●リプレイ本文
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依頼が出された頃には、既に犠牲者が何人か出ていたという島。
急を要するため、満足に質問も出来ぬまま出発する傭兵達。
「よろしくお願いします‥‥」
移動艇の中、風間 静磨(
gb0740)はお辞儀と共に挨拶をする。
トクム・カーン(
gb4270)も又皆へと向き直ると、礼をした。
「トクム・カーンです。まだ未熟な剣士ですがよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。島の皆さんが心配です‥‥」
挨拶をしながらも、柊 理(
ga8731)はこれから向かう島の人々を案じる。
「島というのは何かがあると、すぐに逃げ場がなくなっちゃうのが怖いところですね。これ以上被害者を出さないように頑張らないと‥」
頷いて、澄野・絣(
gb3855)が言う。
何とかして助けたい――集まる傭兵ら皆の願いだろう。
「死を待つ‥か‥そんなの悲しすぎます」
静磨が呟いた。
しかし現状を打開する事は、彼等能力者であれば可能なのだから。
――希望は失わないで。
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能力者達が、トカラ列島の小さな島へと到着する。
「今回の作戦は民間人の救出とキメラの撃破ですね。しかし情報不足ですね‥‥」
と、呟くトクム。
「この静けさが怖いわね‥‥人の気配があまり感じられないもの」
ナレイン・フェルド(
ga0506)は辺りを見回した‥‥『どうしてこんな小さな島まで?』と、幾つかの疑問が過る。しかし、立ち止まっては居られない。
「一刻も早く、島の安全を確保しましょ!」
「さて‥‥それでは始めましょうか」
頷き、覚醒を遂げる柊 沙雪(
gb4452)。小さく息を吐き、戦闘用の思考へと切り替える。
傭兵達は、役割を二班に分け島内を捜索する作戦を立てた。
街の安全確保とキメラ対処を主とするA班に、ナレイン、静麿、田中 直人(
gb2062)、トクム、沙雪が。
島民避難場所の安全確保と島民の護衛にあたるB班は、理、絣、橘川 海(
gb4179)である。
―島は狭く、世帯数も少なかった。
しかし放たれたキメラの数が分からないという状況の中、覚醒を遂げた理が『GooDLuck』と『探査の眼』を発動する。
そして、他の者達も覚醒を終え。
「あれは何だ?」
直人が何かに気づいた。そこには、島の案内をする立て札。
「集会所があるな」
「‥避難所にいいかもしれません」
直人と共に看板を見た沙雪はそう提案した。皆が頷く。
そしてB班の理、絣、海の3人と、静麿は避難場所の安全確保に向かった。
「‥待って」
途中、理が足を止める。続いていた海と絣も立ち止まり、首を傾げた。
「どうしたの?」
「ボクの眼は‥見逃さないよ‥‥」
理の視線が射抜いた先には――背丈の高い草の中を音も無く移動するヘビの姿。
そしてヘビは、その長い体を波打たせスピードを上げると、理目掛けて牙を剥く―!
