タイトル:雪原の王達と狙撃の銃マスター:望月誠司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/23 12:36

●オープニング本文


――Learn from yesterday、live for today、hope for tomorrow.
 過去を糧とし、今を生き、未来に望め。
 エドウィン=ブルースはそのようにその意味を語る。彼はカンパネラ学園の教師だ。齢は四十の半ば程度。元は英国空軍のパイロットで、能力者としても活躍していた。しかし致命的な故障により調子を崩してからは第一線を退いている。その講義は解りやすいと一部には評判があるが、一方で鬼畜だとか外道だとも言われている。
 彼が己の教室の生徒に与える『課題』は、人によって違っており――これと見込まれた者に与えられる任務は概ね酷かった。その事がじわじわと生徒達の意識に浸透してそれなりの時が経つ。講師エドに対する評価は、初期のものとはまた違っているのだった。
 そんなエドウィン=ブルースは研究室の中、部品の散らばる机の上でSESの組みこまれた小銃をいじりまわしていた。カチャカチャと音を立てて組み上げてゆく。
 不意にノックの音と声が響き、エドが返事を返すと扉が開いて白外套に身を包んだ齢十二程度の少年が入って来た。クォリン=ロングフットだ。
「エド」
 エミタに欠陥を抱える小柄な青年剣聖は言った。
「おお、クォリン、戻ったか。見ろよ、このライフル。テストデータを元にあれこれいじってみたんだが、なんと装弾数を十倍、出力を五十パーセントも増大させる事に成功したぞ。コストも三倍になってしまったが、何、たいした問題じゃあない。この課題もすぐにクリアして――」
 四十がらみの男は得意そうに試作銃を手に取ってみせ、ニコニコと笑いながら言う。
「エド」
 クォリンは繰り返した。
「そうだクォリン、お前、ベルガの方は落ちついたのか? それなら傭兵を募集してまた一つテストデータでも採って来てもらいたいんだが‥‥」
「エド」
「いやぁ、この前のデータはなかなか良かった! ああ、あれはお前さんじゃなかったか? いやまぁ、どうでもいい、はっはっは! それよりもだ」
「エドウィン=ブルース」
 少年は無表情で辛抱強く――こっそり瞳の奥に火花が燃えているが――言った。その様子にエドウィンは笑い声をあげたまま視線を合わせると。
「俺が全力で話を聞きたくないと主張しているのが解らんか」
「俺の話を聞け」
 我が強い男達というのは居るものだ。今回はエドウィンの方が折れた。
「なんだよ、コーディの事かい?」
「解っているなら話は早い。あれにああいうものは向いていないだろう。この場面で出すか」
「鉄は打って鍛えるものさ」
 銃を置き、再び器具でいじりまわしながらエドウィン。
「砕けて散ればそれまでか」
「俺はな」
 壮年の男は顔をあげて少年を見た。
「自分の生徒を信頼している」
「通りの良い言葉だな」
「バグアの大将を暗殺してこいと言った覚えは無い」
「‥‥‥‥」
 少年は沈黙して眉間に皺を刻み男を睨む。
「それよりもクォリン」
「それよりもか」
「それよりも、だ。このライフルのテストを頼みたいんだが‥‥」
「悪いが俺はこれからまたベルガで出動だ。その準備をしなくてはならない。他をあたれ」
「それは残念」
 エドウィンは肩を竦めると。
「しかし、どうするかな、困った」
「依頼を出せば良いだろう」
「自分で言うのもなんだが、こんな一学園の一教室の一講師の依頼を引き受けてくれるかね? 何かを助けにゆくという依頼でもなく」
「最後の希望やら正義の味方やら言うが傭兵だ。しっかり払う物払えばやってくれるさ。加えて言うなら助けを求める声は四海に満ちている。いつだって売り手市場だな」
「ふむ、なるほどね‥‥」
 エドはその言葉に一つ頷くと、それの準備を始めたのだった。


