●リプレイ本文
●反転守勢
突如、ガリーニンまで伸びた閃光。しかし、その一撃程度ではガリーニンが落ちることなど有り得ない。威嚇射撃がマグレ当たりした事によって起きた混乱から立ち直ったガリーニンは、従い飛ぶ8機のナイトフォーゲルへと迎撃指示を出す。
(「僕たちが抑えるから‥‥ガンバ‥‥」)
「数が多い上に新型‥‥皆さん、気をつけて行きましょう!」
シェスチ(
ga7729)のワイバーン、『クドリャフカ』がファイナ(
gb1342)のS−01H、『ホワイトナイト』とロッテを組む。彼らだけでなく、出発前に戦場への初配備前となる新人と顔合わせしていた傭兵達は、堅さの取れないその時の彼女の様子から、今も一人だけ混乱から立ち直っていないだろう事を容易に予想していた。
『敵機中に一機、本星型を確認しました』
「‥‥新型付きの編隊とはな」
敵機襲来に気づいてすぐにウーフーの強化型ジャミング中和装置を起動させた御山・アキラ(
ga0532)は、機体を反転させきらずにガリーニンから離れないように飛ばせる。
(「オペレーターが動じたらお話になりませんよ、杏ちゃん」)
そして、藤田あやこ(
ga0204)は高度を取って通信士が伝えてきた本星型ヘルメットワームを含めた敵編隊を見下ろす。
「未帰還機は0にしたいものだな」
隊の中で、水円・一(
gb0495)が最後に迎撃体制を整える。ディスタンは耐久性に優れる反面、機動性に劣る。ここはまだウダーチナヤから遠く、競合地域。彼は、下手に墜とされれば機体や搭乗員の回収は困難となることを予想していた。
●500の返礼
「ガリーニン護衛の任務を果たす為に、ここで落とされる訳にはいかないんですよねぇ〜」
敵編隊からの再度の威嚇射撃。しかし、今度は一発もこちらには被弾しない。
「と言う訳で、招かれざるお客さんは速やかにお引き取り下さいね」
威嚇射撃のプロトン砲を散開して回避した傭兵達。そして、こちらの有効射程にまで潜り込むと、髪を逆立たせた乾 幸香(
ga8460)は敵編隊の中央部ではなく外側の敵機へ照準を合わせ、ロケット弾ランチャーのトリガーを引いた。
「まずはサポートに回るわ。春花、決めて」
同じく紅 アリカ(
ga8708)も、敵編隊中の外側の敵機へ高分子レーザーライフルを撃つ。黒から赤へと変わった彼女の瞳には、編隊を崩すどころか更に結束してこちらへと向かってくるヘルメットワームの群れがいた。
「分かったよ! PRM起動、シューティングモードセット‥‥K−02フルファイヤ!!」
夕凪 春花(
ga3152)のシュテルンから放たれる計500発のミサイルが、小さくかたまった敵編隊へと襲い掛かる。先ほどの二名の傭兵による攻撃は、この派手な威嚇射撃の返礼を最大限に活かすための布石だったのだ。
「これだけ多くとも、一つ一つ潰せば‥‥まずはお前だ」
編隊を崩して回避に専念するヘルメットワームの一機に、一はディスタンを食いつかせると、ヘビーガトリング砲から無数の銃弾を浴びせながら更に接近し、高初速滑腔砲でトドメを刺す。
「あたしの目の前に飛び込んでくるなんて‥‥そうですか、墜とされたいんですね?」
無数のミサイルから逃げ惑い、被弾しながらもやっとのことで切り抜けたヘルメットワームを待っていたのは、螺旋状の弾頭だった。幸香のイビルアイズから放たれたそのミサイルは、装甲を抉ってその身と相手を爆散させる。
「私の刃からは逃げられない、墜ちてもらうわ」
アリカも僚機の戦果に負けじと、レーザーライフルで相手に機体を左に振らせると、その空へと機体を疾らせてソード・ウィングで仕留める。
次々と敵機を撃墜していくように見えた彼等だが、墜とせたのはその3機だけで、その3機も春花のシュテルンから放たれたミサイル群に大きな被害を受けた機体だ。序盤の戦果に油断せず、引き続き戦闘に当たろうとした彼等の脇を閃光が駆け抜ける。
「チッ!」
その閃光に続いて抜けようとした敵機に一はAAMを照準を合わせたが、トリガーを引く直前に背後からの衝撃を受けて目標をロストする。
「一さん! 無理をせずに直衛の人達に任せましょう」
