タイトル:【共鳴】フィンブルの冬マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/07 10:18

●オープニング本文


 状況が酷く不味い。
 ハーモニウムのベルサリア・バルカは思っていた。
 結局の所、最後の攻勢も跳ね返されベルガ戦陣は陥とせなかった。代わりにこちらはルミス――強化人間一人と多くのキメラを失った。
 このまま、では、不味い。
 ベルサリアは思う。
 止めなければならない。
 止めなければ、このままでは、このままでは――
「さりあー、こわいかおしてどうしたの?」
 基地の一室、まだ幼い子供達がベルサリアを見上げていた。金髪の女ははっとしたように微笑すると、
「あら、御免なさいね。今日のランチは何にするか考えてたの、最近太り気味だから。一キログラムも増えちゃったのよ」
「さりあー、ぜんぜんふとってないよー?」
「いやぁ最近食べなきゃやってられないので将来が怖い――じゃなくて、うふふ、ありがとうね」
「‥‥」
 子供達はわいわいと何かを言っていたが不意に沈黙してベルサリアをじっと見据えた。
「あら?」
 女が首を傾げると子供達は言った。
「さりあー、おめめ真っ赤ー?」
「ああ、これはね」
 青から赤へと変わった瞳を瞬かせると女は微笑した。
「いいの。綺麗でしょう?」


「火炎の如く攻めろ!」
 北の氷雪に相対するベルガ戦陣、そこに駐屯するヘイエルダール旅団団長ヴェイオル=ヘイエルダールは進撃の角笛を吹いた。
「奴等の天下は既に終わった! ここから先は人の時代だ! 北の闇を消し飛ばせ!!」
 KVが空を舞い、戦車が進み、軍外套を纏った兵士達が小銃や砲を担いで雪深い野を進軍してゆく。
 他方、
「フィンブルの冬だな」
 グリーズガンド基地の滑走路にて男はククッと喉を鳴らした。白の衣に身を包んだ長身の怜悧そうな風貌の若い男だ。
「ベルサリア、十分に気をつけてゆきなさい」
「アンサズ先生‥‥」
 パイロットスーツに身を包んだ少女が呟いた。ベルサリア・バルカだ。
「万が一の時は、あの子達をよろしくお願いします‥‥」
「ああ、勿論だ。君は何の心配もしなくていい。なかなか難しい状況だが、君が良く戦ってくれれば、あの子たちの将来も安泰だろう。それについては安心して良い。私に任せておきなさい」
 アンサズと呼ばれた男は微笑する。
「‥‥先生は」
 ベルサリアは俯きながら問いかけた。
「うん?」
「先生は、全てを助けるのは無理だと思いますか?」
「何の話だい?」
「弟が言っていたんです。全てを助けようなんて思ってちゃ何も助けられやしないって。何故なら世界には法則があって、世界だってそれに従わなければならないからだって。だから全部なんてのは夢物語だから、自分にとって一番大切なものの傍にいろって」
「おや、らしくないね。弟さんには悪いがそれは後ろ向きな言葉だよ。助けようとしなければ助けられないのは当たり前だ。頑張ればきっとなんとかなるさ。大丈夫。全てを上手くやる方法はある筈だ。諦めてしまうのは良くない。希望はきっとある、弱気になってはいけない」
 男は励ますように少女の両肩に両手を置いて微笑する。
「先生‥‥教えてください。具体的にはどうすれば――」
 瞳に溢れ出そうな涙を溜め、少し泣きそうな顔をしてベルサリアはハーモニウムの教師を見上げた。
「そうだねぇ、この基地に向かって来ているニンゲンどもを叩き潰すと良いと思うよ。それで全ては救われる」
「でも‥‥」
「僕の言う事を信じて頑張りなさい。疑う事は罪だ。信じる事、これが力になる。そう、教えたろう? ほら、君には新しい力も与えてあげたし」
「‥‥はい」
 頷く少女の頭を一つ撫でると男はにこにこと笑いながら言った。
「うん、良い子だ、可愛いベルサリア。さぁ頑張って! 君なら出来る、自分とスノーストームと仲間のキメラ達の力を信じるんだ!」
