タイトル:前門の甲虫、後門の潜虫マスター:MOB

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/19 22:44

●オープニング本文


 乾燥した大地を南北に分けるかのように長く横たわったアスファルト。東西に長く伸びたこの道路を、西へとひた走る車両が数台。
 北米におけるUPC軍の戦力はその殆どはオタワ・フォート近辺に駐屯しており、残りの内の2割程度が競合地域での戦闘や、占領地域の奪還などにあたっている。この数台の車両と、それに積まれた人員・兵器もその任務にあたっている部隊の一つで、現在は絶賛撤退中の状況にあった。だが、どの車両に乗った人員にも疲労の色はそれほど強くは見られない。元々、早期撤退を視野に入れた作戦行動になっていたためだ。
 今回、かの部隊が向かったのはバグアの勢力下にあった小都市。
 一概に競合地域といっても地理的な有利不利はあり、防衛上の拠点にもなりえる都市は可能であれば奪還してしまいたいものだ。バグアが小都市の防衛を緩めている事が確認できたため奪還作戦が持ち上がったのだが、当然罠を懸念する意見もあった。そこで、偵察用の部隊と、罠であった場合の撤退支援用の部隊として傭兵の能力者達で編成された部隊を、小都市に派兵することになった。
 罠であったか否かについてはご覧の通り。偵察用の部隊は全車両西へと爆走、傭兵達の部隊は殿を務めて追撃部隊と戦闘中‥‥である。先にも言ったが元々こうして撤退する事を視野に入れていた作戦。あと少しすれば偵察用部隊も安全圏まで到達、傭兵達もブーストを使用して戦闘空域からの離脱を開始する。‥‥はずだったのだが。

「ん‥‥? どうした3番!?」
 急に一台の車両が減速し、やがて完全に停止する。どうやら、退却開始前に受けたキメラからの体当たりで車両のどこかが損傷。ここまでは保って走ってこられたが、ついに完全に壊れてしまったらしい。足回りのどこかだとは思えるが、詳しく調べている時間は無いし、何より交換用の部品は基地まで戻らないと無い。
 その車両は放棄し、残り2台に全員が詰めて乗り込んで退却する。と部隊長が指示を飛ばした丁度その頃にソレは来た。

 地を伝わる振動。

 隊員の中で、その存在を間近で見た事があるものが震え上がる。部隊長は、急いで車両に乗り込む事を指示するが、一人の隊員が、慌てた為に持ち忘れた荷物を取りに故障車両へと戻った。時間にすれば僅かに数秒、荷物も考えてみればそれ程重要なものでも無いだろう、自分の命より重要なものなどそうそう無い。
「‥‥! ラリィーーーーーッ!!」
 アースクエイク、ナイトフォーゲルすら飲み込めるサイズの巨大なキメラ。先ほどまで車両が停止していた地点の地面は噴き上がり、ソレが生えていた。
 急いで車を出すように指示を出す部隊長。残念だが、飲み込まれた隊員の生死は絶望的だ、生きている事はまず有り得ない。アースクエイクの地上での移動速度は最高で時速50キロ強ぐらいであると確認されている。地中での速度はもっと遅い、自動車の速度なら十分に逃げ切れる。
「隊長! 前方にキメラが!」
「何だと!? あれは‥‥オーバービートルか!」
 目を凝らした部隊長の瞳に映ったキメラは、オーバービートルと呼称されている、ビートルタイプのキメラの亜種。通常のビートルよりも強化された存在で、より速く動き、より多くの回数、攻撃を放ってくる。普通のキメラならまだしも、3台分の人員が2台の車両の乗り込んでいるようなこの状況では、強引に抜けようとしても止められてしまうのがオチだ。
「基地への通信は!?」
「この距離では届きませんよ!」
 部隊の戦力では正面からの突破は不可能。逃げ回りつつ、なんとか隙を見つけて脇を抜けるしかないのか。
「隊長! アースクエイクが潜りました!」
 あるいは、こちらの異変に気づいた基地からの救援が来るまで逃げ回るか。
 その前に、あのミミズの化け物に喰われてしまわなければいいが‥‥。地中へと潜った存在に怯える隊員へ、北方向への逃走の指示とオーバービートルの迎撃準備を行う部隊長。その絶望的な状況の上空へ、撤退中のナイトフォーゲルが差し掛かった‥‥。

