●リプレイ本文
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由布の温泉街を標的に進攻を続けるファイアビーストの群。
能力者達が立ち塞がったとき、キメラの標的が『目の前の障害排除』へと変わる。
キメラを阻む壁のように横一列に並び、前衛と後衛でバディを組んで迎え撃つ能力者達。
その左翼では。
「さて、汗で滑らないように‥‥と」
両手に確りとテーピングを施し双斧『花狐貂』を固定させ、夏 炎西(
ga4178)がキメラ目掛けて大地を蹴る。
人を癒す力を持つこの地を、傷ついた人々の為にも守り抜くために――振り上げられた前足の引っ掻きをサイドステップでかわし、反撃を脇腹へと叩き込む。X型に刻まれた傷から血が迸り、炎西は返り血を軽く拭うとすぐさま相手の死角へと回りこんだ。
炎西が飛び退いた後、スコーピオンを握る真白(
gb1648)の放った射撃がキメラの右眼を貫いた。
「避難民の方達がいる、温泉街に行かせるわけにはいきません!」
必ずここで食い止める――真白の銃を握る手に力が入った。戦う理由はいつだって『守る』こと。
(「皆を守る為に、私はここに来たのだから‥‥」)
真白は炎西が敵を引きつけている隙に素早くリロードを終え、再びキメラを追い詰める。
「やるからには徹底的に潰すわよ」
覚醒と共に真紅に染まる瞳。
ケイ・リヒャルト(
ga0598)はスコーピオンを構え、キメラの四肢を狙い撃つ。
「絶対に此処は通さないわ!」
銃弾はキメラの右足を撃ちぬき、貫通した銃弾が路地を抉る。
ケイの放つ的確な射撃は、キメラの生命力を奪うと共に確実に足止めとなっていた。
そしてケイとバディを組んだMk(
ga8785)は防御から攻撃へと転じる。
「これで終わりだっ!」
両断剣をキメラの側面から放ち、飛び散った大量の血液はキメラの命の灯火が消えることを告げていた。
そして、次なるキメラを狙いケイは銃口を向ける。
「さ、遊びましょう‥‥」
列のほぼ中央では。
「さて、絶対にここで喰い止めないとね」
GooDLuckを使用し、遠くのキメラを銃撃しつつフィオナ・シュトリエ(
gb0790)が呟いた。
「‥ん、温泉街‥‥。‥重要拠点ね‥‥」
フィオナの後ろで、シフォン・ノワール(
gb1531)は頷く。各基地が攻撃や防御の要であるのならば、ここも人々の癒しの場という一つの要なのだ。
「‥ここを落とされるわけにはいかないわ‥‥」
シフォンは長弓『フレイヤ』に矢を番え、フィオナが撃つキメラを狙った――こうして攻撃を分散させず、数を減らすことに専念する。
――その身に銃弾と矢を受けながらも迫り来るキメラ。
フィオナは後ろに立つシフォンを庇うように、イアリスでの牽制攻撃を仕掛けていく。
そして、右翼では。
少しでも目指す背中に追いつけるように。
悲しい想いを少しでも減らせるように。
「‥‥俺は俺のできることを、精一杯頑張らなきゃ」
蒼穹の腕輪に手を触れて、柚井 ソラ(
ga0187)は自身にそう言い聞かせた。
そしてすぐ戦士の顔へ戻り、眼前のキメラを見据える――
手にした洋弓『アルファル』に矢を番え素早く射抜く、その疾風のような射撃はキメラの脳天に突き刺さった。
痛みで暴れ、我武者羅に攻撃を繰り出すキメラ‥‥その攻撃をかわしながら、エリス・リード(
gb3471)はキメラに肉薄する。
「ふふっ。さあ、全部刈り取ってあげるわ」
狩る者の冷笑を浮かべ、エリスはキメラにとって『死』を齎すであろう大鎌『ノトス』を振り上げる――その姿は、まるで死神のようだった。
「久しぶりの大きな狩りね。私が狩られないように気をつけないとね」
というエリスの口調は、どこか楽しげに聞こえた。
火絵 楓(
gb0095)はローラーブレード2を履きこなしキメラ目掛けて滑走する。
「赤村さん援護ヨロシク〜♪」
作戦の相方に声をかけ、鈴の髪飾りをチリチリと鳴らしながら。
楓の両手には手袋型の超機械‥‥一風変わった得物である。
赤村 咲(
ga1042)は「まかせてくれ」と返答すると、ドローム製SMGの銃口をキメラへと向けた。
「残念だがここを通す訳にはいかない」
そうキメラに言い放ち――攻撃を繰り出そうとする楓よりも一手早く、一度に15発放たれるという銃撃をキメラの胴と脚部に喰らわせる。
銃撃を受け出鼻をくじかれたキメラ――そこへ、楓の手袋から放たれた電撃が降り注ぐ―!
