タイトル:蛍の夕べマスター:水乃

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 57 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/04 20:31

●オープニング本文


 九州地方の某所、河川を挟むように並ぶ小さな温泉街では。
 川が湛える甘い水に誘われたホタル達が、淡い光を灯しつつ闇夜を乱舞している。

 一重の桜が散り、八重桜が開花する頃、渓流から岸を上がり始めたホタルの幼虫は‥‥雨に濡れ程よく湿った場所へと穴を掘り、そこに佇み1ヶ月以上の時を過ごす。
 そして梅雨前後に孵化した成虫達は、地上の星のように暖かに光る。
 繊細な発光のリズムは見る人々の心に沁み、長く日本の初夏の風物詩とされていた。


「ホタル観賞の誘いか‥‥たまには良いな、こういうのも」

 ――LHへ届いた『蛍の夕べ』への誘い。
 傭兵達が手にしたチラシに書かれた内容は、『蛍を観賞する会』を行うというシンプルなものだった。
 泊まるでもなく、遊ぶでもない、ただ一晩限りの‥‥。
 けれど、一つ間違えば簡単に消えてしまうこの景色を、見ることができるささやかな幸せを感じながら。
 静かに過ごす夜も又、風情があって良いだろう。

「こんな誘いがなければ、行くこともあるまい。‥‥一度行ってみるか」

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 榊 兵衛(ga0388) / 鳴神 伊織(ga0421) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 皇 千糸(ga0843) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 新条 拓那(ga1294) / 須佐 武流(ga1461) / 鷹代 朋(ga1602) / 西島 百白(ga2123) / 海薙 華蓮(ga4079) / エレナ・クルック(ga4247) / ルシオン・L・F(ga4347) / 北柴 航三郎(ga4410) / アルヴァイム(ga5051) / 空閑 ハバキ(ga5172) / なつき(ga5710) / 鐘依 透(ga6282) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / 九条院つばめ(ga6530) / 不知火真琴(ga7201) / 八神零(ga7992) / 百地・悠季(ga8270) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 藤堂 紅葉(ga8964) / 鹿嶋 悠(gb1333) / 朔月(gb1440) / 遠見 一夏(gb1872) / 御門 砕斗(gb1876) / シャーリィ・アッシュ(gb1884) / 紫藤 望(gb2057) / 田中 直人(gb2062) / 美環 響(gb2863) / 鷹代 アヤ(gb3437) / 堺・清四郎(gb3564) / アレックス(gb3735) / 澄野・絣(gb3855) / エル・デイビッド(gb4145) / 橘川 海(gb4179) / 冴城 アスカ(gb4188) / ギース・エルファブラ(gb4257) / 吾妻・コウ(gb4331) / トリシア・トールズソン(gb4346) / シルヴァ・E・ルイス(gb4503) / アリエーニ(gb4654) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 小笠原 恋(gb4844) / ウラキ(gb4922) / 七市 一信(gb5015) / 東青 龍牙(gb5019) / 雪待月(gb5235) / 秋津玲司(gb5395) / 美環 玲(gb5471) / 千早・K・ラムゼイ(gb5872) / 天原大地(gb5927) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / アリステア・ラムゼイ(gb6304

●リプレイ本文


 まだ日没を迎えぬ時刻。
 九州のとある温泉街は、浴衣の人々で賑わい始めていた。

 ――蛍の夕べ。
 奇跡的に残された淡き光を、楽しむために。


 着物の華蓮と浴衣姿のエレナ、小柄な二人はペコリと挨拶して。
「ぇと‥、おかしな所とかないですか?」
「可愛いよ〜♪」
 おどおど問うエレナに、華蓮は微笑み、お義兄ちゃんと慕うルアムの右手人差し指を握った。
「二人とも‥よく‥似合ってる‥」
 穏やかに言うルアム。そのままお土産物を見に、3人は街を歩く。
 大切な人に何かを贈ろうと、楽しそうに探す華蓮は、
「何がいいかな〜あ、小さなホタルさんが付いてる。なんだろう‥」
 小さな蛍さんストラップに興味津々。
 ルアムも白ウサギ模様の箸を選びながら、ふと、エレナの顔を見る。
「エレナも‥何か欲しいもの‥ある‥?」
「‥え?」
 きょとんと首を傾げるエレナに、後で『バレッタ』を贈ろうと思うルアム。

 そして。
「ホタル楽しみにゃー♪」
「楽しみましょうね♪ リュウナ様♪」
 リュウナを微笑ましく見つめる龍牙。
「ホタルの‥たべ? ホタル食べちゃうの?」
「夕べです。食べませんよ」
 開始まで後一時間。待てないリュウナの為にホタルの事を教えながら、喫茶店で待機だ。
 ――そこへ、百白の姿が。
「‥‥またせたか?」
 合流した3人は、やがて川辺へと歩いていく。

「あ、シャオラさん、こっちで〜す」
 やってきたシャオラに手を振り、恋は微笑んだ。
「お久しぶりです、ベトナムで会って以来ですね」
「‥もう3ヶ月ぶりなんですか」
 驚くシャオラ。‥3ヶ月なんて、早い。
「うふふ、そのアオザイもとっても似合ってますよ」
 恋に誉められると、照れ笑いして。
 荷物を取りに行った旅館でナレインとばったり会い、シャオラはペコリとお辞儀する。
「ナレインさんもいらしゃってたんですね」
「久しぶり〜かな? 毎日忙しそうね」
 今日は癒されちゃってね♪ と片目を瞑るナレイン。何時ものように明るい出迎えで、彼が内心沈み気味など、鈍いシャオラが気づくはずもない。
 そこへ、恋もやってくる。
「こんばんはナレインさん。あの〜どうしてこんな離れにいるんですか? 蛍は見ないんですか?」
「ん〜‥ホタルは綺麗なんだけど、やっぱり虫は嫌いだからね‥私はここでいいわ」
「そうなんですか‥」
 少し、残念に思う。

