それは多くの者達に利益をもたらすやり方だったが、しかし、皺寄せという奴はやはり存在し、大なり小なりそれが何処かへと波及するのが世の常であった。
「‥‥十二隻の船舶を十二機のKVで護衛、か。それなりにハードな航海になりそうだな」
 船のブリーフィングルームで白コートに身を包んだ黒髪の少年が言った。名をクォリン=ロングフットという。
「別に一隻守るも十二隻守るも同じことでしょ。ばらばらに行動する訳でも無し、寄せなきゃ良いのよ」
 黄金の髪の少女が言った。こちらの少女はコルデリア=ドラグーンとか呼ばれている。
「一理はある。だが敵の立場にたって考えろ。もし俺が敵なら、十二機で一隻を守っている状況なら攻めても損害の割にあわんと見逃すだろう。しかし、それが十二機で十二隻となると話が変わってくる。上手くいけば十倍以上の戦果を叩きだせるんだ。多少の犠牲を払っても、やってやろう、という気にならないか? 少なくとも俺はなる。費用対効果という奴だ」
 常よりも危険が増しているのだ、とクォリンは言った。
「ふん、上等よ。来る敵全部片っぱしから叩き潰してやれば良いのよ」
 少女は昂然と言った。
「‥‥まぁ、確かにそれしか手段はないんだろうが‥‥しかし口で言うのは容易いが、現実問題、つつがなくそれをやれると思うか?」
「その為に私達がいるんでしょうが。あんた凍火の剣聖でしょ? 達人とか言われてんでしょ? ばしっといきなさいよ、ばしっと!」
「俺は確かにそんなふうに言われる事もあるし、実際生身での斬り合いなら自負もある。KVの戦闘だって、それなりにやれるつもりだ。だが、俺は無敵ではない。俺に空戦のイロハを教えてくれた男は南海の空で英雄と呼ばれていたし、実際天才的に強かったが、今月のカリマンタン島の戦いで死んだ。あれほどの男でさえあっさり死ぬというのに、どうして俺が無敵といえる。それに根本的な問題だが、空と海を同時に守るのは不可能だ」
「ま、それもそうね。でも大丈夫よ。空はあたしがいれば無問題だし、海は彼等が守るんだから」
 悲観的なクォリンに対し楽観的にコルデリアは言ってのけ、貴方達へと振り返った。少年もまたつられたように貴方達を見る。
「大丈夫よね?」
 小首をかしげて少女は貴方達に確認してきたのだった。

●●●注意・必ずお読みください●●●

 当シナリオの主領域は『水中』です。
 参加いただける場合は、必ず水中戦闘ルールをご確認のうえ、水中用機体でご参加ください。
 水中で満足に戦えない機体の場合、極端に描写量が少なくなる事(俗に言う行殺)が非常に高い確率で予想されます。
 水中用キット装備の場合、移動力が低いので、作戦によっては敵に辿りつけず戦えないという可能性があります。その場合、こちらも行殺の可能性が高まります。
 望月の判定上そうなりがちです。

 御理解のうえご参加ください。

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■設定
 皆さんは船団に雇われた護衛の傭兵のうちの一人という設定になります。戦域は海中担当です。

■作戦目的
 十二隻の大型船舶群を護衛しグリーランドへと無事に辿り着くこと。

●戦域
 PCの皆さんは海中担当になります。空の敵はクォリン隊の六機が迎撃します。
 空から敵が来た場合も、万一に備え甲板で対空砲的な役割をしてもらう事になると思われますが、そちらはメインではありません。(PL情報:クォリン隊(フェニックス、54Kロジーナ他56ロジーナ四機)が偵察から早期発見→撃破の流れにもっていくので、空の敵は射程内まで入りません。また海中から空に逃げた敵もクォリン隊が即座に始末します)

●電子支援
 旗艦からアンチジャミングが発されているので半径二十キロ以内なら空海問わず無線通信が可能です。命中・回避へのボーナスはありません。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
紅・サルサ(ga6953
20歳・♀・SN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
リスト・エルヴァスティ(gb6667
23歳・♂・DF

