●リプレイ本文
●海へ
この季節外れに健気に営業する海の家と、ちょっと出遅れちゃった『すいかん』‥‥それ以外のものは見当たらない寂しい砂浜に、傭兵達は到着した。
「それじゃ、作戦通りに」
鯨井昼寝(
ga0488)は姉弟を確認すると、真っ先に覚醒を遂げた。避難を迅速に行うため瞬天速を発動し、一気に距離を詰める。
「では、すいかんは頼みましたよ」
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)も避難の援護をするよう、昼寝の後に続いた。
そして皆次々に覚醒を終える。
「うわ‥‥マジでスイカだぜ」
浜に打ち上げられた2体のスイカ頭を見て、ディッツァー・ライ(
gb2224)が一言。
「ふふ、楽しませてくれるのかしら?」
そしてディッツァーの隣で、白雪(
gb2228)が好戦的な笑みを浮かべる。移動中、ディッツァーとシンに対し「先日はお世話になりました」と優しく挨拶した白雪だが、覚醒中は別の人格が出ている模様。
「さくっと『スイカ割り』をするかのごとく退治するニャ☆」
と、アヤカ(
ga4624)は砂地を蹴った。実に軽やかな動きだ。
「‥‥食べるのは何となく遠慮したいですね」
とは、奉丈・遮那(
ga0352)の言葉。確かにあの水着の体をみれば、食欲も湧かぬだろう。
(「スイカ‥‥ちょっと季節外れですけど、夏の余韻を楽しむチャンスかも?」)
今年の夏、太陽と海と水着を満喫できなかった香原 唯(
ga0401)は少し胸を高鳴らせる。
(「‥‥なぜすいかなんでしょう。夏だから? しかも、人型。興味深いです、実に」)
内心そう思うのは、ユウキ・スカーレット(
gb2803)だ。
(「出来れば研究資料に‥‥と、見た目どおりあまり強くないと嬉しいんですけど」)
実際目にした『すいかん』に、まさに興味津々である。
そしてそれぞれの想いを胸に、すいかん退治が開始されたのだった。
●姉弟救出
海の家内部へと移動した昼寝が見たものは、駄々をこねるビキニ姿の姉ルミコ。
「ビールはいつでも飲めるから!! あっ、貴方は?」
「安心して、私は傭兵よ。今は長話は出来ないわ‥‥避難が優先」
昼寝は、弟マモルに手短にそう告げると、有無を言わさずルミコをひょいっと肩に担ぎあげる。
「うぐっ、酒臭ッ!」
その瞬間、思わず正直な感想が出てしまうほど、ルミコの体からは酒臭が。
「す、すみませんっ」
「うぇ、なになに、体浮いてる?」
相変わらず状況把握できない姉に代わり、マモルが何故か謝った。
海の家を飛び出した所で、避難のサポートへやって来たシンと出会う。
「すいかんは近寄らせません、振り返らず走って下さい」
シンは姉弟を無事に逃すよう、波打ち際のすいかんへと銃口を向けた。
「あ、ありがとうございますっ」
ひたすら頭を下げて走るマモル、そして昼寝に担がれるルミコ‥‥二人の姉弟関係が判る構図だ。
(「暴走気味な姉‥‥僕の場合は妹ですが、その苦労は分かるつもりですよ」)
シンは微妙に他人事ではない気持ちで、彼らを見守った。
●対スク水
無事に避難を終えた昼寝が仲間にOKサインを送る。
既にすいかんとの距離を詰めていた6人‥‥その俊足で、真っ先にスク水すいかんに一撃を加えるアヤカ。
「カ・ス・ミ・斬りニャ〜☆」
明るい掛け声と共に、繰り出される容赦ない連撃がすいかんの頭にヒットする。
「一撃必殺…スイカ唐竹割りィッ!」
続いて先手必勝とばかりに繰り出したディッツァーの流し斬りが、すいかんの片腕を切り裂き、片方のおさげを飛ばした。
明らかな劣勢に、すいかんは後ずさり、逃亡を試みる‥‥しかし、それは成功しなかった。
(「やはり、後ろへ回り込んだのは正解だったようです」)