 アスカと雪待月は温泉で。
「蛍見る前に汗でも流しましょ♪」
 湯を堪能し、お喋りのひと時‥‥アスカは選手時代を、楽しそうに話す。
「雪ちゃんはどうしてLHに来たの?」
 不意に話を振られ、雪待月は戸惑いつつ。
「‥大切なひとを、失ってしまったのです」
 ポツリと、打ち明けていく。
「大切なもの、守れるように‥強く生きたいです」
 ――体を清めて。二人は浴衣を羽織り川辺を歩いた。



 ――そして日が暮れ、蛍が輝き始め。
 更なる人々が訪れてくる。

「折角の初夏だ。浴衣で歩かないか?」
 と、エステの高村店長を誘い、自分は紺の浴衣に帯を締めて。「おまたせ♪」とやってきた店長を、欲望丸出しの視線で見つめる紅葉。
「さすが、浴衣栄えのするスタイルだ‥」
 浴衣だから下着つけてない紅葉だけど、店長も下着無しなのか。
 想像して、女王スイッチはオンになる。
 ――そうだ、この二人が、のんびり普通に蛍狩りできるわけないじゃない。
「誘いを受けてくれて嬉しいよ‥」
 いつの間にか寄り添い、腰に手を回して耳元に囁く紅葉――そこだけ蛍ではないピンク色の何かが舞っている。


 シャツの胸元に【OR】銀月の縁を揺らす零は、温泉でさっぱりし蛍柄の浴衣を着た千糸と共に。
 二人は腕を絡めて、川沿いを歩く。
(「ぐぉぉぉ‥なんだこれ、思いのほか恥ずいぞ」)
 誰だ腕組もうなんて言い出したのは。って私か! ‥なんて、恥ずかしくてセルフつっこみする千糸。
 そんな千糸の胸元から目を逸らしつつ、
「浴衣‥‥似合っててとても綺麗だ」
 と、零が言うから。
 上昇した体温が、伝わってしまいそうで。
「うー、なんだか暑いわ。この火照った体をどうしてくれる」
 ネタに走る事も出来なくて、知られる前に口に出す。千糸の頬も僅かに上気していた。

「‥ありがとう。来てくれて‥嬉しい」
「こちらこそ、誘ってくれて嬉しいですよ」
 シルヴァの言葉に、コウは微笑んで答えた。
 二人は川辺をそぞろ歩き、静かな場所に落ち着いて蛍の美しさを感じている。

 そして提灯で道を照らしながら、千早はアリステアと並んで。
「そういえば‥観光目的で日本に来たのって初めてなんだよね」
 珍しそうに温泉街を眺めるアリステア。
 静かな場所で腰を下ろし、二人は早速揺らぐ光を目に焼き付けた。
 時折、甘く作った冷たい紅茶を飲みながら‥。
「わっ‥凄く、綺麗ですね‥」
 うっとりと、千早は呟く。

 アップした髪を鈴の髪飾りで彩り、金髪に映える花模様の黒い浴衣を着たトリシアが、アレックスの前に現れた。
「どう‥? 似合うかな‥?」
 戦いを頑張った彼を癒すため、気合を入れたコーディネート。
 アレックスは暫し見とれて‥「似合ってる」と太陽のように笑った。
「本当にお疲れ様。今日はゆっくりしようね」
「ありがと‥足元、気を付けろよ」
 腕に抱きついてくるトリシアを受け止めて、アレックスは歩き出す。

「さあ、お手をどうぞ。お嬢様」
 悪戯っぽく笑み、手を差し出す響。
 浴衣の玲はその手をとって。横顔を、気付かれないように窺う。
 双子のような二人が幼い頃、一度だけ見た蛍達。
「懐かしいですわね。お互いの子供の頃を思い出しませんか? お兄様」
 あれから時間は経ったけれど、大切なことは変わっていない。
「知っていますか玲さん。ホタルは成虫になるとほとんど水以外口にしないんですよ。僕達を魅了するこの光景は文字通り、命を燃やして作っているんです」
 幻想的な蛍達の光のロンドを目の当たりにし、響は呟いた。
「だからですかね。儚くも美しく感じるのは」
 そして玲の横顔を見つめる。
「――玲さんも美しいですね。昔は可愛かったですが、綺麗になりました」
 それは嬉しい反面、複雑な気持ち。
(「僕はいつまで玲さんの隣に居続けることができるんでしょうか」)
 ジレンマにも似た気持ちを抱く。けれど、今は明るくありたい。
「さてと、玲さん。夜は長いですよ。思い切り楽しんで、印象的な日にしましょう」
 美しく笑った響は、奇術でレインボーローズを出し、玲の掌へ。
 玲は微笑んで。
「はい。偶には子供の頃と同じように、一緒に温泉に入りますか?」
 首を、傾げた。

 暗がりの中を、手を繋ぎつつ歩く。
 浴衣姿の小夜子の黒髪には、紫陽花の髪飾り。それは、今隣に居る拓那から贈られたもの。
「へぇぇ‥ホントに光が飛んでる。すっごいなぁ‥」
 初めて蛍に、ついワクワクしてしまう拓那と。
「‥とても神秘的、ですね。‥何だか風情があります」
 彼の無邪気な顔を見上げて、つい見惚れてしまう小夜子。土手に座り、蛍に釘付けな拓那の隣でラムネを飲みつつ、こんなのもいいかなと思う。
「っと、ゴメン。危うく別の世界へ行く所だった」
 ――こんな拓那の照れ笑いも、小夜子は好きなのだから。


