タイトル:氷の海の底からマスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/04 11:37

●オープニング本文


 黒いに近い青い海を船団が進んでいる。
 大型の貨物船やタンカーで編成され六隻、なかなかの規模だ。中心を航行するタンカーの甲板には簡素な滑走路がついていた。軍ではなく民間の数社が集まり一団を編成しているらしい。
 彼等は物資を満載し北米の某港から出航しバフィン海を渡って北へと進んでいた。目標地はグリーンランドのゴットホープ。凍てつく大地で暮らす人々が身を温める為に燃やす燃料や食料や各種物資を必要としている。
「‥‥それにしても、なんでこんなに固まって航行しているんだ?」
 中央のタンカー、水夫の少年が滑走路にデッキブラシをかけながら首を傾げた。周囲にはKVが固定されて並べられている。
「まるで襲撃に脅えてるみたいだ」
「君、グリーンランド行きの航海に加わるのは初めてかい?」
 少し年長の少女が言った。少年はその言葉に頷く。
「そりゃあ、君の言う通り襲撃を警戒しているからさ」
「え? でも事前の説明じゃこの辺りは人類の圏内だし制空は取れてるって‥‥」
「ははは、お前、その説明鵜呑みにしちまったのか。確かに人類の圏内だし制空は取れてる。でも制空権取ってます! とか軍の人が言っててもHWとか突っ込んで来る事あるし、それになにより海の底はほとんどフリーパスだからな」
 その説明を受けて少年は顔からさーっと血の気を引かせてゆく、
「そ、そんなっ、安全じゃなかったの?!」
「安全な仕事でこんな金もらえるかよ」
「か、帰る! 俺は帰る! 氷点下の海になんて投げ出されたくない!! 絶対死ねるッ!!」
「うはははは、こんな海のど真ん中で何処へ帰ろうというのだね」
「うわー! 騙されたーッ!!」
「おいおい、そんな事いうもんじゃないぜ。落ちつけ、大丈夫だ。この船の防御は完璧だ。バグアが襲ってきてもへっちゃらさ」
「な、なんで?」
「だって、なんか色々防御策あるらしいし、それにULTの傭兵さん達とかも乗ってるって言ってたよ」
「それも会社側の説明じゃないか! バグアの襲撃がないっていう話は信じないのに、なんで防御が完璧なんて話は信じるんだよ! 完璧な防御なんてこの世に存在しないよ!」
「お前‥‥」
 少女は少年を見ると言った。
「中途半端に詳しいな、何歳?」
「十四歳だよ! 永遠に吹雪で閉ざすぞコンチクショー!」
「まー、大丈夫だって、万一大丈夫じゃなくてもさ」
 少女は言った。
「死ぬだけだぜ」
「だけじゃないし!」
 少年がそう叫んだ時、タイムリーにも警報の音が鳴り響いたのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
マグローン(gb3046
32歳・♂・BM
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA

●リプレイ本文

 警報が鳴り響き、少年が悲鳴をあげる中、一つの白い影が近づいた。
「まあ、コレでも飲んで落ち着きたまえ」
 ずぃっと紅茶のカップを少年へと差し出す。ドクター・ウェスト(ga0241)だ。
「え、えっ?!」
 眼を白黒させながらも少年はカップを受け取り、
「ココにはコノ我輩を含む能力者がいるのだ、安心したまえ〜、けっひゃっひゃっひゃっひゃっ〜」
 とドクターは笑い声をあげた。
「お、オジサン何者?」
「我が輩はドクター・ウェストだ〜、能力者だと言ったろう。カップは返してもらうからね〜」
