タイトル:アオザイの旅行者マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/17 12:22

●オープニング本文


 ベトナム中部、最後の王都・フエ――
 過去の繁栄を伝える様々な建造物は戦争で一部損傷を受けたものの復旧され、今ではバグアに攻撃されることも稀な比較的安全な地となっていた。

 そのフエの街には、連休を利用しLHからやってきたULTオペレーター、シャオラ・エンフィード(gz0169)の姿があった。
 『ベトナムといったらアオザイですよね』と言いつつ、水色の胸元に大きな華の刺繍が入ったアオザイを着込んでいるシャオラは、現地ではかえって目立っている。それもそのはず、アオザイはベトナムの民族衣装であるが正装として用いられる場合が多いので、普段着として着用している人は稀だ。
 しかしシャオラは気にする様子もない。アオザイを着て新しいアオザイをオーダーメイドしつつ観光をして帰るのが彼女の休暇の楽しみ方となっていた。

 『今回はここに足を伸ばしてみましょう』とシャオラが向かった先は、地底川と鍾乳洞が広がるフエよりさらに200km北の場所。
 戦争時には武器庫としても使われたというそこは、今では観光客も出入りできるほど整備されていた。

 その鍾乳洞へは河を船で渡らなければならない。
 しかし船着場を探し、シャオラがそこへ辿り着いた時‥‥何故か今から洞窟へ向かうという船は一艘も無かった。それだけではなく、辺りは騒然としている。
「あの、どうかしましたか?」
 状況が異常だと感じ、シャオラは渡し舟の船頭さんに尋ねる。
「キメラだ、鍾乳洞にコウモリ型のキメラが出たんだよ!」
「キメラ!? 怪我人の方はいらっしゃいませんか!?」
 シャオラが辺りを見回すと、洞窟から戻ってきたと思われる、怪我人を乗せた何艘もの船が船着場へと急いでいた。
 旅行者気分もどこへやら‥‥シャオラはULTに連絡を入れ、戻ってきた人々から状況を聞きながら傭兵の出撃を依頼するのだった。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
マクシミリアン(ga2943
29歳・♂・ST
夕風 悠(ga3948
23歳・♀・JG
シーヴ・王(ga5638
19歳・♀・AA
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
戸隠 いづな(gb4131
18歳・♀・GP
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP

●リプレイ本文

●鍾乳洞へ
 ベトナム中部、キメラの現れた鍾乳洞への移動手段は『船』しかない。
「川のぼりはさすがに手漕ぎじゃあキツイぞ‥‥」
 オールを握り、小舟を操船するはマクシミリアン(ga2943)だ。経験があり手馴れたものだが人数が人数。舟はゆっくり鍾乳洞へ向かう。
「こんなに必死にオールを漕ぐのは下っ端の時以来だぜ」
「がんばってください」
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)がエールを送る。
 その船上では、シーヴ・フェルセン(ga5638)が長靴に縄を巻いていた。船着場でシャオラ・エンフィード(gz0169)に渡されたものだ。
「観光地に住み着かれちゃ、地元も商売あがったりでありやがるだろう、です」
「本当、こんな所にまで出なくてもいいと思うんですけどね、やれやれです」
 シーヴの言葉に、夕風悠(ga3948)も縄を巻きつつ頷く。
 ‥‥そして視界が不意に暗くなった。
 舟が鍾乳洞内に突入したらしい。
「よーし着いた。アオザイと飯が待ってるからな。ちゃちゃっと終らせて帰ろう!」
「これからが本番ですね」
 マクシミリアンに礼を言い、大曽根櫻(ga0005)は黒髪を靡かせ岩場に足を下ろす。

 鍾乳洞内を進み、能力者らは覚醒を遂げる。
「足場安定しませんね‥‥転びそうです」
 と、戸隠 いづな(gb4131)は慎重に呼吸する。靴に包帯を巻いたとはいえ、気を抜くと危ない。
「大丈夫? 掴まっていいよっ」
 一方ライトを付けAU−KV姿で先頭を歩く橘川 海(gb4179)の足取りには安定感。同様にシーヴも、縄靴でしっかりと歩いていた。
「こっちは滑り止め、そこそこ効いてやがるみてぇですね」
「怪我しちゃ観光どころじゃないからな。慎重にいこーぜ」
 と、しんがりに控えたマクシミリアンが声をかける。

 暫く進むと、覚醒した能力者だから辛うじて聞き取れるほどの、僅かな羽音と鳴き声が聞こえ始めた。
「そろそろ近ぇみたいでありやがるです」
 コンユンクシオに手を添えるシーヴ。
 同時に、『探査の眼』を発動していた小笠原 恋(gb4844)がキメラの位置を感知し声を張り上げる。
「九時の方向から来ます!」
「来たのね!」
 恋の声に反応し、ナレイン・フェルド(ga0506)が奥を見据える。次第に大きくなるキメラの姿。
「ごめんね‥‥あなたはここに居てはいけないの」
 一瞬哀れみを宿す瞳。しかし仕留めるならば確実に‥‥一撃で。

