タイトル:【庶事】攫われた若妻マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/27 13:40

●オープニング本文


●取材の束
 バグアが跳梁しはじめて20年。とかく、表面に出るのは、派手な大規模作戦や、大掛かりなキメラやワームとの『軍事的な』ことばかり。だが、世の中には、それ以上にぶっとんだキメラだってたくさんいる。ある日突然、隣の住民がバグア派だったなんて事も、今や珍しくはなくなってしまったのだ。
 そんな人目につきにくい事件でも、救援を要する事は多発する。そんな日々の『隣村の大事件』を担当するUPCオペレーター本部に、1人の若者が足を踏み入れていた。受付で彼はこう事情を話す。
「まいどっ! 突撃取材班ですっ! 何か面白そうなネタありませんか!?」
「は!?」
 よくみりゃカンパネラの制服だ。おまけに腕章に『報道部』と書いてある。なんでガッコを飛び出してこんなところにいるんだと、受付の人は思ったが、口には出さずに、オペレーター達の事務室へと案内してくれる。そこにうずたかく積み上げられた報告書から、ネタになりそうなものを捜せと言う事らしい。
「アリガトウございます。じゃ、これ借りて行きますねっ」
 閲覧可と印字されたその束には、こう書かれていた【庶務雑事】と。
 これは、そんな日々起こっている事件をまとめた報告書の束である。


●咽び泣く男
 学校からの帰り道、夕暮れでオレンジ色に染まる田舎道を歩きながら白石マモルはふぁ‥‥と大あくびをした。
(「なんだろう、この最近の無気力感は‥‥これが五月病ってやつ?」)
 最近やたら充実している姉とは違い、マモルは軽い適応障害に陥っていた。四月はやたらハッスルしていたが、GW終わってからが酷い。自分以外にも五月病経験者って絶対いるよなと思いつつ、トボトボ道を歩いていく。

 ――春の風は心地よい。いつまでもこの風のような爽やかな気持ちでいれたらいいのに。

 なんてマモルが考えていたら‥‥爽やかな風に乗って男の暑苦しい泣き声が届いた。
「おおおおおぉぉぉん。おおおおおぉぉぉぉん」
「‥‥」
 マモルは足を止める。その視線の先には、道路に蹲って咽び泣く、いい年の男が居るからだ。
(「やだなぁ‥‥関わりたくない」)
 どうスルーして行こうかマモルが考えていると、足音に気づいたのか。男は泣くのを止め、緩慢な動きでチラリとマモルの顔を見る‥‥不味い、目が合った。
「‥‥あの、どうしたんですか?」
 溜息を吐きながら、観念したように男に声をかけるマモル。流石に、この状態でスルーできるほど冷たい青年ではなかったらしい。
 声をかけられた男は、ズビズビと鼻水を啜りつつ語り始める‥‥。
「おおおぉぉぉ! 俺の嫁さんが! 嫁さんが攫われた!! メタリックなハニワに連れ去られたんだ!!」
 やはり男は暑苦しかった。
 この泣き叫ぶ男は【自称】埴輪職人・三郎。普段は山奥でひっそりと、嫁と共に仲睦まじく暮らしているらしい。
 そんな三郎の話をきき、マモルは顔色をかえる。
「え? 奥さんが? メタリックなハニワってもしかしてキメラ? ‥‥それって大変じゃないですか! 急いで連絡しないと!!」


 こうして、『三郎の妻の救出』と『妻を攫ったキメラの殲滅』をして欲しいという依頼がUPCのモニターに掲示される事となる。
 しかし、能力者達はまだ知らされていない。
 この『攫われた妻』が”人間”ではなく、”埴輪型の焼き物”だということを‥‥。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
亜鍬 九朗(ga3324
18歳・♂・FT
アルト・ハーニー(ga8228
20歳・♂・DF
藤堂 紅葉(ga8964
20歳・♀・ST
シン・ブラウ・シュッツ(gb2155
23歳・♂・ER
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
耀(gb2990
13歳・♀・GP
アンナ・グリム(gb6136
15歳・♀・DF

●リプレイ本文


「今日は久しぶりにご一緒できますね。よろしくお願い致します」
 依頼を共にする友人へ白雪(gb2228)は声を掛けた。兵舎ではよく会うが、「確かに依頼では久しぶりですね」とシン・ブラウ・シュッツ(gb2155)も答える。