 ――川岸の草叢で、乱舞する蛍達。
 それは至る所で見ることが出来た。


「うわぁ〜! アチコチでいっぱい光ってます。こんなにたくさんいるなんて思ってませんでした」
「雨上がりって凄いんですね〜」
 予想以上の蛍の光に、恋とシャオラは子供っぽくはしゃぐ。
「‥ホントに綺麗」
 時折、うっとりしながら。
「あの、これ私が作ってきたんですけど、よろしかったらどうぞ」
 恋自作の冷たいビワゼリーを食べて「美味しい‥」と感動するシャオラ。


 提灯で道を照らし、白地に笹格子の浴衣を着こなして。悠季はアルヴァイムに腕を絡める。
 ――辿り着いたのは、繊細に光る、蛍の海。
「‥素敵」
 綺麗な様に感動し、悠季はアルヴァイムを見上げて微笑んだ。
 誘いにのって、良かったと。
「綺麗だろう?」
 隣にアルヴァイムが居るという、幸せを感じ取る悠季だった。

 流叶は一人、鳴鶴に唇をあて、微かな笛の音を紡いだ――その時。
 首筋がヒヤリとして。
『ぴるぴょー!?』
 笛の音が乱れ、流叶が身を竦める。
「冷た‥! だ、誰だ!?」
「‥少し冷たかったかな?」
 怒り顔で振り向くと、そこには浴衣のウラキが。
「‥って、キミか‥」
「悪いね、遅れた‥」
 ラムネを手にし、申し訳無さそうに笑って。
 そして流叶はウラキと二人、蛍を見つめた。

「ふふ、おそろーv」
 朋の手を取り、おそろいの浴衣『紫陽花』を着たアヤは微笑む。
「わ、あっち光った! 綺麗‥」
 川縁で目を輝かせるアヤの隣に座り、朋は指先にとまった蛍を、彼女の顔の傍に近づけて。
「ほれ、でかい声立てるなよ‥?」
「凄い!」
 その光を、アヤは眩しそうに見つめる――。
 恋人との楽しい時間を過ごしながら、
「次にゆっくりできるのは‥北米奪還が上手くいったらだな。今度は必ず‥」
 そう呟く朋は、雪辱に燃えていた。
 ――彼の手を強く握り、アヤは思う。
(「頑張ろう、次の大規模も、お仕事も。いつも隣で笑っているために」)
 彼の無事を祈ると共に、自分も隣に立って戦うんだ‥と。


 湿った地面に立ち故郷に思いを馳せながら。
 大地はゆっくりと、蛍を自分の手に導いた。
(「‥あの風景だけは、取り戻す‥」)
 奪われた故郷を取り戻すと誓う。
 ‥共に蛍狩りをした友は、もうこの世には居ないけれど。
 そこへ、
「一人で来てる人、少ないね‥はは‥はぁ」
 と、航三郎がやってきた。
(「いや、恋人よりも、今は世界平和が優先だ。‥あれ、どうして蛍が滲んで見えるんだろう‥」)
 歪む視界の先に、誰かがいた――大地じゃないか。
「どうも、御世話になってます〜‥‥」
 軽い挨拶をする航三郎は、穏やかに笑う。

「‥人‥多いな‥」
 木によりかかり、呟く百白。一方、
「ホタル〜♪ ホタル〜♪ にゃにゃにゃ〜♪」
 夜闇舞う蛍を見て、リュウナは楽しげにはしゃいだ。手には龍牙手製のおにぎりもある。
「リュウナ様、眠くないですか?」
「頑張って起きてるのら!」
 ――と言っているが、きっと寝てしまうのだろう。

 玲司は岸を歩きながら、誰にも邪魔されぬ時間を楽しんだ。
 淡い光が、視界を擽る。
「やはりきれいですね、蛍は。バグアの脅威を忘れそうなぐらいに‥」
 思わず、呟いていた。
(「‥守らないといけませんね、この風景を」)
 玲司は誓う。この美しさが、消えてしまわぬように。


 ―夢にでも誘うような、蛍の光。


 伊織は暫しの休息をとる。
 貴重な機会、いつも戦いばかりだから、尚更だ。
(「戦って、戦い続けて‥手を血で汚して、そして今に至る‥ですか」)
 自分で選んで進んだ道、何を今更という話だけれど。
(「きっと今後も、終りの時まで戦いを止める事はないでしょう」)
 思考に耽る伊織の目の前を、蛍が舞う。
 彼女を再び夢の世界へ誘おうと、光っている。
(「今は蛍をゆっくりと眺める事にしましょうか‥」)
 その綺麗な光を見て。
 何も考えずいようと、伊織は微笑んだ。

 そしてシャーリィは子供のような声をあげる。
「月明かりも幻想的ですが‥蛍の灯りも綺麗ですね‥」
 恋人同士、久しぶりの休暇。
 悠は舞う蛍を見て‥少したそがれて。どうしました? と訊ねるシャーリィに、
「皆にもこの風景を見せたかったな‥と思ってしまいましてね」
 と、答える。
 今の家族の前に喪った家族が居た事、捨て子だった事‥‥自分の過去をぽつり話した。
「すみません、でも‥シャーリィには知っていて欲しかったですから‥」
「出会う前のことをこんなに話してくれたのは‥初めてですね」
 相槌を打つシャーリィは柔らかく微笑み、彼を受け入れる。

