●リプレイ本文
■地上より上がる光、爆ぜる矢
基地所属のKVと別れ、宵闇に包まれたジャングルを能力者達は進む。各自、今回は基地側の事情から夜間作戦用の装備の貸し出しが不可能の為、懐中電灯やランタンなどをラストホープから持ち込み、九十九 嵐導(
ga0051)のように側頭部に括り付けたり、ウレキサイト(
gb4866)のように肩に結び付けるなどをしていた。
「しっかし、ヘルメットワームなんか出したら狙いがバレてもおかしくないのに、何考えてんだか」
「さあな、バグアが不自然に手加減している事は判るんだが‥‥」
目標地点までの距離は数キロ。その目標地点の少し手前で一旦休憩を取っていた時の、フィオナ・シュトリエ(
gb0790)とユウ・エメルスン(
ga7691)の会話だが、彼等の言うようにバグアの行動には不可解な点が多い。それだけ余裕があり、何かの狙いがあるのかもしれない。
「念の為再確認しておきましょう。右方向から順にB、C、D班で、A班は最初の攻撃後は各班の援護にあたるという事でよろしいですね?」
夜坂桜(
ga7674)がこうして再確認する理由は、能力者達は事前に各班に分かれてそれぞれの方向から攻撃する予定にはしていたが、誰がどの方向に行くかは決めていなかったためだ。今回のように、休息中であろう敵、それも敵戦力はキメラのみといった圧倒的にイニシアチブを持っている状況ならまだしも、他の状況では先手を打てる有利を逃しかねない事である。能力者達は彼の言葉に頷き、それぞれが受け持つ地点へと分かれて進む。
(「ノイズが酷いな‥‥。でも、なんとか聞こえるし、最悪合図は照明弾だけでも十分でしょう」)
覚醒しながら銃を上空へと向けた新居・やすかず(
ga1891)。彼の傍には先ほどからじっと目を凝らしてビートル達が留まっている地点の中から、弾頭矢を撃ち込むのに適した箇所を探っている男が居た。
「よし‥‥いいぜ、上げてくれ」
やがて、右目に浮かんだ十字型の模様の交点に、その箇所が捉えられる。
嵐導のその言葉を受けて上がる光、続いてキメラに撃ち込まれた爆ぜる矢。それを皮切りに、各方向から能力者達が飛び出し、ビートルキメラとの戦闘は開始された。
■爆発・銃声・剣戟・打撃音、響く声は苦痛の叫び
「なんとまあうじゃうじゃと‥‥。ユウ、逃げようとする奴らは任せたぞ、と」
「了解だ。だが、そういう奴等はいないようだな‥‥!」
埴輪型のオーラを背負った男が陰から飛び出し、最も近くに居たビートルキメラがはんまーで叩き潰される。アルト・ハーニー(
ga8228)は続いて次のビートルキメラに目を向けながら同じ班のユウへと言葉を掛けるが、ユウの目に映った相手は全てこちらを強く見据えており、逃げる気などは微塵も感じられなかった。それを受けて、ユウが小銃「S−01」ではなくイアリスを薄青に発光した右腕で握り締めると、その光を受けた刀身が蒼い刃となる。
「一匹一匹は弱いが流石にこれだけいると少しやっかいだな、と。‥‥だが」
へこんでいたビートルキメラの外殻が、更なる打撃に耐え切れずに圧壊。ぐちゃりと潰れた相手を確認したアルトは、無表情のままはんまーを担ぎ直して次の相手を探す。
「殲滅させてもらう‥‥」
その様子に畏怖を覚えたのか、それとも力量の差から仕掛ける隙を見つけれないのか、ビートルキメラが少し縮こまったようにも見えた。
(「集まってはこねぇか‥‥」)
アルトのような派手さはないが、こちらも順調に相手を刻んでいくユウ。彼はそうして戦いながら相手の様子を伺っていたが、特に虫ということで光に集うような習性は無いようだ。
今までの交戦結果から判っていることだが、これは各地の様々なキメラでも同じ事で、元の生物の習性やある意味の弱点(たとえば犬や猫は葱類を食べると中毒を起こす、等)はまず取り除かれている。但し、習性をいかして活動に役立てている‥‥というケースも少なからず存在するらしい。
(「皆の幸せを守るため‥‥今は自分に出来ることを!」)
こちらは、方向的には中央方向から敵の根城へと侵入した班だ。襲い来るビートルの攻撃をシールドで受け止め、カミツレで斬って捨てるファブニール(
gb4785)。周囲を見渡して敵と味方の位置の把握し、それによる連携。暗い青に染まった彼の瞳が、同じく飛び出して別のビートルに攻撃を仕掛けていた桜の姿を捉えると、彼からもファブニールに目線が返ってきた。
(「機械剣のほうが効きが良いようですね」)
ファブニールが自分の傍に寄り、シールドを前面に押し出した構えに移るのを目の端で捉えながら、桜は片手に持っていたエクリュの爪をしまい、代わりに小銃「S−01」を持つ。アイテムが直ぐに持ち替えれる位置に無い場合、多少の時間はかかるし、それに伴って隙が生まれる事もある。その可能性をファブニールに消してもらった桜は、作戦地域に散っているビートルキメラを見渡して、笑った。