 そう言ってひらりと手を振ると甲板に止められていたRN/SS−001のコクピットへと飛び乗りハッチを降ろす。
 隣では終夜・無月(ga3084)もまたACS‐001Aへと乗り込んでいた。発進準備の為に機器を操作して各所をONに入れながらちらりと甲板上の少年少女へと視線を走らせる。
(貴方達は必ず護る‥‥)
 男は胸中でそう呟いた。何故? その理由、なんなのか。正義感か、失われる命について思う所があるのか、それとも他の何かか。余人に知る術は無い。
 だが、男の中の何かが『護れ』と彼に言っているのだろう。
「そういえば、前にもこんな依頼受けたっけ」
 GF‐Mに乗り込んでいる赤崎羽矢子(gb2140)は同様に機器を操作しつつ以前船団を護衛した時の事を思い出していた。少年と少女の姿にあの時の仲間達の事を思い出す。
(クォリンが逝ったか。まだ子供だった癖に‥‥)
 風の噂で聞いた。剣聖の少年は死んだらしい。このご時世じゃ別に珍しくも無い、と言ってしまえばそれまでなのだろうが――しかし、ふと考えてしまう時もある。
「っとお客さんは、水中を時速200キロオーバー‥‥どうやらグレートサハギンに間違いないみたいだね」
 ブリッジからの情報を受けて赤崎は首を一つ振る。今は考えていられる時ではない。非常に巨大で硬く、速く、強い再生能力を持ち、怪力を誇る厄介な相手だ。
「モタモタしてたらあっという間に突っ込まれる。初動を無駄にすると間に合わなくなるよ!」
 言って自らも準備を急ぐ。感傷は後ろに回して護衛に集中するのだった。


 赤崎の言もあり傭兵達はとかく急いで状況を確認し作戦を打ち合わせる。また砕牙 九郎(ga7366)はブリッジへと無線を飛ばして念のため、他の敵が周囲からよってきていないかを常に警戒しておいてもらうように依頼した。
「万一伏兵なんかが発見できたら、連絡もらえるかい?」
『了解、最善を尽くそう』
 との返事が返って来た。
 傭兵達は準備を整える各機海中へと飛び込んでゆく。
「ん〜っと‥‥今日は調子がよさそうかな?」
 オルカ・スパイホップ(gc1882)は笑った。冷たく暗い海中、紺碧の色だ。しかし操縦桿に対する愛機の反応は中々良い。
「何を狙ってきたのか分かんないけど〜こっちに来られたら嫌だから掃除しなくちゃね〜♪」
 少年はそう言って笑った。
「ううん、視界が悪い戦場はやりにくいな‥‥」
 龍深城・我斬(ga8283)が呟いた。本日の海中の透明度は十数メートル程度だ。二十mも離れればもうそれだけで見えない。
(船団のソナーが当てになりそうなのが救いか)
 ソナーレーダーに視線を落とす。明滅する光点が三つ、接近してきている。
「にしても大きい反応だな、姿を隠す気はなさそうだ」
 龍深城はそう呟いた。確かにキメラにしては大きい。ゴーレムに比しても同様だ。それが高速で突っ込んで来ている。時速にして二百十六キロ。野球の速球の1.5倍程度。結構な速度だ。
 迎撃体制、間に合うか。
 アルヴァイム(ga5051)は船団から情報を受け取りつつ敵の進路と標的を測る。推して計るに第一目標はやはり船の可能性が高いように思われた。船団へと連絡を入れKVが展開するラインより少し後方の流氷群の付近へと退避を要請する。船団はそれを受けて後退し停止せずに微速旋回した。一般的なタンカーの時速は三十キロ程度、逃げられる物でも無いが。故にこそ下手に逃げない理由でもある。キメラがKVを迂回して通り抜けていった場合、船は危機に陥る。
