タイトル:EL NIDOマスター:水乃

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 58 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/04 19:59

●オープニング本文


「所長! 水上コテージが完成したって本当ですか!?」
 その日、とある建築設計事務所に勤める白石ルミコ(gz0171)は勢いよく所長室のドアを開けた――社会人であるならば普通ドアをノックする程度のマナーは身につけているはずなのだが、あまりの嬉しさにそれすら忘れてしまったらしい。
「ああ、これでこの島にも観光客をよべると住民の皆さんは喜んでいたよ」
 しかし顔を顰めるでもなく、所長はのほほんと答える。

 完成したという水上コテージ‥‥それは、ルミコが設計から内装まで手がけた建築物だった。
 やたらキメラに襲われているように見える彼女だが、本業は建築士。しっかり仕事もしている。

 コテージの建てられた場所は、約7000もの島々に彩れた国、フィリピン。
 パラワン島北部の海に浮かぶエルニド諸島の中の、小さな島だ。
 この美しい島々には幸いバグアの魔手が伸びることが無く、現在でも比較的安全なリゾート地として多くの旅行客を受け入れる場所となっていた。


 場所は変わってUPC本部。
「今回は、能力者の皆様に楽しんで頂ける内容の依頼です」
 いつものようにモニターの前で説明をするシャオラ・エンフィード(gz0169)であったが、今回はキメラが出たという類の依頼ではないらしい。
「フィリピンにある小さな島に、新しい水上コテージが完成しました。
 このコテージの設計者が以前LHの能力者の皆様にお世話になったことがあるらしく、一般に開放する前に『是非能力者の方々に使って欲しい』という事です。報酬はあまり出ませんが、その分旅費や宿泊費もかかりません。この機会に羽を伸ばされてはどうでしょう。
 ただし‥‥参加条件といいますか、守っていただきたいこともあります。
 コテージの作られたエルニド諸島では、自然を尊重したリゾートづくりが目標とされています。
 まず、持ち込んだ人工的なものは必ず持ち帰って下さい。軍から支給される飲み物の空き缶やペットボトルの放置は厳禁です。そして、島の自然を破壊するような行為ももちろん禁止されていますので、その点だけはご注意くださいね」

●参加者一覧

/ 藤田あやこ(ga0204) / 榊 兵衛(ga0388) / 鯨井昼寝(ga0488) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 皇 千糸(ga0843) / クラリッサ・メディスン(ga0853) / 新条 拓那(ga1294) / 斑鳩・眩(ga1433) / 須佐 武流(ga1461) / 鷹代 由稀(ga1601) / 鷹代 朋(ga1602) / 篠原 悠(ga1826) / 葵 宙華(ga4067) / 鳥飼夕貴(ga4123) / UNKNOWN(ga4276) / 冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859) / アルヴァイム(ga5051) / ラルス・フェルセン(ga5133) / 神森 静(ga5165) / 雑賀 幸輔(ga6073) / イリアス・ニーベルング(ga6358) / 夜木・幸(ga6426) / ハルトマン(ga6603) / クラリス・ミルズ(ga7278) / サヴィーネ=シュルツ(ga7445) / 八神零(ga7992) / 百地・悠季(ga8270) / レティ・クリムゾン(ga8679) / 瑞姫・イェーガー(ga9347) / 蓮角(ga9810) / 米本 剛(gb0843) / イスル・イェーガー(gb0925) / 武藤 煉(gb1042) / カララク(gb1394) / 朔月(gb1440) / HERMIT(gb1725) / 鮫島 流(gb1867) / 遠見 一夏(gb1872) / 御門 砕斗(gb1876) / 志烏 都色(gb2027) / 紫藤 望(gb2057) / 美環 響(gb2863) / 佐東 零(gb2895) / ひなた(gb3197) / 鷹代 アヤ(gb3437) / 堺・清四郎(gb3564) / アレックス(gb3735) / 澄野・絣(gb3855) / 水無月 春奈(gb4000) / 水無月 湧輝(gb4056) / アーサー・L・ミスリル(gb4072) / 橘川 海(gb4179) / 吾妻・コウ(gb4331) / トリシア・トールズソン(gb4346) / シルヴァ・E・ルイス(gb4503) / 御崎 栞(gb4689) / 小笠原 恋(gb4844) / ふぁん(gb5174

●リプレイ本文

●エルニドという楽園
 水上コテージのある小島では、依頼という名の休暇を楽しむ能力者の姿があった。

「これ、似合ってますか? ヒョウエが気に入ってくれると良いんですけれど」
 クラリッサは魅力的な身体にホルターネックのビキニを着け、兵衛の前で穏やかに微笑んだ。
 勿論だと頷く兵衛は、美しい婚約者の姿を堪能しつつも、童心に返り海を泳ぐ。
「‥何も考えずに、体を動かすのは良いモノだ。こういう時間を久しく忘れていたな」
 互いに忙しいベテラン傭兵の二人‥折角の機会だと、甘い時間を過ごす。

 この日の為に新調した水色ビキニを身に着け、悠は太陽のような笑顔をレティに向けた。運動は得意ではないけれど、大好きな人との幸せな時間。
「レティさん、あっち綺麗! ほら、早く!」
 小さな島を指し、泳ぎ出す悠を追いかけるレティ。‥いつの間にか追いついていて、悠はついていくのが精一杯だ。
(「やっぱりすごいな、レティさん」)
 ますます、惚れちゃったり。

 そしてオレンジのセパレートを恋人のアルヴァイムに披露する悠季は、若いながらも成熟した体型で。
「ふふん、似合うでしょ」
 小悪魔っぽく笑い、くるっと回ってみせた。
 二人で思いっきり水と戯れ、悠季二人の世界に浸る。
「後で帽子作りもしたいの、いい?」
「ああ、なんでも付き合うさ」
 アルヴァイムはバレンタインに付き合えなかったお詫びに‥と、悠季のやりたいように遊ばせている。それも幸せなひと時。

