タイトル:LHクラフトフェア2009夏マスター:水乃

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/05 22:06

●オープニング本文


 ある日、ULTオペレーターのシャオラ・エンフィード(gz0169)は一枚のチラシに目を止めた。
 『クラフトフェア2009春』という大きな文字が目を引くそのチラシは、今年どこかの土地で開催されたものらしい。
 昨年の風景を収めた写真には、手作りの食器、染織物、キャンドル、竹細工‥‥様々な作品が並んでいる。それらを手がけたのはプロではなく一般の人々なのだが、作品はどれも素朴ながらも味があり、作り手の拘りが見え隠れしていた。
 そして出店側だけでなく、数多くの客で賑わう様子は、眺めているだけで楽しいものだ。
「クラフトフェアですか‥‥趣味で作っているものを出品するんですね」
 チラシを眺めながら、機会があれば参加してみたいと思うシャオラ。だが、なかなか気軽に開催地へ行くことはできない。
「ラストホープでもこんなイベントがあれば良いのですけど‥‥」
 そう呟きながら、シャオラは残念そうにチラシを引き出しにしまった。

 ‥‥しかしそれから数週間後、
『LHでクラフトフェアを開催するので出品者を募集する』
 という依頼がULTに転がり込む。
 そのクラフトフェアは、LHのとある公園を貸切り、能力者達が作る工芸品を中心に展示したり売り買いしたりするらしい。
 出店料は無料。又、作品を作る為の材料費や工具など、費用は全て主催者が出すという事だった。
 但し、そこまでするのには理由がある。
 いくら売り上げを伸ばしても、能力者達に還元されるのは5万Cまで。それ以上は九州地方やアジア等、元競合地域で最近解放された場所の復興費用として寄付されるらしい。
「気軽に手作りを楽しめて、復興支援にもなるクラフトフェア‥‥」
 依頼を端末から打ち込みながら、シャオラは呟く。
「お手伝いしたいですね。‥‥うん、参加しちゃいましょう」

●参加者一覧

/ 藤田あやこ(ga0204) / 鯨井昼寝(ga0488) / 百地・悠季(ga8270) / 八葉 白雪(gb2228) / イレーヌ・キュヴィエ(gb2882) / 堺・清四郎(gb3564

●リプレイ本文

●準備
 クラフトフェアを翌日に控え、百地・悠季(ga8270)の部屋にはパッチワーク用のカットクロスが何枚も用意されていた。
『偶には手作りの品もどうかなと考えてた処に、こういうお知らせは嬉しいわね。色々趣向を凝らして作ってみようかしら』
 という動機で参加を決意してから数日、ちょこちょこと作ってきたパッチワーク品もかなりの数になっている。
 元々家事は得意な方だし、縫い物の腕も上達した。この辺りでパッチワーク系はどうかな‥‥とチャレンジしたところ、こちらの腕も日々上達しているようだ。
 彼女の用意した布は、小さい花柄、アンティークなフラワーストライプ、チェック模様と柄は様々で、色はどれも落ち着いていて優しい。
 普段は缶にしまわれている小さな布をミシンで、時には手縫いで、手芸作品として仕上げていく。
「これくらいでいいかしら‥‥」
 手提げ鞄を裏返し縫い目を確認すると、悠季は一息ついた。時計の針を見ると、かなりの時間が経過している‥‥夢中で気づかなかったと、苦笑して。
 後は着ていく服を選ぶだけ、ゆっくり睡眠をとるためにも、彼女は一度針を置く。

 又、白雪(gb2228)も事前の準備で忙しい。
 台所らしき場所には、鍋にボウル、空き瓶に泡立て器、軽量カップにおたま、かき混ぜ棒‥‥まるで料理でもするような道具が並んでいた。
 だが、その中でゴーグルとマスクが浮いている。
 白雪はそれらを装着すると、パーム油にオリーブオイル、ペースト状になったココナッツオイル等様々な油脂をボウルに入れ、まず湯煎で溶かす。
 そして精製水に苛性ソーダを投入し、苛性ソーダ水を作る‥‥彼女は手作りの天然石鹸を作っているようだ。
 薬品の扱いにさえ気をつければ、手作りの石鹸はそれほど難しくない。だが一つ注意するとすれば、型から取り出す時だろうか。
 乾燥したものから順に、花びらを閉じ込めた石鹸の形が崩れぬよう、慎重に型を外す白雪‥‥取り出した石鹸は綺麗な形で崩れた様子はなく、ようやくホッとして息を吐くのだった。

