タイトル:クリスタルダスト3マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/29 10:20

●オープニング本文


 俺の名前はヘルマン・セプテンフォー・セプテス・ステッペンウルフ、略してヘルマン=3S、またはコンビニ、誰が名付けたかは忘れたが、皆、俺のことをそう呼ぶ。本名? 忘れちまったよそんなもん――
「ねーねー、ヴァルツァー少尉!」
 油と煤で頬を汚した繋ぎに身を包んだちまっこい餓鬼が(十二くらいか?)、ハンガーの片隅で箱に腰かけている俺に寄って来て言った。何の因果か――カンパネラの生徒だったんだからある意味当然っちゃ当然なんだが、 卒業して士官として軍に入る事になっちまった。さすがに軍の中じゃすっとぼけてる訳にもいかねぇらしい。本名アルガス=A=ヴァルツァー、長らくつかってなかったんで、未だにあまり耳慣れんけどな。
――全部くっつけるとアルガス=A=ヘルマン=セプテンフォー=セプテス=ステッペンウルフ=ヴァルツァーか、長くなったもんだな。
「なんでぇチビ」
「あたしはアリシアって言うんだって!」
「名前なんざどうでも良いだろ」
 はっと鼻を鳴らして言う。
「一番拘ってる人に言われたくないー」
 可愛くねぇ餓鬼だ。
「‥‥で、マイスター・アリシア、この私めにどんなご用件でしょう」
「うーんとね、整備終わったよ! 異常無しだね!」
 俺はその言葉に愛機へと視線をやる。ピカピカに磨かれた翔幻の脇を背の曲がった老人がアームのついいた小さい車を動かして別のKVの方へと動いてゆく。
「で、今回は何を使うと爆発するんだ? 装甲と出力は何パーセント低下している? リロードはちゃんと出来るか?」
「しつれーなー! 全兵装使用可能だよ! 装甲も出力も100%大丈夫だい!」
 マジデ。
 俺は驚いた。
 氷煌のクリスタルダスト基地、ベテランの整備士が前線へと駆りだされ老人と子供達しか残されていないこの基地では、過去に散々整備不良で泣かされたものだが、子供は進歩するものらしい。そういや前に傭兵のねーちゃんから色々習ったりしてたしな。
「そうか、アリシアよくやったな!」
「えへへ〜、ありがとー!」
 俺は上機嫌な口調で言って、笑顔を浮かべている少女の頭を撫でてやる。
 アリシアはニコニコと笑いながら、
「でもリロードすると詰まって爆発すると思うけどー!」
 やっぱりか。
「きゃー! 痛い、痛いよ、ステッペン!!」
 こっちは命賭けて空に出るんだからアイアンクローくらいは我慢してもらいたいものだ。


 氷塵基地と通称されるその基地は、かつては主戦場からは遠く離れた位置にあり、グリーンランドでは比較的バグアとの戦いが激しくなかった事も手伝って、この時代においても平和そのものであった。平和な基地からは人員の移動が行われ主力組みは最前線へとゆき、老人や学生兵ばかりが残った。
 しかし2008年の年末に起こった入学式事件以来バグアとの戦いは激しさを増し、氷塵基地へも敵兵が送り込まれてくるようになった。
 二年余の戦いで戦線は変化し、一時程は攻撃を受ける頻度も減っているのだが、戦略図的にはそれなりに要衝にあるらしく、後方を脅かしあわよくば補給線を絶とうと奇襲的にワームが基地に寄せて来る。
「ヴァルツァー、出番だ」
 基地の副司令を務める厳めしい顔立ちの老人が言った。正司令は半ばボケているので実質彼が氷塵基地を取り仕切っていた。
「はっ、今回のオーダーはなんでしょう」
「黄金の強化タロスが三機に青銅のタロスが三機だ」
 高空を飛行して氷塵基地へと猛進しているらしい。