 極北のグリーンランドの大地。ベルガと呼ばれる町の北に広がる巨大な戦陣、そこでは今日もまた放たれたキメラの群れと駐屯しているヘイエルダール旅団とが激しい攻防を繰り広げていた。
「来やがった、スノウロードだッ!!」
 陣の防衛塔に詰める兵士の一人が双眼鏡を手にして無線に言った。
 体長二十メートルを超えるマンモス型の超巨大キメラ。全身を純白の鉄毛で覆われ、口に二本の牙を持ち、背に直径三十mの幅で百mの距離を光弾の嵐で薙ぎ払うプラズマガトリング砲を一門装備している。ばかでかい癖に運動性も高く、その破壊力、運動性、耐久力はゴーレムに匹敵すると言われている。こちら戦域のキメラではSランクの厄介さのキメラである。
 さらに剣歯虎型の巨大キメラと白狼型の巨大キメラが一匹づつ随伴していた。飛び道具はないが、こちらもワーム並の実力を誇る超強力キメラである。二匹とも速度に優れ、耐久力ではスノウロードに劣るが速度に関しては勝る。なお白狼型キメラは剣歯虎型キメラよりもさらに速く、剣歯虎型キメラの爪牙の威力は白狼のそれに勝る。
「KVはっ?!」
「今は出動出来ない。代わりに能力者の実験部隊が来るそうだ。データを採る為に俺達は一旦後退しろとの事だ」
「‥‥実験、部隊だってぇ?! 後退しろって、ここをずっと守って来たのは俺達だぞ?!」
「良いじゃないか。KVの支援がなければ俺達ではアレは止められない。その部隊が倒せれば良し、倒せなくても最悪時間は稼いでくれるだろう」
「だったら共同で討てば良いじゃないか!」
「カンパネラの教師殿がデータを採りたいんだそうだ」
「データぁ?! データ、データって、ここ抜かれたらどうするんだ!」
「未来の為、だそうだ」
「そうかい、難しい事はよく解らんが、ここが陥落したらくそったれと言ってやる!」
 血気盛んな旅団歩兵はそう吐き捨てると後退に移り、入れ替わりに傭兵達がその拠点へと入ったのだった。

●参加者一覧

篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
ハミル・ジャウザール(gb4773
22歳・♂・HG
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「未来の為、なんて言うと漠然とし過ぎて、俺も鼻で笑っちゃいそうだけどさ。遊びに来てる訳でもないんだ」
 雪原仕様の軍外套に身を包みゴーグルを装着した草壁 賢之(ga7033)は銃を肩に担ぎ、そうぽつりと呟いた。守ってきた部隊の意思は承知している。
 だから、
(「テストという名の殲滅作戦にしてやりますよ」)
 男は胸中で呟き、雪原の彼方を睨んだ。


 旅団歩兵が後退し、入れ替わりに十二人の傭兵がその拠点の守備へと入る。
「スナイパーの篠崎 公司(ga2413)です。宜しくお願いします」
 うち一人、壮年の男はそう名乗った。傭兵達は互いに軽く自己紹介したり、再会の挨拶をする。
「‥‥試作の狙撃銃ね。説明されたスペック通りの性能が発揮出来るというのなら、スナイパークラスを始めとする攻撃力に悩まされている多くの能力者の福音になるわね」
 小鳥遊神楽(ga3319)はそう言った。
(「まあ、普及するかは【上】の考え次第なのでしょうけれど」)
 胸中で思う。実に適確な読みである。エドウィンには是非、上を説き伏せてもらいたい所だ。
「しかし、ありがたい話だ。SES武器は『なぜか』拳銃の方が強いからな。ライフルユーザーは肩身が狭かったところだ」
 サヴィーネ=シュルツ(ga7445)はそう言った。精度も射程も威力も拳銃の方が優れているなら取り回しに劣るライフルを持つ必然性は、まぁ薄いだろう。流石に射程はライフルの方が長めなので生き延びているが平均的にはSES兵器は拳銃の方が性能が良いようだ。言われてみると不思議といえば不思議な話である。研究所は携行性に重きを置いている、という事なのだろうか。データ取りから、この先の新製品の叩き台にしてゆきたい所である。