「はい‥‥!」
 ぎゅっと目を閉じると少女は呟き、拳を握って真紅の目を開いた。教師に一度抱きついて腕を回してから身を離し、見上げて言う。
「先生、行ってきます」
 その言葉にうん、とアンサズは頷き、ベルサリアを送りだした。少女はヘルメットを被り鎮座するスノーストームへと向かって歩いてゆく。やがて少女は量産型のスノーストームに乗り込み、そのスラスターを吹かせて駆け、竜型のキメラ達と共に大空へと飛翔していった。
「‥‥やれやれ、ありゃ、何処まで持つかねぇ」
 アンサズは煙草を取り出し咥えると火をつけた。息を吸って吐く、美味い。
「頼むぜ小娘ぇ? ちったぁ時間を稼いでくれりゃあ良いんだが‥‥ディアナ、ファルコン、サルヴァドル、そしてベルサリア、か。ハーモニウムってのは、ホントつかえねぇな。つーか、俺がハズレ引いたんか?」
 ハッ! と自嘲気味に人の皮を被ったバグアは笑う。
「餓鬼は適当な研究所に‥‥ああ、勝ったら不味いか。後ろの基地に送るとして‥‥逃げ支度、は‥‥上が許してくれねーと不味いな。何か理由をでっちあげんと‥‥ああ、くそっ、時間が必要だ。頼むぜ可愛いベルサリアァ、勝ったらまた可愛がってやるからよ!」
 教師は雪降る滑走路に笑い声を響かせ、長衣を翻し基地の奥へと消えてゆく。その衣、背中に小さな機械がついていた。
「先生‥‥」
 スノーストームのコクピットの内部、ベルサリアは涙を流しながら呟いた。
「それでも、私は‥‥!」
 スノーストームと飛行キメラの一団が南へと飛び、ヘイエルダール旅団のKV編隊が北へと飛ぶ。
 戦は空から始まる。
 激突の時が、迫った。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
楊江(gb6949
24歳・♂・EP
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文

 出撃前。
『捕虜?』
「はい」
 通信装置に言葉を返す。
 アルヴァイム(ga5051)は強化人間が出て来た際の対処を予め決めておく為に旅団司令部へと提言していた。
 無力化を条件に攻略戦における情報面での有為性を具申する。すると傭兵隊をまとめる士官を経由して旅団長が出て来た。
『――確かに、捕虜を取れば情報は得られる。そして情報は無いより有った方が良い』
 アルヴァイムの説明を聞いて初老の准将、雷神と渾名されるヘイエルダールはそう言った。
『だが、洗脳者のそれはリスクに対して利益が五分とは俺には思えない。九の真実の中に一つの偽を混ぜられると看破が難しい。始末に悪いのが口を割った本人に嘘をついている自覚がない場合だ。虚偽を真実だと刷り込まれているパターン。苦労して獲得した捕虜が偽情報を仕込まれていたら、全軍は無駄にリスクを被る。
 しかし、情報など大小はあれど全てそういう危険を抱えている。故に軍は複数を合わせて判断する。俺もそうだ。だから情報源は多い方が良い。だが、情報にも価値や信頼性という物はあると考える。現状、洗脳者の有効性などせいぜい二分か三分あれば良い方だろう。そこまでのリスクを割いてまで手に入れる必要があるものか? 割合の見立てはあくまで俺の主観だが――しかし、ここの指揮官は俺で、そして二分か三分なら俺はリスクを切る』
 そう前置きしてから旅団長は問いかけた。
『その上で聞く、必要なのか?』
 アルヴァイムは考える。何をどう言えばこの旅団長を動かせるか。少しの後に、言う。
「傭兵としては、必要が発生する可能性があります」
『発生した時に得ようとするとして――難しいぞ。やれると思うか? 強化人間を捕虜に、というのは障害が何重にもなっている』
「望むから、ではなく望まれているからやる必要がある、かと。多くがそれを望むなら、達成されなかった時の損益もまた大きくなります」
