●リプレイ本文
●ピクニック
少女がキメラに襲撃されたという森へ、能力者達は到着した。
ある者は白いワンピースを着て、またある者はセーラー服を着て‥‥キメラの討伐というよりは、まるでピクニックでもするような衣装。しかし、それも作戦の内である。
「服を狙ってくるロリスのキメラ‥‥ある意味、面倒な依頼になるな」
漸 王零(
ga2930)は隙の無い装備で現れた。いくら男であれ、男女無差別に服を破るというリスには細心の注意を払う。
「まったく! 女の子の服を破るなんて最低です! そんな悪いリスは退治しちゃいますよ〜っ」
セーラー服姿の真白(
gb1648)は怒りも露に言う。彼女はロリスを誘き出す為の囮役を買って出た。手にしたバスケットには手作りの弁当とお茶まで用意されており、ピクニックの準備も抜かりない。
そして、チャイナドレスに身を包んだ鳳(
gb3210)も又、茶道具を持参してピクニックへ。可憐な容姿をしているが彼は『男の子』である、勘違い無きよう。
「よし! 俺が仇とったるで!」
と、こちらもまた仇討ちに力が入っている。
「これならリスさんも入りやすいかな♪」
香坂・光(
ga8414)は囮役として、ワンピースでの参加だった。
「んー‥‥スカートって久しぶりだね。ちょっと慣れないかも」
ついズボン感覚で走り回ってしまう。ひらひらと揺れるスカートの裾から伸びる、小麦色の足が魅力的だ。
「真白さんも、光さんも、よくお似合いです」
二人とは違い、フライトジャケットを装備したマヘル・ハシバス(
gb3207)は、その服にある仕掛けをしている。
(「男性陣サービスはしないようにしておかないと‥‥念のため、ですけど」)
服に仕込んだ銅線、スパークマシン、ゴム製の水着‥‥万が一服に入られた時の為キメラを感電させようという、サイエンティストの彼女らしい細工だ。
こうして、囮役と迎撃役の5人はピクニックを装い、光差し込む森へと入っていった。
見事、キメラを誘き出すことが出来れば良いのだが‥‥。
「全く、こんなことばかり続くとリスの株がさがるなあ〜」
迷彩服に身を包んだイレーヌ・キュヴィエ(
gb2882)は、ここ最近のリス型キメラ出没状況にうんざりしながら言い放つ。
「ここまであちこちにでてくると、リスキメラって季節労働者なのかしらと思うわね」
「本当に面倒なリスですね。‥‥私は怒ったわよ!服は縫えば良いけど、痛んだ女心は縫えないの」
と、セーラー服にフライトジャケット姿の藤田あやこ(
ga0204)もキラーロリスの行為にはお怒りのよう。
「痛んだ女心は縫えない‥‥そうね。依頼が終わったら、女の子に何かしてあげれたらいいわね」
「お気に入りの服を選んであげましょうか♪」
その為にも、早くキメラを殲滅しなければ。
彼女らは狙撃班。可能であれば、囮に近づく前にロリスを殲滅したいところだ。
二人は迅速に覚醒を遂げると、囮役の者達を囲むように距離を置いて潜伏する。
キラーロリスがこの辺りに潜んでいないか注意を払い、連絡用の無線機の準備も万全だ。
●誘き出せ!
