●リプレイ本文
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パラオのコテージ建築現場。ログ材を削る白石ルミコ(gz0171)は能力者達の姿を見つけて手を振った。
――いらっしゃい!
機械音に掻き消されたが、多分そう言っているのだろう。
‥‥やがて機械音が止む。
「ルミルミ、今回もよろしく‥。着々とリゾート計画は進んでる‥?」
「順調、順調♪」
佐倉・咲江(
gb1946)の問いに、ルミコは笑顔で答えた。
そしてパラオリゾート開発もといログハウス作りが始まる――!
まずは、セルフビルド組。
「さすがにログハウス作りはなかなか体験する機会ってないよね」
犬小屋なら作ったことあるけど‥と、鯨井起太(
ga0984)は言う。しかし、銃より重い物なんて持ったことありません!‥という事もなく、ひょいっとログ材を担いだ。
「私もはじめてよ♪ でも何かを作り上げるのって楽しいわよね〜メイクも同じ!」
ナレイン・フェルド(
ga0506)はポニーテールにアロハシャツと、結構な張り切り様。
「出来上がっていく様がドキドキワクワクしちゃう♪」
と、見た目華奢な女性なのに軽々ログ材を持ち上げる。
そしてNO.9(
gb4569)も長い茶髪をまとめあげ、まけじとログ材を担いだ。
「よし俺もやるぞ! どこに運べばいいんだ?」
「それは西の壁用だな」
ふむ‥と設計図を眺めつつ、ゴールデン・公星(
ga8945)は言った。レディに力仕事を任せるのはどうかと思うが、まあ楽しそうなのでよし。
「はははっ! 女だからってへばったりしないぞ!」
ゴールデンの不安そうな表情の意味を勘違いしたNO.9は、愉快そうに笑い足場を登っていく。
まさにクレーン要らず。
「はぁ〜なんていうか、さすがねぇ」
そんな能力者達に簡単な指示を出しながら、ルミコは感嘆の声をあげた。
「ふふっ、意外と力持ちなのよ〜」
ナレインがウィンクしてみせる。
そして内装担当の4人は、ショッピングモールへ。
「木陰の涼しくて心地よい風が吹き抜けるような‥‥中にいても、パラオの自然を身近に感じられるようにできるといいな」
脳内で部屋をイメージしつつ、イレーヌ・キュヴィエ(
gb2882)は調度品を眺める。
木目の家具を求めてじっくり選ぶイレーヌの横で、浴衣姿の白雪(
gb2228)は生成りの麻布を手に取った。
「この布はどうですか?」
「うん、いい感じ♪」
白雪もイレーヌも気に入った様子。手芸コーナーでは青い刺繍糸を買い、仲良い女友達らしく和気藹々と行く。
レイチェル・レッドレイ(
gb2739)は咲江と手をつなぎ、木製の家具を選んでいた。
「あ、これ可愛い♪」
つい雑貨屋のアクセサリーに目が行ってしまうのはご愛嬌。
家具を手配した後、食料品店へ。
「えっと、買うものは‥‥これで全部かな‥」
「今夜はバーベキューだねー」
握った手を揺らしながら、ワンピースの二人は通りを歩いていく。
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「んー! やっぱ俺は体動かすほうが似合ってるな!」
と、NO.9の笑顔が眩しい。
ログハウスは半日で外側壁部分が組みあがり、続いて屋根に突入。ゴールデンが図面をみながら細部に気を使ってくれるので、かなり順調なペースだ。
起太は建材を並べながら、ログハウス作りの基本を学び取ろうとしているよう。
「随分熱心ね〜」
「将来別荘が欲しくなるかも知れないからね」
その準備というところ‥‥しかし内心、木製のKVに思いを馳せているのは秘密だ。
照りつける太陽の下、滲んできた汗をハンドタオルで拭い、
「水分もとらなきゃね〜」
ナレインは水で喉を潤す。よく冷えていて気持ちよい。
「ふぅ‥喉は潤ったが‥‥イエロー・シーダーはジャガイモの匂いがするんだよなぁ」
腹が勝手に演奏を始めそうだと、ゴールデンは笑う。
