タイトル:【ODNK】死を待つ島マスター:水乃

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/27 13:23

●オープニング本文


 離島の生活は、不便だって大人が言う。
 私はここでの生活しか知らないから、そこまで不便だとは思わなかった。
 逆に、今は『こんな何もないちっちゃな島で良かった!』って思うことがあるの。

 私でも、『バグア』のことは知っている。
 それと、最近九州各地でバグアの攻撃が活発化している事も。
 でも、ここは大丈夫だよね。
 だって離島だし。
 人口だって80人だし。
 バグアが狙うような施設は何もないし。

 だから、他人事のようにニュースを見ながら『こわいね』って思えるのが。
 ちょっと幸せだと思っていたの。



 でもね。
 そんなニュース見て一ヶ月くらい経った時だったかな。

 唯一の同級生が、死んじゃった。
 足首には、咬まれたような跡。
 ‥‥この島には、ハブがいる‥‥。
 だから判った、その咬み跡は『ハブのものじゃない』。
 そして死因も『毒』では無い‥‥首に、絞められた跡があった、だから、窒息死。



 ――数日で、同じような死体がいくつも見つかった。
 そして、今、私も。
 その『死体』の仲間入りするのかな?



 目の前の道路に横たわる『長い蛇』。
 振り向くと、後ろにもソレはいた。

 ――殺されると思った。
 だから石を投げて、追っ払って逃げようとした。
 けれど――蛇の周りに一瞬赤色のバリアのようなモノが見えて。
 ‥‥石が、弾かれた。

 私は、得体の知れない悪寒に襲われて――港まで我武者羅に走った。
 そして、フェリー乗り場に辿り着いてから――
 ――ここ数日、『定期船なんて来てない』って気づいた。

 ああ、そうだ。
 九州全体がバグアの脅威に晒されてるんだもんね。
 こんな小さな島に、船が来るわけないよね‥‥。



 ‥‥夏になれば、ダイビングも楽しめる海だった。



 その、 目の前に 広がる海に。


 これほど絶望を感じた事は無かった‥‥。


●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
風間 静磨(gb0740
15歳・♂・EP
田中 直人(gb2062
20歳・♂・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
トクム・カーン(gb4270
18歳・♂・FC
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文


 依頼が出された頃には、既に犠牲者が何人か出ていたという島。
 急を要するため、満足に質問も出来ぬまま出発する傭兵達。
「よろしくお願いします‥‥」
 移動艇の中、風間 静磨(gb0740)はお辞儀と共に挨拶をする。
 トクム・カーン(gb4270)も又皆へと向き直ると、礼をした。
「トクム・カーンです。まだ未熟な剣士ですがよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。島の皆さんが心配です‥‥」
 挨拶をしながらも、柊 理(ga8731)はこれから向かう島の人々を案じる。
「島というのは何かがあると、すぐに逃げ場がなくなっちゃうのが怖いところですね。これ以上被害者を出さないように頑張らないと‥」
 頷いて、澄野・絣(gb3855)が言う。
 何とかして助けたい――集まる傭兵ら皆の願いだろう。
「死を待つ‥か‥そんなの悲しすぎます」
 静磨が呟いた。
 しかし現状を打開する事は、彼等能力者であれば可能なのだから。

 ――希望は失わないで。



 能力者達が、トカラ列島の小さな島へと到着する。
「今回の作戦は民間人の救出とキメラの撃破ですね。しかし情報不足ですね‥‥」
 と、呟くトクム。
「この静けさが怖いわね‥‥人の気配があまり感じられないもの」
 ナレイン・フェルド(ga0506)は辺りを見回した‥‥『どうしてこんな小さな島まで?』と、幾つかの疑問が過る。しかし、立ち止まっては居られない。
「一刻も早く、島の安全を確保しましょ!」
「さて‥‥それでは始めましょうか」
 頷き、覚醒を遂げる柊 沙雪(gb4452)。小さく息を吐き、戦闘用の思考へと切り替える。

 傭兵達は、役割を二班に分け島内を捜索する作戦を立てた。
 街の安全確保とキメラ対処を主とするA班に、ナレイン、静麿、田中 直人(gb2062)、トクム、沙雪が。
 島民避難場所の安全確保と島民の護衛にあたるB班は、理、絣、橘川 海(gb4179)である。


 ―島は狭く、世帯数も少なかった。
 しかし放たれたキメラの数が分からないという状況の中、覚醒を遂げた理が『GooDLuck』と『探査の眼』を発動する。
 そして、他の者達も覚醒を終え。
「あれは何だ?」
 直人が何かに気づいた。そこには、島の案内をする立て札。
「集会所があるな」
「‥避難所にいいかもしれません」
 直人と共に看板を見た沙雪はそう提案した。皆が頷く。

