タイトル:【極北】Fimbulvetr2マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/21 15:31

●オープニング本文


 グリーズガンド・バグア基地、凍てついた河を背にしたその要塞を、ヘイエルダール旅団は三方より取り囲んで陣を敷き睨み合っていた。
「差出人不明の情報?」
 そんな中、旅団司令部に報せが入った。准将ヴェイオル・ヘイエルダールは片眉をあげる。
「は、座標――に、敵の施設があり、そこにバグア軍の実験体が収容されている、と」
 片目に黒の眼帯をかけ口元に黄金の髭を整えた男が言った。旅団参謀長、シグムンド少佐だ。通称金髭。
「防備は今なら手薄だとかそんな感じか?」
「はい。今なら能力者の飛行隊を飛ばせばすぐに制圧出来るだろう、との事。そこにいる実験体達を救助してくれれば内応する、と」
「何処の誰だか知らないが、それは有難い話である。だがその為にはKVを飛ばさねばならんな」
「そうですな」
「そちらへKVを飛ばしてる間は基地への攻勢力が低下するな」
「そうですな」
「餌を撒いての時間稼ぎでさらにそちらの施設へ出向けば罠が張られている、という可能性が非常に高そうに見えるな?」
「そうですな」
「話にならんと思わんか?」
「まぁどうにもならんのでしょうな。思いまするに――」
 眼帯の男が言葉を述べようとしたその時、不意に管制官より声があがった。
「閣下! 緊急事態です!! チューレのバグア軍がゴットホープに向かって進撃を開始した、と!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥なに? このタイミングでか?!」
 管制官曰く、チューレ・バグア軍は何手かに隊を別けキメラやワームを中心の編成とし南下しているとの事だ。
 その報告にヘイエルダールは顔を歪めて舌打ちする。
「馬鹿な、速すぎる。動き出すにしても、もっと後と見られていたのではなかったのか? 諜報部は何をやっていたのだ!」
 怒声をあげる雷神へと金髭シグムンドは淡々と言った。
「若しくは‥‥敵は本当に予定よりも始動を速めたのかもしれませんな。座してUPCの包囲攻勢を待つよりは、と」
「機先を制しに来たか‥‥‥‥イェスペリ・グランフェルド、肝が据わっておるわ」
 ヘイエルダールが唸った、この段階に来ても傭兵達が強化人間に拘ったのは予想外であったが、チューレ基地がこのタイミングで動いたのも彼にとって予想外だった。
「雷神が笑うわ。予想外の事ばかり起こりおる」
「如何します? 進路はゴットホープでグリーズガンドやベルガよりは外れておりますが」
「だからと言って隣を素通りさせる訳にもいかん。ゴットホープはグリーンランドにおける人類の最重要拠点の一つだ。ここが陥落したら戦線全体に影響する。全てを止めるのは不可能ごとでも、せめて援護を出さねばなるまい」
「‥‥戦力を分けると?」
「事ここに至っては止むをえなし。KV隊の一部を回せ」
「はっ‥‥例の情報については?」
「もはや猶予は無い。一人の強化人間になどに構ってはいられぬ。救助した所で爆裂するのが現実だ。残りは要塞へ全面攻勢だ。準備を急げ!」
「御意」


 グリーズガンド基地内部。
「サ・リ・ア・ちゃーん。あのザマァ、なんだぁ? おかしいなぁ、いくら量産型だっていっても君、ワームの操縦成績はトップクラスだろぉ? 駄目だよ不真面目な事しちゃあ」
 小型の盗聴器を指で砕いて見せながらアンサズが言った。白衣を纏った長身の男は牙を剥いて笑う。
「いやぁでも、ま、ギリギリ間に合ったよ。よくぞ時間を稼いでくれた、そこは褒めてやるぜ〜。よくやったついでに後の要塞守備もヨロシク。これ以上UPCを進めないように戦力を削ってやってくれ。ああ、勿論、監視は残していくから、下手な事は考えるんじゃねぇぞ?」
「先、生‥‥!」
「何を狙ってたのか知らんけどよ、ムダムダムダ! 全ては徒労! 徒労! 徒労! 徒労! セカンドのハーモニウムどもも皆、順調に解凍され始めてるぜぇ〜。最初からさぁ、お前なんかじゃこの巨大な流れは止められないんだよ。無駄な事をホント頑張ってたもんだよなぁ。お前は何も出来ずにここで死・ぬ・の! キャハハハ!! ――お、良いねぇその顔ぉおお!!」
「アン、ザス‥‥!」
 ハーモニウムの少女ベルサリアはバグアの男を睨み上げる。
「アンサズ先生、だろ?」
 男は少女の顎を掴むと目を細め、見下ろして言った。
「お前、ちゃんと戦わねーと、お前の腹は爆破であのチビどもは首刎ねさせっから。もうお前、俺達からの信用度ゼロよ。変なそぶり見せたり手ぇ抜いたら即アウトな。捨て石になって死ぬ気で戦え。そうすりゃ俺も鬼じゃねぇ、餓鬼どもは見逃してやる。それが今の君に唯一出来る事、おわかり?」
 言って腕を払う。
「じゃ、そういう事でさようなら」
 男は少女に背を向けると、要塞の北から脱出し、北へと逃げて行ったのだった。