『手作りっていいよね』
 と感じながら、イレーヌ・キュヴィエ(gb2882)は純銀粘土でチャームを形成していく。
 普通の粘土細工よりも繊細で、デザイン性を求められる純銀細工。だがイレーヌは器用にモチーフを作っていた。
 日本では秋の到来するこの季節、先駆けて木の葉やどんぐりの形にしてみたり、あるいは幾何学模様のリングを作成してみたり。
(「お客さん、気に入ってくれるかな」)
 焼成した純銀粘土をハケとヤスリで研磨しながら、輝きを増していく銀の指輪を試しにはめてみた。女性用のサイズらしく、細くしなやかなイレーヌの指には良く似合う。
 しかし女性のみならず、男性でも気軽につけることが出来るのは純銀細工の良いところだろう。

 一方秋は近づくけれど、暑い今日この頃。残暑を涼しく過ごせるように‥‥鯨井昼寝(ga0488)が手がけるのは風鈴だ。
 自主的に「風鈴を買いに行こう」という人は、今では少ないだろう。そういった人達にまずは見て、聞いてもらい、そして手にとってもらえれば‥‥と、昼寝は思う。
 そして、こうした風情ある日本の工芸品を、外国の人に見せて興味をもって欲しいという考えもある。
 ‥‥だがやはり、やるからには勝ちたい。販売数的な意味で。
「一番たくさん売ってやるわ!」
 ‥‥と鼻息荒い昼寝はやる気全開であった。
 これだけ気合があるのだから、やはり素材にも作り方にも妥協は許されない。
 まず炎の中で融けたガラスを共竿に巻き取り、ゆっくりと回転させながらガラスが丸くなるのを待つ。
 そして少しずつ息を吹き込み、膨れたところでまたガラスを巻き取って、更に息を吹き込んでいく。
「‥‥結構、大変ね」
 室内の暑さでにじみ出る汗を拭いながら、昼寝は慎重にガラスを冷ませた。ガラスは急激に加熱すると割れるし、急激に冷やしても割れてしまう。
 割れはしなくても、皹が入れば商品にならない。だから最後まで気は抜けなかった。
 しかし作るのが難しい分、無事に完成するとホッとする。絵付けの楽しみは後に回し、次の本体を作成しはじめる昼寝だった。

 堺・清四郎(gb3564)も又、日本文化をLHに浸透させるには良い機会だと感じ、クラフトフェアに参加を申し込んでいた。
 彼の周りには、沢山の竹。日本の冬の時期に切り出された、虫の付きがない良質な竹だ。この竹ひごの良し悪しが作品の出来を左右するので、まっすぐな竹を厳選することも忘れない。
「芸術という文化を楽しむとするか」
 と、清四郎は呟き、トーチの炎で焦がさぬよう慎重に竹の油抜きをしていった。
 ――すると、緑色の竹が渋い茶色へと変わっていく。
 炙っては油をふき取る地味な作業だったが、清四郎は手を抜かず真面目に取り組む。
 この竹から、様々な作品を作り出す為に。

 そして昼寝や清四郎が伝統をアピールする工芸品を手がける中、藤田あやこ(ga0204)は彼女らしい斬新な作品を手がけていく。
 まずはセーラー服‥‥しかし只のセーラーではない、いたるところに改造が施されていた。袖の部分にKV等のペイントが入っており、その模様の繊細さは芸術品といって問題ないだろう。
 又、ちりめんで作ったガマ口財布の留金にLEDをつけるという、実用性を考えたアイディアグッズも作られていた‥‥何故LEDなのかは今は秘密であるが。
 作品を仕上げ、針道具を裁縫箱にしまうあやこ。
「よし、準備OK」
 最後にディスプレイで使うぬいぐるみと襟章を部屋から探し出し、明日の準備が整うのだった。