「ま、こういうリゾートっつったら海だよな」
 と、冷静なふりをする朋だが、「好評みたいだからまた着てきちゃった!」と黒ビキニを披露するアヤを見て照れくさそうな顔をする。
 連れ立って、水上バイクに乗り込む二人。そしてそのまま洞窟のあるラグーンへと向かって行く。
 ‥コウモリ飛び交う洞窟内では、終始朋にひっつき涙目になるアヤ‥。
「暗いのが怖いのか?」
「ひゃっ!? ‥だから、怖く、なんか、ないってぇ‥」
 確かに『怖い』とは言わないがバレバレである。朋は恋人の弱点を一つ手に入れた。

●魚観賞
 水色のAラインワンピースという水着で、千糸はシュノーケリングする。
「上手く言えないが‥その‥とても‥綺麗だ」
 初め照れた八神は千糸の水着姿を直視できなかったが、やがて赤面しつつ呟く。その率直な言葉に千糸も赤くなる‥初々しい事だ。
「これだけ綺麗な海だと、見ているだけでもなんだか満たされた気分になるわね」
 二人は水面を遊泳しながら魚を観賞し、自然を肌で感じていた。そして八神は水中カメラで、魚と戯れる千糸の姿を記念に残していく。

 宙華は幸輔に買わせたパレオ付の水色水着で海辺を歩く。
「しかし水着というのは落ち着かないな。武器が無いからか‥」
「武器はダメよ。それよりスキューバダイビングよね」
「せっかくの水着姿が見れなくなっちゃうじゃないか! シュノーケリングを推奨」
 ‥と言い合うカップル。どっちもやればいいじゃない、ということで、南国の綺麗な海中風景を二つの方法で堪能する。
 水の中、魚をつつき遊ぶ幸輔の姿を見、『はしゃぐ幸輔の笑顔が好き』‥と再認識する宙華だった。
 絶対口には出さないけどね。

 そして桟橋では、釣り糸を垂らす眩と隣で読書に耽る幸の姿。
「若いっていいなぁ。そう思わない幸?」
 眩の視線の先には、遊泳を楽しむカップルが。
 幸は頷き、そのまま本を閉じると眩にもたれ掛かる。
「眩‥釣りも良いけどコッチも構え、暇だ」
 彼女らもカップル、見てるだけでも飽きないけれど少しは困らせたい‥と、釣りに興じる眩の髪を幸は弄りだした。

●大人数で
「都色〜、溺れないようにね」
「大丈夫!」
 淡い緑色の緑にビキニにパレオを付け、都色が浜辺を走る。その後ろを、HERMITはのんびり歩いた‥釣りに行くために。
「あーっ、はっけーん!」
 手を振る都色に、つい見とれてしまうアーサー。
 そして水泳勝負という話題が上り、蓮角も参加する。
「こう見えても泳ぎには多少自信がありまして」
「まけないぞ!」
 スタートの掛け声と共に泳ぎ出す!

 ‥その横を、カヤックを漕ぐ響が通りがかる。向かう先は洞窟。
「どんなお宝が眠っているんですかね」
 本物の宝か。はたまた美しい景色か‥。
 最奥に到達すると光差す美しい場所があり、天然の滝つぼには虹がかかっていた。
「素敵ですね」
「ふふ、汝の魂に幸いあれ」
 ふぁんと共に、その美しい場所で優雅なティータイムを楽む響。
 お茶を終えると、ふぁんは洞窟の中の水場にダイブ。光る銛を見つけ、宝探し用に持ち帰る。
「あれ? あんなところに洞窟が?」
「寄ってみますか」
 そして帰り道、さらに洞窟を見つける二人。
 もしかしてバグアらしき遺体と機械や、秘密基地っぽいものを大発見できるかも! とドキドキしつつ突入するふぁんだったが。‥そんなことはなかったぜ。

 流、一夏、砕斗、望、アレックス、トリシアら6人グループは青春真っ只中。
 トリシアは白地に黒ストライプのビキニをアレックスに見せ、首を傾げ問いかける。この娘にしては精一杯の露出。恥ずかしいけど見て欲しいという微妙な乙女心満載だ。
「どう‥かな? 似合ってる?」
「こっちの水着にしたのか。‥‥可愛い、な」
 アレックスがトリシアの露出したおへそ辺りを触って誉めた。
 まずは大型のボートで波に揺られながら、絶景を巡る。まるで修学旅行のような楽しさだ。
「きゃっ」
 ボートが揺れ、一夏が流にきゅっとしがみつくと
「はは、しっかりつかまりや」
 と、流はあせって大阪弁である。
 そんな二人を面白がって、望はわざとボートを揺らし自分が海に転んだ。
「ったく、何やってんだお前は‥ほらよ」
 どこか保護者気分で手を貸す砕斗。「隙あり!」とばかりにその腕をひっぱる望。
 ‥結局二人仲良く海に落ちていた。
 何とかボートに乗り漕いで行くと、丁度絶景ポイントだ。目の前に美しい緑の木々と碧の海が広がる―!
「うー‥スゴすぎて言葉にできない感じ‥?」
 思わず砕斗の手を握り、手を震わせる望。
「そうだな、凄いな」
 はにかみながら頷き、砕斗は彼女の髪を撫でた。

●ダイブと悪戯
 エルニドの穏やかな海には30ものダイビングポイントがあると言う。
 昼寝は既にダイビング一択、海の大物を狙い碧の海へ。
 海中で昼寝が見たものは、エダサンゴに群がる様々な魚達。
(「ここは汚されていない‥」)
 バグアとの戦闘で海すら油にまみれる今、ここまで綺麗な海は貴重だろう。
 昼寝がさらに深く潜ると、その隣を、エイの群れが通り過ぎていった。

