●リプレイ本文
「所で――」
ヘリから降り、雪原から地下の坑道へ入る途中、エドウィンが言った。
「何故、クマなんだい?」
行使エドウィンの後に続くのはクマのきぐるみに身を包んだ時枝・悠(
ga8810)であった。
少女は言う。
「‥‥他に手持ちがなかっただけなんだ」
某くず鉄博士が余計な事するから私の装備は雷属性ばかりだよチクショウ、との事。
「て言うか空の上で説明されても手遅れじゃないかな」
時枝、いちおう対火装備が必要そうな事を言われていたので持っては来たが、詳しい話はさっぱりだったらしい。故にクマであった。
「いやー、こいつぁ盲点だったね。まさかそう来るとは思ってなくてね。こりゃあクマった」
はっはっは、と笑って講師。
「寒いな」
月城 紗夜(
gb6417)はクールに呟く。
「北国だからね。そういう君は何故それを?」
「‥‥本来なら我は仂剣『スルメ』を持ってくるつもりだったのだが」
と女が左右に携えるのは冷刀『鮪』と秋刀『魚』である。煮ても焼いても喰えそうだ。この温度の中でも心持生臭い気がした。カンパネラ講師=単位と聞いて参加したらしいが、真面目に講義を受けるつもりがあったのかなかったのか。
「肴と魚を間違えて、我は傷心なんだが」
「『お酒は成人してからだよ』と講師としては言わざるを得ないねぇ」
はっはっはとエドウィン。
カンパネラの生徒は他にも居る。
「え、え、簡単なキメラ退治だって、き‥‥聞いたのに」
エドウィンの後ろについて小動物のようにぷるぷると震えながら呟くマルセル・ライスター(
gb4909)だ。真面目な努力家だが性分のせいか戦闘だけは万年ペケである。見かねた妹に強引に捻じ込まれて参加させられた感じのようだ。ビビリにより若干のエミタ不調が発生していた程である。
「蓋を開ければ生身で竜退治‥‥ですか‥‥」
と呟くのは鐘依 透(
ga6282)である。
「あれ? 先生、講義は‥‥?」
男の問いには「はっはっは、人生イコール講義だよ青年!」天地から学びたまへなどと無茶な事をエドウィンは言った。
「実戦訓練かぁ‥‥気合い入れていかなきゃね!」
聴講生として参加の月森 花(
ga0053)が少々体調が不調ながらもそう言った。素直である。
他方、
(少しエミタが不調か‥‥依頼を詰めてこなして来たから、そのツケか‥‥)
秋月 愁矢(
gc1971)もまた自身の身体のキレが常よりも悪いのを感じつつ胸中で呟いていた。
(だが、いつも道理仲間の盾になる。それが守護者たるガーディアンの俺のやり方だ)
そう決意を固める。
(にしても‥‥随分な実地訓練だな)
先頭を歩く白衣の男は適当なようで割とスパルタらしい。
ラナ・ヴェクサー(
gc1748)は一行の後尾を俯き加減に歩いている。現在情緒が不安定なようだ。最近は副作用のきつい精神安定剤を飲んでいるらしい。
そのように調子の悪いものが多かったが、
「エミタの調子が悪い事も、最大限に力を発揮できない事も、言い訳にも敗因にもならない。勝利という結果を残せば、それはいつもと何ら変わらない事だ」
アンジェリナ・ルヴァン(
ga6940)が武人然として言った。
一同は作戦を相談する。二班か三班か、集中というのは班で集中なのか全体で集中なのか、それとも分断なのか。幾つか案が出たが最終的に三班体制で当たる事とし、A班は攻撃を集中させBC班が他の首を抑える、という事になった。立花 零次(
gc6227)はC班に参加する事にする。ABCで左から順に首を担当する事にした。
能力者達は薄暗く冷えた地下坑道を進んでゆく。幾名かの職員とすれ違いつつ、現場へと向かう。