「‥‥えらく豪勢ですね、マジデスカそれ」
 若い少尉は呻くように言った。今まではキメラとかせいぜい旧式ヘルメットワームとか、そんなものだったのだ。こちらも整備不良でボロボロだったが。
「報告によれば全てAI機らしいが‥‥敵も打開策を探っておるのだろうな。前線を迂回してこちらにこれだけとは、奇策に出てきおったわ」
「しかし実際、この基地が陥落の危機となるとかなり不味いのでは」
「うむ、かなり不味い。前線は補給線を断たれるし、この基地としても氷点下の冬場じゃあ儂のようなジジイや子供達は撤退するのだけでも凍死しかねんわ。だからヴァルツァー、死ぬ気で止めろ」
「は?」
「気合いで止めろ」
「‥‥援軍は」
「何処も手いっぱいらしい」
「いつも思うんですが、この基地は俺達を殺したいんでしょうか」
「何を言う、そんな訳なかろう。それにいつもなんだかんだで皆、生き残ってるじゃないか」
「そりゃ俺達が死ぬ気で頑張ってるからですよ!」
「それじゃ今回も一つ死ぬ気で頼む」
 アルガス・ヴァルツァーが天を仰いで「ジーザズッ!」と胸中で叫ぶのは、まぁお約束なのであった。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
氷室 昴(gb6282
19歳・♂・SN
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

 氷塵基地のハンガー、
「まぁ‥‥神様ではありませんが‥‥」
 終夜・無月(ga3084)はアルガスの胸中がなんとなく解ったのだろう、アイアンクローの痛みで涙目になっているアリシアの頭を撫でてやる。少女は見上げると相手が優しそうで格好良いのでへらりと笑った。現金な物である。けっと悪態をついてアルガス。
「力‥‥貸しますから頑張りましょう‥‥」
 終夜は微笑してそう言った。
「‥‥まぁ、音に聞く月狼の隊長が居てくれたのは心強い。よろしく頼むぜ。人手不足だからな、助かるわ」
 アルガスはそんな事を言った。
「なに。手が足りなければ貸そう。私でもそれぐらいは、できるさ」
 ゆらりと紫煙をくゆらせて黒い影――UNKNOWN(ga4276)が現れて言った。
「アンタが謎の黒コート男か。噂は聞いてるぜ」
「ほう? どんなのだね」
「腕が立つだけに始末が悪いってよ」
 その言葉に男は帽子を目深に被り直してニヤリと笑った。男は言う。
「そうか――ところで酒を少しぐらいは‥‥積んでも良いかね?」
「‥‥そーゆー所が扱いづらいって評判になるんじゃねぇ?」
「ふむ、意外に堅物だな」
「そいつぁ悪かったね。だが酒呑み操縦は駄目だ。なんつーか、それを許すと色んな意味で危ない」
 そんな事を言っていると伊佐美 希明(ga0214)等がやって来て言った。
「暫くあわねーうちに、えれぇことになってんなぁ、ヘルマントゥリーエス。もう、お前のTACネームはジュゲムで決まりだな」
「よぉ、そっちもまだくばたってなかったか。えれぇ事になってるのは確かだが、一番の元凶が何を言うかよ。ってかまた増えたなオイ」
 TACジュゲム、これ程的確な渾名もあるまい――という事でめでたく(?)ヴァルツァー少尉のTACはジュゲムとなる。
「つうか、前は知覚兵器積んでなかったか? いつからD02ライフル使うようになったんだよ。キャラ被るからやめろよな」
「うるせー、Rライフルなら最初から使ってたろう。02にしたのはLPの頃からだな‥‥ま、バージョンアップって奴だ。そして粒子砲はな‥‥まったく出番こないんで外したんだよ‥‥」
