●リプレイ本文
グリーンランドの雪原。谷へと走る大型の雪上車が一台あった。
「生徒の救出‥‥ですか。厄介な相手みたいですが、邪魔をするなら全て打ち倒すのみ‥‥ですね」
車内、そう呟くのは鳴神 伊織(
ga0421)だ。
「見捨てておくってのもクールじゃないからな」
黒の長髪美人が鳴神の言葉に頷く。嵐 一人(
gb1968)だ。クールを気取ってはいるが熱い男である。
鳴神は谷で待機しているウォルターへと無線を繋ぐと、先走らない様に釘をさしておく事にした。
『‥‥くれぐれもじっとしてろって?』
「はい。ただ、こちらの到着前にナターシャさんに危害が及ぶ可能性がある場合は牽制で注意を引いてください。できますか?」
『解った、やってみる』
「その場合、気を引いたら逃げに徹する様にお願いします。一人でどうにかなる相手では無いようです」
ウォルター少年へと白い巨人の特徴を説明する。額に埋め込まれた赤石は巨人とは別に活動しているキメラで、宿主が傷を負うとすぐに超強力な治療の波動を発生させるらしい。故に額の赤石を砕かなければならないが、いきなり頭部を狙っても避けられてしまうので複数人による連携が必要だと説明する。
『‥‥なるほど、解った!』
ウォルターからはそう返答がかえってきた。適切に動いてくれそうだ。とあえず無駄な犠牲者を増やす事は避けられた模様。
(回復手段付き、か。厄介なキメラだなぁ、とにかく早いとこ助けに行かないと!)
M2(
ga8024)は胸中で呟き、
「あ、でも‥‥そういえば‥‥」
と、途中でふと思って無線を手にする。
『ねぇカンパネラの先生、弱点教えてくれたのってディアナ?』
M2はエドウィンへと無線を飛ばす。
『何故そう思うんだい?』
『だって軍や学園が知らない敵の弱点とか知ってて、教えてくれそうなのって一番はこの辺りじゃディアナじゃない?』
『うん、そうだねー、その通りだ。ディアナが協力してくれたんだよ』
『そっかー、じゃあ今度会ったらお礼言わなくちゃ。色々悩んで複雑だったろうに‥‥』
かつて地下で邂逅した少女を思ってありがとうね、とM2は胸中で呟く。
谷へと向かう途中、傭兵達は雪上車の中で作戦を詰める。
「と、いう訳で取り残されたナターシャはんの救出と邪魔になる巨人の殲滅が今回の目的やね」
状況をまとめてエレノア・ハーベスト(
ga8856)が言った。
「デカブツ相手に生身でバトル? なーら俺の出番っしょ!」
と言って腕を鳴らしてるのは植松・カルマ(
ga8288)である。
「よろしく、お願いします‥‥」
ペアを組む朧 幸乃(
ga3078)が呟くように言った。負傷があったような気がしたが大丈夫である。問題ない、いける。
「前は任せといてください。後ろから援護よろしくお願いしやっす!」
とカルマ。それに了解の言葉を返しながら朧は思う。
(植松さんは熟練の、豪腕の方)
剛剣使いの植松カルマ、一撃が当たる敵にはトコトン頼りになる男だ。その力を活かしてもらう為にも的確にサポートしたい所である。
「助けた女の子のイイ感じになったりとかしちゃったりして!? ウホッ、テンション上がってきたッスよー!!」
カルマは凍てついた雪原とは対照的な明るい未来を想像中らしく良い笑顔を見せている。
頼りになるはずだ、多分、うん。
「重体なんて、笑えないわね‥‥はぁ。うち、何やってんだろ」
そう嘆息しているのはエスター・ウルフスタン(
gc3050)だ。まぁ長い傭兵生活そんな時もある。
打ち合わせてみるとザ・殺生(
gc4954)は特に機動的な作戦を取らないようだったので、少女は彼の護衛に当たることを提案した。
「ほら、盾の一枚くらい持っといたほうが気が楽でしょ? ‥‥あんたも、さ」
