●リプレイ本文
「う〜上着着ててもブレザーじゃ寒いよ〜」
雪原。白い息を吐きながらネーナ・C(
gc1183)が言っている。
(「けど、おじさまに恩返しする為にもがんばらないとっ」)
今回はお世話になった人に恩返しするお金を作る為に参加したらしい。
「久々の雪原依頼、だねぃ‥‥! リベンジの機会がやってくるとは‥‥思わなんだよぅ‥‥ぬふふ‥‥!」
ゼンラー(
gb8572)が凄みのある笑みを浮かべている。何やら因縁がありそうだ。
「さて、ダンシングハナー、一体どんな強敵なのか‥‥し‥‥ら‥‥」
雪原の中、エスター・ウルフスタン(
gc3050)が視線をやった先では緑と黄色のニクイあんちくしょうがシャコシャコと陽気に踊り狂っている。
「‥‥って、これ?」
「‥‥なぁ、コルデリア。あんなのにやられたのか?」
陽気に踊るソレを眺めてアレックス(
gb3735)が半眼で言った。コルデリアから応援要請と聞いてどんな強敵だと思って来てみればコレである。
「う、うるさいわねっ! やられた訳じゃないの! ただちょっと、そ、そう、ちょーっと可愛く見えたから躊躇っただけなの!」
「そんな博愛精神があったなんて初耳過ぎる。ま、見てろ、俺がパッと片付けて来てやるぜ!」
アレックスは槍を構えると豪ッ! と金色に輝く炎のオーラを全身から吹きあげ雄叫びとと共に突っ込んでゆく。
「あ! ちょ、ちょっと!」
コルデリアが警告をあげる間もあればこそ、青年は三方から嵐の如くに発せられた閃光を槍で突き破り――
少女が言う。
「あの光ね、あたるとふっとぶの」
雪原にアレックスが埋まっていた。ぷすぷすと煙を噴き上げて倒れている相棒を霧島 和哉(
gb1893)がつんつんと突ついている。
「‥‥そういう事は早く言え!」
がばりと身を起こしてアレックス。
「なんか思わず『アレックス君ふっとんだー!』とか実況したくなる吹っ飛びっぷりだったわね。『ぬわーッ!?』とか言ってたし」
「‥‥‥‥バグアめっ」
ぼへっと黒煙を吐きながらアレックスは雪原に顔を埋めたのだった。
●
第一の刺客アレックスが倒れた所で傭兵達は本格的に作戦を練り始める事にした。少し離れた場所では例のハナーがシャコシャコと踊っている。
「雪原にダンシングフ‥‥げほごほっ!」
菊池百合歌こと智久 百合歌(
ga4980)が激しく咽た。それは言わないお約束なのだ。
「えっと、ジュースにー、栓抜きにー!」
南 日向(
gc0526)が荷物の中身を確認して使えそうな物はないか探している。
「向日葵がこんな所で咲くだなんて‥‥キメラって変わっていますね!」
栓抜き片手に振り向いて南。
「バグアって時々(?)おかしいけど、グリーンランドは特に変よね」
百合歌が頷いて言った。妖精とか熊とかメロンとかだろうか。とりあえずダンシングなそれに対しては何か懐かしさが込み上げてくる気もしたがそんな事を言うと歳がバレるので言葉にはしないのである。
「まぁ、あれよ、とにかく神妙にハムスターの餌になるといいのよ」
二十五歳(外見年齢)のお姉さんはそうのたまった。
傭兵達は軽く打ち合わせを行うとハナー特有の弱点を攻める事で意見の一致を得た。
「弱点である電池ボックスを‥‥撃ち抜くっ」
長大なロングボウを手にトリシア・トールズソン(
gb4346)が言った。打ち合わせ中に日向の言った「おもちゃだから電池ボックスが弱点」という言葉に感銘を受けたらしい。
「狙うは電池の首! 太陽は三つもいらないのです!」
その南日向はガトリング砲とバトルスコップを手に気合いを入れている。
「左側面から襲撃しハナーの電池切れを狙ってみるわ、ああいうモノの動力と言えば電池だもの!」