●リプレイ本文

「勿論だぜ」
 コルデリアの問いに対し、ブラウンの髪の男が親指を立ててイイ笑顔で笑った。ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)だ。
「おっ、さっすがー! やっぱ男ならそうこなくっちゃね!」
 破顔してコルデリア。ばんばんとジュエルの背中を叩く。
「頑張ってね、頼りにしてるわよ!」
「‥‥大きくでたな」
 ジュエルを見てクォリン。
「小さくなっても仕方がない、護衛はどーんと構えてなけりゃあな」
 必要以上に周りを不安がらせてもプラスにはならないだろう、と男は言った。
「‥‥一理はあるな。解った、信じよう。海を頼むぞ」
「任せとけ」
 かくて傭兵達は今回の航海での警備の体制について打ち合わせを開始したのだった。


 明け方――否、まだ夜のうちに船は汽笛を鳴らし出航してゆく。海は黒く、空は紺碧に、蒼白く輝く巨大な月が見えた。
「懐事情が厳しいのはどこも同じか」
 海の向かい風に前髪を揺らしながら赤髪の女が呟いた。名を紅・サルサ(ga6953)という。
 地球は削られている、と思う。バグア達の手によってガリガリと。その分鋭くなったものもあるだろうが、薄くなったものもまた多い。
「大切な物資の輸送なのです。全部無事に送り届けるですよ」
 アイリス(ga3942)が言った。真っ直ぐに伸びた空色の髪が美しい少女だ。
「そうね」頷いて紅「グリーンランドの皆の、明日のご飯のために頑張りましょう」
「はいです」
「おう。しかし、この辺りになると冷え込むなぁ」
 ジュエルが腕をさすりながら言う。
「そうですねぇ、大分北に来たですからね。夏でも寒いです」
「なぁ、こういう時は人肌で温めるのが一番だと思わない――」
 男はイイ笑顔で皆まで言う前に叩き倒された。
 赤崎羽矢子(gb2140)が嘆息して言う。
「仕事中に阿呆なこと言ってないで、さっさと休憩入ってきな。休むのも仕事のうちだからね」
「ちきしょー、了解」
 ジュエルは後頭部をさすりながら艦内へと向かう。
「不真面目さんは駄目なのです」
 ローテのペアを組むアイリスもくすくすと笑いながらそれに続いた。
 扉の前までやってきたジュエルはふと入る前に足を止め、船縁の方をみやった。
「アグちゃん、なんか見えるのかい?」
 その言葉にじっと漆黒の海を覗いていた赤毛の女はくるりと振り返ると「‥‥特には」と感情を見せぬ表情で小さく首を左右に振った。
「そっか、風邪ひかないようにな」
「はい」
 そう言い残すとジュエルとアイリスは今度こそ艦内へと消えて行った。
 赤毛のアグレアーブル(ga0095)は再び海へと向き直り、漆黒の闇を見る。
(「全てを呑み込む冷たい海‥‥」)
 茫洋と闇を見詰めつつ胸中で呟く。
――その深さに、恐怖よりも安心を覚えるのは異端なのだろうか、と。


