●リプレイ本文
●上陸
中村・恭華(gz0232)が持参した島の地図を手に、能力者達は作戦を確認していた。
「たった一日だけの里帰り、かぁ」
丘の上に立つ老木を思って、美崎 瑠璃(
gb0339)は小さく呟いた。
自分には『望郷の念』というものがピンと来ないのだが、それでも島の人達が安心して戻れるように、という気持ちはしっかりとある。
「キメラの数が分からない以上、見つけたら目印をつける必要がありますよね」
ペイント弾でのマーキングを提案した田中 直人(
gb2062)に、ごめんと手を合わせたのはメアリー・エッセンバル(
ga0194)だ。
「ごめんねっ! 桜の状態が気になっちゃって、ペイント弾持ってこられなかったんだ」
「あ、いえいえ。ある人だけで構わないっすよ。とりあえず、俺は銃にペイント弾装填しておくんで。目印つけたら無線で連絡しますし」
「それじゃあ、私は民家の捜索をしますねー」
おっとりと、けれどどこか芯の通った口調で告げた澄野・絣(
gb3855)の手には、提灯が握られていた。
「臆病なキメラなら、ラッパ銃の音とか効くんじゃないかな、って思うんです」
橘川 海(
gb4179)は直人と一緒にぐるりと島を一周しながら、キメラの捜索を行うと提案する。
「なら、俺は民家捜索班にするかな。丁度、ランタンも持ってるし」
「俺も民家捜索にしよう」
天原大地(
gb5927)の挙手の後、恭華の頭を軽く撫でて手を挙げたのは堺・清四郎(
gb3564)だ、
「早くこの島の人たちが帰郷できるように、頑張らないとな」
その言葉に、恭華はこくりと頷く。
「えっと、それじゃあ私は、メアリーさんと一緒に丘に行きますね!」
クラウディア・マリウス(
ga6559)は双眼鏡を持った手を軽く挙げた。
小さな島の中で、損傷の無い民家については捜索対象から外しても大丈夫。
森も、島の規模から考えるとそう大きくもないだろうと話は続き、そうなったらキメラが逃げ込みそうな所は限られてくる、という結論が出た。
「丘から基本動かない私達はいいけど、他のメンバーは動き回るんだよね? なら、戦闘に使わない荷物は、私たちが預かろうか?」
メアリーの提案に頷いて、まずは直人がどさり。とひとつの鞄を手渡す。
続いて「お願いします」の言葉と共に、どさり。と瑠璃がひとつの鞄を渡す。
同じ様に「揺らさないように、頼む」と清四郎がどさり。とひとつの鞄を。
計3人分の荷物(戦闘には使わないが、取り扱い注意ではあるので乱雑には扱えない)を受け取ったメアリーが、一瞬顔を引き攣らせた。
「重っ!?」
予想以上の重さだったらしい荷物を一緒に持つべく、クラウディアが慌てた様子でメアリーへと駆け寄るのだった。
いざ、班分けも終わったところで、お楽しみ前の一仕事。開始だ。
●バイク班
島をぐるりと一周するようにバイクを走らせていた直人と海が、森の規模と詳しい位置を確認しつつ、キメラの捜索を行っていた。
もちろん、得た情報は無線を使って全ての班に知らせている。
「どうかなぁ、この森。キメラが棲み家にしてそう、かな?」
「そうっすね‥‥。せめて、こう、物音でも立ててくれれば、見つけやすいんですけど‥‥」
小さな規模の森とはいえ、木も草も生えている。
しかも、島民がいなくなったせいで、荒れ放題だ。
「それじゃ、やっぱり『コレ』の出番ですかね?」
そう言いながら海が取り出したのはラッパ銃。
臆病なキメラでありますように、と一瞬祈ってから、ラッパ銃を空に向けて引き金を引く。
凄まじい音と、少しの硝煙が上がったその直後。
ガサガサッと音を立てて、1匹のキメラが飛び出してきた。
「‥‥ウサギ?」
直人が首を傾げるのも無理は無いのかもしれない。
何故なら飛び出してきたキメラは、見た目こそ大きいが、まるで、そう。
言葉通り、ウサギのような外見をしていたのだから。
「っと、逃がすわけにはいきませんからね。橘川さん、連絡頼みます!」
ペイント弾を装填していた小銃の照準をキメラに合わせて言った直人に頷いて、海は視線をキメラから逸らさずに無線を繋げた。
