タイトル:【DR】車輪の騎士団マスター:MOB

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/27 03:36

●オープニング本文


●アグリッパの結界
 地上要塞ラインホールド。
 その名から想起するイメージに反して、その最高速度はマッハ1以上と推定されていた。
 されてはいたが、傭兵を主体としたウダーチヌイ偵察作戦の完了後、UPC正規軍による第2次偵察が開始された頃には既にウダーチヌイにはラインホールドが鎮座していたという事実は驚愕せざるをえないであろう。
「奴は東京にいたんじゃないのか!?」
「動いたって情報は来ていたさ‥‥だがな、冗談だろう? あのデカブツがもうここにいるなんてっ」
 UPC極東ロシア軍のKVパイロットはまさに驚愕していた。
「くそっ! 撃ってきたぞ!」
「落ち着けっ、この距離でそうそう対空砲火があた‥‥うわああっ!」
 無数の対空兵器が偵察部隊のKVに襲いかかり、一機が撃墜される。十数km離れたラインホールドから恐るべき精度で対空兵器が飛行中のKVに放たれているのである。
「3番機、ミサイルに追いかけられているぞ! 避けろ!」
「とっくにやってる!」
 押しつぶされるような強いGに耐えながら急旋回を行い、追尾するミサイルを引き離すKV。
「よし! 引き離して‥‥なにぃ!? ミサイルが引き返してくるだと」
 だが、安堵したのも束の間であった。パイロットが見たものは引き離したミサイルが再び自分に向って飛来してくる光景であった。
 パイロットはミサイルを回避し続けるが、何度でもミサイルは蛇のようにしつこく絡みついてくる。連続する激しい回避運動に意識がふっと遠くなった時、機体は爆散していた。

「――以上が第2次偵察隊の生き残りによる報告だ」
 ヤクーツクのUPC軍基地の一室。UPCの将校が偵察部隊の報告を傭兵達に説明している。
「その後、第3次偵察隊を出撃させ、敵の防衛システムについて探らせた。その結果、ラインホールドの周囲に展開する攻撃補助装置の存在が確認された」
 映写機でスクリーンに映し出される写真。バグア軍特有の生物的なラインを持つものの、パラボラやアンテナ類が目立つその兵器はおそらくセンサーの集合体とも言うべき装置だと想像できる。
「この装置の総数は不明であるが、少なくともラインホールドの周囲20〜30kmの間に6基が確認されている。この6基を線で結んだ六角形の内側では、既存の戦闘においてはあまり考慮されることのなかった数十km単位での長距離対空迎撃が高い精度で行われ、また敵ミサイルの追尾機能が尋常でないほど向上している」
 スクリーンに映されるウダーチヌイ周辺の地図に6つの光点が浮かび上がり、それを結んだ六角形の内側が赤く塗りつぶされる。それはまさに対空兵器による結界とでも言うべきものである。これでは手も足もでないのではないか。そんな不安が傭兵達によぎる。それを察したように将校は言葉を継ぐ。
「だが、付け入る隙がないわけではない。この六角形の外側への効果は比較的高くないものと推定される。そこで諸君らに命じるのは、大規模作戦発動に先んじて、この6基の装置を破壊し、ラインホールドへの接近を可能にすることである」

***

 その地点では、ゴーレム達が哨戒と防衛にあたっていた。そのゴーレム達の武装は様々であったが、全機が車輪の模様をした円盾と格闘用の武装を装備しており、地上戦・接近戦に長けた部隊編成となっていることが良く分かる。
 彼等に空の心配をする必要は無い。
 窪んだ地面を見下ろすと、そこにはセンサーの集合体が設置されている。これが健在である限り、ラインホールドからの射撃精度は格段に上昇し、ヘルメットワーム達が撃つミサイルは半永久的に標的を追い続ける。空から彼等に近づける者など、ありはしないのだ。