 水色パレオ付き水着姿の静も、少し浅い場所に潜り魚と戯れる。
(「すごい綺麗だわ」)
 水面上に顔を出すと、太陽の光がキラキラと反射して。
(「でも、日焼け止め塗ったのに、効果無さそうだわ‥」)
 楽しみつつも、お肌が気になる静だった。

 そして、絣と海は、少女を連れてエルニドにやってきた。「ダイビングならまかせて」という少女は、以前よりも活気がある。
「流石、うまいね!」
 少女を励ましつつ、更に深い場所へチャレンジする海。
 絣はそんな二人を微笑ましく見つめる。
 ‥しかし、二人を見ていると胸の大きさがちょっと気になってくる。
「絣さん、どうしたの?」
「いえ‥気にしないで下さい」
 微笑む絣だが、その手は胸の辺りを漂っていた。
「絣さんもちょっと細いだけで普通だってばっ! 悠季がばいーんばいーんすぎるのっ!」
 友人を引き合いに出し、フォローを入れる海‥‥そのやりとりを見て、少女は笑っていた。

 日本髪を結いゼラチンで固め、夕貴は海を遊泳する。
「気持ちいいっ」
 エルニドの波間に漂う日本髪‥泳ぎ疲れた夕貴は、そのまま浜辺で昼寝をした。
 そして海辺の木々にハンモックを渡し、その上にゴロリと転がるのはUNKNOWN。
 この南国でも黒のスラックスとベスト、白いカフスシャツ‥‥咥え煙草とダンディズムは忘れない。
 潮騒の歌をBGMに、時折カクテルに口を付けながら寛ぐ彼は、専門書を手に読書に耽る。
 ‥しかし知らず本を顔の上に被せて寝てしまっていた。

 そんな二人は、悪戯からかい勝負する都色とアーサーの的となる。
 悪突然擽られた夕貴なんか飛び起きたり、可愛い悪戯だった。
「よーし、あたしも♪」
 都色はUNKNOWNににじり寄り、そーっと手を伸ばす‥。
 ―しかしその手は、眠ったままのUNKNOWNの手に捉えられ。
「‥ん、おはよう」
「え?」
 引き寄せられ、都色は驚いたまま硬直した。
「‥待ったー!」
 都色の危機に駆けつけたアーサーが間に割り込む!
 しかしそのアーサーも、無意識に腕を伸ばしたUNKNOWNが捉える。
「‥まだまだ、だな」
「!?」
 冷や汗を垂らしながら飛びのくアーサー‥間一髪キスは免れたが、近寄るものを捉え眠ったまま半ば無意識にキスしようとするとは恐るべしUNKNOWNだ。

●空と森林
「えっと‥確かルミコだっけ?」
「そうよ?」
 武流に尋ねられ、ルミコはハングライダーの出来る場所を彼に教えた。
 島からボートで20分。
 辿り着いた場所は滑走に適した斜面もあり、程よい風もある。
「良い風だ‥空から見る島と海は‥きっといいものだろうな」
 確かに此処ならば。
 武流は上昇気流を捉え、滑走をする――5mも走るとふわりと体が浮き、眼下には美しい海。
 それはKVに搭乗し眺める景色とは全く異なる、安らかな自然であった。

 そして丁度お昼頃。
 休暇を利用したシャオラがエルニドに到着。泳ぐつもりも無いのでアオザイ姿だ。
 出迎えたナレインは、抱きつくような勢いで急接近。
「待ってたわ♪」
 ‥と、シャオラの両手をギュっと握る。歓迎を受け微笑むと、シャオラは「お誘い、有難うございます」と礼をした。
「荷物を置いたら、一緒に森へ行きましょ〜」
 そして、ひっぱられるように森へと向かう。
 エルニドの手付かずの自然の中を、ナレインと恋、そしてシャオラは歩いた。
 依頼以外ではLHの食堂くらいでしか顔をあわせたことの無い3人だが、会話は弾む。
「やっぱり木陰の中は涼しいですね」
「そうね〜、もっと暑いと思ったわ」
 長袖でも構わないくらいだ。恋の言葉にナレインは同意し、暫く歩くと小川のせせらぎが耳に届いた。
「マイナスイオンポイント発見♪」
 流れ出る透明な水に目を輝かせ、ナレインは靴を脱ぐと素足で飛び込み。恋とシャオラも続く。
「ん〜気持ち良いわねぇ〜」
「わ、冷たいですね〜」
「でも疲れがとれます」
 岩に腰掛け足を冷やし、仕事と戦いの疲れを癒す3人。
「私、フィリピンは初めてなんですけど、シャオラさんはどうですか?」
「前に一度依頼についていきましたよ、あの海も綺麗でしたけどここも良い所です」
「ほんと癒されるわ〜。ルミコちゃんにも感謝しなきゃね」

 ハルトマンは森林の中を素足で歩く。素足だとより大地とひとつになれる気がするから。
 太い樹木の幹に背をつけて大きく深呼吸。
(「マイナスイオンをばりばり吸収できるなんて贅沢の極みなのです」)
 ‥うん、気持ちいい。
 同じように森の中を、スケッチブック片手に歩く朔月は植物の観察に熱中していた。
「これは珍しい‥」
 ジャンボパレットを取り出し彩色するのかと思いきや、草木の間に目立たぬように隠し、次は遊歩道の散歩へと向かっていく。

「森や洞窟は日が落ちてからは危ないもんね。日の高いうちに楽しみましょ」
「済みません、由稀さん。私がこんな身体でなければ‥」
 由稀は恋人のイリアスと共に、森林を歩いた。色素欠乏の彼女を、労るように。
「私が生まれ育った所も、緑豊かだったんですよ」 
 陽が落ちた後ならば海も大丈夫ですと、イリアスははにかんだ。

