●リプレイ本文
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沢山の人で溢れ熱気に満ちたこのカレー屋を突如襲った熊キメラ、許すまじ!
流 星之丞(
ga1928)はトレードマークの黄色いマフラーを靡かせ、店内へと急ぐ。
「行きましょう、ゲオルグさん、ソフィアさん‥‥イエローマフラー隊の意地にかけて、黄色いカレーと人々を守りきりましょう!」
星之丞の言葉に頷き、同じ小隊メンバー、ソフィア・シュナイダー(
ga4313)は後に続いて走る。
「そうですわ。黄色いものの称号は、我がイエマフ小隊のものですわー!」
手には黄色いアレコレが。それらを嬉々として運ぶソフィア。そんな妹を不安げに見つめつつ、ゲオルグ・シュナイダー(
ga3306)が駆ける。
(「隊長が被害にあっては困るし、妹が暴走しても困る‥」)
妹には既に暴走の兆しが見えるが、あまり気づいていないゲオルグだった。
その頃、店内では‥。
「カレーが食えると聞い‥‥なんだこの熊」
のこのこ店へ入ってきた周太郎(
gb5584)が、熊の暴れっぷりに呆然。
「‥あ、LHの傭兵の方ですか!?」
そこではシャオラ・エンフィード(gz0169)が客を避難させるために奔走していた。
「何、熊が暴れている? ‥奴ら黄色い物ねらうのか?」
事情をききつつ、『俺非覚醒だと頭黄色いから囮になれるじゃん』とか思う周太郎。
「よし、じゃあ皆が到着するまで囮に‥‥って、俺の飯を奪うんじゃねえ!!」
囮を引き受けた瞬間に、周太郎が手に持った昼食用レトルトカレーを狙う熊キメラ! ‥カレーへの執着が侮れぬキメラだ。熊に対し怒りを纏う周太郎‥。
‥‥その様子を眺めつつ龍鱗(
gb5585)は呟く。
「飯食いに来ただけだったんだが‥‥おかしなことになったもんだ」
カレーを諦め、観念したように息を吸う。
「こうなれば‥‥お客さん達に指一本触れさせてたまるか」
龍鱗が決意した時、周太郎からカレーを奪ったキメラが彼を狙った。龍鱗の後ろにはまだ逃げ遅れた客が震えている‥‥だから回避はしない、避けるわけにはいかないのだ。
「く‥っ!」
龍鱗は右腕のメトロニウムガントレットを翳し、振り下ろされたキメラの腕を受け止める。
その時、店の入口に傭兵達が駆けつけた――!
客に襲い掛からんとする一体の熊キメラ。それを目の当たりにした星之丞は、客を庇うように素早く身を割り込ませた。
「やらせません!」
左奥歯をカチッ! と噛み、豪力発現を発動。キメラの爪を受け止めると、反動で押し返す。その隙に、ソフィアが囮の為の舞台をセッティングしていた。
そして最上 憐 (
gb0002)は、口元にべったりとカレーをつけた熊キメラを見、唇を結ぶ。
「‥‥ん。カレーの恨み。私が晴らす」
キメラ如きが、至高の飲み物『カレー』を暴飲するなど、許せない! しかしまずは客を逃すのが先。入口付近で団子になる客の元へ瞬天速で駆けつけた憐は、非常口からの避難を進めていく。
「‥‥ん。出口は。こっち。焦らず。落ち着いて。避難」
負傷者を探し、背伸びで見回す憐‥‥幸い、動けぬほどの怪我人は居ないよう。
そして、ふぁん(
gb5174)は先日入念に磨いた包丁を携え、シャオラと協力して客を店外へ誘導。
「は〜い。皆様、あわてないで落ち着いて外に出てくださいね」
どこか明るいふぁんの声が、客達の緊張感を和らげていく。
一方、七市 一信(
gb5015)も出口付近で客を誘導していた。
「お客様、こちらになりまするでございマース」
「わ! 熊! 大熊猫!」
「‥お、俺はあいつらの仲間じゃないからねん!」
気遣ってパンダの着ぐるみを脱いでリンドヴルムを纏った結果がこれだよ! ‥アレンジしてあるのが裏目にでたか。パンダマン、場所が悪かった。
