タイトル:アオザイの旅行者2マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/16 17:13

●オープニング本文


「今回も大きな被害がなくて、良かったです‥‥」
 と、負傷者を練成治療で癒し、シャオラ・エンフィード(gz0169)は覚醒を解いた。

 久々に大型の休暇をとり、やってきたベトナム・ホーチミン。
 普通にのんびりと過ごす予定だったこの旅行、だがそこで現れたのは‥‥市場を荒らす野良キメラ。
 こんな事が前にもあったような‥‥その時は洞窟だったけれど。自分のキメラ遭遇率に疑問を抱きつつ、シャオラは普段自分が働くULTへ連絡をした。
 不幸中の幸いか、現れたキメラは最弱の類であり、駆けつけた能力者達によりサクッと退治され。
 あまりにもサクっと終わってしまった為、迎えの移動艇が来るまで随分時間があいてしまったようだ。

「折角ですから、空いた時間でベトナム観光しちゃいませんか? ここはショッピングも食事も楽しめますし、少しだけ足をのばすと自然を楽しめる観光地もありますよ」
 仕事を終え暇を持て余す能力者達に、にっこり話しかけるシャオラ。

 少しだけ混乱もしたけれど、ホーチミンの市場は既にいつもの姿を取り戻している――。
 依頼のついでに、楽しむのも悪くないだろう。

●参加者一覧

マリア・リウトプランド(ga4091
25歳・♀・SN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
柚紀 美音(gb8029
16歳・♀・SN

●リプレイ本文


 覚醒を解き、美崎 瑠璃(gb0339)は「こりゃまた随分拍子抜けする結果だねぇ」と笑った。シャオラ・エンフィード(gz0169)のピンチと聞いて駆けつけたのだが、こんな短時間で倒してしまうとは。
「ま、大した被害が出なかったのは何よりだよ。おかげで思わぬ休暇をゲットできたし、ね♪」
 瑠璃がウィンクすると、小笠原 恋(gb4844)は頷いて微笑んだ。
「ベトナムで休暇‥‥久しぶりです」
 思えば今着ている刺繍アオザイも、このベトナムで購入した物だ‥少し懐かしい。
「シャオラさんも、お久しぶりです。‥うふふっ、白もとっても素敵ですよ」
「有難うございます。今日も沢山買いますよ〜」
 恋に誉められ、照れ笑いするシャオラ。
 ――そう、ベトナムといえばアオザイ。
 突然の休暇にウキウキする鷲羽・栗花落(gb4249)も、【OR】藍炎という特注アオザイを普段から愛用する人物だ。
「そういえばシャオラさんは初めましてだね。宜しく。アオザイ仲間だねー♪」
 握手する栗花落とシャオラ。そこに瑠璃も加わって。
「栗花落ちゃんとは依頼では何回も一緒してるけど、遊ぶのは初めてかー。思いっきり楽しもうねっ!」
「そうだねー、楽しもう♪」
 楽しそうに話す声。
 イレーネ・V・ノイエ(ga4317)は目を細め、そんな栗花落を眺める。
「ふむ、ひと時の観光‥も良いかもしれんな」
 妹である彼女の表情を見ていると、そう思えるのだった。

 こうして青空の下ベトナム弾丸観光ツアーが始まる。


「さって、とりあえずお昼食べてからにした方が良いわよね」
 マリア・リウトプランド(ga4091)が辺りを見渡し‥少し考え込んでシャオラを見る。
「お勧めの店ってあるかしら?」
「団体で行くと安くなるお店知ってます♪ 良かったら一緒に」
 ――そう答え、シャオラは案内して街を歩いた。
「ここがその店か?」
 入口前に到着した朔月(gb1440)は看板を見上げた後、木の扉を押す。
 まるでカフェのような店内。値段は安く、フォーを初めとした各種ベトナム麺などが取り揃っているらしい。
「うれしーな、本場のベトナム料理、一度食べてみたかったんだー!」
 9人が座れる席を確保し、瑠璃が手招いた。
「この香り‥懐かしいです」
 コーヒーの香りで味を思い出しつつ、席に座る恋。そして、
「ベトナム料理は初めてなので楽しみです」
 と、鼻腔を擽られながら柚紀 美音(gb8029)は微笑んだ。その隣の席には、佐倉・咲江(gb1946)が。
「ん、楽しみ、お昼ごはん‥美味しいご飯、たくさん食べる」
 じゅるり‥と唾を飲む音が聞こえそう。「戦闘の後のご飯は格別」とばかりに、目を輝かせる咲江。
 そして目の輝き具合は瑠璃も負けていない!
「ベトナム風お好み焼きにちまきに‥。やーん、どれもこれも美味しそうで目移りしちゃうぅぅぅ」
 料理研究が出来て二度美味しい‥と、料理が運ばれるなり頬が膨らんでいく瑠璃。
 そんな彼女を眺めつつ、
「瑠璃ちゃん凄い‥ボクは何食べようかなー。フォーにバインセオにゴイクオンくらいかなぁ」
 栗花落は定番を選び、生春巻きに舌鼓をうつ。これは、美味しい。
「ふむ‥少々変わった食べ物にチャレンジしてみるのも良いかもしれんな」
 一方イレーネは、聞いたこともないような料理を頼む。なかなかのチャレンジャーだ。
 隣でマリアも料理を口にして。
「ベトナム料理って中華料理っぽいイメージがあったけど、案外マイルドな味付けなのね」
 予想外な味に、驚き顔。
(「レシピを教えてもらおうかしら‥」)
 そう思うマリアも、瑠璃と同じく料理研究熱心である。