●散歩
「折角来たんだ、ゆっくり外を見に行くのも良いものだぞ」
 カララクと冥姫は、普段外に出ない佐東零を捕まえ散策へ出る為に準備を始める。
「たまにはどうだ、な」
 優しい声色で近づき、まず冥姫が零の脇に手を入れ持ち上げるように捕獲。
(「‥うう。青い海、青い空、青い顔の自分‥」)
 捕獲され不機嫌そうな零は、少しワクワクしている自分の気持ちに気づかない。
 逃走防止の為カララクが肩車し、傍目から見るとまるで家族連れ‥冥姫はそれが嬉しい。
「ん、どうだ? そう悪くはないだろう」
 訊ねるカララク。零はコクンと頷いた。

 そして武藤煉は、サヴィーネ、ひなたと共に島巡りに。
「この辺りに、取ってもいいヤシの実はあるか?」
 スタッフに訊ね、煉はひなたの為にココナッツジュースを作る。
「美味しい‥煉も、どう?」
「俺は甘いの苦手だって」
 そしてサヴィーネにもヤシの実ジュースを渡した。
 甘い味と、綺麗な景色‥サヴィーネは煉の手をキュっと握り、呟いていた。
「いい島だ‥そうは思わないか?」
「ああ、そうだな」
 このままこの時間がずっと続きそうな、錯覚に陥りそうなくらい。
 と、煉達がアウトドアへ出かけた頃。
「やはり‥骨休めは必須ですよねぇ?」
 同じコテージに荷物を置いたタケシは、良い風の吹くテラスで転寝を始めた。

●寛ぐ
 そして、例え一人でもまったりすごせるのがエルニドの魅力である。

 桟橋に並ぶ水上コテージ。その出来映えに感動し、拓那はルミコを見つけそれを伝える。「ありがとーゆっくりしてね!」とルミコは手をヒラヒラさせて、作業へと戻っていった。
「うん‥ロケーションバッチリ。こういうところで本を紐解くってのも乙なもんだ♪」
 久々の一人旅を満喫しようと、拓那は本を紐解く。海に面したテラスではここの自然が一望出来、最高のロケーション。
 浜ではビーチパラソルの下、栞が読書を楽しんでいる。
(「こういうゆっくり流れる時間も嫌いではありません」)
 夜はゆっくり星をみましょう、そう心に留めて。

 ここでは釣りもすることが出来る。
 清四郎はタンクトップ姿で酒を片手に
「何も考えずただ釣り糸をたらし続ける‥我ながら老成してるぜ‥」
 と言うが、案外釣り仲間は多かった。
「釣れたらー、いいですねぇ〜」
 にこにこ、のほほんと釣りするラルス。
「ここ空いてますか?」
「どうぞ〜」
 人泳ぎし、蓮角は竿を手に釣りに参戦した。釣り糸を垂らして5分もせぬうちに、糸がピクリと揺れる。
「きたきたぁ!」
 リールを回し、魚との駆け引きに勝利した時、蓮角の手には銀色に輝く魚が。
「いよっしゃ! 魚ゲーット!!」
「おめでとうございます」
 春奈が微笑み、祝った。
 釣り場所を見つけ、準備を始める春奈は椅子に腰を降ろすと、ため息をつく。
「どうした? 春奈」
「‥何でついてきているのですか? 兄さん」
 南の島の休暇も良いかと思ったらなぜか居たアロハ姿の兄、湧輝に目を遣り少し困った顔をする。そういう年頃なのだ。
「同じ場所で、釣りポイントを聞けば同じところに行くことになるだろうよ」
 何食わぬ顔で釣り糸を垂らす湧輝。
「‥時に春奈よ。お前、彼氏ができたのか?」
「話をする必要もなさそうですが‥相手の返答待ちです‥」
「ふむ、そうか‥」
 やはり妹の恋路が心配なのだろうか。考え事をしながら湧輝は無言で釣りを続けた。
 そして、釣った魚をその場で捌き、腹に収める者も居る。
「やっぱり新鮮なのはおいし♪」
 ‥HERMITである。

●夕食前
 あやこは黒いビキニ姿で一人、大騒動に疲れ果てリセットしたくて参加したものの。 
「彼氏いないし全然自然じゃない」
 大自然が売り文句の場所だが、目に止まるのは別の物ばかり。
 泳ぐのをやめTシャツをひっかけ、浜辺を歩いていると良い匂いが漂ってきた。
「‥水を入れたときのジュワワッという様子が『アクアパッツァ=暴れる水』なんです。お皿に魚とあさりとスープを盛り付けパセリを飾ります。ハイ、出来上がり!」
 あやこの視線の先では、クラリスがまるでショーのように料理を作っていた。
 材料は釣りたての魚。
「釣りが好きなんですね」
 ワイルドな姿に惹かれ、あやこはクラリスに声をかける。
 クラリスは彼女は空腹だと勘違いしたようで。
「ああ。 ‥食べるか?」
 出来立ての料理を大胆に皿に盛るクラリスを見、「ああ、もう見てられない」と思わず盛り付けを手伝うあやこ。
 そこへ、取れたての魚を3枚におろした春奈がやってきた。
 クラリスの料理を覗き、「今度、うちでも作ってみましょうかねぇ」と良い匂いに目を細めた。

 この時間を利用し、砕斗と望はココナッツハットを作る。
 かなり歪‥いや、奇抜なデザインになった帽子を砕斗の頭に被せ、砕斗も望へと。
 それから互いに、バレンタインに渡しそびれたプレゼントも渡した。
 望からはチョコレートケーキ‥しかし溶けている。
「うちのハートもメロメロ? みたいな?」
 砕斗の目を直視できない望‥。
 望らしいと苦笑した砕斗が渡したものは、カンパネラ学園カーディガン。
「欲しがってたろ、お前‥」
 砕斗は、喜ぶ望にキスをして
「さ、さっさと行くぞ」
 すぐにそっぽを向いてしまった。照れてる、照れてる。