●参加者一覧

スコール・ライオネル(ga0026
25歳・♂・FT
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
鴇神 純一(gb0849
28歳・♂・EP
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
セフィリア・アッシュ(gb2541
19歳・♀・HG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

●手負いの鋼鳥
「Horusより全機に通達、残念ながらもう一仕事のようだ。カブトムシとミミズ蹴散らして、再度の撤退支援だ」
 荒野を逃げ惑う部隊からの通信を拾った鴇神 純一(gb0849)はそう仲間達に告げながら、黒に戻した髪を再び金へ染め上げる。
「友軍の危機を見て見ぬふりは出来ませんし、さっさと済ませてしまいましょうか‥‥」
「仕方ない。味方を見殺しにする事は出来ないしな。手早く片付けて、基地に帰還することとしよう」
 いち早く応答を返したのは、『帝虎』・『忠勝』と名付けられた2機の雷電、鹿嶋 悠(gb1333)と榊兵衛(ga0388)。彼等もまた、巡航速度に落として以後解いていた覚醒を行い、臨戦態勢に入る。
「‥‥残弾、練力残量共に戦闘続行可能‥‥」
 機体の状況チェック。残りのカートリッジ数は見える相手と戦うに足る量があることを確認し、自身はオーバービートルの相手をすることを仲間に伝え、セフィリア・アッシュ(gb2541)はVTOLで着陸するに適した地点を選び、減速を開始する。
「まったく、面倒なことになったもんだぜ」
(「特別手当でも出してもらえんと納得できんぞ‥‥」)
 彼女と同じくビートル相手に手を挙げたスコール・ライオネル(ga0026)と漸 王零(ga2930)。それぞれあまり乗り気ではなくようにも見えたが、既にセフィリアに合わせて降下のために減速をしている。
「全機いけるな? ‥‥オープンコンバットだ!」
 ジャマー中和装置がONになっていることを再確認し、純一が全機体へ呼びかける。それを合図として、まずはアースクエイクの対処を行う機体、次いで残りの機体が、道路の南北へと降下していった。


●群れる甲虫と逃げ惑う車両
 濃紺と朱漆、2機の雷電の後方に続いて、陽光に縁取られたディアブロ『モーニング・スパロー』が土煙を大きく上げながら降下を行う。今回、相手に対空攻撃のできる存在が居ないことからか、鹿島 綾(gb4549)は中空で機体を変形させて荒野に降り立ったのだ。
(「この速度での変形ならなんとか‥‥振動!?」)
 シートを伝わるかすかな異質。咄嗟に機体に地面を蹴らせて緊急回避を行うと、地に潜んでいた巨大な虫が噴き上がり、その牙がディアブロの脚部を削っていった。
「綾さん!?」
「‥‥っ。大丈夫だ、左脚は生きてる」
 人型に変形して後方へ向き直り、榊兵衛の機体から放たれるスラスターライフルの銃弾と合わせてヘビーガトリング砲で弾幕を張る。そして、悠は機体をアースクエイクとディアブロの間に割り込ませるように移動させた。
 機体を立て直させた綾からは、戦闘続行可能であることが返される。アースクエイクは最初に降りた機体の振動に反応してきたのだろうか。何にせよ、綾が変形動作無しに回避行動が可能な人型で降下したことは幸いだったのだろう。
「内部から焼かれる心地はどうだ?」
 喰い損ねたからか大口を開けて迫る相手に、榊兵衛はグレネードを撃ち込む。
「うおっ!?」
 逃げ場を失った爆風が、逆流を起こしたかのようにアースクエイクの口から噴出。まるでそういった攻撃手段のようだ。しかし、ナイトフォーゲルを食い潰すだけはある、内部に撃ち込んだというのに特に大きなダメージを与えたようには見られなかった。