 作戦に則り、船や伏兵へと突撃されないように、まずなんとしても一撃を入れて注意を引き付けたい所だ。アルヴァイムは囮班メンバーと船団へグレートサハギンの軌道予測を伝えた。それを受けてKV各機が展開してゆく。正面に展開するのはウェスト、終夜、威龍(ga3859)、アルヴァイム、マグローン(gb3046)、澄野・絣(gb3855)、オルカの計七機だ。
「魚と名の付くモノが相手である限り、私には弱点が手に取るように分ります。お相手致しましょう」
 と微笑を浮かべてマグローン。ホントか? 曰く、これだけの強敵とまみえる機会は中々ないので、自分の力を過信せず、しかし確実に出来る事を見つけ、自身の実力を客観的に確認しておきたいとの事。
 なるほど、鮪力はこの辺りの戦域では発動しないだろうが、知識は知っていれば知っている。その力、通るか否か。
(さて、慎重にいかねぇと)
 一方、伏せ勢の砕牙は胸中でそう呟いていた。赤崎機と行動を共にし海面近くを漂っている。赤崎機が先導し二機は流氷の間に紛れていた。極力音を立てずエンジン出力も最小限に落とし、索敵もパッシブソナーと船団経由の情報で行っている。龍深城機もまた海面付近の位置でなるべく音を立てぬように漂っていた。海面付近での伏勢は三機。敵の死角から回り込み奇襲したい所だ。
「海冥皇 standing by」
 他方、篠崎 公司(ga2413)は海面ではなく、正面で待ち受ける僚機よりも百mほど下方へと潜って待機していた。攻撃や被弾によって発生する気泡で探知が妨げられるのを回避する為との事。
 そのようにしてKVと船が移動し傭兵達の迎撃態勢は整ったが、その直後には既に相対距離一キロを切ってサハギン達が突っ込んで来ていた。
 速い。
 もう目の前だ。のんびりしていたら雪崩れこまれていた所である。ソナーの性能は悪くない。敵のスタート地点が近距離だったのだろう。遠方から泳いでやってきたのではなく、海底を静かに動き、あるいはじっと動かずに待機し、付近を通りかかった船へと急浮上して襲いかかる。氷の海の底からの狩人だ。
「ここで船団を沈めて貰う訳にはいかないからな。招かざるお客には早々にお引き取り願うとしようか」
 威龍が言った。ソナー情報を元にR3‐0対潜誘導弾の狙いをつける。
 アルヴァイム、サハギン達の侵攻速度を照会しつつ味方へと伝達し攻撃タイミングの標とする。サハギンが速いといっても空戦よりは随分と遅い。伝える余裕は比較的ある。
 距離が詰まる。
 相対距離五〇〇、射程、入った。
「あなたの相手はこっちにいるわよ」
 澄野、呟きつつ照準を合わせ発射ボタンを押し込む。533mmSC魚雷を二連続で射出した。接近戦を誘っているのでそれ用に一撃分の力は残す。スーパーキャビテーションを利用してセドナ魚雷は高速で推進しグレートサハギンへと襲いかかってゆく。オルカ機もまた一体へと狙いを合わせるとセドナ誘導弾を三連射、マグローン機はDM5B4重量魚雷を二連射し、各機が攻撃を開始したのを見て威龍機もまた対潜ミサイルを撃ち放つ。
 魚雷とミサイルの嵐が勢い良く飛び、迫り来る魚雷に対し体長二十mもの半漁人達はしかし、その巨体に見合わぬ高速さで海中を泳いで旋回、回避した。速い。魚雷が目標を見失って彼方へと突き進み、海底から伸びる岩山にぶつかって爆発を巻き起こした。
 しかし威龍機が最後に放った一発は、魚雷を連続して回避し続けたサハギンへと喰らいつき爆裂を巻き起こした。
 オルカ機はブーストを発動し突っ込んでゆく。サハギンがあっという間に距離を詰め迫ってゆく。