 コウは恋人のシルヴァと、コテージでチェスに興じる。他愛ない会話すら、楽しい。
 夕日が沈む時間になれば、二人でテラスに出て赤く染まる空を見た。
「綺麗な夕日ですね‥‥シルヴァさんに負けないくらい」
 微笑むコウ。 そして、嬉しくも戸惑うシルヴァが居た。
「私が‥か? よく、わからないな。だが‥こうしていると落ち着く。それは‥本当だよ‥」
 いつもはクールな表情を蕩けさせて、コウを見つめ返した。

 悠はレティの腕を取り寄り添ってビーチを散歩する。
「レティさん、一緒に来てくれてありがとうね」
「誘ってくれて嬉しいよ、悠」
 互いを見つめる瞳は優しく、笑顔で。日々の戦いを忘れ、夕日の沈む海を眺めた。

●夕食
 夕食時、由稀は兄カップルとばったり鉢合わせ、冷やかしながら夕食をとる。隣で、イリアスがペコリと会釈した。
「‥お前も今は冷やかされる立場だぞー‥言っても無駄な気もするが‥」
 やれやれと頭を掻く朋。隣ではアヤが笑っている。

「新鮮なーお魚ですからー、きっと、美味しいですよ〜」
「わ、こんなに釣れたのですか!」
 バーベキュー用にと大漁の魚をもってきたラルスのバケツを見、驚くハルトマン。
「旅の醍醐味としちゃあやっぱ食は欠かせないでしょ♪ まずは口から土地になじむべしって書いてあったし」
 と魚に齧り付く拓那‥美味い。これはフィリピン流のバーベキューだろうか。
 ダイビングで疲れた昼寝は「意外と口にあうわね」と、明日の為たっぷり栄養を摂る。
 やせの大食いの静かは人目も気にせずパクリ。
 野菜をメインに、こってりしないものをチョイスするのは栞。
「自然な甘みがしますね」
「いやあ、野菜も魚も美味しいですねぇ」
 皆で火を囲み、蓮角も自分で捕った魚を焼いた。
「おいしー、つい食べすぎちゃいそうな‥」
「ハミって美味しそうにたべるよね」
 都色の声に、苦笑するHERMIT。

「こら、肉ばかり食べるな、しっかりと野菜も食べろよ?」
 鋭い目つきだが実は世話上手な清四郎、次々運ばれる野菜と肉を焼きまくる。
「ありがとうございます。お礼に‥」
 響は食事中に自慢の奇術を披露した。
「どうなってるんですか!?」
「いつ見ても素敵ね〜」
 術を見て驚く恋とシャオラだったが、慣れているナレインだけは笑顔である。
「はい、ミズキ姉さん」
「ありがと、イスル君」
 同じテーブルを囲みつつ、ミズキとイスルもお腹を満たしていた。

 そんな夜の浜辺。
「どう、ですか‥?」
 パレオ付の白ビキニに着替えたイリアスが不安そうな上目遣いで由稀に問う。
「うん、とても可愛い!」
 黒ビキニの由稀は恋人をハグし、用意した花火を手渡した。
「夜の海は花火もありよね」

 こうして夕食を終えた後花火を楽しみ、海岸の掃除をすると各コテージへと戻る能力者達。

「LHでまた会いましょ♪」
「楽しかったです、有難うございました〜」
 誘ってくれたナレインと恋にペコリと頭を下げて、シャオラは一足先にLHへ帰っていった。

●そして、夜
 新鮮な魚介類に舌鼓を打ち、満足した幸輔と宙華がコテージへ入る。
「何でダブルベッドなの!?」
 宙華の悲鳴‥なんと幸輔がこっそりダブルに予約を変えていた。
「まー、しょうがない! ベッドはこれしかないんだからな!」
 ポンポンとベッドを叩きつつ、『来いよ』とポーズをとってみる幸輔。
 その後二人でベッドに沈んだか、幸輔の顔面が床に沈んだか‥‥二人にきいてみるといい。

 朋とアヤは部屋で寛ぐ。
「‥いかん、やっぱり飯作らなくていいと気が緩む」
「気、緩めていいんだよ? ね、今日はこっちでお話しよ?」
 ベッドに腰掛けて、アヤが呼んでいる。
 朋が隣にくると、アヤは甘えるように朋の肩に頭を乗せた。二人はそのまま、お喋りをする。
 やがて、アヤの声が途切れ途切れに小さくなっていく。
「アヤ?」
「‥‥」
 肩に乗った小さな頭‥朋が顔を覗くと、やはりアヤは瞼を閉じていた。
 朋はアヤの頭を優しく撫で、抱き上げて横たえると布団をかけてやる‥おやすみ、良い夢を。

 煉、サヴィーネ、ひなた、佐東、そしてカララク、冥姫、タケシは同じコテージだ。
 浜辺で花火を楽しみ、カララクがゴミを回収。この旅行、煉もしっかりゴミ袋を携帯している辺り、男性陣の性格が伺える。
『好きなのですよ。線香花火。綺麗で、儚くて』と、筆談しながら一人ぼんやり花火を眺める零も、表情には出ていないが楽しいらしい。
 花火が終わるとサヴィーネはひなたと、そして嫌がる佐東をなだめすかして入浴に向かった。