 大隊を統括する赤髭ハイレディン・ザンギエフは傭兵達へと言った。
「本当は言ってはならぬのだがな、レイヴル・バドラックもお前達には絶対に洩らすな、と言っていたが‥‥俺は軍人としては失格かもしれん。もしも戦力が分散するような事になれば、その分攻略にあたる部下達が戦死する数が増える。機体武器弾薬燃料の軍事費がどれだけで、それを確保する為にどれだけの者達が犠牲になっているのか。そうして捻りだされたそれを無駄に浪費できるものなのか。だが俺は興味があるのだ。こんな時に、お前達は、ラストホープの傭兵達は、カンパネラの学生達は、どうするのか? 何を守ろうとし、何を優先するのか? 俺達UPCにとって真に頼りにする事が出来る存在なのか? 今後の為にも見極めておきたくてな」
 そういって赤髭ハイレディンは准将と参謀長のやりとり及びバグア軍の実験体が収容されているという情報とその場所を傭兵達に伝えたのだった。



―――

■指令
 グリーズガンド基地の守備についているスノーストームと超巨大キメラの殲滅
 ゴットホープへと攻撃を仕掛けようとしているワーム隊の撃滅
 他の行動は認めない

■特記1
 旅団司令部からの指令を無視すると罰則として全体に多大なクレジットの損失等が発生。相互了解の場合、隊として連帯責任。止めずに見過ごした場合も同様

 ただし、一機の大破もでず、旅団等への被害も増加したと判断されず、全てを完璧に治められた場合は、ヘイエルダールは命令違反を不問にする(PL情報)

■特記2 実験体収容施設について
 距離=ブースト等もフルに使ってマッハで飛ばせば片道10分程度
 周囲のジャミング=強い
 外部の防衛戦力=弱めの対空砲が四門
 施設内部へはKVを降りて生身で突入する必要有

■特記3
 シナリオ開始時(KVの発進準備整った時より)はまだ囲んでいるだけで要塞の射程まで詰めていない
 特に何もない場合、ヘイエルダールはすぐに攻撃開始を命令する。ヘイエルダールと通信する事は可能。「攻撃をかけるのをしばらく待ってください」は通じないが、上手くやれば最大15分程度は攻撃開始が遅延

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
柳凪 蓮夢(gb8883
21歳・♂・EP

●リプレイ本文

(酷い唆しをしてくれたわね‥‥)
 ハイレディンからの言葉を聞いてラウラ・ブレイク(gb1395)は胸中で呟いた。
(知らぬが至福で知るは愚かか。試金石‥‥削がれるのは誰の魂?)
 それはきっと多くの者達を巻き込んで。
(全てを上手く収める、ね。最後の希望ならこれぐらいやって見せろという事か)
 アレックス(gb3735)は胸中で呟いた。
(赤髭のオッサンには、感謝しなきゃかね)
 人によって受ける印象は様々なようだ。
「チョコ舞うバレンタインですが。ようこそ集いしスキ者達よ」
 白熊からで悪いけどチョコの差し入れです、と鈴葉・シロウ(ga4772)はチョコレートを配っている。傭兵達はチョコを齧って栄養補給しつつ打ち合わせる。
「私たちは軍じゃない。傭兵、だ。ならば‥‥個々人の理由において、全力を尽くすだけ、さ」
 柳凪 蓮夢(gb8883)はそう言った。
 話し合いの結果、旅団の指令とは反するが施設へと制圧の兵を繰り出す事に決まった。
「ちょっと待って」
 コルデリアが声をあげた。酷く冷めている音。
「要塞まるごと一個あたし達だけで吹っ飛ばすとかやりつつGHにも施設の制圧にも行こうっていうのなら、あたしは力を貸したんだけどね‥‥それが上手くいけば、味方は誰も死なない。シェイドやファームライドに匹敵するような力がなきゃ絵空事だっていうのは解ってる。それに挑んで失敗すれば、そこであたし達の人生終了だっていうのも解ってる。でもさ、全てって言葉にすれば一言だけど、状況がこれくらいの規模になると実際は凄まじいわよ? こんな状況じゃ、それくらいやってのけなけりゃ味方だけですらも全部なんて救えやしないわよ‥‥‥‥」
 思うんだけどさ、と呟きつつ少女は言う。
「全てを救うって、あたし達は、神なの? そんな事、出来るの? この世の誰がそんな無理難題をあたし達に要求する権利があるというの? あたし達を殺そうと襲いかかってくる敵対者達? 必死にやってるあたし達を安全な所から非難するだけの博愛主義者達? どんな困難でも自分や仲間達、兵士達、周囲も含めて全員が挑む事を了解してるのなら良いわよ。全てを救うに挑めばいい。でもそんなの了解していない人達の一生を勝手に強制的にチップにして確率の低いルーレットを回すのは、そもそもにそんなに高尚な事なの? それで全てを救う? 外れた時には周囲の人間の一生をまとめて一切合財殺戮してゆくのに?」
 少女は言った。
「だから、あたしはそう思うから、リスクを切って比較的現実的な選択肢を選ぶ事を、それ自体を責めたりなんてしない。でもさ、この作戦さ、これは無いわよ‥‥! まさか、って思ったけど、これって『兵士を助ける人数を減らして、その分浮いた余力で強化人間を助けよう』って事じゃないの?! 全てを救うとかそれ以前に、味方に雇われたなら、まず味方から助けてよッ!!」
 コルデリアは叫んだ。
「あたし、そんなに変な事言ってる?! 契約内容と違う事言ってる?! 戦場で敵対して銃口を向け合うなら向けた先の相手から反撃を受けて殺されたって文句は言えない! 傭兵だろうが軍兵だろうが、それが戦場に立つ兵士の心得でしょう! だから敵と殺し合うのは了解している! でも味方は、味方に殺される事なんて了解してないわッ!! お互いに助け合おうと約束して信頼して背中を預けてるのよ。それが味方って事でしょうッ?!
 あたしは敵に敗れて殺されるなら納得いくけど、信頼してた筈の味方に裏切られて死ぬなんて納得できない‥‥! 貴方達、自分の命令違反のせいで死ぬ人間に対して裏切ってないって言えるつもりなの?! 兵士を助けるって契約でKV乗ってる貴方達が、実際には強化人間を助けるのと引き換えにその兵士達を見殺しにするのってどんな理屈よ?! このKVは旅団の為に出動が許可されていて私達はそのパイロットとしてKV隊に参加してるのよ! 旅団が敵の為になんか雇う訳ないでしょう?!
 だから、あたしは、味方から助ける‥‥! 誰かを犠牲にしなければならないのなら敵から殺す‥‥! 強化人間を救う為にアレックスや和哉やシャーリィを見殺しにするのが前提の作戦とか、貴方達なら承知出来る‥‥? あたしにとっては、そういう事よ。それなのに、言うに事欠いて、これで、全てを、これで、全てを‥‥! これで、全てを、救う、ですって‥‥‥‥っ?!」
 傭兵達が立てた作戦に対し、一言で言うと彼女は激怒していた。
 少女は涙混じりの怒声で叫んだ。
「ふざけんじゃないわよ、この味方殺しどもッ!!!!」
 この反応は、予想出来ていた筈だったが。