 銀色の月光は海に輝き、暗く、暗く、落ちてゆく。
 人の祖は海から来たという。しかし人は既に海で呼吸をする事ができない。
 赤毛の娘の疑問の実際は解らぬ所だが、この海に心地良さを感じる者は他にもいた。
「この海は、同じだな‥‥」
 元フィンランド国防軍がウーシマー旅団の兵リスト・エルヴァスティ(gb6667)は風を受けながら呟いた。
 故郷と同じ寒さ、故郷と同じ匂い、故郷と同じ色。ここはかつて彼が生きたそこに近い。
 生物が住むには辛い環境でも、リストにとっては居心地が良かった。
(「どんな敵がこようとも、追い払ってやるさ。それが海兵の仕事だからな」)
 男は甲板から海を眺め、胸中で呟く。やがてゆっくりと踵を返すと愛機へと近づいて行った。
 安置されているそれの風防を開き乗り込む。RB‐196ビーストソウルだ。
 暗海を切り裂き北へと航行する十二隻の船団は、そろそろ警戒域に差しかかったのか、海中担当のKV乗りのパイロット達は皆、コクピット内に入り込み待機についている様子だった。防空担当の方は先程簡易滑走路を使って二機程が轟音と共に空へとあがっていった。哨戒に出たのだろう。
「海の様子はどうだった?」
 リストがコクピット内に入ると赤崎の声が無線から流れてきた。
「悪くないな。あまり荒れていない。この分だと海中の透明度も比較的高いだろう。俺達にとっては、有難いことだ」
 バグアとの戦闘は目視に頼る事も視野にいれなければならない。ソナーも妨害を受けやすいからだ。水中で見える範囲は、せいぜいが十数メートルだろうが、その距離が侮れない差となって出る事もある。バグア側は重力波で探知できる為いくら海が荒れようが関係無い。環境の悪化はこちらに不利を与えるだけだった。
 じっとコクピットで待機すること約六時間、その間に戦闘機達が何度か着艦と発艦を行い、やがて太陽が昇り、交代の時間となり、赤崎とサルサが休憩に行き(もっとも赤崎はコクピット内で休憩するつもりのようだったが)ジュエルとアイリスが入れ替わりに待機についた。
「UKの参番艦、轟竜號だっけ? ありゃあ大した空母だよなぁ」
「そういえば今日、二十七日だよな? アグちゃん誕生日おめでとうだぜ」
「いやぁコンペと言えば、アルバトロスは惜しかったよなぁ。アレやリヴァイアサンが出てくれば、海も賑やかになってくると思うんだけど――」
 戻ってきてからというものジュエルは常に口を閉じる事なくしきりに話題を振りまいている。それは待機中の皆のストレスが少しでも軽くなればという彼なりの気遣いだったが――それはコルデリアを初めとした喋り好きな者達にはとても歓迎されたが、寡黙気味なクォリンなどはあからさまに不機嫌になっていた。
(「あ、やべ、ちょっとうるさかったか?」)
 胸中でしまった、と思うジュエル。なかなか上手くいかないものである。
 二時間後、アグレアーブルとリストが休憩に入り、赤崎と紅が待機に戻った。
 そしてさらに六時間後。
「交代です」艦内から出てきたアグレアーブルが言った。
「はーい。待機してるのも、なかなか疲れるですよ〜」コクピットの座席でうーんと伸びをしてアイリス。
 ジュエルとアイリスが再び休憩に入り、戻ってきたアグレアーブルとリストが待機につく。
 日は大分、西に傾いており、海と空は赤く染まり始めていた。コクピット内で洛陽を浴びながら二時間、先の二人が戻り、赤崎と紅が休憩に入る。
「今の所、特に異常はないわね‥‥バグアのバの字もないわ」
 甲板に降り立ち、腕を伸ばし背を反らせつつ紅。
「でもさぁ、襲撃って昔から大抵、陸地が近くなってからじゃない?」
 同様に降り立った赤崎がストレッチをしながら言う。そろそろ終わりだと気を抜いた所へ、陸が見えて安心した所へ来るものだ。
「油断はできないわね」
「うん」
 時が過ぎ、日が落ち、夜となる。アグレアーブルはブリッジからの許可を受けると機体を起動させロックを解除して海に入った。哨戒だ。船団よりやや先行して行動する。
 アグ機が海中に入ってからしばし、日付が変わろうかという頃にけたたましい警報が鳴り始めた。
「な、何事ですかぁ?」
 うとうととしていたアイリスがはっと意識を覚醒させ言う。
「空のエレメントが艦隊より十時方向から速力八百で接近する敵機を発見した。数は八だ。防空隊、出るぞ!」
 無線からのクォリンの声と並行し、甲板は騒然とし始める。戦闘機形態のKVが滑走路へと進んでゆき「回せーッ!!」という艦隊員の怒鳴り声が風防越しに聞こえた。やがて鋼鉄の翼がアフターバーナーを吹かし、加速して空へと飛びあがってゆく。
「ブリッジ! シーガードも警戒に出るよ!」
 コクピット内に居た赤崎は眼を覚ますとそう無線に言った「許可する」との言葉と共に「無理してるようだが身体の反応には気をつけろ」そんな言葉も帰って来た。
「そんなにヤワじゃないさ。皆、行くよ!」
「了解」
 リストは胸中で呟く、
(「初のKV戦だ。皆に遅れない様にしないと‥‥」)
 男はKVでの初陣を上手くやれるかどうか。