「こちらバイク班。橘川です。ウサギ型キメラ、発見しましたっ」
「え、ちょっと待った! まだ出てくるのか!?」
1匹目にペイント弾を着弾させた直後、続いて飛び出してきた2匹目に銃口を向けながら直人が驚いたように声を上げる。
「数は‥‥ちょっと待って下さいね」
それ以上の影が飛び出してこないのを確認してから、海は無線越しに丘で待機しているメンバー宛も含めて連絡を続けた。
「数は2匹です。ひきつけながら、丘に向かいますねっ!」
「こちら、クラウディアです。了解しました。お気をつけて」
●民家捜索班
一方、バイク班がキメラを見つけたその頃。
手分けして民家を調査していたメンバーは、1軒の家の前に集合していた。
ほぼ廃屋と呼んでも差し支えないだろう家の中で、外から見て明らかに『荒らされて』いたのは1軒だけだったのだ。
「ガラスの破片が中に向かって飛んでますね」
「さて‥‥鬼が出るか蛇が出るか‥‥」
そっと窓から中を覗き込んだ瑠璃の言葉に、清四郎が小さく呟く。
「照明を持ってきて正解でしたねー」
手にした提灯を掲げながら言った絣と、ランタンを手にした大地。
まずは照明具を持ちつつ、相手の不意打ち時に対応する為に大地が入り、続いて清四郎、恭華、瑠璃、そして絣の順に家屋へと入っていく。
室内を一部屋ずつ確認して、最後の最後に突き当たった部屋の扉を開く前に、ふと全員が足を止めた。
「‥‥ここ、だな」
中から聞こえてくる物音から予想される数と、室内の狭さを考慮して大地はそっと手を振って他のメンバーを近くの窓から外へと出す。
全員が外に出た事を確認して、大地はランタンを持った手とは逆の手に蛍火を構え、扉を開け放った。
「数は!?」
「ちょっと待った。今外に引っ張り出すからよっ!」
なるべく家を壊さないように、キメラを誘いながら外で武器を持って待機しているメンバーの下へと、駆ける。
もちろん、後ろからキメラが追いかけてきているのは確認済みだ。
「いち、に、さん‥‥全部で3匹ね」
覚醒した絣が、提灯を傍らに置いて長弓の弦を引く。
前衛メンバーも其々の武器を手に、攻撃態勢に入っている。
駆け出して来た大地と入れ替わる形でキメラへと駆けていったのは清四郎だ。
「無粋なキメラだな‥‥」
一気に駆け込み、そのスピードも使って抜刀する。
ペイント弾の込められた銃を手にしながら、瑠璃が無線に向かって声を上げた。
「こちら民家捜索班、美崎です。キメラを3匹確認しました。このまま戦闘に入ります!」
●バイク班&丘班合流
キメラ2匹を引き付けながら、海と直人が丘で待機しているメアリーとクラウディアの元へと到着した。
「おまたせっ!」
ブーストを利かせて疾風のように滑り込んだ海が、声を上げてAU‐KVを装着する。
直人の背後からは、ペイント弾が着弾してまだらに色のついたキメラが2匹。
「あんまり桜に寄り付かないでほしいなっ」
「星よ、力を‥‥」
エーデルワイスを手にそう言ったメアリーの後方、クラウディアが超機械を手に小さく呟いてからスキルを発動した。
「星の加護を!」
淡く光るメアリーの武器を確認して、クラウディアは桜の木を背に立ち位置を取る。
ちょこまかと動き回る敵を捕らえるべく、AU‐KVを装着した直人がショットガンをキメラの脚部目掛けて放った。
前衛の海も、アイムールをキメラに向かってなぎ払う形で振るう。
「あぁもうすばしっこい!」
スキルを発動させながら、キメラを木へと近づけないようにとメアリーが攻撃を加えていく。
「すいませんちょっと狙って撃ちますよっ!」
直人が狙いを定めて脚部を打ち抜き、そこにメアリーが駆け込む。
もう1匹には、海の攻撃で軽く飛ばされたキメラに向かって、クラウディアと海の二人が超機械を構えていた。
「クラウちゃん、いきますよっ!」
「はいっ!」
呼吸を合わせて攻撃を浴びせられたキメラが音を立てて倒れた。
「クラウディアさんの方も終わったんだね。それじゃ、こっちもそろそろ終わらせよっか!」