 知覚兵器を撃つと爆発する基地ばかり守備させられていたので武装を切り替えたらしい。自慢の超改造の虎の子兵器はすっかり埃をかぶってしまっているとの事。
「リロードすると爆発‥‥か。むしろそんな状態になる方が、ある意味高等技術なんじゃなかろうか?」
 そんな事を思い首を傾げているのは六堂源治(ga8154)だ。氷塵基地の技術力は(ある意味)世界一ィィィィである。
「ホント、何処をどういじればそうなるんだか‥‥」
「で、今回はミサイルキャリアー?」
「リロード出来ねぇからなぁ。流石にキツイ。UK一択だ。そっちは?」
「私はCK‐05BがメインにスラスターライフルとUKだな」
「俺は剣翼がメインであとは20mmとスラスターライフル、127mmランチャーにUKってとこッス」
「なるほど、なんとかいけっかね」
「しかし、スナイパーがスナイパーライフル使えないなんて、おいちゃん泣いちゃいそうだ。D02ェ‥‥大人しく留守番してるんだよ〜‥‥?」
 と嘆息して伊佐美。が、女はすぐに顔をあげると、
「まッ、どうせ空戦だし、リロード不可くれーどうにでもなるか」
 と明るく言った。
「相変わらず強気だな、弱気になってもしゃーねーケドよ。相手さん強化タロスいるぜ?」
「隊長、どんな状態でも戦うのが傭兵ッス。あんたも元は傭兵みたいなもんだろ?」
 六堂が言った。アルガスは「カンパネラが傭兵ならまぁそうだが」と頷く。
「それに今回は姉御が居る。姉御と一緒なら、俺ぁどんな戦いでも勝てるッスよ」
 男はそう言ったのだった。


「けっひゃっひゃっ、我が輩はドクター・ウェストだ〜」
 作業が進められる中、そうけたたましく笑い声をあげる男がやって来た、私設研究グループのウェスト(異種生物対策)研究所所長ドクター・ウェスト(ga0241)である。分子生物学が専攻だが、フォースフィールド(FF)の分析、無効化研究中との事。
 ネックレスが無い。十字架何処行った。最後の良心は誰かへと渡されたらしい。
「ヘルマン君で良いのかね〜?」
「アルガスの方が混乱がねぇな、俺が反応出来るかどうかが問題だが」
 ドクターはアルガスとそんな事を話している。
「‥‥リロード兵器が使えないのか。これは痛い」
 現状の説明を受けてむぅ、と呻いたのは榊 兵衛(ga0388)だ。榊は普段は銃器を拠り所として空戦を戦っているのでリロード制限は厳しい所である。
「これは整備士一同の腕が上がったと喜ぶべきなのか? それとも信頼と実績の整備不良にキレるべきなのか?」
 と首を傾げているのは氷室 昴(gb6282)だ。以前にも氷塵基地で任務についた事があってその時もかなり苦労したものである。キレるべきだろう、と言ってるのはアルガスだ。
「まあ、リロードしなければいいわけだが、これを怠慢といわずして、なんというのかね〜」
 ドクターは嫌みったらしく整備員達に文句をつけている。子供と老人は「ううっ」と呻いている。まっとうな文句である。
「現状こうなっていては仕方ない。手持ちの誘導弾だけで何とかするしかあるまい。厳しい戦いになるかもな」
 と榊。傭兵達は出撃の準備を整えてゆく。
「整備士の苦労が伺えるな‥‥俺たちも同じだが」
 そう言うのは秋月 愁矢(gc1971)だ。そもそも根本的には高度なKVの整備――どんどん新しいぶっ飛んだKVや兵器が発売されて増えてゆくそれを、専門訓練をろくに受けていない子供達や老人達にやらせているのだから前提条件に土台無理があるといえば無理な話だ。それで出撃しなければならない方からすればたまったものではないが。
「来る敵は迎撃するしかないか‥‥」
 男は呟く。やらねば破滅だ。
「まぁ、今更どうこう言っても仕方ない、か。諦めよ‥‥」