 コルデリアは酷い罵詈雑言を浴びせかけていたが、ここに来て作戦を変更する訳にはいかないし、するつもりもなかった。また、彼女の認識とその言葉が正しいとも限るまい。
「助けたいのだろう? なら‥‥少し散歩に出かけてこよう、か」
 UNKNOWN(ga4276)が言った。
(不義理な気がして良い気分じゃねぇが、ここは皆を信じて行く所だ‥‥!)
 アレックスは胸中で呟き、愛機から焔と風を噴出させる。五機のKVが空へと飛び上がり、コルデリアとラウラが司令部へと通信を飛ばした。
「良い度胸だ貴様等。その情報、何処から聞きつけた」
 コルデリアとやりとりをしていたのだろう、しばし待たされた後、ヴェイオルがいきなり出て来て開口一番、ラウラへとそう言った。
「懲罰は覚悟の上です‥‥施設の事は偶然知りました」
 ラウラは情報源は秘匿し、不慮事故で知ったのだと言った。
「事故、な。それで二十分寄越せと? 厳しいな。とっとと陥落させねば敵の飛行隊が増援で来る。タロスの集団にでも要塞に入られれば容易くは陥とせなくなる。それでもたもたしていて敵の陸上部隊がやってきて囲まれれば完璧に破滅だ」
「‥‥内通はSSの操者でしょう」
「その可能性はあるな」
「条件を達成すれば内応が期待できます。せずとも動揺は必至でしょう」
「本当だったらな」
「万事目論見通り進めば自軍が無血の可能性も――」
「それは無い。目論見通りに行けば開戦と同時に要塞は陥落するのか?」
「‥‥内通が露呈し自爆でも得です。労せずSSが落ち大勢は決定します。また験体奪取による潜在脅威を排除出来ますし、施設に情報の可能性もあります」
 ラウラのその言葉に柳凪もまた言葉を重ねて言った。
「オーダーは大切だし、勿論その達成の為には全力を尽くす。だが同時に基地に関しても見過ごせない要素だと傭兵として判断した。故に、動かせて頂いた。労せず敵最大戦力を無力化出来るならば、それに越した事は無いだろう? それに実験体というなら今後強敵として相対する可能性が有ると言う事。現段階で対処出来ればそれは将来失われる命を減らす事に繋がると信じている」
 その言葉にヘイエルダールはしばし沈黙し、
「なるほどな」
 一言呟いた。
「‥‥SSが施設へ向かった三機分よりも強大で、時間のロス分を埋め合わせる程度に戦力差があるなら、利益はあろう。だが、アレックス機とUNKNOWN機、霧島の三機を合計したよりもスノーストームというのは強力か? 前回の有り様が本調子でなかったにせよ‥‥正直、その三機なら余裕で撃破出来るのではないのか? あの黒い男は鬼神もかくやと聞いているぞ。むしろあのK‐111の方が量産型スノーストームより強くないか? アレックス機も非常に強力な機体だし、霧島機とて優秀な機体だ。そんな勢いの奴等を本来の方面から他へと移動させて何処にメリットがあるのだ? 施設は要塞を陥落させてからでは、あるいは実験体の奪取が間に合わぬ可能性はある。情報も同様だ。しかしここで被害を増加させてまで手に入れるべきだと言えるか? 蟻が竜に化ける可能性も零とは言わんが、人命がかかっているからには確率を考える」
 少しの沈黙の後にヘイエルダールは言った。
「‥‥懲罰覚悟なら戻れと言っても聞くまい。今動いても無駄に損害を増やすだけだ。予定より十五分までなら待つ。だがそれが限度だ。それ以上は被害の増加を覚悟で攻める」
 雷神は待つらしい。
「‥‥有難うございます」
「准将」
 月神陽子(ga5549)が言った。
「守るべき八〇のために他を切り捨てる事‥‥貴方のお考えは正しかったと思います。ただ、わたくしは思うのです。誰かの掌から零れ落ちた二〇をわたくしが拾い集めれば。もしかしたら世界を、一〇〇の全てを救えるのでは無いかと」
「世界とは何処から何処までだ。一戦場に限っても、お前の全力を含めても圧倒的に全ては拾い切れない状況下ではそれは通用せんぞ。お前の力も含めて合計で八〇であったのなら、お前の二〇を余所へ当てれば、その分本来助かった筈の二〇が死ぬ」
 雷神は必死に怒りを抑えているような口調で呟き始める。
「UPCに対し、この契約違反が解答なら、詰まる所、お前等の大半にとっちゃ俺達UPCとの契約なんぞ建前なのだろう。本気で力を貸してくれてる奴もいるようだが、しかしそうでない奴も居る。お前等にはお前等のやりたい事があるのだろう。だがな、契約は契約だ。建前扱いする奴がいるのは理解しているが、俺達にとって建前な訳なかろうが。そのKVは誰の金と許可で動いている。ミサイル一発いくらするか知ってるか? 搭乗権ではなくKV本体の値段を知ってるか? KVはな、貴様等の生涯年収が平均であるなら、その一生の時間を奴隷の如く捧げても返せないだけの血税が、何億もの人々の労働がつぎ込まれている。血と汗と涙が込められてる。その意味が解らないのか? KVは、何の為に出動が許可されているのだ? UPC兵は何の為に居る? 強化人間の為だとかぬかすつもりか? ふざけるな、そんな事は誰にも迷惑かけず自分のその身一つでやれ。俺達が命を賭けるのは地球側の人類を守る為だ。だが今回どこまで生きられるかすらも解らない、情報という利点も最早少ない強化人間の為に、兵士達は本来得られた筈の支援を失って死んでゆく。そうやって俺の部下達はその一生を、この雪の戦場で終わらせる。それが貴様等の正義か?」
 初老の男は言った。
「‥‥貴様等が今ここで我が軍より銃殺されないのは、貴様等を処刑するよりも生かして使った方が被害が大幅に減るからだ‥‥死ぬ気で働けこのバカモンどもがッ!!!!」