 横幅3mの道に、前から
  A班:シーヴ、海
  B班:櫻、いづな
  C班:ナレイン、恋、ロゼア
 最後尾にはD班のマクシミリアンと悠が並ぶ陣形で、キメラを迎え討つべく能力者達は武器を構えた。

「出たよっ、皆、油断しないで!」
 凛とした悠の声が、洞窟内で反響し震えて響く。
 5匹のコウモリ型キメラは、前衛のシーヴと海を狙うように一斉に飛び込んできた。
 待ち構えるシーヴは冷静に両手剣を振り降ろし、ソニックブームを放つ。その衝撃波は一匹のキメラを捉え、羽を裂く――機動力を失ったコウモリは、急激に高度を下げた。
 降下するキメラを狙い、ロゼアの援護射撃がキメラの翼を蜂の巣にする。
「ナイス攻撃! 後は任せやがれ、です」
 シーヴはキメラに急所突き、流し斬りの連撃を繰り出した。刃はキメラの胴と頭を切り裂き、血液を噴出させたキメラはそのまま岩地へと落ちていく。
 隣では、海が棍棒でキメラに突きを放つ。手に馴染む武器は、洞窟の岩肌を傷つける事無く確実にキメラを捉えていた。
 やがて不利を感じたキメラが高く飛び上がる。
「逃さないからっ!」
 武器を超機械「00―5」に換え、竜の角を発動する海――電磁波がキメラを直撃する。
 そして、A班を抜けてきたキメラの攻撃を避けカウンターを繰り出すいづな。刹那と紅を抜刀し、二刀で攻める。
「此処で落ちてもらいます」
 地を蹴り、高く飛び上がる――その身軽さは流石忍者という所か。
 二段撃でキメラに斬りつけ、X字の傷を作ったキメラが叩き落された。
 そしていづなに叩き落されたキメラを、櫻が狙う。岩場を踏みしめ、落ちるキメラを狙い蛍火で一閃。二段撃を受け弱っていたキメラは翼を切り落とされ、数度もがきそのまま動かなくなった。
「まだきますか‥‥!」
 しかし別のキメラが櫻に攻撃をしようと頭上を飛ぶ。真上を通過するタイミングを狙い、一閃する櫻。
 一撃を受けながらも、キメラは更に後方を狙っていた。
「ペイント弾で敵をマーキングします」
 抜けてきたキメラを狙うはロゼア。弱くても侮ってはいけないと、真剣な表情だ。
 ペイント弾を放つと、キメラに鮮やかな色が付着する。
「助かります!」
 礼を述べ、恋はキメラを迎撃した。両手にイアリスを持ち、カウンターの二段撃を繰り出す。
 再び、飛び上がるキメラ。
 ナレインは追撃を試みたが、高い。流石に長身のナレインでも、靴に装備した刹那の爪が届く範囲ではなかった。
「飛行タイプって、相性悪いわね‥‥海ちゃん、ちょっと肩かして〜」
 海の「OK!」という返事を受け取り、彼女のAU−KVの肩を借りるナレイン。ジャンプして片手を着き、そこを支点にさらに高くへ飛び上がる――!
 ナレインの足先の爪がキメラの頭を捉え、刹那に瞬即撃を使い一撃で仕留めた。
 ‥‥そして最後の一匹が最後尾の二人を狙う。
 マクシミリアンが練成弱体を加え、レインボウに矢を番えた悠がキメラを見据えた。
「ここはお前達の住処じゃないんだからっ‥‥還りなさい!」
 強弾撃と急所突きを発動し、強力な一撃でキメラの胴を射た。二撃、三撃は翼を射抜く。
 体液を噴出すキメラに、マクシミリアンが超機械で追撃。二人の遠距離攻撃に、反撃も出来ぬままキメラは倒れた。

