●リプレイ本文
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ミンダナオ島・内陸部。
地下洞窟へ続く穴を見下し、ザン・エフティング(
ga5141)はカウボーイハットの鍔を押さえ呟く。
「やはり地下にキメラのプラントが在ったか」
以前の調査で発見された、地下プラントへの入口‥‥そこを拠点としていたバグアは、とんでもない置き土産をしていったようだ。
「まったく立つ鳥跡を濁さずと云う言葉も知らんのかねバグアは」
ザンの言葉を耳にし「知らないでしょうねぇ」と相槌を打つディアナ・バレンタイン(
gb4219)。
「でもいよいよ大詰めね‥‥最後まで付き合いましょうか」
と、幾度と無く現れた吸血鬼との戦いを回想し、それぞれの特徴を皆へ伝えていく。
「ふむ‥‥そうか。分離するだとか、腐臭がするだとか‥‥趣味が悪いな」
深みある低音で唸る杠葉 凛生(
gb6638)が、鋭い眼光でプラント入口を見据えた。
そして、コクリと頷く澄野・絣(
gb3855)。
「ホラーは得意な方ですけど、あまり気持ちの良い相手ではありませんね」
破魔の弓を手に、僅かに眉根を寄せる。
その絣の肩をポンと叩いて。
「現場では頼りにするわよ」
百地・悠季(
ga8270)は微笑んだ。生身での本格的な戦闘は久しぶりだけれど、気心知れた彼女らと一緒ならば頑張れそうな気がする。
――再び訪れたミンダナオの地。
赤い蝶模様のアオザイを纏い、橘川 海(
gb4179)は誓う。
(「この島を、みんなの手に‥‥取り戻します」)
そして仲間と共に、地下プラントを目指した――。
「こんなものがこんなところに在るとはな」
人一人通れる程の穴を確認し、呟く須佐 武流(
ga1461)。
柊 沙雪(
gb4452)は小さく息を吐き、覚醒を遂げる。
「そろそろアスワンたちには退場してもらいましょう」
――いよいよ突入だ。
ほのぼの和みオーラを放出しつつ皆の方を振り返り、夜明・暁(
ga9047)は微笑んで。
「皆さん頑張りましょう」
先陣きって走り出し、何もないところで「はぅ」と転ぶ――大丈夫だろうか?
一部和やかな、一部心配そうな視線をうけつつ、暁は二刀小太刀「花鳥風月」を抜き陽光を纏った。
「日輪の加護を――」
刹那、覚醒。暁の美しく凛とした表情は、頼もしいものだ。
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プラント内部の照明は全て壊されていると、先に突入したUPC軍の情報がある。
――それを耳にした時に、海は考えた。
『急いで逃げるときに、電気を壊していくのは、行動の常識にそぐわないです』
つまり、暗がりはキメラにとって有利であるのだと。
そこで、能力者達は強力な光源を用意する‥‥沙雪と悠季の手に握られた『閃光手榴弾』だ。
「暗さに慣れているところにこれはきついでしょう。と、いうわけで‥‥」
極めて冷静に、手榴弾のピンを抜く沙雪。
洞窟の入口に放り投げ、待つこと30秒――太陽の下ですら眩い光の柱が立ち上がる。
「さぁ、行くか!」
ザンが叫ぶ。ある者は光源を手に、ある者は暗視スコープを装着し次々とプラントへ降下――。
「凛生さん、頼りにしてますよっ」
飛び込む前に発せられた海の言葉に、凛生は深く頷いて『探査の眼』を光らせた。
冷えて湿った洞窟内部。
緩やかに着地し、直後周囲を警戒する暁。彼女の暗視スコープは、既に2体のキメラの姿を捉えている。
「居ます――」
入口付近のキメラは閃光を目の当たりにし、攻撃を当てることも避けることもままならない筈だ。
「吸血鬼だか吸血屍だか知らないが‥‥っ」
