タイトル:【魂鎮】花と花火とマスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/08/31 01:42

●オープニング本文


 フィリピンに属するミンダナオ島は元競合地域。数ヶ月ほど前、能力者達の活躍によりキメラが殲滅されたばかりだ。拠点となっていたキメラプラント内部も掃討され、長年バグアに苦しめられていた島はようやく平穏を取り戻している。
 だがリゾート地として比較的開発の進んでいた海沿いとは違い、内陸部はあちこちが荒らされたままで、復興にはまだまだ時間がかかりそうである。
 バグアを退けたからといって、『めでたしめでたし』という事はない‥‥大変なのはここからなのだ。

 そんな中。
「訪れた人の心を癒すような、花の庭がつくりたいのです」
 島の内陸部に花を咲かせたいと、ケイト・レッティ(gz0208)は言った。
「観光名所とか、そんなのにするつもりはありません! ただ近くに住む人の、憩いの場になればいいと思って‥‥」
 現地に土地を所有するという一人の男を必死に説得するケイト。しかし、相手の男はやや困り顔である。
 ‥‥突然の話だから仕方がない。
 幸いだったのは、相手の男も花が嫌いではなかった事か。結局最後には折れて、更に格安というおまけつきで花園用の土地は提供された。
「有難うございます!」
 麦藁帽子をとり、ケイトはニッコリ笑って頭を下げる。

 こうしてUPC本部のモニターに、『花を植えるのを手伝って下さい』という依頼が並ぶ。
 依頼概要の最後には、こんなケイトの言葉が添えられていた。
『沢山の花と花火を用意して、お待ちしています』
 暑い中での作業は大変だろうが、夜になれば涼しい海辺で花火が楽しめるというおまけつきのようだった。

●参加者一覧

百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
藤堂 紅葉(ga8964
20歳・♀・ST
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
織部 ジェット(gb3834
21歳・♂・GP
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP

●リプレイ本文


「手伝いに来ましたよ、ケイトくん」
 太陽の下、小笠原 恋(gb4844)が微笑むと、皆の顔を見渡してケイト・レッティ(gz0208)も挨拶した。
 花園用の土地を見回して、藤堂 紅葉(ga8964)は「丁度良い場所だな」と言う。以前のミンダナオはあまり知らないが、戦地の復興となれば思う所があった。
「人はどんな状況からも立ち直れるというが‥‥この島の人達も、そうあって欲しいね」
 いつに無く真面目に紅葉が言うと、皆は頷く。そして
「争いが静まった土地で、鎮魂の為に憩いの花壇‥‥人の心を休めるのに良いものよね」
 創造行為は心を潤すものだから‥と、百地・悠季(ga8270)は言い、薄青のツナギという作業着で、バトルスコップを取り出し早速土を柔らかくする準備に取り掛かる。
「心を癒す花の庭が出来たら良いわね」
「頑張りましょう」
 と、着物を襷がけして手伝う澄野・絣(gb3855)は土に肥料を撒いていく。
 そして力仕事を手伝う、織部 ジェット(gb3834)の姿もあった。
「男は俺だけか。見せ所だな」
 と、重い資材を軽々運ぶ姿は頼もしい。
 そんなジェットに「たよりにしてますよっ」と声をかけ、橘川 海(gb4179)は花をチョイスしていった。

「お花を植えて‥花火見て‥にゅふふ、完成がたーのしみー♪」
 と、スコップで土を掘るのは美崎 瑠璃(gb0339)である。
「憐ちゃんは何植えるの?」
「‥‥ん。私は。エディブルフラワーを。中心に」
 瑠璃が訊ねると、花を地植えしながら最上 憐(gb0002)が答えた。
 種類や色は気にせず、食べれる花を田植えのようにひたすら植えていく憐のコンセプトは、『質より量・畑のような庭・三時のおやつは庭で庭を食べる』と、分かりやすい。
 恋から「がんばって下さいね」の声がかかり、
「‥‥ん。頑張って。立派な。畑を。作ってみる」
 憐はコクリと頷いて、再びプリムラやらを植えるのだった。
 一方、白雪(gb2228)は鈴蘭を手にする。
「‥鈴蘭の草原って、実家を思い出さない?」
(「良く遊びに行ったわね。みんなで」)
 姉の真白と語りながら村の友達を思い出し、微笑んだ。白雪の手には鈴蘭の他にも鏡や小道具が用意され、何が出来るか完成が楽しみである。
 そして傍の区画では恋がパンジーを植え、場を華やかにさせていた。