「舞え赤い雷光! ハピネス・ラビリンス!!」
楓の掌から叩きつけられる電撃。
キメラは吼え、赤く燃えるような体が更に熱くなった――そして予備動作もなく吐き出される炎弾。
「ひゃっ」
炎弾は楓の太腿を掠り、地面で弾けた。
チリチリと焼かれた痛みが脚に残ったが、楓は止めを刺しに向かう――戦いはまだ、始まったばかり。
こうして10体のキメラと10人の能力者達の戦いは繰り広げられた。
能力者らは、前衛に炎西、Mk、フィオナ、エリス、楓が並び、後衛にはスナイパー達‥‥真白、ケイ、シフォン、ソラ、咲が前衛とバディを組みつつ射撃を行う。
この横一列の陣形は、次第にV字型に展開し、キメラを包囲してしまおうという狙いがある。
ただ――懸念されるは『他にも目撃された』という輸送用ワーム。
もし新たなるキメラが放たれれば、戦いは長期戦に持ち込まれるだろう。
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危機に陥ることなく、能力者達が半数のキメラを殲滅した時だった。
左翼側から新たなビーストが現れる――!
「九時方向、敵増援五匹!」
援軍を警戒し、早期に発見した炎西が声を張り上げ皆に知らせる。
「‥‥振り出しに戻ったな」
知らせを聞き、目の前のキメラを排除しようとしていた咲が呟いた。
炎西は突出しすぎぬよう注意を払いつつも、増援キメラへの遊撃に出た。
疾風脚を発動し、二体のキメラが吐き出した火弾をかわしつつ肉薄する。
「せやっ!」
斧でキメラの後ろ足を狙う――ザシュッと切り裂く音と共に命中した斧は、キメラの腱を切った。そのまま胴にニ撃、三撃と叩き込み、飛び退く。
攻撃を終えた炎西を狙う別のキメラ‥その口が炎弾を吐こうと大きく開いたとき。
キメラの口へと銃撃が撃ちこまれる――!
「ふふ、お味は如何?」
先手必勝を発動させたケイのフォルトゥナ・マヨールーによる一撃が、キメラの喉奥を焼いた。
のた打ち回るキメラ――そこへ弾幕が容赦なく降りかかる。
M−121ガトリング砲に持ち替えた真白の銃撃だった。
しかし、弾幕を逃れた一体のキメラが真白目掛けて炎弾を吐く。
「うわぁ〜っ。こんなの当たったら焦げちゃいます!」
炎弾は地面を焦がした。しかし真白は安堵する暇もなく、攻撃の手は止めない。
「今よ、Mk!」
「ああ!」
ケイに促され、Mkがキメラに向けてカデンサを振り下ろした。
その一撃は、弱っていたキメラに止めを刺す一撃であった。
そして、丁度初期のキメラが掃討された頃――
「増援きました! 正面から五体です!」
左翼のキメラを攻撃していた真白は叫ぶ。
「何度来ても、全部叩き潰すだけだね」
列の中央でキメラの相手をしていたフィオナが唇を結んだ。
そして再び小銃を構え、先頭を切って走るキメラの胴を狙い打つ。
「ここから先には行かせないよ!」
接近されるまでは極力銃撃で足止めをするフィオナ。
彼女の銃撃は1体の急所を射抜いて仕留めたが、中央4体のキメラ達が徐々にフィオナへと接近していた。
フィオナはイアリスを抜き、自身障壁を発動すると接近戦に備える。
「‥援護するわ‥‥!」
そこへ、弓の射程内にキメラを捕らえたシフォンの射撃が降り注いだ。連続して射られる矢はキメラ一体の眉間、眼、口内を射抜き、キメラはそのまま崩れ落ちる。
「‥温泉は人類の重要資源。‥お前たちには渡さない‥‥」
倒れるキメラに言い放ち、シフォンは次なる矢を番える。
彼女は鋭角狙撃を発動して先手を取ると、常に自分が有利にあるように攻撃を仕掛けていった。