 こうして能力者達は、5匹のキメラ討伐に成功したのだった。


●フエを歩く
 船頭さんのように舟を漕ぐマクシミリアン‥‥その姿も様になって来た頃、無事に船着場へ到着する舟。
「皆さんご無事だったんですね!」
 舟から降りる能力者の姿を見て、手当てを終えたシャオラが駆け寄った。皆の傷の程度を見、練成治療を施す。
 そして生還を喜ぶ中、ふと思い出したように彼女は口を開いた。
「私観光と買物の途中だったんです。皆さんもアオザイの買物に行きませんか?」
「え、いいんですか? わぁ、ベトナムなんて初めてですっ」
 一瞬驚いたように目を開き、悠は嬉しそうに笑った。
 マクシミリアンは「俺は最初からそのつもりだったけどな」とニヤリと笑う‥‥確かにセリフの端々からそんな気配が。
「アオザイ‥‥かわいいですから早く着て買ってみたいです〜☆」
「そうね、美を追求する者として、一枚は持っていないとね〜」
 手をポンと合わせて喜ぶ櫻。ナレインもアオザイには興味津々である。
「お店、案内しますね」
「よろしくおねがいします、シャオラさん」
 恋が微笑む。
 キメラ退治を終えた能力者達は、そのまま旧王都フエの観光に突入するのだった。

 フエの街では、店先に並ぶアジアン雑貨や南国フルーツに目を奪われるシーヴ。
「生まれも育ちも北欧でありやがるですから、南国は珍しいモンばっかです」
「建物も凄いですよね」
 悠は古い寺院や帝陵跡を珍しそうに見上げていた。
 そして歩きながらもアオザイ話に花を咲かせる一行。
「アオザイってオーダーメイドなのかなっ? なんか採寸がすごくて、バストの間まで採寸されるらしいよっ?」
 アオザイに結構詳しい海が、ウキウキと皆に話題を振る。
「ええっ、そんなところまで‥‥」
 驚くロゼア。
 このメンバーは割と細身だったり、男だったり、普通サイズだったり‥‥チャンピオンはやはり櫻だろうか。
「谷間は遠慮したいです」
 ‥‥採寸の時だけ覚醒しようかと思ういづなだった。

 ――シャオラが案内した店は、数百種類のアオザイを着て記念撮影が出来る店。ほぼ新品で、気に入ったアオザイは購入することも出来る。
 マクシミリアンは一人男性用アオザイを前に、目を見開いた。
「おお、これが男性用か〜。ベトナムのおっさんなんてシャツと短パンばっかりなんでアオザイがあるとは思わなんだぜ」
 その中から特に目を引いた物――水色を基調に襟元から腰にかけて空色が差し、裾に向けて濃いグラデーションがかったアオザイを手に取る。生地と同じような色で、薄い操舵輪の模様も入っていた――よし、これだ。
 化粧もいらないので一人時間を持て余し、女性陣を待つ。
 そして女性用は種類も多く、選ぶだけでも目移りしてしまい一苦労だ。
「わ、一口にアオザイって言っても色々あるんだ‥‥」
 実に多彩な色。鏡の前で色々体に当ててみる悠だったが、その中でもシンプルなものを選び試着を繰り返す。
「私はこれにしましょう」
 ロゼアは薄紫色のシルクのアオザイを手に取った。ノースリーブで、セットのクワンも薄紫だ。
 着替えて待合室に行くと、マクシミリアンの拍手で迎えられ思わずビクっとなるロゼア。
「お〜、いいねぇいいねぇ。ほらほら、恥ずかしがらずに!」
「騒ぎすぎでやがる、です」
 すると、白いアオザイに身を包んだシーヴもやってきた。胸から足の方まで、花と葉が流れるような曲線を描くようにパステル色の糸で刺繍されている。
「わ、シーヴさんのも可愛いっ」
 続いて、悠は淡い黄色と白クワンのシンプルな物。袖は半袖、所々オレンジ色の糸で花模様が。
「どうですか?」
「よしよし、はいそこでクルッと一回転。うんうん、後姿もエエ感じやね」
 シーヴと悠を眺め、更に賞賛するマクシミリアン‥‥いやあこりゃ実に具合の良い依頼だわ。
 恋はシャオラやナレインと共に、お気に入りの一枚を探す。
「シャオラさん、私なら白とピンクと黄色、どれが似合うと思いますか?」
「そうですね‥‥ピンクとか可愛いと思います〜」
 恋の前で、シャオラはピンクのアオザイをあてがってみた。
「へぇ〜桜色のアオザイって、優しい雰囲気でいいわね♪」
「ナレインさんはどれですか?」
 ふふふと笑い、ナレインは試着室へ入る。その姿を楽しみにしつつ、恋も試着室へと向かった。
「海さんのは清楚な感じですね」
「有難う! 櫻さんは大人っぽいですよ」
 濃い赤の生地に白と紅の花刺繍入りアオザイを着る櫻と、胸に大きな古代蓮の刺繍がある白い正装用アオザイを選んだ海は、喋りながらいづなが出てくるのを待っている。
 暫くして、二人に選んでもらった濃い桃色アオザイ姿のいづながやってきた。胸の花刺繍は鮮やかで、クワンは黒。メリハリのある色だ。
「こ、これ似合ってますか?」
 いづなが控えめに訊ねると、「やっぱり似合ってる!」という満足そうな返事をする海。
 そして、着替えた恋とナレインも合流する。
 恋は長袖で薄ピンクの生地、左胸の辺りにカラフルな花刺繍入りアオザイ、クワンは白色。「うん、イメージ通りです♪」とシャオラも満足そう。
 ナレインのアオザイは胸元から裾にかけて薔薇と蔦の刺繍入り。袖口にもワンポイント。色は青を基調に紺や紫の糸を使っており、シースルー生地を重ねていた。下はシンプル白クワン。
「やっぱり薔薇模様が入ってないとね〜♪」
「わ、ナレインさん艶やかですね〜」
 鏡の前でクルリと一回転し満足げにポーズを取るナレイン、女性陣に溶け込み違和感がない‥‥流石だ。
 そしてスタジオでの記念撮影開始。
 華やかなアオザイ娘の中に居るマクシミリアンは、誰がどう見てもハーレム状態だったという。
「折角ですからこのまま街を歩きましょうね♪」
 その後は、アオザイ姿のまま街へ繰り出す一行であった。


