タイトル:【JB】花屋のブーケマスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/23 08:19

●オープニング本文


 6月は、幸せな恋人達にとって特別な意味を持つ月である。それは、恋人達が地球を守る能力者であっても変わる事はない。しかし。
「‥‥つまり、6月の結婚式は禁止、と言う訳かな?」
 UPC管理局からの通達を、カプロイア伯爵は読み返した。正確には、LHからの呼び出しに3時間以内で応えられる場所で行うべし、との事だ。たかが式典、されど式典。実働は2000人以下の状況で、結婚式1組で50人の能力者が動くと考えればバカにならない。
「縁起物ですから。良い日取りに集中して行われると、LHの即応能力はが大きく落ちると思われます」
「仕方が無いのは理解した。しかし、LHに式場などあっただろうか?」
 ホールの類は無くは無い。しかし、足りるはずも無いと秘書は言う。
「LHから3時間以内、か‥‥ふむ」
 今一度、文面を読み直す伯爵。LHの予定停泊位置から程近い無人島が差し押さえられたのは、暫く後の事だった。
「何も無い場所だがね。建物は急いで手配したまえ。交渉が上手くいけば、移築も視野に入れるように。利用者の意見も聞いて、だね」
「‥‥それ以前に、安全を確認すべきかと」
 何かの間違いでキメラがいないとも限らない。これから忙しくなりそうだ、と言いながらも伯爵は常より楽しそうだった。


 LH停泊地近くの無人島が接収され、結婚に必要なあれこれが準備されているという情報は、LHで花屋を営むケイト・レッティ(gz0208)の耳にも入った。
 結婚式が増えて、花屋が忙しくなるというのはよくある事。
 もちろんケイトも、今までに無いビジネスチャンスに気合が入る。
「‥‥ということは、生花ブーケが沢山要りますね! 式場に飾る花やテーブルに飾る花も沢山要りますね! それから‥‥」
 何の花を仕入れようか、どんどんメモしていくケイト。
 ――6月の花屋は既に忙しかったが、それに輪をかけて忙しくなりそうだ。

 ちなみに、花屋『ルミナ』の生花ブーケは、一つ一つ手作りらしい。もちろんケイトが手作りするのだが、受注が増えれば彼一人の手では間に合わないだろう。
 何しろ、一つ作るのに軽く2〜3時間はかかってしまう。花のバランスを考えたり、色を決めたり、形を整えたり、試行錯誤しているとそれくらいの時間は当たり前なのだ。
「沢山要るかもしれないけど、沢山作るのは無理ですね‥‥そうだ、誰かに手伝ってもらおうかな」
 一人では無理でも、数人で作ればかなりの数が出来るだろう。そして能力者達の結婚式に使うブーケであれば、同じ能力者の人たちに手伝ってもらうのが良いのではないか‥‥。
「初心者でも簡単に作れるからね♪ よし、材料そろえて、依頼を出しましょう」

 ――ということで、UPC本部に『ウェディングブーケ作りを手伝って下さい』という花屋の依頼が並ぶことになったのだった。

●参加者一覧

メアリー・エッセンバル(ga0194
28歳・♀・GP
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
ティル・エーメスト(gb0476
15歳・♂・ST
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP

●リプレイ本文


 ウェディングブーケを作るため、幸せのお手伝いをする為に、花屋『ルミナ』に集まる能力者達。
「6月の花嫁のために使うの? ブーケ‥‥作った事無いのよね」
 神森 静(ga5165)が少し困ったように言う。と、
「大丈夫ですよ〜」
 店員のケイト・レッティ(gz0208)はウキウキと答えた。そんなケイトに、物凄く嬉しそうな表情で抱きつくもう一人の少年。
「今回もお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いしますね!」
 ――ティル・エーメスト(gb0476)少年だ。愛嬌ある青い瞳を閉じてニコリと笑い、ケイトの両手をぎゅっと握る。
「はい、これ、お土産です!」
 渡した物は、キャンディーセット。ケイトも微笑み「有難う♪」と受け取って。
 初心者も熟練者も交えつつ、ブーケ作りが始まる。