「重症の少女を盾にするのは流石に俺様ちゃんも気がひけるが、最終的にはSTな妾が立ってればお互いなんとかなるか。よし、解った!」
「よろしく――っていうかあんた、装備重過ぎるんじゃない? 重量大丈夫?」
僅かにオーバーしていたのでザ・殺生は物を少し持ってもらって行動力を確保しておく。
「ソニックブームは使用して問題ないでしょうか?」
緑(
gc0562)がそんな懸念を漏らした。雪崩等の問題だろうか? 鳴神はウォルターに無線で尋ねたが、十全は言い切れないが巨人が暴れ回っていても起きていない事から危険性は低いだろうとの事。山肌の下手な所に当てればその限りではないが。
「一応、巨人にかわされた場合、何処へ飛んでゆくのかは考えてから撃たない方が良さそうですね‥‥」
と緑。
「ところで取り残されてるナターシャはんは防寒対策しとるんやろか」
エレノアが言った。
「どういった状態なのか、気になりますね‥‥」
無表情で頷きセシリア・D・篠畑(
ga0475)。防寒をAU‐KVにのみに頼っていた場合、練力が切れた今ではこの気温に凍えてしまっている事だろう。
「念の為、防寒具は必須として火を起こす道具なり、熱い飲み物なんかも必要かも知れへんねぇ」
そんな訳でエレノアは車内のお湯で生姜湯を作ると水筒に入れて救出班に託す事とした。
やがて谷の入り口前へと辿りついた一行は雪上車より降車し谷の奥からやってきたウォルターと合流した。彼の報告と無線で確認する所ではナターシャはまだ無事のようだが、寒さと恐怖でパニックになりかけているらしくその声は震えていた。
『ナターシャ‥‥待っていて下さいませ。きっと助け出してみせますわ!』
ロジー・ビィ(
ga1031)が無線に励ましの声をかける。無線の向こうからは暴れる巨人が巻き起こす爆音と少女の悲鳴が聞こえていた。
「‥‥急ぎましょう。状況から言ってもあまり時間はかけられません」
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)が言った。ミカエルを装着し谷へと駆けだす。
「主よ‥‥お護り下さい‥‥」
ロザリオをぎゅっと握り締めてロジー・ビィは呟き、それに続いた。
●
かなりの角度でV字に傾斜がついた谷。その底には十m程度のそれなりの幅の川が流れている。もっとも流れているのは水面下であって、その表面は凍てついて氷を張っていたが。谷全体では七十m程度だろうか、真中を凍てついた川が丁度半分に立つ形だ。かなり横幅のある広い谷である。
ウォルターの案内を受け無線でナターシャを励まし、カルマは両名より洞穴の位置情報と敵の配置等の状況を受け取り、それを聞きながら傭兵達は進む。カーブを曲がり、やがて一〇〇m程先に群がっている四体の巨人を発見した。
体長はおよそ四m程度だろうか。筋骨隆々の体躯に腰巻をつけ、それぞれ両腕に大剣、戦斧、鉄杖、大槍と持ち振り回して洞穴回りの山肌に叩きつけている。岩盤が砕け雪がばらばらと落ちて来ていた。顔が見える巨人の額には赤い宝石が輝いている。赤石のスノウジャイアント。
カルマは洋弓レルネに矢を番えると連射した。斧と剣の巨人に突き刺さり、巨人達が咆哮をあげる。他の二体も洞窟を叩く手を止めると突進して来た。カルマは弓を背に納めて剣と銃を抜き放つ。
(一筋縄ではいかなそうですわね。気を引き締めていかなければ‥‥)
ロジーは胸中で呟きつつ二刀小太刀を抜刀する。傭兵達が川の左面に展開し駆け出してゆく。セシリアはロジーへと練成超強化を発動した。虹色の輝きがロジーを包みこむ。
(今頃は皆さん、ベルガの街の警備と‥‥たぶん、お墓参り、かな‥‥)
朧、咆哮をあげてこちらへと向かって来る巨人達の動きを観察しつつ胸中で呟く。