反撃も出来ぬよう猛攻を仕掛けるのみ――武流は手前にいたアマランヒグに素早く肉薄し、左足を軸に足爪での回し蹴りを放った。それは体の向きを変えながら、5回連続で繰り出される。
足爪は鋭利なナイフのように屍の体を裂き、体液と共にプラント内に腐臭が広がった。思わず鼻を覆いたくなる臭いだが、このチャンスに怯むわけにはいかない。
絣はスコープ越しにもう一体の屍を捉え、先手必勝発動の後、破魔の弓に矢を番える。
「そこねっ」
放たれた矢は、一直線に屍を狙い――腕を深々と突き刺した。さらにトスッと2本命中、キメラの体が大きく傾く。
その隙に、暁はキメラとの距離を詰めた。
「はっ」
二刀小太刀を閃かせ、屍の喉を掻く‥‥円舞のように洗練された、美しい動きだった。
暁は反撃をクルリとかわし、もう一撃、流し斬りを加える。
絣と暁、二人の攻撃を受け、吸血屍は顔から倒れこんだ‥‥腐った体液が冷たい地面に染みて行く。
もう一体は、武流が仕留めた筈――これでまずは2体。
閃光手榴弾による奇襲が功を奏したようだ。
「まだ隠れているな‥‥」
そして凛生がキメラの気配を捉えた。‥‥緊張が走る。
――その時、地中からぬっと現れる両手。
「おっと!」
お見通しさ、とでも言うように口角を上げ、ザンは地中から生えた腕をバックステップで回避。光源を片手に、素早く銃を抜く。
やがて地中から上半身を出してきた吸血屍。頭部を拳銃「アイリーン」で狙ったザンは、4発の銃弾を連続で放った。
――吸血屍の、頭の一部がはじけ飛ぶ。だがアンデットの如きしぶとさで、キメラはその姿を完全に現した。
「しぶといわね」
後衛からガトリングシールドで狙撃する悠季。装填された120発の銃弾の殆どを、キメラへと撃ち込んで行く。
――まるで爆ぜるように崩れる体。
(「おおよそ吸血鬼とは思えませんが‥」)
吸血屍という特性を見せぬままに消えていくキメラを目の当たりにして、沙雪は思う‥‥決して同情などしないが。
止めを刺すべく、二刀小太刀「疾風迅雷」を手に、沙雪は急所突きを放った。
「来るよっ」
天井から襲い来るキメラの姿を発見する海。――今度はアスワングか。
「あら、随分久しぶりじゃない!」
口元に不敵な笑みを浮かべ、ディアナは吸血女を前に言い放った。
吸血女はヴァジュラを持つディアナの片手を素早く舌で絡めとり、締め上げる――が。
「何度も通用しないわ!」
豪力発現の力でキメラの舌を引き、反対の手に持ったアーミーナイフで舌先を跳ね飛ばす。
さらに凛生が舌を狙い、「フンッ」とベルセルクを振り下ろした。
――ギャッという不気味な声と共にディアナから離れるキメラ。凛生の剣撃でブツッと切れた舌が跳ね上がり、本体は宙へと逃げようとする。
「飛んだっ」
中衛で棍棒を構えていた海は、即座に「竜の角」を発動。小手に仕込んだ超機械の電磁波で女の羽を狙う。
ほぼ同時に、凛生は瑠璃瓶に仕込んだ蛍光塗料のペイント弾を撃ちつけ、更に強弾撃で羽を撃った。
――攻撃を浴びた女は一瞬硬直し、やがて急降下する――狙うのは海だ。
だが反撃を棍棒で受け、海は打撃を叩き込んだ。さらにディアナは側面に回り、流し斬りを放つ。
‥‥アスワングはしぶとかった。だが蛍光塗料が目印となり、アマランヒグの討伐を終えた者達が攻撃に加わると程なくして殲滅される。
これで吸血女1体、屍3体を殲滅完了。
だがマナナンガルらしき姿はまだ無い――これからが本番なのだろう。
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改めて前衛・後衛の陣形を整え、探索を続ける能力者達。
「これはこれで、結構怖いですね‥‥」
と、沙雪が女の子らしい一面を見せる。
通路に面した扉を慎重に開けていくと、見落とされていた吸血屍がさらに2体現れた。が‥‥もう屍如きに怯む能力者ではない。
