タイトル:舞い戻る槍は浮魚を刺すマスター:MOB

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/03/13 03:12

●オープニング本文


 南米のUPCは、北西方向を中心にぐるりと東側の海岸線からバグアの侵攻を受けており、敵戦力に孤立してしまっている。内陸部の混戦具合は今更言わずもがな‥‥といった状況だ。この状況においても南米のUPC軍が持ちこたえられている理由は、密林や山岳地帯に散った各地の傭兵の活躍にもあるが、最も大きな理由はバグアが精鋭を送り込んできていない事だろう。今の人類には、手加減をしたバグアの侵攻でさえ、劣勢のまま耐え凌ぐ事しか出来ないのだ。
 また一機のビッグフィッシュが南米の東海岸に着陸し、その腹に抱えていた怪物を地に吐き出す。搭載されていた敵戦力は全て大小キメラ、ヘルメットワームやタートルワーム、ゴーレムは居ないようだ。だが、これらの戦力でも現地のUPC軍には脅威以外の何者でも無い。何とか着陸前に撃破出来ないものかと、何度かビッグフィッシュ撃墜の為の作戦が立てられていたが、逆に撃墜されたパイロットの数はダースでは数え切れないのは周知の通りだ。
「相手も馬鹿ではありません。過剰な戦力を投入した場合、ビッグフィッシュは撤退を開始します」
 問題は他にもあった。不自然に手加減をしている感のあるバグアだが、押さえるべきところは押さえてきている。確実にビッグフィッシュを墜とすため、正規軍に所属している能力者を中心とした部隊で迎撃を行ったところ、早々に撤退をされてしまったのだ。結局、その間に手薄になった各地が侵攻を受け、迎撃を行った部隊は再度各地に散って戦線を必死で支えている。
「当然と言えば当然の行動だな。だがどうする? 逃げる相手を追撃して墜とすとなると、更に戦力を投入する必要があるが、そんな余裕はこの南米にはない」
 正確には、やって出来ないことは無いが、この南米にはバグアも小規模な戦力しか投入してこないため、ビッグフィッシュを無理に墜とさずとも、持ちこたえ続けるのは可能だということ。戦力を集めてビッグフィッシュを墜としている間に、手薄になった他の地域が押されてしまっては元も子も無い。南米の戦線は、まさしく劣勢のまま膠着状態にあるのだ。

「積荷がキメラであるならば、降ろさせてやっても構わないのです。当初想定していた成果にはなりませんが、ビッグフィッシュを墜とすことで相手の補給を滞らせることはできましょう」
 提出された作戦案は、ある程度の交戦の後に一度撤退を行い、再度の出撃にて仕留めるという内容だった。短期間での再出撃はパイロットへの負担が大きい。南米で毎日のように戦闘を繰り返している能力者に任せるには厳しいと感じた基地司令は、ラストホープへと傭兵の派遣を依頼することとなる。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

■偽りの白旗
 いくつかのKV用兵装と共に、鳳覚羅(gb3095)、鷲羽・栗花落(gb4249)、Anbar(ga9009)が基地へと到着する。彼等は基地の整備班へ、現在ビッグフィッシュとの交戦を行っている仲間達の機体構成と、それぞれがこの基地へと輸送を依頼した兵装を伝えると、基地内部へと入って本命の二度目の出撃まで待機する。
「こうして待ってる間は、皆を心の中で応援することしかできないね」
「そう言うわりには鷲羽君も落ち着いているね。彼等なら大丈夫、そうだろう?」
 微笑を絶やさず、先程の整備班への通達も手馴れた様子で行っていた覚羅。対する栗花落も、普段と同じように持ち前の明るさを保ったまま。
(「皆、最初でいきなり怪我とかなしだよ? 頑張ってきて‥‥そして一緒に飛ぼう」)
 仲間を信じて待つ二人が覗く窓の先には、漆黒のディアブロと鮮やかなブルーのロングボウ、『アズラエル』と『アジュール』が整備班の機体チェックを受けていた。

