タイトル:魅惑的な凸凹マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/06 22:09

●オープニング本文


 とある企業の昼休みの事だった。

「こいつを見てくれ、どう思う?」

 三郎という会社員は、ランチをとるため社員食堂へやって来た同僚にアルバムを差し出した。
 そのアルバムは、写真屋から貰うミニアルバムではなく、子供の成長を何十年も保管しておくような立派なアルバムである。

(「急になんだ? 自分の子供の頃の写真でも見せてーのか?俺に見せてどうすんだよ」)

 内心そう思いながら、アルバムを受け取った茶髪の会社員は怪訝そうな顔をし、それをパラパラと捲る。

「どう思うって‥‥ただの土偶写真じゃないか」

 ‥‥そう、そのアルバムに収められていたのは‥‥土偶の写真だった。
 いろいろな形、種類、きれいに復元されたものからボロボロのものまで、かなりの数の土偶、土偶、土偶‥‥。

 茶髪の会社員はアルバムへと落としていた視線を上げ、三郎の方を見ると、そこには信じられない表情をした三郎の姿が。
 彼は、アルバムに収められた自前の土偶写真をうっとりと眺めている。

「ただの、だって!?君の目は節穴か! この大きな瞳、魅力的な曲線‥‥なんて土偶は素晴らしいんだ!」

 どうやら、黒髪の男は『土偶マニア』のようだ。一般人にはよく分からない感性を持っている。
 しかし、そんな話につきあわされる茶髪の会社員はたまったもんじゃない。

 確かに土偶はその殆どが女性像だ。乳房や臀部、太腿を誇張したそのフォルムからも明らかである。三郎は、土偶のその女性的な部分に魅入られているようだった。
 しかし普通ならば、普通であるならば、土偶のそれよりも生身の女のそれに興味を抱くのではないだろうか。

「だから‥‥その土偶がどうしたんだよ」

 正直つきあいたくない‥‥と思いつつ、律儀な茶髪の会社員は、アルバムを持ち出した理由をきいてみた。

「ああ、その土偶の話だがね。どうやら九州の山奥で『動き回る土偶』が発見されたらしいんだ。是非写真を撮りたくてね! さっき休暇届を出してきたところだよ」
「おまえ‥‥、そのうち上司に肩たたかれてもしらねーぞ‥‥」
「ふん、上司なんか怖くないさ! 俺は土偶を愛してるんだ‥‥まってろよ、プリティ☆土偶!!」

 そして三郎は、茶髪の会社員からアルバムを回収すると、早速カメラ片手に会社を出て行った‥‥。

「大丈夫かぁ? あいつ‥‥」

 主に、頭が。
 いや、本当は頭はいいのだが、趣味が変だ、変すぎる。
 そこそこ顔もいいのに、アレのせいで台無しだ‥‥。

 茶髪の会社員は、盛大なため息を吐いてコーヒーカップを手に取り、ふと何かを思い出した。

「‥‥まてよ。動き回る土偶って‥‥キメラのことじゃねーの?」



 数日後、九州地方の山間部に現れた土偶型キメラの討伐と共に、一人の男の捜索依頼が出されたのだった。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
野良 希雪(ga4401
23歳・♀・ER
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA

●リプレイ本文

●土偶
 ドグウはその堅さを武器とするキメラである。特に今回発見された物は、防御力に磨きをかけたタイプのようだ。
 しかし問題は、そのドグウキメラではなく‥‥、ドグウ愛好家としてこの周辺をフラフラしている三郎の方だろう。