扉の隙間から舌を覗かせる吸血女からは多少攻撃を受けたが、絣が救急セットで応急処置を施していく。
そしてマナナンガルを探し、さらに奥へ――。
「突き当たりのようね」
大きな扉を前に、悠季が呟いた。この先にマナナンガル‥‥呪術師がいる可能性は高い。
今までの扉より重量感のある、最奥の扉。
「分かりやすいですね‥‥」
暁はそれに気づき、すこし驚いたように話す。
「奥から気配がするな、間違いない」
探査の眼をかけなおし、凛生が確信をもって言った。
それぞれ武器を構え、武流が扉をあける――と、急に視界が開け、薄暗い天井から女の上半身が急降下した。
美しい顔の女、だが目を血走らせて。真っ赤な唇は、血に染まっているようで‥‥。
――これがマナナンガル‥‥呪術師だ。
呪術師は鋭い爪で武流の手の甲を裂き、再び宙に舞う。
「‥‥く」
だがニ撃目は確りタイガーファングの刃で受け止め、外へと払う武流。
自在に舞う上半身は、後衛を陣取る絣の首筋を狙っていた。
「させるかっ」
武流はそれに気づき、庇うように動く。呪術師の気を引き、ジャンプで壁を蹴り、勢いづいたキックをお見舞いする。
そこへ‥‥さらにもう一体の”上半身”が。
やはり殿を務める悠季を狙い、急降下してくる。
「‥‥っ」
悠季は咄嗟に、ガトリングシールドで体当たりを防ぐ。だが体勢を崩す悠季。
キメラはさらに彼女を狙った。――二度目の急降下は、悠季に届く直前で急停止する。
絣が腰の右側に下げた【OR】矢筒「雪柳」から矢を抜き、破魔の弓に番えて。
「やらせないわよ」
狙いを定め、呪術師の右肩を射抜く。立て続けに矢を放ち、キメラを寄せ付けない。
続いて竜の翼を発動した海が跳躍。体を捻ると、テールランプの光のような赤い蝶が、残像を辿るように優雅に舞った。
海は振り向きざまの遠心力を使い、呪術師へ向け竜の咆哮を放つ。
「さゆちゃん、暁さんっ!」
撃ち出す先は、前衛の二人だ。
二刀を持つ沙雪と暁は、飛ばされた上半身を迎撃する。
「血をご所望なら‥‥自分達ので間に合わせてください」
二連撃を発動し、真紅の瞳で呪術師を見据える沙雪。剣先を閃かせ斬り伏せると、呪術師の胸から赤い花のように血飛沫が迸る。
一方暁は側面に回り、流し斬りを決めた。
「いかがですか‥?」
手応えを感じて薄く笑む暁。――キメラは傷を負いつつも、再び宙へ浮いていく。
長弓「桜花」に持ち替え、暁は追撃を始めた。
同じく狙撃眼を発動し、狙い撃つ絣。
「まだ終わらないわよ!」
遠くなっていく上半身に矢を放つ――。
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奇襲を凌いだ能力者達は、続けてゆるりと歩く下半身を狙った。
「こっちを倒せば退治できるらしいが」
呟き、拳銃で狙い撃つザン。‥‥伝承では、たしかにそうだ。だが、
(「その弱点は克服されているだろう‥‥かなり嫌な予感がする」)
熱きヒーローのように振る舞いつつも、ザンは頭の中で冷静に解析した。
(「もしかしたら下半身の方は、此方の油断を利用して爆発したりするかも知れんな」)
近づかせる前に倒す――それを念頭に、あまり動かぬうちに仕留めようと腿と足首を狙った。
そして、凛生は上半身と対になる、もう1体の下半身を発見。
「今のうちにやるか」
宙を跳ねる上半身とくらべ、こちらの動きは緩慢だ。凛生はやや距離を取り、ベルセルクの剣先を的確に当てていく。
ディアナも相手の出方を伺っていたが、下半身に動きが無いことを悟るとヴァジュラで脚部を切り裂いた。
「こんなものじゃないでしょう?」
流し斬りで攻撃しつつも、警戒するディアナ。
さらに長弓「桜花」に持ち替えた暁が、下半身を狙っていた。これで上半身も共倒れするのではないかと、伝承を意識しての攻撃。