「ジューンブライド、かぁ。憧れちゃうよねー‥‥あたし恋人いないけど」
 美崎 瑠璃(gb0339)が呟くと、「居ない人が殆ど」なんて笑い声が飛び交う作成現場で。
 目を閉じて、胸に手を当て。橘川 海(gb4179)は忘れられぬ思い出に暫し浸る。
 ‥‥けれどすぐ花が咲いたような笑顔を浮かべて。
「瑠璃ちゃーんっ。やっと一緒の依頼になれたねっ」
「よろしく! 楽しい作業になりそう♪」
 お互いに喜びを声にする。
「こうやって、誰かの幸せのお手伝いができるのは素敵なことですっ」
「うん、素敵。恋人さん達の門出を華やかに彩って、ちょっと幸せのお裾分けして貰えたら嬉しいな」
 目を輝かせて花を選び出す海を見ながら、メアリー・エッセンバル(ga0194)は作業着の腕を捲くる――この元庭師、やる気だ。

「憐さんはどんなブーケ作ります?」
「‥‥ん。テーマは。大盛り。特盛り。良い言葉」
 ケイトの問にそう答えた最上 憐(gb0002)はコクリと頷き、花材に歩み寄ってじーっと見つめた。
「‥‥ん。赤い花。ラフレシアとか。ないの?」
「流石にラフレシアは無さそう‥‥ですね」
 赤くて大きな花を真剣に探す憐を、小笠原 恋(gb4844)は微笑んで見つめた。恋も又、ライラックの花を探し始める。
 ――二人ともどのようなブーケを作るのだろう? 分からなかったらきいてね、と、ケイトは笑い。
 白雪(gb2228)は一人で数人分の花材を抱えて。
「‥‥どう? 良いアイディア浮かんだ?」
(「まぁまぁね。‥‥審査員はケイトさん?」)
 姉の『真白』とブーケアイディア勝負。傍から見れば独り言だけれど、そんな白雪にも慣れてきたケイトである。



「この様な感じでしょうか?」
「そうそう、ここに‥‥あ、憐さんは大丈夫ですか?」
「‥‥ん。大丈夫。頑張って。作る」
 ティルがケイトに作り方を教わる傍ら、憐は大きめのブライディをスタンドに立てた。
 そして赤い大きな花‥‥主に薔薇とカーネーションなのだが、それらを順々に挿して。大きなブーケを目標に、我が道を行く!
「最上さん‥‥大胆なデザインですね」
 眺めていた白雪は目を丸くした――憐の目の前には、いつの間にか50cm級の丸く赤いブーケが出来つつある。
「‥‥ん。最後に。ラフレシア」
 ――だから、ありませんってば。
 クスっと笑って、白雪も作品に集中する‥‥いや、作っているのは『真白』だろうか。白いカサブランカをメインに、白薔薇も添えて、緑にはアイビーを。キャスケードブーケに仕上げた後、真白はさらに仕掛けを作る。
 様々なミニ薔薇を使い小さなブーケを幾つも作ると、組み合わせてみる。
 ――最初は豪華なオーバルブーケとして使い、式の終わりに小さなブーケを取り外して、プレゼント出来るという仕組みである。
「出来たわよ? はい、次は白雪」
 そして妹にバトンタッチ。白雪は(「‥‥相変わらず凄い手さばきだよね」)と感心しつつも、自分の作品に力を注いだ。
 白雪の作品を見て、
「豪華ですね。私は華やかにしましょうか‥」
 と、呟く静も手先は器用だ。
 6月の誕生花、白のグラジオラスを使い、ひまわりも組み合わせ。周りにはアイビーと緑の実を散らし、キャスケードに仕立てていく。
(「受け取った人幸せになれると良いんだけど‥‥また歳とるのねぇ」)
 ハァと溜息。6月が誕生日の静、心中は少し複雑のよう。
 だが一つ作ると、続けて静は赤いダリアと黄色のグラジオラス、鮮やかなチューリップを挿し、周りにビバーナム、ライラックを散らしたラウンドブーケも完成させる。
 鮮やかな色と個性的で大胆な花使いは、豪奢でありながらも素朴さが滲んでいた。
「どれも素敵ですね。私のはちょっと地味すぎるでしょうか?」
 辺りをキョロキョロと見回して、恋は首を傾げてみた。
 彼女のブーケは、白いライラックの花束の中央からピンクのユリが顔を覗かせ、ユリの周りにはかすみ草が散りばめられ、ライラックの葉が添えられている。
 ‥‥これは地味というより。
「可愛らしいです」
 ブーケに悪戦苦闘しつつ、にっこり答えるティルだった。

