●リプレイ本文
「やっほー、リチャード・ガーランドっていうんだ。初めての人はよろしくね」
油まみれの作業服の上からセルガード白衣をまとったリチャード・ガーランド(
ga1631)を始めに、傭兵達と開発室の面々はまずは互いに自己紹介をした。どのような視点からの意見か判断する為に、傭兵達が過去に参加した作戦や現在の搭乗機は必要な情報なのだ。白岩 椛(
gb3059)も、既にいつものようにメモを取り始めている。
「では挨拶も済んだことだし、早速意見を聞かせてもらおうか。まずは‥‥」
室長の目配せを受けて、研究員の一人が投影機を操作する。
(「しかし、幾つ開発室あるんだこの会社」)
それによって新型メトロニウムフレームの情報が映るまで、時枝・悠(
ga8810)はそんなことを考えていた。施設に入ってからこの部屋に着くまでに、いくつものドアの前を通り過ぎていのだ。流石はメガ・コーポレーションの中でもいの一に名前が挙がるドローム、といったところだろうか。
●高純度メトロニウムフレームについて
「方向性については今の案のままで良いかと」
真っ先に意見を出したのはユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だったが、どうやら他の傭兵達も一様に軽量化ではなく防御性能の向上を望んでいるようだ。
「軽量化なら新規開発するより、すでにあるメトロニウムコートの店売りを目指す方が望ましいと思います」
というのも、新居・やすかず(
ga1891)が言うように、店売りではないものの軽量タイプの増加装甲は既に存在しているのだ。需要があるとすれば、重量はそのままで高い防御値を実現したタイプであろうと、榊 刑部(
ga7524)も他の傭兵の意見を推していた。
「そうだね。どうせなら、防御力を上げられるだけ上げた方が良いかもね」
「ふむ。重量だけではなく数にも制限はあるからな」
「重量については初期支給機体に搭載力が大きめのバイパーが参加したんだし、そこまで問題にならないと思うな」
フィオナ・シュトリエ(
gb0790)の意見を受けながら、室長はコストと性能について考えを巡らせる。重量については、リチャードの言うように重量級の機体向けを想定するのなら問題ないだろう。
「非物理攻撃への抵抗付与は難しいでしょうか?」
そんな中、ドッグ・ラブラード(
gb2486)が防御だけでなく抵抗を上昇させることはできないか提案した。
この意見に賛同したのはユーリと椛で、難色を示したのはフィオナ。確かに、椛の考えているように副次的な効果として抵抗も上昇させられるなら万々歳だろう。しかし、そこまでの性能を求めると一般流通を目指すには、企業的な理由を除いてもコスト・生産性といった点から実現が難しい。
(「新しい物の発明ではなく商品の開発、か‥‥」)
相手の返答を受けて、傭兵達は普段とは違う難しさを実感していた。
こうして、高純度メトロニウムフレームはほぼ当初の予定通りに『ショップに流通できる範囲で、可能な限り防御性能を高める』の方向性に決まった。
ただ、ドッグが挙げた抵抗を上昇させるという意見は、後にその他希望品を聞いた際に刑部や悠から出た、抵抗を上昇させるミラーフレームの一般流通希望や、回避を上昇させる追加ブースターと合わせて、次の開発案として参考にされることになる。
●タワーシールドについて
先程とはうってかわって、タワーシールドについての意見は割れた。
「そもそも陸戦を想定しているわけなので、空戦不可というのはそう大きなデメリットではないでしょう」
「大きいし、頑強さを求めるとどうしても重くなるからね。重量については割り切るのも手かも」
まずは、開発室からのものと同じ意見のやすかず。この意見に賛同したのはフィオナと
「敵の主力兵器がプロトン砲であることを考えると、抵抗もある程度欲しいです」
ドッグだ。設置するタイプの盾である以上、その障害物としての性能を最優先しようというのである。
「しかし、幾ら高性能でも、使う機会がロクに無い物に金を払う人がどれだけいるか疑問だ」
その意見とは逆の観点からの意見を出したのは悠。確かに障害物としての性能を確保するのは重要だが、それによって使用される機会が無くなってしまっては、確かに意味が無い。
「軍に向けるものならともかく、飛行して移動することが前提にある事の多い傭兵には飛行不可は少々辛いかも知れません」
椛もその意見を後押しする。先の大規模作戦ではリッジウェイによる敵施設への傭兵突入とその援護といった作戦も展開され、現状の開発案はそれに応じたものとなっているのだが、それだけにそのような作戦でしか用途が無い。
「推進器つけるとかで何とか飛行可能にならない?」
需要が無いわけではないだろうが、一般流通させるには少々狭いマーケットだろうか。