 フエといえば宮廷料理もあるが、ここは一般的なベトナム料理を頂こう。
「ここが美味しい店ですか」
 ロゼアが店内を見回す。
「やはり、トムヤンクンでしょうかね〜?」
「それはタイじゃねぇですか」
「フォーがオススメですよっ」
 櫻の言葉にシーヴが答え、悠がフォーを注文する。そして互いのアオザイを見つつ楽しそうに話しこんだ。
 皆で囲むテーブルに、次々と料理が並べられる。
「あ、アレ美味しそう! それも!」
「取り分けますね」
 つい目移りしちゃういづなに、悠は料理の皿を差し出した。
 そしてマクシミリアンの前には牛肉のフォー、フルーツと氷のデザートが。
「やっぱりベトナムはこのあっさりだけどダシの効いてる辛いスープだよなあ」
 フォーを味わいつつ、「アオザイ美女と旨いメシ。実に素晴らしい」と頷く。
「おいしい〜! もっと濃い味付けなのかと思ってましたけど全然そんな事ないですね」
 同じようにフォーを口にし、驚きの声をあげる恋。フォーの味は様々だ。
「皆さんも食べてみてください」
「ありがとう〜いただくわ♪」
 恋お勧めのフォーを食べ、ナレインは頬を綻ばせた。
 ――そんな中、成長期で良く食べる筈の海が手を止める。
「ごちそうさまですか?」
 と、驚くシャオラに
「‥‥太るとアオザイって着られなくなるんだよね?」
 あははと笑い冷や汗を出しながら答える海。
「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ」
「うう、シャオラさん。また、太ったり、成長して着られなくなったらつきあってくれますかっ?」
「は、はい、喜んで‥‥!」
 余程アオザイが気に入ったのか目潤ませて縋る海に対し、思わず即答してしまうシャオラだった。
 安心した海は食事を平らげ、食後にはマクシミリアンお勧めのベトナムコーヒーが振舞われる。
「わ‥‥甘すぎです」
「これ飲んだこと無いの? コンデンスミルクで超甘いよ。俺はNGだけど」
「あれ、マクシミリアンさんはこれダメなんですか? おいしいのに‥‥」
 櫻が眉を顰め、マクシミリアンもNGなこのコーヒー、甘党の恋はへっちゃらでした。


 そして最後はお土産選びだろう。
 バイク用のブラウス型アオザイ探しに励む海の横で、シーヴはゆっくりと品物を眺めている。
「お揃いで何か‥‥むう、迷いやがるです」
 片方は恋人へのお土産にと。
 シーヴのアオザイ姿が土産になりそうなものだが、やはり別のものも欲しい。
「シャオラ、何か良いモンねぇですかね?」
「このアクセサリーはどうでしょう?」
 店に並ぶ、銀と天然石を使ったアクセサリー。
 シーヴは一対手に取ると、購入を決めたようだった。


 やがて移動艇の到着時刻となり、能力者はアオザイのまま乗り込む。
「シャオラちゃん、案内有難うね。楽しかったわ♪」
 そしてナレインが一輪のピンクの薔薇を出し、シャオラへと贈った。
「えっ‥‥有難うございます!」
「いつまでも、その優しい笑顔でいてね♪」
 シャオラは驚きつつも花を受け取り、その香りを楽しみ、ペコリとお辞儀をして礼を言う。
 そして何かを思い出し、全員に向けて手を振った‥‥別れの挨拶かと思いきや。
「すみません。忘れてました‥‥自分用の記念写真!」
 その手には使い捨てカメラ。

 ――出発前の慌しい時間に撮った写真はスタジオの物ほど美しくはなかったが、皆がより自然な笑顔を浮かべて、そこに映っていた。