「凄い銃ですねコレ‥‥良くこれだけ‥‥色々付けましたねぇ‥‥」
 ハミル・ジャウザール(gb4773)が言った。
「だなぁ‥‥狙撃銃としてのコンセプトを持ちながら銃剣?」
 ランディ・ランドルフ(gb2675)が首を傾げている。わざわざ銃剣が採用されているからには、理由があるのだろうが。少し、考える。
(「‥‥射程か?」)
 恐らく採用理由の一つには射程の短さがあるのだろう。SES兵器の中では非常に長大だが、狙撃銃としては短すぎる。キメラを一発、二発で殺せない限り、その群れに突進されると肉薄前に殺し切る事は不可能に近い。突撃に対する備えが必要だ。
「でも突撃戦で衝撃喰らわせたら絶対調整狂うよな‥‥まあ、それを除いてもいい銃かな? 重すぎるけど」
 とりあえずランディとしての感想はそんな所である。
「でも能力こんなにブーストできるなら、普段からやってよ! って感じはするわね」
 と相澤 真夜(gb8203)。だが今回のこれは講師エドの苦労が実りつつあるというだけであって、今回より以前に出来た事ではなく今後も各所との悶着は色々あるだろう。利権と対立は色々なのだ。
「金で命は買えない‥‥超技術が盛り沢山らしいですが、しっかりと見極めさせてもらいますよ」
 ソウマ(gc0505)はそう言った。この銃の設計趣旨は『初級者にもベテランに迫る火力と精度を持たせ全体戦力の向上とその落命を防ぐ事』であるが、ソウマとしてはそれに強く共感する所があるらしい。故に今回のデータ取りには真剣だ。
「で、試作武装の実戦テストか。しかし又随分相手が大物じゃのぅ」
 藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が言った。陣に迫っている敵はワームと伍す、つまり一般的なKVに勝る実力のキメラである。強敵だ。
「これをライフルだけで何とか、ねぇ」
 叢雲(ga2494)が言った。しかも、試作品のデータ取りも兼ねてとは、と思う。なかなか無茶な要求であった。
「まぁよい、我も転職後の完熟調整の場とさせてもらおうかの」
 依頼が無茶なのはいつもの事だ、藍紗はそんな事を言った。
「データ取るなら‥‥色々やった方が良いんでしょうか‥‥?」
 とハミル。
「まぁ‥‥まずはキメラのみなさんにお帰りいただきましょう」
 少し考えてから綾野 断真(ga6621)が言った。彼個人としてはデータは実戦を通しておのずと集まるだろう、と思う。
「余裕があれば、という事で、無理に難しいことをする必要はないかと。自然体で臨みましょう」
「楽しいおもちゃを借りての大物退治。とても楽しみですわ」
 防寒シートを塹壕内に敷きつつうふふ、と笑ってミリハナク(gc4008)が言った。
「先日借りたライフルとは性能が段違いですわね。技術の進歩ってすごいんですのね」
 そちらは方向性が少し違うが、技術は日進月歩である。
 傭兵達は手早く迎撃の為の作戦を打ち合わせ、準備を整えると、キメラ達が接近するのを待った。


 巨大なマンモスと狼と虎が加速し、積雪を巻きあげて迫り来る。藍紗は延長コードを陣の施設から引きまくって塹壕内にこたつむりを着込んでいる。実にぬくいが、非常に動きづらそうだ。
 イェーガーの叢雲、サヴィーネ、狙いを話しあって同時にスノウロードへと距離二〇〇で仕掛ける事にしている。
 叢雲、塹壕外に敷いたシートに伏せプローンポジション、超遠距離狙撃、部位狙いを発動、補正を二〇〇に合わせスノウロードの砲口を狙っている。
 マンモスの振動に呼吸を合わせ、余計な力を入れずに自然体で、銃剣を外したブルースライフルを構える。風向き、強さ、気温、天候、距離、あらゆる情報を計算し弾道を脳裏に描く。
 サヴィーネが、塹壕の上段部より膝撃ちに構えてライフルを固定している。