(「‥雪?」)
 ルアムは思わず蛍に手を伸ばす。
「‥‥!」
 手先に何か触れ、思わず引っ込めた。
「わあ〜緑色の光! ‥あれが、ホタル?」
 初めての蛍に、華蓮の歓声。
「綺麗〜‥」
「うわ〜おとぎ話のなかに来たみたいです〜」
 エレナ敷いた御座に、3人が腰を下ろして。
「あ、あっちも光った。たくさんいます〜♪」
 牛乳を飲みながら、賑やかに観賞していた。
 しかし、
(「――こんな風景も、また‥。―消えて‥しまうのだろう、か」)
 美しい光景を前に、ルアムは悲しげな表情を見せる‥その顔を見ると、華連はどうしたら良いか分からなくなる。
 けれどエレナは、ルアムの顔をそっと伺って。
(「‥何だろう? 力になりたいような不思議な感じがする‥」)
 ――そう、感じた。



 眞耶は日が沈む前、草が茂り、川の流れが緩やかな場所で。
 川沿いの草むらに少しずつ砂糖水を掛けて、蛍を集めていた。
 ――そこは今、黄緑の光が揺らめいていて。
(「‥綺麗ですね」)
 儚い光を眺めて、眞耶は次第に、ある景色を思い出す。
 それは2年前まで、京都で芸舞妓の姐達や友人達と見ていた、初夏の賑やかな景色。
(「判ってますよ‥もう、戻れない事ぐらい」)
 堪えきれず、眞耶はただ静かに涙を流す。

 ‥友人の姿をみかけたけれど、朔月は気ままに街を歩いた。
「時期的に、この辺りで見た方が無難かな?」
 オールド・ラング・サインを口ずさみ、上機嫌で。
「蛍の住める所も最近じゃ減ってきてるからね」
 と、フワフワ浮かぶ淡い光を眺めることが、只単純に楽しくて。
 朔月は終始、笑顔を浮かべていた。


 清四郎は、恭華と行動を共にする。
 自分を無骨者だからといいつつも、初依頼をよくこなしてくれた‥と、労わりの言葉をかけて。
「戦いをやるのは本当は大人だけで良いんだ。戦うことを決意し、よく無事でいてくれた」
 清四郎は「受け取ってほしい」と小さな包みを渡す。
「良いのですか?」
 恭華が受け取り、あけてみると――中には『鈴の髪飾り』。
「有難うございます」
 もう一度笑って、恭華は髪飾りをつけた。
 我ながら似合わないことをする‥と清四郎は赤面し、「どうですか?」と問う恭華に答えてやる。
「ああ、よく似合っている‥ぞ」
 と。

「雪ちゃんの浴衣可愛いわね」
「ああ、よく似合っている」
 恋人の武流と、アスカに誉められ、雪待月は照れ笑い。
 アスカは皆にラムネを配り、3人でまったりと、光を眺めた。
「久々に蛍見たけど‥綺麗ね‥」
 LHにきてからの事を、しんみりしつつ回想するアスカ。
「蛍の光は命の光とも言えるのかも知れないな? 自分がそのときに生きていた証‥といったところかな」
 武流はそう呟いて。
(「限られた今を全力で生きる‥‥俺も、そう生きられているかな?」)
 僅かな不安を抱いた。けれど今は、隣に大切な人が居る。


 ――そして、一層の賑やかさを増す蛍の夕べ。


「蛍、綺麗だねえ‥」
 そっくりパンダのパンダマン、一信は、携帯灰皿を買ってご機嫌に蛍を眺めていた。
 ‥カンパネラご一行様の中では、どう見ても保護者役である。
「幻想的に舞う光‥綺麗」
 はじめて目の当たりにするアリエーニは、ほわんとして満面の笑顔。
 そして、
「何だか、落ち着きます‥」
 と、一夏は穏やかに言う。
「うー、蛍初めて見たよー」
 はしゃぎすぎてバタバタする望は見るからに危険。
 案の定、調子に乗って足を滑らせ、「にゃーっ」っと草叢にダイブ。
 ‥沢山の蛍が、フワッと飛んだ。
「わぁ‥」
 舞い上がる光に、暫し見とれる海。そして、
「蛍さんを驚かしたらダメだよ? パンダさん的には静かに見守るものザマス」
 一信が言うと、笑い声が起こる。そこへ、
「よぉ、お前らも参加者名簿に載ってたから、居ると思ったぜ」
 望や海の姿を見つけ、アレックスは手を振った。
 あっと声をあげた海は、浴衣の袖を引くトリシアを見つけ、何時もの笑みを浮かべ自己紹介。
「よろしく! 学園にも遊びにきてねっ」
「‥よろしくね」
 お互い、少し気になるようだ。

「わわ、大丈夫ですか‥?」
「もう、腰イタイー」
 一夏は転んだ望に駆け寄った。
「ったく、何をやってるよ‥ほれ」
 苦笑しながら砕斗もやってきて、手を差し伸べる。
 ―その時、草叢を追いやられた蛍が3人の頭に舞い降りた。
「‥? うおわぁっ」
 驚く砕斗にクスっと笑い、望は一夏の髪に留まった蛍を見て。
「にゃ、一夏ちゃんによく似合ってるよー」
「そ、そうですか‥?」
 赤面してしまう一夏だった。

「私、蛍見るのって、初めてっ」
「こりゃ‥すげぇや。妖精か何かかと勘違いするのも分かるぜ」
 仲間に混じり、早速蛍を楽しむトリシアとアレックス。
 ――海と絣、そして奈美は、浴衣姿で。
「柔らかな灯かり、心癒されますね」
 絣が和やかに呟く。
 掌を差し伸べると、その上で光が踊る。
「向こうでの、友達はできたかなっ?」
 と問う海に、「うん」と答えた奈美は、絣と同じように蛍に見入っていた。

