タイトル:【ODNK】敵意マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/07 20:45

●オープニング本文


 芦屋と飯塚が墜ちた事を皮切りに、バグア勢力が拡大する北九州。
 大分県では能力者達の活躍により由布市が守られ、辛うじて人類圏を保った。が、福岡県京築広域圏と隣接する日田市と中津市、更に県北部は競合地域となりバグアと激しい攻防を繰り広げている。
 そして春日バグアの拠点でもある福岡県はその約8割の土地がバグア占領下、残る地域も何時占領されてしまうか分からない‥‥まさに鬩ぎ合う状態だった。



 福岡県行橋市‥‥バグア占領地と隣接した競合地域であるこの土地を、強化人間の女は気まぐれに襲う。
「こんな戦力では、基地一つ落とせません‥‥」
 溜息をついた。
 バグアの主力が西へと向かう中、女の手駒として与えられたものは対人キメラ――街や民家を襲うには充分であるが、傭兵らが駆けつければ易々と片付けられてしまう戦力だろう。

 だから強化人間の女も真面目に侵略などしてはいない。
 ――ボスの好きなやり方で、これだけのキメラでも楽しく戦えるように。
 女は考えを巡らせていた。


 やがて女は、占領地域から民間人を連れ出した。
 連れ出された青年、少年、そして女子高生は、助け出してくれないUPC軍や傭兵達への怒りを募らせた者達。

「キメラを放てば能力者が来るはず‥‥救いの手も伸ばさず、のうのうと暮らす彼らが憎いでしょう?」

 怒りの炎に油を注ぐように、女は口を歪めて笑いながら言う。
 ――そして若い男女らに、極めて殺傷能力の高いナイフを握らせた。

「だからあなた達も、私のキメラと一緒に暴れて頂戴。誰か一人でも傷つけることが出来たら‥‥私のような力が使えるように、頼んであげます」

 故郷をバグアに占領され、逃げることも叶わなかった人々の心に渦巻くは絶望。
 戦いは長引き、救いの手は伸ばされず‥‥

 こうして集められた若者は‥‥女の信頼性の全く無い言葉に、いとも簡単踊らされるのだった。


●UPC本部
 モニターに依頼が表示される。
 能力者を前に説明を始めたのは、男のオペレーターであった。

「福岡県行橋市にキメラが現れた。現場には取り残された一般人の姿もあるので、救助して欲しい。
 キメラの数は4体、保護して欲しい一般人は‥‥3人だ。キメラに囲まれている。
 4体のキメラは全て体長3m、虎のような形をしたキメラだ。牙と爪が非常に発達しているので、噛み付きと引っ掻きには気をつけて欲しい。
 ――以上。
 3人は非常に危険な状況だ‥‥すぐに救助に向かってくれ」

●参加者一覧

柚井 ソラ(ga0187
18歳・♂・JG
国谷 真彼(ga2331
34歳・♂・ST
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
田中 直人(gb2062
20歳・♂・HD
耀(gb2990
13歳・♀・GP
ふぁん(gb5174
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

●行橋市
 現場に到着した能力者達が目にした光景は、キメラに包囲されたまま身動きできぬ少年ら3人の姿であった。
「安全に救護できるよう、キメラはこっちで引きつけますね!」
 作戦を共にする仲間に、柚井 ソラ(ga0187)が声をかけ駆け出す。ソラはただ、助けたかった。恐怖の為に動くことも無い人々を。
 そして、アンチマテリアルライフルを携えるソード(ga6675)が狙撃に適した場所を絞る。
 二人は覚醒し隠密潜行を発動、キメラに気づかれぬよう、狙撃地点へと潜り込む。
(「‥‥何か嫌な予感がします」)
 ペイント弾を装填しつつ、キメラが人質をとっているようなこの状況に違和感を感じ始めるソードだった。

 そして、違和感を感じているのは、一人ではない。
(「なんでキメラは、人を襲わないんだろう‥?」)
 朧 幸乃(ga3078)だ。
 何等かの罠だという可能性も懸念する‥‥が、今は保護が優先だと、キメラを見据えた。
(「キメラが襲わず囲んでるだけ、となると‥‥罠か、囮でも取ったつもりなのか。‥‥どちらでもいい。彼らを救出する事に、変わりはない」)
 複雑な思いを秘め、耀(gb2990)は蛇剋に触れると、覚醒を遂げる。
 その中、カーラ・ルデリア(ga7022)が沈黙を破った。
「不自然な動き、不自然な生存者‥‥。罠か、裏切りか、どっちにしろ面白くない状況ね」