 白い薔薇とミニバラを手に、スポンジ部へ花を挿していくメアリー。
「これでよし、と‥‥」
 最後に形を整え、白薔薇とマジョラム、ユーカリのオーバルブーケが出来上がる。
 ――これは、彼女の出身地でもある英国の正統派ブーケ。
「小さいのは何ですか‥?」
「これはブートニアです」
 瑠璃に問われ、メアリーは答える。
「女性がブーケの中から一輪とって、男性の胸ポケットへ入れてあげた、と。それがブートニアの起源なの」
 彼女の手には、ブーケと御揃いの薔薇のブートニアが。
「メアリーさんは、お花のこと詳しいですねっ! 教えて下さいメアリー先生♪」
「あたしもブーケ作り教わってもいいでしょーかっ?」
 同時に、海と瑠璃から尊敬の眼差しで見つめられて、慌ててしまうメアリー。
「‥え、私で良いのっ!?」
 慌てつつも、彼女達に挿し方を教えるメアリーであった。

 ――海が選んだ花は白百合。
「香りのいい花、大好きですっ」
 花の芳香を吸い込み、たっぷりの緑も使ってキャスケード型に作っていく。この明るい緑と深い緑が、白のドレスに映える事だろう。
 そして瑠璃は白のラナンキュラスと、ピンクのカーネーションに紫陽花を添えて。
「あたしは花言葉で選んでみたよー」
 明るく可愛い花嫁さんをイメージして、花言葉は『可愛らしさ』・『あなたを熱愛します』・『元気な女性』を選ぶ。どこか瑠璃にも当てはまりそうな言葉達だ。
 ――簡単なアドバイスをし、後は感性に任せて作っていく二人を見守って。
(「‥口出すより、自分自身で考えて作るブーケの方が素敵」)
 出来上がりを楽しみにしつつ、メアリーは二つ目のブーケを手がけた。
 白とピンクのプルメリア、薔薇とグリーンネックレスを使ったラウンドブーケは、南国をイメージして。最後はブートニアのステムに、リボンを巻いて。
「‥そういえば、メアリーさんの結婚予定は!?」
「え‥!? そそそ、そのっ、まっ、まだまだですー!」
 盛大に取り乱して。少しだけ、恋話に花も咲かせて。


 ひとえに『ウェディングブーケ』と言っても、様々な花を使い色々な形があるように。
 そのブーケに込める作り手の想いも、様々だった。


「青薔薇ですか? 珍しいですね」
 ティルが手にした花を見て、静はたずねた。微笑みつつ「好きなんです」とティルは答える。
「昔、青い薔薇は『不可能』の象徴と言われていたみたいです」
 ティルは青薔薇をスポンジに挿していった。薔薇の周りにはユーカリを飾り、ぽつぽつと語りながら。
「なぜなら、神様が『青は冷たく死を暗示する不吉な色だから』と、青色だけは与えなかったから、らしいですよ」
 けれど、今ティルの手には青い薔薇がある。
「‥でも、人に不可能なことなんて、無いんです」
 ――最後の青薔薇を飾り、形を整えて‥‥「出来ました!」と胸の前で腕を伸ばすティル。
「今、青い薔薇は『奇跡』の象徴と言われています。たくさんの人々の努力が、奇跡を起したんですね」
 彼の手には、青い薔薇とライスフラワーのラウンドブーケ。
 それは『奇跡』の結晶――。
「奇跡‥‥起きるものじゃなくて、起こすものなんだね」
 ティルが作ったブーケを眺め、ケイトが呟いた。