 事件の起こった田舎道へと移動艇が到着したのは、通報から間も無くの事。
「小型キメラが人を浚うとは‥‥中々厄介な事態のようだな」
 事態を重く見た九条・命(ga0148)はすぐ移動艇から飛び降りた。
「キメラに奥さんが攫われるとは‥‥」
 亜鍬 九朗(ga3324)も同じく、『何とか早めに助け出したい』と思う。
 能力者達の視線の先には男二人の姿‥‥この二人が事情を知っている可能性が高いと彼らのもとへ急いだ。

 そこで年甲斐も無く道路に蹲って泣く三郎を見て、耀(gb2990)は鎮痛な面持ちに。
(「お嫁さんが攫われた、なんて。きっととても‥‥辛い」)
 三郎を気遣い、声をかけた。
「‥大切な人。絶対助けます‥!」
 耀の言葉に、顔を上げて礼を言う三郎の顔は涙で濡れていた。
 こんな情けない顔をどこかで見たことあるような‥。
「‥あの時の」
 アルト・ハーニー(ga8228)がポンと手を叩く。確か以前土偶にご熱心だった男ではないか。
「また懐かしい。あの後結婚までしてたとは‥」
 驚きを隠せない。
 そんなアルトと三郎が妙な再会を果たした後、アンナ・グリム(gb6136)は淡々と事情をきいていく。
「ところで、攫われた時の詳しい情況を教えて頂戴。写真もあれば見せて欲しいわね」
 愛する妻の写真ならば持っているだろう。すると三郎は、懐から写真を出した。
「攫われるなんざ、余程魅力的な嫁なんだろうね」
 藤堂 紅葉(ga8964)も興味深そうに、その写真を見る‥‥しかし其処に映っていたものは。
 三郎の掌にちょこんと鎮座する、『埴輪の焼き物』ではないか!
 ――え、こんな時に冗談? と、誰かがそう思ったに違いない。緊張の走っていた場は一瞬で微妙な雰囲気‥‥だがそれは当然だ、嫁が『埴輪の焼き物』だなんて誰も予想しちゃあいない。
 その中、コホンと咳払いする命。
「なんというか‥‥なんとも言い難い事態だな」
 と、命は視線を漂わせる。
(「真面目にやるつもりだったんだがな。真面目にではなくMAJIMEにやるか」)
 ‥‥気を取り直した。
 そして九朗も視線を泳がせつつ。
「嫁が埴輪か‥‥まあ人には色んな趣味があるからな‥」
 趣味の否定はしないが、九朗のテンション駄々下がり気味。
 ――オレ達のシリアスを返せ。
 そしてアルトはアルトで、埴輪に愛着はあるものの。
「嫁というのはこれか。流石に俺も予想外だったな」
 予想の範囲外だったらしい。まさか自分の知らぬところで、三郎が埴輪と添い遂げる決心をしていたとは‥!
「‥ん? アルトさんも同じ埴輪趣味ではないか‥?」
「いや、同じようだが違うな‥」
 紅葉の言葉は否定しておくアルト。
 そして、耀も同様に驚いていた。しかし、
(「自分にも大切な存在はあるから‥」)
 ベルセルクを握る耀。この大剣は、正に耀の相棒と言っていい。初依頼の時から、共に戦い行く大切な相棒――。
「‥‥必ず助けます!」
 凛とした耀の声が響く――。
 それと共に皆から戸惑いと迷いが消え、能力者達は改めて救出の為の情報を三郎から聞き出していくのだった。