逃げられないようにと予め回り込んでいた遮那が、カプロイアM2007で足元を撃ち、逃げるのを阻止する。
「逃しませんよ」
と、再びすいかんへ銃口を向けた。
●対海パン
「皆さん、援護します」
後衛でユウキが練成強化を発動し、皆の武器を強化する。
武器に付与される力を感じ、白雪は瞳を海パンすいかんへと向けた。
「さあ、抵抗する暇もなく殺してあげる」
言葉と共に両断剣でさらに剣を強化、流し斬りで正確に首を狙う。急所ともいえる首への一撃は、かなりの痛手を与えることとなった。
のた打ち回るすいかんに向けて、さらに追撃が入る。
(「頭のスイカを壊さないよう気をつけて‥‥えいっ」)
後衛で武器を構えた唯。彼女のスパークマシンαから、すいかんの胴へ向けて電撃が迸った。
見事な連続攻撃が決まるが、すいかんも反撃だ。両腕をがむしゃらに振り回し白雪を狙う。
「‥‥くっ」
一撃をくらった白雪の真紅の瞳が、怒りで更に赤みを増した。
「煩いのよ。貴方‥‥」
痛みに怯む間も無く、白雪はすいかんの両腕に流し斬りを決めるのだった。
●その頃
避難を終えた昼寝と姉弟。
ルミコがどこかに行かないようにと、昼寝は彼女を肩車しつつ戦況を見守っていた。
「すっごーい、力持ちねっ」
「はいはい、暴れない暴れない」
久しぶりに肩車を体験してはしゃぐルミコが落ちぬよう、昼寝はしっかりと脚を掴む。酒臭さにもすっかり慣れてしまった。
「しかし、暇ですね」
そんな3人から少し離れた位置で、戦況を見守るシンの姿。
(「やる事もありませんし、一回ぐらい参加しておきましょう」)
そう思ったシンは影撃ちに強弾撃、鋭覚狙撃と全ての能力を使い、まさに今親友が相手をしているスク水のすいかんを狙った。
●トドメ!
「ニャッ‥‥!」
苦し紛れなスク水すいかんの攻撃を、アヤカはヒラリとかわす。
そして攻撃をミスしたすいかんへと、ディッツァーがとどめの流し斬りを決めようと。
「爺さん譲りの‥‥抜き胴一閃!」
気合の入った一声を出したまさにその時。
―――バンッ!!!
「ぶはっ!」
目の前で、スイカ頭が思い切り爆ぜた。派手に飛び散る皮に果肉、そして真っ赤なスイカ汁‥‥それらが全てディッツァーに襲いかかる―!
一方海パンすいかんの方は、白雪の怒りの一撃と唯の追撃、そして遮那の援護射撃により無事討伐されていた。
「この状態なら食べれますね。僕は遠慮しますが」
と言いつつ、遮那は手にしたナイフで器用にスイカ頭を切り落とす。
「良かったです、こっちのスイカだけでも無事で‥‥」
ユウキがほっと胸を撫で下し、そして、切り離されたスイカ頭を目を輝かせつつ見つめた。
「‥‥はい、治療終わりました」
「有難うございます、唯さん」
白雪の治療を終えた唯はそれと同時に覚醒を解く。白雪も既に覚醒を終えており、いつもの穏やかな彼女に戻っていた。
そんな戦闘後の穏やかな空気の中。
「‥‥お前、わざとだろ! 正直に言えば殴るだけで許してやる!」
響いたのはディッツァーの大声‥‥というか、怒声。
すいかんに止めを刺したのがシンの一撃だと判り、スイカ汁を頭から垂れ流しながらの大激怒。
「水も滴るいい男じゃないですか。髪も赤、シャツも赤、スイカも赤なので何も問題ありませんよ」
見事なまでの温度差で、シンは華麗に流すのだった。
●戦い終わって
「皆さん、ありがとう♪ これはルミコの感謝の気持ち! 奢っちゃうからガンガンのみましょー! はい! 飲める人は両手あげて!?」
「はいニャ☆」
ビキニの上に服を着たルミコの言葉に、勢いよく両手を挙げたのは、未成年にしか見えないアヤカのみ。
「え、えー!! 君も飲めるの?」
「あたいはこう見えても二十歳越えてるのニャ☆ なーんでも飲むのニャ☆」