「休憩しましょ、9さんも! オッキーも!」
ルミコが手招いたその時、家具を載せたトラック数台が。
「よし、運ぶぞ!」
嬉しそうに駆けていくNO.9‥‥彼女のスタミナは尽きない。
協力して家具を運びいれ、内装組の本番だ。
白雪とイレーヌが手がける棟には、幹や枝を利用した造りの椅子が並べられた。丸太の自然な風合いによく調和している。
その椅子に腰掛る二人。
「ふふ、雪ちゃんはいろいろ細やかだから、いいものできそう♪」
刺繍用の木枠を手に、微笑むイレーヌ。午後はゆっくりと、ドロンワークするのだ。
「よろしければ白石さんもイレーヌさんと一緒にレースを編みませんか?」
白雪は窓を開け、休息を終えたルミコに声をかける。
「何かを創るってわくわくしますよね」
イレーヌとルミコと白雪でテーブルを囲み、始まる刺繍。
「‥ここは‥こう? あれ? 網目を間違えた?」
ブラインドの下方に青薔薇の透かしを入れつつ、がっくり肩を落としてイレーヌに助けを求める白雪。
「ここは‥こうするの」
クスっと笑い、優しく教える。
そしてカバー、ランプシェード、テーブルクロスに至るまで、青い刺繍糸の薔薇が施されていく。
イレーヌの刺繍の腕は細かく丁寧で。青薔薇の他にも緑の葉を入れ、花弁を散らして。
「うわぁ‥イレーヌさんも白石さんも器用ですね」
「器用なのはイレーヌさんだけよ‥‥」
ルミコもイレーヌの縫い方を眺めつつ刺繍を試したが、白い布を血で染めないようにするのが精一杯だったらしい‥‥裁縫は、ちょっと苦手。
こうして苦心しつつも、ドロンワークが完成する。
カーテンをつけ、シーツを敷き、ランチマットと白い食器も並べて。
「いい感じね♪」
微笑むイレーヌ。全ての青薔薇は主張しすぎず、可愛らしい。
白雪はLHの花屋から送られたフラワーアレンジを入口に置き、窓際にはプリザーブドフラワーを散らして。
「ケイトさん‥こんなに沢山‥‥ありがとうございます」
青薔薇の色の優しさが、白雪の心に沁みた。
こうして青薔薇で彩られた部屋を、覗き見するナレイン。刺繍の出来に感激だ。
――実はこの内装アイディア、ナレインが出したものである。
「ナレインさん、どうですか?」
「綺麗! やっぱり青薔薇に囲まれて暮らすのってステキよね〜」
白を基調に、青薔薇刺繍、清潔で華美な印象の部屋だ。
ナレインの目がキラキラ輝く。
「ペイントも頑張っちゃうからね♪」
青薔薇コテージの完成を間近にし、ウキウキ気分。
そこへ起太が、
「るみちょんにも差し入れだ」
と、全員分のジュースを渡す。ありがとーっと受け取って、みんなで飲んで。再び作業を進めていく。
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咲江とレイチェルは、マシンカット二棟の内装を手がけた。
「こんな感じ‥‥かな?」
白と水色を基調に、シンプルながら爽やかな内装。それが咲江のテーマだが、順調に近づいてきている。
統一感のある部屋というものは見ているだけで心地良い。
「ん、シンプルイズベスト‥。シンプルだけど居心地のいい空間‥ZZzzz‥」
‥‥寝るな、咲江よ。
しかし運び込んだベッドの心地よさに、思わずまどろんでしまうのだった。
一方レイチェルは。
カーテンは深い森を思わせるような緑色で統一し、リビングには緑系色のソファーとセンターテーブル。
人数配分にまで拘って、ロフトには天窓に向かい合う形で二人掛けソファーが設置されていた。
レイチェル曰く、
『二人で星を見上げながら語り合ってね♪』
とのこと。なかなかロマンチックである。
そして一つの寝室には木製のベッドを二つ置き。
「ここだけはボクの趣味全開でいくよ♪」
‥‥と、それまでのシンプル路線から一転。
照明は紫、カーテンは分厚く昼でも薄暗くなるようにして‥‥中央の円形ベッド周囲には、薄い紫色のヴェールを張り巡らせた。
最後にサイドテーブルへ香炉を置き、題して!