 一方マモルを見つけたのは、白雪の姉人格『真白』である。
「あら? あれは‥マモル君じゃない」
 急に背中をポンと叩かれ、驚くマモル。
「おっす! マモル君、元気してた? そんな干乾びた人参みたいな顔してたら女の子にもてないぞ?」
 言い返したいところだが、実際干乾びた人参のようなので仕方がない。
「お久しぶりです」
 白雪とシンの顔を見て、マモルはいろいろ思い出した。「さてと‥お茶飲む?」と言いのんきに野点する『真白」に対し、恐縮しつつお茶と温泉饅頭を受け取る。
「元気がないようですね」
 シンがそう問うと、マモルは近況を語り出した‥。
「‥ふ〜ん。なんとなく元気が出ないのね」
 話をききながら、『真白』は空を見た‥‥まだ話したい事もあるが、依頼を終えてからだ。「この辺でキメラ見なかった?」と話題を替え、彼が知る限りの情況を得る。
「‥分かったわ。よし、マモル君。ちょっと格好いい物見せてあげる」
 話終えると、『真白』はそう言い残し討伐へと向かってく。
 そんなやりとりを見ながら、
「彼は苦労してそうね‥。そんな雰囲気がするわ」
 と、苦笑いをするアンナだった。
「さて、と。しっかりお嫁さんを取り返しましょうか。彼女が砕けたら三郎さんの心も砕けそうだし‥」
 気をとりなおし、能力者達は覚醒を遂げた。
 その中で紅葉は埴輪着ぐるみを用意し、
「相手の趣味に合わせるのもまたお洒落さ」
 と、変装してみせる。果たして人妻趣味のあるハニワキメラを誘惑できるのだろうか!?


 能力者がキメラの逃げた方角へ走り出して間も無くの事。
「あれか!?」
 嫁を乗せて運ぶ3体のメタリックハニワを発見した。そして、キメラは能力者達に気づいていない。
「確かに埴輪だな。キメラも嫁も。しかし、嫁はさておきキメラはなんだ! メタリックな埴輪なぞ埴輪と俺は認めん!」
 瞳を燃やしつつ、アルトはキメラを睨みつけた。心なしか背後の埴輪オーラも怒りの形相のような‥‥気のせいか。アルトは100tハンマーを構えて退路を塞ぐ。
「埴輪を誘拐する埴輪キメラとは何というシュールな光景‥」
 対照的に、九朗はシュールな光景に閉口気味。三郎にとっては大切なお嫁さんだからと、ひたすら言い聞かせる九朗。
 耀は首をかしげている。
「美味しそうには見えない、ですね。メカだから‥?」
 一体誰が美味しそうと教えたのか。
「‥皆さん、お気持ちはわかりますが‥‥依頼は依頼ですから、気持ちを切り替えていきましょう」
 動揺を隠せぬ皆に、シンは落ち着いて声をかけた。

 戦闘開始。
 命は先手必勝を使用、瞬天速を発動し一瞬でキメラとの間を詰める――狙うは、嫁運ばぬキメラ。
「ハッ!」
 肉薄すると当時に瞬即撃を叩き込む。命は靴につけた砂錐の爪で手加減無く、サッカー選手のようにキメラを蹴り上げる――!
 すると、キメラはサッカーボールのように宙を舞った‥‥重さがあるにも関わらず。つまり、それ程命の蹴りは強烈だった。こうして一体のキメラを嫁から引き離す。
 飛んできたキメラを迎撃するはアンナだ。
「行かせないわ!」
 再び嫁の元へ行くキメラの行動を、ソニックブームを当て妨害する。

 又、命とほぼ同時に、耀も瞬天速でキメラへと肉薄していた。彼女が狙うのは、攫われたお嫁さん。
(「そっと‥」)
 キメラはまだ事態を把握していない。仲間を蹴り飛ばされ驚くキメラの背後から、耀は両手を伸ばす。
 ――耀の両手は柔らかに、しかし素早くキメラの頭から嫁埴輪を掠め取る。
 奪取、成功。
 そして奪取の瞬間を見計らうように、アンチマテリアルライフル『Schmerz』を構えたシンがキメラを銃撃――!
「そうはさせない!」
 鋭角狙撃と影撃ちを併せた鋭い一撃を放つ。シンの銃弾は、キメラの目元を打ち抜き深い亀裂を生じさせた。
 撃たれ怯んだキメラに、耀は靴先の刹那の爪で蹴り上げを喰らわせる。メタルな外装に傷が入り、キメラは耀の頭を越えて後方へと転がっていく‥‥。
 転がったキメラを待ち構えていたのは、アルトだった。
「残念だがこんな邪道な埴輪に同情はしない。‥邪道な埴輪に生まれた事をあの世で悔やめ!」
 気合の入った埴輪オーラとゴゴゴという効果音を背負い、アルトはハンマーを振りまくった。ボコボコに凹まされていくメタルハニワは、反撃の炎を吐き出す‥が。
「炎を吐くときに『はにー』と言わないとはバグアも分かっていないな!」
 火がついたのはアルトの怒りだったようだ。炎をくらいつつも、さらにボコボコ叩く。
 その隙に、耀は嫁埴輪を上着で包み、しっかりと両手で抱えた。もう一体のキメラを踏み台にし、飛ぶように離脱する。
 離脱した耀を確認したシンは、武器をゼーレ&リヒトへ持ち替えた。
「ここからが本番だ」
 冷やりとした声色であった。ここから、無慈悲な殲滅が始まる――。