●救出開始
 傭兵達は
  狙撃班‥ソラ、ソード
  救護班‥国谷 真彼(ga2331)、田中 直人(gb2062
  対キメラ‥幸乃、カーラ、耀、ふぁん(gb5174
 の編成で、一般人の保護とキメラ殲滅を開始する。
 狙撃班が準備する間、真彼は皆の武器に練成強化を施した。

「それではソラさん始めましょうか。3‥‥2‥‥1‥‥開始」
 狙撃ポイントに身を隠したソードがソラに合図を送った。
 そして狙撃眼を使い、同時に放たれる銃撃――!
 腕の良いスナイパーにとって、一般人を囲み微動だにしないキメラなど『大きな的』でしか無かっただろう。
 銃に仕込まれたペイント弾はキメラの頭で炸裂し、同時にキメラは能力者らの存在を感知した。ただ、その視界は遮られている。
「今だ!」
 機を見計らっていたふぁんは、無線機をポケットへしまうとヴィアを片手に走る。
「地雷原に気張って突っ込むにゅ」
 カーラはイアリスを手に、そして同時に、前衛全員と救護班も動き始めた。
 練成弱体をキメラにかけた真彼は、直人と共に少年らの救助へとむかう。

 まず、間近にいる一体を全力で殲滅する為――幸乃が両手のルベウスを閃かせキメラの肉を抉る。喉を掻ききるように切り裂き、迫ってくるキメラの牙をその爪で受け止める。
 攻撃を弾き返した反動で幸乃がやや後退すると、連携をとりベルセルクを振り上げた耀がキメラへと飛び込んだ。
「あの人たちに攻撃は‥させません」
 急所突きを惜しみなく繰り出し、キメラを追い詰める。
 そして、カーラも攻撃に加わった。――集中攻撃を浴び、流石の巨体を誇るキメラも全身から体液を撒き散らす。もう無視の息だろう、反撃もままならない。
 だが、いくら視界を塞がれたとはいえ残る3体のキメラもじっとしてはいない。音と臭いを頼りに、能力者に狙いを定めて動き始めた――。

 そこへ、ロングスピアでキメラ群を牽制していた直人が『竜の咆哮』を攻撃に乗せる。
「近づかせるか!」
 身に纏ったAU−KVがスパークし、キメラは一般人から遠のくように吹き飛ばされた。
「これなら一般人とキメラとの間は安全圏だ」
 尤も近づいていたキメラが飛ばされたのを確認し、ふぁんはヴィアとガードを構え牽制攻撃を続けた。。
 ‥‥残るキメラには、駆けつけたソラが足元を狙い影撃ちを放つ。洋弓「アルファル」から放たれた矢はキメラ左前足を撃ちぬいた。
 ソードは武器をソニックヴォイス・ブラスターに替え、弱体化した一体を葬るべく『臨』の一字を唱えた。スピーカーから超音波衝撃が放たれ、ついに足を折るように倒れたキメラ‥‥そこへ、幸乃が止めの一閃を放つ。

 キメラが足止めをされているうちに、真彼はすぐさま少年らの元へ走った。
 少年に背中を向け、キメラとの間に入りパリィングダガーで攻撃を退ける。
「動けるかい?」
 手を差し伸べる‥‥そして、何かに気づいて動きを止めた。
 ――自分を見つめる少年の瞳が、とても見覚えのあるものだったからだ。
 その負の感情に犯された目は、過去、鏡の中で痛いほどに‥‥。
 そこへ、キメラを遠ざけた直人が駆け寄った。
「頼むから下がってくれ。お前たちがアレに殴られる前に逃げなきゃならん」
 話し掛け、少年らの様子に首を傾げる直人。
(「――怖がったり腰を抜かしているようには見えないが、何故動かない?」)
 二人が違和感を感じたとき、少年は自分の服の中を探った。
 そこから出てきたものは――煌くナイフだった。
「‥‥っ!?」
 ナイフの切っ先が、真彼が差し伸べた無防備な手を狙う。
 保護するべき対象からの、予期せぬ攻撃。バグアの手のものから渡されたそのナイフは、真彼の肌を切り裂いていた。
 ――だが、それは最初の一撃だけで終わる。
 初めこそ油断はしたが、ただ我武者羅にナイフを振り回すだけの少年の攻撃を避けるなど、能力者にとっては簡単なことだった。真彼はヒラリとかわしながら、キメラの居ない方へ少年を導いていく。
 そして直人は、少年に攻撃が及ばぬよう竜の咆哮を交えてキメラを突き放した。
 ‥‥やがて、少年の息があがり攻撃の手が止む。
「ここは、危険だ」
 掌から血が滴ろうとかまわず、そのまま固まってしまった少年を抱えあげる真彼。
 しかし、残された少女と青年もナイフをちらつかせ、能力者らを憎悪の瞳で見つめていた――。
『何故、今更助けに来るんだ!?』