 凍てついた空。
 UNKNOWN機、ブーストを全開に先行している。施設へと低空侵入しK‐02を猛射。誘導弾の嵐が地上へと降り注ぎ対空砲と格納庫を一瞬で吹き飛ばしてゆく。減速し地表付近で人型に変形、バーニアを吹かせ積雪を爆砕しながら着地する。砲は四門全て沈黙した模様。格納庫の奥から現れた小型飛行機と施設の入り口へと向けてM‐181を猛射。小型機が吹き飛び、白塗り施設ゲートが吹っ飛ぶ。周囲へ視線を走らせてから、風防を開きKVから飛び降りて地上に降り立つ。
「今で九分十五秒、だな」
 無線機同士の周波数を合わせ機体にロックをかけておく。やがてアレックス機が、次いで霧島 和哉(gb1893)機が到着した。
「行こうか」
 UNKNOWNが言った。
「‥‥やるからには‥‥徹底的に‥‥ね」
 と霧島。
 施設内へ突入する。
 内部、人の気配は無かった。
 三人は武器を手に具足の音を響かせながら駆けてゆく。
(不思議と罠とは思えねェが、同時に嫌な感じもする)
 アレックス、罠や待ち伏せを警戒中。UNKNOWNはハンドルで霧島に捕まって移動しつつエネルギーキャノンを乱射して扉や監視カメラを閃光波で吹き飛ばしてゆく。
 三人はまず地下へと向かった。
 緑光に照らされる独特の薄暗い四角の通路を駆け抜ける。
 通路途中の扉を次々に吹き飛ばして中をチェック。実験体の姿は無い。繰り返してゆくとやがて大きなホールに出た。人と液体の詰まった巨大な試験管が並べられている。
「止まれ! 動くな!! 動いたらこの餓鬼どもの頭部を砕く!」
 ホール奥、薄闇から二体の竜人キメラを従えて、箱を持った二人の少年少女の頭に手を置いて、白衣をまとった若い男が姿を現した。
「手前ェは‥‥!?」
「初めまして、ハーモニウムの教師アンサズです。もしやがあると思って備えていたのですが‥‥ベルサリア君の動きかな? だったら粘りますねぇ」
 子供達は恐怖の表情を浮かべ、掠れた声で口々に「助けてぇ」と叫んだ。
「それ‥‥誰‥‥? 人質の‥‥つもり‥‥? なんで‥‥僕等が‥‥それで‥‥止まるの‥‥?」
 霧島が剣と盾を構えて言う。
「サリア系かどうかは知らんが、どっかの希望達はこういうの、殺せない奴等が多いだろう?」
 アンサズは子供達を盾にするように屈みながら笑う。
 UNKNOWN、探査の目を発動している。教師達の姿を視認した瞬間に問答無用で吹き飛ばそうとしたが思いとどまっていた。一撃で倒せるような相手には見えない。実験体達が殺されては意味が無い。
「武器を捨てろ。餓鬼どもを殺すぞ」
 教師が言った。
 動けない。
 正々堂々と戦ってくれるような相手ではないらしい。
 じりじりと貴重な時間が過ぎてゆく。


