●リプレイ本文
●一枚の紙
岩崎朋(
gb1861)と都築俊哉(
gb1948)は、偶然通りがかった店に貼り出してあるチラシを見て足を止めた。
「へぇ‥‥名前を書いて出せば当たるんだ〜トシ? あんたも書いて送りなさいよ。もし当たったらあたしが行くわ☆」
朋が軽い気持ちでそう言い、二人で出した応募用紙‥‥その時はまさか、二人とも当選するとは思わなかったのだ。
(「ん〜まさか朋の奴とたまたま出した奴が両方当たるとはな‥‥何か気持ち悪いくらいだぜ‥‥」)
何かあるんじゃないかないかと勘ぐりたくなる俊哉だったが。
―――実はドッキリでした!
ということも無く、当選者達は無事に旅行当日を迎えたのだった。
●一日目
本日はまさにリゾート日和。
抜けるような青空広がるフィリピンの小島に、強運の能力者達が集結していた。
目の前には、白く輝く砂浜、そして透き通るエメラルドグリーンの海‥‥
移動中にお互いの自己紹介を済ませ、荷物も置き、着替えも終え、リゾートを楽しむ準備は万全。
(「南国リゾート‥‥夢ではないのですね」)
まさか当たるとは思っていなかった大曽根櫻(
ga0005)は、以前依頼で購入したという布地の少ないビキニを着用してビーチへとやって来た。
スクール水着は危険だと言われたらしい‥‥しかし、表面積の少ない水着の方が遥かに危険だということに、彼女は気づいているのだろうか。
そして、黒色のフロント&サイドカットホルターネックワンピハイレグの水着に、サングラスをつけたリディス(
ga0022)の姿。 隣には、ホルターのキャミ&スカートという水着の水上・未早(
ga0049)が。長く伸ばした髪を、可愛らしくポニーテールにしている。
「未早さんとご一緒できるとは思いませんでした。ささやかな幸運、楽しみましょうか」
「幸運‥‥そうですね、まさか同じ部隊から二人も当選者が出るなんて」
二人は、同じ部隊に所属する、隊長・副隊長という関係のようだ。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)も又、当選には驚きと喜び半々で。 恋人と一緒では無いことは残念ではあるが、一人羽を伸ばすのもたまには良いだろう。
(「さて、巡ってきた折角の幸運‥‥存分に楽しませてもらおうか」)
彼は日ごろ溜まった疲れを吹き飛ばすために、持参した水着でゆっくり遊泳をはじめるのだった。
「‥‥ん。フィリピン料理。初めて。沢山食べる」
小柄な体に色素の薄い髪と肌。ワンピースに麦藁帽子の姿でビーチを歩くのは最上 憐 (
gb0002)だ。
「‥‥ん。フィリピンのビーチ。どんな食べ物あるかな。端から順に。制覇して行く」
ビーチ沿いに立ち並ぶ露店やカフェに顔を出しては、次々に注文を出して胃袋の中へ。
そんな能力者達以外の観光客も結構な数の白砂のビーチ。
パレオ付きとはいえ結構際どい、大人なビキニを身に着けた朋がボールを持って砂浜を駆けた。
俊哉に荷物番をまかせ、まずは健康的に遊びたいよね☆ということで同じ年頃の女の子を捜す。
「あっ、櫻ちゃん発見〜☆」
「朋さん? まぁ、そのボールは何でしょう」
「ん、ちょっとビーチバレーでもと思って☆ 櫻ちゃん、今日は随分色っぽい水着ね」
「はい、スクール水着は危険だと皆から言われましたので‥‥え、あ、あの、朋さん?」
急に胸をツンツンと突付かれ、いくら相手が同性の朋とはいえ、櫻は赤面しながら慌てた。「どうしたらそこまで大きくなるの〜?」と尋ねる朋も大きな部類に入るのだが。覚醒したら張り合えるかな〜と思いつつ。
「ん、ごめんごめん☆ バレーは2対2でやりたいし、他の女の子も誘いましょ?」
