●リプレイ本文
●珍キメラ
店員や観光客らが皆避難したタイの露店街。
『ドリアン』型キメラが暴れるという異様な光景に、能力者らは目を奪われた。
「ドリアン頭の白タイツ‥って、変態じゃないんですか?」
と、柊 沙雪(
gb4452)は首を傾げる――残念だが、変態ではなくキメラだ。
「ドリアンキメラ‥!? こんな街中に‥キメラが出る‥なんて‥‥。早く倒して食べ‥じゃなく‥‥安全を確保しないと‥」
唾、ではなく息を飲み、幡多野 克(
ga0444)が呟く。視線の先にはトゲトゲしい頭部。実に美味しそう‥?
「食べたこと無いけど、すごい臭いなんだろう? うーん‥食べてみるべきか」
そしてエミル・アティット(
gb3948)も同じように、興味深げにキメラを眺め
「‥いや、食べてみるぜ!! ここで逃げたら女が廃るってもんだぜ!」
葛藤の末食べる気満々、目を爛々と輝かせる。
夢姫(
gb5094)はドリアンと聞き、頭装備で臭い対策をしていた。
「一応、フェイスマスクをしてきたんだけど‥。どれくらい臭うのかなぁ」
「割るとかなり臭うかな。 でもサクッと倒しちゃえば大丈夫っ!」
一度同型キメラと戦った事のあるレミィ・バートン(
gb2575)が苦笑しつつ答える。
そして、
「何故こうも変態キメラや変態強化人間ばかり会うのでしょう‥。とにかくさっさと倒して観光を楽しみましょうか‥」
レミィの隣で溜息をつく佐倉・咲江(
gb1946)も遭遇は二度目。変態吸引体質か?
そんな傭兵達の姿を見つけ、通報者の白石ルミコ(gz0171)が「お〜い」と手を振っていた。
「またドリアンキメラか。そしてまたるみちょんが関わっているのか!」
ドリアンとルミコを交互に確認し、驚く鯨井起太(
ga0984)。マンガだと主人公の周りで都合よく事件が起こる物だが、彼女も事件を自ら引き寄せてしまう体質なのだろうか‥‥と考えつつ、思わずジト目でルミコを見る。
『好きで関わってるんじゃないわよ!』と叫ぶルミコに、起太はやれやれと肩を竦め覚醒を遂げた。
賑やかさに多少心も落ち着き、ティム・ウェンライト(
gb4274)は笑みを浮かべ
「さっさと片付けてタイを満喫‥って不謹慎か。気を引き締めないと‥」
と、剣を持つ手に力を入れた。
頷き、隣に立つゲオルグ(
gb4165)はドリアンを見据え、謎のセリフを叫ぶ。
「そうです、気を引き締めて‥『我は果実王になる!』」
‥‥なってどうするの。
首を傾げるティムに、「言ってみたかっただけです」と頭を掻いて笑うゲオルグであった。
●殲滅開始
露店に被害が及ぶ前にと、能力者達は皆覚醒を遂げ殲滅に移る。
3体のドリアンキメラに対し、
A班:起太・咲江・エミル
B班:レミィ・沙雪・夢姫
C班:克・ゲオルグ・ティム
の3班に分かれ、キメラを追った。
『頭は割るな』は半ば暗黙の了解でもあったが、
「狙うのは首だよ、首! 頭は食べるんだからね。頼むよ? 頼むよ?」
と、他のメンバーに確り念を押す起太は、以前食べた王様の味に魅入られたよう。彼は真っ先にキメラを捕捉し狙撃眼と鋭角狙撃を発動、小銃の銃口をボディへと向ける――そしてキメラが能力者に気づいた時、起太の銃弾は既に放たれていた。
20発の銃弾が全て埋まり、拉げ、崩れるキメラの体。
「分かった! がんばるぜー!」
そして陽気に答えるエミルは瞬天速を発動し、一気にキメラの元へと移動。
「あたしのスピード、ついてこれるかぁ!!」
疾風脚を発動、まるで獣のようなしなやかさでジャンプし蹴りを放つ。避けれず転倒するキメラへ、さらにエミルはディガイアを振り下ろした。