『よし、そんなものでいいだろう。掘った所へキューブワームを設置しろ』
 頭部の形状から指揮官が搭乗していると思われる機体が、他のゴーレムへと指示を出す。それに従い、先程まで塹壕を掘っていたゴーレム達は、半透明の立方体をそこへと設置していく。既に設置されていたセンサーの集合体を中心に、東北東方向に半円を描く形で4箇所。
『それでいい。以後は待機、敵発見時はそれぞれのキューブワームを防衛することを念頭に入れて戦闘しろ』
 全部にキューブワームが設置されたことを確認すると、次は防衛用の指示を出して待機させる。しばらくの後、彼等の下へ傭兵達の部隊が攻撃を仕掛けることになるのだが‥‥。
(『さて、地球人はまだ様子見をする価値がある存在なのか、そうでないのか。見せてもらおうじゃないか‥‥』)

***

「――作戦内容は以上だ。くれぐれも空から接近はするな、この六角形の外側には効果は高くないと推定されているが、装置付近の空域ともなればそれほど効果は変わらないものと思われる」
 傭兵達に通達された作戦内容は、敵攻撃補助装置に対して地上より接近し、これを破壊すること。ヤクーツクよりウダーチヌイまでは1000〜1400km程度あるため、途中までは飛行して接近することになるが、目標地点が数km先となった時点で降下することになる。
「なお、偵察部隊からの情報によると現地の敵部隊はゴーレム部隊、車輪模様の円盾を共通で装備しているとのことだ。部隊の練度、及び機体性能そのものも通常のゴーレムとは一線を画した能力を保持していることは想像に難くない。こちらも、機体間の連携を密にして敵部隊にあたるように」

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST

●リプレイ本文

■邂逅
 10機のKVが、次々と凍てついた大地へと降下していく。ここからは、地上より目標に対して接近することになる。
「後の為にも、仕損じる事は出来ない‥‥か」
「敵のトンデモ兵器もそろそろ見慣れたな」
「敵さんも、厄介なものを作ってくれたもんだ」
 顔を強張らせて南西の方角を見やる八神零(ga7992)。結局の所、まずは制空権の奪いから戦闘は始まるものだ。ラインホールドの持つ対空火器の有効射程を設置された地点まで引き伸ばし、ヘルメットワームのミサイルにほぼ無限の誘導性を持たせる敵新兵器は、時枝・悠(ga8810)の言うように人類からすればトンデモ兵器であるし、ヒューイ・焔(ga8434)の言うように厄介なもの以外の何物でもない。
「キューブワームのジャミングで無線が通じなくなるかもしれません」
 今はまだ距離が多少あるため、近い距離の機体間通信にさほど影響は出ていないが、敵戦力中にキューブワームが存在することが確認されている。
「極力、単純な言葉を使用していきましょう」
 そのレールズ(ga5293)の懸念に対し、ドッグ・ラブラード(gb2486)が応える。今回の敵部隊は車輪模様の円盾を共通装備しており、連携した戦闘を行ってくることは容易に想像できた。こちらも、僚機との連携を密にして敵に当たらねばならない。
(「皆さんお互いを信じましょう。グットラック」)
(「我らの未来に幸あれ‥‥」)
 傭兵達が二つに隊を分けて進軍を開始すると、彼等二人は作戦成功を願って祈りを捧げた。

「‥‥こちらアイスマン。戦闘行動を開始する」
 そして、南西へと凍土を進む傭兵達は目標物を護衛する車輪の騎士団と邂逅、戦闘を開始する。
 行軍中は軽口を叩いていた紅月・焔(gb1386)も、覚醒と共にアイスマンの名に相応しい容貌となり、キューブワームが怪音波を発する状況下であるというのに、その表情からはそれを苦としてる事は伺い知れない。だが、彼も他の傭兵達も確実に蝕まれてはいたのだ。