 嘆息して氷室。
 氷塵基地の迎撃隊はそれなりの時間の後に出撃準備完了の報を受け取ると愛機へと乗り込んでゆく。
「おう嬢ちゃん。あったけェ風呂と飯を、用意しておけよ」
 コクピットで操縦桿を握りつつ伊佐美が言った。
「うん‥‥解った! 整備、上手く出来なくて御免なさい、無事に帰ってきて!」
「任せとけ‥‥ティシュトリヤ、出るぞ!」
 風防を閉めハンガーから滑走路へと乗り出すと、アフターバーナーを吹かして加速し十機のKVが吹雪の空へと飛び立っていったのだった。


 北へ向かうと吹雪はすぐに収まったが迎撃点へと向かう途中で如月・由梨(ga1805)機がエンジントラブルで脱落していた。俗にWPと呼ばれる稀に良くある怪奇現象である。
「‥‥ああっ! ひそかに当てにしていた戦力がいきなり消えた!」
「えー、誰だったか。そこのゲム。落ちつけ、その分、ほれ、お前が働けば良い。なに、なんとかなる」
 UNKNOWNが悲鳴をあげる隊長へとそう言った。未だ九対六、数の上では優勢だ。十分やれる筈である。
「そこの呼ばわりはヤメロ。落ちつけってのは解った。くそっ、やるしかねぇか!」
 空の彼方より赤輝を纏った六機の巨人タロスが迫り、九機のKVが爆風を巻き起こして戦闘機動へと入ってゆく。
「目標を確認、交戦に入る」
 氷室が言った。
「組むのは久々だな、ゲンジー。ケツは持ってやっから、しっかりキバれ」
 と伊佐美。
「了解、姐御」
 六堂が言葉を返す。
 距離が詰まってゆく。
 黒のフロックコート姿の男はあくまで余裕を失わず、あえて気軽な感じに言った。
「さぁて、無理はせずに、だよ?」
 氷塵基地の人々の命運をかけた戦いが始まった。


 距離が詰まる。
 相対距離六〇〇、風に乗る様に、鳥が飛ぶ様に、力みなく優雅に飛行する漆黒のK‐111、UNKNOWN機、ブーストを発動、赤銅色のタロス三機をロックオン。
『私は左のを貰おう――Lets Dance!』
 男は無線に合図を発しつつ発射ボタンを押しこむ。他方、榊機もまた超伝導アクチュエータを発動し黄金の強化タロス三機をロックオンすると発射ボタンを押しこんでいた。
 漆黒のK‐111と朱漆色のXF‐08Dよりそれぞれ五〇〇発もの小型ミサイルが射出され、宙に広がって唸り煙を引いてタロスへと襲いかかってゆく。K‐02誘導弾だ。
 三機の黄金タロスは猛烈に赤く輝き直角に機動して回避せんとするも誘導弾は鋭く追尾して次々に三機のタロスへと喰らいついて爆裂を巻き起こしてゆく。全弾直撃。
 赤銅色の三機も同様に回避せんと機動するが圧倒的な精度で迫る誘導弾をかわせず壮絶な超爆発に飲み込まれてゆく。
 爆炎が消えぬうちに漆黒のK‐111が極超音速で突っ込み最左の赤銅タロスへと一刹那で迫っている。ガンサイト。火炎を振り払ってタロスが突っ込んで来る。エニセイ対空砲を一発発射、砲弾が激突しタロスの装甲が砕けて散った。
 赤銅色タロス三機はUNKNOWN機へとライフルを向けると一機四連射、三機で総計十二条もの荷電粒子の光波を撃ち放つ。UNKNOWN機は左斜め下方へと沈み込み、次の瞬間急機動して右へと空気の断層を滑るようにスライドしてゆく。プラズマエネルギー波が何もない虚空を灼き払って抜けてゆく。
 終夜機は相対距離四〇〇まで詰めると赤銅タロス三機をロックオン、発射ボタンを押し込み、四五〇発もの小型Gプラズマミサイルを撃ち放つ。誘導弾は射撃中の三機の赤銅タロスを捉えて次々に炸裂しプラズマの嵐を撒き散らした。