 そして直人の姿を見つけ、大きく手を振る海。
 直人は海の隣に居る奈美に気づき、以前助けた少女だと思い出した―。
「や、久しぶり。俺のこと覚えてるかね」
「はい‥あの時は有難うございました」
 頭を下げる奈美。
「元気そうだな、何よりだ」
 それが確認できただけでも、直人は良かったと思う。
 恩人の前で硬くなる奈美の様子を見つつ、
「あの時の先輩かっこよかったですよねっ」
 海が言うと、傍に座っていたアリエーニの背中に哀愁が。
「ほんとに頼れる先輩ですよっ。ね、アリー?」
「‥そうですね」
 焼餅やきつつ、
(「お邪魔かな? ‥一人で散策してこよっと」)
 しょんぼり立ち上がるアリエーニ。
 紫陽花柄の浴衣、髪をアップにして、項には柑橘系の香りと気合を入れて‥‥本当は直人の腕をとって、ホタル観賞したかったのだ。

 エルも賑やかな友達の傍で、蛍を眺めながら‥ある選択を迫られた事を思い返していた。
(「あの手を取らずに逃げたこと‥能力者になること‥‥、これで正しかったのかって、多分今も悩んでる‥けど)」
 エルはゆるりと、蛍から友人達へ視線を移す。
(「けど、皆と一緒にいたらそんな悩みも忘れられる‥」)
 そして――思考を打ち切るように、エルの頭が小突かれた‥‥ギースだ。エルは無意識にその顔を睨みつける。
「何嫌そうな顔してんだよ? お嬢ちゃん?」
「お嬢さんって言うなよ‥‥」
 不服そうなエル。しかし無視。
 ギースはエルの傍らで、まるで独り言のように話始める。
「自分と他人が違うのは当然だ、その違いを利用して、人は関係しあってくもんなんだよ」
「何が言いたいんだよ?」
「‥しけた顔してんじゃねーぞってことだ、おら! おめーも草むらにダイブして来い!」
 その時、ギースがエルの首根っこを掴み、そのまま蛍の草叢に放り投げた。
 派手に転ぶエルを見て満足し、煙草を咥えてとっとと去っていくギース。
「痛たたた‥あれ、もしかして励ましてくれたのかな‥あいつが?」
 後には一人、皆の「大丈夫?」という声を浴びつつ、きょとんとするエルが居た。



 人が増え、百白は人気ない場所へと歩く。
 ‥ここなら、静かに観賞できるだろうか。
「‥儚いものだな‥人も‥自然も‥そこに生きる物も‥」
 蛍の儚さを感じ、あと何回同じ景色が見れるのかと思う。

 そして川辺を散歩しながら、のんびりする航三郎。
 彼の故郷は、この川の下流域‥‥近いけれど、まだ帰れない‥逃げるわけにはいかないから。
「また、見に来るからね‥今度は誰かと一緒に‥」
 覚醒すると、蛍は航三郎と呼び合うように輝いていた。
「おお、これは予餞会に使える!」
 急に楽しげになる航三郎。
 それを見て、大地はフッと笑った。
 再び真面目な顔に戻ると、蛍を掌で遊ばせて‥‥再び空へと放つ。
「‥お前は見つけろ。お前の輝きが届く相手を」
 いつしか大地は、命を燃やして輝く雄蛍に、ある女性を想う自身の気持ちを重ねていた。
 ――自分の輝きは、いつか彼女に届くのだろうか?

 そして宿に居るナレインは、窓を開け、手すりに肘をつき皆をそっと見つめていた。
 繰り返される、虚しい戦い‥‥ただ悲しみが増えていく。
 様々な葛藤の中、夜風に下ろした髪はさらさらと流れ、顔に影を作る。
「ここはこんなに穏やかなのにな‥」
 その瞳は、虚空を見つめ。
「今の俺には、迷いが多すぎる‥守りたいと思う気持ちだけで、戦いに赴くのが怖い‥」
 ナレインは低く、呟いた。


 ‥‥様々な思いを胸に。


 透とつばめは川辺を歩いた。
 蛍の幻想的な光景と川辺のせせらぎを、目と耳で楽しむ‥けれど、透との会話は楽しいはずなのに、つばめはどこか上の空。
 ――部隊の行く末、大規模作戦の事。儚い蛍の光を眺め、ぽつぽつと語っていた。
 けれど、透は、
「‥蛍、綺麗だね」
 全く関係ない言葉が零れて、頬を掻いた。
 何を言いたいのか‥定まらないまま詰まり、言葉が空を泳ぐ。
 ――けれど、元気付けたい。
「僕がまた部隊に戻ったのは‥力になりたい、と思ったからで‥」
 つばめを見て、眩しげに目を細める透。
 眩しいのはきっと、蛍の所為じゃない。
「その『皆』の一人として‥力にならせてくれない、かな‥?」
 目を逸らさず、言葉を続ける。
「頑張って、欲しい‥‥僕も出来ることを頑張るから、さ」
 ――暫しの沈黙。
 そして、つばめは穏やかに微笑んで。
「‥そうでした。皆さん大変なのは同じなのに‥。元気だけが取り得の私が元気じゃなくなったら、何にもなりませんもの、ね」
 真摯な瞳で、透を見る。
「改めて‥私から、お願いをさせて下さい。頼りない分隊長ですけど‥鐘依さん、こんな私を支えていただけませんか‥?」
 その言葉に、透はしっかり頷いていた。
 ――雲の晴れた二人は吹っ切れた表情で、再びお喋りに興じ、夕べを過ごす。