「でも、拠点防衛作戦とかの依頼では頼りになるよ。なんだったらブースターとかつけて取り扱いとか移動をしやすくしてみる?」
折衷案、というわけではないがリチャードからはこのような意見が出た。
「グングニルの様に小型のブースターを組み込む形で、デメリットの解消ができないかな」
ユーリからも似たような意見。彼は飛行不可能な重量という点から、最悪行動力が低下してしまうような性能ではないか危惧していた。しかし、ほぼ消耗品‥‥場合によっては置き捨てるような運用方法も考えられるタワーシールドに、ブースターを付けるというのはコスト面から厳しいように思えた。
「皆の集、どう思う?」
「問題は重量より形状です。巡航速度はなんとかなるでしょうが、戦闘速度はとても‥‥」
傭兵達の意見をもとに、研究室の面々は開発案を見直す。その結果は、『行動力を落とさずに防御・抵抗を上昇させる』タイプと『巡航速度までの飛行が可能』なタイプの、2種類を試作するというものになった。
●KV手榴弾について
タワーシールドに引き続き、手榴弾も少し意見が割れていた。
「私は、歩兵には強敵である中大型キメラなどの掃討に使用する事を考えると、攻撃力を抑えてでも弾数を増やすべきかと」
「でも、あまり攻撃力が低くなりすぎる場合は重量増加でもOKかもね」
まずは刑部やフィオナの、弾数の確保を優先するべきという意見。
「同様の範囲攻撃兵器であるグレネードランチャーが非売品でも最大2発。4、5発ぐらいにできないでしょうか」
「そうですね。それだけあれば戦術の幅が広がる意味でもかなり期待できます」
ドッグや椛も同様の意見。現行の範囲攻撃手段であるグレネードの倍の弾数があれば、ドッグが以前に範囲攻撃が必要な任務についた際に感じた、弾数に対する若干不安もなくなるだろう。更に彼は射程についても確認していたが、これは椛が予想していたようにやはりグレネード以下の射程、具体的には20〜30mになりそうだという回答を得ていた。
「その射程だが、発射装置に対応させて時限式グレネードランチャーというのは作れないだろうか?」
しかし、範囲攻撃となると味方の位置も考えねばならなくなるため、なるだけ遠くへと撃ちこめた方が万一の誤爆も無くなるだろう。悠は手榴弾については弾数重視の方針に賛同しながらも、グレネードランチャータイプも作成できないか考えていた。
「コスト的に難しいな。手榴弾のように爆弾のみならばなんとかなると開発室では考えている」
この場合のコストとは、あくまで一般流通を目指した場合のものだ。
これまでの意見から多少コストがかかったり、一般流通が無理でも弾数を増やしたグレネードランチャーは需要がありそうだ。だが、ここの開発室の目標は一般流通させるアイテムの開発であるため、この開発案はおそらく他の部署に回ることになるだろう。
「射程、そして恐らく命中でもGランチャーには及ばないでしょうから、個人的には攻撃をGランチャー以上にして欲しいところです」
これまでの意見とは違った方向性として挙げられたのは、やすかずの攻撃力重視の案と
「水中用に使えるやつ作れるかな。水中用範囲武装は今のところないし」
水中用の範囲兵器を欲したリチャードの案だ。だが、どちらの案も聞いた開発室のメンバーの顔を曇らせた。
「攻撃力重視は難しいな。一応、KV本体より離れてからの攻撃‥‥という形になるため、SESの仕組みから威力の向上は難しいんだ」
技術的にやってやれないことはないが、おそらく多少威力を上げるだけでも製造コストが跳ね上がる。とはいえ、過半数からこの方向性の意見が出れば開発案の見直しも考えられていただろう。
「それと、水中用に関してはすまないがまだ無理だな」
元々は一般兵用の兵器開発室。最初から水中用の兵器として魚雷等を作成するのならともかく、手榴弾を水中対応にするといったものはまだ不可能であると、申し訳なさそうに室長はリチャードに言葉を返した。
こうして、手榴弾は弾数を優先した開発案となることが決定されたのだった。
●KVショーテルについて
「防御不可という特性なら攻撃特化でヒートショーテルにしてみたらどうかな?」
そのリチャードの言葉で、一瞬にして開発室の空気が凍った。
いや、ヒートディフェンダーなるものが開発されている以上、同様の機構を搭載した兵器とすることは十分考えられるのだが‥‥。誰しも思いついてはいたが、声に出したくなかったのだ。一方、防塵処理がしっかりしたKVに装備させる図でも思い描いているのだろうか、リチャードはにんまりしていた。
さて、他の意見はというと‥‥
「特殊能力を活かすため重量や防御面を犠牲にしても、攻撃、命中をできるだけ高くすべきだと思います」
受防不可という特性を活かすため、ドッグが言うように攻撃・命中を優先するというものばかりだ。
「ディフェンダーを超え得るくらいにはして欲しいところかなと思います」