 北の凍てつく闇の海。哨戒に出ていたアグレアーブルは暗い海の中でじっとコクピット内の光板を見つめていた。
 ソナー、戦争が始まって以来、その改良は続けられている。しかしバグア側のジャミングは海中においてもまた激しい。あまり広範囲は解らない。
 だが目視では十数メートル、多く見積もっても二十か、その程度しか解らない。夜間戦闘機能は働いているし、海も比較的穏やかだが、そもそもこの辺りの海域の透明度自体がそんなものだ。視界が効かない以上は、ソナーに頼らざるをえない。
 光板上に反応。左後方に大きなノイズ。水中通信機からの会話からするに赤崎機とリスト機だろう。
 さらに反応。前方より恐らく三つ、かなりの速度で突っ込んでくる、ざっと六〇ノット程度――魚雷か? それともブーストしたワームか。ソナー・アレイのディスプレイを睨む。ノイズの大きさ、接近速度から推察するにそれはあまり大きなものではない。このサイズのワームはいなかった――筈。十中八、九は魚雷か。女はそう判断した。魚雷だとすると距離は三〇〇程度だろうか? コース分析。水上の船団を狙ってる。
「ブリッジ、対艦魚雷です。回避を」
 アグレアーブルは通信機に向かって言いつつ、アクティヴ・ソナーを放ち確認。それを元に愛機のブーストを発動させ進路上に回り込む。魚雷、速い事は速いが銃弾などとは比べるべくもない。間に入った。ガトリング砲を構える。
 甲高い音が連続して響いている。赤崎機がアクティヴ・ソナーを連発しているようだ。思いきった事をする。しかし、護衛なのだからその方が良いのかもしれない。左後方から光点が二つ出現した。赤崎機が熱源魚雷を放ったようだ。
 敵味方の距離が詰まる。アグレアーブル、アクティヴ・ソナー二発目。相対距離一五〇。ピンガーの反応を頼りに軌道を予測し狙いをつけフルオートで発砲。一四〇、一三〇、進んで来る、連射継続。一二〇、ソナーが大きく乱れた。ドォォー‥‥ンという鈍い爆音が暗海を揺るがす。一つ、潰した。海流が乱れ、衝撃がコクピット越しに伝わってくる。爆発の影響でソナーが効かなくなる。数瞬後、また連続して爆発が巻き起こった。熱源魚雷と敵の魚雷が互いに激突したようだった。