(私は街にも彼にも、お伝えするようなこともないから‥‥せめて数日くらい、彼らが関わっていたこの地域のゴタゴタのお手伝いでもして、ゆっくりしてもらいましょ‥‥)
相対距離六〇、女は左腕に嵌めた手甲を虚空に翳す。虹色のトパーズが鈍く煌めき、戦斧を持った巨人の頭部がある空間を中心に電磁波を発生させる。巨人は素早く身を屈めて前方へ踏み込み回避した。やはりいきなり頭部狙いで中るもんでもないらしい。
巨人四体と十三人の能力者が右手へと傾斜してゆく雪の谷を駆けている。割と滑る場所だ。朧は全体を観察しつつ間合いを計る。他班含め、いざという時の治療の為にも余裕を持ってゆきたい所か。間合いが詰まってゆくカルマと戦斧巨人との相対距離が十mを切った。朧は確実性を取って巨人の胴体へと狙いを定めて蒼光の電磁嵐を発生させる。光が巨人の胴周りに発生し、その白い皮膚を灼き焦がしてゆく。
その瞬間に植松カルマ、スパイクをつけた雪原用ブーツで傾斜する雪原を踏みしめ、剣と銃を構えて一気に加速して弾丸の如くに突っ込む。地形にしっかり準備対応している戦略具合がパネェ男たる由縁。左手に構えるブラッディローズの銃口を巨人の足元へと向け猛射。散弾が轟音と共に飛び出して巨人の両脚に炸裂し、その皮膚を爆砕して血飛沫を噴出させる。巨人の態勢が崩れた。その巨体が斜めに沈む。カルマはすかさず、高所である左面へと踏み込んで右手に携える魔剣ティルフィングを振るい、巨人の額を狙って斬り上げた。猛烈な衝撃。轟音を巻き起こしながら火花が散る。巨人の戦斧とカルマの魔剣が激突していた。下と上からの激突、パワーではカルマの方が押しているが、そのまま剣で額を狙うにはちょっと四mの巨人の額は高い。ついでに流石に足場が滑った、が、すぐにカルマは立て直す。巨人は一歩後退すると戦斧を旋回させ、振り上げから降り降ろしの二連撃を打ち放って来た。カルマは練力を解放すると流し斬りの要領で軸を外しながら左面へと入って避けんとする。斧が空を切り、雪の斜面を爆砕して積雪を天へと吹き上げてゆく。かわした。スパイクが効いている。
他方、ロジーも既に戦闘に突入していた。巨人が咆哮をあげながら大剣を構えて踏み込み颶風を巻き起こしながら巨木のようなそれを袈裟に振り降ろす。ロジーは、スノーシューズでしっかりと地面を踏みつけて右面へと低い態勢で踏み込む。剣が頭上と背の上を爆風を巻き起こしながら通り過ぎ、雪の斜面に激突して爆砕し真白い雪を間欠泉の如く吹き上げた。掻い潜った。ロジー、間髪入れずに天地撃を発動、打ち上げるのは難しいと見たか叩きつけるような猛打を放つ。右の小太刀が巨人の胴に炸裂して猛烈な衝撃が巻き起こり、血飛沫を吹き上げながら巨人が後退する。巨人へとロジーはさらに剣劇を発動、左、右、左、右と左右の小太刀で疾風の如く連撃を叩き込んで切り刻む。しかし巨人は切り裂かれながらも後退しつつ態勢を立て直し反撃の剣閃を打ち放つ。ロジーは素早く飛び退いてかわした。超強化で身体が軽い。敵の動きが良く見える。
M2、巨人は既に向かって来ている。ラグエルは良いか? 前衛二人と巨人との距離相対二〇に近づいた時、男はタイミングを計って超機械ジータを翳した。
(再生されると厄介だし、頑張って削ったのに無駄になったらやる気もなくなるし、良い事何にもないからね!)
額の宝石型キメラを狙って猛射。超機械の場合、ピンポイントでなく微妙に範囲攻撃である? ので少々外れてもダメージ行くんじゃないかなと期待する。頭部があった空間に蒼光の電磁嵐が巻き起こり、巨人は低く身を踏み込み頭部を下げて回避。割と速い。かわした。伊達にドラグーンを四人叩き殺していない。
(でも仮にノーダメージでも頭に注意が行けば、足元への攻撃が仕掛けやすくなる筈!)
