●リプレイ本文
●マテリアル出撃
「今回の敵戦力配分って最悪ですね」
「R−01E(イビル)にES−008(ウーフー)‥‥電子戦機ばっかり‥‥」
「どう考えても長距離狙撃なんざ怖くないですと言わんばかりだ。私もイビルアイズ乗りだからよくわかるよ」
マテリアルや無改造機ではなく、いつもの自分の機体に乗ることを選択したため、それらの傭兵に比べて早くに機体チェックを終えたトクム・カーン(
gb4270)とイスル・イェーガー(
gb0925)は、今回の敵役を務めるアグレッサー部隊の内容について話していた。
苦笑しながら話すトクムが言うように、今回の敵編成はかなり厄介だ。イビルアイズの特殊能力もウーフーの特殊能力も、マテリアルの特殊能力を殺してくる。攻撃が当たらなければ上昇した『攻撃』に意味はなく、強化した部位にて防御できなければ上昇した『受防』にも意味がない。
「電子戦など、何かに特化した機体も確かに有効でしょうけれど、もともとKVは時と場所を選ばずに使用できる汎用性こそが求められていたはず。その意味からもマテリアルには期待させて頂きますわね」
「特長が無いのが特長。良い機体みたいだけど、傭兵より正規軍向きかもね」
そして、アグレッサー部隊中の残る一機種、ノーヴィ・ロジーナを今回の乗機として選んだクラリッサ・メディスン(
ga0853)と、アヌビスを今回の乗機として選んだ遊馬 琉生(
ga8257)が会話に加わってきた。どちらも、価格帯からマテリアルのライバルとなる機体だ。
「そういえば、今回専用の判定システムに対応させたと聞いていますが、特に変わったところはありませんわね」
「コンソールの表示‥‥ちょっと変わってるぐらい、かな‥‥?」
あくまでも擬似的・スペック上の数値の帳尻を合わせるもので、実際の効果と全く同じ現象が起きるわけではないが、コンペティションに参加するナイトフォーゲルは、専用の判定システムに合わせたプログラムに書き換えられている。
「武装で方向性を絞ってアクセで特化や強化が出来る、特殊能力も使い易い。シンプルながら多様性を持ついい機体だな」
「知覚兵装相手には有効でないため気をつける必要はありますが、燃費の良い能力ですね」
新型機への初搭乗となるゆえ、少しだけ機体チェックに時間を取られたが、レベッカ・マーエン(
gb4204)も新居・やすかず(
ga1891)も出撃準備を終えた。しかし、この出撃準備にかかった時間はこれまで『初めてその機体で出撃する場合に必要とされていた時間』よりは十分に短い。
今回、マテリアルを乗機として選んだのは、彼等2人の他に伊佐美 希明(
ga0214)と戌亥 ユキ(
ga3014)で、計4人。傭兵側の機体構成の実に半数がマテリアルだ。これにより、図らずもマテリアルの整備性に関する事が明示されることになった。
「さってと♪ この子の良いトコロを引きだしてあげなきゃね」
「価格はロジーナに近いが、改造費はアヌビスと同じか‥‥。こりゃ、アヌビスとロジーナ以上は評価取らないとお話にならねぇ。相手を全機落すつもりでいくぞ!」」
しかし、あくまでもこのコンペティションで評価されるのは戦闘能力である。ユキの言うようにライバル機よりも優れた部分を示さなければならず、それには希明の言うようにアグレッサー部隊を全滅させるのが最も判り易い。
かくして、傭兵達はコンペティション実施区域となる市街地に向かうため、それぞれの乗機を大空へと舞い上がらせた。
●橋頭堡確保
大地に降り立ち、北より市街地を目指す傭兵達の部隊の前に立ちはだかったのは、その橋頭保候補の地を防衛するアグレッサー部隊。情報通りに5機、奥にウーフーを控えさせて、両翼にイビルアイズとノーヴィ・ロジーナを展開させている。
「レベッカさん、イビルアイズを!」
やすかずのマテリアルから放たれた対戦車用の砲弾が敵機の間の地面を爆ぜさせて、イビルアイズを外へと切り離す。
「了解、ピンポイント・コーティング発動! マテリアル、お前の力を見せるのダー」
それを受けてレベッカのマテリアルが敵機に肉迫し、特殊能力を乗せたユニコーンホーンにて装甲を貫く。他のナイトフォーゲルと比べてガワの薄いイビルアイズは、交戦後まもなく片腕を失った。
「へぇ‥‥コイツ、結構耐えるじゃないか」
反対側では、同じく特殊能力を発動させた希明のマテリアルが、相手の牽制射をアブスタナットシールドで遮りながら強引に接近。更にディフェンダーでイビルアイズに強烈な打撃を与えていた。
「希明ちゃん、そのままスキにやっていいよ♪ コッチで合わせるから」