●離反
「国谷さん!?」
 異変に気づき、ソラが攻撃の手を止めた。視線の先では、真彼が掌から血を流している‥‥一体、何が?
 少年に目を移すと、血の滴るナイフが握られている――カッと、身体が熱くなった。
 一瞬、大切な友達を傷つけたその少年に、怒りが込み上げてくる。しかし
(「‥俺は‥‥俺のやるべきことを、やらなきゃ。こらえて‥‥キメラを倒すことだけに、集中しなきゃ!!」)
 ソラは駆けつけたい気持ちを抑え、弓矢を番えた。せめてキメラが彼等に向かわないように、精一杯の攻撃を。
 そして幸乃は耀と共に二匹目の殲滅に移る。瞬天速でキメラとの間合いを詰め、挟み撃つように武器を振るった。
 憎悪を向けられようと――彼女らにとって、一般人は保護の対象だ。
(「‥‥皆を信じます。きっと大丈夫‥」)
 だから自分はキメラを絶対に止める。救助に向かった二人を信じ、耀は急所突きと瞬即撃を発動しベルセルクを叩き付けた。

「皆!」
 ソードが次々と九字を読む。その度に、衝撃にのた打つキメラ――苦しそうに口を開き、それでも間近にいるカーラを噛み付こうと狙う。
「食われるつもりはないよ〜ん。これでも食べてなさい!」
 そのキメラの大口に、急所突きを繰り出すカーラ。しかしキメラはその剣と腕ごと飲み込むように、噛み付きを繰り出した。剣を抜き身を引いたカーラの腕を、キメラの牙が傷つける。
 ふぁんがフリーとなっていたキメラの気を引き、ひたすら防御をして攻撃を凌いでいた。‥何かあった事には気づいたが、かまっている余裕はない。
 ガードの隙間から一般人の避難状況を確認し、彼等が安全な場所へ避難した時に反撃しようと力を溜める。


 直人は、この状況は仕組まれた罠だったのだと悟った。
(「‥いずれにせよ、一般人を守る、ってことに変わりはない」)
 少女と青年の刃が、直人に向かって振るわれる――その攻撃はAU−KVを傷つけるには至らなかった。そして、AU−KVに刃を突きたてた衝撃に耐えれず、二人の手からポロリとナイフが落ちる。
 ――瞬間、憎悪に歪んでいた二人の顔が絶望に彩られる。
「そんな顔するなよ‥‥な? 俺達は、お前達に、怪我なんかさせねえよ‥‥」
 直人の表情は見えなかったが――困ったように、笑っているのだろうか。攻撃を諦め、固まってしまった二人を抱えあげてキメラの攻撃範囲から離脱する。
 俺達は危害を加えない、絶対に守る‥‥その直人の思いは、少女と青年に通じたのだろうか。

『どうして、もっと早く来てくれなかったの?』
 真彼に抱えられながらも、少年は、彼を責めた。
 その手からはナイフは既に滑り落ち、もう攻撃する意思はないのだろう。
「遅れて、すまなかった」
 真彼は伝えた。ただ、まっすぐに。
 少年は目尻に涙を溜め、小さな嗚咽と共にそれを一粒零すのだった。


 皆が無事保護された事を確認し、ふぁんは攻撃へ転じる。
 そして‥‥傷を負いながらもキメラを打ち倒した皆が最後の一体を仕留めに走る。
 ――3mの身体が肉塊になるのも僅かな時間の事であった。