 相対距離二〇〇、叢雲より一歩先に仕掛ける。超長距離狙撃を発動させ胴体を狙って発砲。一発の弾丸が鋭く飛び、マンモスは素早く体を振り、しかし弾丸は巨像の胴に炸裂して鮮血を噴出させた。白い鉄毛が赤く染まってゆく。
 構えている叢雲、間髪入れずに呼吸を止めて引き鉄を絞る。鈍い銃声と共に反動が全身に伝わり、弾丸が錐揉みながら空中へと飛び出した。
 サヴィーネの射撃に一瞬、動きの止まったマンモスへと弾丸が襲いかかり、その多身のガトリング砲の一つの口に飛び込んで破壊力を解き放った。鈍い音と共にその砲身の途中が割れる。命中。
「当たりましたか。200mという『至近距離』とはいえ、さすがにあのサイズの銃口はなかなか難しいですねぇ」
 男は飄々とした口調でそんな事を言った。
 距離が詰まる。敵はスノウロードを中央に、左右に虎と狼を広げている。
 篠崎の予想通りの動きだ。敵も定石で来るらしい。塹壕の最右に構える篠崎、とはいっても銃の射程は通常一二〇程度なので、あまり離れる訳にもいかない。メンバー内で最も右端、程度の位置だ。
 篠崎は貫通弾を装填したライフルを構えて敵が全員の射程に入るのを待つ。
 サヴィーネ、突出する敵を選出。ほぼ横一線だが、特に前に出ているのは白狼だろうか。無線で八カウント毎に狼の胴体部へと仕掛ける旨を連絡しておく。
 篠崎、スノウロードが雪原を突進して来たのを確認すると合図を発し、急所突きを発動、轟く銃声と共に連射を開始する。白象は巨体に見合わぬ機敏さで斜めに駆け篠崎からの弾丸をかわしてゆく。六連射されたうちの四発が外れて二発が胴部へと命中し血飛沫を噴出させた。
 同時、小鳥遊もまた塹壕内より身を乗り出しプローンポジションを発動、貫通弾を装填したライフルをスノウロードへと向け、合図と共に射撃を開始している。
(「まずは足ね‥‥」)
 脚部を狙う。文字通り足止めが目的だ。反動を抑えつつ、発砲、発砲、発砲、連射。三発の弾丸が宙を貫き、二発の弾丸が脚部へと命中し、対FFコーティングされた弾丸が猛烈な衝撃を解き放ち鉄毛を粉砕して血飛沫を噴出させる。
 綾野、
(「狙撃ですから、塹壕をフルに活用させてもらいましょうか」)
 こちらも塹壕に籠って白い大地を盾にしている。綾野が第一目標に定めたのは「最も厄介そうな」マンモス、スノウロードである。プローンポジションと急所突きを発動、ライフルの精密性を試す意味も兼ねてピンポイント狙撃を試みる。狙いは小鳥遊と同じく足だ。身を乗り出して伏せた態勢からスコープを覗きつつ、篠崎の合図と共にトリガーを絞る。弾丸が空気を切り裂きながら軌跡を伸ばしてゆく。反動は軽い。抑え込みつつ連射。三発が外れて二発が脚部へと命中し、鮮血を噴出させる。
 塹壕に籠っている相澤、こちらも同じくスノウロードの足を狙う。とかく移動を阻害したい。
「こっちにきちゃ、だめだよ!」
 スコープに巨像の白脚を収めつつ次々に弾丸を発射してゆく。四連射。巨像は弾雨の中を素早く駆け、相澤から放たれた弾丸が次々に虚空を貫いてゆく。全弾外れ。
 こたつむり中の藍紗、スノウロードへと狙いを定めると篠崎の合図と共に発砲。弾丸が唸りをあげて飛び、そして外れた。
 草壁、射線を遮らぬよう塹壕の外へと這い出てプローンポジションを使用中。
(「100%信頼するのは、まぁ止めといた方が良いよなぁ」)
 スコープのAIが示す補正や表示される数値に目を走らせつつ、胸中でそんな事を呟く。
(「コリオリはまぁ‥‥大丈夫かな、この射程なら」)
 星は東に回っているが問題ない。そここそAIがなんとかしてくれる。地球は超加速しない。気温、気圧、湿度、目標との距離、重力による弾道の下降、風向、風速、特に風の速度に注意を払って計算に入れる。ペイント弾を装填した銃を像のその左目へと向ける。発砲。弾丸は脳裏に描いた軌跡の通りに飛んだが、スノウロードは頭部を振って直撃を避ける。マンモスの顔に次々に鮮やかな塗料が散ってゆく。修正して発砲。三発目の弾丸が眉の上に命中しその瞳を塞いだ。草壁は右目へと目標を移し四発目を放つ。こちらは外れた。
