タイトル:【AP】かつての友はマスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 6 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/04/20 23:45

●オープニング本文


 各国が領土を広げようと進軍を繰り返す戦国の世。
 ある戦場では長きに渡る戦いの末に両軍とも疲弊し、将による『一騎討ち』での決着が望まれていた。

 ――そして一騎討ちの舞台。
 女は長い髪をかきあげ、腰に下げた細身の剣をスラリと抜き、目の前に立塞がった男に言い放つ。
「まさか貴方と戦うことになるなんて‥‥」
「驚いたよ‥‥でも俺も部下がいるんでな」
 負けられねぇと、男も背中の長剣を抜く。

 かつて二人は、冒険者だった。
 夜遅くまで酒場で飲んでは、明日はどの魔物を退治するか、どこのお宝を探そうか‥‥と、相談をした。
 くだらない話もした、夢も語った。
『強くなって、どっかの国に仕官して、出世したい』
 ――そして二人の夢は叶った。
 ただ、仕える国が違っただけの事。

 刃を向け対峙する二人の口もとには、笑みすら浮かんでいた。
 『いつかこいつと刃を交えてみたい』と、戦士らしい願望を抱いていたからだろうか。

 この状況を悲観してはいない。だが決闘には、部下の命もかかっている。
 互いに負けられない状況のもと、戦いの火蓋は切って落とされた――。
 

(※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。)

●参加者一覧

木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG
堺・清四郎(gb3564
24歳・♂・AA

●リプレイ本文


 これは戦場に生きる武将達の、4つの戦いの記録。


【1】

「あ‥あれは『黒血の戦乙女』!」
 敵兵の一人が叫んだ。
 黒血の戦乙女。それは戦場での白雪(gb2228)を見て付けられた二つ名だ。
 しかし白雪は顔色一つ変えず敵を貫き、道を作る。

 いつからだろう‥傷つけるのも傷つけられるのも怖くなくなったのは。

 そう、怖くなくなった筈だった。敵陣の中に彼の姿を見つけるまでは。
「――あれは」
 燃えるような赤い髪。大剣で部下をなぎ倒していくその男は、貴族だった白雪を誘い、冒険者時代共に過ごした仲間、ディッツァー・ライ(gb2224)。
 彼は軍の士気を上げる為、盛んに声をあげている。

 戦いは続き、屍さえ踏み越えて二人はついに対峙した。
 現れた黒髪の人物に、ディッツァーは驚き目を見開く。
「お前ッ! 一体今までどこに居たんだ!? 心配していたんだぞ。突然居なくなりやがって‥」
 それは敵の将に言う台詞では無く、仲間にかける思いやりの言葉。
「‥今の私は、敵よ?」
 白雪は悲しげに目を伏せると、顔を上げて彼を真直ぐに見る。
「だから‥仕方ないよね。お互い、いつまでも昔のままじゃいられないもの」
 ――戦うしかないのだ、敵同士なのだから。
「私を未だに仲間だと思ってくれるなら‥剣を抜いて。じゃなきゃ‥私が貴方の命を奪うから」
 光槍ジュピターを持ち、低く構える白雪。戦う意思をかつての友へと突きつける。
「――くそっ」
 ディッツァーも、剣を構えるしかなかった。

 睨みあいが続き、先に動いたのは‥‥白雪。
「嘶け、天雷!」
 一息に間合いを詰め、鋭い突きを放つ。
 本気で命を狙った一撃を、ディッツァーは剣を盾にして凌ぐ――軍靴が土にめり込む程の強い衝撃。
 ‥その時ふわりと、金木犀の匂いが鼻腔を擽った。
「‥っ? 随分キツい香水使うようになったんだな?」
「――軽口は昔のままだね。今の貴方にそんな余裕あるの?」
 白雪は指摘を退け、再び鋭い一突きを放ち彼の肩当てを粉砕した。
 
 ――周りの誰もが息を飲むほどの、攻防が続く。
 二人の息が上がってきた頃、ディッツァーの一閃が白雪の腕を掠る。
「――!」
 迸るどす黒い血液。傷口から変色し、醜く崩れ落ちる白雪の右腕――。
「お前‥その腕‥‥何がどうなってんだよッ!?」
 ディッツァーの目が再び見開かれる。
「ああ‥ずっと隠してたのになぁ」
 白雪の攻撃から鋭さが消えた。まるで憑き物が落ちたかのような、静かな‥悲しげな表情。

