●リプレイ本文
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開園前の遊園地。
現地に到着すると、イスル・イェーガー(
gb0925)は観覧車等を珍しげに眺めた。
「‥‥遊園地‥‥いったことないんだよね‥‥」
普段そっけない態度の多い彼だが遊園地への興味は隠せない。
そんなイスルの横で、ティル・エーメスト(
gb0476)が楽しそうな笑みを浮かべ
「イスル様は、遊園地は初めてなのですか? 僕は久しぶりなのです」
と、明るい声で話しかけた。『楽しみですね』との言葉に首を縦に振るイスル。
「私も初めての遊園地です」
アンジュ・アルベール(
ga8834)も優しげに微笑んで二人を見た。
事務所の中に入ると、8人はそれぞれ遊園地の地図と護衛対象の写真をスタッフから受け取る。
人気子役というだけあって端正な顔立ちをした、金髪碧眼の可愛らしい少年がそこに写っていた。
「へ〜この子を影ながら護衛するんだ〜」
「人気‥‥か、確かにどこかで見たことある顔だな‥‥」
岩崎朋(
gb1861)が手にした写真を、都築俊哉(
gb1948)が覗き見て言う‥‥彼の手にも、同じ写真があるのだが。
又、神森 静(
ga5165)は年の離れた弟を見るように瞳を細め
「人気者は、忙しそうだから、たまには、はめを外すのもいいでしょう」
と言い、写真をしまうと小さく笑った。
「わたしはウェイトレスをしながら護衛をします‥‥服をお借りできますか?」
静の申し出に、スタッフは遊園地の中にある唯一のレストランで使用されているエプロンドレスを用意。
そしてオブライエン(
ga9542)が、銀龍(
ga9950)とスタッフを見て言った。
「わしと銀龍は警備員をしようと思うのじゃが‥‥丁度良いサイズの警備服があるかのう?」
「ん、警備員。がんばる」
そんな二人は身長2mを越える長身の男と、身長2m近い大きな娘‥‥服のサイズはやや心配されたが、無事ほどよいサイズがあったようだ。
こうして、人気子役の平和な一日を守るため、護衛ミッションは開始されたのだった。
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その日は休日ということもあり、遊園地は賑わいを見せている。
「わ‥‥賑やかで、楽しそうなところなのですね〜」
動き出したアトラクションの数々を目の当たりにして、アンジュが感嘆の声を上げる。
イスル、ティル、アンジュ‥‥と比較的年の近い少年少女らは、一般人客に扮しての護衛だ。
「護衛の子‥‥見つけないとね‥‥。変装してそうな子‥‥いるかな」
子役の子も気になるが、初めての遊園地‥‥周囲のあれこれが気になって仕方が無いイスル。
「アイスクリーム、買いましょう! お喋りしながら歩いていれば、いずれ見つかりますよ、きっと」
そして、アンジュに並ぶように歩くティルが言う。
遊園地の楽しみ方が分からぬイスルは、とりあえず二人について歩く事にするのだった。
「オブライエン、あれキメラ‥‥違う?」
広場でパフォーマンスを繰り広げるピエロを指して、銀龍はオブライエンに問いかける。
どうやら、彼女は昔『ピエロ型キメラ』と戦った事があるらしい。
「あれは人間じゃ、安心せい」
銀龍にそう答えつつ、オブライエンは子役の好きそうなアトラクションへと移動を開始した。
そして、一般客に紛れ込んでいるもう一組。
「あ、断っておくけど、あくまでも『カップル』を演じるだけよ? その辺誤解しないでね!」
と、顔を赤らめた朋は、俊哉の顔からやや視線を逸らしつつツンデレのような台詞を放つ。
どうやらこちらは『カップル』のふりをして、気づかれぬように護衛をする作戦だ。
「ああ、でもそれらしくはしないとな」
と、朋の言葉を受けて俊哉は手を差し出す。