しかし、警戒していた理の反応は早かった。ヘビキメラの攻撃を自身障壁を発動しバックラーで受け止めると洒涙雨を抜刀、刹那反撃を行う。
キメラの口中を狙い刀を振るうと、その刃はキメラの鋭い牙を折った。
「僕は、僕の盾は、皆を護る盾。倒れたり砕けたりはしない!」
理は叫んだ。後方では瑠璃瓶で援護射撃をする海、そして絣は長弓「桜花」に弓を番えている‥‥彼女らに牙を向けさせるわけにはいかない。
そして、住民を守るためにも、盾となる理が倒れるわけにはいかないのだ。
理は更にキメラの目へ二度斬りつけると、再び盾を構えた。
視力を奪われたキメラの反撃は理の盾を掠るが、その力はもう弱々しい。暴れる尻尾を狙い、海の銃撃が飛ぶ。
そして――
「とどめよ‥!」
強弾撃と共に放った絣の矢が、真正面からキメラの頭部を深々と射抜いた。
―こうして、一匹のキメラが倒される。
しかし‥‥
「クク‥どれも美味しそうだね‥」
静麿が新たなキメラを発見し、愉快そうに笑うとイオフィエルを構える。
しかし、キメラは静麿ではなく別の誰かを狙っているようだった。
――物陰から子供の泣く声がする。
「‥人が!?」
静磨は一瞬動揺し、しかし直ぐ自身障壁を発動するとキメラの正面を捉える。
飛び掛らんとするキメラの攻撃を、寸でのところで受け止める静麿――
「僕の見えるところで、人は死なせない‥!」
叫び、牙を盾で押し返すと爪を振り上げ、キメラの胴を切り裂いた‥‥さらに、もう一度。
そして間合いに海が飛び込み、竜の咆哮でキメラを弾き飛ばした。
弾き飛ばされたキメラを、強弾撃を伴った絣の矢が射抜き地面に縫いとめる。そこへ理と静麿が追撃を加えた。
するとキメラは数度痙攣し、体液を散らしながらやがて動かなくなる。
「‥大丈夫?」
海が声のする方を向くと、泣きじゃくる小さな子供と、夫婦の姿があった。
そして集会所周りのキメラを殲滅し、
「あそこからなら‥‥放送できるかも!」
島の中では目立つほど大きい建物の中に飛び込む海。
そこには‥‥次々死者が出る状況に危機を感じ、一箇所に集まる大勢の島民達が居た。
「良かった‥」
大勢の姿を見つけ、絣が安堵の声を漏らした。そして、怪我をしている人にはすぐさま応急処置を施していく。
島民は80人。5人は既に遺体で発見され、集会所の別の部屋に未だ安置されていた。島民達は外の危険を知りながらも、見知った人々の亡骸を放っては置けなかったらしい。
そして今、集会所には67人程集まっている。皆一様に疲れた表情で、泣きはらし目の赤い者も多かった。
「行方不明者は8人か」
悲しみを湛えた表情で理は呟いた。
8人はまだ家に居るのかもしれないし、出かけている可能性もある。
――話を聞き終えた絣は無線機を通してA班の皆へ連絡を入れ、集会所に集まる住民の事と行方不明者の数等を仔細に伝えた。
そして海は島内放送のスイッチを入れ
『‥‥UPCから来た能力者です。島内を調査しますので、島民の方は安全の為集会所までお集まりください』
不安であろう住民を安心させるように、凛とした少女の声で伝えるのだった。
残るA班は、キメラを殲滅するための作戦を開始する。
島は小さかったが雑草の生い茂った土地が多く、隠密性が高い場所だった。
「こういう場所は蛇が潜むにはうってつけですね‥‥。発見が遅れたのもわかります」
奇襲を警戒して、二刀小太刀「疾風迅雷」を逆手にもつ沙雪。
草叢が揺れ、キメラが顔を出すのを待ち構え‥‥瞬天速で一気に距離を詰めるとキメラの頭の付け根めがけ、薙ぎ払った。もう一度切り払うと、沙雪は反撃がくる前にその場から飛び退く。
そして連携をとりつつ、AU−KVを纏った直人が試作型機械剣を抜き、キメラの胴を縫いとめるように突き立てた。しかしキメラの尻尾が暴れ、直人の左手に絡みつく――!
「くっ‥‥」
竜の尾で解除を試みる直人――しかし締め付ける力は強くなるばかり。
だがガラ空きのキメラの頭を沙雪が狙っていた。喉元を切り裂くように小太刀を振るうと、キメラの身体が一瞬硬直しやがて全ての力が抜けていく。
‥これで、3匹目。
一方、ナレインも蛇キメラを発見し尻尾側から銃で牽制を始めた。
覚醒を遂げたナレインの左目の下には、涙型の模様‥‥その模様が、ナレインの心を表しているようでもあった。
「人に危害を加えるだけがあなた達の生きる意味なの? ‥‥悲しいわ」
キメラとして生を受け、自由を知らないキメラを哀れに思う。
すらりとした背の麗人は、キメラを命ある者としてその存在を悲しんでいた‥‥しかし島民の生活を守るため、刃を向ける。
又、ナレインと挟み撃つ形で、キメラの正面にはトクムが立塞がっていた。
「我が名はトクム。トクム・カーン! これ以上、貴様に一歩も進ませぬ!」
名乗り上げるトクムはイアリスで突撃した。キメラの眼を突き、一刀両断にしようと剣を振り上げた所へ‥反撃に出たキメラの牙が脇腹を掠る。
「‥っ、蛇ごときにやられる私ではない! 死した住民の苦痛を万倍にして受けるがよい!」
傷は浅い。トクムは円閃とスマッシュを発動すると、渾身の力を込めた一撃をキメラの脳天へと叩きつける――!