 不死者の呪いだった。
 それは体を蝕み長年の時を経て魔物に変える呪い。
 呪いを解く方法は無く、死ぬかゾンビとなるのを待つしかない‥。

 だから白雪は何も言わずに消えた。彼の前から。
 腐臭を隠すために金木犀の香水をつけることが、日課となった。
 傭兵となり、誰かに殺されることを望んでいた――。

「‥なら、俺がその呪いを断ってやる」
 その言葉をきき、白雪は微笑む。
「‥ありがとう」
 白雪は重々しい黒鎧を外し友に背を向ける。
 ‥‥長い時間を挟んで。
 背後から、咆哮が聞こえた。

「ぐっ‥‥」
 背に刻まれた深い傷。黒色の鮮血を撒き散らしながら、白雪は地面に倒れこむ。
 けれど友の手が伸びたことを、白雪は朦朧とした意識の中で、感じた。
「どうか‥覚えていて‥忘れないで‥‥消えるのは‥怖いから」
 口から鮮血を吐きながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
 ――ディッツァーが頷いた。
 もう殆ど視力を失った白雪が最後に認識した、力強い姿。
「‥私楽しかった‥もっと生きて‥いたかった‥なぁ」

 深い眠りにつく白雪。
 彼女はもう呪われた者ではなく、一人の女性として、その命を全うしたのだった。


 
【2】

 悪魔と契約し手に入れた永遠の若さと力で、出合った敵は悉く皆殺しにし、死神だと恐れられる少女がいた。
「さ、行こー。一番頑張ったコにはご褒美あげちゃうよ♪」
 胸の谷間を強調しながらレイチェル・レッドレイ(gb2739)が言うと、部下の士気が上がる。

 そして乗り込んだ敵地では。
 逃げ出す敵兵の悲鳴が心地よく、レイチェルは大鎌を振りその手を、足を、跳ね飛ばしていく。
「ひぃ、た‥たすけ‥」
「‥どうしようかなぁ‥♪」
 命乞いする敵兵に、微笑むレイチェル。
 いつもなら構わず殺してしまうのに、今日は戯れに、ある賭けをしてみようと思った。

 それは撤退をかけた、一騎討ち。

 ――部下に護衛され、敵兵の将がレイチェルの前に現れる。
 相手は狼獣人の佐倉・咲江(gb1946)だ。
「がぅ!? レイチー‥なの? どうしてそんな格好‥」
 初対面では無かった。
 かつて冒険を共にし、恋人のようだった二人。
 しかしレイチェルは変わり果て、背と頭には悪魔の羽‥‥契約したのだと、咲江は気付く。
「ふふ、より強く、より美しく‥そうある為に最適な手段を取ったまでだよ」
 レイチェルは素直に、再会を喜び。
「サキも、ボクと一緒に来なよ? 昔のように‥ううん、昔よりももっとずっと愛してあげるからさ♪」
 甘い誘惑。
 だけれど咲江は頑なに首を振った。
「私は、行けません。‥もう昔のように戻れないなら、せめて私の手で一思いに眠らせてあげます‥!」
「残念だよ‥‥サキ。せめて、そのカラダだけでもボクのモノにしてあげる」
 ――それが戦いの合図となった。

 リーチを誇るレイチェルに対し、咲江は速さで翻弄する。
「懐に入ってしまえば怖くないです‥」
 肉薄し、鎌の柄を爪で受け止め、反対の手でカウンターを繰り出す。
 咲江の鋭い爪が、レイチェルの肌を掠った。
「流石サキだね」
 バックステップで距離をとり、レイチェルは鎌を振り下ろした。咲江は寸でのところでかわすも、薄い布が引き裂かれる。
「くぅっ、強い‥! って、服狙って‥」 
 スピードを活かす為に軽装だったのが仇となった。
 レイチェルは咲江の服を執拗に狙い、攻撃の度に白い肌が露になっていく。恥辱で咲江の頬が染まる‥だが隠す余裕などない。隙を見ては懐に飛び込み、反撃を加えて離脱するだけだ。
 時折刃が肌を掠り、血が滲んでいく。その香りに、レイチェルは眩暈すら覚えた。

 二人の力はほぼ互角。
 だが悪魔の力に苦戦しつつも、咲江の方が僅かに押していた。
 肩で息をつくレイチェルの疲労を見逃さず、咲江は最後の力を振り絞り、駆ける。
「レイチー覚悟‥!」
「‥‥っ」
 心臓を狙う。この間合いでは、反撃も出来ぬだろう。
 今腕を突き出せば、咲江はレイチェルを捉えることが出来る。
 部下は誰もが咲江の勝利を確信した――しかし、咲江は、それをしなかった。
 ―寸前で止まる、攻撃。
「‥く、やっぱり私には‥がぅっ!?」
「‥ふふ、やっぱりサキは優しい、ね‥」
 レイチェルが小悪魔のように笑む。振り下ろされた反撃の鎌は、死神のように魂を狩る一撃だった。