『自分達の任務の際のハードルを敢えて上げたいというのなら、良いだろう。傭兵にはその自由が認められている。だが、具体的になんとか出来るものなのか?』
「その為に、障害の一つを取り除く為にこうして申し上げています」
『‥‥‥‥良いだろう』
 ヘイエルダールは数秒考えるようにしてから言った。
『この旅団が傭兵達に借りがあるから、という理由ではない、と言っておく。俺達にも立ち場がある。しかしそれを抜きにしても、大きな理由はやはりこの旅団の決戦能力はお前達にかかっているからだ。それがお前達にとって必要なら、我々にも必要だという事だろう。それが必要だと判断した時は、やってみろ』
「了解」
『ただし限度はある。損害は抑えろ。この状況での失敗は許さん』
 それを最後に通信が切れた。
 失敗、どのラインか。
 頭が痛い事だ。
 旅団長は旅団長で譲歩と協力を示してはいるが、しかしあくまであちら側だ。旅団長という立場なら当然かもしれないが。
 どちらにブレた所で端を通っては、両端にそれぞれがいた場合、部隊は分裂する。必要なのは許容範囲の重なる所を通す事。それがベストの一つ。だがしかし、そうはいっても実際に実現させるとなるとそれは非常に困難な事だ。
 だがとにかく許可は取った。准将の協力がなければ選択肢の幾つかは選べるものではない。
 赤毛の男は頭脳に彼我のデータを入力・展開しながら状況を想定しその対策を練り上げてゆく。
 遠くから、風が吹き始めていた。


 凍てついた空だ。
 十一年の二月、グリーンランドのベルガ戦陣を守備していた雷神旅団は攻勢に出る事を決定しグリーズガンド・バグア基地へと向かって進撃を開始した。数千の歩兵や多数の戦車、自走砲等が雪原を北へと進んでゆく。
 地上を進む兵達を援護する為に鋼鉄の翼が空を舞っていた。ULTの傭兵からなる十二機のKV編隊である。
(ついに旅団が戦陣から動いた)
 F‐201D/A3のコクピット内、ラウラ・ブレイク(gb1395)は地上を見下ろして胸中で呟いた。ここに至るまでの道のりを思い出す。
(――厳しいこの冬を終わらせることが。散った彼らへの手向けにもなる)
 ここまで来て負ける訳にはいかない。
「ラグナロクの時は近い、か‥‥」
 アレックス(gb3735)もまた蒼空にGFA‐01S2を飛翔させその操縦席で呟いていた。
 チューレ基地への足掛かり、グリーズガンド・バグア基地。
(ベルガじゃ散々苦労させられたが、何としても落とす。雷神旅団とも長い付き合いだな)
 そんな事を思う。無いとは思うが、万が一ここで大敗北でも喫すればすればまた防戦一方に逆戻りだ。
「KVは‥‥管轄外、なんだけど‥‥ね」
 気軽に苦笑しつつ霧島 和哉(gb1893)が言った。乗機はGFA‐01S。
「管轄外だろうが、やるしかねェだろう、兄弟(ポルックス)」
 アレックスからそんな言葉が返って来る。
「やるしか‥‥うん。確かに、ね」
 管轄外とはいえ、北の空を飛ぶのは、悪くない、
「今までも‥‥本来管轄外な敵、ばっかり‥‥相手にしてた訳だし。今回も‥‥よろしく、だよ。兄弟(カストル)」
 霧島は頷きそう言った。
「整備のおっちゃん達が機体を間に合わせてくれたのに、僕が動けないとか‥‥」
 翼を並べる一機、G‐43改に搭乗している狭間 久志(ga9021)が身体の痛みに顔を顰めつつ呻いた。
「無理はするなよ」
「ああ、悪い。援護に来てこの状態とは‥‥黙って見てられなくてね」
 狭間はアレックス達を手助けする為にこの空へとやって来たらしい。
「前は任せときな相棒」
 武藤 煉(gb1042)が言った。乗機はF−201D/A3。武藤はかつて一度傭兵を引退したのだが、ある日を境に復帰したらしい。そして引退していた彼を復帰に導いた張本人は今隣を飛んでいる狭間だ。武藤は狭間に対して信頼と恩を感じている。その為に来たといった所だろうか。