ぐ、と拳を握って百合歌もまた言う。流石にキメラは電池では動かないと思うのだが、そこら辺りはどうなのだろう。吉と出るか凶と出るか。
傭兵達はABCの三班に別れハナーへと接近する。左翼A班智久、ネーナ、コルデリア、中央B班霧島、ゼンラー、南、右翼C班、アレックス、トリシア、エスターだ。
自分で戦う気合を、皆で戦う勇気をためる為に、
「変‥‥身!」
南は掛け声と共にポーズを取って覚醒した。その身にオーラを纏い黒と黄色の鎧姿に化身する。色々知覚系の武装が似合いそうである。
(「久しぶりにアレックスと一緒の依頼‥‥足手纏いにならないように、頑張らなきゃっ」)
トリシアは胸中で呟き気合いを入れている。アレックスは家族を失ったトリシアの家族になってくれた人だ。この先もずっと一緒に歩んでいきたい。断じてダンシングハナーなどの前に倒れる訳にはいかないのである。
傭兵達が三方から接近するとそれに反応したかハナー達はさらに勢いを増して動き始める。残像さえ見えそうだ。
とりあえず百合歌はパンパンと手を叩いてみた。だがハナー達のリズムに変化は無し。
「ちっ、シカトなのね‥‥!」
なんとなく試してみなくちゃいけない気がしたのだが、音に特に反応するといった事はないようだ。
「あれ‥‥もしかして、これ‥‥超天敵‥‥?」
B班の先頭を歩く霧島はふと気付いて言った。彼の身上は敵の攻撃を耐え凌ぎ盾となる事なのだが、受ければ吹っ飛ぶ盾は盾なりえるのか?
ちょっと考える。困った。
(「‥‥大丈夫‥‥避けられる‥‥」)
避ける、避けよう、避けれると信じる。信じればきっと避けられる筈さ! 霧島は意を決して走りだす。
ハナーのグラサンが輝き、そして爆裂する閃光に少年の身が勢いよく吹っ飛んでいった。どうやら反射的にいつもの癖で盾で受けてしまったらしい。
「霧島さ――ぬはぁっ!」
振り向き叫んだゼンラーもまたその隙に一撃をもらって吹っ飛ばされてゆく。なかなか近寄れない。
「うちが先頭に立つわ!」
一方の右翼C班、エスターが言った。盾を構え猛然とハナーへと向かって突っ込んでゆく。
「うちが吹っ飛ばされてる間に、あんたらが攻撃できればそれでいーのよ!」
エスターの身に閃光が襲いかかる。炸裂。少女の身が高々と舞い上がった。
「いもーとぉおおおおおおお!! ハナァア! 貴様ッ!! よくも俺のいもーとを!」
生じた悲劇にアレックスが怒声をあげ、爆槍を構えて突っ込んでゆく。雪原に落ちたエスターが「死んでないってアレックス!」とか叫んでるが聞こえているのかいないのか。
傭兵達は各々突撃するがハナー達は自らの特性を理解しているのか冷静に一人一人狙い撃って傭兵達を間合いに入れさせない。立ち上がり突撃しては一人また一人と吹き飛ばされてゆく。
「ふにゃ〜っ」
ふっとんだネーナがぐるぐると頭の上に星を回している。平地ならまだなんとかなりそうだが雪原なのがきついのである。
百合歌は回転レシーブの如く跳んで回避せんとしている。回避しきれず吹っ飛ばされても負けずにすぐに立ち上がるのである。
「コーチ、お願いしますっ!」
コーチって誰だ、というか実に昭和ネタに強い二十五歳である。
「全然電池が切れる様子がない‥‥まさか‥‥太陽光発電‥‥!? エコブームに‥‥乗っかった‥‥の? くっ、バグアめ‥‥!」
霧島和哉、お前もか。
霧島は多少閃光に目が慣れて来たので防御に使えるかと思い某D社の方の人形を迫り来る一撃に向かって放り置いてみた。ふかふかしてる某人形は紅蓮の光に呑み込まれるとジュッ! と音を立て炭化しながら空の彼方へときらっと吹っ飛んでゆく。霧島、決して某D社に恨みがあるとか強化が成功しないとかそういった事は無い。手持ちがたまたまこれしかなかっただけなのである。きっと。恐らく。多分。社長は犠牲になったのだ。