 他方、ゴットホープ方面。周防 誠(ga7131)機とルノア・アラバスター(gb5133)機の二機が向かっていた。
「炎帝の信頼に応える為にも‥‥抜かせる訳にはいきません」
 コクピット内ルノア、操縦桿を握り風防越しに彼方の空を睨みつつ呟く。蒼に浮かぶ禍々しくも鮮やかに赤い光達、敵集団の背が見えた。ブレス・ノウを起動、相対距離を測り未来機動を予測しつつタイミングを計る。RoteEmpressよりも高高度を飛んでいるゲイルIIがブーストを点火した。スカイブルーのワイバーンが雲を引いて猛加速してゆく。ルノアもまたブースト発動、メタルレッドのS‐01HSCが極超音速まで一気に加速してゆく。強烈なGに耐えつつ口頭でカウントを開始する。
 タロスが既に反応している。猛烈に赤く輝きながら周防機へと飛ぶ。ヘッドオン。タロス、肩部大口径キャノンより極大光波を撃ち放つ。ワイバーンの追加ブースターより焔が噴出した。ゲイルIIが弾かれるように急降下する。光が翼の残像を貫いてゆく、かわした。EF‐006は螺旋を描く軌道でスライドしながら極超音速で猛降下し光線を連射するタロスの横手を貫きかわしてゆく。タロスは慣性制御で超旋回してその後背へ光線を連射してゆくが、全弾外れ。かすりもしない。外から見れば鮮やかだがコクピット内、周防は猛烈なGに歯を喰いしばって耐えている。無茶な機動だ。爆風を巻き起こしてキメラ群の上方を通り抜けると操縦桿を渾身の力で引き起こしつつロールしその正面に踊り出る。ロックサイトがキメラの群れを捉えてゆく。
 他方、ルノア機、周防機がタロスの注意を惹いている隙にキメラの後方下方、低い高度に詰めている。上下前後。クロスレンジ。挟んだ。ターゲットロック、インサイト、表示が赤く切り変わる。カウントダウン、3、2、1、今、発射コードをコールする。
「TH2、FOX‐3!」
 爆音と焔と共に七五〇連発、小型誘導弾の嵐が蒼空へと広がり、煙を噴出しながらキメラの群れ目がけて天を翔け昇ってゆく。同時、天空からも周防機からも五〇〇発の小型誘導弾を撃ち降ろしていた。超音速を越えて飛ぶ鋼鉄の牙が、前方上方と後方下方より人頭蛇身翼キメラ達へと伸び、次々に喰らいついて大爆裂を巻き起こしてゆく。木端に散り焔に包まれながら二十と半ば程の数の人頭蛇が墜落してゆく。
 光が唸りをあげて迫る。周防機、タロスからの射撃をマクロブーストのオン・オフで緩急をつけて回避。奇声をあげて迫る人頭蛇へとK‐02をタイミングをづらしながら再度連射、次々に爆砕してゆく。ルノア機もまた低・高改造のK‐02をタイミングずらしながら組み合わせて撃ち放ってゆき二機でさらに一千二五〇発の誘導弾を爆裂させて残存の二十五匹も瞬く間に殲滅した。
 周防機がタロスへと向かい、ルノア機、ブレス・ノウ継続、敵味方の動きを視界に未来機動を予測。
 ガンサイト、高速で機動するタロスの移動先に弾を置く形で甘い所に撃ち、敢えて避けさせ隙を作りださんとする。ツングースカ機関砲で猛射。タロスは赤輝を纏って機動してスライドし、周防機がエニセイ対空砲を猛連射して砲弾を次々に直撃させ装甲を爆砕してゆく。剣翼突撃をかけるような機動を取りつつ、スナイパーライフルで狙撃、タロスの防御を惑わせ弾丸を叩き込む。タロスと周防機は交差しながら螺旋を描いて上昇してゆき、ルノア機が二機を追ってタロスへと徹甲弾を猛射してゆく。
 ツングースカとエニセイが唸り、装甲を粉砕されたタロスの身から漏電が発生する。次の瞬間、黄金の巨人は超爆発を巻き起こして四散した。撃破。
「TH1、第一目標の殲滅を確認、これよりGH防衛隊の援護に移行します」
 周防は言って翼を翻し、ゴットホープ防衛隊と交戦しているバグア軍へと突っ込んでゆく。
(こちらの戦果が状況を好転させるとは限らないが‥‥)
 しかしそれでも男は行き、多くの敵と戦い、その多くを粉砕した。