 猛烈な光の中で装甲を融解させてゆく赤銅タロスへとUNKNOWNは機銃を向けると弾幕を撒き散らしながら突っ込んでゆく。タロスは徹甲弾に穿たれ火花を撒き散らして態勢を崩しつつもUNKNOWN機へと向けて大剣を振り降ろす。カウンター。漆黒のK‐111はローリングして斬撃をすり抜けるようにかわすと交差様に翼の先端をタロスの胴へと喰いこませ、装甲を切断しながら抜けてゆく。UNKNOWN機の後方でタロスの身より漏電が発生し次の瞬間超爆発が巻き起こった。木端に散ったタロスが雪の大地へと落ちてゆく。撃破。流石の強さ。
 終夜、可能な限り損傷部や敵急所を狙い撃ちたい。が、空戦で狙うのは難易度が高い。有効射程には既に入っているがUNKNOWN機へと射撃している赤銅タロスへとさらに距離を詰めてゆく。ブーストを発動、一瞬で猛加速して突っ込む。迫り来る終夜機に反応した赤タロスが大剣を構えて切っ先を突き出す。終夜は即座に反応し、ジェット噴射ノズル核を操作すると急角度で上昇し一撃を余裕を持ってかわす。
「ふむ、行動がパターン化しているから確かに無人機のようだね」
 ドクター・ウェストはそんな事を呟きつつ終夜へと攻撃した赤銅タロスへと8式螺旋弾頭ミサイルを撃ち放つ。誘導弾は鋭く飛びタロスへと直撃して爆裂を巻き起こした。態勢を崩しつつも火炎の中から出て来たタロスへと終夜は強引に曲がって追尾、急降下。上方より翼を唸らせる。交差。猛烈な衝撃と共に白皇の銀の翼がタロスを真っ二つに切断して抜けてゆく。壮絶な破壊力。両断されたタロスは爆裂を巻き起こしながら落下してゆく。撃破。
 アルガス機は最後の赤タロスへと誘導弾を連射している。爆炎が巻き起こりよろめいたタロスへとウェストは機首を回しすかさずサイトを合わせる。ウェスト機の主砲に光の粒子が集まってゆく。試作型帯電粒子加速砲だ。
「落ちたまえ!」
 言葉と共にトリガーを引く。次の瞬間、極大の光の帯が撃ち放たれウェスト機と赤タロスとの間の空間を一瞬で制圧した。空を灼き焦がし、タロスを灼き焦がし貫いて、風穴をあけて後方へと抜けてゆく。瞬後、タロスから焔が膨れ上がった。超爆発を巻き起こして四散し虚空へと散ってゆく。撃破。
 他方、KV五機が黄金の強化タロス三機へと激突していた。黄金タロスは最上位の質であり、そしてノーマル型ではなく強化型。赤銅のノーマルタロスとは二味は違うぞ。
「吼えろバイパーッ!! タロス共を喰らい尽くせ!!」
 六堂機、ブースト空戦スタビライザーを発動、加速して先頭に踊り出る。漆黒のバイパーだ。爆炎を裂いて飛び出して来た黄金タロスの一機へと狙いを定めると二連装ランチャーでロケット弾を猛射する。勢い良く飛び出した四連のロケット弾に対して、タロスは赤く輝いて素早く降下する。二発が直撃して爆裂を巻き起こしたが、残りの二発は外れた。六堂機の性能はかなりのものだが、敵機も非常に速い。
 アクチュエータで精度を向上させて機動する榊機、回避した黄金タロスへと狙いを合わせて誘導弾を二連射、後旋回。UK‐AAMが煙を噴出しタロスへと襲いかかる。さらに速い。回避せんと動くタロスへと鋭く喰らいつく、直撃、直撃、凶悪な爆裂を巻き起こす。六堂、すかさず態勢を崩したタロスへと突撃しながら二連装ランチャーを猛射。四連のロケット弾が唸りをあげて襲いかかり次々に直撃して猛爆を巻き起こす。氷室機がさらに続いて態勢を崩したタロスへとサイトを回す。FCSが音を立てロックサイトが赤く変わる。今。発射ボタンを押し込み、MM‐20ミサイルポッドより二十発の小型ミサイルを次々に空へと解き放つ。蒼空へと踊り出た二十発の誘導弾がタロスへと襲いかかり、赤輝を纏ったタロスが空を素早くスライドしかわさんとする。うち十発が喰らいついて命中し爆炎を吹き上げ、しかし残りの十発は虚空を貫いていった。外れた。