■機械の同期
「目標補足、グレネードを使用」
 射程内にキューブワームが埋まった塹壕を捉えると同時、白いシュテルンとS−01Hからグレネードがそれを目掛けて放たれたが、その弾頭はその窪地に飛び込むことは適わずに中空で爆発を引き起こした。
「庇われた‥‥!?」
 クラーク・エアハルト(ga4961)は急いで作戦の見直しを図る。
 レールズとドッグの機体に積まれたグレネードは残り1発ずつであるし、先程の二人の攻撃とほぼ同時に自分達A班も1機のゴーレムに集中攻撃を加えたが、4機から発せられる怪音波の影響下ということもあり、ほぼ全てが円盾に受け止められている。ヒューイの高分子レーザー砲に至っては、怪音波のせいで正常な出力が出ていない。つまり、ブーストと超伝導アクチュエータを併用したクラークの攻撃だけが、少し通った程度。
(「グレネードを中空で爆発させられては‥‥!」)
 悠の黄色に染まった瞳が見据える先には、アテナイからの銃弾の嵐に耐えるゴーレムがいた。その損傷具合は、装甲表面に多少傷が付いた程度‥‥といったところだろうか。彼女のディアブロに搭載されている残りの武装は、グレネードとツインブレイド。グレネードの爆発に巻き込まれるの避けるとなると、殆ど敵機にダメージを与えられないがアテナイをリロードするしかない。
「こっ、このままではジリ貧なのです!」
「窪地からは離れる素振りすら見せんか‥‥!」
 レーザー砲の出力がまともに出ないと見るや、ヘビーガトリング砲一本で敵機に攻撃を加えている熊谷真帆(ga3826)。なんとかキューブワームへの攻撃を可能にしようと、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)や零はゴーレムを引き離すべく仕掛けていたが、ゴーレム達はそれに全く反応を見せずに淡々と防御を行い、射撃を返してきていた。

 どうやらこの戦場に居るゴーレム達は、シールドを装備した戦闘を前提としてその長所を最大限活かすべく、照準関係と装甲や耐久性能に重点を置かれて強化されているらしい。行動パターンも窪地に設置しているキューブワームにべったり張り付いて護衛し、低威力の射撃のみで反撃をしてくるというもの。手加減をしているとも見えるが、確実に傭兵達を退ける戦闘方法だった。
 緩慢に、だが確実に、敗北へと向かう傭兵達のこの状況を覆したのは、冥府の神だった。


 飛び上がったアヌビスは機体を縦方向に1回、横方向に半回、それぞれ回転させながら腰部をブースターを吹かしてゴーレムの背後に降り立つと、肥大化した腕で首筋を掴む。そして、ブーストを使用して強引にゴーレムを窪地から引き離した。
「ドッグ、撃て!」
「了解!」
 ヴァイオン(ga4174)が力技で作り上げた隙へ、ユーリが叫ぶ。それを聞いてからというにはあまりに早く放たれたグレネードは、カバーに回るべく動いたゴーレムが辿り着くよりも早くその空間を駆け抜け、塹壕へと飛び込む。
 ドッグは『了解』という言葉を発する前に、既にトリガーを引いていたのだ。塹壕から噴き上がる爆風とともに、傭兵達はフッと気分が軽くなる。
 引き離した勢いそのままにゴーレムを押し倒し、金切り声を上げるチェンソーにて背から腹まで突き抜けさせるほどに抉るアヌビス。コクピットに座るヴァイオンは、手足だけでなく髪まで黒く染まっていた。
「さようなら」
 AIにより動作していたゴーレムは、それほどの損傷を受けてようやく停止。B班は、担当している側の奥にある方のキューブワームを狙って回り込み始めていた。彼もそれに一足遅れて合流する。だが、その光景をじっと見つめていた機体がいた事に、傭兵達は誰か気づいていたのだろうか。

「左は自分が固めます! 中央と右を!」
 B班の、ヴァイオンの奮戦を受けてクラークは前面に出ている味方機に指示を飛ばすと、リロードを終えたばかりのスラスターライフルを連射して、一機のゴーレムの動きを固める。
「了解」
「行くぞディアブロ、抉じ開ける!」
 紅月の雷電が放つ拳は当然の如く盾に受け止められたが、そのまま腕部をスライドさせて盾の外周部を掴み、相手の懐を空けさせると、そこをドリルに変化させた脚部で蹴り上げる。
 もう一機のゴーレムへと振り下ろされた刃は止められた。それは。怪音波鳴り止まぬこの状況下では当然の結果。だが、悠はすぐさまツインブレイドを初撃とは逆方向に回転させ、止められた方とは逆の刃にてゴーレムを斬り裂いた。
「このチャンスは逃せない、破壊させてもらう!」
 3機のKVが抉じ開けた空間をレールズとヒューイのグレネードが飛び、塹壕から2度爆風を噴き上がらせる。傭兵達は頭を締め付けるような感覚が、また少し無くなるのを感じた。
「次です、奥のキューブワームに!」
「了解だ!」
 B班は既に回り込み始めている。A班も残ったキューブワームを破壊するべく移動を開始。2機のキューブワームを破壊して随分と楽になったおかげか、ヒューイはソードウィングで斬り裂きながらゴーレムの脇を抜けていく。