どこか中性的な外見を持つナレインとトクムであったが‥‥その気性とキメラへの感情は全く違う二人のようだ。
●
――集会所の一室では、先ほど助けられた若い夫婦と小さな子供が震えていた。
絣は「もう大丈夫よ」と笑み、子供の頭を撫でる。
夫婦は3人に礼を言いながらも、母親の目からは大粒の涙が溢れていた。
「‥どうかしましたか?」
「娘が‥‥娘が船を見に行くと言ったまま、帰って来ないの」
泣き崩れる母親。
「え!?」
海は驚いた表情をし、しかし直ぐに唇を結ぶと母親を見た。
「助けます! だから、集会所で待ってて下さい」
そういい残し、すぐさま集会所外へと走り出した海‥‥AU−KV『ミカエル』をバイク型に変形させ、跨るとブーストをかける。
「いくよ、ミカエル――間に合って!」
風を切る音と共に、海の駆るミカエルは島の波止場へと――
「気をつけて‥!」
走り去る海の後姿に言葉を投げかける絣‥‥どうか、友と少女が無事でありますように。
そして、絣と理は残された住民の護衛を行いつつ、集会所を守る事にした。
「ゴメンなさい、今はこれ位しかできないですが‥‥」
理は塞がらぬ傷に泣いていた子供に応急手当てを施すと、夫婦とともに守り抜くよう『探査の眼』を光らせた。
「何だ‥‥?」
バイクで走り去っていく海の姿が視界に入る――直人は思わずキメラ探索の手を止めた。
(「まさか単独行動?」)
集会所の中で何かあったに違いない、が‥。
「心配なら行ってあげてはどうですか」
バディを組むように行動していた沙雪が、直人へと声をかけた。
直人は礼を言い、AU−KVをバイク形態へ替えると海を追随する。
沙雪は静麿と合流すると、静麿の『探査の眼』を使いキメラの捜索を続けた。
そして、キメラに襲われそうになっている4人の島民を発見――直ぐに瞬天速で接近する沙雪。
横から急所突きを繰り出し、キメラの尻尾に小太刀を突きさすとそのまま地面に縫い付け、そしてもう一本の小太刀で胴部を切り裂く。
「‥‥大丈夫ですか? 危ないので少し下がってください」
沙雪の言葉に、島民は頷いた。
島民の安全を確認すると、静磨は反撃を開始する。
「蛇型が‥‥後で串焼きにしてくれる!」
得物を狙う猛禽類のように、静磨はその爪でキメラを捕らえる――!
そしてキメラがぐったりしたのを確認すると、二人は無線で『島民を保護したと』連絡を入れた。
又、トクムたちも島民のうち3人を発見していた。彼らも又、キメラに睨まれ動けなかったのだ。
「いたぞ! 大丈夫ですか!?」
トクムが島民を励ますように声を張り上げた。
ナレインは瞬天速を交えつつキメラに接近し瞬即撃を発動、刹那の爪を閃かせ、一気に片をつけてしまおうとする。
頭からナレインの目に見えぬ一撃が、そして尻尾側からはトクムの剣撃を受け、キメラは反撃も出来ぬまま体液を散らし息絶えた。
「もう大丈夫です」
トクムは住民らを保護すると、無線で連絡を入れて集会所へと向かう。
‥‥しかしナレインは、キメラの死骸をただ見つめていた。
不明者の内7人が見つかったと、仲間から連絡が入った。
(「間に合って‥!」)
バイクと共に、疾風のように海は駆ける。
そして少女が向かったという波止場に到着すると、必死に少女の姿を探した――‥居た!!