 皆が寝静まった頃。サヴィーネは煉を起こし、夜の浜辺を歩く。
「二人きりで歩くのも久しぶりだよな」
 煉の言葉。
 ――見上げた空には、無数の星が輝く。
「野営地でも、綺麗な星が見えることもあるんだが‥それは、哀しい光に見えた。だが、君と見る星は、暖かい‥」
 浜辺に腰を降ろし、サヴィーネは煉に寄り添い
「またいつか、こんな風に星を見られればいいな」
 愛しげに見つめ、そっと首に手を回して、‥唇を重ねた。

●眠る前に
「偶にはのんびりするのも良いよね」
 テラスで夜空を眺めながら、トリシアは満面の笑みで言う。
 アレックスは、トリシアの名を呼ぶと、首を傾げる彼女に綺麗な包みを渡した。
「トリシアが、どんな危険な依頼からも無事に帰って来られますように、って。お守りだ」
 ‥中には『バクトリング』。
 リングを手に取るトリシア‥またひとつ、手放せない大切な宝物が出来た。
「な、何か‥プロポーズみたいだ」
「ありがとう、アレックスだいすき!」
 トリシアは照れるアレックスに抱きつき、キスを落とす。
「おやすみのキスだよ」
「‥おやすみのキス!? ん‥」

 イリアスは枕を持って由稀のベッドへ。
「‥由稀さん‥その、ご一緒してもよろしいですか‥?」
 「いいわよ」と優しく迎える由稀。
 由稀と同じベッドに上がり、不安を孕んだ瞳で。
「私の全ては由稀さんのものです。血も肉も骨も髄も、霊も心も魂も。由稀さんが望むなら、私は―」
 イリアスは、由稀を繋ぎとめていたい‥と、彼女の胸にしな垂れかかった。

 次第に、夜が深くなる。
「手を繋いで眠ってもいいですか?」
 部屋の灯りを消し、コウが優しい声色で言った。
 シルヴァは返事する代わりに、そっとコウの手に自分の手を重ね。
 二人で眺めた空と夕日、ゆっくりとした時間を思い出す。
(「この記憶は、忘れたくない‥」)
 掌に温もりを感じたまま、シルヴァはゆっくりと瞳を閉じた。

 兵衛とクラリッサは酒を片手に話し込んでいた。
 依頼のことから、ほんの世間話まで。
『二人で過ごした時間、戦友として背中を許し合った時間は何物にも代え難い。だから、もっと彼女の事を知りたい』
『もっと彼の事が知りたい、自分の事を知って欲しい‥この愛する人と過ごし、笑い合っている時間を大切にしたい』
 互いに想い合い、大切さを確認する。
 やがて肌が触れ合った‥‥しかし、肌を重ねた温もりだけでは分からぬことも沢山あるのだと。
 エルニドの夜は教えてくれた。

●夜の浜辺は
 流は一夏の手を引き、海岸を歩いた。
 やがて一夏が腕を絡め、ゆっくりと星を見る。
「キレイだろ?」
 流からの貝殻のプレゼントを受け取り、微笑む一夏‥頬が、赤い。
 そして自分からもプレゼントを。
「バレンタインの時、渡せなかった、から‥」
 手作りの、トリュフチョコ。「ありがとな」と微笑む流が眩しく、一夏は深呼吸して意を決し、口を開いた。
「‥大好き、です。これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」
 そう言って、顔を真っ赤にして俯く。その肩を、そっと抱く流‥‥返事は、言わなくても分かるだろう。

 チョコをお供に、星の話に興じるのはアーサーと都色。
 アーサーは都色にジャケットをかけ、その雰囲気を心地よく感じ都色は自然と笑顔になる。
 そして、星を眺め‥
「すごく綺麗です‥見れてよかった」
「知ってる? こんな星の神話」
 星の乙女の話をしながら、アーサーは都色の横顔に見とれていた。
 そして二人でいる時間はとても楽しく、ずっと話していたいと思う。
(「アーサーさんも、そうだと良いな」)
 ‥そう思うのが果たして恋心なのか、都色は未だ気づかない。

 初めての旅行、このまま大人の階段上っちゃう? と、思いきや。八神と千糸、二人の部屋は別々だ。
 少し残念な気持ちはするけれど、花火の後、浜辺の散歩も‥雰囲気は、良い。
「静かね‥」
「戦争さえ無ければこの世界はこんなにも静かな世界なんだな‥」
 千糸の肩を抱き寄せて歩く八神。千糸はきっと、次のアプローチを待っている。
 やがて言葉が途切れ、波の音しか聞こえなくなった時‥背伸びした千糸が、唇を八神の唇に押し当て、
「‥次はあなたの方からしてくれると嬉しいかな」
 ‥触れるだけで離れてしまった。
 今度はそれを離すまい。八神は身を屈め、二人は再び唇を重ねた。

 そんな二人の姿を、家政婦‥ではなく、眩は見ていた。
「‥熱い熱い。カップルさん御幸せに」
 こっそり冷やかしながら、幸の待つコテージに戻る。そして二人海を眺めながら、酒を飲み交わす。
「まぁ‥たまにはこんなのもいいよね」
 酒が入った幸は、少し素直だ。眩に寄り添い、甘えた仕草を見せる。
 ドライカップルだと自覚する眩だが、そんな幸も勿論愛しい。
「束の間の休息と、愛しい人のぬくもり‥絵になるわね」
 眩がそう呟いた時‥幸の拳が炸裂する。
「嫌いではないけど、何かむず痒いんだよ‥」
 と、照れ隠しが凶暴な幸であった。

●酒の宴と
 コテージのデッキで、海と星空を色鉛筆でスケッチするラルスは、フィリピンの酒をお供にし夜の波音などを楽しんでいる。
「ここのバーは閉まるのが早いわ‥」
 そこへ、深いスリット入り黒ドレスの静がため息をつくのが見えた。
「のみませんか〜?」
 ラルスが静に声をかける。
 さらに仕事を終えたルミコまで寄ってきて、大人3人で注ぎあいながら飲み交わす。
「ほんと、美味しいお酒ねー。よく眠れそうだわ!」
「美味しいお酒とー、美しい景色。幸せですね〜」
 ほろ酔い気分で、絵もいい感じに描けそうですとラルスは微笑んだ。