『次の段階に行動を切り換えろ』
 敵指揮官は何一つ慌てる事無く、それをゴーレム達に指示した。


■絡む人の意思
 真帆とヒューイが放つグレネードによって、それぞれの方向にあったキューブワームは破壊された。だが、それとほぼ同時にゴーレム達の動きが一変した。2機以上で同時に斬りかかってくるようになったのだ。
「どうなっているのです!?」
「想定済みというわけか?」
 ガトリング砲とレーザー砲による弾幕で一方の足を止め、なんとか凌ぐ真帆。零は一方へと踏み込むことで同時に攻撃されることを避け、逆に相手の盾をハイ・ディフェンダーで二つの半月に変えた。
(「元々周りにいた機体は、防衛思考のままか‥‥」)
 目標であるアグリッパ破壊のため、ヴァイオンがホールディングミサイルを放つが、指揮官機とともに最初からアグリッパ周辺にいたゴーレムがそれを阻止。遠巻きに撃っていては破壊は適わないようだが、少しは敵の数を減らさないと近づくことは出来そうもない。
(「戦況は不利‥‥」)
 黒く染まったドッグの顔が歪む。感情の表出は薄くなっているはずの彼ですら、焦りが浮んでいた。
 ヘビーガトリングで真帆と合わせて弾幕を張り、ゴーレム達の足並みが揃うことを防ぎつづけているが、それも長くは保ちそうに無い。先程ゴーレムの斬撃をストライクシールドで受け止めて以後、腕部の動きも鈍っている。

(「回避しきれない‥‥!」)
 B班で最初に倒れることになったのはユーリだった。彼は普段と同じようにバルカンでの牽制からの行動を主としていたが、重装甲の上に盾を装備した相手にはバルカンが牽制にならず、行動の相性が非常に悪かったのだ。
 盾に押し飛ばされてよろけたR−01改が、全力で振り抜かれる剣を何もできずに直撃で受け、コンソールのそこかしこにレッドアラートが表示される。損傷率90%オーバー、いや、まだ動いているのが不思議な程の損傷。
「最後に一撃だけでも!」
 兵装を切り換え、アグレッシヴ・ファングを起動させると、ユーリはトリガーを引く。斜め上空へと発射された45発のミサイルが地上に降り注ぐが、着弾点は全て地表。アグリッパには一発も当たらなかった。
「ここまで」
『面白いものを見せて貰った礼だ、受け取れ』
「がっ!?」
 オープン回線で傭兵達に伝わる敵指揮官の言葉。その言葉が終わると同時、既に機能を停止していたR−01改は遠く吹き飛ばされる。そして、コクピットにいるユーリから銀青色の紋が消えていった。

「‥っぐ、‥ぬ!」
 ハヤブサが複数の敵機からの連撃を回避していく。ヒューイはその殺人的な機動に耐え、コントロールしきってみせたが、それが限度だったのか、反撃のレーザー砲はゴーレム達に回避される。
「対空装備がお前たちの独壇場とは思うなよ。‥‥ま、俺は空には撃たんが、な」
 最前線にてゴーレムと斬り結ぶ悠のディアブロを、紅月の雷電が本来対空用の砲で援護する。
 攻撃を集中させることで、ゴーレム数機ぐらいならばこのまま倒せそうだが、最初のキューブワーム破壊までに手間取ったため、これまでの戦闘で全機消耗しすぎている。
(「このままゴーレムの相手を続けるのも、無理か‥‥」)
 クラークは依頼内容を説明した士官の言葉を思い出していた。
『部隊の練度、及び機体性能そのものも通常のゴーレムとは一線を画した能力を保持していることは想像に難くない』
 キューブワームの防衛といい現在の連携戦闘といい、確かにそうだ。既に一機のKVが撃墜され、パイロットからの応答が無い。通常のゴーレムなら問題無く倒せていたであろう傭兵達は、窮地に陥っていた。
 目標達成が不可能ならば、これ以上被害が増大する前に早期に撤退するべきか‥‥。そういう結論に達した頃、不意に敵の攻勢が緩んだ。