「んふふ、ピクニック♪ ピクニック〜♪ リスさんおいで〜☆」
楽しそうに隊列の先頭を走る光。やがて一行は、木も茂みもない少し開けた場所へと出る。
「この辺りがいいかな」
真白はマットを敷くと、その上に手作り弁当を乗せた。弁当箱は何段にも積み重なり、丁度人数分用意されている。
「なんや、嬢ちゃんの手作りなん?」
「ふふふ、そうですよー今朝早起きして作ってみたんです」
「楽しみやなぁ。俺も中国茶用意してん」
と、鳳も茶道具をマットの上に。
「早く倒して、ゆっくりピクニックできるといいですね」
「そうだね。あたしは早速餌付けでもしようかな」
マヘルの言葉に頷き、光は持参したナッツを取り出した。
―――カサッ
その時、傍らの草叢が小さな音を立て、5人に緊張がはしる。そこから顔を出した小動物が、リスだったから尚更の事。
『寄ってくるものが全てキメラなのかは分からないから、どんぐりでもなげてみない?弾かれればキメラってことよね』
イレーヌの提案を思い出す。このリスが野生のリスならば、無闇に命を搾取することだけは避けたい。
「ほら、餌だよ」
光の投げたナッツは、フワリと宙を飛びリスの頭へ落下した―――フォースフィールドは発生しない。
「普通のリスさんみたいですね、よかった‥‥」
マヘルが緊張を解く。「だが、その分厄介だな」と、王零が言った。
「ですね、リスを見つけてもこちらから先に手を出せない事になりますから」
真白も少し困ったように眉根をよせ、ピクニックの真似事を再開するのだった。
(「見つけたリスを片っ端から狙撃するのは‥‥難しいかも」)
頑丈そうな木に登り、双眼鏡を覗きながら5人の様子を眺めていたあやこは溜息をついた。狙撃を行うならば、囮を狙うリスだけを正確に見極めなければならない。乱戦になれば、接近戦に持ち込むしかないだろう。
超機械を手にしたイレーヌも又、囮に近づく怪しいふさふさを注視していたが‥‥普通のリスが居ることを知ると、キメラが誘いに乗るまでは動かぬ事を決めた。
●大惨事!?
「これも、普通のリスさんだね」
「ふふ、あんなに頬張って」
囮役の光と真白は、すっかり野生のリスに心を許し和んでしまっている。
――その一瞬の隙だった。
光が餌付けしていたリスたちが、急に一目散に逃げ出したのだ。
「え、何?」
「‥‥もしかして」
そして逃げた野性のリスに代わり、草叢から飛び出したのは―――!
「「キラーロリス!?」」
声が重なった。
二匹のキラーロリスはそれぞれ真白と光の側面の茂みから飛び出し、襲い掛かる――!
身に迫る危機に、二人はエミタのAIにより瞬時覚醒を果たした。
「来たね‥‥今だ!」
ロリスを捕まえようと、光は咄嗟に手を伸ばす――が、その手が届くよりロリスの行動の方が早い。
「って、あれ?しまった!?」
ロリスは素早く光の脚の上にピョコンと乗り上げると、そのままワンピースの裾から服内部への進入を果たした。ふさふさの尻尾がさわさわと、光の健康的な肌を撫でながら動く。
光は思わず身を屈め、「にゃははは! くすぐったい!!」と声を上げて笑い転げた。傍から見れば愉快そうに見えるが、キメラに襲われているのだ、助けなければ‥‥!
「光さん、今追い出します‥‥!」
すぐ側にいた真白が手を差し伸べる――しかしそれは阻まれた。もう一匹のロリスが、真白の服を虎視眈々と狙っていたのだ。助けるどころか服の中に入られ、同じように擽られる真白。
「え? ‥‥やっ、くすぐったいってば!」
ロリスは真白の腕を伝いセーラー服の半袖部分から器用に進入し、もこもこの尻尾で脇の下辺りを擽る。真白は思わず背筋を震わせた。
「ふわぁっ、ちょ、そこは‥‥っ」
誰もが弱い部分への刺激に、ガクリと体の力が抜けてしまう。くすぐったいだけならば良いのだが、そのくすぐったさが別の何かに変わりそうだ‥‥。
「やぁ‥‥ん‥‥その下は‥‥ダメですっ! ‥‥ダメですってばっ‥‥」
真白の語尾は消え入りそうだ。服の上からロリスを捕まえようと試みるが、このロリス、敏感な部分を心得ておりなかなか上手くいかない。
