●リプレイ本文
ULT受付。
「悪魔の姿をした敵か‥‥バグアは視覚的に人間が畏怖するような姿をキメラにさせるのがよほど好きみたいだね」
説明を受けたアセット・アナスタシア(
gb0694)はそんな事を呟いた。
「随分、派手にやられてるみてぇじゃねぇか。連中はきっちり殺して、先にやられた連中が悔いを晴らす内容にしてやるか」
湊 獅子鷹(
gc0233)がふん、と鼻を鳴らして言う。
「無理は‥‥しないでくださいね」
ロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)が心配そうに言った。
「解ってる」
答えて湊。常ならば問題ないだろうが今、湊は重症を負っていた。その戦闘能力は激減している。まともに戦える状態ではなかった。
「手練の傭兵が何人もいなくなってるとは‥‥相当強いみたいだな」
桂木穣治(
gb5595)が思案しながら言う。
(「気を引き締めてかからないとやばいことになる、か」)
男はそう胸中で呟いた。
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準備を整えると傭兵達は高速艇に乗り込みグリーンランドへと飛んだ。航行の末、最寄りの駐屯所へと着陸、氷雪の大地へと降り立つ。
「思ったより寒いな‥‥温まる物が食べたくなる」
洋梨パイに齧りつきながら一人の男が出て来た。赤月 腕(
gc2839)だ。スイーツが好きで、自作スイーツを所持している事が多いらしい。今食べているのもそれなのだろうか。
獅月 きら(
gc1055)は暗視ゴーグルを装着し吹雪に備える。また温度差で感知出来るか同行者で試す。感知は出来たが、しかし、有効距離があった。せいぜい数百メートルか。近距離でならいけない事もなさそうだが、遠間では諦めた方が良さそうだ。
傭兵達は雪原装備を着込むと駐屯地より出発。万年雪が広がる雪原を村を目指して行軍する。
「せめて‥‥亡くなった人達を連れて帰ってあげたい‥‥」
雪を踏みしめながらシクル・ハーツ(
gc1986)がぽつりと呟いた。
「リーダーはジョン、だったか? そうだな‥‥同じ大剣使いとしちゃ無視出来ねえ」
守剣 京助(
gc0920)が言った。
「仇は必ず取ってやる」
青年の決意は成し遂げられるかどうか。
凍土の空は冷たく蒼く広がっていた。
●
行軍する事しばし、やがて報告にあった村が地平の彼方に見えてきた。
(「凶悪なキメラが相手‥‥油断できないわね‥‥」)
ロゼアは覚醒し双眼鏡で村を走査する。覚醒しないと五感の精度も半分以下だからだ。手は抜かないだろう。遠間からでは発見できなかった。ある程度接近してから再び走査。村の中央、影がレンズの中に飛びこむ。時計塔の頂点、紫色の悪魔が腕を組んで立っているのが見えた。他は見当たらない。
傭兵達は各々覚醒し一旦雪原を後退すると、大きく迂回し悪魔が向いていた方向の背後へと回り込んだ。雪原では身を隠す物が無い。振り向くなと念じつつ一同は固まって前進、ぽつぽつと家屋が点在する地点へと辿りついた。なんとかまだ気付かれてはいないように見えた。ロゼアが節目節目で双眼鏡で悪魔の背を監視しつつ、一同は湊に習って身を低くして家屋の陰に沿い死体があちこちに転がる村内を抜けて悪魔へと接近してゆく。