「では狙い撃つとしましょう」
 篠崎機、ソナーを頼りにライフルでサハギンの腹の辺りを意識して狙撃。ライフル弾が飛び出し、霧揉むように回転しながら水の壁を裂いて真っ直ぐに飛ぶ。サハギンは素早く身を捻りスライドして避けた。
 アルヴァイム、いざとなったら格闘戦で止める所存、行動力に余裕を持つ。相対距離三〇〇。威龍機の攻撃を受けていなく、オルカが向かっていない方のサハギンへと目標を合わせ魚雷を撃ち放つ。サハギンは突撃しながら水を蹴って斜め前へと進み魚雷をかわす。外れた。終夜機、目視は効かない、アウトレンジで必殺を狙うには海中を視界が悪い。ソナーが伝える情報から勘で狙いをつけタイミングを合わせて発射。魚雷がサハギンの回避先へと飛んでサハギンはそれを鮮やかに回避。さらにかわした。なるほど、彼我の戦力差を鑑みるに真に今回の相手は各上らしい。距離があり、相手が速い。引き付けずに遠間からぶっ放してもまず当たるような相手ではないと判断する。
 マグローンが距離を取らんとホールディングミサイルを撃ち放った。誘導弾が勢い良く飛び、しかしサハギンは突撃しながらスライドして回避した。船へと向かって突っ込んで行く。
「ここから先へは行かせられないね〜」
 相対距離一五〇、ドクター・ウェスト機、M‐25突撃銃で猛射。弾丸が唸りをあげて飛び、サハギンは回避。この距離でも中らない。
 オルカ機、船とサハギンを結ぶ直線の上にブースト機動で変形しつつ踊り出ている。ライトの彼方、寒く暗い紺碧の水の奥より巨大な影が浮かび上がった。グレートサハギンだ。海水を掻き分け二十mの超巨大キメラが突っ込んで来る。半漁人は一瞬でオルカ機へと迫ると邪魔だと言わんばかりに剛爪を振るった。オルカ機はブーストを噴出しつつ機体を捻り、爪を掻い潜る。かわした。そのままアクティブアーマーの盾部分を突き出しサハギン胴へと突撃、盾をぶち当てる。猛烈な衝撃が巻き起こってリヴァイアサンが反動で後方へと弾かれ、サハギンも後方へ弾かれて突撃が止まる。しかしサハギンは即座に態勢を立て直すとオルカ機へと加速し泳ぎ詰める。左右の爪を振り回して放つ、閃光の如き二連撃。オルカ機はブーストを噴出しつつスライドし、一発に装甲を掠め斬られるも一撃を鮮やかにかわす。速い。篠崎機、サハギンがオルカ機へと仕掛けた瞬間に五十発もの小型魚雷を射出している。サハギンの下方より魚雷の嵐が迫り次々に直撃して爆裂の嵐を巻き起こした。サハギンの鱗が吹っ飛んでゆく。
 最終防衛ライン、サハギンが船へと迫る。至近距離、
「簡単には通さないわよ!」
 澄野機、エンヴィー・クロックを発動、水中用大型ガトリングで猛射しつつサハギンの進路上に立ち塞がる。ウェスト機もまたサハギンの進路を妨害するように飛び出しガトリング砲で猛射。弾幕を張る。アルヴァイム機、爆発による観測妨害の影響を勘案し、サハギンの軌道範囲を狭めるように周囲へ五〇発の小型魚雷をばらまく。サハギンは弾丸の嵐を素早くスライドして回避しつつ魚雷の隙間を潜り、正面、終夜機、回り込んでいる。狙い澄ましてポッドより二十五発の小型魚雷を撃ち放ち、次いで十連装の大型魚雷を射出しさらに二十五連の小型魚雷を撃ち放つ。猛射。サハギン、回避スペースが無い。避けられない。次々に大小の魚雷が炸裂して爆裂の嵐が巻き起こった。衝撃に揺らぐサハギンへとウェスト機がすかさずアサフルライフルを向け猛射。弾丸が突き刺さって鱗を貫き血飛沫を噴出させる。澄野機が突っ込んで体当たりするようにソードフィンで薙ぎ払った。刃がサハギンを切り裂き強烈な破壊力を炸裂させて鮮血を噴出させ、サハギンが間髪入れずに爪を振るって澄野機を殴り返す。両者が轟音をあげて吹き飛び、アルヴァイム機がサハギンへと多連装大型魚雷を撃ち放った。魚雷が次々に直撃して爆裂が巻き起こってゆく。焔を裂いてサハギンが飛び出し澄野機へと向かって爪が振り降ろす。澄野機は身を捻りつつ盾を翳して受け止める。猛烈な衝撃が巻き起こって罔象とサハギンが再び反動で弾かれて両者、後方へと押される。