 美味しい料理があれば、話も弾む。
「さっきはどうもありがとうございました」
 不意に礼を言う美音。
 咲江は一瞬首を傾げ‥、思い出す。キメラ戦で、戦い慣れず固まっていた美音に気づいた咲江は、敵の攻撃から彼女を庇ったのだ。
「ん、美音もう大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です。でも‥」
 恩を感じると共に、申し訳なく思う。
 美音があまり食べていない事に気づき、咲江は料理を皿に盛って渡した。気にしなくていいという意味合いも込めて。
「‥あ、これ美味しいからたくさん食べる」
 空芯菜炒めに、エビ、蟹‥‥食べながら談笑するうちに、年の近い二人は自然と打ち解けるのだった。

「気に入っていただけましたか?」
 最後にベトナムコーヒーを口にしつつ、シャオラはにっこり笑った。そして恋も、一口。
「懐かしい味です‥ん、美味しい」
 刹那に、甘さで口腔が満たさる。
 そして朔月も食事を終えて。
「‥っと、シャオラ。俺に合うサイズのアオザイ、頼む」
「いいですよ。何処か行かれるんですか?」
 問うシャオラに「ああ」と答え、朔月はテーブルに食事代を置いて。
「御馳走様‥それじゃ、俺は行くぜ。夕方には帰るんで気にすんな」
 と、レストランを後にした。



 皆と別れた朔月は、街道を歩く。
 馴染みの薄い土地での単独行動‥だが不安は感じない。スラム街で生まれ育っただけあって、危険回避や自己防衛などお手の物。
 簡単なベトナム語で交流しつつ、市場を歩き、道に出てバイクタクシーを拾う。
「――‥まで、頼む」
 行先を告げると、走り出すバイク。
 そして――ホーチミン北部の観光娯楽施設に到着。そこは遊園地や動物園も併設した、巨大テーマパークだ。
 動物園では、手が届きそうな位置で象やキリンを見ることが出来、他にはない迫力もある。
 しかも珍しい動物もいた。
「居た。ホワイトタイガーだな」
 檻の中には白い虎。そして朔月の手には一冊のスケッチブック。
 獰猛なホワイトタイガーに近づき、観察しながら腰を下ろす――虎が牙を剥こうと、お構いなしに。
「よし、はじめるか」
 迫力ある姿を、存分にスケッチする朔月だった。


 一方、咲江と美音は。
「ここに来たらまずはエステ。エステで綺麗になる。‥というわけで美音、エステにGOーです」
「え‥エステですか?」
 戸惑いつつ、咲江に手を引かれ美音はサロンの入口をくぐる。
 エステプランは様々だが、まずココナッツスクラブのマッサージをチョイスした二人。
「がぅー‥気持ちいい。とっても‥ZZzzz‥」
 あまりの気持ちよさに、まどろむ少女‥‥隣で揉まれつつ、美音がクスっと笑う。
「咲江さん‥寝てしまいました?」
 確かに眠ってしまうほど気持ちよく。美音もうっとりと身を委ねた。
 続いてはハーバルスチームバス。
 蒸気を浴びながら、咲江の視線はチラリと美音の胸の谷間へ。
「こうしてみると‥全然違うね‥」
 同い年の筈なのだが。筈なのだが‥‥富士山と天保山程の違いを感じてしまうのは何故だろう。
「咲江さんの胸も念入りにマッサージしてもらえば、大きくなるかもですよ?」
 と、立ち上がればゆっさゆっさ揺れる美音の胸。
 最後に二人はパパイアラップで肌を揉み解し、仕上げである。
「美音がマッサージしてあげましょうか?」
「‥胸?」
 ――この会話の後、どこにマッサージしたのかは定かではない。
 だが、部屋からは気持ちよさや痛気持ちよさでキャーキャー言う二人の声が聞こえてきたという。