効果は複数狙って仕掛けるのが効率が良い。M2の一撃をかわして態勢を低くしている巨人へと相対距離二〇に踏み込んだエレノアが翠閃にエネルギーを極限まで集中させ、スマッシュを発動、渾身の力で振り抜いていた。
(ソニックで雪崩の危険もあるが、其の時は其の時!)
空間が断裂し爆風が逆巻き音速を超えて襲いかかってゆく。ソニックブームだ。衝撃波が唸りをあげて巨人に炸裂しその白皮を爆ぜさせる。重い一撃だ。
「来なさい、あなたの相手は俺がします」
緑もまた練力を全開にすると1.8mの大太刀、如来荒神へと爆熱の輝きを宿し、さらに刀身にエネルギーを極限まで集中させて振り抜いた。破壊力が増大した音速波が咆哮をあげて飛び、血飛沫を吹き上げている巨人の右腕に炸裂する。凶悪な破壊力。流石のエースアサルト。
エレノアは衝撃波を追いかける形で飛び込んでいる。が、鉄杖はリーチがある。右腕から血飛沫を噴出しつつも杖を横手に振りかぶり――しかし、M2が妨害するように顔面を狙って超機械をかざし、蒼光を解き放った。電磁の光が巨人の顔面と宝石を灼き焦がし、それでも巨人は杖を横薙ぎに振るう。崩れている、遅い。エレノアは流し斬りで低く鋭く踏み込んだ。傾斜のついた雪原、足元がずるりと滑った。杖が唸りをあげて迫り、身を倒すように伏せる。鉄杖が頭上を抜けてゆく。紙一重、かわした、がエレノア自身もバランスを崩して膝立ちに止まった。
すかさず巨人が振り抜いた杖を振り上げ、緑が飛び込む。
(もう二度と俺の前で誰かを死なせたりはしない)
渾身の力を込め巨人の膝を狙って真紅の光を纏った太刀で強打する。壮絶な破壊力。刃が炸裂して膝頭が爆砕され、巨人の顔面を蒼光が灼いてゆく、振り下ろされた鉄杖をエレノアは横に転がって回避、大地が爆砕されて積雪が吹き上がる。
「砕け散れ!」
エレノアは転がりながらその勢いで翠閃を上方へと振るう。間合いの外、しかし閃光と共に白霧を断ち、爆風が飛び出して巨人の顔面に炸裂した。赤石を音を立てて砕けてゆく。M2は超機械を納めると背よりブレイクロッドを抜き放ち駆けだした。
他方、大槍を持った巨人へは鳴神、エスター、ザ・殺生の三人が向かっている。
「妾はビジュアル系最兇だぜェ!!!!」
気合いの声と共に駆け、雷遁巻物と扇の扇嵐を左右に構えるのはザ・殺生。この救出行に参加した動機は曰く「スノウジャイアントが許せないから!!!!」との事。
雪の巨人の何が許せないのだろうか。バグアの生体兵器たるその存在だろうか。それともカンパネラ生徒を殺したというその事実だろうか。今もこうして人命を奪おうとしているその事だろうか。それとも他の何かか。
謎のビジュアル系イケメンは細かい事は語らない。理由があるのだろう。だが語らない。余人に確かに解るのは、とかく彼にとってこの状況は許せん故にぶっ飛ばすという事。
「アーメン!」
男は祈りと共に巻物と扇を十字に交差し起動する。暴風と電撃が発生し、竜巻が氷雪を吹き飛ばし、稲妻が宙を灼いて飛んだ。スノウジャイアントは迫り来る暴風を飛び退いて回避し、その回避先へと飛んだ稲妻を槍を翳して斬り払う。光が爆ぜて猛烈なスパークが巻き起こった。狙いが少し逸れた。腕が上手く動かない。身体が冷え切っている。