「思いの他散っていますね。移動の時間も考えると‥‥はは、確かに制限時間内にこれを殲滅するのは骨が折れそうですね」
苦笑い‥‥ではない。笑ったのだ。先程、眉間に銃弾を撃ち込まれて絶えたキメラには、その笑顔はどう映ったのだろうか。そのまま、彼等はシールドを構えたファブニールが前に立ち、桜が効果的に打撃を与えられる機械剣で脇から斬りつける、という形でビートルキメラを屠っていく。
未だ侵入者を迎撃する体勢の整わぬキメラの群れに、炎を纏ったかのようにも見える少女が踊りかかる。
「フィオナちゃん凄いですわ!」
それに追いかけるように陰から飛び出したウレキサイトが、両の手に持った蛇剋で殻を穿って抉ると、ビートルキメラはその動きを止めた。中々の連携ではあったが、最初のフィオナの攻撃は狙っていたように複数の敵には当たらなかった。
「回り込んで、ウル!」
敵の攻撃をエアストバックラーで凌ぎつつ、早めに数を減らしたほうが良いと判断したフォオナは、ウレキサイトに積極的に攻撃を仕掛けるように依頼。それを受けたウレキサイトが側面に回りこんでキメラを流し斬ると、今度は側面へと気の逸れた相手にフィオナのガラティーンが振り下ろされる。
「よし、このまま手早く倒していくとしようか!」
中心へと向かっていく他の班とは違い、左翼から作戦地域に進入したフィオナとウレキサイトは、そのまま更に左方向へと移動していく。他の班と違い、二人共が回復の能力を持っているためか、順調に狙い通りに敵を包囲する形へと進んでいく。
戦闘力だけを比べれば、経験を積んだ能力者にとってはビートルキメラなどそれほど警戒すべき相手ではない。平時とそれほど変わらない状況で戦えるようにしてしまえば、この一方的な光景も当然と言えた。だが‥
「ユウ、まだ時間はあるか? とにかく一匹でも多く倒す‥‥」
「あ、ああ。多分、な」
制限時間15分。そのことは皆、頭の中に入れていたが、経過時間の確認についてはその15分経過時以外はあまり考えていなかった。だから、多少防御をおろそかにしてでも攻撃に専念する事が出来ない。
(「雑音も酷いし、使いにくいなぁ! もう!」)
市販品のトランシーバーは戦場での使用を想定していない。それは耐久力だけでなく、取り回しのし易さにも現れてくる。そしてそれは、武器で両手が塞がっていれば更に顕著になってくる。
「フィオナちゃん! もう少し左へ向かったほうが良さそうですわ!」
もし、これが軍用のものであれば。
「桜さん、C班がかなり回り込んでくれています。僕達ももう少し左へ回りましょう!」
もし、次々と移動しながら敵を戦う状態で連絡を取る必要がなければ。
「わかりました。包囲を崩さずに参りましょう」
もし、昼間と同じ広さの視界があれば。もっと効率良く敵を撃破できていたことだろう。
ビートルキメラの外殻に猫の足跡がついていく。それは足跡という表現で済むような生易しいものではなく、キメラの持つフォースフィールドを突破し、その外殻を割る銃弾だった。だが、それを撃つやすかずの隣に居る嵐導は、戦況とSASウォッチを見比べる時間がかなり増えてきていた。相手に苦戦しているわけではないのだが、このペースでは時間が足りないのだ。各班の突入方向を予め決めていれば、もっと各班の動きを考えておけば、タイムキーパーを一人決めておけば‥‥間に合ったかもしれない。
負けにはかなり遠く、ただ完勝出来なかっただけ。それでも嵐導は、顔を歪めて叫ぶ。
「時間だ! 撤退するぞ!」
横を見れば、やすかずも無線機に向けて同様の言葉を飛ばしていた。
■届かなかった手
残っているビートルキメラの数は僅かに数体。しかし、時間を過ぎた後の戦闘は認められていないし、何より認められていない理由となっているヘルメットワームは、いくら能力者といえど生身で戦えばただでは済まない。
「やれやれ。時間切れか、仕方ない‥‥」
(「しかし、エグい光景だったぜ‥‥」)
100tハンマーに付いたキメラの体液を拭い取りつつ、もう一人は手袋を嵌め直しつつ、アルトとユウが後退を開始。他の班もそれぞれに後退を開始したが、
「フィオナちゃん!」
「分かってる! でも、あいつらが追撃してこないとも限らないから!」
フィオナは少し後退した後、ロウ・ヒールを使いつつビートルキメラに向き直って、相手が追撃してこないように睨みを利かせた。元々餌としての役割だったためか、それとも数を大きく減らしたためか、相手はこちらを向いてはいるものの追撃しては来ないようだ。その様子を受け、フィオナの少し後方で長弓を構えていた嵐導もそれを降ろし、傭兵達は揃って作戦地域を後にする。
攻撃開始前に休憩を取った地点まで後退し、能力者達は一息をつく。今回の作戦で森へと還った命へ黙祷を捧げる者、全てを倒しきれなかった事を悔やむ者、同じ班で行動した者に抱きついたり、キスまでされそうになったので流石に引き剥がしたりしている者。能力者達はそれぞれに小休息を取った後、基地への帰路についたのだった。