「ベルセルクモード発動、これより敵主力に向け、突撃を行う。支援頼む。ランディ・ランドルフ参る!」
 AU‐KVバハムートに身を固めた男、ランディが練力を全開にし銃剣を構えて突撃を開始する。狙うはスノウロードだ。叢雲が援護射撃を開始し、六発の銃弾を飛ばして三発をその胴体へと直撃させる。
 ソウマ、命中率を重視しじっくりと弾雨の中のスノウロードへと狙いを定めている。遠距離狙撃における命中率データを取得したいようだ。機動を予測しつつサイトを合わせ偏差射撃。一発撃ち、構え、一発撃ち、構え、と三発の銃弾を飛ばす。駆ける白象の足に三発の弾丸が狙い違わず次々に突き刺さりその剛毛と皮膚を貫いて内部までを穿った。鮮血が噴出し白毛を赤く染めてゆく。
 ハミル、塹壕内より十発全てを貫通弾で装填した銃を構えている。
(「走る時に視界がぶれない様に、頭の位置はあまり大きく動かない筈」)
 青年はそう思考すると巨狼の頭部へと狙いをつけ発砲、軽度の反動を抑えつつ連射。五連の弾丸が唸りをあげて狼へと襲いかかる。狼は素早く跳躍し四発の貫通弾をかわし、一発をその頬に受ける。骨が砕けて鮮血が噴出し、狼は怒りに瞳を燃やし顎を開いて牙を剥き耳をつんざく咆哮をあげた。
 ミリハナク、塹壕内より身を乗り出し伏せて貫通弾を装填したライフルを構えている。狙いは剣歯虎、スノウロードへの一斉射撃に参加する事も検討したが、敵の速度を考慮するに、フリーにすると次弾を撃つ前に他の誰かが突撃を受ける。また剣歯虎の対象の行動優先思考は読めないので、素直に標的に向けて狙撃し続ける事にする。きっと数撃てば当たる筈である。練力を解き放ち両断剣を発動、
「不思議なエミタパワーで当たると嬉しいわ」
 呟きつつ伏せた態勢から胴体を狙って発砲。剣歯虎は突進しながら素早くスライドして回避。AIの偏差補正に従いつつ、連射。二発目外れ、三発目が肩部に直撃し、四発目も命中して鮮血を噴出させた。剣歯虎は積雪を散らしながら咆哮をあげて駆け、ミリハナクは塹壕から出ると銃剣を構えた。
 スノウロードは左目をペイントで覆われ、前脚の一本に集中射撃によって痛打を受け膝を折ったが、突進してきたランディに気づくとそちらへとプラズマガトリング砲を向けて撃ち放った。猛烈な破壊力を秘めた荷電粒子の弾丸が宙を埋め尽くすようにランディへと迫る。ランディ、竜の翼を発動させて緊急回避を試みる。全身にスパークを纏って猛加速し光弾の嵐を掻い潜ってかわしてゆく。スノウロードはそれを追尾するように砲門を回し、ランディ、積雪に足を滑らせて態勢を崩した。速度が落ちた瞬間、男は光に呑みこまれ、猛烈な勢いでその装甲が削り飛ばされてゆく。吹っ飛んだ。二割五分程度の光弾をかわしたが残りをもらって負傷率六割九分。流石に火力は高いらしい。
 白狼は銃撃を受けながらも疾風の如く突進すると塹壕内のハミルへと飛びかかった。巨狼が上から降って来る。ハミルは咄嗟に横に跳んで回避せんとする。狼の爪が走り抜け、かわし切れず青年の身が切り裂かれて血飛沫が吹き上がる。巨狼が塹壕内へと降り立ち、ハミルへと突進し爪を振るわんとする。サヴィーネは斜め上から巨大狼の胴を狙って撃ち降ろし、三連の銃弾を放つ。巨狼は飛び退いて弾丸の二発を回避し一発を受け、ハミルもまた後退して間合いを外して回避する。ハミル、負傷率三割一分。
 剣歯虎が積雪を爆砕して跳び、ミリハナクへと牙を剥き猛然と襲いかかる。爪が一閃されて回避せんとした女の身を叩き斬って抜け、血飛沫を噴出させ、追撃に牙を振るい、ミリハナクは横へと動きながら銃剣で牙を受け止める。牙と銃身が激突して鈍い音が鳴り響き、猛烈な衝撃が巻き起こった。ミリハナク、負傷率二割五分。
「ゴーレム並みの装甲と火力と打撃力! いいじゃねえか。戦車で旅するロープレなら賞金首で金額5ケタ確定だな!」