「おお、頼もしいじゃな〜い♪ あと飲めるのは? 遮那さん? ディッツァーさん? シンさん? おーけい、了解!」
先ほど教えてもらった名前を確認しつつ、ルミコは満足そうに笑うと財布を取り出し、隣に突っ立っていたマモルに渡した。
「買物、よろしくね♪」
「‥‥そうくると思った」
財布を受け取りつつ、マモルが溜息をつく。
「私はお酒は無理だから、ソフトドリンクお願いね」
「僕は出来ればビール以外のものがあれば、それがいいです」
「夏らしく乳酸菌飲料を‥‥ありますか?」
「バーベキューするニャ〜♪ お肉よろしくニャ☆」
昼寝、遮那、唯にアヤカ‥‥その後ユウキも何かを頼んだようだ。
残った者は乾杯の為に、海の家の外へ机と機材を運び出し準備を始める。
‥‥飲み会というより、パーティー規模になりそうな予感が。
●乾杯しましょう
バーベキューセットの上では、アヤカが海の家から持ち出した魚介類が並べられていた。
「はーい、どんどん焼いちゃいますよ♪」
いつの間にかエプロンに三角巾‥‥と完璧なお料理衣装に変身した唯が、張り切ってじゅ〜じゅ〜と焼いている。
「わ、唯さん‥‥気合の入った格好ですね」
思わずマモルが一言。その素朴さと家庭的な感じが可愛らしい。
「よし、役者はそろったわね! 乾杯の音頭は〜お姫様抱っこしてくれた、昼寝ちゃんにお願いしちゃおーかな♪」
本当は肩に担いだのだが酔っ払いルミコの言うことだ、気にしてはいけない。
では僭越ながらと、昼寝がソフトドリンクのカップを掲げる。それに続いて、皆も。
「それじゃあ、夏の終わりの良き出会いに‥‥かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!!」」」
「くぅ〜、何はなくともビールだな、やはり!」
まずはディッツァーが、見事な飲みっぷりを披露する。
「お酒もいいですけどお料理もありますよ」
厨房を借りておつまみを作る白雪。
「お口に合わないかも知れませんが‥‥」
「美味しそうですね、頂きましょう」
遮那は注がれた日本酒を口にしつつ、料理に箸を伸ばす。
「これは美味しい」
昼寝は飲むよりも、料理とご飯を堪能している。
「おかわりもありますから、遠慮なくどうぞ〜」
厨房の方から、ユウキの声がする。彼女もまたマモルの手伝いと料理をしているようだ。
手伝ってくれるお嬢さんが3人もいるなんて、マモルは感謝で涙しているに違いない。
「ニャ? これは何ニャ?」
そんな中アヤカが、肉やイカと共に焼かれている茶色い物体に興味をもったようだ。
「あ、それは私が持ってきた栗ですよ。夏と秋のコラボです♪」
唯が、ニコリと笑って答えた。
「焼けたら美味しそうニャ♪ 楽しみニャ〜☆」
一方、ルミコ周辺では。
「や、やめろ! 一気は流石にヤバ‥‥がばばばっ」
「はーい次注ぎましょ〜♪」
「ビールの民、ドイツ人の意地を見せて下さい」
なんとディッツァーが、シンの策略でルミコの防波堤にされ次々に飲まされていた。
シンが飄々と一気飲みを迫り、数分もすれば立派な酔っ払いの出来上がり。
「つまりだなぁ〜、ビールにはソーセージ! これ常識! ドイツ人嘘言ワナイ」
呂律の怪しくなったディッツァーは、海の家の置物をバシバシ叩きながら大笑いしだす始末。
ルミコは一転、シンを相手に愚痴モードだ。
「ね〜私ってそんなに魅力ないのかな〜」
「魅力云々は別にしても、仕事に注力していては出会いも限定されるでしょうね」
「もぅつめた〜〜い! いいもん、私を癒してくれるのは女の子だけよね!」
そう言ってルミコはわざとらしく泣き真似をし、アヤカに抱きつく。
「そうニャ! 女の子には判るのニャ☆ あたいの歌をきいてお姉さんも元気だすニャ☆」
アカヤは手にした肉の串をマイク代りに、ピョンとテーブルに飛び乗ると歌を披露!