 タロス二機は既に六堂機へとキャノンの狙いを合わせて猛射している、誘導弾をかわしたタロスもキャノンを六堂機へと合わせて射撃を開始した。一機五連の三機で十五連射。十五条のプラズマ光波が空を灼きながら飛んでゆく。六堂機、避けられない。紫の光の嵐が次々に直撃して壮絶な破壊力を炸裂させてゆく。損傷率一割八分。硬い。装甲が多少削られたがまだまだいける。
 六堂機、スラスターライフルの間合いまで入るとハルベルトを持つ腕を狙って射撃しおよそ三十発の弾幕を飛ばす。タロスは素早く機動して弾丸の嵐を回避。黒のバイパーが翼を光らせて突撃し、秋月機がタイミングを合わせてブーストを発動、猛加速してそれに続く。黄金タロスがハルベルトを構えた。
「外敵なんてない、戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥」
 伊佐美機GSF‐2200‐ティシュトリヤ、黄金タロスへと狙いを定めると誘導弾を撃ち放つ。空を切り裂いて鋭く飛んだ誘導弾を、しかしタロスは素早く機動して回避。六堂機はその回避先へ合わせて20mmバルカンで猛射。猛烈なマズルフラッシュと共に発射された十発の徹甲弾がタロスの身に突き刺さって火花を巻き起こながら装甲を破砕してゆく。氷室機も合わせてUK‐AAEMを発射。ミサイルが唸りをあげて飛ぶ。しかし黄金タロスは空を滑るようにスライドして回避。六堂機は後背に回り込まんと脇を抜けてゆく。
 誘導弾の爆裂と共に一機に間合いを詰めた秋月機はエアロダンサーを発動、空中で変形してタロスへと迫る。炎を裂いて飛び出したタロスが秋月機へと迎撃にハルベルトを振り上げ、伊佐美機がハルベルトを持つ手へと狙いを定めてアサルトライフルで連射狙撃した。弾丸が飛び出し、槍斧が振り降ろされ、その手に二連の弾丸が炸裂して装甲が砕け衝撃で軌道がブレる。秋月機は機盾ウルを素早く翳す。激突。極超音速で槍と盾が激突して壮絶な衝撃力が巻き起こる、が、タロスの一撃は十全ではない。秋月機は態勢を崩しつつも盾に傾斜をつけて受け、すり抜けるように流し剣の間合いへと踏み込む。アグレッシヴトルネードを発動、機刀「建御雷」を振り抜く。一刹那の撃ちに三連の剣閃が稲妻の如くに閃いた。黄金のタロスは赤輝を纏い慣性を制御し急降下しつつ一撃をハルベルトで受け流し、残りの二連撃をすり抜けるようにかわす。傭兵各機、良い連携だが相手も強い。例え五機で集中しても一息に墜とせる相手ではない。先に盾で受け流した秋月機、損傷一割一分。変形して戦闘機形態に戻り離脱、氷室機が援護するようにブースト機動で前に出ている。秋月機はそのまま間合いを取り、氷室も続いて間合いを取りつつ無線に向かって言った。
「六堂! 後ろ、行ったぞ!」
 その声が響く中、二機の黄金タロスはプラズマライフルをそれぞれ一射づつ、集中打を受けているタロスの後背へと回らんとしているその六堂機の後背へと回って射撃、強烈な爆裂を巻き起こしている。
(有人機に比べりゃ楽なもんだが、逆にAIだから通じないものも、あるか‥‥迷いがねぇ)
 伊佐美、敵機の動きを見て胸中で呟く。総合的には有人機の方が強いとされるが、部分的にはAIが勝る箇所もある。意志の疎通に乱れがなく、AIは死を恐れない。大破するか物理的な強制力で吹き飛ばさぬ限り集中攻撃は崩れない。
「もう少し、耐えろよ‥‥」
 UNKNOWN機、翼を翻し黄金タロスの方へと向かっている。終夜機、ウェスト機、アルガス機も同様だ。
(だが痛みを知って、研ぎ澄まされるものもある。‥‥ハッ。物言わぬテメェに、それが分かるかな?)