岩盤の避け目に造られた薄暗く狭い道を進んでゆくとやがて巨大なホール状の巨大な空洞に出た。直径はおよそ50mにも及ぶという。あちこちに鉄塔が立てられてライトがぶら下げられて辺りを照らし、トロッコのレールが張り巡らされ、掘り出された鉱石の小山があちこちに作られていた。
耳をつんざく咆哮が轟き、地響きが起こった。薄闇の彼方、全長8m程の三つ首のドラゴンが地下を揺るがしながら駆けて来る。マルセルがその巨体を見て息を呑んだ。
「力試しにはちょうど良いくらいでしょうか。少々硬そうですが」
立花が黒曜石の色の太刀を鈍く輝かせながら抜刀した。竜の実力の程は、さて、どうか。
「動きが鋭そうな竜だなぁ‥‥」
鐘依が呟いた。
「顎の下だったか? それを狙えばいいのではないかと思ったのだが」
双眼鏡で眺めながら月城が言った。
「うーん、それがあるものとは種類が違う竜みたいだねぇ」
講師はそう言った。逆さの鱗は見当たらない。
他方、
(吐き‥‥そ、う‥‥)
ラナは歪み、霞む視界に苦しんでいた。
(なんで、こんな‥‥時にっ‥‥! エミタ‥‥の、不調‥‥が‥‥)
女は自分の身体に対して恨みを抱きつつ、眼前のキメラを睨んだ。錠剤を口に運び噛砕いて呑み込む。
「能力が限定された状況下での戦闘訓練、とか言うと尤もらしく聞こえる不思議だな――行くぞ」
テーマパークのマスコット、もといクマのきぐるみを着込んだ時枝悠は暗殺者のダガーを右手にオルタナティブ小銃を左手に構えドタドタと走り出す。見かけに反して無駄に速い。
傭兵達は迫り来る三つ首ドラゴンに対し半包囲するよう散開して駆け、うち一人が真っ直ぐに真っ向から突っ込んだ。秋月愁矢だ。
「盾‥‥それが俺の役割だ」
男はソードブレイカーと盾を構えて駆け、全身より包みこむように蒼い焔を、文字通り仁王のそれの如き裂帛の咆哮と共に噴出させた。蒼眼を光らせ殺撃のプレッシャーを眼前のドラゴンへと叩きつける。竜もまたそれに応えるように顎を開いて咆哮をあげ、次の瞬間、炎の息を三本の首から一斉に秋月へと向けて解き放った。同時、ラナ・ヴェクサーが竜へと向かって加速する。
冷えていた筈の周囲の気温が一瞬で上昇し、空気を焼き焦がしながら焔が迫り、秋月は盾を向けソードブレイカーを構えた。焔が男を呑みこんでゆく。
「俺が倒れるのが先か‥‥お前が倒されるのが先か‥‥チキンレースだ」
次に瞬間、真紅の焔を裂いて蒼い焔を纏った男が飛び出した。秋月、渾身防御は発動出来ないが残りの行動力を全て能動防御に回している。
アンジェリナが駆け出した。月森、敵の背後を目指しつつも、ラナが突撃したのを見て仕掛けた。中央の首を狙って45口径のリボルバーで轟音と共に弾丸を猛射する。ブレスを吐く中央の竜の首へと次々に弾丸が炸裂してゆく。
ドラゴンはブレスをさらに連射し、駄目押しとばかりに回転しながら尾で薙ぎ払う。秋月は水属性の装甲でブレスを吹き散らし、尾撃に盾を合わせ盾の紋章を一瞬だけ強く輝かせ受け止める。宙へと吹っ飛ばされながらも身を捌いて足から大地に接地。勢いで滑ってゆく秋月の具足が岩の床を削って火花を巻き起こした。エミタに不調がある状態ではドラゴンの猛撃が一人に集中すればとても耐えられるものではないが、属性を上手く活用している。倒れない。
鐘依は積まれて並ぶ鉱石の山を利用して断続的に竜の視界を切れるルートを把握すると、その側面位置へと出んとし、迅雷で淡い光を発しながら一気に駆け抜けている。
立花はキメラの後方を目がけて機動中。
月城は竜の背後へと入らんと迅雷を発動させて駆けた。