「『恋人達のお楽しみの部屋♪』完成〜」
ムードも出せる、大人向けのお部屋。ここだけほのかに怪しい香り。
「サキに見せよっと♪」
そしてレイチェルは咲江の元に行くのだが‥彼女は先ほど眠ったばかりでは。
「ごめんレイチー‥寝てた」
瞼を擦る咲江。レイチェルは「寝顔みてたからいいよ♪」とベッドから立ち上がって、咲江の手がけた棟を見る。
――空を感じさせる爽やかな色使いが心地よくて、窓を開けるレイチェル。
そこでふと、咲江は小さな包みを取り出した。
「レイチー‥これ、レイチーにプレゼント」
咲江がおずおず出したそれは、お店で購入したお魚のネックレス。
「ありがと♪ ボクも買ってたんだ」
実わね‥と、可愛らしい猫のパーツネックレスを出し微笑むレイチェルだった。
そして無人となったレイチェル担当の棟へ。
「おおっ! 内装も出来てるなー♪」
NO.9が入り、ロフトの天窓を面白そうに眺めていた。
「わーこっちもすごーい」
ルミコもドタドタと入ってくる‥‥どうやらセルフビルドはほぼ完了。
起太は椅子に座り、一息ついて。
「やっぱり落ち着くね」
木に囲まれた生活は他にはない安らぎを感じるものだと、ひとり浸ってみる。
その時、優雅な旋律が響き渡る――それはゴールデンが奏でるヴァイオリンの音色。
(「疲れが取れればいいが‥」)
彼の演奏で、暖かな木目に囲まれた空間が、より落ち着く場所へと変わっていく――。
「演奏か‥‥俺アコーディオン弾けるぞ! 昔受けた依頼でも好評だったんだ!」
と言うNO.9が奏でるアコーディオン、是非きかせて欲しい。
――僅かな休憩を挟み、ログハウス作りも大詰め。
最後の仕上げは外へのペイントだ。
「なーに描こっかなー、なーに描こっかなー♪」
組みあがった棟を前にし、ペンキを持ったNO.9が体を揺らす。そしてポンと手を叩き、
「そだ! この島で見たいいものを描こう!」
良い案が浮かんだ模様。
「さっき見たきれいな花だろー? あとはでっかい木とー、鳥とー‥」
思い出しながら、とても楽しそうに力強いタッチで描いていく。
ナレインは、白雪とイレーヌが仕上げた青薔薇内装のログハウスに、青の塗料で薔薇を描く。
花束と、風に乗って踊る花びら‥‥
「描くのって結構難しいけど‥‥楽しいわね♪」
ナレインの言葉に、イレーヌは頷いた。彼女は彼女で、海辺の貝殻と珊瑚と砂を使った額絵を作成。白雪のモービルと併せて、内装の仕上げに掛かる。
そして起太も別の棟に筆を走らせた。
「ここでは何度もバイを見かけたけれど、描かれた絵は素朴ながらも味があって‥素敵なものばかりだったね」
バイというパラオの建物を思い出しながら、起太は魚や貝、そしてドドンと鯨を描き、波を表した模様で周囲を彩っていく。原色を交えた、大胆な色使い。
「そんな建物もあるのか‥‥奥深い歴史があるんだな」
徐々に出来上がる絵を眺めながら、ゴールデンはまだ見ぬバイに思い巡らせた。きっと起太の描く絵のように、賑やかな建物なのだろう。
――こうして描かれた絵。
南国の花や緑の木々に囲まれた場所では、自然と調和していて奇抜さは無く。
目を引くけれど、目立ちすぎない、良い感じに仕上がっていた。
やがて一日の作業が終わる。
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「みんなおつかれさまっ! ログハウスの完成を祝って〜」
手には酒を、未成年にはジュースを。かんぱーいという声と共に、グラスの音が鳴る。
「わぁ、シーフードバーベキュー♪」
丁度食べたかったのと、イレーヌは嬉しそう。