 移動中の高速艇の中。
「世の中には‥‥いろんな趣味の人が‥いるよね‥‥。凹凸のどこに‥魅力を‥感じるんだろう‥‥」
 と、幡多野 克(ga0444)は真剣に頭を悩ませる。三郎の趣味を否定はしないが、流石に理解までは出来ない。
 克の横で、南雲 莞爾(ga4272)も又神妙な面持ちで言った。
「趣味に見入られ、狭く深く嵌ったヤツの考えはどうもな‥‥」
「三郎さん‥‥ドグウと遭遇する前に‥‥保護できればいいけど‥‥」
「ああ、そうだな。土偶型キメラの危険性も伝える必要がある」
 ドグウをただの動く土偶かと思えば、大違いだ。なんとか三郎の考えを改めさせなければならない。
 そして、鯨井昼寝(ga0488)は作戦を練っていた。
「危険性を伝えるなら、戦闘の場に連れて行ってドグウの荒々しさを見せるのが効果的かもね」
 彼女はキメラ退治は仲間に任せ、三郎の保護に尽力するつもりだ。
 その作戦に対し、緋室 神音(ga3576)が同意を示す。
「それがいいと思うわ。暴れるようならば‥‥縛り付けて気絶させればいいわね」
 気絶は可愛そうなので、できれば縛るだけにしてほしいところだ。

(「何とかの女神だとか呼ばれる土偶があったな。重要文化財だったか。そう形容される物もある程だ、その魅力にやられる者が出てもおかしくは無い」)
「いや、おかしいだろ絶対」
 時枝・悠(ga8810)が自分の心中の言葉に対し、思わずツッコミをしてしまう。遮光器型だとかハート型だとか、確かに個性的だとは思うが‥‥それとは話が別だ。
「そうですよね〜ちょっとおかしいですよね。土偶より埴輪の方が良いです〜」
 と、悠の言葉を独自解釈した野良 希雪(ga4401)はほんわかした口調で賛同。
「スリムなボディ、円らな眼、頭と腰に手を置いたセクシーなポーズ、ああたまらないです〜」
「ああ、そうだ。やはり埴輪は最高だ!」
 今度はアルト・ハーニー(ga8228)が希雪の言葉に賛同する。
「しかし、土偶型キメラか‥‥。やはりバグアにも焼き物職人がいるのだろうか‥‥」
 自らが埴輪職人であるアルトは、土偶型キメラを作り上げた存在が気になるらしい。
 この”埴輪大好き”な二人の能力者が依頼を受けたことは、三郎にとって不幸になるのだろうか?


●三郎を捜せ!
 そして能力者達を乗せた高速移動艇は、山道の入り口へと到着した。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 草木の揺れ、移動音‥‥小さな事でも見逃さぬように。感覚を研ぎ澄ますために、まず神音が呟くような声と共に覚醒を遂げた。
 それに続くように、それぞれ迅速に覚醒して行動を開始する。

 舗装された道から少し外れれば、そこはもう草木生い茂る林であり、山道らしきものが一本あるだけだ。
「さて、三郎は何処にいるかな、と。あいつが土偶キメラと遭遇する前に見つけないとな‥‥」
 アルト達が事前にオペレーターを通して得た情報によると、三郎はこの山道を歩いているらしい。よっぽどの事が無い限り、いきなり彼が林の中を突き進むことはないだろう。
 ドグウの気配を察したのであれば、彼がルートを変える可能性もあるが‥‥一般人が簡単にドグウの気配など感じることは出来ないはず。
 以上の事から、『山道を進んでいけば三郎は見つかる』と判断した。