 ツナギの上半身を「暑苦しいのは趣味じゃない」と肌蹴、紅葉は作業を進める。
「こういうのはガーデニングというのかね」
「そうですよー」
 初心者ぽい会話をしつつ、ぎこちないながらも淡々とした庭造りだ。
 時折ミミズを掘り起こしては、
「無闇に殺めたりはしないさ」
 と避けてやるところに、紅葉の優しさがみえる。
 掘り起こされたミミズを、ケイトは「土をよくするから」と荒れた地に放った。

 熊手で土を均等にし、悠季と絣、海は共同で庭を造っていく。
「ここはコスモスで埋めようと思うの」
「では私は‥菫にしましょう」
 悠季と絣が花を選ぶ中、海は花園の周りをぐるっと囲むように生垣を作っていく。防風林代わりの、花園を守る為の生垣だ。
「それは何の花だ?」
「グソウバナっていうらしいんですよっ」
 作業を眺めていたジェットが問うと、海は答えた。
 グソウバナとはあの世の花‥‥沖縄ではハイビスカスを墓場に咲く花として、そう呼んでいるらしい。アカバナー、仏桑華という名でも有名だ。
 海は一度偵察に行った沖縄で、咲き乱れるのを見ていた。
「その時に‥綺麗だなって思って」
 花も、死人の後生の幸福を願って墓地へ植栽する人々の心も。
 この島を取り戻したように、あの沖縄の地もいつか、取り戻したいと思う。絶対に。

 こうして、参加者が工夫を凝らした庭が、徐々に形になっていく。

 瑠璃は向日葵を一通り地植えし、流れる汗を拭った。
「やっぱり時期的にぴったりだしね♪」
 やがて太陽に向って大輪の花をさせるのだろう。明るい黄色を想像すると、瑠璃の心も弾む。
 その間、真白は大きなパネルを傍に置き。
「じゃ、組み立てましょうか」
 と、バトルスコップを取り出す‥‥何をするのだろうか。ケイトが首を傾げる中、「はっ!」という掛け声と共に両断剣で地面を流し斬る!
 土が跳ね、派手な作業に驚くケイト。
「びっくりしました」
「ここにパネルを固定するのよ」
 見ると、白雪が作っていたパネルは、黒塗りの板に穴をあけ光ファイバーが散らしてある。それは星空と満月をイメージし作られていた。
 白雪はパネルを立て、さらに鈴蘭の花畑を腰の高さまである鏡で囲み、雪だるまのぬいぐるみも配置し、一箇所だけ扉を作成する。
「中に入ってもいいですか?」
 ケイトがワクワクしながら突入すると‥‥そこはまるで『どこまでも続く雪原と夜空』だ。
 鈴蘭が雪のようで、星光るパネルもとても綺麗で、間も無く「スゴイ!」と声があがる。


「みなさん、休憩しませんか?」
 という恋の言葉と共に、お弁当タイムに突入する。
「‥‥ん。労働の。後の。ご飯は。格別」
 憐はお弁当を食べつつ、海ではクジラやマグロが捕れないかと思い巡らせた。‥そんな事を考えていると、
「はい、桃シャーベットですよ」
「‥‥ん。有難う」
 恋の手からよく冷えたシャーベットが手渡され、今度はそれをシャリシャリと。味もさることながら、色も綺麗だ。
「皆さんどうぞ。桃によっては茶色くなってしまう事もあるんですけど、今日のは綺麗な薄ピンク色にできたんですよ」
「おいしい。喉も潤うわ」
 悠季も一口食べて、頬を綻ばせた。美味しいからと、海と絣にも手渡していく。そして、
「瑠璃さんや白雪さんは何を作ってきたんですか?」
「ふふふ、今は秘密♪」
「私は食べる方にまわりますね」
 首を傾げる恋の質問に、瑠璃と白雪は答えるのだった。


 午後になり、花園作りも大詰だ。
 男性参加者であるジェットの手がけた花壇も、凝ったものとなっている。
 彼は先ず中央に30cm程のプレート状の電飾を置き、花壇のレンガの周りには紫御殿を敷き詰めた。
 そして、中央から外側に向けては茉莉花を‥‥これは、フィリピンの国花だ。
「これでよし‥っと」
 そして最後に、電飾を守るようにフェイジョアを四方に植えていく。こうして花壇が出来たと、ジェットはケイトに報告した。
「『araw&buwan』どんな意味でしょう?」
 電飾の中央の文字を読み、ケイトは問う。
「タガログ語で『日中と夜』と言う意味だ」
 一仕事終えたジェットは、花壇への想いを語った。
「毎日を守っているって、そう言う意味にしたかったんだ。フェイジョアは俺達であり、光る電飾は皆の希望、茉莉花は守るべきフィリピンの国花。誰にも汚されない、皆の夢なんだ」
「成る程、そんな意味が‥」
「ああ、そして花壇は地球だな。紫御殿を宇宙とすれば‥‥皮肉かもしれないけど、この花壇を荒らす奴が、所謂バグアになっちまう。バグアだろうが人だろうが、悪い奴になっちまうって皮肉かもな」
 この花壇を、この地球を守りたいと。花を眺めて強く思う二人。
 ――その間に、紅葉も花畑を完成させていた。彼女は杜鵑草を中心に、白い山茶花をその周りに植えていた。
「こんなものか。デザインセンスは無いからね‥‥仕方が無い」
 けれど愛する人に見せれば、きっと思いは伝わるはずだと自負する紅葉。
「さて。願いや祈りは、得意な奴に任せるのが一番だ」
 海達の会話をちらりと聞きながら、紅葉は木陰に腰を下ろした。