 去年の夏、花火と共に散っていた想い――。
(「‥蛍ね。綺麗だけど、なんか哀しくなるな」)
 かつて恋焦がれていた女性と、蛍を眺めるアンドレアス。
 そして隣で佇む真琴は、自分と幼馴染の過去を彼に語った。
 幼馴染がLHへ行った事。それを知らなかった事。何故何も言ってくれなかったのか‥随分考え込んで、苦しく辛かった事。
 だけど、
「でも、うちだって気持ちとか、聴く努力は何もしてなくて」
 真琴の表情が変わる。
「だから、もう後悔はしたくないって、決めたんだって。それを思い出したから‥大丈夫、です」
 話をする中、真琴は忘れていた大切な事を思い出していた。
「あの頑固者とやりあうのは、骨ですけど。でも、簡単には諦めてなんてやらないから。とことんまで、頑張る、です」
 話し終え、真琴は気恥ずかしそうに笑う。
 思い出してくれた事を嬉しく思うアンドレアスは、真琴の髪をクシャっと撫でて。
「1年前と逆だな」
 可笑しくて、笑う。
 関係は変わったけれど、今も優しい友人で居てくれる事に‥‥真琴は心から感謝した。
 ――
 皆、幸せになればいい。
 今宵光が降るように。
 いつか消えてしまうとしても触れた温かさは本物なのだから。
 ――
 左手のブレスレットに触れ‥アンドレアスは誰より大切な、黒髪の少年を想う。
「‥俺、あんま成長してねぇかも」
 結局『自分より大事な誰か』が居ないと駄目なのだ――。


 擦違いの日々を越えて、再び重なった掌。
「(‥そういえば)」
 ハバキの覚醒は、視界に蛍の様な光が舞い踊る、と聞いた事がある。
「(この景色と、似ているんだろうか‥)」
 なつきが彼の瞳を覗き込むと‥それに答えるように、ハバキは微笑んだ。
「覚醒した時に見える光、ね」
 目の前で踊る小さな光――それは蛍によく似ていて。
「初めて見えた時、皆が一緒に来てくれたんだと思った。L.A.で一緒に過ごした‥今はもう、居ない人達。すっげー世話になった人や、喧嘩ばっかしてた奴や‥特別に、想ってた人も」
 ――知らぬ人々の事を語るハバキ。
 なつきはどんな顔をしていいか分からず、押し黙る。
 ‥心臓が、痛い。
「‥ごめんなさい」
 やっと、出た言葉は――謝罪。何に対して言ったのか、分からなかったけれど。
 その時ハバキの瞳が、なつきを捉えた。
「けど‥最近は、あんまり意識しなくなってて。なっちゃん達が、居てくれるおかげ」
 愛する人が、生きていてくれる。ただ、それだけの幸せを守りたいと思いながら。
 へにゃっとした笑顔を浮かべるハバキ。
 ――暫し沈黙を挟んで、なつきはただ、今の自分が言える精一杯の事を伝えた。
「‥私は、蛍になるつもりはありません」
 ‥‥彼が守りたいと云う幸せの為に、生きるのだと。


『舞を見せて欲しい』
 ウラキのリクエストに、流叶はすっと立ち上がって。
「見様見真似だからな、余り期待は‥しないで欲しい」
 対の扇子を両手に持ち、瞳を閉じて舞いの構えを取り。一拍置き、蛍と共に舞う。
 ―その優雅な舞に、ウラキは思わず目を奪われていた。
(「‥心が動かされる‥こういう事なんだろうか」)
 流叶の舞に、魅せられる。
 やがて舞が終り。
「また機会があったら、見せて欲しいよ」
 驚くほど自然に、ウラキから優しい笑みがこぼれた。
 そしてラムネで乾杯し、蛍を眺めた流叶がふと口を開く。
「‥此の戦は直ぐに止む事は無い。けれど、また平穏な時を過せる様に、願っているよ」
 その時はまた舞おうと言って。
「お守り、と言う訳ではないが‥受け取ってくれるか?」
 ウラキに、扇子の片方を差し出した。
 戸惑いつつと受け取ったウラキは、鈴の髪飾りを流叶の髪に飾って。
「‥似合うと思って‥ね」
 照れたように呟く。
 ――有難う。
 互いの贈り物に、心が温かくなる。



 そして――蛍の繊細な輝きは、恋人達を甘いひと時に導いた。

 紺地に格子柄の浴衣、駒下駄という装いで、兵衛はクラリッサに寄り添う。
「こういう景色が見られる所が残っていたとはな」
 ‥と、戦いの中では見せることの無い柔らかな表情で呟く兵衛。
 クラリッサは「‥綺麗ですわね」と、兵衛に体を預け、幻想的な風景に溶け込んでいた。
 その時――静かな時を刻む二人の元へ、一匹の蛍が。鮮やかな撫子柄に吸い寄せられるよう夜空を舞い、やがてクラリッサの金色の髪へはらりと降りた。
 気づいた兵衛はクラリッサを抱き寄せ、優しく髪を撫で‥
「クラリーに寄ってくるとは見る目がある奴だが、あいにくとクラリーは俺のモノだからな」
 ――自然に離れていく蛍。
「お前に合った似合いの恋人を見つけてくれよ」
 焼餅とも取れる兵衛の言葉に、クラリッサはクスクス笑っていた。
「蛍にヤキモチですか? わたしはヒョウエだけのものですわよ。そのことはよくご存じでしょう?」
 髪を撫でる大きな掌、その温もりを感じ、身を任せながら。
「‥もう少しこのまま髪を撫でてくれません?」
 ――少しだけ、甘えるように。

 やがて暗闇の中、蛍の微かな光に照らされた二人は‥
「‥愛している、クラリー」
「‥愛していますわ、ヒョウエ」
 どちらともなく自然に唇を重ねて、互いの体温を感じた。


「儚い‥でも不思議と優しい気持ちになれる光ね」
 蛍の光に癒され、千糸の鼓動の高鳴りが収まってきた頃。
「ああ、儚く、綺麗だ‥」
 千糸の横顔を見つめる零は、かつて南国で休暇を過ごした時の事を思い出す。
(「‥あまり奥手すぎてもな」)
 幸い、周りには蛍しか居ない。
 不意に零は、千糸の肩を寄せて。
 驚いた彼女が振り向いた隙に――僅かに開いた唇を、奪う。
「‥んっ」
 ――刹那、時間が止まって。
「忘れられない思い出がまた一つ‥だな」
 顔を離した後、僅かに涙目な千糸を見つめつつ零は微笑んだ。