また、右翼側に展開していたソラとエリスも中央の増援を迎え撃つ。
「さっさと‥‥倒されてっ」
既に二度にわたる増援‥‥ソラは練力の温存を図りつつも、銃弾はキメラの目を貫き視力を奪い、足を貫いて行動力を奪う。
キメラが吹き上げた血飛沫が路面を赤に染めてゆく――
「‥‥やっぱり数が多いと面倒ね」
ソラの射撃により怯んだキメラを、エリスが鎌を振り上げ薙ぎ払った。さらに豪破斬撃を繰り出し、弱ったキメラの息の根を止める。
エリスがキメラに止めを刺す中、一体のキメラが炎弾を吐く動作をとる―
「避けてください‥‥っ」
その前兆に気づき、ソラが叫んだ。その甲斐あってがエリスは寸でのところで炎弾を回避する。
「ソラさんも気をつけてっ」
「‥‥はいっ」
続けざまに吐かれる炎弾を回避していく二人。
こうして、中央で戦うフィオナとシフォンと協力しつつ中央の増援を殲滅していったのだが――。
ここに来て、嫌な来訪者を告げる楓の声が響いた。
「まだ来るんですか!?」
ソラが声を上げ、武器を銃へと持ち替える。
「チ、増えたか。まあいいわ、皆纏めて冥府に送ってあげる」
エリスは鎌を振り上げ、まず目の前のキメラに一閃を喰らわせるのだった。
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三時方向から現れたキメラの群れ。
楓はその予兆を感じ、「みんな〜敵の増援が来るよ〜」とソラ達へ知らせていた。
「よく分かったな」
「ほえ? 女の勘かな?」
咲の問いにそう答える楓。‥予兆を感じ取ったのは不自然に音を出した鈴の髪飾りであり、確かに勘に近い物だった。
多方面から現れるキメラ達‥‥数は減らしている物の、気づけば囲まれるような形になっていた。能力者らの殲滅力は頼もしいものだったが、明らかに増援の数が度を越えている。
「むぅむぅ〜 いっちょやりゃるか〜?」
囲まれつつも、ますます闘争心に火がつく楓。
能力者らは当初の作戦通り、陣形を前衛を外側、後衛を内側とする『円陣』へと徐々に変えていく。
「照明銃を使うわ! 目を閉じて!」
背中合わせで銃撃を続けつつ、ケイが使用を宣言した。続けて「俺も使います!」とソラの声が響く。
能力者達が目を閉じると、刹那閃光が瞼を焼いた。
そして目を開けると――閃光をくらい、我武者羅な動きをするキメラの姿が目に入った。
「猫ちゃん、どうしたの? こっちよ‥‥」
攻撃出来ぬキメラ達を見、クスリと加虐的な笑みを浮かべるケイ。
こうして、再び能力者らの反撃がはじまる。
「‥‥負けられません‥!」
炎西の双斧がふらつくキメラの脳天を割った。
そして狙いを定めず吐き出されるキメラの炎弾を、
「一か八か銃弾でっ」
と放った真白の銃弾が飛散させる。
右翼側から迫ってきたキメラへ弾幕を浴びせていた咲は、炎弾の予備動作を見極めるとその口中へ弾丸を放り込んでやった。
「弾丸のフルコースだ! 味は保証しないがな!」
豪快な声と共に、連続して打ち出された銃撃は喉を貫き、キメラは叫びを上げながら絶命する。
「‥‥おっと、逃さん!」
やがて照明銃の効果が切れ‥本来の目的地である温泉街方面へと一気に突き抜けようとするキメラを、咲の放った貫通弾が捉えた。狙撃眼、強弾撃、急所突きと、全てを発動させて撃ったその弾は、キメラの体を縦に貫通しその命を奪った。
「行かせないっ!」
フィオナのイアリスが、肉薄したキメラの胴部を裂く――。
そしてフィオナが作った傷を目掛け、シフォンの弓矢が飛んだ。