マルセルは装輪走行と小さな跳躍を繰り返してレールなどを飛び越えつつ竜を中心に円を描く軌道を取りつつ隙を窺っている。
ドラゴンは追撃に三度目のブレスを三つ首から一斉に吐き出し秋月を呑みこみ、同時、A班時枝、射線に捉え脚を止めタイミングを計ると天地撃を発動、竜が三発目のブレスを吐きだしたと同時にその左の首を狙ってオルタナティブで発砲した。弾丸が唸りをあげて飛び、竜の首を捉え、猛烈な衝撃を炸裂させてその首の一本を後方へ仰け反らせる。
アンジェリナ、1.2mの太刀を赤く煌めかせ剣の紋章を吸収させると極限までエネルギーを集中させて空を切り裂いた。太刀が奔り抜けた直後、音速を超えた衝撃波が唸りをあげて仰け反っている竜の首へと飛び直撃した。壮絶な破壊力が炸裂して竜の首が揺らぎ、時枝もまた剣の紋章を銃へと吸収させると撃ち放った。壮絶な破壊力の弾丸が竜の首に突き刺さって鱗をぶち抜いて血飛沫を撒き散らし、時枝はまた剣の紋章を輝かせて討ち放った。両断剣・絶・連射。弾丸がまた突き刺さって鱗を貫通し、アンジェリナもまた絶を発動しながら駆けてゆき、時枝はさらに三連射を叩き込んでゆく。このクマのきぐるみ怖いぞ。
一番に飛び出したC班ラナ、一気に駆けて間合いに飛び込むと竜の右の首を狙う。脚で首は、カウンター以外は跳ばないと中らないか。急所突きを発動、右の脚につけたジェラートで跳躍ざまに蹴りつける。弧を描いて脚が振るわれて透明な爪が竜の首の鱗を削り、ラナは間髪入れずに左の脚を振るった。踵部のブースターが作動して光が噴出し、女の身が勢い良く横に回転して脚甲が竜の首に炸裂する。積極的にゆく。ラナはそのままナイフを竜の首の鱗の隙間に差し込んだ。首が鞭のようにしなって曲がり、その牙がラナの頭部に噛みつかんとし、横手に回っていた鐘依はその瞬間に鋭刃を発動、竜の眼を狙ってSMGで猛射した。弾幕が嵐の如くに飛び出し右の竜頭の右の眼を貫いて血飛沫を噴出させた。竜が怯み、その隙にラナは接地する。再び跳躍して突き刺したナイフの柄頭を蹴りつけて押し込み、鐘依がさらに左の眼を狙って猛射し、竜は腕を振るって爪をラナの身へと炸裂させて吹き飛ばし大地に転がした。
他方、迅雷で竜の後背へと抜けた月城、切り替えして再度迅雷を発動させると鮪刀と魚刀を手に竜の後背へと突っ込んだ。
「鮪でも魚でも、刀なら我に扱えぬ筈がない!」
光を纏って加速して迫り竜の背へと左右の太刀?を叩き込んでゆく。結構な威力である。どういう事だ。
アンジェリナは剣の間合いに入ると跳躍して左の首を狙って太刀を一閃させた。壮絶な威力の刃が強靭な鱗を泥のように断ち切って抜けてゆく。血飛沫が吹き出した。
「怖くない‥‥怖く‥‥ないッ! お‥‥俺だって、ドラグーンの端くれだッ!! 負けるもんかッ!!」
側面に回ったマルセル、全身からスパークを巻き起こしながら竜の翼で突撃する。竜の咆哮を発動、二刀一対の直刀をクロスさせて竜の脚部へと叩きつけインパクトの瞬間に猛烈な衝撃を炸裂させる。竜の身が揺らぎ、その態勢が崩れた。背後に回り込んだ立花は黒の太刀を振り上げて飛び込むと竜の尻尾の付け根を狙って斬撃を叩き込んだ。刃が鱗を強打して削る。
「く‥‥硬い、ですね‥‥っ!」
立花は後方へと飛び退くと扇を一閃させて尾の付け根を狙って竜巻を巻き起こした。風の刃が竜の身を削ってゆく。
地に転がったラナは激しく咳込んで嘔吐している。コンディションの悪さは深刻のようだ。
(吐き気が、続く‥‥この苦しみから逃れる為に‥‥キメラを‥‥殺す、さっさと‥‥殺す。動き、止めても‥‥!)