引っ掻き攻撃により痛みでのたうち回るキメラは、我武者羅な反撃を繰り出す。しかしそれはエミルに掠り傷を作る程度。――そこへ、久しぶりにAU−KVを装着したという咲江が竜の鱗を発動、レイシールドを構えてエミルとキメラの間に割って入る。
「ドリアン挑戦する人のために頭は傷つけない‥‥」
キメラを押し返し、サパラを抜く咲江。竜の爪と竜の瞳を併せ、キメラの首に狙いを定め
「これで終わり‥」
渾身の力を込めて剣を横に凪いだ。
――ザクっという小気味良い音と共に、キメラの頭が宙に舞う‥‥そのまま重力に引かれ地面に墜落しそうなドリアン。しかし、地を蹴ったエミルが見事空中で頭をキャッチし、「げっとだぜ〜♪」と笑っていた。
「‥‥流石だね」
一瞬ヒヤリとしたが、起太は無傷のドリアンを見て安堵するのだった。
同時刻、B班は。
防刃グローブを両手に嵌め小さく息を吐くと、沙雪は思考を切り替えた。
そして露店を3人で進んでいくと、マンゴーに手を出そうとするキメラを発見。
「見つけたっ!」
AU−KVを纏うレミィが洋弓に矢を番え、沙雪と夢姫はキメラの前へと踊り出る。
距離が縮まる間に気づいたキメラは拳を突き出し、沙雪を狙った。
――しかし沙雪はサイドステップで軽々とかわし、カウンターの姿勢をとる。
「止まって見えます」
真紅の瞳でキメラの動きを見据え、二連撃と急所突きを発動。二刀小太刀でキメラの両足を深々と刺す。その一撃は貫通こそしなかったが、キメラの機動力を落とすには充分な物。
「チャンス!」
――動きを止めたキメラの胴に、竜の爪と竜の瞳で強化されたレミィの一撃が降り注いだ。まるで雨のように続けて何本もの矢が付き刺ささり、キメラの体がよろめく。
そこへ追撃を入れようと、夢姫が機械剣を振り上げた。
(「まだ臭くはないけれど‥‥どうして全身タイツなのかしら?」)
ちょっと気になる。そんな夢姫に生じる僅かな隙‥‥それを狙い、キメラは血を撒き散らしながらも、夢姫の脇腹に拳を繰り出した。
「‥‥っ」
僅かに奔る痛み。しかし夢姫は退かず、二連撃をキメラの胴に叩き込む。
その間に、沙雪は瞬天速を使いキメラの背後をとっていた。仕込み剣「雪影」に持ち替え、キメラの首を狙い一閃。
すると、首から離れたドリアン頭がふわりと浮いた。その頭は、グローブを嵌めた沙雪の手の中へしっかり収まる。
「ふぅ‥‥よかった‥」
一方、C班。
「逃さない‥‥」
克は先手必勝を発動、月詠と菖蒲を手にしてキメラへ肉薄する。射程内に捉えると、二段撃と流し斬りを駆使し胴を斬り捌いた。続いて繰り出されたキメラの反撃をバックステップで避けると、克の腕が露店の商品を崩す。
「‥誘導しよう」
ここは狭くて危険だと言う克の声に、ティムとゲオルグが同意した。
「さあ、狙うならこっちを狙いなさい!」
盾を構え、覚醒中の女性的な言葉でキメラを煽るティム。攻撃を盾で受けながら、キメラを少しづつ開けたところへ誘導していく。
誘導が成功すると、克とティムは二人でキメラに切りかかった。
「反撃はさせないわよ!」
一気に畳み込むという気合がティムの剣に乗り、キメラの体を切り裂いた。
そして‥‥不利を感じたキメラは本能的に逃走を試みるのだが、後ろに立ったゲオルグがそれを許さない。
「避けられるかな」
挑戦的に言うゲオルグ。その横を走り去ろうとする白タイツ‥‥しかし、竜の翼を使ったゲオルグに捕まってしまう。
「何処へ行く気だ」
ゲオルグはキメラの肩を小銃で殴打し、怯んだキメラに銃をつきつけ、零距離射撃を放った。
――肉が弾け飛ぶ。
克とティムの攻撃ですでに弱っていたキメラは、その銃撃が致命傷となり命を散らした。
「やったね‥」