「戦場の風紀委員、真帆ちゃん参上! 本日弾幕感謝デーなのですっ」
 純一と共に、偵察部隊の車両とビートルの群れとの間に割って入るように降下した熊谷真帆(ga3826)は、雷電を人型に変形させるが早いかヘビーガトリング砲のトリガーを引いた。バラ撒かれる銃弾が、次々とフォースフィールドと外殻を撃ち抜いていく。だが、獲物を前にした相手は、それで怯む姿勢は見せなかった。
「‥‥いくぞ‥‥闇天雷‥‥漸王零‥‥推して参る!!」
 そこへハイ・ディフェンダーを構えた雷電が飛び込み、一匹のビートルを一刀の下に斬って捨てた。
 フォースフォールドに遮られたとは思えないほどの鋭利な断面。黒銀の粒子を纏った『太極の徒』にとってはそんな結果も当たり前なのか、相手が動かなくなった事だけを確認すると、王零は次の相手を見据える。
「ちっ、数が多い‥‥錬力が持つか‥‥」
 それとも、脅威と考えるべきなのは相手の数であると認識していたのだろうか。彼に続いてビートルの群れに突撃したスコールは、全ての敵を倒し終えた後に基地に戻るだけの燃料が残るかを気にかける。
「って俺らしくもねぇ‥‥やるだけやってやるぜ!!」
 が、かぶりを振って思い直す。レグルスを使うまでもないと判断し、白双羽で飛びかかってくるビートルの攻撃を捌くと、対の手に持った玄双羽で鮮やかに斬り裂く。
「‥‥正確性のある射撃の必要を確認‥‥」
 最後、アースクエイクが3機のナイトフォーゲルに抑えられている事を確認してからセフィリアが戦列に加わった。しかし、その蒼眼に移る光景では僚機が敵と近接戦闘を行っており、予定していた当たるに任せた弾幕を張るのが難しい。彼女は、ホールディングミサイルに武装選択を切り替えて攻撃を開始する。
「よし、これから道を切り開く! 遅れず慌てず付いてきな!」
 同じくホールディングミサイルにて攻撃を行っていた純一が、敵の目が完全にミカガミと雷電を向いていると判断して、今の内の偵察部隊を基地方向へ逃がすべく車両を先導するようにウーフーを移動させる。
『了解した、先導を頼む!』
 偵察部隊はその応答を返すと、
「ナイトフォーゲルがついてるからって油断するな! 武器は下ろさずに撃てる体勢でいろ!」
 部隊長からの指示に従い、キメラの群れの脇を抜ける準備を行う。
「こっちにきてはダメなのですっ」
 そして、先述の理由からスナイパーライフルに武装を切り替えていた真帆の雷電が、再びガトリング砲に切り戻して車両の後方につき、迫りくるビートルに備えた。


●三度噴き上がる潜虫
「いいぞ、今の内に行け!」
 スコールがまた一匹、ビートルを玄双羽で斬り裂きながらA班と偵察部隊へ通信を飛ばす。
「アースクエイクの方は‥‥流石にしぶといみたいだな」
 そして、無事にキメラの脇を抜けて基地方向へと撤退していく偵察部隊の車両を見送ると、逆の方向へと視線を変える。しかし、脆弱な耐久性しか持たないこちらの相手と違い、ナイトフォーゲルとの戦闘を前提に生み出された相手は依然としてその姿を湛えていた。
「くっ、地中に逃げられたか!」
「このまま倒させて貰えるほど敵さんも甘くなかったか」
 だが、形勢は傭兵が優勢。そろそろトドメを刺せると踏んだ悠が、ヘビーガトリング砲から「黒竜」へと兵装を切り替えたのだが、それとタイミングを同じくしてアースクエイクは再び地中へとその姿を隠した。その雷電と同じく『蜻蛉切』に持ち替えた榊兵衛の雷電も、ターゲットを一時的に失って行動を止める。
「間が悪いね。榊兵衛、悠、後退だ」
 綾は出撃時の事を思い返す。確か、純一のウーフーに地殻変化計測器が積まれていたはずだ。しかし、彼の機体は今偵察部隊の車両を護衛していっており、アースクエイクを捕捉できるかと聞かれたら、確実な事は言えるか言えないかぐらいの距離にいた。万全を期すため、3機のナイトフォーゲルは一旦後退を開始する。