 暫くして、その読みは当たる事となる。
「‥‥ん? アレが三郎じゃない?」
 先頭を走っていた昼寝が足を止め、皆の方へ振り向くと前方を指差した。
 そこには高価なカメラを手にし、辺りを見回しながら歩く青年の姿。こんなところにいる一般人といえば、三郎その人しかいない。
「随分あっさりと見つかったな」
 少し拍子抜けしたように莞爾が言い、皆が三郎の元に集まる。
「な、何だ、君達は?」
 いきなり大勢の人間に囲まれた、何も知らない三郎‥‥自分が失踪人として扱われているなど、思いもしないのだろう。
「あんたを保護するようにと依頼され、やってきた傭兵だ」
 縛り上げてでも連れて帰るつもりでいる悠が答えた。その気迫が伝わってしまったのが、三郎がビクっと体を震わせる。
「三郎さん‥‥ドグウはキメラだから‥‥危険」
「ドグウゥ! やっぱりここに居るんだなっ!?」
 ドグウの危なさを伝えようと克が口を開くと、三郎は急に声を大きくして叫んだ。
「さ、三郎さん‥‥落ち着いて‥‥」
「落ち着いてなんていられるかっ、俺は今すぐ土偶に会いにいくぅっ!」
 三郎のテンションがアップしてしまったようだ。その様子を見ていた神音が「やはり縛るしかないようね」と小声て呟く。
 皆が「ドグウは危険だ、帰れ」と説得する中、後方で静かにしていた希雪が、ゆらりと三郎の前に立った。そして、満面の笑みを彼にむけて言う。
「言うこときけないなら縛るしかありませんね〜。痛くしませんから〜。でも少し強く縛っちゃうかも〜ウフ‥‥ウフフフ〜‥‥」
 ‥‥目がちょっと逝っちゃっている。それでも「そ‥‥そんな脅しに屈するものかぁぁ!」と、三郎は諦めてはいなかった。
「それなら、ドグウの怖さを知ってもらうしかないようね?」
 昼寝がその言葉の後仲間の方に目を遣ると、一同、頷いて同意を示すのだった。


●ドグウを捜せ!
 かくして三郎は、縛ることは免れたが昼寝にしっかり羽交い絞めにされる事となる。「はなせ〜〜!」という悲鳴が聞こえるが、今は無視だ。
「マニアならば情報を集めていると思ったが。この様子では何も知らないな」
 悠は表情を崩さず、淡々と言った。
 三郎は土偶には詳しいが、ドグウキメラには詳しくない。今回も”ドグウ”という言葉につられてホイホイやってきただけらしい。

 暫く皆で辺りを探してみたが、茂みにでも簡単に隠れてしまうドグウを見つけるのはやはり困難なようだった。
「音で‥‥誘い出そうか‥‥」
「大声で呼んでみるか?」
 克の提案に、悠が答える。
「いや、呼笛がある。試す価値はありそうだな」
 携帯していた呼笛を取り出す莞爾。笛の音色は300m先まで届くといい、もしドグウが音に反応するならば誘い出せるかもしれない。
 克と莞爾、そして希雪は呼笛を吹いてみた‥‥しかし、なかなかドグウは現れない。
「この辺りには‥‥いないのかも‥‥」
「ならば、手分けをして探してみよう」
 莞爾は無線機を利用し、見つけたら各人に連絡、仲間の元へ誘導することを伝えた。

「あ、まってください〜。まだこれがあります」
 そこへ希雪が取り出したのは‥‥彼女の大好物であるフルーツ牛乳。希雪はそれをそっと山道に置く。「これには食いつく‥はず‥?」と、何故か疑問系である。

 誰もが『それじゃ無理だろう』と思ったその時。
「‥‥皆、構えてっ」
 草木を掻き分ける、僅かな音の変化。
 静かに音を探っていた神音は、その僅かな気配に真っ先に気づいた。二本の月詠を抜刀し、構える。
「来たかっ!」
 悠もまた、二本の刀で迎え撃つ体勢を整えた。

 ―――まさか本当にフルーツ牛乳につられてやってきたのだろうか?
 一体のドグウが草叢から姿を現し、ズズズ‥‥と引き摺るような音をたてながら山道を勢いよく駆ける。そして、希雪が設置したフルーツ牛乳目がけて―――勢いよく体当たりをかました。派手にはじけ飛ぶフルーツ牛乳―――!
「ああっ〜フルーツ牛乳さん、貴方の犠牲は無駄には‥‥」
 と、砕け散るフルーツ牛乳の勇姿に号泣する希雪。しかし悲しんではいられない‥‥希雪は機転を利かせてすぐさま『練成強化』を発動、皆の武器を強化する。