しかし子供にじゃれつかれても困るので、一信は店内に入り熊キメラの視界から客を隠す壁になる。
こうして、避難は徐々に進められていく。
その頃。
「‥俺のカレーを返さんかこのクマーッ!」
熊キメラにレトルトカレーをブチ撒けられ、周太郎は覚醒してしまっていた‥。カレーも無くなり髪も銀になり、熊キメラは急速に周太郎から興味を失う。
そして、次に狙ったのは強烈なカレー臭を漂わせるゲオルグだった。匂いの原因は、スパイスの補強で死ぬほど臭いのきつくなった『囮用カレー』を所持している為。
「‥きたか」
「さぁ、お兄様兄嫁様こちらですわー」
その中、黄色いエプロンを身に着けたソフィアが、ゲオルグの用意したファミリーカレーを振舞いつつ兄と星之丞を呼んでいる。そこには何故か、一段高いテーブルがセッティングされていた。
「ソフィアさん、その手に嬉しそうに持ってるものは何ですか?」
一段高い席よりも、ソフィアの持つ黄色い薄手の布が気になる星之丞。
「もちろんこれをかぶっていただきながら、カレーを食していただきますわ」
ヴェールを思わせる薄手の黄色布を手にし、目を輝かせながら言うソフィア‥‥本気だ。本気でさせる気だ‥!
「俺の席は一段高い隊長の横だと? ‥まぁその方がすぐに隊長をカバー出来るしな」
一方兄は同意した。‥ゲオルグさん、そこは断っておくべき。隊長は薄布をかぶせられるそうだから、いざとなれば強制的に後ろに下げさせよう‥‥そう思いながらゲオルグは一段高い席へと向かう。
しかしキメラは、星之丞に兄嫁様らしい格好させたいソフィアの執念に気づくはずが無い。ソフィアから逃れようとする星之丞に、襲い掛からんとした――!
――その瞬間。
「花嫁様には触らないで下さいましっ!」
ソフィアはキメラの背後に回り、黄色い電気雪洞でキメラを殴り倒す――!
そして囮役達が混沌に包まれる中。
「今のうちだよん」
竜の鱗を発動し、一信は客に飛び火しないよう受けの体勢に専念する。
一信の、そして避難誘導に専念した皆の力もあり、ほぼ全ての客が店の外へと避難完了。
「‥‥ん。負傷者。居たら。治療するよ?」
救急セットを持ち、憐は負傷者の手当てをしていく。
「重傷者はいないようだな」
ほっとしたような表情をする龍鱗。一方でシャオラは練成治療を施しつつ、「助かりました」と皆に礼を言った。
ふぁんは覚醒を遂げスラリとイアリスを抜く。
「丁度お腹も減ったわ‥‥これからが反撃ね」
今度はこちらが暴れる番。ふぁんは不敵な笑みを浮かべ、再び店内へ突入。続いて龍鱗が覚醒し、雲隠を手に駆けていく‥。
「加勢するよん」
皆の無事を確認した一信も囮班へと加勢する。憐とシャオラは、彼らを見送り‥‥
「‥‥ん。出入り口は。死守する」
客の避難先へ絶対キメラを行かせないと、憐は出入り口の守護神としてその場所を陣取り、もしもの時の為に備えていた。
そして囮班。
一先ず薄布は遠慮しつつ、星之丞はクルシフィクス‥‥十字架のように見える大剣を抜く。そしてキメラの前に立ち、黄色いマフラーを闘牛士のマントのようになびかせて気を引き付ける。
「さぁこい、黄色いマフラーは勇気の証です!」
言い放ち、黄色に誘われるよう飛び掛ってきた熊を一閃する星之丞。
そして流石にゲオルグも振舞われたカレーを食べる暇は無い。星之丞に続くように、ゼロでキメラを叩き切った。キメラは衝撃で後方に飛ばされる。
―待ち構えていたのは、駆けつけたふぁんであった。
「こっちは腹へってるの。あんたが肉になるんだからじたばたしないの」
冷たく言い放ち、背からイアリスで深々と貫く。――迸るキメラの体液、それを浴びながら、ふぁんはテンションを上げていった――!