「――あの光は愛してるってサインなんだろうね」
 小声で語り、蛍を見ているうちに、拓那は思う。
 この世界が‥この時間が、夢ではないかと。
「小夜ちゃんが側に居るのは夢みたいだけど、夢じゃないよね?」
 不安に駆られ、呟いて。そっと小夜子の手を握った。
「夢じゃないです」
 答えながら、小夜子は彼の手を握り返し、片手で抱きついて―頬に唇を寄せて。
「凄く遅くなりましたが‥お誕生日のプレゼントです」
 恥ずかしさで、そのまま拓那の胸へと顔を埋めてしまう‥きっと、小夜子は真っ赤だ。
 ――頬に落ちたこの温もりが、夢であるわけが無い。


 蛍を見るシルヴァの瞳が揺らぐ。
「‥綺麗、だな‥」
「綺麗なのはシルヴァさんのそういう和んだ顔ですよ‥」
 戸惑い顔も綺麗だと、コウはクスっと笑って。身長差を恨めしく思いながら、背伸びして彼女にキスを落とした。
 ――夜が更け、シルヴァは蛍の儚さに思いを馳せる。
(「一夜の幻にも例えられる、その儚さ‥」)
 今まさに、目の前で消えていく光。
(「死して後‥彼らの骸も、いつか土に還る。ひっそりと、確かに。それが、羨ましいのかな‥私は」)
 寂しげな表情のシルヴァの心を察し、コウはあえて何も言わなかった。
 そっと手を握って、一緒に蛍を見つめて。
(「蛍の光りは後世に命を残すために輝いているのですから、今を輝くことに力を尽くしたい‥」)
 心に、誓った。


 そして、月明かりの下。

「‥シャーリィ、去年のクリスマスの時の言葉‥今返させてますね」
 悠は真摯な瞳でシャーリィを見つめた。
「‥あ、‥ユウ‥?」
 戸惑うシャーリィ。けれど、素直に頷く。
「俺はこの命の続く限り‥戦場では貴女の盾であり‥平時は貴女の鞘となって傍に在りましょう‥」
 それは愛の誓いでもあり、騎士の誓いのようで。
「愛していますよ‥シャーリィ」
 悠は彼女をそっと抱き寄せ、羽が触れるようなキスを落とす。
 ‥その後は、LHに戻るまでポーっと夢見心地なシャーリィが居た。


 ――手を重ねて、指を絡めて、穏やかに眺める微かな光。
 光にささやかな幸せを重ね、アルヴァイムはふと思う‥‥平穏というのは失ってこそ、その重さを知るのだと。
「‥消したくないものだな」
「‥こんな些細な光だけど、一生懸命生きてるからね」
「ああ、失わせるものか。守り通す、必ず」
 その言葉は、悠季にも言っているのだろう。
 アルの為に、傷ついても戻るべき処をちゃんと確保してあげるわ‥‥と、悠季は穏やかに笑って。名実共に将来の伴侶となるのが待ち遠しいと思う。あなたなんて、まだ恥ずかしくて言い辛いけれど。
 そして二人の時を存分に楽しみ、そして友人の元へ語らいに行く悠季を、笑顔で送り出すアルヴァイム。


 雪待月は、武流の日ごろの疲れを労わるように、ずっと寄り添っていた。
 ‥そんな彼女を、愛しく思う。
「‥雪、俺が君を守る。必ず‥」
 武流は何度も躊躇いつつも、雪待月をそっと後ろから抱きすくめた。
 アスカの目の前じゃ、流石に恥ずかしいけれど。
「絶対‥‥離さないからな?」
「‥有難うございます」
 今度こそ、大切な人を守れるだろうか。
 寄り添う二人を、アスカは優しく、姉のように見守る。


 ――恋人達の周りを、蛍は舞い続ける。


 紅葉は高村にしなだれかかり、熱っぽい視線で彼女を見ていた。
 あれだけ女王だったのに、人気の無い場所ではまるで猫。
「あの時から貴方の事が忘れられなくて‥お姉様と呼ばせてください」
 マッサージで鍛えた手さばきで柔らかい感触を楽しみつつ、懇願する紅葉。
 ―高村の答えは、もちろん。
「いくらでも呼んで頂戴」
「嬉しい‥お姉様」
 喜色を滲ませて、紅葉はまるで少女のように、高村の豊満な胸に頬を寄せ。
 ‥けれどキスは、深く情熱的に。
「愛しています‥」
 甘い声が、夜闇に溶ける。
 ――この後は温泉で、体と心のマッサージに勤しむに違いない。



 騒ぎも落ち着いたころ、隣に座った望の頭をなでつつ、まったり過ごす砕斗が居た。
 二人の頭には、御揃いのココナッツハット。
「また皆で遊べるといいな」
「そうだな、また来れるといいな‥」
 他愛ない話をする中、望は砕斗の腕にしがみ付く。
「もちろんサイトくんと二人きりなのも希望〜♪」
「‥了解、場所を見繕う様努力しよう」
 少し顔を赤くし、答える砕斗。
 そして、
「また大きな戦いだ。力を合わせて乗り切って、またゆっくり思い出を作りに行こうぜ」
 アレックスはそっと、トリシアにキスを落とす。
「‥うん」
 ふにゃっと幸せそうに微笑むトリシア。