 伊佐美機、翻ってサイトを合わせつつタイミングを計る。黄金タロス達は再生機能を発生させ損傷の回復を開始する。榊機、敵機のリロードタイミングはちょっと解らない。超伝導アクチュエータを発動させつつタロスを捉える。残弾数に注意を払いつつ、ロックオン。敵機はかなり速いが外す気はしない。UK‐AAMを四連射。四発の誘導弾が焔の咆哮をあげて襲いかかり避けんとするタロスを逃さず追尾して次々に凶悪な大爆発を巻き起こしてゆく。再生する傍からそれに数倍するペースでタロスの装甲を吹っ飛ばす。榊機、かなりの鬼性能だ。
 態勢を崩しているタロスへと六堂機がロケット弾を連射しつつ突っ込み、伊佐美機が合わせて誘導弾を連射する。秋月もFI‐04を猛射し氷室機はAAEMを発射。タロス三機は六堂機から狙いを外さずプラズマ光波を猛連射。十八発の紫光が六堂機に全弾直撃して猛爆裂を巻き起こして装甲を吹き飛ばし、黄金タロスの一機がロケット弾と誘導弾の嵐を受けて爆炎に呑まれ砕けながら落下してゆく。押し切った。タロスは途中、大爆発を巻き起こして四散した。撃墜。
 漆黒の機体が彼方より超音速で突っ込んで来る。UNKNOWN機だ。六堂機へと射撃している黄金タロスへとエニセイ対空砲を六連射、豪速で飛んだ砲弾が次々にタロスに直撃し壮絶な破壊力を撒き散らして装甲を粉砕し、さらに間合いを詰めて機銃を猛射してバルカンで蜂の巣にしつつ、翼の刃を鈍く光らせ突っ込んでゆく。化物の如き機動力。装甲の大半を一気に粉砕されながらも黄金タロス、突撃してきたUNKNOWN機へとハルベルトを猛然と振るう。激突。斧槍が激突してタロスが弾かれ、黒いK‐111も吹っ飛んでゆく、が、すぐにバーニアを噴出して態勢を立て直す。損傷は軽微。凶悪なまでにタフな造り。
 その直後に同様に極超音速で白銀の機体が黄金タロスへと突っ込んだ。終夜機、白皇だ。UNKNOWN機に激突して吹っ飛んだ黄金のタロスは慣性を制御しすぐに態勢を立て直したが、既に至近まで終夜機が迫っていた。翼の刃がハルベルトでの防御よりも速く、タロスの胴体に炸裂しエニセイと徹甲弾で破砕されていた箇所の上から入って、その奥を断ち切りながら抜けてゆく。壮絶な破壊力。タロスの身が半ばから切断され、蒼い茨の如き電流がほとばしった。次の瞬間、タロスは超爆発を巻き起こして四散する。撃破。簡単には堕ちない筈なのだが、あっさり逝った。鬼である。
 少し遅れてやってきたアルガス機が黄金のタロスへと誘導弾を四連射し黄金のタロスが三発を回避し一撃を受けて態勢を崩し、ウェスト機がそれに合わせてドゥオーモを撃ち放った。百発の小型誘導弾が次々に飛んでタロスを電撃の嵐に呑みこみその装甲を灼き焦がしてゆく。ウェストは次いでG‐02誘導弾を撃ち放ち、しかし黄金タロスは赤輝をまとって稲妻を裂いて飛び出し誘導弾を回避。
 最後に残った黄金タロスへとUNKNOWN機はエニセイ対空砲を三連射、砲弾を叩き込み、バルカンで猛射して装甲を撃ち砕き、榊機が誘導弾を猛連射して凶悪な爆裂を巻き起こし、終夜機が四百五十発のGP‐7誘導弾を次々に直撃させてプラズマの嵐で爆砕する。態勢を大きく崩した黄金タロスへと六堂機がロケット弾を伊佐美機がアサルトライフルで射撃して両手首を吹き飛ばしてハルベルトを落下させ、ウェスト機が螺旋誘導弾を直撃させ氷室機が小型誘導弾の嵐を叩き込んで猛爆の嵐を巻き起こした。