 以前ルミコからもらった入浴剤で入浴し、ナレインは浴衣を着て外へ向かった。
「‥空はこんなに澄んでいる」
 例え、バグアに支配されようとも。守りたいと、そう思う。
 そこへ、笛の音が届いた‥この音は、聞き覚えがある。ある島で、死者を弔うための旋律だった。けれど今は‥
 絣は目を閉じて、静かに音を紡ぐ。
「疲れて寝ちゃったかな」
 さっきまでお喋りに興じていた少女は、眠りを誘われて。
(「‥私は傍らで笑っているから、いつか気づいて。私の元気は、あなたの支えになりたいって言ってるから」)
 海は少女の髪を撫で、絣の笛の音に想いを乗せた。


●二日目
 早朝。アルヴァイムと悠季は、朝露がひやり気持ちよい森林を談笑しながら歩く。
「アルの過去の事‥きいてもいい?」
 その途中、おずおずと尋ねる悠季に、
「昔、か? ‥湾岸で食料品の営業をやってたな。現地進駐軍のやり口が気にくわなくてな。その後は現地ゲリラに参加した」
 アルヴァイムは答える。
「パワーバランスは完全に崩壊していた。一方的と言っても過言ではない。酷い物だった‥ま、昔の話さ」
 彼が語る様子を見つめ、悠季はアルらしいわ‥と、その話を心に刻んだ。

 武流は朝からトレーニングを開始。
 砂浜でランニング、往復ダッシュ、1kmの遠泳、そして筋トレ‥バカンスだからと言って手は抜かない。
 又、武流が汗を流す浜辺には柔軟運動と武器を使った槍術の訓練を行うハルトマンの姿‥。
 やがて朝食を食べた栞が、森林浴に出かける。
「ぜひ、また来たいですね」
 可愛らしい小川をみつけ、一息。

 次の日も昼寝はひたすら潜る。
 この季節に現れる大物――ジンベイザメを、狙わなくちゃ嘘になる。
 そして水深21mまで潜った時の事。
 ついに悠々と泳ぐ巨大なサメを発見し、昼寝は連れ添うように泳ぐのであった。

 水入らずで洞窟へ向かうはカララクと冥姫だ。
「冥姫」
「ん‥」
 カララクは冥姫に手を差し伸べ、手を握り寄り添って歩く。
 ありのままの自然を楽しみ、休憩時には冥姫の手作り弁当が広げられた。
「作ってきたが、どうだ?」
「美味いな」
 互いを愛しそうに見つめ合い、二人は再び仲間と合流する。
 カララクが楽しみにしていた冥姫の水着は、黒いワンピース。
 ひなたは黄色のローレグビキニに着替え、サヴィーネはおだんご頭にセパレートの白水着。バンダナと同じ色の海パンをはいた煉と共にマリンスポーツだ。
「‥どう?」
 水着姿で煉に抱きついてみて、慌てさせるひなた。その反応を見る瞳が子悪魔のよう。
 そして皆が遊ぶ傍ら、タケシはアロハシャツを着てビーチパラソルの下でのんびり読書に耽る。
「日々の戦いも大事ですが‥息抜きも大事なものです」
 ‥潮風が心地よい。またいつか仲間とゆっくり休暇できれば良いと思う。
 湧輝は軽く泳ぎつつ、
「‥少しくらい泳いでおくか。運動不足だし、目の保養も出来るしな」
 と、浜辺を見て目を細めた。

 そしてあやこは朝からクラリスの料理を手伝う。
「気があいますね、私たち」
 他愛ない話の中。クラリスからの突然の告白が待っていた。
「‥魚心あれば何とやらと言ってな‥嫁にならんか?」
 真剣な表情で、少し照れくさそうに言うクラリスに
「ストレートね」
 と、あやこは苦笑しつつ受け入れる。一目見た時から惹かれていたのだ‥断る理由等無い。
 クラリスはあやこの手を握り、そっと抱き寄せた。


●宝探し
 そしてこの旅行では、一つの企画が立ち上げられていた。
 企画者はナレイン。それぞれ持参した『宝物』を、この島のどこかへ隠したのだ。
「このワクワク感‥いいわよねぇ」
 昨日の夕食後、ナレインは参加者からヒントを書いた紙を回収し箱の中へ。アシスタント・夕貴の手作りだ。
「はい、引いてね」
 夕貴は参加するみなの前に、ニッコリと箱を差し出した。

 ギリギリまで寝ていた拓那は最後の紙を引く。
「お散歩がてらふらふらしてみよっか。それで見つかりゃ儲けモノってね♪ ‥ふわぁ」
「急ぎ過ぎるとー、見つからないかもしれませんし〜?」
 森林を歩きながら、『表にはなく裏にあり』のヒントを元に宝探しへ行くラルス。
「宝探しがんばってくださいね〜」
 森を歩く拓那を見つけ、春奈は声援を送った。

「宝探しなんて10何年もやってないな、ちょっと頑張ってみるか‥『濡れてごつごつした処の穴』‥海か浜辺だな」
 童心にかえり、真剣に悩みつつ浜辺を歩く清四郎。
「『灯台元くらし』? もしかして近くかな」
 HERMITは、コテージ入口に隠れた小さな銛を見つけ、そのまま森林浴へ。