 どうやら、音で誘き出す作戦は成功していたらしい。それならば、残りの二体が現れるのも時間の問題だろう。
 一行は山道に並ぶような陣形で、ドグウ達を迎えうった。

 一体のドグウは地を蹴ると、神音めがけて飛び掛る。―――が、神音はその奇襲のような攻撃をサラリと回避した。刹那、反撃に移る。
 『紅蓮衝撃』と『二段撃』を発動し武器に強大な力を加え、『急所突き』でドグウの小さな体を的確に捕捉した。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】」
 その一撃はドグウに命中し、堅い体に亀裂が生じる―――ドグウは一瞬動きを止め、ストンと地面に落ちた。さらに神音は『突き』をメインに追撃を加え、反撃すら許さない。

 ‥‥と、同時に。後方で「ドグゥゥゥ!!」という耳を劈くような三郎の叫び声。
 その声に反応したのか、二体目のドグウは三郎の後方の茂みから姿を現した―――

 莞爾は冷静に、然し迅速に『瞬天足』を発動すると、一気にドグウとの距離を詰める。
「動きが鈍いな」
 ドグウに攻撃させる隙も与えぬまま、莞爾は小銃の銃口をドグウに突きつけた。ドンッという衝撃音と共に、ドグウの体に小さな穴が―――仕留めるには至らなかったが、動きを止めるには充分だ。
 そして、莞爾の放った弾丸により宙に撃ち上げられたドグウを克が狙う。
「三郎さんには‥悪いけど‥‥壊れて‥もらうよ‥‥」
 『豪破斬撃』で月詠のSESに能力を伝播させると、『急所突き』にて弱点に攻撃を打ち込んだ。見事な連携攻撃により、ドグウの体に空いた穴からは大きな亀裂が生じ、右足部分が完全に砕け散る。
 そこへ更に莞爾は追撃を入れた―――『瞬即撃』と『急所突き』を用い、月詠でドグウを一閃。
 二体目のドグウは、完膚なきまでに叩きのめされる。

 最後のドグウは、山道へと飛び出すとアルトに狙いを定めた。
「ふっ、土偶がこの埴輪に勝てると思わないことだ‥‥」
 アルトはあえてドグウが攻撃する瞬間を待ち構える。
「いくら早くても攻撃の瞬間は‥‥見えた‥‥!」
 ドグウが攻撃を仕掛けた瞬間、アルトは『流し切り』と『両断剣』を発動。その一撃は、ドグウの体を削ぎ落とした。
 ドグウは怯んだが、アルトに対し反撃体制をとる。ドグウの勢いをつけた体当たりが炸裂―――!
「アルトさん、治療します」
 希雪はドグウの攻撃がアルトに命中したのを確認すると、すぐさま『練成治療』を行う。
 そして、攻撃を終えたドグウの側面に素早く回り込む悠の姿。
「叩き割る。容赦はしない」
 刹那に『流し切り』を叩き込み、宣言通り三郎のほぼ目の前でドグウを叩き割るのだった。


「ああ〜ドグウがっ! ドグウがぁぁ!!」
 ‥‥と、破壊されるドグウを目の当たりにしてついに三郎は目を背けた。
 しかし、彼を羽交い絞めにしている昼寝はそれを許さない。後ろからしっかりと彼の顔を固定し、さらには瞼を開かせ‥‥ドグウの荒々しさを見せ付ける。
「ちゃんと見なさい、土偶が決してプリティではなくバイオレンス全開だと言うところを!」
 昼寝は心を鬼にして言った。可哀想かも知れないが、ここで土偶の恐ろしさを体験させておく必要があるのだ。