服を破りたいのか、擽りたいのか、はたまたその両方か。殲滅するだけならば容易いこのキメラも、服の中に入るとなれば厄介な事この上なかった。
二人がキラーロリスに襲われたのと同時に。
「あかん! 今助けたるで!」
鳳はすぐさま覚醒し、茂みに隠していたリンドヴルムを装備しようと素早く移動を開始。その鳳の動きを遮るよう、迎撃班を狙うロリスが二匹、更に姿を現す。
「‥‥わっ、何や! 俺の服破いても誰も喜ばへんで!!」
飛び掛るロリスの攻撃がチャイナドレスを掠り、鳳は慌てて叫んだ。これは自分の身も守らないと、助けるどころでは無さそうだ。
その状況で、狙撃班のあやこは持参した赤いブルマを持ち「ブルマに足を通し戦闘準備、見えてもOK!」‥‥と、接近戦へ移行。鳳に纏わりつくロリスの目の前に現れ『見えてもOK』を体現するかの如く、少し屈んではスカートの裾を広げ、注目させる。
案の定、ちらちらと見える太腿より赤い布地に目をつけたロリスは、そちらに食いついた。
「おおきに! たすかるわ」
あやこの方にロリスが向かった刹那に、鳳はリンドヴルムを纏う。
その後もあやこは腰までの髪を覆い被さる様に振り乱し、「服は切っても髪を切る習性は無いでしょ」と言いつつフェイントで怯んだ隙に攻撃。実に個性的としか言い様が無い。
「‥‥闇よ。我が意に従い我が求める形をなせ‥‥形成『狂王の仮面』」
覚醒を遂げた王零は、ショットガン20を撃ち放つ。飛び掛からんとするロリスの足止めには充分だ。
そこへ、動きがあった事を察したイレーヌも駆けつける。
「やっと姿をあらわしたわね!」
イレーヌは『練成弱体』を使用し、足止めされたロリスの防御力を削った。怯んだ隙に王零は月詠に手を携え、二刀流状態でロリスに攻撃を繰り出す――!
その鋭い一閃は尻尾を切り落とし、ロリスが力無く地面に落ちる。そこを狙ったイレーヌの超機械から放たれた電撃は、ロリスを貫いた。
ロリスの体が浮き上がり、そこへ
「全て我が貰い受ける‥‥流派奥義『無明』‥‥我に断てぬモノなし!!」
『豪破斬撃』と『豪力発現』を発動した王零が、掛け声と共に『流し斬り』を放つ――その強力な一撃に、小さなキラーロリスの体は四散した。
マヘルは手にした超機械で、あやこが引きつけているキラーロリスに狙いを定める。
「‥‥全長約15〜20‥‥難しそう‥‥」
覚醒の影響なのか、思ったことを口に出しながら行動するマヘル。
「‥‥当たらなくてもいい‥‥動きが止まってさえくれれば‥‥」
足止めが目的の攻撃は見事に命中し、ロリスは一瞬動きを止めた。その隙に、あやこは小銃「S−01」での射撃に転じる。
「Hなのは逝くべきだと思います」
そう言い放ち、彼女は躊躇い無く小銃を乱射した。
―――そして。リンドヴルムを纏った鳳が、囮の二人を助けようと駆けつけた。
「嬢ちゃんら怪我あらへんかっ!」
「‥‥あ、鳳さんっ」
真白のセーラー服は不自然に盛り上がり、そこでロリスが蠢いている。さらには小さな穴が無数に空き、紺色の布地が見えていた。
目を潤ませ息を切らしかけている真白は、熱い吐息と共に途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「‥‥ん、私は、大丈夫‥ですから‥‥光さんを‥‥」
あまり大丈夫には見えないのだが。
隣で「きゃぁ!? この、破るなー!?」という光の悲鳴が響いた‥‥これはマズイ。鳳は彼女を信じ、光を襲うキメラへと向かった。
程なくビリッ―と布の裂かれる音が響く‥‥ロリスは真白のセーラー服を破り、満足そうに外へと飛び出したのだ。しかし――
「ふふふっ甘いですよ! こんな事もあろうかと、中には水着を着用済みなのです!」
スクール水着を纏い、勝ち誇った笑みを浮かべる真白。胸元は破かれたが「もぅお嫁にいけな〜い!」な恥ずかしい状況は見事回避した。
擽られても武器だけは手放していない、今こそが攻撃のチャンス!