●開催!
「ん‥‥イベントには丁度良い天気ですね」
 眩しそうに目を細めて太陽を眺めながら、シャオラ・エンフィード(gz0169)はテントの屋根部分を組み立てる為にアルミパイプを立てた。
 今日は『LHクラフトフェア2009』の開催日。
 LHの広場には、工芸品に、陶芸品、木工細工等の個性溢れる作品が並び始めていた。
 今回の見所は、なんといっても能力者達の出店ではないだろうか。
 工芸品を愛する一般の人たちに混じり、手作り工芸品で勝負する能力者達。ある意味、手腕が問われるイベントである。

 開始宣言がなされ、早速一般の人々や傭兵達で賑わう会場。
 同時に、店で売り子をする人々の明るい声も響き渡っていた。

 イレーヌは赤基調チェックのクロスを敷き垂らした机の上に、商品を陳列していく。
 店の名前は『Les cadeaus de la forêt』。
 ワイヤー細工をメインにするイレーヌは、店名の看板もワイヤーアートで作成していた。又、机の上の色とりどりの造花も可愛らしい。
 そしてオープンと同時に、イレーヌはグリューン・トロンペーテという名のトランペットで楽しげな曲を演奏。青空の下響渡る音色に、会場から歓声が沸きあがる――フェアのスタートをきる、気持ちの良い音色だ。
 やがてイレーヌの店に人が集まりはじめる。
 彼女の店には楕円形に長方形、様々な形とサイズのワイヤー写真立てがあった。旅先でとったという写真ハガキもセットされ、歩く人々も足を止めて異国の風景を楽しんでいる。
「お部屋に一ついかが?」
 立ち止まった女性に話かけるイレーヌ。女性はハート型の写真立てを選ぶ‥‥恋人との思い出を飾るのだろう。御揃いの銀で作られた指輪も同時に購入して行く。
 イレーヌの写真立ては、手の込んだものには『銀細工』も飾られていた。ワイヤーを渦巻きにし蔦に見立て、ブドウやリーフの飾られた写真立てはやはり女性に人気だ。
 そしてもう一つ、
「夏の思い出の整理に、オリジナルボックスを作ります。どうですか?」
 と声をかけていく。
 ワイヤー細工の良いところは、ワイヤーとペンチ・ニッパーなどの工具があればどこでも気軽に作れることだろう。
 受注生産という形で、客が口頭で説明したり絵に書いてみた数々のボックスを、イレーヌは次々と形にしていく。
「はい、どうぞ」
 世界でただ一つ、自分だけのオリジナルボックスをイレーヌに作ってもらった子供は、喜んで「ありがとう!」と叫んでいる。

 一方、風鈴で彩られた昼寝の店は、早速風をうけて爽やかな音色を響かせていた。
「準備は万全! よし、売って売って売りまくるわ!」
 と、気合をいれる昼寝。言葉とは裏腹に、その服装は青海波模様の浴衣‥‥と、なかなか夏らしく淑やかな和装だ。いつも下ろしている髪を高く結い上げ、その髪型とよくマッチしている。
 そしてディスプレイ用の棒にはいくつもの風鈴が下げられていた。
 宙吹きガラスでつくられた風鈴は、透明と水色のグラデーションだったり、水色と深い青のグラデーションだったり、海や川をイメージするような青色でまとめられていて。
 金魚やイルカ、クジラといった海や川の生き物が、その透明なガラスの水中を泳ぐように、絵付けされていた。
 沢山の色鮮やかな魚達がゆらゆらと泳ぐ様は、日本人はもちろん、様々な国の人々の関心を集めている。
「はい、いらっしゃい」
 客を笑顔で迎えた昼寝は、
「どうぞ。せっかくだから麦茶でも飲んでいってよ」
 と、よく冷えた麦茶を振舞う。澄んだ風鈴の音の下で飲む麦茶は、より冷たく感じる事だろう。そしてそれは、少しでも長く憩いの空間を楽しんでもらい、風鈴の良さを体験してもらうという作戦でもあった。
「すみません、鯨のを一つ下さい」
「はーい、有難う。これね?」
 ひとつ、ふたつと早速売れはじめる風鈴。
 手にとってみると、その短冊にも可愛らしい絵やメッセージが添えられていて、細部まで楽しめるように仕上げられていた。
「へぇ‥‥こんなところにまで」
 細部の拘りに感心しつつ、女性はペコっと頭を下げると友達に見せる為に歩いていった。