「来ました。Holgerより各機へ、散開を!」
 水上・未早(ga0049)からの通信と前後して、トランプのジャックが描かれたブルーグレーのワイバーンからラージフレアが撒かれる。
「アヌビスでの初陣が空戦とは‥‥しかしやるからには!」
 接近してきた敵編隊を迎撃するために数機の小型ヘルメットワームが放ったプロトン砲を、散開して回避する6機のKV。白地に蒼いラインの入ったアヌビスを駆る抹竹(gb1405)は、先の攻撃の返しとして短距離高速型AAMを放つと、先程から青く変わった瞳の端で捉えていた敵機が、味方の後方に食いつかないようにと機動を変える。
(「ダメージを与えすぎても与えなさすぎてもこちらの意図に気付かれるのですから、普通の攻撃よりも神経が磨り減らされますわね」)
 同じく短距離高速型AAMによる攻撃を初撃としたクラリッサ・メディスン(ga0853)。命中率を高めたそのミサイルは、尾を引いてヘルメットワームへと吸い込まれるように接近し、セラ・インフィールド(ga1889)が放ったUK−10AAMに続いて命中する。
「銃弾の雨で、タコ殴りにしてやるのです!」
 迎撃に出てきたヘルメットワームの編隊側面へと大きく回りこんだ熊谷真帆(ga3826)の雷電が、ヘビーガトリング砲による攻撃に続いて3.2cm高分子レーザー砲で敵機を撃ち抜き、セタがそれに追撃を行うと、ソードウィングに斬り裂かれたヘルメットワームは海洋へと落下していった。

(「よし、ここで一度ビッグフィッシュへ行きましょお〜」)
 傭兵達は互いにフォローを行い、被害を抑えながらまずは護衛のヘルメットワームを減らすように戦っており、クラリッサのようにわざと攻撃を外す者もいた。少数のKVで仕掛けてきたわりには、ビッグフィッシュのみを狙い撃つような戦闘方法ではなく、その上錬度の高い部隊でもない。ビッグフィッシュに乗っていたバグア側の人物が別方面から主力部隊が来る可能性を考え、援軍の要請を行おうとする直前、須磨井 礼二(gb2034)のシュテルンが機動を変えた。
 ブーストを使用してビッグフィッシュへと急速接近、残っていた8式螺旋弾頭ミサイルを放つ。それは確かに命中したが、敵輸送艦にはまだまだ蚊が刺した程度の損害としか見えなかったし、周囲に残っていたヘルメットワームからの手厚い歓迎を受ける結果となる。
「須磨井さん!」
 未早が叫ぶ。言葉返す礼二は笑顔を崩してはいないが‥‥
「大丈夫です。ですが、これで一旦撤退ですねぇ〜」
 誰の目から見ても、礼二の機体の損傷率は50%を越えていた。煙幕弾を放った礼二はそこへと機体を飛び込ませると、ブーストを使用しながら抜け出して、空域から一気に離脱していく。他の傭兵達の機体もそれに続いてブーストを用いて空域から離脱していった。
『フン。逃げ慣れているだけあって、引き際だけは中々のものではないか』
 結果だけ見れば、護衛を減らしながらも手加減をし、相手が油断したところを仕留めるつもりだったが、はやって突出した一機が戦闘続行が難しい損傷を受けたため撤退‥‥と見えた。これは幸運と言うべきだろうか、傭兵達が振った白旗は、限りなく本物であるかのように見えたのだった。


■戦士は再び戦場へ
「ふう〜エネルギー充実200%なのですっ」
 基地へと到着した傭兵達は、思い思いに休息を取っていた。覚羅と栗花落が最初からこの基地へと来ていたおかげで、あらかじめ各人の機体構成や運び込んだ武装、積み替える武装などを細やかに伝える事が出来ていた為、第一陣として出撃していた傭兵達はすぐに整備班に機体を預けてしまう事が出来たのだ。

(「ビッグフィッシュかぁ‥‥さしずめ季節外れのこいのぼりだね。だけど、このまま大空を泳がせるわけにはいかないなぁ」)
 栗花落のロングボウが最初に空へと舞い上がる。これは、彼女の機体が積んでいるK−01小型ホーミングミサイルのせいで少し動きが悪いせいだ。通常の航行にはさほど問題は無いと思われるが、念の為、だ。
「キメラだけとは言え、あれだけの数を放たれ続ければ被害も甚大です‥‥今回で落としましょう。必ず」
 再び空へと舞い上がった戦士達は新たに二人の仲間を加え、空に浮かぶ巨大魚の元へと急ぐ。その腹に抱えられていた怪物達は地に放たれてしまったが、それが行われるのは今回が最後だ。傭兵達の誰しもが、そう決意していた。

 やがて、傭兵達の編隊が浮魚を捉えると、Anbarの岩龍は特殊電子波長装置を起動させた。


■満天の花火
 2度目の交戦開始も、1度目の時とさほど変わらない。迎撃に向かってきたヘルメットワームの編隊から放たれるプロトン砲を、散開して回避する傭兵達のKV。違うのは、圧倒的な数の反撃のミサイルの量。
「アジュール、この空へ盛大に花火を打ち上げるよ!」
 新型複合式ミサイル誘導システムを起動させ、K−01を敵編隊へと放つ栗花落。250×2、計500発ものミサイルが白い尾を引いて敵編隊へと2段に分かれて襲いかかる。急降下して引き付けた後に急激に水平方向への機動に変えるなど、慣性制御の能力を活かして可能な限り回避していく敵機。だが‥‥
「覚羅さん。さあ行きましょお〜」
「ああ。温存しておいたアズラエルの力を存分に味あわせてあげるよ」
 編隊を崩されてポッカリと空いたビッグフィッシュまでの道を、礼二と覚羅の機体がブーストを使って駆け抜ける。二人に続いて栗花落、更に螺旋弾頭ミサイルで目前の敵機を強制排除した真帆もビッグフィッシュへと向かう。