しぶしぶ‥と見えて実は満更でもなく、朋はその手を握り返し、二人は手を繋ぐと客に紛れて子役の少年を探し始めた。
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『子供のすることですから、簡単な変装ですよ』
‥‥と、オペレーターの言葉が脳裏に浮かぶ。
しかし、護衛開始から30分、能力者達は未だに護衛対象を見つけれずにいた‥‥。
「本当に‥‥簡単な変装なのでしょうか」
ベンチに腰掛けたアンジュはやや疲れたような色を浮かべ、ティルに手渡されたカップのアイスクリームを口にする。
意外にも帽子を被った子供は多く、金髪の子供もちらほら居たり、時間が経過するにつれ増えていく客足は予想以上で3人は少し参った様子だ。
「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします」
一方レストランでウェイトレスをしている静は、魅惑のスマイルを浮かべつつ接客をしていた。
――そこへ、ゆるいウェーブのかかった長い金髪に、鍔の広い帽子を被り、綺麗な青い瞳を持った少女が現れた。
少女はワンピースを着て軽やかな足取りで、イスに座るとメニューを眺める。
「‥‥パフェがいいな」
注文をするその声は、少女のものにしては少々やんちゃっぽい気がする‥‥静は少し身を屈めると、真剣にメニューを眺める少女の顔を覗き見た。
(「‥‥あら?」)
よくよく見ると『写真の少年』に顔がそっくりである。
(「‥‥ということは、この少女の姿をした子が、人気子役の少年かしら?」)
静はニッコリ笑い、「かしこまりました」と少女に言ってメニューを下げた。
そして、厨房に入って注文を伝えると、客席からは見えぬようにこっそり無線機を取り出す。
「静です。子役の少年を見つけました―――」
「まったく女装してるなんて‥‥分からないはずだわ!」
静からの連絡を受け、朋は思わず空を仰ぎ見る――。
「今はパフェ食べてるみたいだから、しばらくは出てこないだろうな」
「レストランね‥‥私達も移動しましょうか。私もパフェ食べたいな〜ねえ、トシ。いいでしょ?」
と、最初手を繋いだときの躊躇いもどこへやら‥‥朋は俊哉の腕を絡めとると、リードするように歩き出した。
女装をした子役少年が、帽子を深く被りなおしレストランの入口ドアから姿を見せる。
「‥‥ぁ‥あれって‥‥。ねぇ、アンジュ、ティル‥あの子って‥‥」
イスルがティルの肩を叩き、少年へと視線を送る。
「‥あの子ですね。静様の言われた通りの服装‥‥間違いないと思います」
とティルが言い、3人も本格的な護衛を開始する。
「あ、移動されるみたいですよ!」
3人もそれに続く‥‥。
移動途中、レールの上を派手な音を立てて滑るコースターに目を奪われ、つい目標を見失ってしまうティル‥‥。
「楽しそうです‥‥って、はれれ!? 見失ってしまいました‥‥」
「えと、私、見ていますので、お気楽になさっていて下さい?」
慌てるティルを見てくすっと笑うと、アンジュはさりげなくフォローを入れるのだった。
それから暫くして、子役少年は別のアトラクションの列に並ぼうとしていた。
「あれ‥‥どうやって乗るのかな‥‥」
イスルが呟いた‥‥少年が向かった乗り物には『二人組で搭乗して下さい』と書かれている。
空中ブランコのような乗り物なのだが、席が広く一人では危ないらしい。
どうするのだろうか‥‥とイスルが少年を見守っていると、列に並ぼうとしていた少年は急にクルリと向きを変えた。
その衣装のせいか、正面から見てもやはり女の子にしか見えない。
そして、イスルの方へ向かって歩いてくる少年。
(「‥‥見つかった?」)
護衛をしているのがバレたのだろうかと、イスルは慌たのだが。