ザ・殺生の援護射撃と共に鳴神が太刀と盾を構えて突っ込んでゆく。太刀の間合いに入るより早く、雷を切った巨人が大槍を旋回させて颶風を巻き起こしながら薙ぎ払う。鳴神は左からの猛撃に対し盾を翳し受け止める。激突、火花が散り猛烈な衝撃が巻き起こった。流石の反応速度、止めた。しかし、鳴神伊織は強いが足場が悪い。ずるりと足元が滑る。急角度で傾斜のついた雪の坂、踏ん張りが効かない。薙ぎ倒されるように女が転倒した。エスター、援護に行きたい所だが重症故に身体が上手く動かない。殺生も連射は効かない。巨人は振り抜いた大槍を間髪入れずに落雷の如くに倒れた鳴神へと振り降ろす。女は仰向けに盾を翳す。降り降ろしの豪槍と盾がぶちあたって。鳴神の身が沈み、雪原が陥没して大地にめり込んで白雪を吹き上げた。圧倒的な質量、凶悪な破壊力。まともに当たれば巨人も強い。鳴神は腕の痺れを無視して起き上がり、穴から這い出んとする。朧から練成治療が飛んで来て痛みが癒えてゆく。
他方、傭兵達と巨人達が激突している脇を抜けシャーリィ・アッシュと嵐一人、そしてウォルターが洞穴へと向かっていた。竜の翼で脚部からスパークを巻き起こしつつ雪の谷を駆け抜けた嵐は洞穴の前で滑ってバランスを崩しつつも、片膝をついてドリフトしつつ洞穴内へと転がりこむ。
「よう。まだ持ちこたえてるか?」
嵐は洞穴の奥へと進み震えている少女を発見するとヘルメットを跳ね上げて素顔を晒し微笑みかけた。
「‥‥な、なんとか」
ガチガチと震えながらナターシャが言った。恐怖に晒されていたのと寒さのせいで震えが止まらないのだろう。嵐は持って来た軍の外套とエレノアから受け取った生姜湯の入った水筒を渡す。
「二人とも冷え切っているでしょうからね。すぐに戻ります」
到着したシャーリィは牛乳とポットセットを取り出して置くとウォルターに後を頼んだ。
「え、俺、留守番?!」
「誰かがいないといけないでしょう?」
「で、でもよ! 皆戦っているのに!」
抗議するウォルターへと嵐は言った。
「クールな男はやるべきことを間違えないもんだぜ」
その言葉は熱血気味な少年の言葉に響いたようだ。
「くっ‥‥そうだな! 了解したぜ! 死ぬなよ!!」
嵐は背を向けると片手をあげて応えつつ駆けてゆく。ヘルメットを降ろして盾を取り出し、洞窟の外に出る。巨人達へと向かって駆けつつ機械刀を抜き放つ。金属の筒から光の刃が伸びた。シャーリィもまた続いて洞穴の外に出で巨人達と傭兵達が激突している地点へと向かう。
カルマ&朧VS戦斧巨人。
朧は再生を開始した巨人へと虚実空間を発動させてキャンセルさせようと試みたが効果なし。対象外のようだ。超機械の手甲を翳して巨人の胴へと電磁嵐を炸裂させ、その斧へも光を叩きつける。
カルマは鈍りつつも斧を振り回す巨人の一撃を流し斬りでサイドに入ってすり抜けるように回避するとブラッディーローズの銃口を巨人の脚へと向けた。散弾が飛び出して巨人の脚に炸裂、その壮絶な破壊力を解き放って膝頭を爆砕する。鮮血を吹き出し再び巨人の態勢が低く崩れた時、カルマは練力を全開に解放した。朧が魂の共有を発動させてそれを援護する。
剣の紋章がブラッディーローズへと吸い込まれてゆきカルマはそれを頭上、巨人の顔面へと向けた。猛射。両断剣・絶が発動され極限まで破壊力が増幅された三連の散弾が爆音と共に白の巨人の顔面へと襲いかかる。次の瞬間、赤石ごと巨人の顔面が爆砕されて吹っ飛んだ。鬼神の破壊力。リスクは分散させるべきという教訓を残しつつ頭部の半ばを失った四mのスノウジャイアントが血飛沫を撒き散らしながら仰向けに倒れていった。撃破。
嵐は戦斧巨人へと向かおうとしていたが目標を切り替えた。援護は不要そうだ。