 人の縁というのは繋がっており何処かで一つの場所に集まる事もあるのだなと感じさせる風景である。
 旅団の頭上を守りながら飛行していると無線に敵の迎撃部隊が出撃した、との報が入った。敵の戦力は量産型のスノーストームが一機に金銀銅のワイヴァーン型キメラが一匹づつであるらしい。
「‥‥量産型とは言えスノーストームを出してくるとは、厄介ですわね」
 CD‐016Gに搭乗するクラリッサ・メディスン(ga0853)が言った。
「スノーストーム‥‥もしかしたらハーモニウムって奴か?」
 山崎 健二(ga8182)が言った。こちらの乗機はF‐108改だ。
「可能性は高そうですわね。とりあえずは組み易そうなワイヴァーンから先に片付けて、なるべく多くの機体で当たった方が良さそうでしょうか」
 とクラリッサ。
「了解。やり合うのは初めてだが、やる事はいつもと変わんねぇか」
 戦って勝つ、それだけだぜ、と山崎は思う。
「確か、量産型SSはハーモニウム専用機の筈だ‥‥しかしベルガの片が付いたこのタイミング‥‥ベルサリア・バルカか?」
 アレックスが言った。
「ベルサリアですか‥‥」
 ASH‐01を駆るシャーリィ・アッシュ(gb1884)が呟いた。かつて基地の地下で彼女とは正面から斬り合った事がある。
「パイロットを確認したい所だな」
 館山 西土朗(gb8573)が言った。F‐104改に搭乗。彼もその場面にいて対峙した。少し縁がある相手だ。
「ベルサリア、ね。何か名前がオレの知り合いに少し似ているな‥‥もしそいつだったら死なれたら寝覚めが悪いんで、なんとか鹵獲してぇな」
 と山崎。
 傭兵達は話し合い作戦を立てる。幾つかの班に別れてそれぞれ対応する事となった。
(様々に込み入った事情が存在するみたいですわね‥‥)
 ざっと皆から話しを聞いたクラリッサはそう思った。少し唸る。なかなか難しそうだ。
 とりあえず、その辺の事情を詳しくは理解していない自分は余分な事は考えずに任務の遂行に尽力しよう、と思った。
 対応班には拘りを持つ仲間が居るので、その行動は極力邪魔しないようにしようと頭の隅に注意を留めておく。
(ハーモニウムですか‥‥)
 楊江(gb6949)は胸中で呟いた。彼はその強化人間達とは何の縁もない。EF‐006を翔けさせながら風防の彼方に広がる凍てつく空を見据える。グリーンランドのこの空へとやってきたのは、もっと厳しい場所に自分の身を置くべきだと感じたからだ。初めは銅飛竜を担当だが、そちらが片付いたらなんとか工夫して撤退させられたら、と思う。
(先の戦いで負傷してまだここでも戦う事になったけど、僕の闘志は折れなかった)
 F‐196のコクピットの中、満身創痍のドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)は思う。
(手を取り合って逝く『二人』を見た。そして、殺したくないと言われる存在が敵の中にいる‥‥僕がこの戦いに参加できたことを光栄に思いたい。その為に――!)
 少年はそう気合いを入れる。
 空の彼方より赤い輝きが迫った。


 爆風を巻き起こしながらKVが北へと飛び、スノーストームと三匹のキメラが南へと飛ぶ。両陣営はやがて極北の蒼空で対峙した。距離が近づいてゆく。
「答えろ! お前はあの時のベルサリアか?」
 シャーリィ・アッシュは外部スピーカで発すると共に、相手が傍受している可能性を考えて無線を飛ばした。館山もまたスノーストームへの通信を試み無線の周波数をいじりつつ呼びかける。
 すると少しの間の後に無線にザッとノイズが走り二人が過去に聞いた事がある、あの少女の声が聞こえてきた。
『あの時の方々ですか‥‥お久しぶりです。御推察の通り、私はベルサリア・バルカですよ』
「やはり、いつぞやの譲ちゃんか。あの時は薬有難うな!」
 と館山。
『こちらこそ約束を果たしていただき有難うございます‥‥ディアナは無事なのでしょうか』