 その頃のショッピングモール。
(「正しく『両手に花』を体現したような状況だな‥自分は嬉しいぞ、うむ」)
 マリアと栗花落に挟まれて歩き、イレーネは幸せを噛み締める。その為か、周りのものは目に入っていないよう。
 しかしマリアと栗花落は、店に並ぶお土産品に目を奪われる。
「お土産買っておこうかしら‥それと、ベトナムに来たんだからアオザイは着てみたいわよね」
「あの店はどうかな」
 試着OKの看板を見つけ、栗花落は二人の手を引っ張っていく。
 その店内には、数百のアオザイが並んでいた。
「試着か‥栗花落に選んで貰おうか。自分よりも素敵なものを選んでくれそうだしな」
 イレーネが言うと、栗花落は両手に一杯のアオザイを持ってくるではないか。
(「ちと着せ替え人形の危険性も感じなくはないが‥」)
 まさかこれを全部着せる気だろうか。と、一瞬固まるイレーネ。だが、
「姉さんは白とか良さそうだなぁ」
 真剣に選ぶ栗花落を見ていると、着せ替え人形でも何でも『喜んで♪』と思ってしまうのだった。
「白色というのは新鮮だな‥普段着とはまた違った感触で面白い物だ。と、少し訊くのが怖いのだが‥に、似合っているかな?」
「とっても似合ってる♪」
 妹の満面の笑みを見て、照れるイレーネ。
 そして大人しく着せ替えさせられる彼女に、マリアが意外そうな顔をする。
「‥嫌がるかと思ってたわ」
 もし逃げるようならば、身長にものを言わせ羽交い絞めにしつつ『今の内にやっちゃいなさい』と言うつもりだったのだが。
「フフフ、妹がワクワクしている様を見るのは姉にとって幸せな情景なのだよ」
 そんな幸せから逃げたりするものかと、イレーネは不敵に笑った。

 一方、
「フォーもいいんですけど、ブン・ティット・ヌォンも食べてみたいです」
 恋と瑠璃はベトナムフードを堪能。昼食後だが、まだまだ入りそうだ。
「やっぱりシーフードが美味しいですね。蟹、海老、ホタテ〜♪」
「美味しい〜これもアレンジできないかな?」
 味見しながら、瑠璃のレシピに新メニューが加わっていく。帰ったら食堂も充実する事だろう。
「あ、バイン・ミー。‥スアチュアも気になります」
 目移りする恋。‥何かに気づき、ハタと足を止める。
「アオザイ‥見に行きますか?」
「入らなくなっちゃったら困るからねー」
 顔をあわせて苦笑し、瑠璃と恋は店へと向う。

 ――そしてエステ帰りの咲江と美音も同じルートを歩いていた。
「せっかく来たんだからいろいろと見て回らないと」
 アクセサリを買ったり、マンゴーを食べたり、スイーツを堪能したりする二人。
「美味しそうな食材一杯‥。見てるだけでお腹が‥」
 咲江のお腹はまだ食べたりないと言っている。‥さっきの恋といい勝負かも。
 市場の端まで歩いて、咲江はクルリと振り返り。
「そろそろ皆も集まってるかな。アオザイ見に行こう‥でもアオザイって最初は食べ物だと思ってました」
「野菜っぽいですよね」
 なんて話しつつ、まったりと歩いていく。


 そしてこちらは、まだまだアオザイ楽しみ中。
 和柄の長袖アオザイを試着し、マリアは鏡を見る。
「ん〜‥悪くは無いと思うんだけど‥私が着るにはちょっと派手じゃない?」
 それに少し、動きが制限される気も。
(「狙撃には向かないわね」)
 ――すると、栗花落が黒いノースリーブのアオザイを見つけ出した。
「マリアさんは黒がいいと思うっ」
「あら、いいわね」
 袖がない分動きやすそうだと、マリアは微笑んだ。