大剣を構える巨人の傷が癒えてゆき、巨人は竜巻の如くに剣を一閃させる。ロジーは一撃を再び掻い潜ると天地撃を叩きつけて巨人の態勢を崩す。超強化が切れてがくっと運動量が下がり、セシリアが巨人へと練成弱体を発動させた。
「セシリアっ、今ですの!」
ロジーは言いつつ剣劇を発動、左右の小太刀で疾風の如く五連打を浴びせてゆく。昏倒はしていないが態勢を崩してはいる。セシリアは血飛沫を吹き上げている黒い銃を構えると三連射。漆黒のエネルギー弾が空を裂いて飛び、巨人の額に炸裂して三十センチ程度の球形に膨らみ破壊力を解き放った。黒い光の中で赤い宝石が砕けてゆく。
巨人、両目からも血飛沫を吹き出している。態勢を立て直した巨人が咆哮をあげて大剣を振るうがロジーは剣閃を見切ってすり抜けるようにかわした。
「お待たせしました」
シャーリィ・アッシュが言いつつ巨人の後背へと1.5mの聖剣を振り上げ突撃しながら斬りかかる。刃が炸裂して血飛沫が吹き上がった。
「ナターシャさんにはウォルターさんについてもらっています」
挟みこんで連打を加えつつシャーリィは二人へそう伝える。
「砕けろ、そして跪け!」
エレノアは流し斬りで抜けると巨人の無事な方の膝裏へと炎剣を叩き込み、次いでスマッシュを発動させて翠閃を叩き込んで血飛沫を噴出させる。巨人が膝をつきつつも腕力に物をいわせて杖で薙ぎ払い、エレノアの身に直撃させて猛烈な破壊力を炸裂させた。女の身が吹き飛んで雪谷に転がる。女は勢いで回転しながら起き上がると、滑りつつも態勢を立て直しまた向かってゆく。
緑は大太刀を振り上げると杖を振り抜いた態勢の巨人へと袈裟に振るった。刃が巨人の脇腹に入って鮮血が散る。再度振り上げて振り下ろす。巨人は杖を翳して受け止め、薙ぎ払う。鉄塊が横殴りに緑を直撃し男を吹っ飛ばした。
彼方から駆けて来たM2が腕に純白の光を発動させ二m程の長さの六角の棒を旋回させて加速させ、体重を乗せて突き出す。合金の棍が巨人の水月を捉えて衝撃を叩きつけた。
他方、大槍を振るう巨人は鳴神へと連打して剛打を叩きつけている。
「練成治癒!!! アーメン!!!!」
ザ・殺生は鳴神へと練成治療を発動させ、雷光を飛ばして巨人へと一撃を入れている。
(うちは弱い‥‥けど、出来ることだって!)
エスター、一撃貰うとそれだけで死にそうな状態だが、エクスプロードを手に攻撃の機会を窺っている。
「援護する」
目標を変更した嵐が後方より突っ込んで来て凄皇弐式を発生させ斬りつけた。蒼いレーザーブレードが空間を走り、巨人の身に炸裂してその身を灼き斬る。
巨人は回転するように振り向きざまに嵐へと槍を振るい、嵐は白銀の盾で槍の柄を受け止める。鋼と鋼が激突して火花が散り、猛烈な衝撃に足元が滑る。嵐は態勢を崩しつつも足元をAU‐KVのパワーで蹴りあげ、雪を巨人の顔面へと向かって飛ばす。目くらましにする腹だ。巨人は雪に視界を遮られながらも槍を短く持ち、咆哮をあげながら薙ぎ払うように横薙ぎに振るう。雪が巨人の顔にかかり、盾と穂先が激突して猛烈な衝撃が巻き起こる。嵐が押され足を滑らせて転倒した。
その間に鳴神は穴から飛び出すと猛然と黒刀を一閃させた。天地撃。背後より刃が巨人の脚に炸裂して巨人の片足が前方へと飛び出る。態勢を崩している巨人へと間髪入れずにもう一撃を残った軸足へと叩きつけた。壮絶な衝撃が炸裂し巨人が縦に回転しながら雪原に叩きつけられる。
「デトネイション、バーニングッッ!!」