反撃を行おうとした敵機に、スナイパーライフルの銃弾を撃ち込むユキ。彼女は近くに存在するもう一機の敵機、ノーヴィ・ロジーナへと目を配らせるが、こちらは他の傭兵達が抑えていた。
『チッ! まさか新型が4機とはな』
傭兵達が使用している周波数と違う帯域にて、アグレッサー部隊の誰かが毒づいた。彼らは新型機を優先に狙うことを想定していたようだが、それが敵の内の半数、それも前面に押し出てきたことで対処が遅れ、機先を制させてしまったのだ。
「格闘戦では‥‥ねッ!」
敵機の頭上で体を捻り、そのまま敵機の後方へと降り立ちながらディフェンダーにて相手の頭部を叩き割ったアヌビス。琉生は崩れ落ちる敵機の向こうに、未だ損傷らしい損傷を受けていないトクムのイビルアイズを確認し、すぐに機体を反転させた。
「うわっ、レーザーか!?」
コンソールの表示が一撃で想定以上に赤く染まった。
機先を制され、数では最初から負けているアグレッサー部隊には、市街地北部を防衛する力は残っていなかったが、最後に残ったウーフーが一矢報いてきた。非物理兵器に対する有効な手はマテリアルにはない。仕方なしにレベッカは一旦機体を後退させる。
「砲狙撃支援、開始‥‥。クラリッサさん、よろしくお願いします‥‥」
「了解。ここは私達の班がやらなければなりませんわね」
敵中に非物理兵器を確認したイスルは、クラリッサと合わせて支援先をそちらへ絞る。獣じみた瞳孔に変わった彼の瞳には、この地域に僅かに存在する障害物の陰から、こちらを窺っている敵機がいた。
クラリッサのノーヴィ・ロジーナはマテリアルより更に非物理兵器に弱いが、射程で大きく敵に優っている。既に他の敵機はほぼ戦闘能力を失っている。無理に接近してくるようなら、こちらの少しは被害が出るだろうが、フリー状態の味方機の集中砲火ですぐに止められるはずだ。
「さすがに同じプチロフ製だけに、砲戦仕様のロジーナとよく合いますわね」
「‥‥ごめんね、でも狙い撃てる状態になったから」
対戦車用の砲弾が障害物の端を削って直進し、敵機を捉える。身を十分に隠せるものを失った相手は、続いて放たれたレーザーガンをその身に浴びて動きを止めたのだった。
「しかし妙ですね。ウーフーももう少し早く戦闘に参加してくると思いましたが」
橋頭保確保のために、市街地内部から敵部隊が侵入してこないかを警戒する傭兵達。そんな中で、その疑問を口にしたのはやすかずだった。
傭兵達はまだ知らないが、アグレッサー部隊が想定を外されて体制を立て直すのが遅れたというのは、ある。しかし、それにしてもウーフーの戦闘参加タイミングは遅かった。
「遊馬、死んでもイビルは守れ。どうせ、向こうもイビルとウーフーは狙ってくるんだ、アテにするさ」
「了解。任せといてよ」
「やれやれ。こっちとら、支援と自衛に徹するしかないか?」
自分達の編成を思い返し、希明が仲間に呼び掛けると、琉生からは元気のいい返答が返ってきた。トクムも、仕方ないといった感じながら、自分の機体が部隊中でどの位置にあるかは認識していた。敵に何か策があるのか判らないが、部隊の中核となるイビルアイズとウーフーの防衛はしておいて間違いがない。彼女はそう判断したのだ。
時間が過ぎる。橋頭保を確保したと見なされる時間が過ぎる。これより市街地の制圧に向かわなければならないが、敵の狙いが判らないため、傭兵達はいつもよりも警戒しながら市街地へとナイトフォーゲルを進ませていったのだった。
●廉価量産機 対 電子戦機
「レベッカさん、計測器の反応は?」
「ダメだな、さっきから誤反応ばかりだ」
やすかずとレベッカの班は、地殻変化計測機の設置と回収を繰り返しながらじっくりと市街地を進んでいた。しかし、地中に比べて地上では紛れとなる反応が多く、期待していたような効果は得られなかった。
「こっちのレーダーには反応なし、まだ射程外ではあるが‥‥」
トクムの言う『射程』とは、イビルアイズの特殊能力のこと。ロックオンキャンセラーの効果を発揮させるには距離という条件の他に、自機のレーダーにて相手を捉えているという条件をクリアする必要がある。さて、どうしたものか‥‥と傭兵達が悩んだ矢先に、前方100m程の位置にイビルアイズが脇道から主道に躍り出た。
「チッ、あっちも戦車砲か! ユキ、援護してくれ!」
遠距離からの砲撃。回避のためのスペースが限られるこの状況では、この距離であってもそう命中率が低下しない。相手は一機、罠があるかもしれないが、睨み合いを嫌って希明はマテリアルを突進させる。特殊能力で強化されたシールドは大幅にダメージを軽減してくれていた。