 2度目の襲撃、それも1度目よりKVの数は増えている。既に敵は援軍の要請を済ませているだろう。早期にビッグフィッシュを撃墜せねばならない。その為には、向かった4機にはビッグフィッシュへの攻撃に専念してもらいたい。
「援護には戻ってもらっては困りますね。こちらに、お戻り願います」
「お前達の相手は私です。さぁ‥‥来なさい!」
 セラと未早の機体が、共にブーストを使ってヘルメットワームとビッグフィッシュの間へと割り込み、援護に戻る事を許さない。それどころか、駆け抜けざまにソードウィングに斬り裂かれた一機は、既に海洋へと落下を始めている。
「アズリエルの裁き、その身で味わって、お逝きなさい!」
 漆黒の片翼を持つシュテルンが放った螺旋弾頭ミサイルと高速型AAMが立て続けに命中し、また一機が墜ちていく。そして、そのクラリッサに負けじと抹竹も高速型AAMにてヘルメットワームを墜とす。
 これで、1度目の交戦時に撃墜したものと合わせると、墜としたヘルメットワームの数は5機。しかし、先程までに撃墜した敵機は、栗花落が放ったK−01に被弾したものばかり。残った敵機は全て、装甲に傷一つ無いものばかりだ。
(「こいつらはこっちで引き付けておく。魚のくせにチキンの野郎が逃げ出す前に片づけてくれよ」)
 これからが本番だと、4人の傭兵達が気を引き締めなおした時、ビッグフィッシュが大きく爆ぜた。

『爆撃用の装備を、使ったというのか‥‥!』
 KVからの攻撃にしては、ダメージを受けた範囲が広すぎる。直援に回していたヘルメットワームから送られてきた映像を冷静に分析したバグアの人物は、爆撃用の装備を使われたのだと判断した。
「狙い通りにはいかなったけど、一応成功ですっ」
 狙った位置に爆撃を行うには減速する必要があるが、これは空を飛ぶKVに大して地面は静止、つまり大きな速度差があるためだ。同じ速度で同じ方向に飛べば速度差は0、狙った位置に落とすのは遥かに容易になる。だが、KVやバグア兵器の速度は速すぎる。通常、空気対抗をあまり考えないで済むような弾頭であっても、大きくその落下位置は逸れた。
「事態の把握に少し手間取ったようだね」
 ビッグフィッシュとその直援のヘルメットワームの抵抗が緩んだ隙に、試作型「スラスターライフル」の射程に収まるまでに接近した覚羅が、アグレッシブ・フォースを起動させて大量の銃弾を叩き込む。
「こちらも負けていられませんよぉ〜」
 この好機を逃す手は無い。礼二も一度の出撃で許される最大量の練力をつぎ込んでPRMシステムを起動、レーザーガン「デルタレイ」を連射して、次々とビッグフィッシュの装甲を穿っていく。そして、栗花落の試作型リニア砲が一際大きな穴を空けると、ビッグフィッシュは一瞬高度を落とした。


■釣果
「Holgerより各機へ! 敵援軍が接近しています!」
「なんですって! ビッグフィッシュは!?」
 周辺空域にて、こちらへと向かうヘルメットワームの編隊が確認されたという報。
「あれは脱出用のヘルメットワーム‥‥?」
「任務完了。増援がこないうちに早々に立ち去りましょうか‥‥」
 それとほぼ同時、ギリギリのタイミングで、指揮を行っていたバグア側の人物が搭乗していると思われるヘルメットワームが、ビッグフィッシュから飛び立った。火を噴きながらゆっくりと海面へ落下していくビッグフィッシュ、再び高度を取り戻す事は無いだろう。
「しっかし、今日はこんなのばっかだな」
 9機のKVはブーストを使用して空域から離脱。彼等が安全圏に到達する頃には、ビッグフィッシュは海中へと沈んだ。

 残っていたヘルメットワームは、ビッグフィッシュから飛び立ったものと合流し撤退。あと少し遅かったら話も違っただろうが、このタイミングなら敵からの追撃は無いだろう。傭兵達は確かな釣果を伴って、基地へと帰投したのだった。