やがて村の広場が見えた。竜人がこちらに身体を向けていた。鏡の中の竜人は剣を地に突き刺し柄に両手を乗せてぼんやりとした様子で立っている。家の壁に背をつけ鏡を用いて様子を窺っていた赤月は覚醒を一旦解いて一同にそれを報告する。まだバレていない。氷人形は付近をうろついているようだ。
突撃する事にする。
赤月は再度覚醒、傭兵達は得物を握り直す。
(「私はこの剣で彼等の魂を弔う‥‥最後まで戦いぬいたであろうあの人のためにも‥‥!」)
アセットはコンユンクシオを正面に立て胸中で呟いた。
合図を発し傭兵達は一斉に動き出す。
戦いが、始まった。
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(「当ててみせる!」)
ロゼア、家屋の陰から737mmのライフルを両手で構え照準にドラゴニアンを納める。狙いは足。強弾撃を発動、発砲、四連射。轟く銃声と共に螺旋に回転するライフル弾が空気を切り裂いて飛んでゆく。奇襲にドラゴニアンは反応が遅れた。全弾がその足に炸裂し鱗を突き破って鮮血を噴出させる。
「ジャッジメント‥‥彼らを新たな生のもとへ」
獅月、ロゼアの発砲とほぼ同時、呟きつつ二丁の拳銃の銃口を時計塔の上の悪魔へ向ける。鋭角狙撃を発動、翼の根元を精密に狙う。発砲。マズルフラッシュと共に銃声が轟き二連の弾丸が飛び出した。赤月もまた悪魔の背中へと引き絞った弾頭矢の先を向けている。練力を全開に急所突き、影撃ちを発動。鋭い呼気と共にはっしと放つ。素早く矢を番え連射。二連の矢が閃光と化して悪魔の翼へと向かう。瞬後、二連の銃弾が片翼の根元に突き刺さり、二連の弾頭矢もまた突き刺さって大爆発を巻き起こした。クリーンヒット。
竜人が咆哮をあげ、悪魔は間髪入れずに爆炎を裂いて横へと跳んだ。だがその翼は折れ曲がっている。片翼が動かず地へとそのまま落ちて行く。アセットと守剣が大剣を構えて突撃し、シクルもまた素早く駆けている。桂木は守剣に追走しつつ練成超強化を飛ばした。虹色の光が守剣へと向かい男の身体能力を増大させる。
竜人が積雪を蹴って宙へと高く跳躍した。足の負傷の為、多少高度は落ちているが、一撃、二撃で跳べなくなる程ヤワではない。
(「――‥‥何をする気だ?」)
シクルは二刀を手に身がまえる。竜人は宙で後背に爆風を巻き起こすと閃光と化して宙を貫いた。シクルの頭上を抜けロゼアへと一瞬で迫り急降下で突っ込みざま大剣で横薙ぎに払う。
「なっ!?」
シクルは足を止めて振り返る。ロゼア、常に自分が敵の攻撃範囲にいると考えている。不意を突かれる事なく即応、家屋の角を盾にするように飛び退いた。剛剣が家の壁に喰い込み、貫き、爆砕しながら抜けてゆく。滑空で威力を増した壮絶な破壊力。しかしその先にロゼアの身は無い、かわした。破片が舞う中、竜人は地に降り立つ。湊はデヴァステイターを向け発砲する。迫り来る弾丸を竜人は大剣を振り上げロゼアへと疾風の如くに踏み込みながらかわす。ドラゴンが耳をつんざく咆哮をあげ四条の剣閃を巻き起こした。刃の光が一刹那のうちに突き抜けてゆく。ロゼアは下段からの斬り上げを素早く上体を反らしてかわし、振り下ろされた剣をライフルで払いながらかわす。しかし続く二段斬りをかわしきれず腹と鎖骨を十字に切り裂かれた。猛烈な衝撃と共に外套が裂かれて鮮血が吹き上がり骨が砕けて激痛に視界が揺れる。負傷率七割七分。剛剣だ。傭兵六人殺してるだけはあるらしい。鮮血が吹き上がる中、大剣を構え直す竜人のその後背、方向を切り返したシクルが金属筒を振り上げ詰めていた。蒼光を超圧縮し刃と化して一閃させる。レーザーナイフ。クロスに走った刃が竜人の右足に炸裂しその鱗を焼き斬った。