昏い眼で竜を睨みつけるとふらふらと立ち上がり地を蹴って加速した。
他方、秋月もまた再び突撃し仁王の咆哮を轟かせている。
「これがガーディアンの戦い方だ‥‥攻撃するだけが戦いじゃない!」
三つ首からのブレスと胴体の爪と尻尾が秋月へと集中するが防御に集中してひたすらに耐えている。
「再生能力か‥‥厄介ですね‥‥」
塞がってゆく傷口を確認し、後背に回った立花が竜巻を巻き起こしながら眉をひそめる。が、前面では時枝が銃で狙撃して竜の咥内をぶち抜き、アンジェリナが再度跳躍して剣閃を奔らせて左の竜の首を絶命させていた。
(シノビの極意は静かに素早く的確に‥‥)
月森は迅雷で竜の後方へと回り込んでいる。
「動きを封じる」
リボルバーに貫通弾を装填し猛射。竜の膝裏へと弾丸が唸りをあげて飛び、次々に突き刺さってその間接に凶悪な破壊力を炸裂させてゆく。
(一足一刀‥‥大きさが違うだけなんだから、それに間合いを合わせりゃいいだけ‥‥! 訓練通り、訓練通りに‥‥今ッ!!)
さらにマルセルがスパークと共に駆け抜けながら双剣を閃かせて膝へと追撃を叩き込み、月城も迅雷で光を纏って駆け抜けながら膝裏へと目にも止まらぬ速度で鮪を叩き込んでゆく。竜の膝が折れ、地につき、その巨体が斜めに傾く。
他方、ラナが突撃し、鐘依は盾を地につけるとそれを銃座がわりとしてスコールの銃身を乗せ、布斬逆刃を発動させて猛射し援護した。なお盾の安定性は、微妙だった。
ラナ、脳天はちょっと届かなそうだ。二段撃を発動、およそ一回転半、五四〇度独楽のように回転しながら跳躍し加速された後ろ回し蹴りを竜の首へと叩き込む。
(俺は仲間を護る‥‥それだけだ)
練力が尽きた秋月がソードブレイカーを振りかざして突撃し、鐘依もまた2.3mの炎の大斧へと獲物を持ちかえ光を纏って迅雷で突撃を仕掛けた。ラナは蹴りを連続で叩き込み、時枝は銃で中央の首へ射撃、アンジェリナは右の首を太刀で狙って攻撃してゆく。
「攻撃は踏み込みを深く、コンパクトに‥‥! 喰らえ! ドラッヘ・ヴァルカンッ!!」
マルセル、頭は届かないが好機と見なして猛火の赤龍を発動、左右の剣を嵐の如くに振るって竜の逆側の脚を切り刻んでゆく。
立花は尾の根元へと竜巻を巻き起こし、月城が太刀で追撃を入れてついに両断した。
月森は積み上げられている原石の山を昇ると跳躍して貫通弾をフル装填した拳銃を向けた。
「貫け‥‥氷葬六花」
宙から対FFコーティングされた弾丸が流星の如くに降り注ぎ、竜の中央の首を貫いてこれを絶命させた。
竜は持ち前の強靭さで粘ったが、大勢は最後まで揺らぐ事はなく、やがて能力者の猛攻を前に右の首も動かなくなり、最後に胴体も集中攻撃を受けて沈んだのだった。
「私もまだまだ、ですね‥‥」
立花は血払いして紙で拭ってから太刀を鞘に納めると、そう呟いて嘆息したのだった。
かくて、発掘場を襲った三つ首の竜は討たれ、現場は平和を取り戻した。
「強靭な一人が、防御に集中しつつ敵の攻撃をひきつける、というのは決まると強いね」
エドウィンは携帯のボードにペンを走らせながらそんな事を言った。
「問題はガン無視される場合なんだけど、この場合は仁王のスキルで良く引きつけたね。知能の高い強化人間などにはなかなか通じないと思うけど、知能の低いキメラ相手にする今回みたいな場合は、ベストのうちの一つだったと思うよ。おかげで後ろや側面にもすんなり回り込めた。大変良い結果だ」
どうやら評価は上々らしい。
かくて皆に増額された報酬と生徒達には単位も渡されたのだった。
了