 施設。
「こいつらが持っている箱、なんだか解るか?」
 睨み合う中、アンサズが言った。
「片方は外傷に効く薬品箱で、片方はお楽しみだ。迅速に治療すれば死なないかもな?」
 男は言うなり、少年と少女の背中を爪で縦に引き裂いた。血飛沫が吹き上げる。
「ヒャハハハ! ぎりぎり生きてるぜぇ! さぁ健気に手当てしてやりなぁッ!!」
 少年少女を傭兵達へと突き飛ばし、追いかけるように背から長剣を抜き放ちつつ踏み込む。竜人達もまた大剣を構え動き出す。
 アレックス、蒼龍を発動、敵の動きを見据える。霧島、アンサズの側面へと踏み込まんと前へ、UNKNOWN、突き飛ばされた少年へと練成治療を五連打、少女へも五連打して全快復させ、残像を残す動きでさらにアンサズへと光線を猛射する。力の価値を知ってるか、と痛感させる凄まじさ。
「はぁあああッ?!」
 アンサズ、驚愕の声を発しつつも飛び退いてかわし長剣で斬り払い、霧島、教師の横手より十字光線剣で斬りかかり、竜人が大剣を霧島へと落雷の如く振り降ろす。直撃して霧島無傷。無視して十字剣を振り抜く。光の刃が教師に炸裂し白衣を斬り裂いてゆく。アレックス、リボルバーで竜人へと七連射、蜂の巣にして撃ち殺す。アンサズ、限定限界突破を発動、UNKNOWNが虚実空間を発動、体躯の変化を逆戻しに治める。
「それは却下、だ」
「こ、の、野郎っ‥‥!」
 ブチ切れているアンサズへ霧島、光剣で烈閃を巻き起こす。アンサズは斬られつつも反撃に長剣を振るい、お互いの刃が炸裂して双方の装甲が削り飛ばされてゆく。アレックスは猛射してさらに一匹の竜人を撃ち殺し、UNKNOWNは教師を観察しつつ手数を抑え目に光線を連射して霧島を援護、さらに敵味方の状態に合わせて虚実空間、練成治療と発動させてゆく。
 アンサズ、長剣を天に向けて光の粒子を集め、超絶な爆裂波を猛連射する。霧島とUNKNOWNに壮絶な破壊力が炸裂し、倒れていた少年少女が鮮血をぶちまけながら吹っ飛んでゆく。UNKNOWN、練成治療を十連射して少年少女を回復させてゆき、アレックスは霧島の陰に入ってガード。霧島は竜の翼を発動、盾を構え爆発を突き破り咆哮と共にチャージする。盾が教師に炸裂し、その身が吹っ飛んでゆく。壁に叩きつけられた瞬間、間髪入れずUNKNOWNからの壮絶な光波が突き刺さる。
『イグニッション!』
 アレックス、練力を全開に猛火の赤龍を発動、閃光を追いかけるように油断なく壁際のアンサズへと踏み込むと左篭手で旋回するように殴りつけた。鋼の拳が教師のレバーに炸裂してその身が折れ、次いで振り降ろされた右の鋼拳が教師の側頭部を直撃する。頭部が割れて鮮血が噴出した。壮絶な轟音と共に破壊力を叩きつけ高速でラッシュをかけてゆく。
「コッ‥‥ノ、ゲン、ジュウミンっ、ドモガァアアアアッ!!!!」
 爆裂が巻き起こってアレックスが吹っ飛び、練成治療を受けて着地し、UNKNOWNが連射するキャノンの閃光を追いかけるように霧島が突っ込み、さらにアレックスが続いて突撃してゆく。
 轟音が地下に炸裂し、やがて粉砕されたバグアの骸が地下ホールに転がったのだった。