エスターは倒れた巨人の顔面へと鳴神が音速波を放つのと同時にエクスプロードを逆手に持って跳躍した。猛烈な衝撃が炸裂して赤石が砕ける中、巨人の胴へと槍を突き降ろす。切っ先が巨人の身に激突し、強烈な爆裂を巻き起こした。ふらふらな身だがなかなか良い威力。が、次の瞬間、巨人は腕を振るってエスターを吹き飛ばした。猛烈な衝撃力が炸裂し少女の身が吹っ飛んで谷を転がってゆく。嵐が立ち上がり再度光の刃を噴出して向かう。
他方、
「そんな攻撃‥‥見え見えだっ!」
シャーリィは竜の咆哮を発動、盲目の巨人が振り降ろす大剣の軌道を見切ると、正面から受けるのではなく横合いから剣を叩きつけた。巨大な剣が猛烈な勢いで横に吹き飛ばされ巨人の身が流れる。ロジーは跳躍すると天地撃を三度打ちつけた。猛烈な衝撃が炸裂し巨人を大地へと叩きつけられる。
セシリアが黒いエネルギー弾を飛ばし、シャーリィが剣を振るう。転倒している巨人の身に黒色エネルギー弾が炸裂して爆ぜ、聖剣の刃が突き刺さって掻っ捌く。
「これで‥‥終わりですわッ!」
着地したロジーもまた猛撃と剣劇を発動、三名からの猛攻を受けて大剣の巨人も雪原に沈む。
杖持ちの巨人へと朧が電磁嵐を発生させ、カルマが巨人の後背より突っ込んで魔剣を炸裂させた。壮絶な一撃に巨人の身が揺らいだ所へ緑が大太刀を叩きつけ、エレノアが長剣で切り裂き、M2が棍で強打して吹っ飛ばす。もう動く気配は無い。撃破。
ザ・殺生はエスターへと練成治療を連打している。上体を起き上がらせる槍の巨人へと嵐がレーザーブレードを振るってその身を灼き裂き、鳴神は剣劇を発動、流れるように八連の斬撃を繰り出し、剛打を炸裂させて巨人の身を崩す。一発の破壊力はこちらも壮絶だ。鳴神は猛攻を加えながら冷静に相手の急所へと狙いを定めると、心臓、喉、頭部と連続して刺し貫いて打ち倒したのだった。
かくて雪の巨人は打倒され、ドラグーンの少女ナターシャは無事に救出された。凍傷を負っていたが早期の対策が功をそうして指が取れるなどといった事はなかったようである。
有難うございました、とカンパネラの少女と少年は傭兵達に礼を言っていた。
「有難う、今回は助かったよ」
シャーリィが例の基地を尋ねるとエドが居てそんな事を言った。シャーリィがディアナに会いたい旨を告げると講師は軍と交渉して許可を取りつけてよこした。曰く、世話になったからね、との事。
「久しいな。その後、調子はどうだ?」
シャーリィは独房を尋ねるとそう声をかけた。
「‥‥誰かと思ったら君か‥‥この前は有難う」
牢の前の通路での会話は聞こえていたらしい。毛布にくるまった少女は上体を起こしてシャーリィを見上げた。曰く、今日はそこそこ調子が良いらしい。
「サリアはどうなった?」
「ベルサリアならあの後、北へ消えた。まだ健在だと思う」
「そうか」
「ディアナの情報のおかげで無事に救出することが出来た‥‥ありがとう」
「‥‥‥‥そうか、君が行ったのか‥‥」
ディアナは言って赤眼を閉じ、
「助けになったのなら‥‥何よりだ‥‥」
そう呟いた。シャーリィは少女の表情を見て複雑そうだな、と思った。
「‥‥そういえば、最初に顔を合わせてから長いのに名乗っていなかったな。私はシャーリィ・アッシュ、赤竜の騎士だ」
「騎士か‥‥高貴な出なのだな‥‥改めて‥‥私はディアナ‥‥‥‥ディアナ・デ・ラ・クルスだ」
銀髪の少女はそう名乗った。それからまた少し話した後、
「‥‥許可が下りたら、また顔を出すよ」
シャーリィはそう言った。
「こんな所に来ても何も良い事ないと思うが‥‥‥‥まぁ、来るなら歓迎する‥‥暇だからな」
ディアナはそんな事を言ったのだった。
了