「行きましょう、藤堂さん!」
「ああ」
 仲間二体を蹴飛ばされ、残ったキメラを白雪と紅葉が挟みうつ。
「略奪婚とは見上げた度胸だ。メタリックは伊達じゃない‥‥という所か」
 不敵な笑みを浮かべ言い放ち、埴輪ぐるみ姿で接近する紅葉――仲間のふりのつもりだ。足止めをする前に嫁は救出されたが、動きにくい姿で戦うのも良い経験。
 紅葉は隙を見てはハンドガンでキメラの目を銃撃。
「一度試して見たかったんだよ」
 と、ジリジリ攻めていく。
 反対側からは白雪が近接攻撃を仕掛けキメラの気を引く。だがキメラは白雪を狙わず紅葉に体当たりを加えた――それを機に、攻めへと転じる白雪。
「八葉流終の型改‥‥鬼八葉」
 『真白』の言葉と共に二段撃と流し斬りが発動され――両手の血桜と月詠が、キメラを切り刻んでいった。紅葉の銃撃に併せるように、全力で5連続叩き込む――斬られたキメラはもう原型すら留めていない。
「マモル君見てた? 漫画の世界みたいでしょ?」
 ハニワではければ返り血すら浴びていそうなこの情況で、『真白』は無邪気に微笑んで言った‥‥遠くで見ていたマモルは、少し震えていたという。

 九朗はドリルスピアの槍先をキメラへと突きつける。
「ガラ空きだ」
 隙だらけの側面を九朗が突く度に、深い穴がキメラへと刻まれた。
 反撃の体当たりを受けた九朗がバックステップで退避すると、続けざまにアンナの攻撃が入る。
 アンナは大鎌「紫苑」の柄の先で埴輪の頭を突き、転倒させて両断剣。
「あら、ひっくり返っちゃった」
 クスっと笑うと、キメラは狂ったように炎を吐き出した。咄嗟にソニックブームでの相殺を試みるアンナ。
「熱っ‥。この‥‥これお気に入りなのにっ」
 炎の直撃を受け、僅かな焦げ臭さに怒りが増した。鎌をキメラの脳天に振り下ろし、反撃の両断剣を叩きつける。
 そこへ、命も駆けつけた。
 手数とリーチの差を生かし、キメラの死角からキアルクローを閃かせ。
「終わらせる!」
 ――爪は脳天を抉った。小振りだが瞬発力を最大限利用した、一撃。
 九朗とアンナに弱らされていたキメラは、命の全力攻撃でとうとう粉々に砕け散る――。

 皆が攻撃を仕掛けている間に戦闘をすり抜けた耀は、炎や攻撃からお嫁さんを守りきり、三郎の元へ。
「三郎さん‥!」
「有難う!」
 耀の手から嫁を受け取り、三郎は泣いた。
 同時に、両断剣と流し斬りを付与した渾身の一撃で、アルトが最後のキメラを粉砕する!
「ふっ、これでメタリック埴輪よりも俺の埴輪の方が強いとわかっただろう」
 心なしか背後の埴輪オーラも満足げである。