 深々と貫かれ、大量の鮮血を吐きながら咲江は倒れこむ。
 ――ああ、終わった。苦しい時間が。
 急速に霞む視界に、愛する人の顔が映った。
「これで‥これでいいの。やっぱり好きな人を殺すことなんて出来ないよ‥」
 愚かで罪深いと思う。自分は部下を捨てたのだ、愛する一人の為に。
 しかし後悔はしていない、‥咲江は自分の命すら捧げようとしている。
「‥安心して、サキのコトは、ボクがずっとずっと大切にするから‥ね?」
 レイチェルは力ない体を優しく掻き抱いた。自分の腕の中で暖かな血を流し、冷たくなっていく体。
 このヒトはもう、他の誰のモノでもない‥。

 ―その後レイチェルは殺戮の限りを尽くすと、城を落したという。

 一つの戦いが終結した。
 以来戦場に出たレイチェルの横には、寄り添い従う一人の少女の姿。それはレイチェルが篭絡した悪魔にお願いし、蘇生された咲江だった。
 彼女はもう感情もなく、意のままに動く人形でしかない。
『これで‥いつまでも愛しあえるね』
 ずっと、一緒に。
 純粋で歪な、愛の結末だった。



【3】

 戦場に一陣の風が吹き荒ぶ。
「‥まさか、このような場所で会うとは‥縁とはわからんものだ」
 武者鎧に、きつく締めた鉢巻。堺・清四郎(gb3564)は携えた刀に手をそえ、立塞がった敵将を見据えた。
 古傷が、疼く。
「因縁の対決、ですか。‥ええ、良い物です」
 蛇穴・シュウ(ga8426)は右目の傷に触れ、清四郎を見た。
 ――変わらない、ライバルの姿。
 かつて東方の同郷で切磋琢磨し、互いに消えない傷をつけ、好敵手であると、認めた。
 ここで因縁に決着が付くかと思うと、高揚せずにはいられない。

(「‥これも偶然か‥それとも必然か」)
 神の悪戯のような、巡り合わせだった。
(「だがそのようなことはどうでも良い‥今はただ死合うのみ!」)
 戦場に敵として現れたからには、選択は一つ。
 清四郎は己を見出してくれた国王に恩を返す為にも、この戦、勝たねばならなかった。

「士は己れを知る者の為に死す‥ただ忠を尽くすのみ‥」
 迷いは無い。構えた刀身の輝きが、清四郎の曇りなき心情を写している。
 シュウもゆるりと刀を抜く。
「相変わらず堅っ苦しい人ですねえ、堺君?」
「言葉は不要、剣で語るだけだ!」
 シュウのペースにのまれぬよう、凛と透る声を張り出す清四郎。
 互いに駆け出し、影が交わり、キンと刃の重なる音が響く。
「太刀筋も変わらない、嫌味なほど堅実だ!」
 重い一撃を刀身で受け止め、刹那シュウの心に火が灯る。
 清四郎の刀を弾き、剣先は彼の首筋を狙った。一撃を弾かれれば、今度は動脈だ。
 相手に死を。
 死に至らしめる為の、急所を狙ったシュウの攻撃が続く。
「――変わっていないな」
 しかしシュウの動きも、清四郎はよく心得ていた。刀を盾に攻撃を凌ぐ。

 互いに癖や傾向を知り尽くしているだけあって、致命傷を与える事は出来ないでいた。
 時間が、流れていく。
 息があがったころ、相手の僅かな隙を見て仕掛けたのは――清四郎。
「この一刀、我が最高の剣閃なり‥」
 刀先の後ろを指で挟み溜めた後、疾風のように強力な斬撃を繰り出す。
「‥くっ」
 避けきれるか、ギリギリのところでシュウの体が反応する。

 ――刀身がぶつかる音が耳を劈き、僅かに肉を裂く音も聞こえた。
 何かがシュウの頬を焼き、鮮血が飛び散る。

 一瞬暗闇に包まれた後、シュウが前を向くと――まだ清四郎は居た。自分も、生きている。
 ただ失っていたのは、二つの刃。
 長く斬りあいボロボロになっていた刀身は、清四郎の奥義を受け止め真っ二つに折れていた。 