 こうして、能力者達が圧倒的に有利な状況で―――ドグウキメラは次々と、三郎の目の前で叩き割られていくのだった。


●戦い終わって
「この土偶もなかなかいい仕事をしているな‥‥」
 覚醒を解き、アルトは記念にと叩き割ったドグウの欠片を一つ拾い上げた。

 残る問題は、放心状態の三郎だろう。彼はもう昼寝が羽交い絞めを解こうと、全く微動だにしない。
「こっちは重症のようね」
 同じく覚醒を解いた神音が、三郎の様子を伺うと‥‥彼はまさに『燃え尽きたぜ』とばかりに真っ白になっていた。
「二度とキメラに近づかぬように、言い聞かせねばなるまい」
 莞爾の言葉に、皆が同意する。
「そうね、又ドグウが出現した時にフラフラされたら困るから。これからは埴輪の時代だと聞かせてやるべきね」
 昼寝がそう提案すると、数人から「埴輪?」と疑問の声が上がった―――そこで何故に埴輪が出てくる。
 だが、しかし。
「そうですよね、埴輪の時代です。三郎さんを洗脳‥‥埴輪の良さを理解して貰いましょう」
「そうだ、土偶など埴輪の足元にも及ばないことを、教えてやらないとな」
 希雪とアルトも説得を買って出る。しかも、かなりノリノリではないか?
「‥‥私から言うことは特に無い。埴輪の魅力を語るならば、まかせるとしよう」
 埴輪に関しては、悠は傍観を決め込んだようだった。


「いい?三郎。響きからして『ドグウゥゥッ!!』という暴力的なものよりも『はにわ〜ん★』の方が良いのは明白だわ。これからは埴輪の時代、土偶の事は諦めなさい」
 三郎の目の前に立ち、彼の両肩を掴むと昼寝はそう説得した。
 次は、紐で吊るした五円玉を持った希雪が三郎の前でそれを揺らす。
「貴方はだんだん埴輪が好きになる〜」
 埴輪の良さを理解してもらう為、彼女にとっては気合120%の説得だ。
 そして、覚醒を解いたはずが、いつのまにか再び覚醒をしていたアルトの番である。背後に埴輪のオーラを漂わせながら、有無を言わさず三郎を地面に正座させると、懇々と埴輪の良さを教え始めた。
「土偶よりも埴輪だ埴輪。埴輪はいいぞ‥‥。あのつるっとした体格‥‥。すべすべの肌‥‥。そして丸い何を考えているのかわからないあの目! 堪らない!」
 アルトの話は、やや危うい雰囲気を漂わせているような。

「‥‥そして他人の作ったものではなく、こういうのは自分で作ってこそだ。埴輪職人になりそのよさを皆に教えるのだ」
 埴輪のオーラを纏い説得するアルトの姿は、なんと神々しいことか。
 三郎は思わずその姿を記録に収めようと、カメラを彼の方へ向けていたという‥‥。


「埴輪も土偶も‥‥あまり差はないように‥‥思うんだけど‥‥」
 そんな埴輪勧誘を遠くから眺め、克がポツリと一言。同じく様子を見ていた神音も頷いた。
「今後、埴輪型キメラが出たら‥‥まぁ‥‥ご愁傷様‥‥」
 全く、御尤もな言葉である。


●エピローグ
「ん? 何だ、このハガキは」
 会社宛てに届いていた一枚のハガキ。
 茶髪の会社員は、そのハガキの裏面を見て‥‥(「ああ、こんな奴もいたな」)と記憶を掘り起こした。

 差出人は三郎。
 彼は既に辞表を提出し、会社を去っていた。

 ハガキの裏面‥‥そこには満面の笑みを浮かべる三郎の写真。
 彼の手の平には、小さな『埴輪』が乗っている。
 そして、写真の下には

 『私達、結婚しました』

 と、しっかりとした文字で書かれていた。


 それを見て「幸せそうで良いじゃないか」と、茶髪の会社員は笑った。 
 人は自分に害がないと分かれば、どこまでも寛容になれるようだ。

 こうして、能力者達の働きにより‥‥三郎は埴輪職人となり、一人の会社員が平穏な日常を取り戻したのだった。