ビーチパラソルの下には、ビーチチェアに体を預けたリディスと未早。
「そういえば彼とはどの辺りまで?」
「え、どの辺り‥‥なんて、リディスさん、何ですかその表情っ」
僅かに頬を紅潮させている未早をリディスは微笑ましく見守りつつ、「もっと詳しく聞かせてもらいたいですね」と大人な表情で困らせる。
そこへ、ボールを持った朋がやってきた。
「未早さんにリディスさんも、良かったらビーチバレーやりましょ☆」
「ビーチバレーですか、私は今日はのんびり日光浴を‥‥リディスさん?」
リディスは何故か未早を送りだすように、手をひらひらと振っている。
「私は未早さんの水着姿を写真に収めておきませんと。彼氏さんにお土産も必要ですものね」
白砂のビーチでビーチバレーをする未早―――良い写真が撮れそうだ。
斯くして未早がメンバーに加わった。
露店で食べつくし、次は海産物に目標を移して水着に着替えた憐もまた、櫻に誘われ加わっている。「運動した後のお食事は、より美味しいですよ?」と説得されたらしい。
「じゃあチームは私と未早さん、櫻ちゃんと憐さんでOKかな?さあはじめましょ〜☆」
朋のサービスで始まったビーチバレー。
櫻がレシーブすると、ボヨンと浮き上がるボールと一緒に彼女の白餅のような乳房もぶるんと揺れて、つい足を止めてしまう男達も居た。そのせいで胸元を気にする櫻だった。
「朋のやつも強引だなぁ」
勧誘は多少強引だったとはいえ、楽しそうに遊ぶ女性陣。その様子を眺めていると、俊哉の表情も自然と緩む。それぞれ魅力的な特徴をもった女性達が4人も集まっているのだ、仕方ない。
(「‥‥おっと、朋が睨んでる。自重自重‥‥」)
鋭い視線を感じ、俊哉は苦笑した。
ホアキンが遊泳から浜へ戻ると、ビーチの一角に男の人垣が出来ていた。彼らの視線の先では、女性達がビーチバレーをしている。
(「なるほどね‥‥、その楽しみ方も否定はしないが」)
自分はやはり、この島の魅力を存分に堪能したいところだ。
ホアキンは貸しボートの店からボートを借りると、アイランド・ピクニックへ。いくつの島々を回れるだろうか?
「人魚の島‥‥できれば行ってみたいものだな」
「ふ〜結構疲れたわね」
2セット試合をして引き分けとなったビーチバレー。たっぷり楽しんだ後、朋は俊哉の元へ。
「ちょっとゆっくりしましょ。ね〜トシ、サンオイル塗って?」
‥‥と俊哉に言う朋。彼の困った顔を見たくて仕方ないらしい。
「ああ、いいよ」
しかし、俊哉は意外にもあっさり引き受けた。
「え、ちょっと、トシ〜!?」
「何だ? 紐、外さないと綺麗に塗れないぞ」
いつもと違い何の抵抗も無く肌に触れられ、慌てるのは朋の方だった。いくら幼馴染で長い付き合いとはいえ、大胆に触られると妙に意識してしまって落ち着かない。
「初めてじゃないだろう。何今更慌ててるんだ?」
その整った顔に、やや勝ち誇った笑みを湛える俊哉。
『相手の困った顔を見たい』対決は、俊哉に軍配が上がった。
その後、俊哉と朋の二人はボートで小島巡りを楽しみ、リディスと未早は、再びゆったりと日光浴。
櫻と憐は、シュノーケリングの道具を借りて海へ潜ろうとしていた。
「‥‥ん。フィリピンの海。何が獲れるかな。マグロとか獲れるかな」
「あの、憐さん、海のお魚さんは苛めてはいけませんよ?」
ボートでダイビングポイントへと移動したホアキンは、インストラクターからレクチャーを受け、海へダイブする。
ライセンスが無くても気軽に楽しめるダイビングは、水深も約12mまで潜行可能だ。
ラグーンへと潜ったホアキンは、珊瑚を見ながら、色とりどりの魚を観察し、餌付けも試した。