自動小銃での射撃を開始した真白の元へ、イレーヌと王零も加勢する。
「また破るなんて‥‥! 許さないわよ!」
イレーヌが怒気を含んだ声を発した。その怒涛の如き攻撃に、キメラが倒れるのも時間の問題だった。
一方光は、ワンピースのスカート部分に際どいスリットが2本も出来てる。動くと太腿が丸出しになる上、ロリスは胸元を破って出てきた‥‥もう服はボロボロだ。
助けに来た鳳に向かって「だ‥‥男性は見るの禁止ー!!」と、光が叫ぶ。
「なるべく見いへんから‥‥! 光の分も仇とったるなっ!」
鳳はナックルを装備し、光に声をかけるとロリス目掛けて一撃を繰り出す。後方に弾き飛ぶロリスの体。鳳は地面を蹴り、更に追撃を行う。
「光さん、怪我は‥‥?」
そこへマヘルが駆けつけ、小さなかすり傷を作る光に練成治療を施した。
あやこも持参した水筒を持って駆けてくる‥‥何に使うのだろう。光とマヘルが疑問に思うと、あやこはその水筒の水をバシャっと光に掛け始める――!
「水着だから恥かしくないもん♪ ね?」
‥‥これはあやこ流の心遣い?光は明らかに花柄のインナーを露出させていたが、強引に水着にしようというのだ。
「み‥‥水着なら恥ずかしくないよね!」
こうなれば光もヤケクソである。コレは水着、水着‥‥と言い聞かせながら菖蒲を握った。鳳に叩き落とされたロリスに『流し切り』を叩き込む。
見事な連携攻撃を加える鳳と光――この攻撃の雨は、暫く止みそうになかった。
ピンチを切り抜け、能力者達は全てのキメラを殲滅する。
「万魂淨葬刃軌導闇‥‥我に業を奪われし無垢なる魂よ‥‥その穢れた躯を棄て迷わず聖闇へと還れ‥‥」
戦いの終幕を告げる王零の言葉が、静かに響いた。
●戦い終わって
「ラスト・ホープにも自然はありますけど、こうゆう森はやっぱり気分がいいですね‥‥」
高速艇が到着するまでの平穏なひと時。
「ほう、これは中国茶か」
「せや、『双龍戯珠』いうねん。ほんまは菓子も用意したかったんやけど、小遣いピンチやねん‥‥堪忍な」
「美味しいお茶です。私も何かお菓子を用意できたら良かったのですが」
王零と鳳、そしてマヘルはお茶を飲みながらまったり和みモード。
「大変だったねぇ」
「でも犠牲になったのが服だけで良かったですよ」
光は寒いのか鳳から毛布を借りて包まっていた。真白も別のワンピースに身を包み、お茶を飲みながら温まる。
「お弁当、美味しかったわ。後は‥‥どうする? 女の子の服、買いに行く?」
イレーヌは女の子へと木の実を拾い、それを渡すためにも一度会いたいと皆に尋ねた。イレーヌの言葉に、あやこはニッコリ笑って答える。
「行きましょう、きっと喜んでくれます」
女性陣が率先して、少女宅へのサプライズ訪問は行われた。
「お気に入りを一杯買いに行きましょうね〜♪」
突然の訪問に、少女は目を丸くする‥‥しかしすぐさま首を縦に振った。
一行は商店街へ向かいそれぞれ服を見立て、少女は綺麗に包装された服の包みを大切そうに抱える。
「みなさん、有難う‥‥キメラも倒してくれたし、服も‥‥こんなにいいのかな。前のお気に入りよりも、ずっとずっとお気に入りにするよ」
キメラに襲われて以来、笑顔の絶えていた少女が能力者達に見せたものは‥‥とても幸せそうな、満面の笑顔だった。