『バークレー司令の言うとおりだ。いい加減、猿どもをつけあがらせるような真似はやめるべきなのだ』
 溜息の後にその言葉を吐き、そしてブツブツと何か‥‥自らの思考のままに言葉を続けている。
『いや、あそこに吹き飛んでいる者は‥‥そうか、分かったぞ。足りないものは、危機感だ』
(「なんだこいつは、こいつは一体何を言っているんだ?」)
 オープン回線で言葉を投げかけてくる敵指揮官。その言葉にヒューイは訝しむ。それは時間にすれば数秒程度の間、バグア側はともかく傭兵達が手を止めたのはほんの1秒にも満たない時間だった。
 何にせよ敵が動きを止めたのならば好機。数機のKVが地を走り、ヴァイオンがチェンソーを押し当てて敵を掻き毟る。それをゴーレムは盾で耐え凌いでいたが、逆方向から背に着弾した120mm弾の当たり所が悪かったせいで出力が低下したのか膝を折って崩れ、やがて沈黙した。
 その傭兵達の抵抗に対し、敵指揮官は一つのシステムを起動‥‥機体の一時的な強化を行った。

 敵指揮官機に最も近い位置に居たのは零だった。それは、彼の不幸だろうか。
『なぁおまえら、今までそうだったからこれからも自分や仲間が死なないとでも思ってるんじゃないか?』
 言葉の意味を傭兵達が考えると同時、ディアブロの背から刃が生えた――。


「なっ!? 零、応答しろ!」
 幸い燃料タンクなどの誘爆は発生していないが、剣を引き抜かれた『フェンリル』はその場に崩れ落ちた。クラークが呼びかけるが、パイロットである零からはユーリと同じく応答が返ってこない。
「おまえ、コクピットを!」
 ゴーレムからの剣撃をツインブレイドで受け止めながら、横目で悠は崩れ落ちる機体の様子を見た。ディアブロのコクピットのある位置に大きな傷がついている。それが、僅かにコクピットを避けているように見えたのは事実だったのだろうか、それとも彼女の期待の表れだったのだろうか。
(「この機動についてくんのかよ‥‥!」)
 次に狙われたヒューイは、再度の殺人的な機動に耐えて初撃を回避したが、続く刃までを回避することは適わずに地に叩き伏せられた。この状況下にあって、具体的な撤退方法・タイミングを考えていなかった傭兵達は誰も、何も出来なかった。

 敵指揮官機が3機目、悠のディアブロへと踊りかかる。その凶刃を止めたのは、一つの爆音。


■勝利の価値は
「破壊してやったのです! 私達の勝ちなのです!」
「長居は無用、撤収しましょう!」
「沈黙した機体のパイロットの救助を!」
 その言葉に敵指揮官が背後を振り返ると、そこにはボロボロになった雷電とシュテルン、S−01H。そして、煙を噴き上げる窪地があった。
(『アグリッパからのリンク表示も消えている、か‥‥』)
 真帆、レールズ、ドッグの3名が取った行動は、被弾を恐れずにアグリッパまで接近し、ありったけの弾丸を撃ち込む、というもの。彼等の機体の損傷度合いからして、タイミングも投入戦力もギリギリの判断。敵指揮官がゴーレムの動きを緩めたままであったのを彼等は見逃さずに、この最後の好機に全てを賭けたのだ。


 撃墜された機体から味方を回収し、ブーストを起動させて撤退する傭兵達。
 車輪の騎士団を率いる機体は、追撃はしてこなかった。こちらの撤退経路上に回収部隊等の援軍がいることを危惧したのか、ゴーレムではその内に空へと逃げるKVを追いかけるのは無理だと判断したのか、あるいは傭兵達は見逃して貰えただけなのか。

 目標物を破壊し、基地へと帰還した傭兵達。目的を果たすために傷ついた者も多いし、アグリッパの破壊はかなり強引な手法によって達成されたものだ。この勝利の価値はどれだけのものなのだろうか、次はかけがえの無い犠牲を出すことになるのではないだろうか。無事に基地へと帰還した傭兵達はそう考えざるを得なかった。
 帰還後すぐに後方へと送られた零、ヒューイ、ユーリの意識は、丸一日以上戻らなかったのだから。