魚と戯れる‥‥というのは、まさにこのことだろうか。
(「‥‥ふー。 癒されるな‥‥」)
体を包む海水の心地よさ、そして美しい魚達と珊瑚礁。
それらは疲れた体にとって、最高の癒しとなるのだった。
●ホテルで
ホテルへと戻った憐は、早速ホテルのレストランへと足を運ぶ。
そう、彼女の目的は食べること。すぐさまメニューを眺め、そこで気になる料理を発見した。
「‥‥ん。カレカレ。‥‥カレーに似てる」
カレカレはフィリピン料理だ。そして、名前が彼女の大好きなカレーに似ている。
やがて運ばれてきたカレカレは、見た目はカレーにそっくりで、実際は肉や野菜をピーナッツソースで煮込んだ料理である。
「‥‥ん。カレカレ。おかわり」
味はまったくカレーとは異なるが、憐は気に入ったらしい。他の料理も口に運びつつ、とにかくカレカレを注文。
「‥‥ん。カレカレも飲める。やっぱりカレーの親戚かも」
煮汁までも飲みほしつつ、次々と皿を空っぽにしていった。
「憐さん、お隣よろしいですか?」
櫻が、憐の隣に腰を下ろす。「夕食はみなさんで賑やかに頂きませんか?」という櫻の提案で、他の当選者達も誘い合って来ていた。
賑やかになるレストラン。
「シニガンみたいな汁物って、お米を浸して食べるんですよね?」
「そのようですね。まず汁を御飯にかけて、そこに具をとって混ぜて食べるようですよ」
リディスと未早は、魚を具としたシニガンを食す。スープは酸味がきいていた。
「俺はラプラプと‥‥チキンパンダンを頂こう」
ホアキンが注文した料理は、フィリピンの高級魚、ラプラプのスチーム。ハタの仲間の白身魚だ。
「‥‥ほう、これはなかなか美味しいな」
と、ホアキンを唸らせたのはチキンパンダン。鶏肉を葉で包んで焼いたものだが、葉の風味が上手く鶏肉に移り、旨みを増していた。
「ホアキンさんのも美味しそうだな、俺はアドボ‥‥何だろう?」
俊哉の注文したアドボが運ばれてきた。
「お肉っぽいわね〜」
横から朋が覗き見る。アドボは肉を甘く煮た料理らしい、ニンニクの良い香りがする。
「私はビコール・エクスプレスよ☆‥‥ん、ちょっと辛い?カレーに似てるわ」
「‥‥ん。カレー‥‥」
朋の言葉に、黙々と肉料理を食べていた憐が反応した。
「‥‥ん。これ。おかわり。どんどん持って来て」
そして憐も注文する。カレーに似ているというその味が楽しみだ。
「この鶏のスープ、パパイヤも入ってますよ?」
ティノーラを頂きながら、櫻も料理の感想を言い合う。
「変わってるわね、私もたべてみようかな」
大勢で囲む食卓は、やはり楽しいものだった。
「‥‥ん。そろそろ。寝る。明日の為に寝る。おやすみ」
食事も終わり、人一倍‥‥いや、もう何倍も食べている憐は、明日に備えて眠りにつく。
櫻はエステを体験する施設へ。
「服を脱いで‥‥寝ればいいのですか?」
女同士だからと、櫻は躊躇いを捨て衣服を脱ぎうつ伏せになる。
やがて心地よいアロマの香りが漂い、女性の手が櫻の体をマッサージし始めた。心に活力が吹き込まれていくようだ。
(「‥‥すごく心地良いです」)
危うくそのまま眠りに誘われそうな感覚。
櫻はエステというものを堪能すると、次はスパへ、花風呂へ‥‥と、体を癒していった。
「やはり勝負事は欠かせませんよね?」
リディスは部屋へと戻る途中、隣を歩く未早に話かける。
「リディスさん?な、なんですか、急に」
「‥‥行くぞ未早、カジノが私を呼んでいる‥‥!」
ホテルにカジノがある事を知り、リディスは覚醒していた‥‥そう、彼女は勝負事となると覚醒するのだ。綺麗な白銀の髪が見事な漆黒へと変わり、口調も普段の丁寧さはどこへやら。