「いいぞ〜アヤカ!ら・ぶ・り・ぃ・ア・ヤ・カ!!」
歌を聴いて再びテンションUPのルミコ、空のビール瓶をペンライトのように振りながら調子良く合いの手を入れ始めた。
「わっ、ねーさん瓶振り回したら危ないって!」
「あの姉だといろいろ大変そうね」
「あ、はい‥‥」
昼寝はマモルに同情するような口ぶりだったが、すぐに酒の肴をおかずにごはんを食べる。
そんな飲み会も酣の頃。
「さて、私もそろそろ食べる側に‥‥って、あれ?」
焼くのに夢中だった唯は、自分の取り分を忘れていたようだ。
「お疲れ様です、唯さんの分も残しておきましたよ」
遮那は料理の乗った皿をさりげなく差し出した。
●花火をしましょう
飲み会も終盤。
「花火、色々あるのでみんなでやりませんか?」
マモルの買ってきた色とりどりの花火が入った大きな袋とバケツ持って、ユウキが提案する。
「花火? いいわね」
「私は線香花火しようかな」
それぞれが好きな花火を手に取り、花火大会に突入だ。
その頃白雪は。
「あ‥あの、ディッツさん? だ‥大丈夫ですか?」
「なぁ〜シン、飲んでるかぁ? 何、飲んでない?俺の酒が飲めないのかっ?」
相手を間違えているディッツァーに絡まれていた。
最初は困っていた白雪だったが、途中で様子がおかしくなる‥‥そう、もう一つの人格、姉人格の再登場だ‥‥!
「私の可愛い妹に何してるのよ!」
突如変貌を遂げた白雪は、決して軽く無いディッツァーの体を巴投でふっとばす。
砂浜に倒れこむディッツァー。
「ぐほぅっ! ‥‥目が‥‥回る」
と、そのままノックアウト。
「覚悟は‥‥出来てるわよね?」
白雪は不敵に笑う。その手には油性ペンが握られていた。
「ニャ? 打ち上げ花火かニャ? た〜まニャ〜〜」
「惜しいけど、ちょっと違うわね」
アヤカと昼寝は、ドサッという衝撃音を聞きつつのほほんと手持ち花火を楽しむ。
「おや、随分男前になりましたね」
その後、砂浜に首まで埋められマジックで顔中に落書きをされたディッツァーを発見したシンは、親切に彼の顔前にシグナルミラーを設置しておくのだった。
●
飲み会の後は皆で片付け。
「すいかん‥‥持って帰りたいな」
食べることを忘れられたスイカ頭は、この後ユウキが持って帰ったかもしれない。
片付け終えると、「お疲れ様でした」と、元の人格に戻った白雪が味噌汁を振舞った。
「今日は皆さん、本当に有難うございました!片付けまで手伝ってくれて‥‥」
飲み会の終わりには、酔ってもいないのにマモルは涙目である。
(「来年の夏こそ太陽の下で海で水着で‥‥」)
陽も沈み、寂しい晩夏の海を眺めながら、唯が静かに心に誓う。
そして。
「来年こそは彼氏つくって海に行くぞ〜!!」
唯とは正反対に、包み隠さず欲望を叫ぶルミコであった。
キメラと遭遇した不幸な出来事、しかしそれが姉弟にとっては良い思い出となる。
願わくば、傭兵の皆さんにとっても良い思い出となりますように。
‥‥何か忘れてないかって?
お開き後、砂浜に埋められていたディッツァーは静かに目を覚ました。
(「何だ? 身動きとれねぇ‥‥ん?」)
目の前にはシンの残したシグナルミラーが。そこには、油性ペン化粧によって見事な変貌を遂げた自分の顔‥‥。
「なんだこりゃぁぁぁっ!!!?」
人の居なくなった砂浜に、ディッツァーの空しい叫び声が響くのだった。