ゼンラーはHopHipJump機動でハナーへと再度接近を試みる。ハナーの顔が再び赤く輝いた時「ゼンラーさん、危ない‥‥!」との声と共に眼前に霧島が踊り出た。
またもやいつもの癖でガードに入った霧島であったがしかし、受けると吹き飛ばされる事を思い出す。当たる直前で身を捻って回避。後ろに居たゼンラーへと激突した。これなんて強烈なスクリーンアタック? 前が見えていなかったゼンラーは防御もままならず盛大に吹き飛び雪原に突き刺さった。ぷすぷすと煙があがっている。
男の脳裏に過去の出来事が走馬灯のように走りぬけてゆく。
そう、あれはゼンラの教えに目覚めて以降の修業時代の事だ、雪原で修行をしていたら凍死しそうになった。
過去の依頼で再び挑戦しようとした際にはアレックスのミカエルに轢かれて阻止された。
雪原とはそういう所。なのに、ハナー達は瑞々しく咲き誇っている。
(「かつて、拙僧では果たせなかった雪原での‥‥!」)
男はカッと眼を見開き立ち上がる。
「こんな所で草木が生えられるかねぃ‥‥! 否! 否否否ァアアアアッ!!」
赤銅色に体躯を染め、目に赤光を宿し、悪魔的な形相を浮かべてゼンラーが突進する。迫り来る閃光を一発、二発、三発とまるで覚醒したかの如き動きで突進しながら回避してゆく。
「そんなところで! なんのトリックも無しに! 草花が生えられる筈がないのだよぅ!!」
あっという間に距離が詰ってゆく。恐るべき執念の力。
「ぬぅぅぅっはァァアアアアアアアアッ!!」
ゼンラーは裂帛の雄叫びと共に超機械を翳し練力を全開にした。虚実空間だ。青白い電波が三条、DHに向かって飛んでゆく。
「その幻想を!」
ぶ
ち
壊――
「‥‥‥‥なん‥‥だと‥‥」
思わず、呟きが洩れた。蒼白い電波は炸裂した。確かに炸裂した。炸裂した筈なのに――奴等は今もなお平然と踊り狂っている。
「馬鹿‥‥な‥‥」
(「まさか、これが、現実だとでも言うのかねいっ?! 仏よ!」)
男はその事実に打ちのめされ、愕然として氷雪の中に立ちつくす。
「‥‥ゼンラーさん!」
誰かの悲鳴が聞こえた。はっと気付いた時には既に目前に無数の閃光が迫り来ていた。
「ぬぅぅぅああああああああああっ!!」
かくて、ゼンラの教えを志した一人の男は、雪原より放物線を描いて高く高く舞い上がり、空と大地の狭間へと消えていったのだった。
●
「ヤバイ! ゼンラーがやられたッ!!」
アレックスが叫んだ。霧島がこっそり竜の尾をゼンラーに放っていたのは見なかった事にしよう。
閃光のダメージよりも心の何処かにダメージが入ったのかゼンラーは雪の中に仰向けに転がってぴくりとも動かない。過去にもこんな事あったよねぃ、とか燃え尽きている。
「く‥‥こいつら、動きの奇妙さのわりに強い‥‥っ!」
ぎり、とエスターが唇を噛む。
「この――」
ネーナはコルデリアが吹っ飛んでいる隙にかんじきの力を借りてハナーへと一気に間合いを詰めてゆく。サイトに赤く輝くグラサンを納めトリガーを絞る。発砲。連射。
「――タイミングならどうだっ!」
三連のライフル弾が空を裂いて飛び、しかしハナーは高速でシャコシャコシャコと首を振って掻い潜り鮮やかに全弾をかわしてみせた。驚異的な運動性。
「うそっ、このタイミングで避けるの!?」
ハナーのグラサンが赤く光る。ネーナは咄嗟に全力で横に跳ぶ。光が雪原に突き刺さった。
「ふわわっ」
みーみーみーと連射される追撃をごろごろと転がりながら回避してゆく。動作をしっかり観察していたし、いい加減閃光にも慣れて来たか。