「櫛にぬいぐるみ、天然の石鹸はいかがですか〜?」
 着物姿で売り子をする白雪の声を聞き、女性客が立ち止まる――『天然の石鹸』という言葉にひかれたらしい。
 それに気づき、テーブルの奥で白雪はやんわりと微笑んだ。
「お肌に優しい石鹸です、きっと珠の肌になりますよ。今ならおまけしますよ〜」
「えっと‥‥じゃあこの石鹸を二つ下さい。あと占いもしてもらえるんですか?」
 女性はどうやら、白雪の店の立てられたボードの隅の『占い承ります』の文字が気になったらしい。
「お買い上げ有難うございます。占いもご希望ですか? 少々お待ちくださいね」
 代金をうけとり、手作り石鹸を花柄包装紙に丁寧に包んで女性へ渡すと、白雪はフッと目を閉じた。
 ――刹那、姉の人格である『真白』が覚醒する。占い担当は、真白の方らしい。
 白雪の変化に女性客は若干驚きつつも、「じゃあ恋愛運を」と、お願いする。
「恋愛運‥‥大丈夫、すぐに素敵な人が現れますよ」
 と、どこか神秘的な真白に言われ、女性客もつい『この占いは信用していいかも』と思ってしまったようだ。
 こうして商品以外のサービスも交えつつ、白雪は順調に売り上げを伸ばしていく。

 又、かなり目立つようにディスプレイされた店を構える者も居た。
 あやこはキメラに見立てた獅子舞や鬼の面を店の中央に飾り、縫いぐるみやフィギュアが乗った長机でその四方を囲う。この縫いぐるみ達は能力者という設定らしい。
 オリムのフィギュアは指揮を執っており、バイパーの模型も駆けつけたところだ。
 ――ややっ? オリムの足元には何故か卵の殻の破片が落ちているぞ。これは何を意味するのだろうか!?
 そしてあやこ自身はセーラー服風の法被姿で、水鉄砲や虫取り網を手にし、参加した大規模作戦の襟章をつけていた。その数‥‥聖盾従軍章、自由解放従軍証、阿修羅従軍章、UPC銅菱勲章、カンパネラ学園式典用記章‥‥と、かなり多く視線を惹きつける。
「いらっしゃい! 現役傭兵ギャルの勝運グッズだよ」
 その姿でこう声をかければ、一般客が興味をもって店を覗くというわけだ。
「これは何ですか?」
 と、立ち寄った年配の男が尋ねる。
「これは『LEDらっきょう玉』ですよ。ガマ口財布の留め金が暗闇で光ります。夜、自販機でジュースを買うとき重宝しますよ」
 男は「便利そうだな」と答え、財布を一つ買っていく。 現役傭兵ギャルあやこの売るものは、割と生活に密着した便利工芸品のようである。
 他にも『水中ワーム葉蘭』という、弁当の惣菜を仕切る緑の葉蘭にメガロやマンタワームのイラストを入れたものが人気を博していた。きっと、子供の運動会のお弁当にでも使うのだろう。
「ウインナーで蛸キメラとか作ると弁当作りが楽しいよ♪」
 と、買いに来た親子連れに葉蘭を渡す。
 そして、メインの売り物は改造セーラーだ。あやこは客の希望に応じて、袖にKVの翼や、背に小隊章を、格好よく手書きで描いていく。
「面白いでしょ〜良かったら買ってってね〜絵柄は無料で注文に応じますよ♪」
 人々に声をかけ、受注量を増やしていくのだった。

 清四郎の店はというと、派手な飾りつけはされていなかったが、几帳面に商品が並べられていた。
 綺麗に整列された竹細工の数々は、触れるのも躊躇われるほどであるが。
「気軽に手にとってみてくれ」
 と清四郎が声をかけると、老夫婦が趣きある竹細工をそれぞれ手にとっていく。
 値札と名前は竹の板に墨汁でかかれており、その綺麗な文字も客の注目を浴びていた。
 こうして竹花瓶や竹の柄杓が年配の人々に売れていく中、実演販売に飛びついたのは子供達である。
「ボクもつくりたい!」
「ああ、良いぞ」
 清四郎はナイフを取り出し、簡単な竹とんぼの作り方を子供に伝授する。
「こうやって形を整えて、ナイフを使うときは直線状に指を置かないこと。指を切ってしまうからな」
 竹を割り、切り、穴をあけ‥‥分かりやすいようにゆっくりと実演していく清四郎。
「はい、できあがり。簡単だろ?」
 そして完成品を見せてみる。それで興味をもった子供達は、早速竹とんぼ作りを開始した。
 子供らの手つきは危なっかしかったが、皆言う事をよくきき、怪我もなく竹とんぼを仕上げていく。
「よく出来たな」
 子供の頭にポンと手をおいて仕上がりを誉めると、子供は照れくさそうに「お兄さんありがとう」と礼をいい、親の元へと走っていった。