 そしてB班の理、絣、海の3人と、静麿は避難場所の安全確保に向かった。
「‥待って」
 途中、理が足を止める。続いていた海と絣も立ち止まり、首を傾げた。
「どうしたの?」
「ボクの眼は‥見逃さないよ‥‥」
 理の視線が射抜いた先には――背丈の高い草の中を音も無く移動するヘビの姿。
 そしてヘビは、その長い体を波打たせスピードを上げると、理目掛けて牙を剥く―!
 しかし、警戒していた理の反応は早かった。ヘビキメラの攻撃を自身障壁を発動しバックラーで受け止めると洒涙雨を抜刀、刹那反撃を行う。
 キメラの口中を狙い刀を振るうと、その刃はキメラの鋭い牙を折った。
「僕は、僕の盾は、皆を護る盾。倒れたり砕けたりはしない!」
 理は叫んだ。後方では瑠璃瓶で援護射撃をする海、そして絣は長弓「桜花」に弓を番えている‥‥彼女らに牙を向けさせるわけにはいかない。
 そして、住民を守るためにも、盾となる理が倒れるわけにはいかないのだ。
 理は更にキメラの目へ二度斬りつけると、再び盾を構えた。
 視力を奪われたキメラの反撃は理の盾を掠るが、その力はもう弱々しい。暴れる尻尾を狙い、海の銃撃が飛ぶ。
 そして――
「とどめよ‥!」
 強弾撃と共に放った絣の矢が、真正面からキメラの頭部を深々と射抜いた。
 ―こうして、一匹のキメラが倒される。
 しかし‥‥
「クク‥どれも美味しそうだね‥」
 静麿が新たなキメラを発見し、愉快そうに笑うとイオフィエルを構える。
 しかし、キメラは静麿ではなく別の誰かを狙っているようだった。
 ――物陰から子供の泣く声がする。
「‥人が!?」
 静磨は一瞬動揺し、しかし直ぐ自身障壁を発動するとキメラの正面を捉える。
 飛び掛らんとするキメラの攻撃を、寸でのところで受け止める静麿――
「僕の見えるところで、人は死なせない‥!」
 叫び、牙を盾で押し返すと爪を振り上げ、キメラの胴を切り裂いた‥‥さらに、もう一度。
 そして間合いに海が飛び込み、竜の咆哮でキメラを弾き飛ばした。
 弾き飛ばされたキメラを、強弾撃を伴った絣の矢が射抜き地面に縫いとめる。そこへ理と静麿が追撃を加えた。
 するとキメラは数度痙攣し、体液を散らしながらやがて動かなくなる。
「‥大丈夫?」
 海が声のする方を向くと、泣きじゃくる小さな子供と、夫婦の姿があった。

 そして集会所周りのキメラを殲滅し、
「あそこからなら‥‥放送できるかも!」
 島の中では目立つほど大きい建物の中に飛び込む海。
 そこには‥‥次々死者が出る状況に危機を感じ、一箇所に集まる大勢の島民達が居た。
「良かった‥」
 大勢の姿を見つけ、絣が安堵の声を漏らした。そして、怪我をしている人にはすぐさま応急処置を施していく。
 島民は80人。5人は既に遺体で発見され、集会所の別の部屋に未だ安置されていた。島民達は外の危険を知りながらも、見知った人々の亡骸を放っては置けなかったらしい。
 そして今、集会所には67人程集まっている。皆一様に疲れた表情で、泣きはらし目の赤い者も多かった。
「行方不明者は8人か」
 悲しみを湛えた表情で理は呟いた。
 8人はまだ家に居るのかもしれないし、出かけている可能性もある。
 ――話を聞き終えた絣は無線機を通してA班の皆へ連絡を入れ、集会所に集まる住民の事と行方不明者の数等を仔細に伝えた。
 そして海は島内放送のスイッチを入れ
『‥‥UPCから来た能力者です。島内を調査しますので、島民の方は安全の為集会所までお集まりください』
 不安であろう住民を安心させるように、凛とした少女の声で伝えるのだった。