イスルの前に立った少年は、顔を見上げるとニッコリと愛らしい笑みを浮かべて
「お兄さん、一緒に乗ろう?」
‥‥と、手を引いて誘った。
何故か拒めず列に並んでしまったイスルが、ティルとアンジュへと助けを求めるような視線を送る。
「‥‥え、イスルさんが連れていかれしまいました‥‥!」
「慌てなくても大丈夫でしょう?」
アンジュはそう言い、「私達も乗りませんか」とティルに向けて微笑んだ。
空中ブランコが動き出す――
――少年に声を掛けられたことよりも、初めて乗る遊園地の空中ブランコにやや緊張気味のイスルである。
「あれ、楽しそう。乗っていい?」
「さすがに警備服ではな‥‥夜を楽しみにするんじゃ」
「うん、夜に乗る。楽しみ」
銀龍は表情にこそ出ていないが、本当に楽そうな声色で言うと、風をきって回転するブランコを眺めるのだった。
その後、8人は適度な距離を保ちつつ護衛を遂行。
朋がうっかり迷子をひろっては親をさがしたり、小さなハプニングがいくつか起こったものの‥‥
特に不審者が子役の少年に危害を与えるような事は無かった。
――やがて閉園の時間となり、無事に任務は終了する。
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「夜の遊園地は、初めて来たけど、ライトアップして綺麗ね‥」
普段着に着替えた静が、雰囲気を変えた遊園地を見渡して呟いた。
能力者達の為だけに、特別に開放された夜の遊園地‥‥乗り物は全てライトアップされている。
がらりと雰囲気を変えたその場所では、楽しそうな音楽がいつもより控えめな音量で流れていた。
レストランでの食事を終えたティルとアンジュ、銀龍、オブライエン達は、早速夜の遊園地へと繰り出した。
「夜の遊園地、真っ暗と思っていた。でもキラキラしてて星いっぱいあるみたい」
銀龍もライトアップされた遊園地を見て、嬉しそうに目を細める。
ティルはアンジュに手を差し出し、アンジュはそれに応えるように
「では、エスコート、お願いしますね」
と微笑みカーテシーをする。
「アンジュ姉様、あのジェットコースターへ乗りましょう!」
「はい。それでは行きましょう」
ティルがアンジュの手を引いて歩き始める‥‥。
二人の後ろを銀龍と共に歩きながら、雰囲気を壊さぬようにと見守るオブライエン。
そして。
ループだらけのコースターやインバーテッド・コースター、その他絶叫マーシンに繰り返し乗るのは俊哉と朋だ。
「やっぱり絶叫マシーンよね♪ トシ、次はアレに乗りましょ!」
‥‥と、朋が指差す先はまたもや絶叫系アトラクション。
「またあれか‥‥髪に変な癖がつくぞ?」
強烈な風の抵抗を受けて、俊哉の髪はかなり乱れていた。まめに直してはいるが、追いつかない。
「そんな事気にしちゃだめよ」
「‥‥ほら、朋だって」
と、ポニーテールに結わえた朋の髪がやや乱れているのを直してやる。
朋は「ありがと‥」と小さく呟いたが、照れ隠しなのか急かすように絶叫マシーンへ向かって歩いていった。
一方。
「‥‥あ、あんたも‥お化け屋敷‥‥?」
「あら、意外ですか?」
お化け屋敷の入口で、静とイスルは鉢合わせする。
「ここのお化け屋敷はなかなか凝っているらしいですから‥‥」
「‥‥そう」
イスルは古びた洋館のような建物を見上げる‥‥。
「折角会った事ですし、恐怖を分かち合いましょうか?」
「‥‥僕も?」
『ええ』と静がこたえ、二人は『かなり怖いらしい』お化け屋敷へと突入した。
その後、たこ焼きを買ってもらった銀龍とオブライエンが歩いてやってくる。
「遊園地で食べる物、普段より美味し‥‥ん、美味しい」
「良かったのう‥‥うん? これがお化け屋敷じゃろうか」
「お化け屋敷? 行きたい、いい?」
銀龍の言葉に頷くオブライエン。銀龍自ら”行きたい”というのは珍しい事だった。