「ディアナの件じゃ世話になった、ありがとな。あの薬のおかげでかろうじて、生きてるって聞いた」
 アレックスがそう言った。シャーリィもまた「ディアナはまだ生きてる」と伝える。
「お前の心配は一つ解消されたはずだ‥‥今すぐ降れとは言わない。だが‥‥その余地はあるか?」
 シャーリィが問いかける。返答が返ってこない。静寂だ。
「‥‥アンタが何を背負って戦っているか、俺達は知らねェ。だけどこれだけは覚えといてくれ。その気になりさえすれば、状況は変えられるんだって。本当にどうしようもなくなる前に」
 アレックスが言った。
 すると少し後に反応があった。
『申し訳ありませんが、何か勘違いしてらっしゃいませんか‥‥? 私が人類側へ投降するなどという事などありえません。ええ、そんな事は絶対にありえない。私はハーモニウムの生徒で、アンサズ先生の忠実な部下です。どうして私が裏切るというのですか。ハーモニウムを裏切るなどという事はこの身が滅びようともありえません! 私は忠実な部下です!! 絶対です!』
 ベルサリアはそう言った。
「そう‥‥」
 霧島和哉は呟いた。どうせなら地上で会いたかったが、それはさておき、
「僕からは、前回の続き。答え‥‥聞きそびれちゃったし、ね。‥‥結局、何が出来るの? 何が、したいの? 出来る事としたい事は、同じなのかな。誰の為に、何の為に、戦うのか。‥‥それを見誤ると、手は届かない物‥‥だよ」
『私が、出来る、のは‥‥‥‥貴方達を退かせる事です。私の、望み、は‥‥私の望みも、それです‥‥ッ!! 私の、望みと、願いは、貴方達がこの空と大地から退く事!! 退いては、いただけませんか‥‥?』
 それは無理な話である。
『なら、実力で排除するまでです‥‥!』
「待って、あなたの事は殺してほしくないと言われているんだ。投降して欲しいって思っている人が僕達傭兵の中にはいるんだよ!」
 ドゥが言った。
『それは私も同じ事です‥‥! ではバグアに降伏してくださいませんか?』
 もっと無理である。
『退く事も、降伏事もできなくて、北へと進んで来るというのなら、強制的に退いていただきます‥‥!』
「ソッチも戦う理由とか負けられない事情があるんだろうな‥‥が、それでもオレ達が勝たせて貰うぜ!」
 山崎が言った。
『推して参ります‥‥勝負!!』
 少女の叫びと共に、大きく旋回する軌道を取っていたスノーストームが人型に変形しとキメラが方向を切り替え、真っ直ぐに突っ込んで来る。
 激突の時が、迫った。


 武藤機、変形に合わせて突っ込みたかったがちょっと距離が遠かった。通常のまま向かう。
 黄金の飛竜へラウラ、山崎、館山の三機が向かい、銀の飛竜へアレックス、霧島の二機、銅の飛竜へはクラリッサと楊江の二機が飛んだ。スノーストームへ向かうのはアルヴァイム、シャーリィ、武藤、狭間の四機だ。
 ドゥ機は戦域の後方につけて管制に当たる。口頭での管制というのは、こっちの戦域の空は音速戦闘なので原則一機を見るのも難しく全体を見るのも非常に難しい。言ってる間にはもう攻防が終わって位置が変わってるので未来を読む必要がある。電子装備もなく重症の身ではちょっと厳しい。
 アルヴァイム、ベルサリアの狙いを警戒。スノーストームはバーニアを全開にし大剣を構えて真っ直ぐに向かって来る。しかし、狙いが微妙にはっきりしない。何処を狙っているのか、殺気を感じとれない。
 ラウラ機は黄金竜の後背へと回り込まんと弧を描く機動、山崎機、館山機真っ直ぐに向かう。黄金竜もまた翼を開いて爆風を巻き起こしながら音速を超えて突っ込んで来る。ヘッドオン。
 相対距離六〇〇、山崎機、ガンサイトを竜へと合わせトリガーレバーを引く。銃口より蒼白い光が飛び出し空を一瞬で切り裂いて飛んでゆく。レーザーライフルだ。
 竜がかわさんと降下するが、それよりも速くレーザーが突き刺さり凶悪な破壊力を解き放って黄金の鱗を灼き貫いた。命中。