 残るA班は、キメラを殲滅するための作戦を開始する。
 島は小さかったが雑草の生い茂った土地が多く、隠密性が高い場所だった。
「こういう場所は蛇が潜むにはうってつけですね‥‥。発見が遅れたのもわかります」
 奇襲を警戒して、二刀小太刀「疾風迅雷」を逆手にもつ沙雪。
 草叢が揺れ、キメラが顔を出すのを待ち構え‥‥瞬天速で一気に距離を詰めるとキメラの頭の付け根めがけ、薙ぎ払った。もう一度切り払うと、沙雪は反撃がくる前にその場から飛び退く。
 そして連携をとりつつ、AU−KVを纏った直人が試作型機械剣を抜き、キメラの胴を縫いとめるように突き立てた。しかしキメラの尻尾が暴れ、直人の左手に絡みつく――!
「くっ‥‥」
 竜の尾で解除を試みる直人――しかし締め付ける力は強くなるばかり。
 だがガラ空きのキメラの頭を沙雪が狙っていた。喉元を切り裂くように小太刀を振るうと、キメラの身体が一瞬硬直しやがて全ての力が抜けていく。
 ‥これで、3匹目。

 一方、ナレインも蛇キメラを発見し尻尾側から銃で牽制を始めた。
 覚醒を遂げたナレインの左目の下には、涙型の模様‥‥その模様が、ナレインの心を表しているようでもあった。
「人に危害を加えるだけがあなた達の生きる意味なの? ‥‥悲しいわ」
 キメラとして生を受け、自由を知らないキメラを哀れに思う。
 すらりとした背の麗人は、キメラを命ある者としてその存在を悲しんでいた‥‥しかし島民の生活を守るため、刃を向ける。
 又、ナレインと挟み撃つ形で、キメラの正面にはトクムが立塞がっていた。
「我が名はトクム。トクム・カーン! これ以上、貴様に一歩も進ませぬ!」
 名乗り上げるトクムはイアリスで突撃した。キメラの眼を突き、一刀両断にしようと剣を振り上げた所へ‥反撃に出たキメラの牙が脇腹を掠る。
「‥っ、蛇ごときにやられる私ではない! 死した住民の苦痛を万倍にして受けるがよい!」
 傷は浅い。トクムは円閃とスマッシュを発動すると、渾身の力を込めた一撃をキメラの脳天へと叩きつける――!
 どこか中性的な外見を持つナレインとトクムであったが‥‥その気性とキメラへの感情は全く違う二人のようだ。



 ――集会所の一室では、先ほど助けられた若い夫婦と小さな子供が震えていた。
 絣は「もう大丈夫よ」と笑み、子供の頭を撫でる。
 夫婦は3人に礼を言いながらも、母親の目からは大粒の涙が溢れていた。
「‥どうかしましたか?」
「娘が‥‥娘が船を見に行くと言ったまま、帰って来ないの」
 泣き崩れる母親。
「え!?」
 海は驚いた表情をし、しかし直ぐに唇を結ぶと母親を見た。
「助けます! だから、集会所で待ってて下さい」
 そういい残し、すぐさま集会所外へと走り出した海‥‥AU−KV『ミカエル』をバイク型に変形させ、跨るとブーストをかける。
「いくよ、ミカエル――間に合って!」
 風を切る音と共に、海の駆るミカエルは島の波止場へと――
「気をつけて‥!」
 走り去る海の後姿に言葉を投げかける絣‥‥どうか、友と少女が無事でありますように。
 そして、絣と理は残された住民の護衛を行いつつ、集会所を守る事にした。
「ゴメンなさい、今はこれ位しかできないですが‥‥」
 理は塞がらぬ傷に泣いていた子供に応急手当てを施すと、夫婦とともに守り抜くよう『探査の眼』を光らせた。


「何だ‥‥?」
 バイクで走り去っていく海の姿が視界に入る――直人は思わずキメラ探索の手を止めた。
(「まさか単独行動?」)
 集会所の中で何かあったに違いない、が‥。
「心配なら行ってあげてはどうですか」
 バディを組むように行動していた沙雪が、直人へと声をかけた。
 直人は礼を言い、AU−KVをバイク形態へ替えると海を追随する。

 沙雪は静麿と合流すると、静麿の『探査の眼』を使いキメラの捜索を続けた。
 そして、キメラに襲われそうになっている4人の島民を発見――直ぐに瞬天速で接近する沙雪。
 横から急所突きを繰り出し、キメラの尻尾に小太刀を突きさすとそのまま地面に縫い付け、そしてもう一本の小太刀で胴部を切り裂く。
「‥‥大丈夫ですか? 危ないので少し下がってください」
 沙雪の言葉に、島民は頷いた。
 島民の安全を確認すると、静磨は反撃を開始する。
「蛇型が‥‥後で串焼きにしてくれる!」
 得物を狙う猛禽類のように、静磨はその爪でキメラを捕らえる――!
 そしてキメラがぐったりしたのを確認すると、二人は無線で『島民を保護したと』連絡を入れた。