「時間だ」
 六千の旅団は三方から前進を開始した。戦車や陸戦KVが前進しヘリや航空KVが宙に舞う。
(僕は‥‥強化人間を憎んでいる‥‥だがこれは‥‥今生きている人間のための戦い‥‥私情は、挟まない)
 ウラキ(gb4922)はゼカリアの内部、レバーを操作しながら胸中で呟く。
(俺が求めるは調整の詳細。それは今も変わってねえ)
 館山 西土朗(gb8573)は胸中で呟いた。
 だが、若い奴らが無茶を成し無理を通そうとしてる。ならば、
「それを全力で支えてやるのが大人の仕事だ」
 呟き、空から愛機をウラキ機の付近の大地に着陸させる。鈴葉機、月神機、ラウラ機、シャーリィ・アッシュ(gb1884)機、柳凪機、コルデリア機もまた次々に降り立ってゆく。
(血河を渡り屍丘に立つ意味)
 ラウラは胸中で呟く。
(死より恐れるべきは希望を失うこと。でも命こそ希望とも思う矛盾)
 もうすぐ対空砲のレンジに入る。
(走り出した人達の分まで私がしっかり、命令違反を埋め合わせられる戦力として働きたい所‥‥!)
 鈴葉は砲弾が大地を爆砕し焔を吹き上げさせる中、機体を前進させながら胸中で呟く。
 戦場だ。
 あちこちで敵味方が激突して爆炎が雪原を吹き飛ばし、人もまた塵のように吹き飛んでゆく。前進の途中、シャーリィ機に霧島機より無線が入った。施設に向かった三人は実験体の確保に無事成功したらしい。
 要塞正面、傭兵達が進撃するとスノーストームと黄金の鎧に身を固めた四体の超巨大竜人型キメラが前進して来た。傭兵各機も前進し距離を詰めてゆく。
『ベルサリア! 子供達は救出されたぞ!』
 シャーリィは指向性を持たせた外部スピーカと無線を用いてベルサリアに呼びかけた。また施設側の霧島機より超通信機を用いて実際に子供達の声も送って貰う。子供達の声が伝えられてゆく。
『前回も迷いがあったろう、ディアナもお前を気にしていた‥‥お前がどうしたいのか、もう一度考えろ! お前を縛るものはもう無い!』
 シャーリィが言うと、スノーストームから感極まったような声が響いて来た。
『有難うございます‥‥有難うございます‥‥! あの子達を救ってくださったのですね‥‥‥‥! 約束は‥‥‥‥約束は、果たします‥‥ッ!!』
 猛烈に真紅に輝くと大剣を抜き放ち竜人型キメラへと踏み込み、監視が自爆装置のスイッチを押し、超爆発を巻き起こして四散した。ワームの欠片とベルサリアの欠片が雪原にぶちまけられてゆく。
『なんで自爆装置の解除もしてないのに呼びかけるの‥‥呼びかけるにしても自爆装置解除するから内応は待てって遠まわしにでも伝えないの‥‥殺したかったの?』
 とコルデリア。
 相対距離二〇〇、柳凪機、黄金竜人へとマルコキアスで猛射、四〇〇発の弾丸を嵐の如く叩きこんでゆく。
「‥‥目の前の敵を、今は‥‥」
 ウラキ、戦車形態のゼカリアを停止させると、主砲を上に距離と大きさから照準を修正、装填しておいた対空榴弾を竜人Bへと撃ち放ち、間髪入れずにツングースカ機関砲で猛射。弾幕を張りつつ主砲に徹甲散弾を込める。
 竜人へと榴弾が飛んで宙で爆ぜ、破片が直径十メートル程度の広範囲に撒き散らされてゆく。黄金の装甲が破片に穿たれて削られ竜人は怒りの咆哮をあげつつウラキ機へと加速する。ツングースカ弾幕に対して巨体に見合わぬ軽快さで雪原を爆砕しながらスライドして回避してゆく。柳凪機、マルコキアスの射線を竜人Bへと向けてクロスファイア、交差する弾丸が黄金の鎧に突き刺さり、薄い部分を貫いて血飛沫を噴出させてゆく。ウラキ機、さらに主砲で散弾を放ちながら薙ぎ払う。散弾が竜人の顔面に次々に炸裂しうち一発が片目に突き刺さって血飛沫を噴出した。
「目にゴミでも入ったか? 悪いな‥‥」
 ウラキは呟きつつ散弾を装填。柳凪機は獅子王と白桜舞を抜き放って迫る二体の黄金巨竜の前に立ちはだかる。二体の竜人が振り回す大剣を二刀で捌きつつ時折反撃を繰り出して引き付けながら後退し他の二体との距離を離してゆく。
 ラウラ機、竜人Cへと高分子レーザー砲とランチャーシールド、アテナイで猛射。光線が黄金の鎧を穿ち、誘導弾が炸裂して強烈な爆裂を巻き起こし、猛弾幕が火花を巻き起こしてゆく。効果を観察。強いていうならレーザーの砲が効いている気がするが、大差はない。黄金竜人が怒りの咆哮をあげてラウラ機へと踏み込み大剣を振り降ろす。ラウラ機は傾斜をつけてシールドを構え打ち込みを受け流すと、カウンターで長剣のを踏み込んで来た足の膝裏へと差し込んで引き斬った。血飛沫が噴き上がって竜人の態勢が崩れ、コルデリア機が回り込んで軸足の膝へグングニルを撃ちだして突き刺す。ラウラ機は竜人の大剣を狙って長剣を一閃させる。剣と剣が激突し竜人の大剣が明後日の方向へ流れたが、簡単に武器は手放さない模様。
 館山機は竜人Dの足元へと試作型スラスターライフルで猛射、弾幕を解き放つ。竜人は咆哮をあげながら機敏に機動して回避しスライドしながら突っ込んで来る。
 鈴葉機、スラスターライフルの照準を竜人Dの頭部へと向け猛射。竜人は駆けつつ顔の前に大剣を掲げ直撃を減らしてゆく。
(硬いし速い‥‥しかし、肉と骨で形作っている以上、可動域確保の為に関節部には比較的柔らかい場所がある筈)
 鈴葉、知恵を巡らせる。その構造上の脆い部分というのは必ず発生するものだ。距離が詰まる。アテナイの弾幕を受けつつも突撃して来た竜人が大剣を稲妻の如く袈裟に振り降ろし、鈴葉機は機体を斜めに踏み込ませる。雷電の頭部の端が火花を巻き起こしながら切断されてゆく、が、そのまま抜けた。腕部分をドリルと変え竜人の足の付け根へと切っ先を繰り出す。螺旋に回転する先端が装甲の隙間に入って黄金の鎧を砕き、骨肉を砕きながらその奥までを貫いてゆく。クリーンヒット。ぶち抜いた。
 鮮血と共に片膝を崩した竜人の側面へと館山機が踏み込んだ。盾のブースターを噴出して身の捻りを加速しながら機槌明星を横殴りに振るう。竜人は大剣を引き戻して槌を受け止め、その瞬間に伸びあがった鈴葉機がドリルで竜人の顔面をぶち抜いた。ドリルの先端が目から入ってその内部を貫きながら掻きまわして粉砕し後頭部から抜けてゆく。赤色を撒き散らしながら竜の巨体が糸が切れたように雪原に崩れ落ちてゆく。必殺の一撃。撃破。
 シャーリィ機は柳凪を追っている竜人へとヒートディフェンダーで斬りつけ爆炎を巻き起こす。
 月神機はブーストを発動してベルサリアの元へ急行している。風防を開いて残骸の元へ降り立つ。砕け散った強化人間を確認する。駄目だ、死んでる。
 ラウラ機とコルデリア機が槍と剣で竜人を打ち倒し、鈴葉機と館山機が柳凪機へと攻撃しているもう一方の竜人へと攻撃してまたドリルで頭部を粉砕した。柳凪機とウラキ機が猛射しシャーリィ機が斬りつけ月神機がロンゴミニアトで爆砕して最後の竜人もまた倒れる。
「‥‥GoAheadだ諸君!」
 鈴葉が言って軍と激闘を繰り広げている要塞へと機体を向ける。攻防を援護しにゆくのだ。六機のKVがその後に続いたのだった。