「ふふ、私しか見えてないようだと痛い目を見るわよ?」
 澄野はサハギンを見やって微笑を浮かべた。
 他方、開幕に魚雷を炸裂させた威龍機へもサハギンが豪速で迫っている。威龍機、人型に変形しエンヴィー・クロックを発動、機動力を増大させる。紺碧の闇の奥より光を割ってグレートサハギンが姿を現し左右の巨大な爪を振り回しながら弾丸の如くに突っ込んで来る。威龍機、一発目を後退しつつ紙一重で回避し、二発目に掠め斬られ、三発目に直撃を受けて吹き飛ばされ装甲の破片を海中を散らした。凶悪な破壊力。
 その少し前、伏兵班。
「海鳥の獲物にはちょい大物だけど、仕止めるよ相棒(アルバトロス)!」
 赤崎機はブーストを起動、流氷の間から潜行しサハギン達の後背を目がけて加速していた。
「澄野達の前から行く、初撃は一斉に」
 同じく伏兵班、龍深城が言った。可能なら集中攻撃で一気に葬りたい。
「了解」
 砕牙機もまた最終ラインまで前進したサハギンへと向かう。
 澄野機が言った時、その背に三機のアルバトロスが迫っていた。
 ブースト機動で突撃しながら赤崎機がガウスガンを猛射し、龍深城機が多連装大型魚雷を撃ち放ち、砕牙機が水中用大型ガトリングで弾幕の嵐を解き放つ。サハギン、後背からの強襲に対応できていない。銃弾の嵐が次々に突き刺さって血飛沫を吹き上げさせ、魚雷が直撃して爆発の嵐を巻き起こす。クリーンヒットだ。
 赤崎機が紺碧の中を鳥の如くに降下し、爆裂しているサハギンへと突撃してフィンを叩きつける。間髪入れずに変形して三本の光のレーザークローを出現させ、背に突き立て引き斬る。サハギンの背が強烈な一撃に灼き裂かれ、しかしすぐにサハギン達の傷が塞がってゆく。再生能力を発動した。
「させるもんかっ!!」
 立ち直らせる前に一気に押し切りたい。赤崎、再度レーザークローで斬りかかる。グレートサハギンは前方へ泳ぎつつ駒のように身を捻り振り向きざまに赤崎機へと豪爪を振るった。澄野機がシステム・インヴィディアを発動、破壊力を増大させてフィンで突撃をかけ、龍深城機が魚雷を連射してガウスガンで猛射し、アルヴァイム機はヒレを狙って魚雷を撃ち放ち、砕牙機がポッドから無数の小型魚雷を噴出させ、マグローン機はエンヴィー・クロックを発動、腕へと狙いをつけてホールディングミサイルを撃ち放つ。さらにウェスト機は光の爪を出現させサハギンへと突撃、その身に取りつかんとする。
 赤崎機のクローが空を切り、サハギンの剛爪が炸裂してアルバトロスの装甲が粉砕されて吹き飛の、がら空きになったサハギンの背に澄野機のフィンが炸裂し、赤色と共に猛烈な衝撃を巻き起こしてサハギンの態勢を崩させる。龍深城、アルヴァイム、砕牙より放たれた大小の魚雷群れが唸りをあげてサハギンへと飛び、次々に直撃、澄野機すらも巻き込む勢いで猛爆裂が巻き起こってゆく。弾幕がサハギンへと叩き込まれさらにその右腕にマグローンが放ったミサイルが命中して爆裂を巻き起こした。血飛沫をあげつつ二〇mの超巨大キメラは暴れ回るように左爪を振るい澄野機の盾と激突する。
「けっひゃっひゃっひゃっ、レェ〜ザァ〜クローだ〜!」