ゲオルグが仕留めたキメラの首を、克は慎重に切り落とす‥‥ちょっと嬉しそう。
「やりましたね。しかし、股間はキメラも効くのか試したかったのですが‥‥」
その前に倒れてしまったと、残念そうにゲオルグは言った。見ると白タイツの股間は盛り上がっていないので、雌なのかもしれない。
「で、これを食べるのね‥‥」
「そうだけど‥‥?」
覚醒中のティムを見て、首を傾げる克であった。こんな女の子居たような、居なかったような。
ドリアン食べたい一心でティムの覚醒変化に気づかなかった克は、覚醒を解いたその体の変化に大層驚いたのでした。
ドリアン退治は無事終了。
今回は『頭は割るな』という鉄の掟により、無傷のドリアンを3つ揃えることに成功したのであった。
「白タイツがなければ変態でなくただのドリアンです。‥‥このドリアンはキメラの生首」
「うーん、生首って思うと余計にパスしたいねっ」
顔を見合わせる咲江とレミィ。
きっとこの後は試食会。どうなることやら。
●戦い終わり‥‥
「随分さくっとやっちゃったのね、やっぱりいつ見ても強いわ♪」
戦闘が終わると、やはり避難していたルミコがのこのことやってきた。
「ミルコさん、ドリアンに好かれてますよね‥。毎回毎回‥‥」
「ルミコよ! それに好かれてないし!」
咲江の言葉に思わずルミコがつっこんでいると、
「さてと、早速『いただきます』をしようか」
その間に起太は着々と準備をしていた。
手にはナイフ、そして軍手――早速慣れた手つきで躊躇い無くドリアンの皮を切り込む。
そしてこの作業を、熱い眼差しで眺める克の姿。
「これが‥相馬さんお勧めの‥ドリアンキメラ‥‥。ずっと‥食べてみたかった‥‥」
ゴクリと唾を飲む。しかし、その爛々と輝く瞳は放たれた悪臭によって少し曇った。
「臭い‥すごいね‥‥」
「うっ‥‥流石はバグアの生態兵器ですね‥‥」
思わず鼻と口を片手で覆う沙雪。
風に乗るドリアンの残念な臭いは、一般的に玉ねぎが腐ったのとかガスだとか下水とか言われている。どう形容しようと『悪臭』には違いない。
「‥‥ぎにゃあぁぁっ!!? こ、攻撃的だ!! 攻撃的な食べ物だあぁぁっ!?」
「ぐ‥これが‥‥? 凄いにおい‥‥。ほ、本当に食べれるのか‥‥?」
エミルは鼻腔を刺激する臭いに思わず10メートル飛び退き、ティムすら滝のような汗を流し恐る恐るドリアンを眺めていた。
「あら、一度食べると病みつきになるのよ。ねぇ、オッキー」
「そうだよ、食べず嫌いは良くない」
鼻を摘みながらルミコが問うと、起太は頷く。ルミコは更にレミィと咲江をじーっと見ていた。
「あたしは今回のドリアンチャレンジはパスねっ」
「ドリアン挑戦、皆さん頑張ってください‥‥。骨は拾いますので‥‥」
ドリアンの匂いに顔色を変えながら、少しずつ後ろに下がっていくレミィ。そして咲江‥‥どうやら『病み付きになる』わけでもないようだ。
ということで、率先して食べるのはやはり起太である。
「いただきます!」
と、種を包む淡黄色の果肉をスプーンで掬った。
臭いは最悪。
しかし、口に広がると舌触りはクリームチーズ。味もチーズとカスタードを混ぜたような、実にねっとりとした濃厚な美味しさを醸し出すのである。
「これは‥‥口の中で展開される、まったりアンドねっとりなドリアンフェスティバル! 流石は果物の王様だね」
起太はまるで美食家のように、大げさに美味しさをアピールする‥‥しかし至福に満ちたその表情は、嘘は言ってない証拠。ルミコは「どこかのグルメリポーターみたい」と笑っていたが、『食べてみたい』と思わせる話術は確かにそれに似ている。
「本当?」
「ああ、味は絶品だよ」