 一方、ご一行から離れ、煙草吸うパンダ一信。
「コンナトコロデイチャツキオッテカラニ‥‥ふー‥落ち着け、俺」
 嫉妬の炎は煙草の火で消すべし! 一服して落ち着くと、一信は再び川辺へ行く。
「お‥風流だねえ‥」
 きぐるみに入ってきた蛍を愛でる。

 そして直人は隅に移動し、蛍を見つめた。
 一人になると、思うのは第二次五大湖戦の事。
(「‥誰かを守れるように、か‥。もっと、強くなりたいな‥」)
 ぎゅっと拳を握る。
 ――その時。
「直人さん、モテモテでした‥‥ねっ!!」
 脛を蹴り上げ。完全に不意打ち。
「いたっ‥‥アリエ?」
 直人が振り返ると、アリエーニが少し怖い顔。
 直人さんが悪いんですよと思いつつも、その後しっかり介抱するアリエーニだった。‥大好きだから、仕方ない。


 ―消え入り、再び光る。
 そのリズムを胸に刻みながら。

「ね、もし住むのなら、どんな世界がいいかな?」
 海が呟いた。
 彼女達は、物心ついてからずっと戦いのある世代だ。
「やっぱり‥平和な世界、かな」
 蛍を見る奈美の横顔に、涙が滲む――帰りたい。あの島を、思い出して。
 少ししんみり、蛍を眺めて。ふと、絣は横笛を手に取った。
「‥素敵な笛」
 と、呟く奈美に向け穏やかに笑って。絣は横笛を彼女に見せる。
「この笛は千日紅‥‥『終わりの無い友情』という意味を込めて、この名前を付けたのですよ」
 そして絣は横笛に、そっと唇を当てた。
 息を注ぎ込むと、澄んだ笛の音が紡がれる――。

(「あの音は‥澄野さん、かな」)
 風に乗り届いた横笛の音に、恭華は耳を傾けた。
 そして、
「ここに居ると思ったわ」
 絣の笛の音をきき、悠季はにっこり笑って。仲良し3人に奈美も加わって、話に花を咲かせいった。



 帰り際、清四郎は恭華へと。
「『大切なのは間合い、そして退かない心』この言葉を覚えておいてほしい」
 清四郎の言葉に、きょとんとする恭華。
「今はまだ意味を理解はしなくてもいい、だが心の隅に置いてくれ」
「‥はい、わかりました」
 きっと大切な言葉なのだと、恭華は胸にしまって。
 ――いつかふと、思い出すのだろう。


 ‥‥蛍の宴も、終りが近づき。

 帰り支度を整え、
「さて、来年もこの風景を見られるよう、明日からまた頑張るとしますか」
 玲司はもう一度、蛍の川辺を眺めて言った。
 朔月は休憩所で喉を潤して。
「互いに思う千萬の‥か」
 蛍を堪能し、夕涼み。まったりとした時間が心地よい。
 と、そこに見知った人物が。
「‥‥朔?」
 少しだけ目を赤くした相棒、眞耶の姿。
 彼女は怪我人が居なくて良かったと笑い、二人でジュースを飲み、暫し余韻を楽しんだ。

 エレナは蛍の絵葉書を買って、嬉しそうに歩く。
 それは自分用と、華蓮と、ルアムにこっそり送るものだからだ。
(「裏面には、『蛍鑑賞会記念 日本九州にて エレナ・クルックより』って書きましょうか」)
 驚く顔を想像すると、少し楽しみになる。

 そして龍牙の傍らで。
「リュウナ様‥‥寝てしまいました?」
 天使のような顔で眠るリュウナ。これは録画のチャンス!
 いそいそとビデオを出す龍牙だが、もちろん内緒の行動である。
 ――そこへ百白が帰ってきた。
「さて‥‥帰るか」
 と、リュウナをおんぶしようとする。
「私がします!」
 ビデオをひっこめ、龍牙は半ば強引にリュウナをオンブ。
 百白はヤレヤレと溜息を吐くが、背中のリュウナはそんな争奪戦など知る由もない。


 ‥‥川辺では、徐々に人の姿が少なくなって。

 アヤの隣で朋がぽつり呟いた。
「次来れるとしたら来年ぐらいかねぇ‥その時は二人とも指輪してたりしてな」
「‥うん? え、その、えと‥朋、それって‥」
 アヤは目をぱちくりさせていて。
「っ‥な、なんでもない。遅くならないうちに帰るぞ、お前どこで寝るかわからんし」
 朋は赤面し、照れ隠しに早口でまくし立てる。
 先に行こうとする朋の腕にしがみつき、アヤは満面の笑みを浮かべる。 


「来年も、こうして来られたら良いですね」
「これるといいね‥その時には、俺も千早さんも普通の学生に戻ってるといいんだけどねー‥」
 笑いあう千早とアリステア。
 そして僅かな沈黙を挟み、アリステアは勇気を振り絞って、千早の肩に手を回し抱き寄せた。
「こうしていられる時間のためなら‥強くなりたい、って思う‥。だから、勇気と力を‥千早から貰いたいんだ」
 刹那、千早の頬に朱がさした――答えなんて、決まっている。
「‥アリステアさんがしたいなら‥良いですよ?」
 二人の距離が近づいて、静かに重なる唇。
 僅かな温もりを共有し離れた二人は‥‥とても真っ赤だ。
 顔はまともに見れないけど、手を繋いで、歩いていく。


 ‥光が消えても、尽きぬ話を楽しむ人々はいたけれど。
 ――蛍の夕べは、終りを告げる。


「今日はいろいろ、有難うございました」
「はい。とっても楽しかったです。またこうして遊べたらいいですよね」
 恋はシャオラに、再び会おうと言って。
「今日は楽しかった。また会おうねっ」
 海の眩しい笑顔から、奈美は元気を貰う。


 そして‥‥
 戦いのない世界を蛍の光の中に夢想して、明日へと発っていった。