 ウェストが焔を裂いてサハギンの背に取りついた。言葉と共にレーザークローを発動させて光の爪を押し当て引き切る。暴れ回るサハギンへと赤崎機が再度クローで突撃をかけ、澄野機もまた突撃し、龍深城、アルヴァイム、砕牙、マグローンの四機も猛射を仕掛ける。三六〇度から襲いかかる集中攻撃。
 サハギンは強靭な生命力に物を言わせて抵抗し続けたが、流石に抗いきれない。急速にその動きを鈍らせ、そも猛攻の前に粉砕された。一匹撃破。
「すみませんが、今あなた方に殺されるわけにはいかないのですよ。私をトドメを刺すのは津軽海峡のベテラン漁師達と、心に決めていますので」
 微笑してマグローンが言った。ULTには多くの傭兵がいるが、ここまで謎な男も珍しい。その正体は、さて。
 他方、威龍機VSグレートサハギン。超巨大キメラはアルバトロスへと猛然と爪を振り降ろす。威龍機、エンヴィー・クロックとシステム・インヴィディアを発動、スライドしながら踏み込み光の爪を出現させる。グレートサハギンの爪が威龍機をかすめ斬りながら抜け、アルバトロスが繰り出す光の爪がサハギンへと迫り、サハギンは身を捻ってかわし、遠方より弾丸が飛来して腹に突き刺さった。篠崎機の狙撃だ。篠崎機は淡々とライフルをリロードする。威龍機はサハギンの態勢が崩れた瞬間を狙って顔面を狙い必殺の一撃を繰り出す。サハギンは首を振って回避。横に流れつつ腕を旋回させて威龍機へと叩きつけた。装甲がひしゃげ轟音と共に威龍機が吹き飛んでゆく。サハギンは追いすがって右の爪撃を叩き込み、さらに左の爪を振り降ろさんとした所で魚雷の嵐が迫り来て爆裂を巻き起こした。終夜機の射撃だ。威龍機は海中を泳ぐと爆炎を裂いて飛び込みサハギンの頭部を狙って光の爪を振り降ろす。サハギンが首を振って避け、肩に爪が命中して灼き斬り、サハギンの爪が威龍機の胴を捉えて装甲を削り飛ばす。威龍機損傷率六割、ちょっと不味いか。
 オルカ機VSグレートサハギン。オルカ機は盾で止めた後、ブースト機動で突っ込みレーザークローを発動させて光の爪を一閃させる。光の刃が身を捻ったサハギンの胴を掠め切り、超巨大キメラは切られつつもカウンターの爪撃を繰り出す。オルカ機はアクティブアーマーの盾を翳し爪撃を受け止めんとする。激突。轟音が鳴り響いてサハギンとオルカ機が弾き飛ばされ、吹き飛んでゆく中でオルカは照準を合わせて小型魚雷を猛射。二十五発の魚雷がサハギンへと襲いかかり次々に爆裂が巻き起こってゆく。オルカ機、エンヴィー・クロック、システム・インヴィディアを発動、間髪入れずに炎の中へと突撃する。オルカ機が右腕に翳す金属筒より極大の光の刃が伸びた。
 水中レーザーブレード、大蛇だ。
 壮絶な破壊力を秘めた光の刃が焔を裂いて袈裟に一閃される。その瞬間、炎の中から合金すらも切り裂く爪が唸りをあげてオルカ機へと突き出された。交差。光の刃がサハギンを捉えてその身を深く灼き斬り、サハギンの爪がオルカ機を捉えて凶悪な衝撃を炸裂させて吹き飛ばす。その後を追って突進、左右の剛爪を稲妻の如くに閃かせた。オルカ機は素早く態勢を立て直し、スライドしてかわしてかわす。オルカ機、かなり押している。だがサハギンの傷が急速に癒えてゆく。再生能力だ。
 他方、もう一匹のサハギンが威龍機へと怒涛の四連撃を繰り出し、威龍機は機体能力を全開にレーザークローで迎え撃つ。終夜機が魚雷で、篠崎機がライフルで支援射撃する。威龍機は一発の爪をかわして三発の直撃を喰らう。終夜機の魚雷をサハギンが回避し、篠崎機がリロードしながらライフルを連射して追撃を入れる。サハギンは急機動でライフル弾を回避して回避、威龍機が飛び込んでレーザークローで三連の光を巻き起こす。一発が外れて二発が直撃し、鱗が灼き斬られて強烈な破壊力を炸裂させてゆく。