「おらおらおら。しばく! しばく! しばく!」
背中から滅多刺し。キメラは攻撃されながらも、星之丞のマフラーを狙い手を伸ばす‥‥だが。
――ザクッ
肉の裂ける音と共に、キメラは首元から体液を噴出させた。そして、腹からも‥‥。星之丞とゲオルグの追撃が、ほぼ同時にそれぞれの部位に決まったのだ。
すでに黄色を追う力もなく、熊キメラは崩れ落ちる。
「貴方に恨みはありません‥‥でも、全ては黄色い何かの平和を守る為です! 悲しい事ですが」
イエローデーの平和を守るため、星之丞は戦い抜いた。ゲオルグも、ソフィアも、隊の名にかけて‥。
そしてふぁんは足元に倒れたキメラを見つめ、満足気に微笑んだ。
「ふふ、食前の準備運動にもならないわね」
――もう一体のキメラを相手にするは周太郎だ。ロングソード「パラノイア」を振り、キメラへ叩きつける!
「身をもって償え、このクマー!」
時折キメラの反撃が周太郎にヒットしたが、彼の攻撃は止まらない! そこへ‥
「周太郎、加勢する」
熊キメラの背後へ近づいた龍鱗が雲隠抜刀、同時に円閃とスマッシュを発動!
「これ以上好き勝手暴れさせん‥!」
龍鱗が叩きつけた渾身の一撃は、キメラの背を深々と裂いた。不利を悟り、周太郎と龍鱗に挟まれながらも逃げようとするキメラ。
‥‥しかし、出口への方向は一信が塞いでいる。
「熊? ハッ、貴様も白黒にしてやろうかっ! ボハハハハ!」
奇妙な笑い声をあげながら、ロエティシアを振り‥‥体重を乗せるように、キメラの脳天へ刃を叩きつける!
熊vsパンダの一撃勝負は、パンダの勝利。頭に降り注いだ一信の強力な一撃の為、キメラの意識は朦朧とし‥。
――今だ。と、周太郎は無防備なキメラの、心臓辺りを狙い剣を突き刺す。
‥‥血が、激しく吹き上げて。そのままキメラは、店の床へと倒れこんでいった‥‥。
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「‥‥ん。お腹空いた。お腹と。背中が。くっつく感じ」
一仕事を終えて、憐が呟く。張り詰めた空気がゆるむと、酷く空腹を感じてしまう。
そして平和になった店内に、調理師とウェイター達が戻ってきた。今日はイエローデー、カレーをアピールできる貴重な一日。
まず、倒したキメラの処理を考える。
「‥‥ん。熊肉。入れてみない?。 美味しくなるかもよ」
さらりと憐が熊肉入りカレーを提案。すると、
「そうだな、取り敢えず飯を邪魔したこの熊は食べ易い形に処理しよう」
あっさりと周太郎が同意する。早速店員にエプロンを借りて、厨房へ。
「俺も腕を奮うとするか」
解体ならば手伝うと、龍鱗は腕まくり。
ふぁんに至ってはシャカシャカと音をたてつつ、
「実は、昨日包丁といでおいたのよね」
何故か入念に研いだマイ包丁を持ち込んで、嬉しそうに厨房へ入っていった。
‥‥みんな食べる気満々じゃないか。
「‥‥ん。ざくざくと。解体。熊肉。熊肉」
カレーの出来上がりを想像し、憐も心なしか嬉しそう。肉球模様カフェエプロンを身に着け、解体を手伝った。
後出来るまでは、食べる暇の無かったゲオルグのファミリーカレーを食しつつ、待つとしようか。
「ねえ、熊の肝あったら、それも加工してね。滋養にいいらしいから」
「肝? 処理できるが‥」
ふぁんのお願いに、どうするんだと周太郎は首を傾げる。
「え? 私が食べるのよ。お肌にいいらしいからね」
ふぁんは言う。きっとツヤツヤになるに違いない。
そして、龍鱗はカレーの準備。その手にあるものを見て、ふぁんは疑問を投げた。
「コーヒー牛乳? 何に使うの?」
「熊肉の臭み消しとカレーの隠し味になる」
「私はガーリックかな」
料理には詳しいらしい周太郎に龍鱗、そしてふぁん。シャオラにしてみれば羨ましい限り。
「‥‥ん。良かったら。味見しようか?。 しようか?」
ファミリーカレーを食べつくした憐は、新たなカレーを狙い目を光らせていた‥‥。
そして、辺りにカレーの香りが再び漂いはじめる。
頃合を見計らい、パンダ着ぐるみへと着替えた一信は店の前へ。
「熊さんパンダさん大好物のカレー屋さん。イエローデーサービス中! 今日限定執事もいるよ?」
看板を持ちつつアピール。まさに客寄せパンダ!