首を傾げる夢姫に、ニッコリ答える。
「た‥‥食べてみようかなぁ。せっかくだしね」
最初の一口は目を瞑り、夢姫はえいっとドリアンを口に入れた。
――瞬間、目を見開き驚愕の表情に変わる。
「お、おいしいっ☆ あんな変態が、こんな美味しいなんてっ!」
「本当ですか‥? どれ‥‥」
夢姫とルミコ、そして起太があまりにも美味しそうに食べるので、眺めていたゲオルグも遂に手を伸ばし‥‥ぱくり。
「これがドリアンの味か‥‥果実王の名は伊達じゃないと‥‥」
臭いからは想像も付かぬ味に、ゲオルグは頬を綻ばせた。
そして最初匂いでくじけそうになっていた克も、一口食べて目の輝きを取り戻す。
「濃厚で‥クリーミーだね‥。独特な香りも‥クセになりそう‥‥。果物の王様っていうの‥分かるな‥」
いつのまにか、ペロリと食べてしまっていた。こうなってしまえば臭さも気にならない克である。
こうして男性陣が皆ドリアンを口にする中、一人躊躇っていたティムも
「くっ、俺も男だ!」
と、鼻を摘んで食べた。
「あ、あれ‥‥本当においしい」
意外な甘さに、ティムは思わず二口目も食べる。
「よしっあたしたちも食べようぜ!」
「う‥‥じゃあ一口だけね」
「‥レミりん、ファイト」
エミルに促され一口食べちゃったレミィに、エールを送る咲江。
こうしてドリアンチャレンジが続く中、一人頑なに拒む者がいる‥‥沙雪だ。
「君子危うきに近寄らず‥‥。生き抜くためには臆病さも必要だと思うのです」
余程臭いがこたえたらしい。
首を振り拒む沙雪に、果物の女王様・マンゴーをそっと差し出すルミコだった。
そして、移動艇到着までの短い時間、観光を行う能力者達。
「建築士さん? タイには、建築の勉強をしに? 寺院とか、カッコいいですもんねっ☆」
自己紹介を交わしつつ問いかけてくる純真な夢姫に、「そうよ」と目を逸らしつつ答えるルミコ。
そして、案内した先はやはりタイ料理店。
「タイは来たことなかったので楽しみなんですよ」
初めてだというゲオルグに、「安くて美味しい」と笑顔で答える。
「にゃふふ〜♪ やっぱり仕事の後は腹減るぜ〜」
「バミー美味しかったよ、タイの麺料理!」
つい目移りしちゃうエミルに、レミィはタイ料理を教えつつオススメを注文。
「ふぅん、タイってグルメのユートピアなのね。タイスキ、トムヤムクン、パッタイ‥‥迷っちゃうね」
夢姫はガイドブックも広げつつ、メニューと睨めっこ。トロピカルフルーツも美味しそうだ。
やがて、料理が次々と運ばれてくる。
皆でテーブルを囲み、談笑しつつ食事をすると戦いの傷も癒えるようだ。
「あ、おいしい‥」
ピリリときいた香辛料。
はじめて口にする本場のタイ料理に、思わず微笑みを浮かべる沙雪だった。
食事後は、咲江と夢姫のリクエストでマッサージ&エステ。「ZZZzz‥‥はっ、寝てませんよ?」と咲江が何時もの眠り姫っぷりを披露したり。
皆で陶磁器や民芸品のお土産を探し‥‥ティムが勧められた女物の民族衣装をそのまま着て、写真まで撮っちゃったり。
タイ舞踊を見て思わず踊っちゃう夢姫が居たり。
――駆け足で時間は過ぎていった。
帰り際、ルミコは皆にお土産を渡す。
一見ただのトリュフだが、どうやら食べてびっくり『唐辛子』入り。香辛料王国のタイらしいお土産だ。
そして、自分用のお土産に『ドリアン』を購入した克は、移動艇に乗り込もうとしてガックリと肩を落とした。
入口には――
『ドリアン持込禁止』
の、貼り紙。
しかも実際に存在する『ドリアン禁止』標識を意識したデザインだ。
誰が貼ったの‥‥と克は首を傾げつつ、タイにドリアンを残し移動艇は出発するのだった。