 吹き飛んだランディは雪原を転がりその勢いのまま起き上がると竜の爪を発動、狙撃銃から装填した貫通弾を射撃しながらスノウロードへと突進してゆく。スノウロードの体長は二十メートル、その体高もまたランディが小粒に見える程の馬鹿でかさ。
「銃剣もあるんだ。試させてもらう!」
 しかし男は、弾丸を命中させると、怯まずに猛然と踏み込み、右前足を折っている巨像の左前足へと銃剣を一閃する。刃が鉄毛を切り裂いて炸裂し血飛沫を噴出させた。
(「――蹴り足に力が入らなくなれば俊敏な動きも出来なくなるはず」)
 篠崎、練力を全開にすると塹壕の上段に登り影撃ちを発動、巨狼の胴体より後ろを狙ってリロードしつつ猛射する。三発の弾丸が狼の下半身へと突き刺さって破壊を撒き散らし、一発が飛び退かれて回避される。
 草壁は狼型が塹壕内へと突っ込んだのを見て起き上がり右翼へと駆けている。
 藍紗もまたこたつむりを脱ぐと塹壕上段を駆け影撃ちを発動、銃撃で撃ち降ろしながら大狼へと突進する。
 小鳥遊は動きの止まったスノウロードの左前足へと猛射して、五発の弾丸を叩き込んでさらに血飛沫を噴出させ、綾野はスノウロードの右目を狙って五連射し、それを撃ち抜いて潰す。
「暴発しちゃえ!!」
 相澤はプラズマガトリング砲の根元へと狙いを定めて猛射し、四発の弾丸を直撃させてそれを粉砕する。
 スノウロードは銃雨の中、頭部を振り回しながらガトリング砲を放たんとしたが、眩い光を割れ目から噴出させ、次の瞬間根元から爆砕されて使い物にならなくなった。
「機動力さえ何とかすればただの砲台、砲も潰れりゃ棺桶だ!」
 ランディはそれでも薙ぎ払われる像の鼻を叢雲からの援護射撃を受けつつ横っ跳びに跳んで横転して回避すると、銃に貫通弾を装填し像の眉間へと銃口を向ける。
「貰ったぜ!」
 バハムートからスパークを発生させながら猛射。至近距離から猛射された対フォースフィールド用の弾丸が超巨大キメラの頭部を粉砕し、大量の鮮血を噴出させた。スノウロードは断末魔の悲鳴をあげながら、その後部の足も折れて完全に崩れ落ちる。撃破。
 巨狼は血飛沫を噴出しつつ再び弾丸の如くハミルへと跳びかかり、ハミルは疾風を発動させて脚部から光を発生させる。狼の速度、先程よりも遅い。塹壕の上段へと跳んで爪をかわし、貫通弾を撃ち降ろす。
 弾丸が命中して血飛沫が吹き上がり、狼が追撃し、後退するも牙がかすめて足から鮮血が吹き上がり、草壁が塹壕の上から狼の胴へと銃弾を連射する。
「ハミル殿! 左じゃ! 跳べ!」
 ハミルが横に転がって入れ替わりに藍紗が入り、狼の鼻先へと銃剣を一閃させる。
 刃が走り抜けて鮮血が舞い、狼が藍紗へと剛爪を振るう。女は銃剣の中頃を持つと、銃底部分を向けて横に振るう。爪と特殊合金が激突して火花が散ってゆく。受け流した。サヴィーネが8カウントで猛射して銃弾を叩きこむ。狼の身に銃弾が突き刺さって血飛沫が舞う中、藍紗は爪を流した勢いのまま、銃剣を回転させて刃の部分をカウンターで狼へと叩き込んだ。刃が直撃し、狼が怒りの咆哮をあげながら牙を振るう。藍紗は後退しながら銃底で流す。
「猫さん猫さん、遊び相手はこちらですわよ」
 ミリハナク、流し斬りを発動。積雪を蹴散らしながら剣歯虎の側面へと入ると銃剣を一閃させる。刃が巨虎の胴を切り裂き、その身を抉り、虎は身を捻りながら爪を振るう。
 ミリハナクは銃で一撃を受け止め、ソウマは貫通弾を装填したライフルを剣歯虎へと向け猛射、銃弾を叩き込んでゆく。
 ミリハナクは流し斬りで駆けながら斬りつけ、剣歯虎が爪牙を振るった。
 狼は爪牙を振るうが藍紗のガードを破れず、カウンターを受け続け、篠崎、草壁からの猛射を受け、ハミルからのペイント弾を受けて目を潰されて、刹那で切り裂かれ、サヴィーネから跳弾を受けて沈んだ。
 剣歯虎はミリハナクをじりじりと削ってゆくも、活性化で対抗され、ソウマ、叢雲、小鳥遊、綾野、相澤、ランディから射撃を受け、やがて篠崎、藍紗、ハミル、草壁、サヴィーネも加わり、集中攻撃を受けて雪原に沈んだのだった。