咲江達が買出しした新鮮なシーフードが、次々焼かれ良い香り。
「レイチー、私の手料理‥‥あーん」
「あ〜ん、‥‥おいし〜」
咲江の手からホタテを貰い、頬を綻ばせるレイチェル。そして、
「どんどん焼くぞ!」
手際よく焼いていくNO.9。その中から白雪はエビを取り、いつのまにか浴衣に着替えたナレインへ皿を渡した。
「上手に焼けてますからどうぞ、ナレインさん」
「有難う♪ いただきまーす」
良く焼けたエビにカプリ。うん、実に香ばしい。続けて魚を齧りつつ、ナレインは話を振った。
「そ〜言えば、ルミコちゃんって私が男だって知ってたっけ?」
「!? 知らなかったわ!」
ここで驚くのは、誰もが一度は透る道。
そして白雪は、この光景にどこか懐かしさを感じた。
「気がついてみればお会いしてからもうすぐで一年ですが‥‥いい人出来ましたか?」
不意に『真白』が問い、それにはルミコも苦笑いしつつ。「仕事忙しくて作るの忘れてた」と、笑いながら言うのだった。そしてはぐらかしつつ、
「えーと、おにぎりもあるから、御飯も食べてね〜」
ルミコはたんまりと白飯をもってくる。
「ごはんがあれば食が進むね」
「確かにそうだな‥‥おかわりをもらえないか?」
起太とゴールデン、男二人、やはりモリモリと食べている。
そこへ焼いていたNO.9も本格的に食べ始めた‥‥どんどん無くなっていく食材。
少し賑やかな『華』たちであるが‥‥酒を交えつつ、これも楽しみの一つだとゴールデンは思った。
今夜はお泊りだ。
無事に完成し、木の香りと僅かに塗料の香るログハウスでは、ルミコがお礼にと『手作りブレスレット』を配っている。
そして、
「ババ抜き‥‥イレーヌさん、今度こそ勝ってみせます!」
トランプに情熱燃やす白雪がカードを取り出し。
「のぞむところ」
と、イレーヌが受けて立ち。
「ババなんて取らないわよ〜」
と、ナレインは結構マジである。
(「あまり得意ではないな‥‥ポーカーフェイスを心がけているつもりが、顔に出ていると指摘される」)
と、ゴールデンは不安げに。
起太にNO.9、ルミコも混ざってババ抜きに興じたのだが。
「‥皆さん、少しは手加減してください‥」
案の定、最後は白雪が項垂れた。真白の思う通り、『ここまで外すのも才能』である。
――その頃、外では。
「夜の浜辺って何か静かでいい雰囲気‥‥って、レイチー待ってー」
「うふふ♪」
つかまえてご覧♪ と逃げるレイチェル。
夜の砂浜、咲江と追いかけっこで戯れつつ、二人はやがて『あの』寝室へと向っていく――。
レイチェルデザインのムードたっぷり寝室で、二人がどう夜を過ごすかは内緒の話。
この様に、時折休息を楽しみながら。
のんびりゆっくりと、リゾート計画は進んでいく。
静かに夜の帳が下り――。
「綺麗‥」
木の上で、吸い込まれそうな夜空に浮かぶ月を穏やかに見つめて、呟くNO.9。
そしてランタン片手に、ルミコと白雪、イレーヌ達と浜辺を散歩しながら。
「静かね‥ここなら、世界中がここみたいに穏やかなら‥‥なんて思っちゃう」
少し寂しい笑顔で、ポツリ呟くナレイン。
「ここに居るときだけでも、世界は穏やかだって感じてほしいかな?」
だから寂しい笑顔はナシね、と、女友達のようにルミコは笑う。
「‥パラオは本当にいいところですね。‥忘れかけていた何かを思い出せそう」
歩みを止め星空を見上げ、『真白』は龍笛に唇を当てた。
「ここにまた無事に戻って来れるように‥‥あの星空に願いを掛けて」
息を吹き込み、紡がれる旋律が‥‥澄んだ夜空に溶けていった。