他方、アイスゴーレムへと向かった桂木、
「非力なオッサンじゃ役不足かもしれないが、いざ尋常に勝負ってね」
ロゼアが斬られる前の段階だ。機械本『ダンタリオン』を発動させ蒼光の電磁嵐を巻き起こす。光がゴーレムを呑み込みその表面を削ってゆく、が、桂木の破壊力からすると被害が少ない。かなり堅固な装甲のようだ。攻撃を受けたゴーレムは桂木へと進路を転ずる。
「はっ、はあああああああああ!!!」
練力を解放し大剣を振り上げ守剣が飛び込んだ。先手必勝を発動、裂帛の気合と共に渾身の力を込め白色のオーラの残光を曳く大剣を振り下ろす。ゴーレムは素早く反応しその蒼い剛腕を向ける。大剣と腕が激突して火花が散った。守剣は斬り込んだ勢いのままにさらに一歩踏み込むと反撃に逆側の腕を振り上げているゴーレムの身を蹴って後方へと跳ぶ。かなり曲芸的だがいけるか? ゴーレムの拳が颶風と共に宙を突き抜けて行く。かわした。守剣は宙返りながら着地。その瞬間には既にゴーレムが積雪を爆砕しながら一瞬で間合いを詰めていた。圧倒的な質量とパワーと速度の五連撃。守剣、豪力を発現させて大剣を翳し、止めて止めて止めて止めて止める。見える。桂木よりの超強化で身体能力が増している。しかし止めてはいても猛烈な衝撃が剣持つ腕から伝わり全身を突き抜けて行く。激突する負荷に手首が砕けそうだった。
アセットは地に落ち、振り向いてる悪魔型キメラを駆けつつよく見据える。悪魔は憤怒の形相を浮かべると右手を振り上げ黒く輝く闇の槍を出現させた。踏み込んで投擲。間髪入れず左腕にも出現させ連射。六連の黒光の槍がアセットに襲いかかる。アセット、突撃しながら踏み込んで一発かわし、身を切り返しざま二発目もすり抜けるようにかわすも三発目直撃コース、腹に喰らった、猛烈な衝撃が身を貫いてゆく。四発目も突き刺さったが残りの二発は横に跳んでかわす。負傷率三割八分。まだまだ倒れない。稲妻のように直角に切り返し、大剣を八双に振り上げ悪魔へと迫る。
「我が剣は雷刃の如く――チェストぉぉ!」
両断剣スマッシュを発動、裂帛の気合と共に袈裟に一閃。唸りをあげてコンユンクシオが振り降ろされる。刃が入って悪魔の身から血飛沫が吹き上がった。切り返して左袈裟、悪魔が首元から斬り降ろされ再び鮮血が散る。
ロゼア、強弾撃を継続、挟んでいるが構わずリロードしつつライフルで猛射。2mの竜人、上を狙えばシクルの身長ならかわされても当たらない。鈍く重い銃声と共に竜人の身に三発の弾丸が突き刺さり一発が横に動いてかわされシクルの頭上を抜けてゆく。シクルは光刃を振るって再度竜人の右足を灼き斬る。竜人は振り向きざまに大剣を横薙ぎに振るう。顔面へと跳んで来た刃をシクルは素早く身を伏せて回避。竜人は高速で間髪入れずに切り返すと最上段から落雷の如くに大剣を振り下ろした。シクルは横の家屋に向かって跳躍。大剣が大地を爆砕し雪霧と共に土砂を吹き上げる。シクルは宙で身を捻り両足を跳んだ先の壁につける。膝を曲げ、バネを使って蹴り反動で跳ぶ。三角飛び。急角度で竜人の側面へと降下し薙ぎ払うように剣を繰り出さんとする。竜人は下方から逆袈裟に大剣を薙ぎ払った。カウンター。大剣が少女の身に激突し小柄な身体が血飛沫を撒き散らしながら回転して地に落ちる。湊は剣を振り上げる竜人へと銃弾を飛ばす。三連の弾丸を身に受けつつも竜人は雪原に転がる少女へと大剣を振り下ろし大地と挟んで爆砕した。