 強い日差しから逃れるように、影となる場所へ店を構えたのは悠季だった。
 彼女はスタイルの良い体にレース地肩紐の、藍・黒・黄色の細線が組み合わさったチェック柄サマードレスを身に纏っている。
 その姿につい目を奪われる青年も居たが、残念ながら彼女は人妻。左薬指の指輪をみて、がっかりした男もいるだろう。
 ‥‥それはさておき。
「いらっしゃいませ、気に入ったものはありますか?」
 お店を覗く人々に、ポットセットに準備された麦茶を振舞っていく悠季。強い日差しから避難してきた人々には、嬉しいサービスである。
 お茶で喉を潤した人々はゆっくりと悠季の商品を眺め、パッチワークの手提げ袋やタオル、ハンカチ、暖簾の中から、気に入ったものを選んでいく。
 どれも赤・桃・白や橙を中心とした暖色系の品々で、優しく温かい気持ちにさせてくれるものだ。
「もう少し明るい色はありますか?」
「明るい色ですね。こちらの色柄は如何ですか?」
 客の希望をききながら、お気に入りの一品をすすめていく。
 にこやかな応対は好感度も高く、値段がリーズナブルなのも手伝って、手芸品は順調に売れていくのだった。



 そして盛況なまま時間が経ち、商品が少なくなっていくと‥‥店を出す側にも出歩く余裕が出来始めた。

「気にいった形が無ければお好みで作りますよ?」
「じゃあこんな形でお願いします」
 オーダーメイドで櫛と縫いぐるみをつくり客へ手渡した白雪は、客足が減ったところでやっと一息つく。
 手作りに、占いに、絵描きに‥‥なかなか忙しかった。
 そこへ、
「雪ちゃんここに店だしてたんだね」
「あ‥‥イレーヌさん? いらっしゃい」
 同じクラフトフェアに参加していた友人の姿をみて、白雪は微笑む。
「石鹸かぁ‥‥素敵なバスタイムになりそうね」
 一ついただこうかな、と。イレーヌは手作り石鹸を手に取った。
 そして白雪にヒラヒラと手をふり、他の能力者達が出している店を見て回るイレーヌだった。

 涼む木陰を探していたシャオラは、そこで悠季の店をみつけた。
「こんにちは、差し入れですよ」
 シャオラは参加した能力者の皆に、以前子供達と作った押し花のキーホルダー、そして薔薇のサシェと共に、砂糖菓子を配っていく。
「あら、有難う。よかったら品物も見ていってね」
 もう残り少ないけれど‥‥と、悠季は笑ってみせる。するとシャオラは花柄のタオルとハンカチを選んだ。
「毎度有難うございました」
 一礼したあと小さく手を振る悠季に、シャオラもまた頭を下げて次の店へと回っていく。
 その頃、あやこの店では『K02ヨコ薬』と『十二星座煙草休め』が完売していた。
 『K02ヨコ薬』とはストラップつきの小さなマッチ箱ホルダー。支える部分にミサイルポッドのイラストが描いてある。「K02が中々買えない君はマッチを擦る時気分を味わおう」という傭兵向けの手作り品。
 『十二星座煙草休め』は、煙草を置く凹み12箇所に賞金首の絵がある灰皿だ。
「ありがとうございまーす。憎いあいつを灰だらけにしてね♪」
 ‥‥丁度最後の1個が売れたらしい。やはり傭兵に人気だった。
 シャオラが辿り着いた頃には星柄の簾のみが飾られており、それを1スダレ買って行く。
 さらに店を巡っていくと、白雪に出合った。「こんにちは」とお互い挨拶をして、微笑んで。
「いらっしゃいませ。LHで学んだ物を色々と作ってみました、個別注文も承りますよ」
「この櫛、可愛いですね〜」
 天然ビーズを使った、花や動物の形の金物のくしを見て、シャオラは目を輝かせる。
 一通り買物を楽しんだところで、今度は真白から声がかかる。
「素敵なアオザイね。良かったら一枚描かせて下さらない?」
「え、忙しくないですか?」
「いいのよ。折角の記念だし」
 じっとしていてね‥‥の声に、緊張気味にポーズをとるシャオラ。こうして書いてもらった絵も、フェアの思い出となることだろう。