 要塞の東方面、激戦の後の屍山血河、転がる骸の中、男はその隊長を見下ろしていた。
「愚かな事をやりましたねハイレディン。貴方はそれでも軍人ですか?」
「機械の、ように‥‥生きたく、思っていた‥‥だが、すまん‥‥勝手をやった‥‥結果は、どうなった‥‥‥‥」
 死にゆく赤髭へとレイヴルは今回の戦の結果を伝えた。
「この結果は解っていた筈ですがね‥‥兵士達は『ULTは仲間ではない』と言いだしています。俺達と傭兵達との溝を浮き彫りにして誰が得をするのです‥‥? 傭兵は俺達の親愛なる戦友でUPCとULTは兄弟ですが、俺達が俺達の為に雇った上でも、強化人間とその命を天秤にかけられ俺達が切り捨てられる程度には仲間ではない。傭兵の全てが、ではありませんが多くはそうです。ですが俺達はその傭兵達と協力し合わなければバグアには勝てないのですよ。解っていた筈です。解っていた筈です。何故、何故、伝えた。俺達は兄弟と争ってはいけないのに、何故」
「俺は‥‥‥‥俺は‥‥‥‥それでも‥‥俺達の価値に‥‥‥‥夢を‥‥‥‥見たかった‥‥のかも‥‥し、れ、ん」
「愚かな」
 赤く凍てついた骸の海を、風が一陣、吹き抜けて行った。








 かくて赤髭は死に、その大隊も壊滅し、竜騎兵の少女と兵士達は傭兵と強化人間達を怨み、ベルサリアは死に実験体達は救助されたが幹部等より「災いの元である」として処刑されかけ、傭兵達が反対して一触即発の状態となり、レイヴルが両サイドの仲を繋ぎとめるべく奔走し、GH防衛隊からの感謝の言葉や要塞攻略での傭兵隊の活躍を説き、またアンサズの打倒などの功績を准将へと説き、准将はそれを容れて命令違反の罰則を不問にすると発表し、また実験体達が今後成人するまでの生活の場の確保も約束し、様々な反対も黙らせた。だが准将とレイヴルにも周囲からの目が突き刺さり「上とは認めぬ」「仲間とは認めぬ」との声も湧き上がり英雄として声望を集めていた二人は組織の中で非常に厳しい立場へと転落してゆく事になる。
 アンサズは死に、キメラ達は死に、親バグア兵達も死に、血が要塞を洗い雪原を染め、そしてグリーズガンド基地にはUPCの旗が翻った。



 氷の風が吹いている。
 フィンブルの冬だと、誰かが言った。




 了