「まだ決着はついていない‥時には我が身をも刀とせよ‥!」
 清四郎は鎧を脱ぎ捨てた。拳が固く握られる。
「クソが! ああ、やっぱりこうじゃないと殺せない!」
 シュウは刀を投げ捨てた。慣らすようにクルリと腕を回す。
「ぬおおおおお!!」
「はああああぁ!!」
 ここからの戦い、武器は己の体のみ。
 技も型も見栄も無く、二人は全てを曝け出して取っ組み合う。
「どうした! 歳をとったか!?」
 清四郎の拳が脇腹に埋まる。
「はっ、この程度――」
 だがシュウの拳も、清四郎の頬へと埋まった。
 叩き付けられ、縺れるように地面へと倒れていた。上になり、下になり、決着の見えぬ殴り合いが続く。
 しかし有利なポジションを、長く陣取ったのはシュウだった。
「死んだか? 死んだか? もう死にやがったか!?」
 清四郎の腹に馬乗りになり、叫ぶ。シュウは喜色すら浮かべ、容赦なく顔面に拳を振り下ろした。
「うご‥ふっ‥」
 顔が腫れて熱を持ち、唇は切れて血を流す。
「スネ‥シュウウウ!! まだだ! まだ終わらんぞ!」
 しかし意識が遠のく度に、清四郎の脳裏にちらつくのだ。部下の姿が、信頼する国王が。
「う、お‥らああああああ!!」
 シュウの体を弾き飛ばす。まだコレだけの力が出ることが、不思議なくらいだった。
 握った拳に更なる力を込め、パワーと手数で反撃していく清四郎。
「‥‥がっ、は‥」
 シュウの体が大きく揺らぐ。
 後頭部から倒れる寸前、彼女が見せた最後の表情は――ライバルの力を認めた、笑みだった。

 ――互いの力を出し切った戦いだった。
 しかし勝利の喜びはなく、清四郎は彼女の傍に跪く。
「‥はあ‥はあ‥‥今は‥ただ‥友ために‥‥祈ろう‥」
 自分は彼女の死も乗り越えていかなければならないのだから。
 


【4】

 広い草原を二頭の馬が駆けていた。
「はっ」
 身分の高さの分かる軍服を着、馬に跨る木場・純平(ga3277)は弓に矢を番えた。冒険者時代に鍛えた弓の腕前で、相手の動きを捉えていく。
 だが相手の射た弓も、純平の軍服を掠っていた。
「流石だ、やるな‥」
 相手の将は、古い友人で冒険者仲間のサーザである。
 互いに会ってはいなかったが、その姿を見たとき僅かな驚きと喜びがあった。
 ――これが戦場でなければ、もっと嬉しいことだっただろう。

 パワーは純平が勝っていたが、精度はサーザの方が上だ。
 しかし互いに急所を外して撃ちあっている為、いつ決着がつくか分からない戦いになっている。
(「疲れるだけなのは分かっている‥が、彼は冒険者になる前から生死を共にしてきた同志‥」)
 自国を守る為とはいえ、死なせたくないという思いが純平の中にある。
 ‥きっと彼も、同じ思いなのだろう。
 狙えば走る魔物の額を射抜く事すら容易い二人。
 サーザの射る矢からは殺意が感じられず、また純平も然り。
 だが確実に体力と矢は消耗され、やがて底が見えはじめた‥。

『こんな望まない合戦は投げ出してしまわないか』
 この胸に去来する思いを。
『ふたりで故郷に帰り狩人に戻らないか?』
 伝えたくなる、口に出したくなる。
 しかし純平には自分を信じる部下がおり、国に残した家族がおり、逃げ出す訳にはいかなかった。
 死なせたくない思いも変わらない。
 いっそ自分が‥と、純平が自暴自棄な考えを抱いた、その時。
「――くっ」
 馬を操ることを忘れ、甘く射られた矢を利き腕に受けてしまった。
 傷口からジンと熱さが、痛みがはしる。
 矢を撃つリズムが崩れ、体勢をも崩した純平は落馬し、勢い良く草原を転がった。
 ――痛みで霞む視界の隅に、馬を止め、矢を番えたサーザの姿が映る――。
(「‥ああ、そうだ。このまま、止めを‥」)

 その時だった――。

 城から、鐘の音が響く。
「‥‥まさか」
 その音は、自軍の勝利を知らせる鐘の音。

 サーザは「負けたよ」と武器を投げ捨てた。
 戦に負けた筈の彼なのに、まるでそれを待ち望んでいたかのようだった。
 差し伸べられた手を握り、純平は体を起こす。
 ――もう刃を交えなくてもいいのだ。
 もちろん彼を捕らえようとも思わない。部下は‥きっと、わかってくれるだろう。

「‥‥終わったんだな」
 この国は新しい時代を迎えるだろう。
 それがよき時代になるのか、暗黒期になるのか、まだ誰も分かりはしない。
 だが、何故か、純平の心の中は清清しいものだったという。