「リディスさん、おさえてっ。ほら、みんなに変な目で見られてますから!」
「止めても無駄だぞ未早、このたぎる血はどうにも出来ん。どうせだから未早も一緒にやれ」
「ええっ!私もですかぁ〜!?」
―――こうして二人はカジノで勝負に興じることとなった。
「さて、ひと勝負と行こう。勝っても負けても悔いはなしっと」
部屋でワインを軽く引っ掛けたホアキンもカジノへと。
「‥‥向こうは随分、熱い勝負をしているな」
そこで見つけたリディスの姿‥‥意外な一面だ。
ホアキンはそれほど賭けに熱くなるわけではなく、手ごろな遊び感覚でスロットを回す。
その3名の勝負の行方であるが、どうやらお土産を買ってもお釣りが来るくらいには『勝った』ようだった。
「ねぇトシ、明日は何処に行こっか?」
姉弟同然のように育ってきた俊哉と朋は、ホテルでの部屋も同室。
「学園の皆にお土産を買わないとな」
そんな他愛も無い会話を交わしつつ、眠りにつく。
二人とも気になるお年頃。俊哉だって最近は、朋の体が魅力的になってきて流石に困ることもあるようだ。
だが存在が近すぎて、二人ともなかなか一歩を踏み出せないのかもしれなかった。
●二日目
フィリピン旅行最終日‥‥この日もほぼ自由行動である。
(「‥‥ん。見た事無い。食べ物。沢山」)
憐は早速、商店街・露店を回る。そこには鮮やかな色のフルーツの山。
「‥‥ん。あっちのと。むこうのと。そっちの。全部大盛りで欲しい」
ビーチの時と同じように、端から順にフルーツを制覇している。
「え、品切れですか?」
同じく美味しいフルーツを味わおうと、露店を回っていた櫻だったが。憐の通った後は何も残っていなかった。
「あ、櫻ちゃんお土産買った?」
「いえ、これからです。朋さんは?」
「今見てるところよ☆」
朋と、大荷物を持った俊哉もやってきた。
(「このネックレス、朋に似合いそうだな」)
そんな慌しい中でも、俊哉はアクセサリーを見つけて購入する。
(「これは後で朋に、サプライズであげよう」)
スペイン文化が色濃く残る街並みで、ホアキンもまた南国のフルーツを食べ歩く。値段交渉もお手の物だ。
「兵舎の家庭菜園で育てられるものとか、何かあるかな?」
そこで勧められたダランダンとカラマンシーを購入する。菜園で育ててジュースにするのもいいだろう。
もちろんお土産に、ドライマンゴーとワインを買うことも忘れない。
皆が買物を楽しむ中、リディスと未早は今回最大の目的地、『スミロン・マリンサンクチュアリ』へとやってきていた。その珊瑚庭園の美しさとドロップオフの見事さは、類稀である。
二人はスキューバダイビングで、その美しい海の中へと潜る。
(「本当に、美しい‥‥。心が洗われるとはこのことでしょうか」)
リディスは妹の為にと、美しい珊瑚と多種多彩な海洋生物を水中カメラに収めてゆく。
(「これが‥‥なんて見事なドロップオフでしょう」)
浅瀬から急に深くなる、海中の断崖絶壁。未早もそれを目の当たりにして感動する。
「どれほど疲れ果てていても、世界はこんなにも美しい。また一つ、守る理由ができましたね?」
一度海面へと浮かびあがり、二人は感動を伝え合った。
「ええ、リディスさん。守りましょう、絶対に」
「頼りにしていますよ、副隊長」
勿論未早さんも守りますよ、と添えて。
二人は美しい海の中で、この世界を守ることを誓うのだった。
こうして、能力者達はフィリピンの小さな島で、短いながらも幸福な時間を過ごした。
彼らは又、戦いの中に身を投じるだろう。
しかし、傷つき疲れたら思い出してほしい。
世界はまだ美しい姿を残し、貴方達を癒すこともできるのだと。