 白雪はクリスタルローズを中心に置き、ピンクのローズで飾りつけたラウンドブーケを作って一息。中々個性あるブーケだ。
「ふ〜。あと半分か」
 汗を拭う白雪を、(「頑張りなさい。努力は報われるから」)と真白が励ます。
 作品はそこで終わらず、白雪はローズクォーツやピンクの薔薇ビーズを使い、花嫁の腕を彩るアクセサリーも作成していた。
 ――それをつける花嫁の幸せも、願いながら‥‥。


 こうして幾つかのブーケが出来上がったところで、
「そういえば、ウエディングケーキ試作の話もあるんですよ!」
 と、ケイトが切り出したのだった。



「‥‥ん。この花。食べられる?」
 なんて。百合の花を手にしつつ問いかける憐だったが急にそわそわ。
 赤い薔薇を中心とした大きなブーケを完成させ、助言をきいて修正しているが‥‥意識がケーキへと向いている。
「さて瑠璃さん。次はケーキの方を頑張って作りましょう」
「本格的なケーキはほとんど作ったことがないんだけど‥‥頑張ろうっ」
 その間にもブーケを作り終えた恋が、瑠璃と共に厨房へ向かう。
「力仕事ならまかせてください!」
 ‥‥と、ティルも連れ立って。そのかわりつまみ食いを〜とか思っているのは、秘密である。

 メインのレシピは恋の案。
「はい、ティルさん。コレを混ぜてください」
 恋の指示に、元気な声がかえる。
 まずはピンクのベゴニアを混ぜた丸いスポンジ生地を作り、焼きあがりは生クリームでコーティング。
「‥‥ん。良い匂い。お腹。空いて来た」
 いつのまにか憐も厨房に。物陰からじーっと、ケーキに熱い視線を送っていた‥。
「わ、憐ちゃんいつから!?」
「‥‥ん。体が。勝手に。ケーキの方に。きっと。バグアの仕業だ」
 抜き足。差し足。忍び足で来たらしい。驚いた瑠璃は、憐の言い訳に笑いを堪えていた。
「これだと甘すぎるでしょうか? ちょっと味見してみて下さい」
 丁度良く恋が味見用ケーキをもってくる。それにはティルも憐も美味しいと大絶賛。
 最後はティルと共同作業で、プリムラとストックの花を赤橙黄緑青藍紫の順で、丸い虹に見える様に飾っていく。
 エディブルフラワーを使い、味だけでなく見た目にも拘った一品だ。
 ――続いては3段ケーキ。
「3色の薔薇を砂糖漬けにして。ケーキの生地に練りこんで‥‥最後上部にハート形になるように苺を並べる‥‥ってのはどうかな?」
「良いですね」
 和気藹々と作っていく瑠璃と恋。
 一段目にはプリムラ、二段目にはストック、頂上にはハート型の苺とベルローズが咲き‥‥豪華な3段ケーキが作られてた。



 そして作業場にケーキの芳香が漂い始める。

「ブーケ作るのって実は10年ぶりなんです」
 と、レモンリーフを飾りながら海は言った。しかし、そのブーケを渡すはずだった人物はもうこの世に居ない。
 10年前、キメラによって亡くした兄の陸、そして婚約者‥‥姉になるはずだった女性。
「たくさん人が死んだ頃ですから」
 と、海は静かに語る。 ‥一度壊れかけたみんなの幸せ。
(「でもお兄ちゃんとお姉ちゃんが望んだのは、私たちみんなの幸せだったはずだから」)
 泣きたいのを我慢して信じた。
 だからこそ今の幸せがあり、母との関係がある――。
 ‥‥思い出が、荒波のように海の心を襲った。けれど海は少しずつ、ガーベラの綺麗なティアドロップブーケを作る。
「私は今でも信じていますよっ」
 ――人が幸せになる力を。信じる力を。
 このブーケに祈りと、願いを託して。
「‥これだけの想いを受け取る花嫁さんは、きっと幸せ」
 海の言葉に頷いて、メアリーも最後のブーケを作り上げた。三色の薔薇を中心に、パールと羽材、レースで飾る可愛らしい籠ブーケだ。