「あの回避速度、どうやったら倒せ‥‥って」
ふとエスターはキメラを凝視する。頭部の動きは確かに素早いが‥‥振り子と同じく、その支点はまったく動いていないような。
「そうだ! 根元だ! 根元を狙うんだッ!!」
「なるほど!」
エスターの声を聞きつつ、トリシアは疾風を発動させて閃光を避け横っ跳びに回避する。弓の間合いまで詰めると、
「そう、電池ボックスは根元にあるとの事‥‥この勝負、貰いました!!」
思わず敬語になりつつ弾頭矢を番え、連射。爆薬を宿した矢がハナーの根元目がけて飛び、雪に突き刺さって爆発を巻き起こす。ハナーはその一撃を受け苦痛に身をねじらせる。
「効いている‥‥ッ!」
アレックスが言った。
「やはり根元に電池‥‥!」
トリシアは確信する。
「いや、電池はあんま関係ないんじゃないかなぁ」
とエスター。まぁ狙う部分は合っている。
「太陽の真似事なんて‥‥十年早いのです! 私の怒りはマックスなのです!」
中央B班、南は言ってガトリング砲を猛射する。狙いはやはり、根元の電池。弾丸が積雪を撒きあげつつ中に突き刺さってゆく。霧島は復活して駆けて来たゼンラーへと『よし、装備投げて相殺DA!』と描かれたフリップを掲げ見せている。ゼンラーはその指示に感極まると「ふぅぅぅぬぁぁああぁ‥‥!」と叫びをあげて装備を脱ぎ始めた。
左翼A班、百合歌は転がりながら間合いに入ると鬼蛍を振るって衝撃波を放つ。
「ここは動かせないでしょっ!」
ネーナもまた膝立ちになると根元を狙ってライフル弾を猛射する。コルデリアも合わせて撃った。衝撃波が積雪を吹き飛ばし、弾丸の雨が根元の茎を穿ってゆく。
「一気に決めちゃおう!」
ネーナは援護射撃を発動、射撃。百合歌は閃光を突撃しながらかわすと急所突きを発動させ貫通弾を装填した散弾を根元へと叩き込む。
「ハムスターの元へ逝きなさい!」
百合歌はダメージに揺らぐハナーの懐へ一気に飛び込むと、鬼蛍を水平に振るってハナーを半ばから両断し斬り飛ばした。
一方の右翼C班、トリシアの弾頭矢の援護の元にエスターとアレックスが突き進む。
「今までよくもやってくれたわね‥‥もう手加減抜きよ、デトネイションッ!!」
「ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション! 跡形も無く吹き飛びやがれッ、極炎の一撃(フレイム・ストライク)ッ!」
ハナーの元まで辿りついた二人は練力を全開にして曲刀で切り刻み爆槍を突き刺して根元から大爆発を巻き起こし、吹き飛ばす。
B班、ゼンラーが投擲する装備群に反応しハナーは三連の閃光で迎撃する。その隙に南は懐まで飛び込むと、豪力を発現し深々とスコップを大地に突き刺し、ハナーを根元から断ち掘り起こした。
「電池は、電池はどこですかー!!」
無いんだ。すまない。なお、背後ではこの機会に雪原への再挑戦を開始したゼンラーが霧島に『これ以上はあぶなーい!』と書かれたフリップを振るわれ咆哮ですっ飛ばされていた。
「みんなおつかれさま〜♪」
戦いの後、ネーナが一同にコーンポタージュを振る舞っている。
「有難うございます。働いた後のお酒は美味しいっていいますが、ジュースもスープも最高なのです」
むふーっと南は持参したミックスジュースと併せて呑んでいる。気分は遠足だ。
「さて、皆で何か美味いモンでも食いに帰ろうぜ。コルデリアもどうだ?」
アレックスがそんな事を言っている。
かくて傭兵達の活躍によりハナー達は退治され雪原は平穏を取り戻した。
一仕事終えた傭兵達は町へと繰り出し、存分に飲み食いしてその疲れを癒したのだという。
了