ディスタンの背後についたヘルメットワームをG放電装置で払い、春花が通信に乗せて言葉を飛ばす。
「‥‥本星型も含めて4機ほどが抜けた!」
それを受け、一は機体のチェックを行いながら、ガリーニン付近を飛ぶ味方へ敵機が抜けていったことを報告するのだった。
●不覚と好機
「え? 嘘? 全部こっちに!?」
4機のナイトフォーゲルを抜けた敵機は、そのまま高度を上げてその先にいるアンジェリカを目指す。
「チッ、本星型の乗っている者の指揮か? 思い切りのいい」
おそらく、一機だけ高度を取ったために孤立しているあやこの機体を集中攻撃で落とし、そのままこちらの頭を超えてガリーニンへとダイブするつもりなのだろう。相手の行動からそう狙いを読み取ったアキラは、シェスチとファイナに急いで阻止するように伝える。
「シェスチさん、僕が先に行く‥‥援護を」
「了解、行かせない‥‥!」
それを受けて即座にブーストを起動させたファイナが、一瞬遅れでシェスチが、2機の白いナイトフォーゲルが空高くを目指して駆け上がる。
慣性制御を行えるヘルメットワームと違い、ナイトフォーゲルでは高度を稼ぐのは容易ではない。この状況で通常の戦闘速度で空へ駆け上がる相手を追おうとすれば、相手の数からして返り討ちに遭うのはほぼ間違いない。
「ぐ‥‥自分の機体とはいえ、ものすごい加速だ‥‥」
能力者でなければ耐えられないG。それを受けながらもファイナはスラスターライフルの照準を敵機の内の一機に定め、トリガーを引く。『ホワイトナイト』から放たれたその銃弾の全てが相手を捉えたわけではないが、回避の為に推力を取られた相手は、他の機体に追随するのが不可能となる。
「行かせないって言ったろ‥‥」
そして、敵の航路と交差するように駆け上がったシェスチの『クドリャフカ』が、ソードウィングにて敵を斬り裂く。撃墜までのダメージではないが、その衝撃は相手の足を止めるのに十分だった。これで、あやこに向かっている敵機の数は3機。だが‥‥
(「ええと、流れ弾を防止するためにガリーニンを背に‥‥」)
一度に対処できる数を超えた相手に動揺したのか、最初からそのつもりだったのか、あやこの機体は高度を落として敵機・自機・ガリーニンを一直線上に並べてしまう。
「何をしている藤田、その位置取りでは‥‥!」
アキラが叫んだ時にはもう遅かった。高度を速度に変え、普段より若干回避性能を高めたアンジェリカは敵の一斉攻撃の大半を避けたが、避けた先の空にはガリーニンが飛行していた。
『右翼に被弾! 損傷自体は軽微ですが、右翼エンジンの内一基からの反応が消えました!』
『左翼エンジンの出力を落とせ! それから、前面に出ている傭兵の半数に直衛班と合流するよう指示を出せ!』
この程度の被害は慣れたものなのか、機体バランス維持のための指示と防衛のために指示を即座に飛ばすガリーニンの艦長。桃乃木・杏(gz0240)も威嚇射撃が当たった時とは違って取り乱さず、正規通信士が傭兵達へと通信を行う様を見ていた。
(「牽制をしているような状況ではないか‥‥!」)
先程のプロトン砲の雨に続き、そのままガリーニンへとダイブするヘルメットワームの前にウーフーを躍らせたアキラは、回避するそぶりも見せずに8式螺旋弾頭ミサイルを次々と発射する。それは確かに相手を捉えるが、ウーフーもまた相手に捉えられる。だが、この状況で避ければあやこの時と同じだ。
「さっきはごめんなさい! 加勢するわ!」
ブースト空戦スタビライザーを起動させ、相手の脇腹をつくような位置から高分子レーザー砲を放つあやこのアンジェリカ。しかし、その結果は‥‥
「あれが例の‥‥!」
本星型と交戦した者が見た新型のフォースフィールド。通常のヘルメットワームは先程のアキラの攻撃と今回のあやこの攻撃によって足を鈍らせたが、もっとも厄介な相手は構わずにガリーニンへの直進を続け、ガリーニンは数回目のプロトン砲を、今度は全身に浴びた。
翻り、再度のアプローチを行う本星型ヘルメットワーム。
「今度こそ‥‥捕まえたっ!」
それを制したのは、シェスチ!