 ブーケ作りも終りが近づいて、
「皆さん、上手ですねえ。とても真似は無理そうです」
 沢山の作品を眺めて微笑み、静は最後に布を花の形にし、リボンを付けてコサ−ジュに。
 そして白雪はケイトに審査を迫る。
「お姉ちゃんのとどちらが凄いですか?」
「決めれません!」
 正直、白雪も真白も他に無いアイディアがちりばめられ、個性的で素敵だ。だがケイトは悩んで真白のを選ぶ。だって生花が好きだから‥‥。
「あら嬉しい。ケイトさんが結婚する時は私にブーケを作らせてね」
 選ばれた真白は、微笑んで言った。ケイトの結婚なんて、果たして何年先なのか。

 そこへ恋と瑠璃が、ケーキを皿に乗せて来た。
「瑠璃さんと一緒に一生懸命作りました。どうぞ皆さん、試食してみてください」
「美味しそう!」
 メアリーは花を食べるなんて初めてで、ドキドキワクワクである。
「スポンジには薔薇?」
「こっちはプリムラです」
 飾られた花にも興味津々。
「紅茶、淹れますね」
 と、ティルは【OR】ティーポットで、紅茶を振舞う。
「‥‥ん。美味しい」
 静と憐もいつもの大食いを発揮し、満足そう。
「美味しい〜。これなら、大満足ですね」
 白雪の言葉には真白も(「うん。思い出に残るような味ね」)と同意して。
「有難う♪ 沢山作ったから、おかわりあるよーっ」
 照れたように笑いながら、瑠璃はさらにケーキを運ぶのだった。


 ――ブーケは写真を残して花嫁の元へ、ケーキはレシピを残して皆のお腹へ。
 沢山の想いのもと、花で紡がれたブーケ作りのお話は終わるかと思われた――。



 作成から数日後、能力者達はある結婚式へと招待された。それは作ったブーケが使われるという結婚式‥。

 式場では、花婿と共に満面の笑顔を浮かべた花嫁が‥‥花吹雪舞う中を歩く。
「うわぁ〜、綺麗ですね」
「幸せそう!」
 感嘆する恋の横で、楽しそうに眺める瑠璃。
「‥あ、静様のブーケです!」
「あら本当だわ」
 ティルの驚きの声に――静も思わず目を丸くして。

 祝福に包まれる中、ブーケトスの時が来る。
「‥‥ん。キメラ並の。すごい。殺気だ」
 結婚すればウェディングケーキ食べ放題なんだろうな‥と、人と違う憧憬を抱いていた憐は、驚きつつ成り行きを見守る。
 ‥‥憐以外の皆がブーケトスに参加する中、特に気合を入れるのは恋だった。
(「メアリーさんに遠慮したりせず、前に出て取りますよ‥!」)
 ――もしかして、想い人が居たりして。

 そして後ろを向いた花嫁の手から、ブーケが舞い上がる‥‥!

 ‥‥気合が功を奏したか、ブーケは恋の手の中へ落ちた。
 それをしっかりキャッチして。
「あら、ホントに取れてしまいました。ど、ど、どうしましょ?」
「ふふ、おめでとうっ」
 急に慌てだす恋に微笑み、メアリーはもう一度幸せな二人を見つめた――。


 この幸せを少しだけお裾分けしてもらって。
 能力者達は再び――辛くもあり、小さな幸せも有る日常へと帰っていくのだった。