「そいつさえ無けりゃ、こっちのもんッスよ!」
 六堂機がブースト&スタビライザーを発動させ、音速を超えて突っ込み、秋月機もまたブースト機動で突撃し空中変形して迫る。
「ここだっ!」
 秋月機の振り下ろした機刀が直撃し、六堂機の剣翼がタロスの装甲を深く切り裂き、タロスが十字に裂かれて下方へと吹っ飛んだ。黄金タロスは落下してゆく途中で内部より引火し超爆発を巻き起こして四散する。完膚無きまでの撃破だ。
「――これで終わりか? 増援はいやだぞ流石に」
 氷室が風防から周囲を見回しつつ言った。レーダーにも肉眼にも敵影は無し。
「敵機の接近の気配はないな‥‥」
 と秋月。
「それじゃえーと‥‥あー、アルゲス‥‥なんだっけ、長い名前だいっそ本名もジュゲムに改名とかどうだ?」
「アルガスだ、アルガス!」
 ファーストネームも覚えられていない隊長であった。
「まぁ、何だ‥‥その内いい事あるさ。アル‥‥えっと‥‥なっ、ジュゲム」
「解った、好きに呼べ。それも追加だ!」
 こうやって名前とは増えてゆくものなのである。多分一般にそんな訳はないだろうが。
「ま、なんだかんだで無事に終わったし、飲み会でもどうッスかね?」
 と六堂が言った。
「酒宴か、悪くはないな」
 うむ、と頷いて榊。
「風呂入って飯喰ってからなら付き合うぜ」
 と伊佐美。多分、アリシアが用意してくれている筈である。
「皆〜帰還モードな所すまないが〜、降下してタロスの残骸が残ってるかどうか確認しても良いかね〜? 万一という事もある」
 ドクター・ウェストが言った。基本的にHWやタロスは大破した場合、木端微塵に自爆するものだが、稀に上手く作動せず、その残骸が人類側へと回収され慣性制御装置などが確保される事もある。自爆装置が不発だった場合、俗に掃除屋と言われる部隊が出て来る事が多いのだが。
「増援の様子がないから粉々になってるとは思うが‥‥ま、残ってたらめっけもんだしな。ちょっと降りてみっか」
 とアルガスが言って基地へと調査を行う旨を連絡してから、一同は地上に降りてタロスの残骸の捜索にあたった。結果としては木端微塵でこれといった物は手に入らなかった。
「ハズレか〜」
「まぁ、コツコツ確認するのは悪かないさ。余裕がある時に限るけどな」
 アルガスはそんな事を言った。
 一帯の調査を終えたかくて再び九機は雪原から飛び立ち基地へと向かったのだった。その途中、
「さて、私は次に行くが。アルガス=A=ヘルマン=セプテンフォー=セプテス=ステッペンウルフ=ヴァルツァー、お疲れさん」
 言ってUNKNOWN機は翼を翻し夕焼けの空の彼方へと消えて行った。もう次の仕事があるらしい。忙しい男である。
「お疲れ、覚えてんじゃねーかバーロォ」
 アルガスは半眼で言ってへっと鼻を鳴らし、ドクター・ウェストはそんな能力者達の挙動をじっと観察していたのだった。


 かくて、タロス六機を無事に撃破した八機は帰還し、基地の人々と如月より歓声と共に出迎えられた。
 祝勝会を兼ねた飲み会が開かれて希望者は参加し、伊佐美は用意されていた食事と風呂を堪能してから合流したのだった。
 傭兵達の活躍により氷塵基地は今日も健在である。



 了