メアリーの言葉に頷いて、直人も攻撃を続ける。
2匹目が倒れて動かなくなった頃には、無線機からもう一方の戦闘状況が聞こえてくるのだった。
●民家捜索班・戦闘
3匹を僅かに散開させてから、それぞれ大地、清四郎、瑠璃が前衛として立つ。
「3匹もなんて、そんな‥‥」
「深呼吸しろ! 落ち着いて戦えばたいした事はない!」
少し慌てた様子の恭華に、鋭く、けれどどこか気を配ったような口調で言ったのは清四郎だ。
「は、はいっ‥‥」
かけられた声にしたがって深呼吸をする恭華を視界に入れた後、他のメンバーはほっと息を吐く。
そうは言っても敵の目の前なので、完全にリラックス。といわけにはいかなかったが。
3匹の距離を保つ為に、スキルを使って長弓から矢を放つ絣の援護を受けながら、前衛メンバーは其々の武器を手に敵を追い詰める。
「――悪ィね。その牙じゃ、俺の命にゃ届かねぇ」
スキルを発動させた大地が、一閃した蛍火で敵を切り伏せたその傍で。
次に敵を仕留めたのは同じく蛍火を武器にしていた清四郎だ。
「悪いがここに帰る人たちがいるんでな。お前たちの居場所は無い」
続いて3匹目。こちらはだいぶ落ち着いた様子の恭華をサポートしつつ瑠璃が敵を追い込んでいる。
「恭ちゃん、そっち追い込むからヨロシクっ!」
「分かりました。頑張ります‥‥!」
ぐっと拳を握った恭華を確認しつつ、瑠璃はスキルを発動させて敵を恭華の射程に入るように誘導していく。
「必殺! 瑠璃色の風・季節外れの春一番バージョン! ‥‥なーんちゃって♪」
わざとらしくそう言った瑠璃に小さく微笑を見せて、恭華は残った敵に向かって拳を振るうのだった。
●葉桜の下
島にはもうキメラがいないことを確認したメンバーは、桜の元へと集まった。
「もう、おじいちゃん桜、なんですよねっ」
海の言葉に頷いて、メアリーは手際よく桜の応急手当に入る。
「今出来る事って言ったら、差し木と取り木。それから肥料をあげる事、くらいかなぁ」
「はわ。散りかけでも、綺麗ですね。‥‥長い間、お疲れさま」
そっと幹に触れながら呟くクラウディアに答えるように、芽吹き始めた葉が音を立てて揺れる。
桜の根元では、直人や清四郎、瑠璃が持参した食事や飲み物を広げていた。
「ん、お花見にはちょっと間に合わなかったけど‥‥皆で食べるおべんとはおいしいから結果オーライ!」
「リクエストにお答えして、チラシ寿司持って来ましたよ。簡単で悪いっすけど、花見でもしましょうや」
「やった! やっぱりお花見にはちらし寿司よね!」
「任務中だから酒は出せんが、俺も料理を作ってきた。遠慮なく食べてくれ」
並べられていく美味しそうな料理に、全員でぱちんと手を合わせる。
「いただきまーす!」
散っていく桜の下で、季節はずれのお花見が始まった。
余興に、と絣の奏でる千日紅の軽やかな音に耳を澄ませながら、メンバーは楽しげに時間を過ごす。
どこか遠慮がちな恭華の皿に、海やクラウディアがこれも美味しい。あれも美味しい。と次々に乗せていったり。
慌てた恭華を眺めて小さく笑う清四郎や瑠璃がいたり。
帰りの船がやって来る直前の話。
ひとり、メンバーから離れていた大地は、そっと桜を見上げた。
はらはらと舞う花弁の中のひとつを掴んで、ふと視線を空へと向ける。
彼が追うのは、桜の花びらなのか、それとも――。
手のひらから離された花びらが、風に乗って他のメンバーの下へと流れていく。
「大地さーん。どうかしましたかー?」
聞こえてくる声に肩を竦めて、大地はもう一度だけ桜へと目を向けてから、先を行くメンバーと合流する為に歩を進めた。
今はまだ、戻らぬ島の住人達が、この桜の花を見る事は出来なくても。
いつかまた、戻った島の住人達が、この桜の花を糧に生きていけるように。
まずは、ひと段落。といったところだろう。
島の調査とキメラの捜索、退治ミッション、クリア。
その次の日。島の住人達は一時的とはいえ、自分達の故郷である島へと安心して帰ることが出来たのだった。
END
(代筆:風亜智疾)