‥‥そして呪術師の下半分は、ザンと凛生、ディアナと暁の集中攻撃を浴び、反撃もままならぬまま倒される――。
「真似たのは形だけかっ」
凛生は思わず叫んだ。――天井を見ると、上半身はまだ元気そうにピンピン跳ねている。
この能力の違いを見ても、下半身は只の飾り。伝承どおりの外見を作るべく、おまけで作られた別の固体であった。
「やはり倒れませんでしたか」
沙雪は既に察していた、マナナンガルの下半身が別の個体かもしれないと‥‥だから別段驚くでもなく。
上半身が脅威であるのならば、それを殲滅するのみ。
――呪術師の力は、全て上半身に集結されていた。
空を自在に飛び、引っ掻き、噛み付きという原始的な攻撃の他、闇弾を操り遠隔攻撃すら仕掛けてくる――だが狙った相手が悪かった。
武流は闇弾を宙返るようにかわし、反撃にでる。
「はっ」
武流の鋭い蹴りがキメラの胸部に炸裂。噛み付きをかわし、カウンターで肘を打ちつける武流。
大きく怯んだキメラに、沙雪は追撃を入れる。急所突きで腕を刺し、引っ掻き攻撃を封印。
一方暁は弓で呪術師の脳天を射た‥‥キメラの眉間に、矢が突きたてられる。
最初こそキメラに奇襲をうけたものの、戦闘はいつのまにか能力者達のペースであった。無数の傷をつくりながら、徐々に呪術師を追い詰める。
「しぶといな‥っ」
ザンが加勢し、宙へ逃げるキメラを積極的に狙い撃った。凛生も駆けつけ、瑠璃瓶で追撃していく。
遂には武流のタイガーファングの鉤爪が翻り、呪術師の首がぱっくりと裂けた。
――迸る血飛沫。
自らの血を飲み込んだ呪術師は、パタリと倒れ地に伏した。
そしてもう1体。
「あなたの本当の力、どれほどの物か見せてもらうわよ!」
ディアナは、首を狙って急降下する呪術師の口へ、ナイフを突きたてた。
キメラは悶えつつもディアナの指先へ噛み付き、そこに僅かな血が滲む。
「‥‥やるわね」
チリ‥‥っと奔った痛みで反射的に片目を閉じ、続けてヴァジュラを抜くディアナ。
再び高度を上げるキメラに、悠季は銃口を向けた。
「さっきのお返しよ」
悠季の手から放たれる怒涛の銃弾――頭の一部を跳ね飛ばされそうな衝撃を受け、キメラは再び崩れ落ちる。
その瞬間を待ち構えた海が、棍棒を振りかざした。
鈍い音と共に頭が拉げ、呪術師の美しかった顔は眼を逸らしたくなるような苦悶の表情に変わる。
リロードを終えた悠季が両断剣を付与し、強化銃撃を繰り出す――するとついに呪術師の頭が爆ぜた。
念を押すように放たれた絣の矢は、キメラの心臓辺りを抉る。
――頭から地に落ち、激突する呪術師。そしてそのまま命を散らした‥‥。
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「‥‥やったのかしら?」
ディアナが慎重に、キメラの骸を調べた――もう動く様子は見られない。
「これでこの島も平和になるかしらね?」
額の汗を拭うディアナに、ようやく笑顔が戻った。そして、皆にも。
戦いを終えて、凛生は思う。
「伝説では‥‥マナナンガルは、赤子や胎児を食べる女の怪物というが。アスワングも女か」
そして、顔をあげる。
(「いつの時代も女は魔性の存在‥‥ということか」)
‥‥今傍にいる少女らは魔性というには程遠く、頼もしい仲間なのだけれど。
「怪我されていませんか?」
救急セットを持った絣が皆の傷を看てまわる。
傷も癒え、最後にもう一度プラントを調べキメラの全滅を確認した能力者達は、LHへ帰還し報告をするのだった。
――彼や彼女らの活躍により、ミンダナオ島内陸部のキメラは全て排除された。
再び彼らが島へ行くことがあるならば、それは休暇を過ごす為に違いない――。
能力者達は島の住民の笑顔を守り、そして笑顔になれる場所を造りだしたのであった。