「命中第一。次に威力。中途半端にするとディフェンダーに勝てない残念な武器になりそうなので他は捨てても」
「重量の上限はセミーサキュアラークラス、攻撃性能は最低でもディフェンダークラスが希望で」
(「ディフェンダー、ディフェンダーか。確かにあれは傑作だよなぁ‥‥」)
ディフェンダーを比較対象として傭兵が挙げてくる意見に、室長は色々と含みのある困った笑顔を返していた。
この開発案だけ試作品が完成していないことには、一つ理由があった。それは、開発室内でも意見が割れていたのだ。
傭兵達の言うように攻撃・命中を重視した場合、受防不可という特性を持つKVショーテルはかなりの完成度を誇るものとなるだろう。ただ、その為に一般流通が色々な理由から難しくなる。開発室内でこの方向性に対抗として出されていたのは、命中は確保するが攻撃は捨てるという案。これならば、価格の高騰は抑えられる。
この後者の場合は、受防不可という特性によって相手の行動を回避一択にさせるということで、他の機体との連携戦闘においてはスペック以上の戦果が期待できるが、単体での運用には当然難が出てくるものとなっていた。
「やすかず、悠、フィオナ。貴重な意見をありがとう」
今回集まった傭兵達の意見は、やはりと言うべきか前者のタイプを希望していた。この意見を受け、開発室は一振りにて完成された兵器の開発を目指すこととしたのだった。
●その他希望品について
「では、ある意味お待ちかねだな。これ以外の希望を聞くとしようか」
「超至近距離用で、威力・命中率の高い散弾銃っていうのはどうかな? ファームライドやシェイドみたいな高機動型や、陸戦でのゴーレムに一発ぶちかますいいものだと思うんだけど」
室長が言うが早いか、リチャードが自分の希望を挙げる。
「私も高命中の武器が欲しいですが、近距離ではなく遠距離用の‥‥スナイパーライフルの改良型が欲しいですね」
やすかずもそれに続いた。岩龍やウーフーのジャミング中和装置によって、開戦当初に比べればバグアへの攻撃もかなり有効になってきているが、それでも相手のエース機を相手にしたり、遠距離からの攻撃となるとまだまだ命中率に不安を覚える‥‥というのが傭兵の見解だろうか。
「スナイパーライフルであれば、空戦で使用可能な知覚タイプが欲しいですね」
ユーリからもこのような意見が出た。
「知覚タイプか‥‥。クルーエルを開発している部署が関連して開発してそうだが、一般流通用では無いかもしれんな」
「ええ。ですから威力は控えめでよいので‥‥」
この回答を予想していたのかユーリは、威力は知覚型のKVが使用することで補えるので、リロード可能で長射程‥‥というものを希望すると続けた。
「知覚武器ならば、近接用のものも欲しいな。練力を消費しない非物理の近接武器が欲しい」
『近接武器』という分類での知覚兵器のラインナップに、威力不足を感じていた悠からはビームコーティングソードの希望が出た。『中距離武器』にはそれなりの威力の物もあるのだが‥‥
「ビームコーティングアクスでは駄目なのか?」
「ああ。ミカガミの接近仕様マニューバが使用できないというのが、な」
KVの特殊能力の関係上、という理由から敢えて射程の短いものが欲しいようだ。
(「え? あれ? あの理由だと、できたらミカガミに乗り換えるってことだよな?」)
しかし、ミカガミは銀河重工が製作したKVである。誰もが気になったが、誰もが言えずにいた。
「空戦でも使用可能な盾、っていうのは無理なのかな?」
また凍った空気を溶かしたのは、フィオナからの一言。
しかし、これは難しい。空戦で盾が使用できない第一の理由というのは、腕やそれに相当するマニピュレーターを、敵からの攻撃に応じて稼動させることができないからだからだ。もし無理に稼動させたとしたら、急に変わった空気抵抗にKVが対応しきれず、一時的に制御を失う可能性が非常に高い。
「危険性はKVの空中変形と変わりが無いってこと?」
着陸のために減速した状態、もしくは巡航速度程度ならばその可能性も低くなるが、マッハいくつの戦闘速度ではまず間違いなく制動に支障が出る。
「旧式のKVが使用していた特殊能力を、一般アクセサリに転用できないでしょうか」
ドッグからも中々意欲的な意見が出たが、機体の特殊能力というものはエンジンとその回りの機構に密接に関係しており、アクセサリのみで実現するというのはまず無理という回答が返ってくることになった。
「似たような性能を持たせることはできるかもしれんが‥‥」
回路等を転用して開発も可能かもしれないが、それでも大部分は別の仕組みによって実現されることになるので、ドッグが思っているよりはかなりコストのかかるものとなってしまうだろう。
「他にはもう無いか? では、ここまでだな。貴重な意見をありがとう、参考にして性能の調整を行わせてもらうよ」
その室長の言葉を結びに、今回の依頼は終わりを迎えたのだった。