 かくて、ベルガの戦陣を襲った三体のキメラは撃退され、実験部隊は拠点を護り抜いた。
 傭兵達はテストを終えるとカンパネラの講師エドへと結果を報告した。
「個人的には先ず射程と命中率、次に取り回しのし易さに攻撃力ですね。装弾数は多ければ良いというものでもありません。過去の例からみれば五発以上あれば御の字でしょう」
 篠崎はそう主張した。
「弾数が無いと手数が減って火力が落ちると思うんだが‥‥」
「無理なく確保出来ればそれに越した事は無いですが、他を犠牲にしてまで優先する事ではない、という事ですね」
「なるほど」
 壮年の男の言葉にエドは頷く。
「私も、もう少し射程の延長と命中の強化ですかね。個人的には威力はまぁ、貫通弾やスキルでの補正もしやすいですし最初の二点を優先したいですね。銃剣は好み次第で、狙撃銃にはいらない気もしますけど」
 叢雲はそう述べた。
「今のままでも充分に実戦に耐えうる攻撃と命中のバランスと思うわ。でも、スナイパー系以外はスキルで上乗せ出来ない事を考えると命中を強化出来れば更に使い易くなると思うわね」
 小鳥遊は言った。格闘ならば問題ないが、射撃となるとそれ系以外の命中の向上は難しいらしい。
「銃剣、銃口の下に付けられませんか?」
 草壁はそう言った。
「刃の軌道が気持ち隠せるし、いざって時はアナログな方のサイトもみたいんです」
「それは‥‥」
 エドは少し考えると、
「ああ、それはまさにその通りだな。すぐにそうしよう」
 スコープが壊れた場合、目視で撃つには上にあったら邪魔過ぎる。銃剣が存続する場合は、下部に付けられる事になるだろう。
「私の感触としては、近〜中距離と中〜遠距離と区分けて並列で進めれば及第点かもな」
 サヴィーネはレポートの束を提出しつつエドへとそう言った。レポートには結果のまとめと注釈がつけられ編集されている。
「一本にまとめようとするから無理が出る。近距離戦闘用は攻撃力、弾幕を強化。命中射程は弱くても良い。遠距離戦闘用は命中と射程に重きを置き、弾幕と攻撃力は二の次などが良いんじゃないだろうか」
「それもまた一つの方向性か‥‥」
 エドはうむ、と頷いて何やら考え込んでいる。
「僕の感想としては店売りしたければ補正機能をはずす事ですね。もしくは補正を命中か、威力限定に持っていくこと。重すぎるし、流通出来なければ武器じゃない。芸術品だ」
 ランディはそう言った。
「なるほど、武器じゃないか。正しい意見だ」
 エドは頷き、
「ただ、普通ならそうなんだが、今回の目的はあくまで駆け出しの能力者のサポートだからね。ここは外せない所なんだ。武器として成功しても、そこを外してしまったら作る意味が無い。ただ便利な武器なら他の誰かが作るだろう」
 カンパネラの講師はそんな事を言った。
 ソウマは、初級者にもベテランに迫る火力、という観点に基づきテスト結果を報告した。命中率、威力、格闘戦等の感想に始まり各種問題点などである。
「でもやはり、ランディさんが言うように可能な限り軽量化はした方が良いと思います。しかし格闘戦を想定するなら頑丈でなくてはなりません。整備が簡単かどうか。あと、持ち運びが簡単かどうか、これも重量が関係しますね」
「現在だと重すぎるか‥‥」
 うむむと唸ってエドウィン。
 一方、
「戦闘は火力♪ 銃剣が可能でしたら、ライフルグレネードのオプション装着でもっと便利にして欲しいですわ」
 ミリハナクはそう言った。
「おー、グレネードオプションか、そいつは良いねぇ」
 はっはっはと笑ってエドウィン。
「数を集めて面で押せれば多少の命中率の悪さは補えるしね‥‥ただ、やはり重量か」
 最後にエドはまとめると言った。
「今回は良いデータが取れた。助かったよ。感謝する」
 結果は良好だったようである。
「完成品を早く手に取れる事を願っていますよ」
 とソウマが言い、傭兵達はその研究室を後にしたのだった。


 了