守剣、霧の如き白色のオーラを宙に引きフェイントを仕掛けつつコンパクトに打ち込む。大剣がゴーレムに激突する。ゴーレムは斬られつつも拳を固めると振り降ろし、薙ぎ、脚で蹴りあげ、猛然と連打を繰り出して来た。守剣は練力を解放しつつ初撃を止めるも、残り全部を喰らった。速度が落ちている。超強化の効果は十秒程度しかもたない。あばらが折れ、鎖骨が折れ、砕けてゆく。猛烈な衝撃と激痛が身を貫いていった。桂木は練成治療を守剣へと連打する。青年の傷ついた細胞が回復しみるみるうちに癒え、痛みが引いてゆく。
悪魔は後退しながら手に出現させた黒光の槍を次々にアセットへと投擲する。黒槍が身に炸裂し鮮血をぶちまけつつも少女は大剣を振り上げ練力を全開にして踏み込み斬りつけた。悪魔は横っ跳びに回避。瞬間、弾丸が悪魔を穿ち、弾頭矢が突き刺さって爆裂を巻き起こした。獅月と赤月の射撃だ。炎の中の悪魔へとアセットは雪を蹴散らし素早く詰める。裂帛の叫びと共に蜻蛉から袈裟に一閃、唸りをあげて振り下ろされた刃が悪魔の首に入って半ばまで喰い込んだ。間髪入れず渾身の力を込めて引き斬る。首が半ばから断たれ、赤い霧が勢い良く噴出し悪魔は身を傾がせ、倒れる。
ロゼアは障害物のある方へと後退しつつライフルを連射する。竜人は二発を身に受けつつも一発をかわし、大剣を竜巻の如くに振るってロゼアを叩き斬り赤雪に沈めた。湊はリロード中。竜人が湊へと跳躍する。重症者相手だがキメラ達が遠慮する訳もないので突撃。光の如き速さで急降下し大剣で薙ぎ払う。凶悪な破壊力を秘めた刃が炸裂し男は赤い色をぶちまけながら吹き飛んだ。獅月と赤月は向き直るとその竜人へと弾丸と矢を猛射して突き刺した。削られていた竜人はその射撃を受け蜂の巣になりながら崩れ落ちる。
守剣はゴーレムの猛打を受けながらも桂木より練成治療を受けて踏ん張り、振りを小さく鋭く打ちこんでゴーレムへと剣を当ててゆく。守剣と斬り合うゴーレムの背へとアセットが突撃して猛然と大剣を叩き込んだ。ゴーレムの拳が唸り、桂木の練力が尽きる。
「はっは、逃げんなよ。俺が怖いのか!」
しかし守剣は豪打を受けつつも鋭く剣を振るって踏ん張り、彼が倒れるよりも前に獅月の弾丸と赤月の矢がゴーレムに激突し桂木が強烈な電磁嵐を巻き起こした所へ、アセットの大剣が唸って氷の人形は破砕され打ち倒されたのだった。
●
「あー畜生‥‥やっぱり重体になっても良い事ねーな」
湊が言った。戦の後、桂木は救急キットを使って負傷者の応急手当てをした。
「彼等の遺体は‥‥」
「大丈夫、俺が連れて帰ってやる」
深手を負ってきつそうなシクルへと桂木が手当てをしながら請け負った。彼女は先に戦死した傭兵達を連れ帰りたかったのだ。
守剣はジョンらしき男の遺体をみつけ、湊から渡された布でくるんだ。壮絶な最期だったようだ。傍らには半ばから折れた大剣が雪に埋もれるように突き立っていた。
「熱いより寒い方がマシだな‥‥ただ、寒すぎるのはどうかと思うが」
赤月が自作した味噌煮込みうどんを啜りながら言った。
後、傭兵達は出来る限りの遺体を弔い、黙祷を捧げた。戦死した六名の傭兵達の遺体を背負いその村を後にする。
「どうか安らかに‥‥そして、この雪が早く混じりけのない純白を取り戻せますように」
獅月きらは雪原に立つ村を振り返り祈りを込めて呟いた。
空では赤い星が輝いている。
了