 竜は怒りの色に瞳を燃やすと首を山崎機へと向ける。山崎、
(戦法としちゃちょっとセコイが)
 と思いつつ機体を縦に傾け旋回、回避重視の機動に切り替える。竜の頭が自分に向いてる時は攻撃よりも回避行動して、他の誰かに顔を向けてたら攻撃するという戦法だ。非常に効率の良い、有る意味ベーシックな戦術である。
 黄金竜の口に眩い光が集まり、館山はロックオンすると注意を逸らさんとDM‐10誘導弾を猛射した。ミサイルが射出され焔を吹き上げ一瞬で超音速よりも速くにまで加速し黄金竜へと向かってゆく。次の瞬間、爆音と共に大空を焼き払う超巨大な荷電粒子の光が飛び出し、三連の誘導弾が黄金竜に次々に直撃して爆裂を巻き起こした。竜の鱗が吹っ飛び血飛沫が飛んでゆく。
 他方、同時に山崎機、F‐108改‐Baalzephon、濃紺と暗灰色のディアブロはロールして逆さになりつつピッチを上げて急降下していた。プラズマブレスが山崎機のすぐ脇を突き抜けてゆく。かわした。
 焔を割いて黄金竜が飛び出し館山機へと首を向ける。館山、アイギスも併用しつつブーストを発動、ジェット噴射ノズル核を操作して推力方向を操作し焔を吹かせてながら直線状から逃れんとスライドする。ブレスが館山機の付近を突き抜けてゆく、かわした。黄金竜はさらに光波を連射。巨大な光が館山機を呑みこみその装甲を吹っ飛ばしてゆく。館山機、他から距離を空ける空域を目指し竜を引っ張ってゆく。ラウラ機が小旋回して後方へ捻り込みガンサイト。
「金色の、首回して多方向撃てるわね、注意」
 そんな事を呟きつつ照準に竜の背中を合わせ、トリガーレバーを引く。砲門が爆音と焔をあげながら激振し嵐の如く徹甲弾を吐き出してゆく。30mm重機関砲だ。弾丸が次々にドラゴンの背に突き刺さって鱗を爆ぜ飛ばし血飛沫を噴出させてゆく。逃れんと旋回する黄金竜をラウラ機は逃さず追尾してレーザー砲を猛射、光の嵐を叩き込む。見た目的には重機関砲の方が効いているような気がするが、元の威力の差だけな気もする。あまり変わらない。
 他方、銀竜VSアレックス機&霧島機。
 炎の紋様の入ったGFA‐01S2‐カストル、銀竜とヘッドオン。機銃の照準を爆風を巻き起こして迫って来る竜へと向けトリガーを引く。次の瞬間、爆音と共に砲身が回転し徹甲弾の嵐が飛び出してゆく。弾幕の嵐が回避せんと動く銀竜を呑みこみ、次々に蜂の巣にしてゆく。銀竜は顎を開き、アレックス機、回避運動に入り、霧島機、アレックス機の前方に煙幕を向け発射。煙幕弾を炸裂させて煙幕を出現させる。直後、爆風が巻き起こって白煙を悉く吹き飛ばしてゆく。アレックス機は急旋回して衝撃波を回避。
 霧島機がレーザーライフルを銀竜へと撃ち放ち、銀竜が衝撃波を連射しアレックス機は回避運動継続中。交戦が銀竜に突き刺さりアレックス機は衝撃波をかわした。
 ドゥ機、アサルトフォーミュラを発動、命中、破壊力を増大させると84mm8連装ランチャーを銀竜へと向けて猛射。二十四発ものロケット弾が嵐の如くに襲いかかり銀竜へと突き刺さって爆裂を巻き起こしてゆく。
 他方、カッパーワイヴァーンへと向かったクラリッサ機&楊江機。楊江、クラリッサ機の後をわざとやや遅れるように追従している。
 相対四〇〇、クラリッサ機、銅竜をロックオン。UK‐10AAMを三連射。煙を噴出して三連のミサイルが飛び出し、咆哮をあげて銅竜へとその牙を突き立てた。大爆発が三連続で巻き起こる。全弾直撃。
 楊江、銅竜のすぐ脇へと狙いをつけロックオンせずにAAMを一発撃ち放つ。誘導弾が竜の隣の空間を貫いてゆく。わざとしょぼい動きをすることで、与しやすい餌の役になり、銅飛竜を引きつけ引き離す事を狙う。