 『宙ぶらりん』というヒントを手にし、朔月は植物の観察を続け森を歩く。宝は上にありそうだ。
 見上げると、蔦の絡まった大木があった‥朔月は知識を活かし、有毒なものがないかチェックしていく。
「思ったよりも、やっぱり原生植物が多いな‥ん?」
 蔦にひっかかる光る物‥紅玉の指輪を発見。
 宝探しと地図を作り終えた朔月は、それをルミコに手渡す。ルミコは最初驚き、「役立たせてもらうわ」と礼を言って受け取った。

「お宝ゲットするぞ〜」
 ふぁんが手にするは『闇を進み虹の下に宝あり』というヒント。
「あの、一緒に行きませんか?」
「いいですね、行きましょう」
 ふぁんが乗るボートに蓮角と響も同乗する。
 多いほうが見つかりやすいはず‥こうして海部隊も出発した。

「宝探し、手伝ってくれる?」
「もちろん♪」
 少女を紹介し、彼氏のいる悠季を冷やかしつつ、きゃいきゃいと騒ぐ乙女達。
「さて、どこに行きましょうか」
 絣は微笑みながら、ヒントの紙を眺めた。

 恋は黄色いビキニに薄ピンクのパレオを付け、浜辺の宝探しへ。
 学生時代以来の水着はちょっと恥ずかしい。
「ナレインさんはこんな水着、着ないのですか?」
 似合うと思うのに‥と、貝を拾うナレインに問いかける恋。
「こう見えても男です♪」
「‥な、な、ナッ! ナレインさんって、だ、男性だったんですか!」
 盛大に驚き、恋は真っ赤になって顔を覆った。

 ――こうして各自出発する。


「ミズキ姉さん。一緒にいこう‥」
「それじゃ、探そうか」
 イスルとミズキはヒントを握り、宝探しへと繰り出した。
 探す場所は森。『森の大木に開いている穴の中』と『大きな緑の足元』だ。
「ここじゃないかな?」
 ミズキが大木に出来た穴を指した。「何か、あるね‥」と、イスルは近づく。
 そこでは――レフトハートペンダントが光っていた。一日目に、ミズキ自身が隠したものだ。気づけばそこへと誘導していた。
「キレイだね‥」
 と呟いて手に取るイスルに、意を決したミズキが口を開く。
「イスルくん‥前も言ったこと有ったかも知れないけど、好き‥なんだ」
 それは、告白。
 最初はこんなになるなんて思わなかった、それでも今は凄く大切で失いたくない。
「今すぐ答えられないよねこんな事って」
 徐々に赤くなり俯くミズキの顔。そして彼女の頬に。
「‥っ、‥ん、‥これ‥返事」
 そっと、軽いキスを落としイスル自身も真っ赤になって。
 ‥そして二人は、手をつないで歩いた。
 ミズキの見つけた宝は『お手製のドロップ飴』。イスルのデフォルメの似顔絵つきカードが付いていて、「プレゼント交換になっちゃったね」と幸せそうに笑い合う二人だった。


 ――さて、宝探しの結果は。

 ナレイン →小さなオルゴール
 拓那 →ジャンボパレット
 アルヴァイム →名店の菓子折
 ラルス →扇子
 八神 →小さなオルゴール
 悠季 →フルーティーな香水
 ミズキ →お手製のドロップ飴
 蓮角 →夕凪
 イスル →レフトハート・ペンダント
 朔月 →紅玉の指輪
 HERMIT →銛
 都色 →ライオンのぬいぐるみ
 響 →ラムネ
 清四郎 →ハートフルリボン
 アーサー →ガラス製雪の結晶のキーホルダー
 恋 →向日葵のチョーカー
 ふぁん →手作りケーキと紅茶のセット

 見つからなかった者も居たが、後で宝を回収した夕貴とナレインから参加賞として配られた。
 誰が隠した宝なのか、後日尋ねてみるのもきっと面白い。


●お土産
 店で貝のブローチを選び、由稀はイリアスにプレゼント。
「貝とか使った柔らかい感じのも似合うかな?と思って‥さ」
 イリアスはそのブローチを、宝物のように握って微笑む。

 南国の造花や貝殻で、悠はヤシの葉の帽子をアレンジする。世界で一つの手作り帽子は、もちろんレティの為に。魂を込めて。
 レティは基本に忠実に、バランスと頑丈さを重視して作る。シンプルな帽子だが、時折悠の顔を見て似合うように形を整えた。
「よし‥っと。はい、レティさん。これでどうだろう?」
 悠はレティに帽子を手渡す。鍔が広く、花で彩られていた帽子。
「ありがとう。私もしっかり作る事が出来たと思うが、気に入るかな?」
 そっと両手で悠の頭の上へ。二人とも、素敵な笑顔を浮かべていた。


 お土産用に従業員が手作りしたココナッツハットは、記念品として他の参加者にも配られた。
 他にも能力者らで小さな土産屋は賑わい、エルニドの二日間が終わりを告げる。


 集合場所には、座り込んで待機する蓮角の姿が。
「いやあ、楽しませてもらいました」
 満面の笑みを浮かべ、スタッフ達に礼を言った。

「‥大切なモノを再認識出来たしな。明日からはもっと頑張らないといけないな、クラリッサ」
「ええ、良い休日でしたわね。この掛け替え無いモノを護る為にお互いに頑張らないといけませんわね」
 自然を堪能し、護るべき者を改めて心に刻み込む兵衛とクラリッサ。

 そして帰り際、アタッシュケースを持ち高速艇に乗り込むUNKNOWNは視線を感じて振り返る。
「ん? どうしたのかね? 皆で帰ろう」
 その視線の送り主が、都色とアーサーだったのは言うまでも無い。
 因みに、二人の勝負は都色が勝利していた。


 こうしてエルニドを去る能力者達‥‥身体も心も癒されたならば、ルミコも喜ぶだろう。
「なんかもう‥みんなラブラブすぎるから妬く気もおきなかったわ」
 と、後日ルミコが知人に語ったとか、語らなかったとか。