 能力者らがキメラの殲滅を終えた時、少年らは既に攻撃の意思を無くしていた。


●理由
「降伏すればこのまま助けてあげる。抵抗するなら‥‥」
 保護された一般人に詰め寄ろうとしたカーラを、幸乃は静かに静止した。
「だって、口を割らせる為に捕らえないと」
 カーラは当初から、この状況で3人が生き残っていることに不自然さを感じていた。
 救出のを見越した罠か、または、バグアを先導したのか。それ以外の理由で寝返りか。
「待ってくれ、彼等は保護する対象だ」
 ”捕らえる”という言葉に、少年らが脅えた‥それを見て、救助に向かった直人が庇う。彼らにもう攻撃の意思が無いことは、直人は良く知っていた。
 しかし、せめて刃を向けた理由くらいは聞かなければ、カーラも納得しないだろう。
「さて、聞かなきゃならない事が一杯あるやね〜♪」

 少年らは話した。
 自分達の故郷がバグアに占領されたというのに、いつまでたっても救いの手を伸ばしてくれないUPC軍や傭兵達を憎悪したのだと。
 そして、そんな時に。バグア側の人間だけが手を伸ばしてくれたのだと。
 ―そう、彼らにとって、バグアの占領地域からここへ連れ出した強化人間の女は、ある意味恩人なのだ。

 その話を聞いて、ソラは目を伏した。
(「俺は故郷も肉親も、まだ何も失っていないから、想像することしかできないけど‥‥」)
 真彼が傷つけられた時に湧いたどろどろした気持ち‥‥きっと彼らも、そんなどろどろとした気持ちが渦巻いていたのだろう。
 胸の中がぐるぐるとして、何も言えない。
 幸乃はただ、謝った。だが、彼らの中には迷いが見える‥‥憎悪にかられ、刃を向けた事に。
「人を刺す感触‥‥気持ち、よかったですか‥‥? 傷つけること、本当に望んでいるんですか‥‥? 次に傷つけるのは、知り合いかもしれませんよ‥‥」
 少女の瞳を見て、幸乃がそう訊ねると‥‥少女は首を振った。自分は人殺しがしたかったわけじゃないと、けれど、どこに怒りをぶつけたら良いか分からなかったと‥‥目から大粒の涙を零した。
 落ち着かせるように少女の頭を撫で、携帯品からチョコレートを取り出し微笑む幸乃。
 耀は覚醒を解き静かに彼女らを見た。極限状態に陥り、怒りの矛先がおかしな方向へ向かうのは仕方の無いことだろうか。
(「彼らのとった行動は正しくはない。しかし責める事はできない。でも、その心につけこんで、刃を握らせ、仕向けた者がいるなら。‥‥そいつを、赦せない」)
 項垂れる少年らを見てどこかで笑っているかもしれないバグア側の女に、耀は怒りを向ける。
 ――そして真彼は、少年の中に過去の自分をみつけて。
「すまなかった」
 もう一度、まっすぐな気持ちで謝った。
 自分はかつて‥‥幼馴染と妹を救える力があればと願った。でも力を持ってからの方が、救わなければならない人と救えない人が多くなったことに気付き、絶望した事もある。
 でもまっすぐに慕ってくれる子がいるから、今は、人を護る為に何度でも立ち上がろうと思う。
 だから‥‥彼らにも、今を乗り越えお互いを支えていけるような、強い精神を持って欲しいと願った。

 その様子を、ソードはどこか悲しげな表情で黙って見つめていた。
 謝りはしない。謝ってしまうと、今までやってきた事、今やっている事、そしてこれからやる事を否定してしまうような気がするからだ。
 そして、ふぁんは初めてキメラを迎え撃った高揚感を抑えつつ、黙って彼等の様子を眺めていた。


 ――こうしてキメラを殲滅し、一般人らを保護したが。
 彼等に帰る家は既に無く、逢わせる親類もなく、この競合地域に置いていくわけにもいかない。
「そのバグアはデータがなさそうやね。適当に口裏は合わせるから、証言してちょうだいな」
 カーラは軽そうにそう言うが、やはり一度然るべき場所で事情を聞かねばならぬだろう。

 彼等が全てを打ち明け、柵から解放された時‥‥帰るべき場所があるように。
 一刻も早くバグアを退けなければならないと、能力者達は思うのだった。