「銀龍、おばけ見るの初めて。楽し‥‥ん、楽しみ」
表情は変わらずとも、オブライエンを急かすように屋敷に入る姿はやはり楽しそう。
そしてもう一組。
ティルの行きたそうなアトラクションを見ては「行きたいです」と言っていたアンジュだったが、少し悪戯をしてみたくなる。
彼がお化けを怖がるのを承知で、お化け屋敷へとやって来たのだ。
「次はあの建物に入ってみたいです」
「‥‥あれ、ですか?」
怖いから遠慮したいティルであったが‥‥アンジュ姉様が行きたいのならばと気を引き締めて屋敷へ突入。
ほぼ真っ暗な屋敷の中で、6人は様々な顔を見せながら探索を始める。
「わ‥‥少し‥びっくりした‥‥」
最初は物音や突如降ってくる人形等に驚いていたイスルだったが、徐々に慣れ始めて少しずつ楽しくなってくる。
イスルの少し先を歩いている静は、余裕の表情だ。
そして銀龍達は
「ん‥‥おばけ? こんにちは」
お化けに扮したスタッフに思わず挨拶。隣でオブライエンが笑いを零す。
――さらに賑やかなのは、最期に入った一組。
「ひい、お化けは怖いですー!」
小さな物音やお化けを模した人形にも大げさなくらい反応するティル。
アンジュはそんなティルの手を確りと握り返して、クスクスと笑った。
「とっても、良くできていますね〜」
お化け人形を褒める彼女は、ティルよりも断然平気そうであった。
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遠くから見て一番綺麗だったから――と、銀龍の希望で観覧車へ向かう4人の姿。
「皆で乗りましょう」
と、ティルとアンジュが先に乗り込み、続いてオブライエンが――
「おっと、タイミングがあわんのう」
動く観覧車に乗り遅れ、銀龍と共に後続の席へと乗り込んだ。
もちろん、乗り遅れたのは若い二人に配慮しての事。
「中から外見ても綺‥‥ん、凄く綺麗」
銀龍は窓の外を眺めて呟く‥‥全てが新鮮で美しく、彼女の瞳に焼きついた。
「もう少しで、迎えの移動艇が来る時間ですね‥‥ずっとこうしていたいです」
観覧車の中、アンジュを見つめてティルが言う。
二人の静かな時間が流れる中、不意に空気が震えた‥‥
―――ドーン!!
ティルとアンジュは、大きな爆発音に驚き観覧車の外を見る――
「あ‥‥見てください、アンジュ姉様!」
「まぁ、綺麗‥‥です」
観覧車の窓よりまだ高く‥‥
大きな音と共に、星が輝く夜空に広がる大輪の華‥‥花火だった。
―――ドーン!!!
‥‥二発目が打ち上げられる。
「‥‥すごい。オブライエン、あれ、何?」
「ほう‥‥花火とはな。粋なことをしおるのう」
銀龍の問いに、咲いて消える華を眺めながら答えるオブライエン。
「‥‥まるで‥‥お祭りみたいだね‥‥」
静の手からジュースを受けとり、イスルはそれを飲みながら空を見上げた。
「始めどうしたらいいか‥わからなかったけど‥‥楽しかった」
「そうですね、花火はびっくりしましたけど」
観覧車からの眺めも良さそう‥‥と、静は花火を見上げつつ観覧車へと向かう。
「この音は‥‥花火?」
時同じくして、観覧車に乗っていた朋達も音に気づき窓の外へと視線を向けた。
「こんな高い位置から見る花火も良いな」
「素敵ね‥‥ふふ、沢山遊べて楽しかったし、上手く護衛もできて良かったわ」
花火を眺めながら嬉しげな顔で言う朋の横顔を、俊哉は目を細めて見つめた。
一応『カップル』であるのは今日一日だけ‥‥終わりが近づくと、少々複雑な気持ちになる。
「また、任務以外でも行けたらな‥‥」
『また行きましょう』
それはティルとアンジュも約束し、銀龍やオブライエンもそう思っていた。そして、静も。もしかしたら、イスルも‥‥
最後の花火が大きな音と共に、澄んだ秋の夜空に咲いた。
――この一日が、能力者達の良き思い出となりますように。