少女はぐったりと地面に横たわり、周囲には一匹の蛇‥キメラの姿。
死んでいるのではないかと、嫌な予感が頭を過る。
しかし海は、もう一度ミカエルを纏い走った――少女の元へ。
(「必ず、必ず助けたいからっ!」)
生きている可能性があるのならば、諦める訳には―!
棍棒がキメラを捉え、竜の咆哮と共に振り下ろす‥‥その一撃でキメラは派手に後方へと吹っ飛んだ。
海は少女を抱え
「大丈夫!? しっかり!」
声をかけた――反応はない、だが、息はある。応急手当を‥と海が思ったとき、キメラが再び向かってくる姿を視界の端に捉えた。
その時‥‥
「海、下がれ!」
聞き馴染んだ青年の声が、海の耳に届いた。
振り返ると、そこには――ショットガン20を構えた直人が駆けつけ、キメラへ銃撃を放つ!
「田中せんぱい!?」
「お前がやらんで誰がその子を守るんだ!?」
頼もしい先輩の声を受け、後方へ下がると海は少女の手当てを始めた。
その間にも直人はキメラに銃口を向け、牽制する。
「‥傷つくのは、俺一人で十分だ‥」
呟く直人。
キメラは不利を悟り、逃げ出そうと尻尾を向けた‥‥今度は直人が追撃する番だ。
逃げるキメラに、ペイント弾が飛んで付着する。それは手当てを終えた海が放った物。
「あとは任せろ、仕留める!」
彼が追いかけていったキメラは、この島に巣食う最後の一匹であった。
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少女は意識を取り戻し、集会所に戻ると母親へと抱きついた。そして、涙する。
行方不明者は無事救出され、最後のキメラも仕留められた。
「ふぅ‥‥ご苦労様でした」
沙雪は仲間に労いの言葉をかける。
「こんな局地をとるとは‥やはり北九州侵攻戦の影響だろうね」
トクムは、彼なりにキメラが発生した原因を探る。そして能力者らは、島の今後についても考えていた。
「避難シェルターみたいなものを作ってもらうとかどうでしょう?」
「とりあえず軍に防衛施設の建設を要求したほうがいいと思う‥‥」
と、沙雪の言葉に答える静磨の手には蛇キメラの串焼きが。住民らに配慮して彼らの目に止まらぬ場所で、自身の腹を満たしていた。
話し合いの後ナレインは一人、自分が倒したキメラを島の目立たぬ場所へと埋葬した。
「たとえ憎しみの対象でも‥‥私は‥」
生まれ変わるのならば自由に生きて欲しいと、目を閉じて祈る。
そして、このような命が生まれることの無い様に。
「いつでも、駆けつけるから。だから、諦めないで」
海は助けた少女を励ました。
少女はようやく笑みを浮かべたが、傷も、涙の跡も残ったままで。
同級生を失った心の傷もなかなか癒えぬだろう。
――二人を眺めつつ、また元気に笑える日が来る事を願う直人だった。
そして皆が集まる集会所に、笛の音が響いた‥‥忍刀「鳴鶴」を手にした絣の演奏だ。
刀が仕込まれているとは思えぬ、美しい笛の音。
犠牲者の冥福を祈りつつ、絣は鎮魂の旋律を紡ぐ。
‥その笛の音と共に、理は目を閉じると魂を弔った。
(「日本から、世界から、バグアを追い出してやるんだ」)
そう、心に誓って。
後日調査の結果、キメラは沖縄バグアが無差別にばら撒いたキメラだと判明した。
そして希望する島民は九州本土へ移動することになる‥‥鹿児島も安全とは言い難いが北九州よりは良いだろう。
ただ島に残ることを希望した何人かは、その地に眠る先祖や犠牲者と共に、島の土地を守ると言ったのであった。