 赤崎機と龍深城は威龍機に切り裂かれているサハギンへと距離を詰めるとガウスガンを猛射する。砕牙機もまたサハギンへと迫ると大型ガトリングの銃口を回し猛射した。アルヴァイム機がリロードしつつ五十発もの大型魚雷を撃ち放ち、ウェスト機がアサルトライフルで射撃し、マグローン機がミサイルを撃ち放つ。澄野機はエンヴィークロックを発動して突撃しつつガトリングで猛射した。
 サハギンは急機動して射撃のかわしてゆくも流石に数が多い。一撃もらって態勢を崩してさらに中り雪崩れるように次々に直撃して血飛沫を噴出させた。
 残るもう一方のグレートサハギンは突進しながら両腕の爪を交互に振るってオルカ機へとラッシュをかける。対するオルカ機はブーストを発動、爪を掻い潜ってかわし、その懐へ飛び込むとその勢いのまま盾を構えて相手の胸に体当たりした。両者が激突して猛烈な衝撃が巻き起こり、サハギンが吹き飛び、オルカはさらにブーストを吹かせて追尾、高分子レーザークローで三連の光嵐を巻き起こした。サハギン、避けられない。その胸部がズタズタに灼き裂かれてゆく。
 他方、威龍機が破壊されるよりも前に、十機からの再度の集中攻撃を受けてグレートサハギンは沈んだ。オルカ機は痛打を受ける事なく渡り合い、やがて駆けつけた味方各機と猛攻撃を仕掛け最後の一匹もまた仕留めたのだった。


 戦後、ドクター・ウェストはグレートサハギンの肉体の一部を切り取って細胞のサンプルを採取した。
 今回交戦したグレートサハギンを分析する。容姿は俗に言う半漁人そのもの、ただし大きさが約二十mとばかでかく、メトロニウム合金すらも切り裂く爪を持つ。
 能力は肉弾一辺倒だがキメラとしては恐ろしく速く、パワーがあり、そして強靭であり、さらに強力な再生能力まで持っている為、また水中では他戦域に比べて平均的に破壊力に欠ける傾向もある為、相対的に恐ろしく頑強な敵となる。FFの強度は勘だが多分中だ。通常兵器は完全に効かないレベル。
 少年より返してもらったカップを握りつつウェストは船室で呻いていた。
「我々の勝利のため‥‥勝利の‥‥うう」
 最後の良心である十字架を譲渡し歯止めがなくなったが、信仰等の板ばさみで悩んでいるようだ。どんな信仰と何の板挟みなのかは余人にはその正確な所をはかれるものでなし。
 男は戦闘後、擦り傷などを負った者達へと対し練成治療を施しつつ、今回もまたじっと能力者を観察していた。


 一方オルカ、戦後、船の人たちは大丈夫かな〜? と心配していたが船団員は勿論、船も傷一つ増える事無く無事であった。オルカは船に乗っている人々が穏やかに航海できるよう、水面を漂い索敵しながら移動した。
(シャチフォルムだし、キメラで怯えてた子供も見た目楽しんでもらえないかな〜?)
 などと思い船と距離を取って、連絡を一つ入れてからイルカジャンプしてみる。紺碧の氷海に煌めく飛沫があがり、全長24.7m巨体が宙を舞い、やがて海面に激突して爆音と共に盛大に水柱を吹き上げ、甲板に出ていた者達がその迫力に歓声をあげたのだった。


 かくて、キメラを無事に撃退した一行はその後も順調に航海を進め、やがて目的地であるグリーンランドのゴットホープへと辿りついたのだった。
 港で降ろされた大量の物資はこの氷の大地に生きる人々のこれからにきっと役立ってくれるだろう。


 了