「あ、パンダ! 本当に美味しいの?」
「ああ、おいしいよ〜」
寄ってきた子供の頭を撫でる一信だった。
執事って何かしら? と、若い女性もやってくる‥。これは、繁盛の予感。
「さーさー、よってらっしゃいみてらっしゃい。 本日イエローデーサービス中、美味しい美味しいカレー屋さんだよーん!」
更に声を張り上げる一信。よく働く着ぐるみパンダであった。
その頃の限定執事さん。
「いらっしゃいませ」
と、執事服にカフェエプロンを付けた周太郎が笑顔で客を迎えた。『折角この服装だし店の手伝いでもするか』という事なのだが、果たして何故執事服だったのか謎である‥‥まあ似合っているので良し。
(「‥執事喫茶紛いになりそうだが。むしろなりきるか」)
なるべく自然に振舞うようにチャレンジする。
一方龍鱗は黒一色のシックなスーツ姿。両目が見える様に髪をあげ、ネクタイも締め、紳士を思わせる服装に。
「1日限定だがまぁいいだろう」
笑顔で接客するのもたまには悪くない。笑顔が返ってくるのだから‥‥。
星之丞は掃除を終え、ようやく席で一息つく。
「しまった‥‥服まで黄色じゃないと、おかわりは何杯まででしょうか?」
マフラーだけが黄色い自分の姿‥、慌てて店員に問いかける律儀な星之丞。もちろん能力者には無料である。
片や不完全燃焼っぽいソフィア。それもそのはず、本来の目的は兄嫁様らしい格好をさせる事だったのだから‥‥。黄色い薄布を握りつつ、諦め切れない。
「さぁ、続きですわ! お兄様、タキシードを着てくださいまし」
「何? タキシード? 何故そんな結婚式の真似事をしなければならん。‥せめて執事で我慢してくれ」
妹にタキシード着用を迫られ、うっかり自爆フラグを立ててしまったゲオルグ。結局そのまま執事姿で、一日ウェイターに。
その中シャオラは暢気に話をする。
「カレーどのくらいですか〜」
「‥‥ん。大盛りで。凄く大盛りで。よろしく」
憐はひたすらカレーを飲んでいた。熊肉、案外美味しいと好評。
そして客引きを終え店内に戻った一信は、渡された熊カレーを味わい一息。
「しかし、イエローデーってのはアレだね 結局は見つけるための行事なんだよねえ‥‥俺、まだ諦めついてないのかもねん」
カレーの後には一服し、哀愁漂わせつつ呟く。
しかし、ふぁんは
「え? イエローデー? なにそれ?」
と疑問に思いつつ、美味しいカレーに舌鼓。まぁ、つまり、カレーの日だ。
「終わった‥カレー食べる時間あるよな? むしろカレーあるよな?」
「カレー食うのが目的だったはずだが‥‥残っててくれることを祈ろう」
慣れぬ接客業に草臥れつつ、周太郎と龍鱗が休憩へ。
山積みにされた皿が目に入ったが‥‥なんとか残された一杯のカレーへ、辿り着いた二人。
こうして能力者らは討伐を終え、カレーを堪能し、カレー屋大繁盛。報酬とは別にお礼の品、『おたま』を手に入れた。是非これで、これからもカレーを作って欲しい。
ちなみに毎年イエローデーといえば大男が沢山集まるというこのカレー店‥‥今年は例年になく女性客が多かったとか。
その理由はもうお分かりだろう。