 銅竜はクラリッサ機へと首を向け、顎を開いて巨大な火の球を撃ち放つ。三連射。唸りをあげて迫る火の球の群れに対しクラリッサ機は回避せんと機動する。急旋回して二発が外れて一発が翼の端を掠めて抜けてゆく。基本的にこの辺りのキメラは攻撃を加えて来た相手を狙う。 
 楊江はマイクロブーストを発動して距離を詰めるとロックオン、二連のAAEMを撃ち放つ。誘導弾が鋭く飛んで次々に銅竜を捉え爆裂を巻き起こした。
 他方、アルヴァイム、シャーリィ、武藤、狭間の四機VSベルサリア・バルカ機。
 アルヴァイム機、スノーストームへと照準を合わせ、牽制にSRD‐02で発砲。ライフル弾が空を切り裂いて飛び出し一瞬で空間を貫いてスノーストームに直撃する。普通に当たった。衝撃に動きが鈍った所へ間髪入れず、高性能バルカンで猛射。凶悪な破壊力を秘めた徹甲弾の嵐を次々に叩き込んで装甲を破砕してゆく。
 シャーリィ機がすかさずロックオンしUK‐10AAMを三連射。誘導弾が焔の咆哮をあげて飛び出し、スノーストームに次々に直撃して爆裂の嵐を巻き起こした。
 武藤機と狭間機の二機が取り囲むように迫ってスラスターライフルで同時射撃、弾幕の嵐を叩き込んでスノーストームを蜂の巣にしてゆく。破壊の嵐を受けているスノーストームの両肩の砲が輝きアルヴァイム機へと向けて猛射して来た。壮絶な破壊力を秘めた淡紅色の光線が十二連で撃ち放たれる。
 アルヴァムは素早く機動して八発を回避し四発の直撃を受ける。損傷率一分、化物のような装甲だ。アルヴァイム機が鬼なのもあるが、弱い気がした。あまりプレッシャーを感じない。その辺りは量産型という所なのだろうか。
 他方、山崎機。ラウラ機へと向き直らんとしている黄金竜へと距離を詰めサイトを合わせる。
(ソッチが荷電粒子ブレスなら、コッチは帯電粒子加速砲だ)
 胸中で呟きつつ発射ボタンを押し込む。主砲に光の粒子が集まり次の瞬間、巨大な光の波動が飛び出した。濃紺暗灰のディアブロから極大の光の槍が撃ち放たれ黄金の竜を貫いて凶悪な破壊力を炸裂させる。館山機が三連の短距離誘導弾を叩き込んで爆裂させ、ラウラ機は機体を真紅に輝かせた。空中変形スタビライザーを発動、赤い力場と共に人型の形態となると黄金竜へとすれ違いざまにハイディフェンダーと練剣雪村を振り抜いた。
 二連の剣閃が奔り、壮絶な破壊力が炸裂して黄金竜の首が吹っ飛んだ。両断された首が来る来ると回りながら飛んでゆき、鮮血をぶちまけながら胴体が地上へと落下してゆく。撃破。
 ラウラは再度変形して航空機形態へと戻る。
 ドゥは銀竜へとロケット弾を二十四連射、銀竜は旋回してロケット弾の嵐を掻い潜り、アレックスはブーストを発動、一気に上昇して銀竜の視界から消えんとする。上昇してからまた急降下して剣翼突撃。銀竜、アレックス機を見据えている。視界から消えるのは無理らしい。不可視の音速衝撃波が猛連射されカストルに直撃して衝撃を与えてゆく。大きく旋回する動きで銀竜の後背へ出た霧島機、リロードしたアハトを銀竜へと向け射撃。強烈な閃光が銀竜へと叩き込まれてその身が揺らぐ。
 アレックス機はブーストを全開にして音速衝撃波を突き破ると銀竜と交差様、翼の刃を首を狙って叩きつけた。極超音速で炸裂した刃が、竜の首を断ち切りながら抜けてゆく。必殺の一撃。首を上下に別れさせた銀の竜が、鮮血をぶちまけながら雪の大地へと落下してゆく。撃墜。
 ドゥが周囲を見回して黄金の飛竜と銀の飛竜が撃墜された事を告げた。
 クラリッサ、逃げ撃ちはちょっとその機動力だと無理のようだ。追いすがって来る銅竜からの火球の嵐を翻って回避してゆく。楊江機はAAEMを三連射、うち二発を直撃させてエネルギー爆発を巻き起こす。クラリッサ機は翻って機種を銅竜へと向けるとスラスターライフルで猛射。弾丸の嵐を叩き込んでゆく。
 他方VSスノーストーム。
 アルヴァイム機、ギアツィントを五連射して砲弾を次々と飛ばし、機銃を猛射して三十発の徹甲弾の嵐を撃ち放つ。砲弾がスノーストームに直撃し徹甲弾の嵐がその装甲を削り取ってゆく。シャーリィ機が合わせて再度誘導弾を猛射し直撃させて爆裂の嵐を巻き起こした。