 又、トクムたちも島民のうち3人を発見していた。彼らも又、キメラに睨まれ動けなかったのだ。
「いたぞ! 大丈夫ですか!?」
 トクムが島民を励ますように声を張り上げた。
 ナレインは瞬天速を交えつつキメラに接近し瞬即撃を発動、刹那の爪を閃かせ、一気に片をつけてしまおうとする。
 頭からナレインの目に見えぬ一撃が、そして尻尾側からはトクムの剣撃を受け、キメラは反撃も出来ぬまま体液を散らし息絶えた。
「もう大丈夫です」
 トクムは住民らを保護すると、無線で連絡を入れて集会所へと向かう。
 ‥‥しかしナレインは、キメラの死骸をただ見つめていた。


 不明者の内7人が見つかったと、仲間から連絡が入った。
(「間に合って‥!」)
 バイクと共に、疾風のように海は駆ける。
 そして少女が向かったという波止場に到着すると、必死に少女の姿を探した――‥居た!!
 少女はぐったりと地面に横たわり、周囲には一匹の蛇‥キメラの姿。
 死んでいるのではないかと、嫌な予感が頭を過る。
 しかし海は、もう一度ミカエルを纏い走った――少女の元へ。
(「必ず、必ず助けたいからっ!」)
 生きている可能性があるのならば、諦める訳には―!
 棍棒がキメラを捉え、竜の咆哮と共に振り下ろす‥‥その一撃でキメラは派手に後方へと吹っ飛んだ。
 海は少女を抱え
「大丈夫!? しっかり!」
 声をかけた――反応はない、だが、息はある。応急手当を‥と海が思ったとき、キメラが再び向かってくる姿を視界の端に捉えた。
 その時‥‥
「海、下がれ!」
 聞き馴染んだ青年の声が、海の耳に届いた。
 振り返ると、そこには――ショットガン20を構えた直人が駆けつけ、キメラへ銃撃を放つ!
「田中せんぱい!?」
「お前がやらんで誰がその子を守るんだ!?」
 頼もしい先輩の声を受け、後方へ下がると海は少女の手当てを始めた。
 その間にも直人はキメラに銃口を向け、牽制する。
「‥傷つくのは、俺一人で十分だ‥」
 呟く直人。
 キメラは不利を悟り、逃げ出そうと尻尾を向けた‥‥今度は直人が追撃する番だ。
 逃げるキメラに、ペイント弾が飛んで付着する。それは手当てを終えた海が放った物。
「あとは任せろ、仕留める!」
 彼が追いかけていったキメラは、この島に巣食う最後の一匹であった。



 少女は意識を取り戻し、集会所に戻ると母親へと抱きついた。そして、涙する。

 行方不明者は無事救出され、最後のキメラも仕留められた。
「ふぅ‥‥ご苦労様でした」
 沙雪は仲間に労いの言葉をかける。
「こんな局地をとるとは‥やはり北九州侵攻戦の影響だろうね」
 トクムは、彼なりにキメラが発生した原因を探る。そして能力者らは、島の今後についても考えていた。
「避難シェルターみたいなものを作ってもらうとかどうでしょう?」
「とりあえず軍に防衛施設の建設を要求したほうがいいと思う‥‥」
 と、沙雪の言葉に答える静磨の手には蛇キメラの串焼きが。住民らに配慮して彼らの目に止まらぬ場所で、自身の腹を満たしていた。

 話し合いの後ナレインは一人、自分が倒したキメラを島の目立たぬ場所へと埋葬した。
「たとえ憎しみの対象でも‥‥私は‥」
 生まれ変わるのならば自由に生きて欲しいと、目を閉じて祈る。
 そして、このような命が生まれることの無い様に。


「いつでも、駆けつけるから。だから、諦めないで」
 海は助けた少女を励ました。
 少女はようやく笑みを浮かべたが、傷も、涙の跡も残ったままで。
 同級生を失った心の傷もなかなか癒えぬだろう。
 ――二人を眺めつつ、また元気に笑える日が来る事を願う直人だった。

 そして皆が集まる集会所に、笛の音が響いた‥‥忍刀「鳴鶴」を手にした絣の演奏だ。
 刀が仕込まれているとは思えぬ、美しい笛の音。
 犠牲者の冥福を祈りつつ、絣は鎮魂の旋律を紡ぐ。
 ‥その笛の音と共に、理は目を閉じると魂を弔った。
(「日本から、世界から、バグアを追い出してやるんだ」)
 そう、心に誓って。



 後日調査の結果、キメラは沖縄バグアが無差別にばら撒いたキメラだと判明した。
 そして希望する島民は九州本土へ移動することになる‥‥鹿児島も安全とは言い難いが北九州よりは良いだろう。

 ただ島に残ることを希望した何人かは、その地に眠る先祖や犠牲者と共に、島の土地を守ると言ったのであった。