「‥1点集中‥一気に抜ける‥!」
更に2本の矢を射て、キメラを攻撃するシフォン。
キメラ達に包囲されて僅か数分。能力者は危機を切り抜けた。
その包囲網を突破すると円陣から再び横一列の陣形に。
さらに正面から5体の増援が現れたが、陣形をやがてVの字型に展開し敵を誘い込んでいく――。
そして形勢逆転。
いつのまにか、4体に数を減らしていたキメラ達は能力者によって包囲されていた。
「およ? 今度はっと‥‥」
楓の携帯するクリスマスベルが鳴る――。
「みんな〜敵さん打ち止めみた〜い♪ だ・か・ら〜♪♪ 心置きなくぶっ飛ばせ!!」
‥‥という楓の声。
確かに波のように襲ってきた増援が止み、能力者らは皆『もう増援はこない』と確信する。
「フルチャージ!」
増援に備え温存していた力を一気に解放するかのように、楓は包囲された敵の集団へ突貫した。
試作型超機械Red・Of・Papillonで敵の体を捉え、流し斬りと両断剣の発動と共に強力な電撃を喰らわせる。
「もっと! もっと! もっと燃えろ―――!!! ヒャ〜ッハハハ!!」
のたうつファイアビーストを見て高らかに笑う楓。一体を仕留めると、すぐ傍らのキメラの肉を抉った。
窮地に追いやられたキメラは、それでもMkを狙い攻撃する―!
「貴様の攻撃などっ!」
―しかし、カデンサの刃で攻撃を受け止めMkはカウンターで斬りかえす。
崩れ落ちるキメラ。最後に炎弾を吐き出そうとし――それは叶わなかった。
「蝶々と遊ぶのはお嫌?」
キメラの前に躍り出て、銃弾を放つケイ――その一撃が、キメラの命を絶ったのだから。
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長閑な田園風景、そこに転がる何十体ものキメラの死骸――。
「ふわ‥‥これで打ち止め、でしょうか」
今までに経験したことのない数のキメラを相手にし、ソラは思わずへたり込みそうになった。しかし気を抜いていられないと、再び周囲の警戒を行う。
「お疲れ様。多分もう大丈夫よ」
そんなソラの姿を見てクスリと笑いつつ、ケイが労わるように声をかけた。
「この戦いが終わったら温泉に入るんだ‥‥と思いましたけど」
覚醒を解き、穏やかな口調に戻った咲が呟く‥‥。そして『死亡フラグにならなくて良かった』と笑っていた。
「早苗の植わる頃、また来てみたいですね。今度は闘いでなく‥‥」
炎西も微笑みを浮かべつつ、遠くの温泉街を見る――街は守られた。そして、人々の癒しも。
「ふぅ‥‥ご苦労様でした。流石に疲れましたね‥」
そして、エリスがにっこり笑う。覚醒が解けると、その仕草や口調はまるで別人のようだ。
その隣でフィオナが伸びをする。
「うん、疲れたね。おつかれ!」
戦いが終わったばかりではあったが、その気持ちは清清しかった。
「‥温泉でもゆっくり浸かりたいところだけど」
シフォンも又、戦闘を終えて落ち着くと街の方角を眺める。
「‥ん、さすがに、そういうわけにもいかないかしらね」
少し残念そうに呟いた。人々の小さな幸せが守れたならば、それで良かったとも思う。
「今は無理かもしれないけど‥‥温泉は逃げません。落ち着いたら入りにいきましょう♪」
そしてシフォンを励ますように、真白が明るい声で言うのだった。
こうして、大分県・由布市を攻めたキメラ達は能力者の手により討伐された。
それは九州北部を飲み込まんとする一連のバグアの動きから見れば小さな物かもしれない――だが確実に、大分でのバグア勢力拡大を止める事になるのであった。