(信じれば機体は応えてくれる、僕は相棒を信じてる‥‥)
 狭間、胸中で呟きつつ猛火の中のスノーストームへと照準を合わせる。ロックオン。
「行くぞ、武藤ッ!」
 合図を発し、発射ボタンを押し込む。I‐01「ドゥオーモ」だ。
「応よ狭間ァッ! 手前への借り、此処で一気に返してやるッ」
 上昇した武藤機、ブースト、オーバードブースト、空中変形スタビライザーを発動、真紅の力場を発生させ人型に変形する。狭間機よりの総計百発の膨大な数の小型誘導弾がスノーストームへと襲いかかり、次々に命中して放電を巻き起こし、武藤機が背よりスラスターを全開にしながら一気に猛加速してゆく。
「いっけええええぇぇぁッ!!」
「この一回だけ全開で行く!」
 クラッシュホーンを突き出してF‐201D/A3‐ヴィルトシュヴァインが飛び、狭間機もまたブーストを全開に発動、あの翼面超伝導流体摩擦装置をも発動させて極超音速で突っ込んだ。
 次の瞬間、急降下した武藤機のクラッシュホーンがスノーストームへと炸裂、自機ごと墜落する勢いでスノーストームを地上へと押し込んでゆく。
「ヴィルトシュヴァイン(猪)の名は伊達じゃねぇッ!」
 コクピット内、操縦桿を押し込みながら武藤が吼え、横合いから狭間機が突撃して来て剣翼を叩きつけ凶悪な破壊力を炸裂させて吹き飛ばした。
 吹っ飛んだスノーストームは背からバーニアを吹かせてその勢いに乗ったまま加速すると、ブーストを機動させて北へと向かって翔けてゆく。
「‥‥逃げる?」
 館山がぽつりと呟いた。
「‥‥‥‥迷っているのか」
 シャーリィはその背を見送ってそう呟いた。
 一方では楊江機が誘導弾を打ち込みクラリッサ機がスラスターライフルで猛射して銅飛竜を撃ち落としていた。




 かくて制空を奪取した雷神旅団は雪原を踏破し地上の迎撃隊も粉砕し北へと進軍してグリーズガンド基地へと迫った。
「被害は少ない。敵は撃退。時間のロスが多少あったが――敵も防備を固めた様子だが、その程度は及第点だ。軍としてはな。作戦は成功だ」
 ヘイエルダールはそう言った。
 館山は、准将へとベルサリアを捕虜とした場合「敵側の情報、特にチューレ基地の内部情報は攻略に非常に有用」という事とと「敵側の少年少女兵の命を助けることは少なからず美談であり、バグア派の人類を説得する材料になり得る」という事を述べた。
 准将はその言葉に難しそうな顔をすると、
「報告は聞いたが‥‥ベルサリア・バルカか。事ここに至ってはもうどうにもならん気がするぞ。諦めておいた方が効率は良い、とだけは言っておくが‥‥他は知らんが、俺達の前に現れる強化人間は投降するようなそぶりを見せれば100%自爆させられている。どうやって捕虜にする? 難しいというレベルではないぞ。それにあの会話は‥‥バグアの上の連中が死間にでも使う気がなければ、俺だったらだが、余裕が発生すれば即座に爆破だ。まぁ投降させぬように何か絶対の枷をかけるかもしれんが‥‥俺だったらリスクを切る。あの会話を聞いていればまず警戒している。爆破装置解除にディアナと同じ手は使えんだろう。同じ事をしようとすれば人類側へ逃げますと宣言するようなものだ。グリーズガンドも戦力がギリギリだから未だ爆破されないで生きているんだろうが‥‥」
 また准将曰く、捕虜に取るにもベルサリア等が知っているのなら、既にディアナや他の投降した強化人間から得られる情報だけでもやれん事はないだろう、危険を冒す程の魅力を感じない、との事。
「まぁ、最後の希望、か。選択肢は何時だって無数に残されている。その選択肢がどういった結果をもたらして、何処に続くかは知らんがな。軍の利益と不利益を考慮出来るならば、好きにやると良い‥‥未来は誰にも解らん」
 初老の雷神はそんな事を言ったのだった。



 了