「‥あ、栗花落ちゃん発見!」
 そこへやってくる瑠璃と恋。咲江に美音。
 こうして賑わいを見せ始めるアオザイ専門店。

「大人数だなぁ。これは‥着せ替え甲斐がありそうだね」
 きゅぴーんと目を光らせる栗花落。皆美人で可愛いくスタイルも良く、何でも似合いそうだ。
「あたしも興味あったんだよねー。でもよく分からないから‥見繕ってもらいたいなー」
「瑠璃さんはオレンジか赤が似合いそうですね」
「瑠璃ちゃんは‥案外紫とかー」
「―え、そう? 似合う?」
 栗花落と恋に見立てられ、瑠璃は蝶のアオザイを試着してキメポーズ。うん、少し大人っぽい。
「イレーネさんは‥意外と白や水色が似合いそうな気がします」
「ああ、白を選んでもらったよ」
 恋に聞かれ、笑うイレーヌの小麦色の肌には、白がよく映えていた。
 白といえば、美音も白のアオザイを試着している。これは清楚な雰囲気だ。
「普段ワンピースしか着ないので新鮮です」
 と、照れ笑い。
「咲江さんはピンクとかオレンジが似合いそうですよ」
「そうかな?」
 ピンクの半袖アオザイを試着し、咲江は回ってみるのだった。

「栗花落さんは詳しそうですね。今日は新調するんですか?」
「あ、ボクのやつも探そうと思ってたんだった」
 恋の声で、思い出す栗花落。皆のを選ぶのに夢中で、忘れていた。
「赤とかオレンジにチャレンジしようかな」
「私ももう一着買っちゃおうかなぁ〜‥」
 恋もついフラフラと手に取って。
 こうして談笑しながら能力者達が自分の一枚を見つける中、「皆さんいらっしゃったんですね」と、いつの間にか来ていたシャオラも買物に加わる。

「皆でお買い物って楽しいね。あ、どうせだから写真撮らない? 仲良くなった記念っていうことで♪」
「あら、いいわね」
 栗花落の提案に、マリアが頷く。
「店員さん、写真もう一枚お願いしまーす」
 腕を組んだり、笑ったり、どんどん撮られる思い出写真。
 自然体で撮ろうなんて言いながら――イレーネは、マリアと目を合わせる。
(「‥今しかないな!」)
 栗花落にぎゅっと抱きつくイレーネ。反対側からはマリアがギュ‥‥と。
 栗花落を挟む形でハグした時、シャッターを切る音が聞こえた。
「‥ええっ、このポーズ!?」
(「フフフ‥‥慌てる栗花落はやはり可愛いな!」)
 イレーネはほくそ笑む。きっと、写真には栗花落の慌て顔が写っている事だろう。



 朔月のスケッチを見て、「上手だねぇ」と呟き通り過ぎていく観光客。
 ――閉園が近いのか、動物園は人もまばらになっている。
「‥っと、もう夕方か」
 時間を見、朔月はスケッチブックを閉じると大きく伸びをして。
「じゃあな」
 と、さっきまで睨めっこしていたホワイトタイガーに別れを告げる。

 バイクタクシーを拾って市街に戻り、そこで連絡を入れた朔月はベトナムコーヒーの屋台で一息。
 甘い味を楽しんでいると、次第に日が暮れ――
 ――月が、綺麗だった。


 再び合流した9人。
「ここのテラス、良さそうだな」
 と、朔月が向った先は――レストランだ。ここのテラスで月見をしながら、夕食をとるという。
「月見しながら夕食‥美味しそう」
 ここでもじゅるりと咲江の喉がなる。
 運ばれる料理は月見料理じゃないけれど、純粋に月を見ながらの夕食も楽しい‥と朔月は思う。
「月見は風情のある感謝祭‥‥とは、よく言ったもんだね♪」
「本当‥綺麗です」
 美音の澄んだ瞳も、綺麗な月を映していた。
「十五夜ですね」
「真ん丸で綺麗な月ですね、シャオラさん」
 並んで座り、恋は料理をつついて、また夜空を見上げて。
「それにお料理も美味しいです。‥あ、やっぱり私って食べてばっかり」
 一日食べていたことに気づき、あわてて手を止めた。
「う〜‥帰ったらせっかく買ったアオザイが入らなくなってた。なんて事になってないといいんですけど‥」
「多分だいじょうぶだよっ」
 頬をおさえて困り顔の恋に、笑いつつ励ます瑠璃だった。

「アオザイも買えたし皆と仲良くなれたし♪」
「ああ。良かったな」
「またのんびり出来る時間が出来たら皆できてみたいね。‥えへへっ、皆大好き♪」
 着せ替えも堪能できて、大満足な栗花落。『さぁ明日からも頑張るぞー!』と気合を入れ、それぞれの日常に帰っていくのだった。