「‥‥甘い‥‥カウンターで仕留める‥‥」
 悪足掻きとして後方の機体へと突撃してきたオーバービートルの顔面を掌底で押し潰すと、そのままそのルプス・ジガンティクスで突き刺し、セフィリアは最後の一匹だった相手を物言わぬ骸へと変えた。
「こっちは終わったか。まったく‥‥こちらも消耗した帰りだったというのに」
 オーバービートルと対峙した傭兵達は思ったより早く相手を殲滅し終えたが、真っ先に斬り込んだ王零の雷電などには、とにかく細かい傷が無数についていた。といっても、傷の位置は相手の攻撃を受け止めた兵装が大半なのだが‥‥。
「待たせたな!」
 そこへ、車両を戦闘区域外まで見送った純一が舞い戻ってきた。
「基地につくまでが任務なのですっ。純一さん、相手の位置をっ」
 もちろん、同行していた真帆も一緒だ。
「おう、こんなこともあろうかと計測器積んできてたぜ!」
(「うん、知ってる」)×7
 言わないであげるのが『傭兵・鉄の掟』である。
「前方、距離200! 綾がいる位置へ接近中だ!」
「また俺狙いかよ!?」
 強化された計測器が、良い精度でアースクエイクの位置をはじき出す。
「好かれたのかもな?」
 一度目は不可抗力とはいえ、またもアースクエイクの標的にされたことに思わず声を上げる綾。そんな彼女をスコールが茶化す。それに嬉しくないと返しながら、綾は機体にかすかに伝わってくるであろう振動を感じとるため、神経を集中させた。
 そして、三度地面は噴き上がる。


●偵察、撤退支援任務完了
「相変わらず図体のでかい奴め‥‥だが地上に引きずり出せばこちらのものだ」
 地に生えた巨大な虫に、数機のナイトフォーゲルから一斉に射撃が撃ち込まれる。
「レーザー発射! 知覚も大判振る舞いですっ」
 グラリ、と揺らぐアースクエイク。そして、今度は最初から手にそれを携えている。
「止めを刺すぞ悠!」
 榊兵衛の『蜻蛉切』が、
「帰り道の邪魔は、これで終わりにしてもらおうか!」
 悠の「黒竜」が、
「遠慮するな。地面の上で朽ち果てて逝け!」
 綾の「ドミネイター」が、アースクエイクに突き立てられ、少し前に一人と一台を飲み込んだ潜虫は、それ以外には何も食うことなく荒野の大地に横たわった。
「我が【忠勝】、そして【帝虎】の前に立ったのが貴様の最大の誤算だったな」
「騎士姫の盾はこの程度では揺らぎはしません‥‥」
 もう動かぬことを予断なく確認した榊兵衛と悠。並び立つ2機の雷電は‥‥
「おい、俺のスパローは?」
 並び立つ2機の雷電に、ツッコミが入った。

 この後は、再度の襲撃もなく無事に基地へと帰還した傭兵達。元々から撤退支援の任務ではあったが、撤退時に襲撃されていた偵察部隊を救助したこと、撃破した敵戦力などが考慮され、少しだけ報酬が増額されたのだった。