 手芸品を売り終えた悠季は、ココナッツハットを被りのんびりと店を散策する。
「んー、竹細工とか良いかしらね」
 一つ一つの店に顔を出していくと、清四郎の作った竹細工が目に止まった。
(「フォークにスプーン‥‥素朴で良いわね」)
 先ほど店で目に付いた、陶器の皿と組み合わせると味があって良いかもしれない。
 料理に合わせて食器を替えると、毎日がまた楽しくなるだろう‥‥と、悠季は竹で作られたスプーンとフォークを2つずつ購入する。
 清四郎は「ありがとう」と竹細工を手渡し、悠季を見送った。
 思いの他フェアは順調に進み、商品も売れ、大きなトラブルも無く‥‥人がまばらになってきた所で清四郎は一息つき、竹ナイフを置く。
「皆が楽しむ祭りの最中、無粋な真似をする者が居ればと思ったが‥‥問題ないな」
 僅かに目を細め口元だけ笑うと、青い空を眺める清四郎だった。

 そして、「遅くなっちゃった」とフェア終了間際に会場入りしたのはルミコである。
「その最後の風鈴下さーい!」
「この金魚のやつね。毎度ありがとう」
 昼寝の店で風鈴を手にするルミコは、丁度手作りガラス工芸にはまっていた。宙吹きならではの味ある形に興奮気味である。そして麦茶をもらって休憩すると、ヒラヒラと手をふり昼寝の店から去っていった。
「よし、完売‥‥と。一番沢山売れたかしら?」
 すっきりとしたスペースを見て、満足げな昼寝である。果たして売り上げNo.1は達成できたのだろうか? ガラス細工は案外高価な為、達成が期待できるところだ。
 そしてイレーヌの店でワイヤーフォトフレームを手に入れたルミコは、白雪の店の場所をきいてフラフラと歩いていく。 
「こんにちはー‥‥あら、もうあまりないのね。えっと、この縫いぐるみ下さい」
「色々売れてしまいました‥‥よろしければ、占いしますよ?」
「え、占いメニューもあるの?」
 白雪に言われ、「じゃあ恋愛運を!」とノリノリで占いを頼むルミコである。
 しかし、『真白』によって齎された占いの結果は‥‥。
「恋愛運‥‥? ‥‥‥‥えっ‥‥ま‥‥まあまあね。きっといい人が見つかるわ。‥・多分」
「多分って何!? どうして目を逸らすのー!?」
 ――つまり、そういう事だ。
 

 並べられた商品はほぼ完売となる盛況ぶりだったという。
 特に能力者達の作った品々は一般の人達の興味をひきつけ、その多彩な工芸品に感動した人もいるらしい。
 やはり一つ一つに製作者の心の篭った手作り品は、皆の心をも惹いたのだろう。実用的なものを求める人たちも多いけれど、芸術的な品や、手作りの工芸品には出費も惜しまないという人間もまた居るのだ。
 そして売り上げの一部はアジアの復興支援に使われるということもあり、余計に人々が集まったのだろう。
「元がとれればいいから、それ以外は寄付にまわしてね」
 と、本部に売り上げを報告する際、イレーヌは言った。
 スタッフはそれでも材料費と手作りに要した時間分の報酬は渡し、あとは寄付としてありがたく受け取ることとする。
「本当に良いのですか?」
「構わん、こちらも楽しませてもらったからな」
 清四郎も深く頷き、売り上げは全て復興支援へと寄付をする。
「‥‥みなさん、今日は有難うございました」
 人々の優しさに触れれば、皆が自然と笑顔になる。スタッフの手伝いをしていたシャオラも「私も今日は楽しかったです」とお辞儀をし、皆の前で微笑む。

 ――こうしてLHクラフトフェア2009は、大成功のうちに閉幕するのだった。