「‥‥なんてね。本命はこっちじゃない‥‥よ」
ではなく、彼に続いて飛来し、スラスターライフルの銃弾を天空より降り注がせたファイナ!
「‥‥捉えたよ、新型‥‥!」
現在の相手は新型のフォースフィールドを展開していなかったのか、その攻撃は敵機にクリーンヒットしていく。
(「あまり無理はできないが、いけるか‥‥?」)
G放電装置に主兵装を切り替えながら、前面に出ていた味方機とあやこの機体が本星型以外のヘルメットワームを抑えてくれている事を確認したアキラ。先程交差した時に受けた損傷は無視できないが、目の前には好機が転がっている。本星型にここまで接近されるという不覚はとったが、それゆえに相手は敵陣深くまで切り込んでいるため容易には撤退出来ない。
「いや、撤退などさせるものか」
口調こそ抑揚のないものであったが、スクリーンの先の相手を強く見据え、彼女はウーフーを疾らせる。それにシェスチとファイナも追随する。数回の交差の後に訪れた結末は、地に墜ちてゆく一機のヘルメットワームと、その姿を受けて撤退していく残りのヘルメットワーム達だった。
「こちらストライプ‥‥敵隊長機撃墜しました」
大規模作戦の折に初めて姿を見せたその新型を墜としたのは、『優しき酔人』の援護を受けた『黒微笑の護り手』だった。
●ウダーチヌイ到着
『傭兵の皆さん、お疲れ様でした』
「んん?」
各種報告を済ませ、元の編隊を組みなおして目的地であるウダーチヌイを目指す途中、ガリーニンから正規の通信士とは違う者の声が聞こえてきた。聞き取りやすい、良く通る女性の声だ。
「ひょっとして、杏さん?」
シェスチが疑問を口にする。
『はい。正規通信士の治療が済むまで、私がオペレーティングを行います』
(「ブリッジ付近には被弾していないように見えるが‥‥?」)
一は少し疑問に思ったが、実際には彼女の脇には正規の通信士が控えている。後日の記録にも『被弾時に負傷した通信士の手当てが済むまでの代理』として残っているが、どうやら正規通信士の計らいで一時的に交代してもらっているようだ。
「桃乃木さん、サポートよろしくお願いしますねっ」
だが、春花を始めとした傭兵達にはそんな事は結構どうでもいい。先程、競合地域を抜けて人類側の勢力圏内には入った。ウダーチヌイも、もう目と鼻の先にあるぐらいの距離だ。出発前に知り合い、年代も近いということでもう少し言葉を交わしてみたかった彼女と傭兵達は、到着後の約束をした。
「聞いたわ〜。杏ちゃんも私と似たような家庭なんだってね」
あやこが人数分の飲み物を淹れて持ってくる。
昔はバンドをやっていて担当はキーボードだったとか、飼っているルナという名前の仔猫の話だとか、任務以外ではドジを踏む事も多いとか。傭兵達はそんなとりとめのない話を新米通信士としながら、ラストホープへの出立の時間を待ったのだった。