その鬼のような気迫に満ちた横っ面をはたかれたのは、その直後だった。
「なにっ!?」
交差点に機体が差し掛かった丁度そのタイミングで、横から砲撃を受けたのだ。希明はすぐさま機体を後退させ、そして道の端へと寄せる。
「希明ちゃん!」
そうして出来た反対側のスペースから、ユキが銃弾を相手に向かってバラ撒く。追撃をかけようとしていた敵機の足が止まる。しかし、先ほどの射撃のタイミング、こちらの機体が交差点に入ったのを見てから撃ったのでは間に合わないはずだ。
「くっ、やはり待ち伏せが!」
「レーダーに一気に反応が6つ、タイミング揃えてきやがった!」
体勢を立て直すために後退。交互に引き下がるという機動を繰り返し、やすかずとレベッカは素早く包囲されたこの状況から脱していく。
「クラリッサさん‥‥」
「ええ。皆聞いて、先程と同様の行動を行える交差点はそう多くないわ。送ったデータの‥‥」
クラリッサが煙幕を張って、部隊の後退を支援。そうして一段落したところでイスルからの催促を受けて、彼女は事前に調べておいた市街地の地図を基にして、相手が同様の行動を仕掛けてくることのできる地点をピックアップして仲間達に送る。
しかし、先程の事は希明のミスなどではなく、ただのキッカケであったことをこの後傭兵達は知る事になる。
「ユキ! ロジーナだ!」
「合図で援護射撃開始! いくよ? ‥‥3、2、1、GO!」
高分子レーザー砲に武器を切り替え、トリガーを引く希明。回避性能に劣るノーヴィ・ロジーナを確実に捉え、ユキの通信に合わせて機体を道の端に寄せる。空いたスペースから完璧なタイミングでレーザーバルカンからの弾が飛ぶ。しかし、それは相手を捉えなかった。
(「ロジーナが回避を!?」)
一瞬同様したが、相手の反撃をシールドで受け止める事には成功した。
(「115mmを撃った時点で陰に‥‥!」)
クラリッサは150mmに武器を切り替えたものの、トリガーを引く事は出来なかった。
「忌々しいですわね」
牽制射をする必要のないノーヴィ・ロジーナはなんとか削り墜とせているが、A班のことといい、クラリッサのことといい、妙にこちらの攻撃や狙いを外されることが多い。
「くぅ〜 狭いんだよ、ここーッ!」
それでも、傭兵達の2機ペアによる連携は見事なものだった。市街地北部の橋頭保確保がスムーズにいったのがその証拠だろう。しかし、移動可能なルートが大きく制限される市街地内部では、2機以上での連携を行うことができなかったのも事実。
「後は任せる! これ以上のロックオンキャンセラーは無理だ! 弾幕を張らせてもらう!!」
互いにウーフーが存在するため、最初から差がつくことは無かったが、トクムのイビルアイズが特殊能力を使えなくなったところで、もう流れを遮ることはできなくなった。マテリアルはその特殊能力を封殺されることになる。
「くそっ! 普段より反応が鈍い!」
ユニコーンズホーンが空を突く。やすかずのマテリアルがガトリング砲で弾幕を張ることで、一旦レベッカの機体と敵機は切り離されるが、その直前に一度ディフェンダーが彼女の機体を捉えていた。
「2方向から‥‥!? C班‥‥東の相手を迎撃‥‥!」
「了解!」
「R−01ベースだから斬り合いも出来るはずだが、出来ればやりたくないものだね」
障害物は移動ルートと共に射線も遮る。2対3、2対4といった状況を何度も作られ、傭兵達は少しずつ追い詰められていき、ウーフー1機、イビルアイズ2機を残して、新型機が撃墜されること避けるために傭兵達は撤退を選択することになったのだった。
●評価終了
「まだまだだな傭兵。外で戦ったら、中の連中には武器と機体特徴は伝わるもんだぜ」
これは、傭兵とアグレッサー部隊との会話中にあったもの。普段、キメラやAIによる機体との戦闘ばかりであったため、傭兵達が失念していた事だろう。戦闘中、思ったより傭兵の攻撃が当たらなかった場面が何度かあったが、このせいだろう。
こうして、コンペティションにおけるマテリアルの模擬戦闘は終了した。
評価項目以外の特記事項として、出撃準備に要する時間や戦闘後の整備に要した時間は事前情報通りに優れていたことや、参加した傭兵の半数が新機体に搭乗を選択するほどの機体であることが報告された。廉価な汎用機としては十二分にアピールできただろう。
しかし、一方で電子戦など搦め手に対して機体側で対応が厳しく(ブースト使用という手もあるが、長所である良燃費性が潰れてしまう)、電子戦対応機と併せて運用することや、機体自体に対応手段の必要性が示唆される結果となった。