 こうして無事能力者達は殲滅を終え、平穏を手に入れたのだった。


 助かった嫁埴輪を愛でる三郎を見て、アンナがズバリ問いかけた。
「三郎さん、埴輪のどこがいいのかしら?」
「それはだね、括れの無い腰、円らな瞳、それから‥」
 途端、三郎はマシンガンのように喋り出す。内容はとても長文なので割愛するが。
「ごめんなさい、私には理解できないわ‥」
 最初から理解できるとは思わなかったが、矢張り無理だった。
「しかし埴輪を嫁にする猛者がいるとは‥‥世の中は広い。埴輪職人が埴輪を嫁にしているという事は、売り物は全て子になるのだろうか?」
 呟く命。‥悩んだら負けだ。気にしちゃダメだ。
 命が疑問を投げる横で、九朗も眉を顰めていた。
(「無事に救出出来たのは良いのだが‥三郎さんの頭は大丈夫なのか‥」)
 考え込み、「まあ、気にしない方が良いな‥‥うん」という結論に。
 三郎と埴輪話で盛り上がれるのはアルトくらいなものだろう。
「嫁さんが戻ってよかったな。‥そうだ、今日は俺の作った埴輪を持ってきたのだが貰ってくれるかね」
「是非娘に!」
 アルトの手製埴輪を養子として迎え入れた三郎は、更に埴輪談義に花を咲かせていた。

 嫁救出で大活躍した耀は、三郎と嫁を笑顔で見守る。
(「大切なものをお嫁さんと表現するのかな?」)
 ふと疑問に思い、ベルセルクを構えてみた。
「ベルは、ボクのお嫁さん‥?」
 問うてみたけれど。
(「‥少し違うな。ベルは。能力者としてのボクの。耀の‥‥心臓、だから」)
 正に『相棒』なのだと思う、耀。


 巻き込まれたマモルはシンや白雪とお茶の続き。
「五月病、ですか‥‥原因に心当たりはありますか?」
 シンはまるでカウンセラーのように、やる気喪失の原因を探ってみる。マモルの話をきくと、やはり『環境の変化』が原因のようだ。
 一時的な物のようでホッとしながら、シンは話を近況報告へと戻していった。
「ルミコ君とはあれから何回か会っていますよ。ニキ君とも温泉地の依頼で会いました。二人とも元気そうでしたよ」
 これも作ったりしましたと、腕のブレスレットを見せてみる。
「良かった。姉さんとは中々話す時間がないんだ」
 仕事、急がしそうで‥‥と苦笑するマモル。シンや白雪と話すうちに、干乾びた人参には徐々に生気が戻っていった。
「ルミコさんとニキちゃんにもよろしくね。‥あんまりぼんやりしてると、ニキちゃんに幻滅されるわよ?」
 『真白』はいつも格好いい兄で居ることをアドバイスし、励ます。
 二人の声をきいて、マモルも『兄だからしっかりしなきゃ』と思い直した。明日からは、この五月病も吹き飛ぶことだろう。

 一方、白雪の服の乱れを直しつつスタイルチェックしたかった紅葉は、
(「着痩せするタイプと見たが‥‥チェック出来なかったか」)
 白雪がさっさとマモルの元へ行った為、叶わず。
 しょんぼりする着ぐるみ埴輪。
「おおお! 埴輪!」
 しかし三郎は巨大埴輪を見て大興奮。
 そんな三郎の前で、紅葉は着ぐるみを脱いだ‥‥中から現れたのは、豊満な胸に括れた腰を持つ魅力的な女性、藤堂紅葉。
「埴輪より魅力的だろう?」
 と、胸元を肌蹴て魅力アピール。
 だが中の人を見た三郎は「なんだ‥埴輪じゃないのか‥」と急激に興味を失った。
「放置プレイなんて冷たい‥でも‥もっと‥」
 背を向けて去っていく三郎を見て、またスイッチ入っちゃう紅葉だった。

 しかし、三郎は思う。
(「あの人‥少し元カノに似ていた」)
 特に括れた腰が、あの凹凸が。
 胸がキュンと締め付けられる三郎。
 三郎の元カノ=土偶であるのだが、そんなこと知る由もない紅葉である。


 そして移動艇が到着した。
「ついつい盛り上がってしまったな。また何か埴輪‥‥嫁達がピンチになったら呼んでくれ。いつでも手助けするぞ」
 埴輪伝道師のアルトも去っていく‥‥思い返せば三郎がこうなった原因は彼にもあるような気がしたが、それも運命の悪戯だ。
 ――三郎とマモルは彼らに感謝し、遠くなる移動艇を見送っていた‥。