 十数秒後、ようやく音が収まる。赤崎、ピンガーを連射して状況の把握に努める。通信機から紅機の降下が報告されたが、ソナー上に反応は無い。どうやら赤崎機の真後からあまり角度がついていない位置に降りたようだ。そこはソナーの死角。
 右前方にアグレアーブル機、さらにその前方からノイズが七つ。最も速いのが魚雷らしき三つのノイズ――また撃って来た。だが今度の狙いは船団ではなく、赤崎機とアグレアーブル機のようだった。まぁこれだけピンガーを撃っていれば目立つ――魚雷についで二十数メートルの巨大な塊、これもかなりの速さだ。恐らく海竜だろう。これも三つ。最後に金属の反応を返してくるノイズが一つ。大きさは八メートル程度か。ワームか、大きさ的にはゴーレムが近い。海竜程ではないが、なかなか速い。KF−14に匹敵する速度だ。
 数秒後、強烈な爆発が連続して海中を揺るがした。またソナーが効かなくなる。アグレアーブル機に魚雷が命中したか、もしくはまた撃墜したか。間合い的には恐らく後者。
 赤崎機はガトリング砲を構える。数秒経過。紺碧の闇の中から自走する鋼鉄の塊が姿を現した。魚雷だ。咄嗟に砲で弾幕を張る。大爆発が巻き起こり、水流がビーストソウルを揺らした。
 十秒程度の後、ソナーが復活する。
 前方、アグレアーブル機が巨大なノイズに呑みこまれている。恐らく、三匹の海竜か。左後方、彼方、船団の付近に新たな反応が二つ出現している。敵だ。何時の間に近寄ったのだろう。
(「――魚雷は囮か」)
 気づく。爆音に紛れて急接近でもかけたのだろう。前で止め左右に散らせて伏せた兵で直撃する。狼だって狩りで使う戦術の基本だ。
「ブリッジ!」
 赤崎は船団に警告を飛ばした。地球人類側とて備えはある。
「ラジャー、一匹だって通さないのですよ!」
 アイリスが言った。海中からの警告を受けて、まだ甲板上に残っていたテンタクルス組が海中へと降下する。
「こっから先への通行許可はバグア野郎には出してないぜ!」
 ジュエルはアイリス機と共に接近するノイズに向かって進みインターセプトをかける。この二つのノイズ、テンタクルスは勿論、水中高級機よりも速い。三〇ノット程度か。相対距離は既に五〇を切っている。
 アイリス機はピンガーを放ち、魚雷を連射する。同時に何かが紺碧の闇の彼方から飛来し、テンタクルスの装甲を連続して叩いた。衝撃からするに恐らく銃弾か。瞬後、爆音が水中に轟いた。魚雷が命中したのだ。ジュエル機もやはりソナーを頼りにガウスガンで猛撃を仕掛けていた。銃弾が撃ち返されてくるが装甲で弾く。それと同時にアイリス機の魚雷が爆裂しソナーが乱れる。
 一方のリスト機はピンガーを頼りに直進していた。相対距離二〇を切った所で視界にそれが見えた。紺碧の闇の中で三匹の巨大な竜がとぐろを巻き牙を剥いてアグレアーブル機と激しく交戦している。KF−14改はガウスガンを竜の咥内に叩き込んで対抗していた。リストは人型にRB‐196を変形させると目視で狙いをつけガウスガンを連射する。回転するライフル弾が海中を裂き竜の鱗に激突する。が、浅い。
 リスト機は銃を納めると剣を抜き放った。
「ハッカペル!」
 裂帛の気合と共に剣を振り上げ、ウーシマーの海兵が巨大な海竜へと向けて突撃してゆく。銃撃を受けてその襲来に気付いた竜は振り向き巨大な顎を開いて咆哮をあげた。
 海竜と交戦する二機の脇を抜けて紅機と赤崎機はブースト機動でゴーレムらしき反応の元へと向かう。魚雷爆発でソナーの乱れが激しく、目視は二十m程度が限界。ソナーが効かない間は、とりあえず勘で当りをつけて進む。
 紅は眼前の闇を睨む。闇の彼方から巨大な三叉槍を構えた鉄巨人が出現した。向こうからも突っ込んできた。
「赤崎さん!」
 紅は援護を要請すると、愛機RB−196を人型に変形させるとサーベイジを発動させ大太刀を抜き放つ。
「あいよ!」
 赤崎は素早くサイトにゴーレムを納めるとD−06ライフルを連射する。暗黒の海で二機のビーストソウルとゴーレムが激突した。

 結論から言うと、その戦闘は百秒程度で決着した。
 二機のマンタワームはアイリス機が削った所へジュエル機の銃弾が炸裂して破壊され、三匹の竜は耐久力が高かったがそれでもアグ機とリスト機が銃弾と剣で一匹を葬り、残り二匹と攻防している間にブースト機動でアイリス機とジュエル機が駆けつけ、攻撃を集中してこれを殲滅した。
 強化型ゴーレムは猛威を振るい紅機を大破寸前まで追い詰めたが、赤崎機からの援護を受け、サーベイジで攻撃と防御を大幅に強化した紅機は、動作を停止するよりも前に、ゴーレムの装甲を削り切って逆にこれを破壊した。