「私には桜といえば絣さんかなっ?」
「そうなんですか?」
 和気藹々と会話しつつ、桜を植える海と絣、そして悠季。
 彼女達は『右近の橘、左近の桜』、かつて平安京の内裏にあったという春を告げるシンボルを作ろうとしていた。
 もともと左近桜は梅だったらしい。
 ‥‥梅は実を結ぶ木だ。
 ここに住む人々の復興の努力が実を結ぶ事を、海は願っている。
「春が楽しみね」
 ここには四季は無いけれど、桜に誘われるように悠季は言った。
(「‥やっとミンダナオ島にも春が来ました」)
 気候に合うように品種改良されたという桜だ、いつかきっと、花を咲かせるに違いない。
 悠季のコスモスと、絣の菫に囲まれる二本の木に、海は復興への祈りを捧げる。

 一方憐は、外側から時計回りに、内側に向って花を植えていた。
 花たちがのびのびと成長できるように用心しつつ、最後にはトレニアを植えて完成。
「‥‥ん。これで。完成。‥‥出られなくなった」
 しかし周りを見渡すと、先ほど植えた花々に囲まれているではないか。
 そこへ、
「ケイトさん、何か手伝う事はある?」
「憐さんの救出をお願いします!」
 タイミングよく手伝いにきた真白に、笑いながら答えるケイト。
 そして瑠璃はというと、向日葵を囲むように『ネモフィラ』の鉢植えを並べる。彼女の名のような、瑠璃色を持つ可愛らしい花だ。
「ケイト君にこの前教えてもらって、好きになったんだ♪」
「気に入ってもらえて良かったです」
「ふふ、暑さに負けずに元気に育つんだぞー。『どこでも成功』の花言葉は伊達じゃないってところ、見せてやれっ」
 にししっと笑いながら、ネモフィラの鉢に水をやる瑠璃。
 その傍で、恋は植えたパンジーを見ながらスケッチを始めていた‥‥しかし上手くいかないのか、何度も挫折し項垂れる。
「いいんです、どうせ私には絵心なんてありませんから‥」
 しょぼんとしていると、「そんなことないと思うよ?」という声が聞こえて慌てる恋。その後は協力して、パンジーを植えていくのだった。
「わぁ〜綺麗にできました。さすがはケイトくんですね」
 賑やかな色合いの花壇が、また一つ完成する。

 全員の作業が終わったのを見計らい、
「みんなお疲れ様〜」
 スイカの器をでんっと置き、瑠璃がにゃはっと笑う。
「本日のおやつのテーマは! ちょー手抜きだけど、侮れない美味さ!」
 自信満々に言う瑠璃のおやつは、スイカボールとラムネが詰まったフルーツポンチだ。
「‥‥ん。美味しい」
 と、おやつを味わいつつ、憐はクルリと周りの庭を見る。
「‥‥ん。あの庭も。おいしそうだね」
 鮮やかに彩られたそれぞれの花畑は、フルーツにも負けぬくらい魅力的だ。つられて、恋も笑顔になる。
「うふふっ、すごく綺麗な花壇ができましたね。ここの人達が喜んでくださるといいですけど」

 こうして、周りをハイビスカスに囲まれた、個性たっぷりの『花園』が完成する。
 4m四方の小さな空間に想いや祈り、願いと遊び心をつめて、最後には皆で完成を喜んで。

(「このひとときの平和が永遠のものとなりますように」)
 去り際に、海は願った。
 ――橘は常緑、永遠を意味する樹木だから。
「また、実をつける頃に来ますねっ?」
 橘と桜に再会を約束し、海は笑う。
「橘って、食べれるの?」
「生食には向かないけど、マーマレードにすればいいと思いますよっ」
 憐ちゃんも喜びますし、次来るときには作っておいてあげて下さいねっ‥‥と、仲間に答えながら。
 皆で浜辺を目指して、歩いていくのだった。



 入浴剤で湯浴みを終え、浴衣「朱紅葉」に混天綾を羽織り白雪が浴室を出ると。
 そこでは恋が、瑠璃から貰ったという浴衣「桜舞」に身を包み、白雪に訊ねた。
「白雪さん、これであってますか?」
「ここはこうかしら?」
 着付けを行い、帯を締めた二人は慌しく浜辺へと走る。

 そして浜辺では。
「おお、花火もいいが皆が何より綺麗だな」
 昼間のツナギ姿とは異なる雰囲気を漂わせる女性陣を見て、ジェットは驚く。
「あ、ありがとうございます。なんだかちょっと恥ずかしいです」
 恋はちょっぴり頬を染め照れ笑い。
 そこへ悠季が浴衣「天使」に扇簪、ヒール下駄という装いでやってきた。
「手持ち花火も楽しそうね‥‥その前にフルーツ、いただこうかな」
 動いたあとは甘い物が良いのよね、とにっこり笑って。
 浴衣「無駄」を纏った憐が食べている南国フルーツの皿から、パイナップルを手に取る。瑞々しくて、とても美味しい。
 皆が果物を楽しむ中、白雪は銀食器に骨付き肉を乗せ、憐へと渡す。
「骨付き肉と最上さんってちょっと似合う気もしますね」
「‥‥ん。食べ応え。ありそう」
 強化された肉は、瞬く間に憐の胃袋へ収まった。その食べっぷりを見て、
「美味しそうにたべるよねー」
 と、「金魚」の浴衣姿の瑠璃が感心する。
 ――その時、辺りに大きな音が響いた。
「うわっ! 思ったよりおっきな打ち上げ花火ですね」
「‥‥ん。たまや〜。かぎや〜。‥‥カレー屋。大盛り〜」
 ――頭上の大輪を見て恋がはしゃぎ、憐の歓声があがる。
 盛り上がる中、浴衣模様と同じ「向日葵」のような笑顔をみせる海は、「絣」浴衣の絣と楽しげに空を見上げ。
「すごいっ」
 と、瞳を輝かせる。
 そんな浴衣の似合う女性達を見回して、ジェットはポンと手を叩く。
「よし、一番は海のだっ! 向日葵と生き生きとした黄色に心を奪われたぜ」
 ‥‥彼の中で、浴衣コンテストが開かれていたようだ。

 そして緋牡丹柄の白い浴衣に着替えた紅葉は、恋人の百合子と共に花火を楽しんでいた。下着はつけていないのか、浴衣に無駄な線が無い。
「以前は花火なんて、ただの商品としか思わなかったのに‥」
 しみじみと語る紅葉は、これも愛しいお姉さまといるからと色っぽい視線を這わせた。百合子も「そうね、風情があるわ」と、二人の時間を楽しんでいる。
 やがて二人は皆の輪を離れ、『花園』へと歩いた。
 紅葉の植えた山茶花は『ひたむきな愛』、杜鵑草は『永遠にあなたのもの』‥花言葉の説明はしなかったが、紅葉の意図は伝わっただろう。
 百合子が「有難う、嬉しいわ」と唇を寄せると、苦しそうに胸を押さえた紅葉が「私の胸をマッサージして下さい‥‥」と訴える。皆の目から離れたところで、蜜月を楽しむ二人だった。


「超線香花火勝負‥いきますよ」
 と、超線香花火を持ち出し微動だにしない白雪と恋。‥‥果たして何分たっただろうか。
「‥なかなか落ちないですね」
 白雪が岩のように動かぬ為、恋が笑った瞬間に炎が落ちる。‥白雪の勝利だ。
「素敵だね‥花も、花火も」
 落ちる線香花火の灯りを眺め、ケイトは呟く。
 花火の儚さに、何かを思っているのだろうか。

 煽げば満面の星。
 線香花火を眺めながら、悠季は「楽しかったわね」と、友人との会話を楽しむ。
 やがて絣の横笛から静かな音色が紡がれ、潮風に運ばれて響いた。
 ‥‥そしてその旋律に混じる、もう一つの音色も。
「折角だからフルートを練習させてもらおうかしら」
 と、ヴァイス・フレーテを手にした真白が、皆から離れた浜で音を奏で始めた。

「花火は儚いものだけど、そこから生まれる希望は儚いものじゃないってな」
 ジェットの言葉に、皆はコクリと頷く。‥終りは少し寂しくもあるけれど。
「今日はとっても楽しかったです。またこうしてみんなで遊べたらいいですよね」
 またここに集まりたいと。恋は願いを込めて、微笑むのだった。